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2017年12月11日
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【桃と相合傘したら】

2010年01月22日
 放課後、さあ帰ろうと思ったら、突然とんでもない勢いで雨が降ってきた。傘は持ってきてない。
 もうこうなったら教室に骨を埋めるしかないと悲壮な覚悟を決めていたら、ちょんちょんと背中をつつかれた。
「ん? おお」
「どないしたん、アキちゃん。帰らへんの?」
 振り返ると、俺の胸くらいの高さからこちらを見上げるちっこい少女が、関西弁を駆使しつつ小首をかしげていた。
「雨に濡れると力が出ないから、雨が止むのを待ってるんだ」
「いつアンパンマンになったん?」
「朝食にアンパンを食べた時に」
「ほなウチもアンパンマンやな。いや、女やからアンパンウーマンか。あはは」
「パイパンマン?」
「いっ、いらんこと言わんでええねん、あほー!」
 少女が真っ赤な顔で僕の頬を全力で引っ張ります。この反応……まさかっ!? ……いや、言うまい。
「冗談はともかく、雨がやむのを待ってるのですよ、傘なしの身としては」
「……こんなん、あるねんけどな?」
 そう言って、目の前の少女は鞄から小さな折りたたみ傘を取り出した。
「なるほど、これを傘なしの亡者たちに見せ付け、奪い合わせる様を眺めようというのだな? 悪趣味だな」
「なんでやねん! 一緒に帰ろ言うてんねん!」
「分かってたけど、その言葉を言わせたかっただけなんです」
「う……も、もー。……あ、あんね、アキちゃん。ウチと一緒に帰ろ?」
 顔を赤らめ、もじもじと俺にぎこちなく笑いかける少女に、俺は最初から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「ところで、誰だっけ」
「ずこー!」
「すげぇ、昭和コケだ!」
「桃や、桃! 桃子! アキちゃんが居候してる家の娘や!」
「なんだ。道理で見覚えがあると思った」
 ちょっとした事情により、桃の家から通学している俺だった。忘れてた。
「脳が壊れてるん……?」
「本気で心配そうな顔をされると、切なくなるのでやめてください」
「あはは。ほな、帰ろ?」
「分かった。それはともかく喰らえ、必殺アイアンクロー!」
「みぎゃああ! なんで!?」

 アイアンクローの件を叱られた後、桃と一緒に帰宅する。
「まったくもー……意味もなくアイアンクローしたらアカンよ?」
「すいません。ところで、傘を借りてる身で文句を言うのもアレなんだが、その、ピンクの傘って……」
「かーいーやんな?」
「お前一人ならともかく、俺がこれを差すのはかなりの精神力が必要なのだが」
「そんなん言うても、しゃーないやん。傘はこれ一本しかないねんから」
「家を出るとき、ふたつ持ってきてくれたらよかったのに」
「何言うてんねん。そもそも、アキちゃんが悪いねんで? ウチは家出る前にちゃんと持ってき言うたのに、『雨なんて降らねーよ。降っても俺の力で雨雲を吹き飛ばしてくれる!』とか言うて持っていかへんかってんもん」
「自分で言うのもなんだが、朝の俺の発言は頭が悪すぎるな」
「いっつもそんなやで?」
 我ながらどうかと思う。もう少し色々頑張ろう。
「それはともかく。相合傘は嬉しいが、ショッキングピンクの傘を差す俺の図というのは、大変にショッキングだな」
「ショッキング言いたいだけやん。……でも、アレやな。相合傘やな」
 俺が持つ傘の柄の部分に、桃が手を重ねてくる。そして、にへらーっとしまりのない顔を見せた。
「あはー……な、なんや恋人同士みたいで照れるな?」
「事実は全く違うがな!」
「そ、そやけど、……そんな力いっぱい言わんでもええやん。……アキちゃんのあほー」
「照れてるんだ」
「真顔で言われても信じられへんもん。もーちょっとそれらしい表情してくれへんと」
「照れてるんだ」
「なんで満面の笑みなん!? 怖っ、アキちゃんの笑顔怖あっ!」
 大変傷ついた。
「あっ、嘘、嘘やでー? アキちゃんの笑顔怖く……ないことないけど、ウチは見捨てへんからな?」
 慰められたはずだが、ダメージの方がでかいのはどういうことだ。
「もういいから帰ろうぜ……」
「あっ、怒った? アキちゃん、怒った? ……ごめんなあ。ウチ、アキちゃん相手やと、ちょお言いすぎてまうねん」
「いーから帰るぞ」
 わしわしっと桃の頭を撫でて怒ってないことをアッピール。
「あうぅ……もー、髪ぐしゃぐしゃになるやん」
「文句を言うときは笑わずに言え」
「や、やって……うー、アキちゃんのあほー」
 阿呆呼ばわりされながら雨の街を歩く。傘に閉じ込められた世界にいるせいか、世界に俺と桃ふたりだけ、という馬鹿げた錯覚に陥りそうだ。
「……なんかな、世界に二人だけみたいやんな?」
「馬鹿がもう一人いた」
「な、なんやねん。しっつれーやなあ……」
「馬鹿筆頭が答えるに、俺も似たようなことを考えていたところだ」
「え……そ、そうなん。……一緒のこと、考えとってんな? ……えへ、アキちゃんと一緒かあ」
「顔にしまりがないですね!」
「や、やって、……しゃーないやん。一緒とか言われたら、顔ほにゃーってなってまうもん」
 ぬ。……く、くそぅ、そんなことを言って俺の顔のしまりすらなくす作戦か! チクショウ、負けるか!
「うにゅー! な、なんでウチのほっぺ引っ張るん!?」
「照れ隠しだ、気にするな」
「めっちゃ気にするっちゅーねん、あほー! ……ん? 照れ隠しっちゅうことは、アキちゃんも嬉しいん?」
「いいえ」
「……なんで向こう向いてるん?」
「首の筋が突然俺の制御を受け付けなくなったからだ」
「……なんで耳真っ赤なん?」
「毛細血管の野郎が耳に血液を集めたいと言うので、仕方なく耳に血液を送ったまでだ」
「……えへー。アキちゃん?」
「甘ったるい声が聞こえる。幻聴か」
「あはは。……あんな、あんな、……ウチもな、……えへ、アキちゃんと一緒でな、嬉しいねんで?」
 ちろりと桃の方へ視線を向けると、なんだかすごく幸せそうな笑顔があった。畜生、俺の負けだ。
「洋式と和式、どっちが好きだ?」
「うん? 何の話……ま、まさか、あ、あの、け、結婚式の? そ、そんなんまだ早い、早いって! せめて学校卒業してからでないと! でででもどーしても言うんやったら学生婚でもウチは」
 顔を真っ赤にして手をわたわたと振ってる桃は大変愛らしいが、そうではなくて。
「いや、便座の話」
「地獄突き!」
「ぐげっ」
「なんであーゆー話の流れやったのに便座の話になるん!? ほら、苦しんでるフリせんとウチの話聞き!」
 フリじゃないです。呼吸できないくらい苦しいんです。
「うー……あーあ、ほんまアキちゃんはアカンなあ。ムード台無しや。ムードクラッシャーや」
「げほっげほっ……いきなり地獄突きしてくる奴もかなりアレだと思うぞ」
「うっさい、あほー。ムードクラッシャーには罰や」
「罰?」
「せや。今日は帰ったらウチと一緒にご飯作ること。けっこー大変なんやで?」
「ほほう。一緒に料理とか、新婚さんのようで素敵ですね!」
「しっ、新婚さん!? は、はわ……」
「いや、サンコンさん。聞き間違えやすいから気をつけろよ、桃?」
「なんでサンコンさんが素敵やねん! ていうか絶対そんなん言うてなかった!」
 桃にみゃーみゃー言われながら一緒に帰りました。

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