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2024年03月29日
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【ちなねえとクイズ番組】

2010年02月07日
「……アキくん、アキくん」
 座椅子に座り部屋で一人テレビを見てると、近所の幼馴染、ちなねえがノックと同時に部屋に入ってきた。
 ちなみにアキくんと呼ばれているのはそう呼ばせて悦に浸っているのではなく、何度言ってもやめてくれないので諦めている彰人ですこんばんわ。なぜ挨拶になっている?
「んあ」
 そんな益体もないことを考えていたため、返事が雑になった。
「……一緒にテレビ見ましょう」
 こっちが返事するより前に俺の膝の間に入り込み、ちなねえは俺に体を預けた。
「……ま、いいケドさ」
「♪」
 ちなねえのお腹に手を回し、そのままぼんやりテレビを見る。丁度クイズ番組が始まった。
「よしちなねえ、クイズで勝負だ」
「……お姉ちゃん、年上のプライドにかけて、負けません」
「年上の人は年下の人に抱っこされても、手放しで喜んだりしないと思う」
「……始まりますよ?」
 都合の悪い話は無視し、ちなねえはテレビに意識を向けた。
『第一問。ドライアイスは何が固まったもの?』
「簡単。二酸化炭素だな」
「……ちっちっち。……アキくん、まだまだです。……気体が固まるなんて無理です。……正解は、氷をもっともっと固めたものです」
『正解は……二酸化炭素です!』
「…………」
「……お、お姉ちゃんでも、時々は間違えます。時々です。ぐーぜんです」
 珍しく饒舌なちなねえだった。
『第二問。X線を発見したのは誰でしょう?』
「……エックス博士です。だから、X線って名前になったんです」
「レントゲン」
「あっ、あっ、お姉ちゃんも、お姉ちゃんもそれ」
「ダメ」
「……アキくん、いじわるです」
『正解は……レントゲンです!』
「……分かってたのに、アキくんのせいで間違えました」
「いやいや、最初にエックス博士とかとんちんかんなこと言ってたじゃん」
「……言ってないです」
 ちなねえのほっぺがぷくーっと膨れた。
「怒るねい」
 なんとなくちなねえのほっぺを押す。ぷにぷにして幸せ。
「……怒ってなんて、ないです」
 俺にぷにぷにされたまま、ちなねえは不機嫌そうに言った。
『第三問。桃太郎が家来たちに与えた食べ物は何?』
「あっ、きびだんご! きびだんごです! お姉ちゃん、自信あります!」
「あ、俺もそれ」
「ダメです。お姉ちゃん、先に言いました。アキくんは、別の食べ物にしてください」
「そんなルールなのか?」
「……です」
「あー……じゃあ、りんご」
 色々と納得いかないが、姉の言うことには逆らえないので適当な食べ物を言う。
『正解は……きびだんごです!』
 だよなあ、と思いながらちなねえのつむじを眺めてると、くるりと顔がこちらを向いた。
「……むふー」
 得意満面で俺を見るちなねえ。
「いや、こんな問題でそんな顔されても」
「……アキくん、間違えました。……むふー」
 ムカつくのでほっぺを引っ張ってやる。
「……痛いです」
 ちょっと悲しそうにちなねえの眉が八の字になった。
『第四問。世界でいちばん深い湖は?』
 んなもん、知らんぞ。ちなねえはどうなんだろう。
「……え、ええと。……アキくんから先に答えさせてあげますよ? 優しいお姉ちゃんに、アキくんにっこり」
「えーと……びわ湖?」
「お姉ちゃんもそうだと思ってました。先に言われちゃったので追従する形になってしまい、残念です」
「ほほう」
『正解は……バイカル湖です!』
 じーっとちなねえを見る。
「……わざとですか? わざとですね? わざと間違えて、お姉ちゃんを困らせて楽しんでますね?」(涙じわーっ)
「イチイチ泣くなッ! 俺も知らなかったんだよ……」
 ちなねえの頭をわしわしなでて慰める。もう大人のはずなのに、すぐ泣くので困る。
「……うー」
 うーと言いながら、ちなねえは体の向きを変えてこちらを向いた。そして、両手両足で俺に抱きついてきた。
「うーじゃねえ。てか、何をしている」
「……もーテレビ見ません。……アキくんがイカサマしてお姉ちゃんを困らせてるのは、まるっとお見通しです」
「何一つ見通せてないぞ、ちなねえ」
「……見通せてます」
「はいはい、分かった分かった」
 適当にちなねえをなでながらテレビを見る。と、突然テレビが暗転した。
「あれ?」
「……ちゃんとお姉ちゃんの相手しなさい」
 ちょっと口を尖らせるちなねえの手元に、テレビのリモコンが。
「勝手に切るなよ」
「……切ってません」
「嘘をつくな」
「……ついてません」
「……はぁ」
 ため息ひとつついて、テレビを諦める。まあどうしても見たいワケでもないし、いっか。
「……代わりに、お姉ちゃんとクイズしましょう」
「あー、別にいいよ」
「……第一問。……お姉ちゃんは、アキくんが……好き?」
「×」
「ぴんぽんぴんぽーん。……正解です」
 なんと。嫌われていたのか。予想以上にショックを受けてる自分がいる。
「……お姉ちゃんは、アキくんのことが好きではなくて、アキくんのことが、……大好きです」
「……あー、うん。そ、そか」
 何と言ったらいいのか分からなくなって、そっぽを向いてぶつぶつと。
「……照れてるアキくんって、可愛いです」
 調子に乗ってるちなねえのほっぺをうにうにする。
「……うにうにされました。……続いて、第二問です。……アキくんは、お姉ちゃんが……好き?」
「△」
「……そんな答え、ありません。……ちゃんと答えるべきです」
「日本語分からないんだ」
「……すっごく、日本語でしゃべってます」
「ちなねえが気づいてないだけで、これはチェンバル語なんだ」
「……お姉ちゃん、そんなのでは誤魔化されません。……それで、正解は?」
「ぐ……ど、どうしても言うのか?」
「……です」
 しょうがない。意を決して、ちなねえの耳元に口を寄せ、ぼそぼそぼそ。
「……だいせいかい、です♪♪♪」
 ニッコニコの笑顔で俺にむぎゅーと抱きつくちなねえだった。

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【音々 空腹】

2010年01月30日
 部屋で横になり、漫画を読んでたら腹が鳴った。これは俺の内臓が空腹を訴えていると判断したので、何か食おうかなと思ったら、見覚えのある顔が部屋に飛び込んできた。
「ぬし様! ちっとも遊びに来ないから、わらわの方から遊びに来たのじゃ!」
 そう言って俺の寝そべるベッドに飛び乗ってきたのは、自称許婚の音々だ。音々は猫のように俺にほお擦りすると、ぎゅっと抱きついた。
「の、ぬし様。遊びに来たわらわを褒めるかの? 甲斐甲斐しいわらわを褒めるかの? 通い妻っぽくて素敵なわらわを褒めるかの?」
「褒めたいけど、あと数秒で餓死するから褒める余裕がないんだ」
「ぬし様が餓死で即死する!? ……ぬ?」
 いかん、相手するのが面倒だから適当ぶっこいたのがばれる!
「音々……好き……だった……ぞ……」
 そこで、餓死したフリをして、ばたりと倒れる。
「ぬし様!? 駄目じゃ、わらわを残して死んではならぬぞ! そ、そうじゃ、今すぐ何か作ってくるから、それまで待っておるのじゃ! よいか、死んではならぬぞ!」
 そう言い残し、音々は部屋を飛び出ていった。よし、これで何か食物が手に入る。恐ろしい……冴え渡りすぎる己の頭脳が恐ろしい!
 そんなわけで待ってるんだけど、いつまで経っても戻ってこない。何かの拍子で家に異次元のホールが発生し、その穴に飲み込まれたと思い込んだので様子を見に行く。
「ぬー! またじゃ、また黒焦げじゃ! なんでじゃー!」
 台所で、音々が頭を抱えて絶叫していた。料理はあまり得意ではない様子。しょうがない、手助けしてやろう。
「おいすー」
「ぬ、ぬし様!? 動いて大丈夫なのかえ? 餓死で即死してないかえ?」
「実はもう死んだ後なんだ。生きてるように見えるけど、霊魂なんだ」
「ぬし様がぁぁぁぁぁ!!!!!」
 このお嬢様は箱入りだかなんだか知らないが、俺の言うことは割となんでも信じるので大変楽しい。
「……遅かったのじゃ。もう駄目じゃ。……ぬし様、わらわもすぐそちらへ行くから、寂しくないぞ?」
「待って嘘嘘です超生きてます!」
 薄い笑みを浮かべて包丁なんて持ち出したので、慌てて本当のことを教える。
「……ぬし様は優しいから、そんな方便をつくのじゃろ? ……大丈夫じゃ。死ぬことより、ぬし様のいない世界で生きていく方が、わらわは辛い」
「だから、生きてるっつーの! ほら!」
 ぐいっ、と音々の手を引っ張って俺の心臓あたりにつける。
「? ……!!! ぬ、ぬし様! 心臓の音が! 鼓動が聞こえるのじゃ!」
「だから、言っただろーが。生きてるっつーの!」
「ま、まったく。わらわを騙すなど、酷いぬし様じゃ。……でも大好きじゃー!」
 喜色満面で飛び込んできた音々をさらりとかわす。
「なんでかわすのじゃ、ぬし様! わらわを優しく抱き留めるのが、ぬし様の仕事じゃろうが!」
「包丁持った奴を抱き留められるほど胆力ありません」
「ぬ? ……まあ、小さいことなのじゃ♪」
 この女怖え。
「それよりぬし様、この卵がすぐ焦げるのじゃ。少し待ってて欲しいのじゃ、今すぐうちのコックを呼ぶのじゃ」
「音々の作るのが食べたかったが……まあいいか」
 俺の言葉を聞いた途端、音々は持っていた携帯を投げ捨てて俺を見た。いかん。
「ぬし様の望み、しかと聞いたのじゃ! 絶対にわらわがおいしい玉子焼きを作るから、待っててほしいのじゃ!」
「……音々の心意気、俺の脳髄に響いたゼ! 分かった、音々が作るのか先か、俺が餓死するのが先か、勝負だ!」
「そんな勝負はしてないのじゃ! 普通に待ってて欲しいのじゃ!」
「分かった。普通とか超得意」
「…………」
 まるで信じていない視線を俺に注いだ後、音々は料理を再開した。
「あ、そだ。お前料理苦手だろ? ちょっと教えてやるよ」
「結構じゃ。炊事洗濯は妻の仕事なのじゃ。わらわの仕事を取ってはいかんぞ、ぬし様?」
「まず妻じゃないし、仮に妻だとしてもそんな時代錯誤なことを押し付けるつもりもないが……」
「うるさいのじゃ! これはわらわの仕事なのふぎゃー!?」
 別に音々が発狂したのではなく、フライパンに引いた油に火が引火してびっくりしただけのようです。
「キャンプファイアーのようで綺麗ですね」
「火じゃ、火がついたのじゃー! ぬし様の家が丸焼けになるのじゃー! 家を無くしたぬし様は、わらわの家で同棲することに……悪くないの」
 黙ってフライパンに蓋をして鎮火する。
「ああっ! 何をするのじゃ、ぬし様!」
「……一緒に頑張りましょう」
 なんだか色々疲れたので、それだけ何とか言いました。

「できたのじゃ! 見よぬし様、こーんな上手にできたのじゃ!」
「ごあー!」
「ぬし様が壊れた!?」
 別に壊れたのではなく、台所の惨状に目を背けたくなっただけです。数十個の卵の殻も、うずたかく積まれたフライパンも、床にこぼれた卵も、掃除するの全部俺。
「……まあいいや。上手に出来たな、音々」
「全部ぬし様のおかげなのじゃ! やっぱりぬし様は素敵なのじゃ! わらわの夫に相応しいのじゃ!」
「そんなこと言いだしたら、料理学校の教師に嫁入り行く羽目になるぞ」
「ぬし様、わらわの愛情たっぷりな手料理食べて欲しいのじゃ。あーん、なのじゃ」
 俺の話なんてちっとも聞かずに、音々は熱々の玉子焼きを箸で小さく切り、俺に向けた。
「あー」
「はい、なのじゃ。どうじゃ? うまいか?」
「もぐもぐもぐ。おいしい」
「……ほ、本当かの? わらわに気を使って、嘘を言ってないかの?」
「いや、本当においしいって。頑張ったな、音々」
 労りと感謝を込め、音々の頭をなでる。
「……ぬし様、ぬし様ぁぁぁぁぁ!!!」
「へぐっ」
 突然音々が俺にダイビングヘッドバットをしてきたので大変痛い!
「ううううう~、わらわ、ぬし様の許婚でよかったのじゃー! すっごくすっごく嬉しいのじゃー!」
「俺は割と辛い」
「ぬし様? ……ああっ、ぬし様が鼻血を出しておる! わらわの料理を作る姿に興奮したのかの?」
「貴方の頭が僕の鼻に激突したんです」
「な、なんじゃとぉ!? ……こうなっては、死んでお詫びをーっ!」
「ひぃぃぃぃっ!?」
 包丁片手に狂乱する許婚を必死で説得しました。怖かったです。

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【ゆずねえと朝の支度】

2010年01月25日
 起床して、登校準備して、行ってきます。でもその前に、隣家へ入る。
 おばさんに挨拶してするりと二階へ。『ゆずこのお部屋』と書かれたネームプレートの部屋にノックなしで入る。
「みょーむみょーむみょーむ」
「奇妙な音してるだろ。寝息なんだぜ、これ」
 そんなみょーむ人を揺すって起こす。
「起きろ、ゆずねえ。起きろ」
「ん……わ、わわ。地震?」
「そうだ。巨大地震で既に世界は崩壊した。早く起きないとゆずねえも崩壊する」
「お姉ちゃんは崩壊しないよ?」
「じゃあ俺が崩壊させてやる」
「うー……朝からアキくんがいやらしいよぉ」
「いや、意味が分からん」
 アキくんという高校生につけるにしては嫌なあだ名の俺こと彰人が答える。
「つまりー、お姉ちゃんにえっちなことをして、お姉ちゃんを前後不覚に陥らせることにより、お姉ちゃんを崩壊させるって寸法なのカナ?」
「俺に聞いてどうする。あとお姉ちゃんを多用しすぎだ。いいから起きれ」
「うー……アキくんが冷たい。でも、そだね。起きるね。はい」
 そう言って、ゆずねえは俺に手を差し出した。
「何ですか、この手は」
「抱き起こして?」
 そっとゆずねえの顔に手を覆い被せる。
「違うよー、抱き起こすのー!」
「一人で起きないと顔の皮剥がす」
「お姉ちゃん、一人で起きられます!」
「とてもよい返事で大満足です」
 手をどけると、怯えた様子のゆずねえの顔が出てきた。
「はわはわはわ……」
「む。そういう萌え媚び言語は嫌いではないので多用するように」
「じゃ、これからはわーはわー言うから、抱き起こしてくれるカナ?」
「顔の皮が不要なのであれば」
「お姉ちゃん、一人で起きられます!」
「早く下りてくるように」
 寝たままびしっと敬礼してるゆずねえを残し、先に階下へ下りる。
「どうだった?」
 淹れたてのコーヒーを俺に渡しながら、おばさんが訊ねてきた。
「後数分で下りてくると思います」
「ごめんね、毎朝毎朝」
「まあ、俺も嫌いじゃないですから、ゆずねえ起こすの。それに、このコーヒーがついてきますし」
 ぐいっとカップを傾け、コーヒーを飲む。おばさんの淹れるコーヒーは何か違うのか、とてもおいしいので好きだ。
「柚子も『アキくんに起こされるの好きー♪ でも寝てるお姉ちゃんのおっぱいに悪戯するのは閉口』って言ってたわよ」
 ぶばーと口内のコーヒーをカップに戻す。
「わ、汚い」
「げほっげほっ……ええと、おばさん。一応訊ねますが、信じました?」
「可愛い娘の言うことを、誰が信じないものか!」
 前から薄々感じてはいたが、やはりゆずねえの親だけあって、この人どこかおかしい。ていうかなんだ、さっきのゆずねえのマネ。巧すぎだろ。
「にゃむにゃむ……」
 カップの中のコーヒーをどうしたものかと思案してると、ゆずねえがパジャマのまま眠そうに目を擦りながら部屋に入ってきた。
「うー、眠いよー……お母さん、コーヒーちょうだい」
「彰人くんのコーヒーもらいなさい」
 さっきの俺の行動の顛末を見ているはずのおばさんがとんでもないことを言った。
「アキくん、ちょーだい?」
「あ、いや、このコーヒーには少々問題が」
「彰人くん成分たっぷりで、柚子もにっこり」
「よく分からないけどお姉ちゃん飲む!」
「ああっ、あああっ!」
 俺からカップを奪い、ゆずねえは一気に飲み干した。
「……げぶはー! ぬるい! もう一杯!」
「ええと、大変申し上げにくいのですが、ゆずねえ」
「うん? なぁに、アキくん?」
 こてりと小首を傾げるゆずねえに、コーヒーの仔細を伝える。
「……というわけで、不可抗力とはいえ俺が一度口に含んだものを飲ましてしまいました。ごめんなさい」
「何を謝る必要があるものか! むしろお姉ちゃんは大喜びです!」
「いや、それはどうかと思う」
「よし! お母さん、もう一杯コーヒーちょうだい! そんで、アキくんはそれを一度口に含んでもどしなさい!」
「任せろ娘! 彰人くん、吐しゃの準備はおーけー?」
「この家の人みんな頭おかしい」
 泣きそうになりながらふと壁にある時計を見ると、いつもなら家を出ている時間だった。
「ゆずねえ、学校行こ。あんまりゆっくりしてたら遅刻する時間だぞ」
「でもまだアキくん特製コーヒーが!」
「そんなものは飲むな。聞き分けないと顔の皮剥がす」
「お姉ちゃん、すぐ準備します!」
 よほど怖かったのか、ゆずねえは慌てて部屋から飛び出した。
「……彰人くん、インディアンみたいな脅し文句ね」
「相手が女性なので頭の皮は剥がさないところに注目してほしいです」
「ジェントルマンね!」
 そもそもジェントルマンは皮を剥がさないよな、と思ってると、ゆずねえが制服に着替えて戻ってきた。
「ふー、ふー……な、何秒!?」
「5年」
「お姉ちゃん、どっかで時空の狭間に迷った!?」
「信じるな。準備できたなら行くぞ、ゆずねえ」
「あー、でもまだご飯食べてないー!」
「コンビニで何か適当に買って、食いながら歩けばいいだろ」
「アキくん、めっ! 食べながら歩いたらお行儀悪いでしょ?」
「滅された」
「漢字が違うよ!? お、お姉ちゃん、アキくんを滅してないよ? お姉ちゃんはアキくんが幽体になっても成仏させないよ?」
 それが愛情なのかどうなのか判断に迷うが、とりあえずそんなことはどうでもいい。
「そんなことよりご飯だよ、ご飯! 朝ごはん食べないと元気が出ないよ、アキくん?」
「いや、だからもうそんな時間が……」
「はい、柚子」
 縄か何かでふんじばって無理やり連行しようかと考えてると、おばさんがゆずねえに何か手渡した。
「……おにぎり?」
「さっき作っておいたの。ぱぱーって食べちゃいなさい、その間に母さんが彰人くんを大人の魅力で篭絡させておくから」
 途中までよき母っぽい台詞だったのに、やはりゆずねえの母親だけあってダメな部分が姿を現した。
「ダメーっ! お姉ちゃんが熟しきらない青い魅力で、何より大きなおっぱいで篭絡させるのー!」
「繰り返すが、この家の人頭おかしい」
 結局遅刻した。

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【桃と相合傘したら】

2010年01月22日
 放課後、さあ帰ろうと思ったら、突然とんでもない勢いで雨が降ってきた。傘は持ってきてない。
 もうこうなったら教室に骨を埋めるしかないと悲壮な覚悟を決めていたら、ちょんちょんと背中をつつかれた。
「ん? おお」
「どないしたん、アキちゃん。帰らへんの?」
 振り返ると、俺の胸くらいの高さからこちらを見上げるちっこい少女が、関西弁を駆使しつつ小首をかしげていた。
「雨に濡れると力が出ないから、雨が止むのを待ってるんだ」
「いつアンパンマンになったん?」
「朝食にアンパンを食べた時に」
「ほなウチもアンパンマンやな。いや、女やからアンパンウーマンか。あはは」
「パイパンマン?」
「いっ、いらんこと言わんでええねん、あほー!」
 少女が真っ赤な顔で僕の頬を全力で引っ張ります。この反応……まさかっ!? ……いや、言うまい。
「冗談はともかく、雨がやむのを待ってるのですよ、傘なしの身としては」
「……こんなん、あるねんけどな?」
 そう言って、目の前の少女は鞄から小さな折りたたみ傘を取り出した。
「なるほど、これを傘なしの亡者たちに見せ付け、奪い合わせる様を眺めようというのだな? 悪趣味だな」
「なんでやねん! 一緒に帰ろ言うてんねん!」
「分かってたけど、その言葉を言わせたかっただけなんです」
「う……も、もー。……あ、あんね、アキちゃん。ウチと一緒に帰ろ?」
 顔を赤らめ、もじもじと俺にぎこちなく笑いかける少女に、俺は最初から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「ところで、誰だっけ」
「ずこー!」
「すげぇ、昭和コケだ!」
「桃や、桃! 桃子! アキちゃんが居候してる家の娘や!」
「なんだ。道理で見覚えがあると思った」
 ちょっとした事情により、桃の家から通学している俺だった。忘れてた。
「脳が壊れてるん……?」
「本気で心配そうな顔をされると、切なくなるのでやめてください」
「あはは。ほな、帰ろ?」
「分かった。それはともかく喰らえ、必殺アイアンクロー!」
「みぎゃああ! なんで!?」

 アイアンクローの件を叱られた後、桃と一緒に帰宅する。
「まったくもー……意味もなくアイアンクローしたらアカンよ?」
「すいません。ところで、傘を借りてる身で文句を言うのもアレなんだが、その、ピンクの傘って……」
「かーいーやんな?」
「お前一人ならともかく、俺がこれを差すのはかなりの精神力が必要なのだが」
「そんなん言うても、しゃーないやん。傘はこれ一本しかないねんから」
「家を出るとき、ふたつ持ってきてくれたらよかったのに」
「何言うてんねん。そもそも、アキちゃんが悪いねんで? ウチは家出る前にちゃんと持ってき言うたのに、『雨なんて降らねーよ。降っても俺の力で雨雲を吹き飛ばしてくれる!』とか言うて持っていかへんかってんもん」
「自分で言うのもなんだが、朝の俺の発言は頭が悪すぎるな」
「いっつもそんなやで?」
 我ながらどうかと思う。もう少し色々頑張ろう。
「それはともかく。相合傘は嬉しいが、ショッキングピンクの傘を差す俺の図というのは、大変にショッキングだな」
「ショッキング言いたいだけやん。……でも、アレやな。相合傘やな」
 俺が持つ傘の柄の部分に、桃が手を重ねてくる。そして、にへらーっとしまりのない顔を見せた。
「あはー……な、なんや恋人同士みたいで照れるな?」
「事実は全く違うがな!」
「そ、そやけど、……そんな力いっぱい言わんでもええやん。……アキちゃんのあほー」
「照れてるんだ」
「真顔で言われても信じられへんもん。もーちょっとそれらしい表情してくれへんと」
「照れてるんだ」
「なんで満面の笑みなん!? 怖っ、アキちゃんの笑顔怖あっ!」
 大変傷ついた。
「あっ、嘘、嘘やでー? アキちゃんの笑顔怖く……ないことないけど、ウチは見捨てへんからな?」
 慰められたはずだが、ダメージの方がでかいのはどういうことだ。
「もういいから帰ろうぜ……」
「あっ、怒った? アキちゃん、怒った? ……ごめんなあ。ウチ、アキちゃん相手やと、ちょお言いすぎてまうねん」
「いーから帰るぞ」
 わしわしっと桃の頭を撫でて怒ってないことをアッピール。
「あうぅ……もー、髪ぐしゃぐしゃになるやん」
「文句を言うときは笑わずに言え」
「や、やって……うー、アキちゃんのあほー」
 阿呆呼ばわりされながら雨の街を歩く。傘に閉じ込められた世界にいるせいか、世界に俺と桃ふたりだけ、という馬鹿げた錯覚に陥りそうだ。
「……なんかな、世界に二人だけみたいやんな?」
「馬鹿がもう一人いた」
「な、なんやねん。しっつれーやなあ……」
「馬鹿筆頭が答えるに、俺も似たようなことを考えていたところだ」
「え……そ、そうなん。……一緒のこと、考えとってんな? ……えへ、アキちゃんと一緒かあ」
「顔にしまりがないですね!」
「や、やって、……しゃーないやん。一緒とか言われたら、顔ほにゃーってなってまうもん」
 ぬ。……く、くそぅ、そんなことを言って俺の顔のしまりすらなくす作戦か! チクショウ、負けるか!
「うにゅー! な、なんでウチのほっぺ引っ張るん!?」
「照れ隠しだ、気にするな」
「めっちゃ気にするっちゅーねん、あほー! ……ん? 照れ隠しっちゅうことは、アキちゃんも嬉しいん?」
「いいえ」
「……なんで向こう向いてるん?」
「首の筋が突然俺の制御を受け付けなくなったからだ」
「……なんで耳真っ赤なん?」
「毛細血管の野郎が耳に血液を集めたいと言うので、仕方なく耳に血液を送ったまでだ」
「……えへー。アキちゃん?」
「甘ったるい声が聞こえる。幻聴か」
「あはは。……あんな、あんな、……ウチもな、……えへ、アキちゃんと一緒でな、嬉しいねんで?」
 ちろりと桃の方へ視線を向けると、なんだかすごく幸せそうな笑顔があった。畜生、俺の負けだ。
「洋式と和式、どっちが好きだ?」
「うん? 何の話……ま、まさか、あ、あの、け、結婚式の? そ、そんなんまだ早い、早いって! せめて学校卒業してからでないと! でででもどーしても言うんやったら学生婚でもウチは」
 顔を真っ赤にして手をわたわたと振ってる桃は大変愛らしいが、そうではなくて。
「いや、便座の話」
「地獄突き!」
「ぐげっ」
「なんであーゆー話の流れやったのに便座の話になるん!? ほら、苦しんでるフリせんとウチの話聞き!」
 フリじゃないです。呼吸できないくらい苦しいんです。
「うー……あーあ、ほんまアキちゃんはアカンなあ。ムード台無しや。ムードクラッシャーや」
「げほっげほっ……いきなり地獄突きしてくる奴もかなりアレだと思うぞ」
「うっさい、あほー。ムードクラッシャーには罰や」
「罰?」
「せや。今日は帰ったらウチと一緒にご飯作ること。けっこー大変なんやで?」
「ほほう。一緒に料理とか、新婚さんのようで素敵ですね!」
「しっ、新婚さん!? は、はわ……」
「いや、サンコンさん。聞き間違えやすいから気をつけろよ、桃?」
「なんでサンコンさんが素敵やねん! ていうか絶対そんなん言うてなかった!」
 桃にみゃーみゃー言われながら一緒に帰りました。

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【ゆずねえ クリスマス】

2010年01月21日
 そろそろ年の瀬、クリスマスが近づいてきた。即ち、
「ねぇねぇアキくん。アキくんは何がほしい?」
「静かな時間」
「アキくん大人っぽくて偉いね! お姉ちゃん、なでなでしてあげる。いーこいーこ♪」
 登校中に頭をなでられ、道行く人々にひそひそとあることないこと囁かれる季節がやってきたのだ。
「そうじゃなくてね、クリスマスだよ。お姉ちゃん、アキくんになんでも買ってあげるよ? 何がいい?」
 そう言って、柚子ことゆずねえがにっこり微笑んだ。
 ゆずねえは俺がガキの頃からお隣に住んでおり、物心ついた頃には既に弟扱いされていた。そしてそのまま現在に至るわけだが。
「別にいいよ、子供じゃないんだし。それより、ゆずねえこそ欲しいものないのか? 俺の財力で叶う程度の品なら用意したいのだが……ゆずねえ?」
 突然、ゆずねえが震えだした。その姿に生来の負けん気が刺激されたので、負けじと生まれたての子鹿のように小刻みに震える。唸れ俺のディアマインド!(鹿心)
「……アキくんがいーこに育ってくれて、お姉ちゃん、大感激っ!」
 ぐわしっと抱きしめられ、激しく頭をなでられる。なんでもいいが胸に顔が埋まっていて苦しいやら気持ちいいやら気持ちいいのでもっとしてください。
「ところでアキくん、どうして震えてたの?」
「……ぷはっ。生まれたての子鹿の霊に憑りつかれたんだ」
「出てけっ、アキくんから出てけっ!」
 軽い冗談のせいで半泣きのゆずねえに割と本気の殴りを受け、超泣きそう。
「ふー……アキくん、霊は出てった? ……ああっ、アキくんが泣いてる!」
「すいません殺さないでください」
「お、お姉ちゃんはアキくんを殺さないよ? ……むしろ、アキくんの魅力にめろめろで、お姉ちゃんドキドキしてそのまま心臓止まっちゃうかもしんないから、そのせいで死んじゃうかもしれないよ?」
「なるほど。どんな葬式がいい?」
「アキくん葬がいい!」
 受け入れられた。ていうかなんだ、俺葬って。
「説明しよう! アキくん葬とは、棺の中に一面アキくんの写真がプリントされてて、しかも中には等身大アキくん人形があるの。念仏はアキくんが普段歌ってるアニソンを流して、もうこうなったら飾る肖像画もアキくんの写真でいいよね?」
「それはもう俺の葬式だ」
「アキくんが死ぬなんてダメッ! 5000歳くらいまで生きなさい!」
 それはもう一種の妖怪だ。
「まあいいや、頑張って超長寿になるよ。それよりゆずねえ、クリスマスなんだけど」
「お姉ちゃんと一緒に過ごしたいんだね? えへへ~、お姉ちゃんも~♪」
「いや、そういうわけでは」
 にへにへしながら近寄ってきた姉が面白かったので、思ってもないことを言ってみたら、ゆずねえの表情が凍りついた。
「……どういうことっ! はっ、まさかお姉ちゃん以外の姉と一緒に過ごす気!? お姉ちゃん、そんなの許さないよ!」
 かと思ったら、突然俺の肩を掴み、がくんがくん揺さぶってきた。ていうか誰だ、ゆずねえ以外の姉って。姉って増えるものなのか?
「いませんいません、俺にとって姉はゆずねえ一人だけだよ」
「アキくん……お姉ちゃん、超感動!」
「負けるか、超振動!」
「びびびびび~。……アキくん、なんで対抗したの?」
「それが分かったら苦労しないんだ」
「どうしてこんな変な子になっちゃったんだろ……育て方間違えたかな?」
 真顔で言われるとアンニュイになるのでやめてください。
「じゃなくてぇ! ……もー、アキくんと話してるといっつも脱線するよ」
「それはもう俺が相手なのだから諦めてもらわないと」
「…………頑張ろうね、アキくん」
 力ない笑顔で言われると、悲しくなってくる。
「でね、クリスマス。アキくん何が欲しい?」
「ゆずねえのパンツ」
「……ど、どうしてもって言うなら、お姉ちゃん、あげてもいいけど」
 ゆずねえは顔を真っ赤にしながらつぶやいた。嗜虐心に火がつく。
「ゆずねえが今はいてるパンツ」
「いま!? ……ど、ど、どうしても? 他のじゃだめ?」
「ダメ。どうしても」
 本当はそんなことないのだが、半泣きでおろおろしてるゆずねえを見てると、いじめたくなってしまうので、そう言ってしまうのもしょうがないだろう。
「……う、うう~……あ、アキくんのため、アキくんのため」
「待てゆずねえ、冗談だ! スカートに手を突っ込むな!」
「じょうだん……?」
「ていうかだな、仮に本当だとしても、今ここで脱ぐ必要もないと思うのだが」
「だ、だって、すぐ使うのかなーって思って……」
 使うとか言うな。
「そ、それよりアキくん! お姉ちゃんに嘘ついちゃダメでしょ! お姉ちゃん怒るよ!」
「ほう。果たして姉の怒りは俺に届くかな?」
「ばかにしてぇ……もー、アキくん! めっ!」
「うっうっ……ごめんなさいゆずねえ。俺が悪かった」
「あっ、ああ、あああ……アキくんっ!!!」
 泣きマネでこの場をやり過ごそうと思ったら、ゆずねえがすごい勢いで俺に抱きついてきた。
「アキくん……ごめんね、ごめんね。泣かせちゃってごめんね。叱ったりして、悪いお姉ちゃんだったね。」
「い、いや、そんなことないぞ? そもそも嘘をついた俺が悪いわけだし」
 ゆずねえはじーっと俺を見た。そして、俺の頬をゆっくりさすった。
「……アキくんが優しい子に育ってくれて、お姉ちゃん、大満足♪」
「い、いやあ。そもそもさっきの泣いたのも嘘泣きだし、あまり喜ばれると心が痛み申す」
「……うそ?」
「うん」
「……も、もーっ! お姉ちゃん、アキくんを悲しませたーって思ってドキドキしたじゃない!」
「いやはや。ごめんね、ゆずねえ」
「ふんだ。お姉ちゃんを騙すアキくんなんて知らないもん」
 機嫌を損ねてしまったのか、ゆずねえはあさっての方向を向いてしまった。怒ってるんだぞ、と分かりやすく頬を膨らませているのが可愛い。
「えい」
 その膨らんでるほっぺを指で押す。
「ぷしー。……も、もー。お姉ちゃん、怒ってるんだよ?」
「知ってる」
「じゃ、じゃあ、しおらしいこと言わないと。……お姉ちゃん、許すタイミング図れないじゃない」
 ゆずねえは俺の手を取り、困ったように眉を寄せながらつぶやいた。
「ゆずねえが相手だと、つい意地悪しちゃうんだ。ごめんよ、ゆずねえ」
「むー……それって、お姉ちゃんが特別ってこと?」
「いやあ、どうだろう」
「そこはもう特別だよーでいいじゃない! もー! アキくんの鈍感! 女心知らず! 千人針!」
「待てゆずねえ、最後の意味分からん!」
「そんな失礼なアキくんは、クリスマスにお姉ちゃんと過ごさなければなりません。罰です。決定です」
「罰にはならないと思うが……うん。じゃあ、一緒にクリスマスな」
「……へへー♪ じゃねじゃね、アキくん。ちゃんと何が欲しいか考えておくんだよ? お姉ちゃん、何でも買ってあげるからね?」
「ゆずねえのパンツ」
「……あ、アキくんのため、アキくんのため」
「だから、スカートに手を突っ込むなッ!」
 ままならない姉と一緒に登校するのだった。

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