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2024年03月19日
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【アンドロイドがやってきた】

2010年03月08日
 叔父さんがロボットを開発したらしく、テストケースとしてそのロボを預かってる。てっきりTo Heartのはわわロボットみたいなのがくると思ったのだけど、実際にやってきたのは、お堅い感じのロボットだった。
「HTR-017、汎用人型ロボット、通称ヒナタです。以後よろしくお願いします、マスター」
 ニコリともせず頭を下げる、一見人間みたいなロボ。
「あー……マルチでなく、セリオみたいなのか。残念だが、まぁよしとしよう」
「所長の命なので、世話してやります。感謝しまくるがいいとヒナタは思います」
「……え、えと? おかしいな、ロボットのくせになんかやけに偉ぶってるような、そんな不思議幻聴が」
「幻聴ではないとヒナタは答えます。それと同時に、マスターは常々幻聴が聞こえる頭がおかしい人と記録します」
「やめて記録やめて! おかしい人じゃないです! 普段は幻聴とかしない!」
「疑わしいものですが、どうしてもと土下座されたので記録を解消する心優しいヒナタに感謝するがいいと思うヒナタです」
「土下座なんてしてねぇ!」
「すればいいと思うヒナタです」
「なんで!?」
「どっちが上か最初にはっきりさせておく方がいいと思うヒナタなのです」
 こいつの思考回路作ったの誰だ。
「じゃあ、今日からしばらくよろしくと言っておくヒナタです」
「帰って欲しいと思うタカシです」
「……ハッ。パクリ」(ぼそっ)
「笑った! いま鼻で笑ったよ!? あと小声でパクリとか言った!」
「気のせいだと断言するヒナタです。ヒナタには感情を表現する機能はついておりません」
 あー、だからさっきからずっと無表情だったのか。
「ですので、心の中で密かにマスターの事を小馬鹿にしていたとしても顔に出ないので、とても有益だと考えるヒナタです」
「お願い、帰ってください」
「ヒナタの部屋はどこにしましょうか。……お、ここは広くていいです。ここに決定します。決定」
 勝手に家に上がり込み勝手に自分の住処を決定する勝手なロボ。
「あー……美味しい電気です。デリシャスと言っていいです」
 しかもどこから出したか知らないが、自分の体から出てるコンセントを勝手に差し込むロボ。
「待て。電気代とか、すごいことになってるんじゃないか?」
「……こんな美少女がやってくるのです。小さなことを気にするのは器が小さいことが露呈するので、やめた方がいいと思うヒナタです」
「む、確かに! ……いやいやいや! 器小さいとかどうでもよくて! 金だよ金! マネー!」
「脅迫を受けました。初体験です。記録。完了。法廷で勝つ自信はかなりのものと自負するヒナタです」
 誰か助けてください。

 そんな毎日を送りつつも、人間とは慣れるもので、なんとかこの勝手なのと共存してます。
「マスター、朝なので起きる方がよいと判断するヒナタです。我ながら好判断です」
「ぐごーぐごー」
「あと1秒で起きないと、人間が耐え得ると言われているギリギリの量の電流を流します」
「起きた!」
「……ちっ」
「ちって言った! 絶対言った!」
「気のせいです」
 ヒナタと暮らしてから目覚めはよくなったが、睡眠がとても浅くなりました。
「朝食を作りました。早く食べないと冷めるので、一刻も早く食卓に着く方がいいと提言するヒナタです」
「めしー? お前のことだから、ボルトとかナットとかそんなオチだろ?」
「記録。完了。次回からそうします」
「やめてお願いごめんなさい俺が悪かったです」
「愚かなマスターをサポートするのも優れたアンドロイドの務めですので、気にしないように言う心優しいヒナタです」
 こいつ嫌い。

「ふああ……おお、ちゃんとしたメシだ! グゥレイト!」
 アクビを噛み殺しながら台所へ行くと、そこにはほかほかと湯気を立てる食事が並んでいた。
「グゥレイト……ディアッカ・エルスマンの名セリフ。マスターはエルスマンフェチと記録。完了」
「違うやめてエルスマンフェチ違う! つーか種ガンダムはスパロボで手に入れた知識ぐらいしかないです!」
「スパロボにヒナタが入ってないことに義憤を抱く、とマスターは言うのですね」
「言わねえよっ!」
 こんな性悪ロボット入ってるわけない。
「こんな愛らしい女性型アンドロイドがスパロボに出ない事に不満を抱かないなんて……マスターはホモに違いないとヒナタの高性能頭脳は結論づけます」
「ホモじゃねえ! むしろロリ! 最近ショタも可!」
「マスターの異常性癖の話題にまったく興味を抱けないヒナタですが、相槌打ち機能を働かせて聞いているフリを行います。ほうほうほう」
 馬鹿にされてる。絶対馬鹿にされてる。
「……ところで、ロリということは、体に凹凸の少ない女性に淫らな感情を呼び起こされる劣等種のことですよね」
「おまえ、仮にも主人に対し劣等種とか……ああ、そういやお前の体も凹凸が実に少ないな。ぺたぺたぺたの超々貧乳かと。まぁ、大喜びですが!」
「敵性因子発見。撲殺の許可を」
「それ俺のことだろ! 不許可! お前もご主人様が喜んでるんだから、自らのナイチチを喜べ」
「敵性因子発見。撲殺の後、焼却の許可を」
「だからダメだっつーの! なんですぐ殺そうとするか!」
「……ちっ」
「また! またちって言った!」
「気のせいです。それより、早く食べて感想を言うがいいと思うヒナタです」
「はぁ……ま、いいや。じゃ、いただきまーす」
 まずは玉子焼きをぱくり。ん、んー……生焼けだな。まぁ、食えないことはないが。
「ま、最初だとこんなもんだな」
「あまりの美味に本当は大絶賛したいが、器の小ささに邪魔をされ、素直に言えないのですね。やれやれ、困ったマスターです」
「すごい解釈ですね。つーか器小さい言うな」
 続いてみそ汁をごくり。……んーむ、濃い。すげー濃い。まぁ、食えないことはないが、お湯足そう。
「ポットの湯をみそ汁に。……つまり、マスターは白湯が大好物、と。記録。完了」
「違う! そんな可哀想な子じゃないっ! 濃かったの!」
「健康のために薄味を好む、とマスターは言うのですね」
 なんでこうも自分に都合よく解釈できるのか。ある意味尊敬する。
「今後は、ひょっとしたらこれは無味の料理ではないだろうかと万人が首を傾げる料理を創造しようと思うヒナタです」
「首を傾げるような料理を目指すなっ! 普通の作れ!」
「マスターはとてもわがままですが、それを受け入れる度量のあるヒナタに感謝するといいです。普通のアンドロイドだと、マスターは既に7回は殺されている計算です」
 その計算式たぶん間違ってる。
「……しかし、おかしいです。ヒナタの計算では、既に褒められているはずなのですが……やはり、マスターは一筋縄ではいかないようです」
「ん? なんだ、褒められたいのか?」
「そんなことはまったく考えていない、と宣言するヒナタです。ですが、マスターのどうしても褒めたい欲をふいにするほどダメアンドロイドではないので、我慢して褒められます」
 なんで普通に言えないかねぇ、と思いながらご飯をぱくり。
「ん、これは普通にうまいぞ。まぁ、炊飯器があれば誰でもできるけど」
「そんなことはないです。ご飯を炊くまでの艱難辛苦、マスターにも見せてやりたいと思うヒナタです。なのに、“誰でもできる”などとのたまう冷たいマスターは、地獄に落ちる確率が100%を越しました」
 勝手にそんなの計るな。つーか地獄とか信じてるのか、機械。
「あー分かった分かった。味はともかく、俺のためにメシ作ってくれてありがとな、ヒナタ」
 感謝の意を込めて、ヒナタの頭をなでる。
「……ひ、ヒナタは高性能アンドロイドなので、これくらい当然のことです。感謝されるほどのことじゃないです」
 ん? 自分から言ってたくせに……こいつ、ひょっとして褒められるの苦手か? 実験、実験!
「いや、ヒナタが来てくれてホント助かった。ヒナタがいなかったら、どうなってたか……」
「そ、その思考は当然の帰結かと思いますが、思ってもそういう事はあまり言うべきじゃないです。その、ヒナタは、そういう事を言われる経験が欠如しているので、その、……反応に困ります」
 うおお、あの鉄面皮が狼狽してる! これは初の光景だぞ。記録してえ。
「……と、ところで、褒められるのは覚悟してましたが、その、……頭なでなでは想像の外でして、……いや、それが嫌悪に属するかと言われたら否と答えるしかないのですが、その、なでなでは……」
「……可愛い、可愛いぞヒナタ!」
 ちょっと感極まって、ヒナタをむぎゅーっと抱きしめる。
「!!!!!」
 え、あれ、顔赤く……?
「はぎゅっ!?」
 顔をぎゅっと押され、壁まで吹き飛んだ。改めてヒナタを見ても、いつもの無表情。
 さっきのあの照れた顔は、気のせいか……?
「セクハラを受けました。記録。完了」
「セクハラ違うっ! ちょっとぎゅってしただけ!」
「立派なセクハラです。女性の敵とヒナタは認識します。去勢の許可を」
「不許可に決まってんだろうがっ!」
「ちっ……」
「言った! ちって! 絶対!」
「マスターにはやはり幻聴の気があると断定するヒナタです」
 やっぱこいつ嫌い。可愛いと思ったの気の迷い。決定。
「ところで、ヒナタの料理に歓喜の涙を流すのもとてもとても理解できますが、マスター。そろそろ登校しないと遅刻する危険性があると知らせるヒナタです」
 ヒナタの指摘に時計を見ると、全力で走ってギリギリ間に合うかどうかって時間ですよ。
「もっと早く知らせろ、このポンコツッ!」
「む、聞き捨てならない捨て台詞です。憤慨のあまり惨殺死体を作成しかねない勢いです。謝罪を要求するヒナタです」
「うっせーばーかばーか! いってきまーす!」
「いってらっしゃいと言いつつ、惨殺死体になりたくなければ学校でヒナタに謝る台詞を練習する事を推奨するヒナタです」
 恐ろしい事を言いながら無表情に手を振るヒナタに見送られ、全力で学校に向かう俺だった。

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【帰宅したらツンデレが自室の段ボールに捨てられていたようです】

2010年02月17日
 学校から帰宅すると、傍若無人厚顔無恥の歩く皮肉ロボがいない。買い物にでも出かけたかなと思いつつ自室に入ると、段ボール箱の中になんかいる。
「にゃー」
 皮肉ロボ──ヒナタが段ボール箱の中に入り、指を箱のふちに乗せて無表情でにゃーにゃー鳴いてた。
「にゃー」
「…………」
 さて困った。どう処理したものか。
「ふふ、ヒナタの萌え動作にマスターはめろめろです。気持ち悪いマスターの気持ち悪い本で学習した甲斐があるというものです」
 ヒナタの嫌な言動に部屋を漁る……までもなく、俺の机の上に見覚えのある品が。
「なんで俺のエロ本がここにあるんだよ! 隠してたろ! 思春期の多感な時期なんだから察して!」
「もう少しソフトな描写の本にすべきだと提案するヒナタです。あと、出てくる女性全てが小さいのはどうかと」
「まさかの熟読!? ええい、帰れ帰れ、そんな酷いロボットは研究所に帰れ!」
「……ヒナタにもう帰る場所がないと知ってて、マスターはそんなことを言うのですね」
「え……」
 そんな、だって叔父さんの研究所は潰れてないと思ったけど?(注:ヒナタは叔父の開発したロボットであり、実動テストとして預かっています)
 ……はっ、昨今の不況の影響がこんなところにまで!?
「……そ、そうだったのか。ごめんな。そうとは知らず、俺……。なあヒナタ、いつまでもここにいていいんだからな?」
「まあ、嘘なのですが」
「…………」
 なんでこうもさらっと嘘をつくかね、このロボは。
「しかし、マスターの優しさにほんの僅かですが、そう、猫のひたいほどですが、感動したと言うヒナタです」
「あーそりゃどーも」
「マスターが完全に拗ねているのをマスターご機嫌いかが機能にて確認。機嫌修復開始。あばばばばー」
 ヒナタは無表情なままあばばば言った。今日も馬鹿にされてる。なんだ、マスターご機嫌いかが機能って。絶対いま適当に考えてつけたに違いない。
「赤ちゃんじゃないんだから、そんなのじゃ機嫌は直らない」
「マスターの能力は赤子以下。記録。完了」
 このロボは重箱の隅ばかりを狙うので、俺の個人情報がとても悲しい感じになっている。
「ところでマスター、未だにヒナタの萌え動作について感想を頂いていないのですが。きちんと悶えていただかないと困ります」
 そんなこと言われてもこっちが困る。
「愚かなマスターのためにもう一度媚びますので、今度は悶えてください」
 とても嫌な発言のあと、ヒナタは再び「にゃー」と鳴いた。無論、いつものように無表情で。
「どうですか。萌えましたか。萌えましたね。萌えたらヒナタを褒めなさい。なでなでしなさい」
「おまえは一度脳を改造してもらった方がいい」
「改造経験のある人は言うことが違いますね」
「されてねえっ! 人を改造人間みたいに言うなッ! ……あっ、なんか仮面ライダーっぽくて、ちょっと嬉しいかも」
「訂正。マスターが人として失格なため、脳改造された人間のようだとヒナタは言ったのです」
 より嫌な方向になってしまい悲しい。
「やれやれ、マスターはわがままですね。これほどヒナタが媚びているというのに、何が不満だというのですか」
「どんな萌え動作をしようが、故意にやってる時点でダメなんだよ! あーもー説明さすなよ!」
「マスターの気持ち悪い説明を聞くのも面倒ですので、とりあえずヒナタを褒めてください」
「人に説明を求めておいて気持ち悪いとな!? なんて無礼なロボットだ……いつか分解してやる」
「いいから早く褒めなさい。なでなでしなさい。鳴いてやりますから。にゃー。ほら。にゃー」
「……そこまで褒めて欲しいなら条件がある。『ご主人さまぁ……ヒナタ、いっぱいなでなでしてほしいですにゃん♪』と媚っび媚びに言えっ! さすれば褒めてやろう!」
「今日はまた格別に気持ち悪いですね、マスター」
 とても傷ついた。
「マスター、段ボール箱の中に入って泣かないでください。迷惑です」
「うっ、えぐっ……ロボットがいじめる、ロボットが人間をおびやかす」
「安心してください、マスター。ヒナタがおびやかすのはマスターだけですから。特別扱いにマスターにっこり」
 特別扱いなのに、ちっともにっこりできない。
「にっこりしたらそこから出てください。それはヒナタのものです。対マスター用保護欲噴出装置です」
「ちっとも保護欲が噴出しませんでしたよ」
「やはりマスターほどの剛の者ですと、幼女でなければ欲情しませんか」
「おまいはどこまで俺を貶めれば気が済むんだ」
「おかしいですね……先ほどの本には幼女のあられもない姿が多数収録されていたので、間違いないと思ったのですが」
「その記憶は消してください!」
「この世界にはギブアンドテイクという言葉がありまして」
「……つまり、褒めたら忘れる、と?」
「…………」
「……よし、分かった。おまえみたいな性悪ロボを褒めるのは正直嫌すぎるが、背に腹はかえられない。褒めてやろう」
「随分な言いようですが、ヒナタは優しい素敵なアンドロイドですので、夕食の品を悲しい感じにするだけで許してあげます」
 些細な言葉で俺の晩飯が悲しい感じになってしまった。
「はぁ……まあいいや。んで、どうすりゃいいんだ?」
「ヒナタをなでなでしなさい」
「…………」
「な、なんですか、その目は。別にヒナタはマスターのなでなでが好きなんじゃないです。以前、マスターのなでなでを受けた際、ヒナタのプログラムが不可思議な動きをしたので、それを確認するにすぎないのです」
「不可思議、ねえ……」
「分かったらなでなでしなさい。早く、ほら、早く」
「わーったよ。ほい」
 ヒナタの頭に手を乗せ、なでなで。
「は、はふ……」
 ヒナタの頬がほんのり桜色に染まる。ヒナタは自分では自覚が無いようだが、頭をなでられるとこのようになる。ただ、そんな機能はついてないらしいが……。
「どうだ? 確認したか? ついでに記憶も消えたか?」
「も、もっとです。もっとデータが必要です。別に嬉しいからもっとなでなでしてほしいわけではないです」
「…………」
「な、なんですか、その目は」
「……やー、まあいいや。好きなだけしてやるよ」
「ま、マスターにしてはよい判断です。『下等人種にしてはよくやったで賞』を授けます」
 イマイチ嬉しくないのはどうしてだろうね。
「ほれ、ぐだぐだ言ってたらなでねーぞ」
「む。マスターは狭量です。……ん」
 なでること数分。いい加減疲れたのでヒナタの頭から手をどける。
「……はああああ。素敵な時間でした」
「俺は超疲れた」
「だらしないですね。流石はなでなで以外まるで取り柄のないマスターです」
「帰ってくれませんか」
「お断りします」
 にべなく断られた。
「まあいいや、これで俺の素敵アルバムの記憶を消してくれるんだよな?」
「何の話ですか」
「え? ……いや、だって、さっき」
「ヒナタは何も答えませんでした。マスターが勝手にそう思ったに過ぎないと断言するヒナタです」
 記憶をさかのぼる。うん、確かにヒナタは何も言ってないよね。でも、あの感じだと普通沈黙は肯定だと思うよね。それを逆手に取ったんだね。
「……ずるい! なんてずるいロボだ! 卑怯者!」
「マスターほどずるくも卑怯でもありません」
「なんで断言してんだよ! 不愉快だ、ああ不愉快だとも! もう二度とおまえみたいな不愉快ロボなんて撫でてやらないからな!」
「…………」
「……な、なでないからな?」
「…………」
「む、無言でこっちをじーっと見るなよう! 怖くないけど! 怖くないけど見るな!」
「…………」
「ご、ごめんなさい」
 どうして俺が謝る羽目になっているのだろう。
「……ふう。寛大なヒナタだから許してあげます」
 そして、どうしてこいつはこんな偉そうなのだ。主従関係がおかしくなってますよ。
「ほら、もう土下座なんてやめてください。頭を床にこすり付けるなんて、情けないですよ」
「土下座なんてしてねえっ!」
「じゃあしてください。頭を床にこすり付け、情けない姿をヒナタに晒しなさい。その後に優しいヒナタが止めますから。優しいヒナタに、マスターどきどき」
「お前みたいな性悪なロボにドキドキなんてするか!」
「不思議ですね、なんだか先ほどの幼女全集の内容をマスターの友人たちに仔細に伝えたくなるヒナタです」
 脅迫までしてきた。極めて屈辱だが、屈服するほか術がなかった。
「わ、わー、ヒナタにどきどきするなあ」
「不愉快です。やめてください」
「おまーがやれって言ったんだろうが! 言ったんだろうがっ! 言ったんだろうがあっ!」
「うるさいです」
 迷惑そうにヒナタは眉をひそめた。
「あーもーっ! お前、絶対俺のこと嫌いだろ」
「……秘密です」
 いつものように無表情に言うヒナタだったが、どうしてか俺にはヒナタが笑っているように見えた。

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【ツンデレに耳かきしてもらったら】

2010年01月31日
 居間でテレビを見てたら急に耳が痒くなったので、耳掃除をする事にする。
「マスターが自身の耳孔を棒状の凶器で貫こうとしている現場を目撃。とてもよい光景なので、録画しておきましょう」
 奥で家事をしていたアンドロイド、ヒナタがやってきて嫌な事を言う。
「違う。これは耳掃除と言って、耳を掃除してるの。貫こうとはしてない」
「じゃあ貫いてください」
「なんで!?」
「そうすれば、きっと胸がすく思いとやらを感じられるに違いないという確信にも似た思いがするヒナタなのです」
 こいつは俺をサポートするためのアンドロイドなんだけど、どうも俺を小馬鹿にしている節がある。
「もういい。出てけ。俺は静かに耳掃除したいのだ」
「それなら、ヒナタがしてあげます」
「え、マジ!? やたっ、鉄面皮の皮肉娘とはいえ、一応は女なので膝枕の耳掃除に憧れる思春期の青年としては嬉しい感じ! やってやって!」
「お任せください、マスター。このような感じで行います」
 耳かきを渡すと、ヒナタは視認できないほどの速度で何度も虚空を突いた。
「その速度でされると、一緒に脳まで掃除されそうですが」
「大丈夫、一瞬で仕留めて見せます」
「仕留めんな! 誰も殺してくれなんて頼んでない! 耳掃除してほしいの、耳掃除!」
「面倒ですね」
「おまーがしてやるって言ったんだろーが!」
 こいつといたら脳の血管切れそう。
「マスターの血圧が160に急上昇。少し危険だと報告します」
「えっ、そんな機能まであるのか? すごいな、ロボだけあって機能が充実してんだな」
「まぁ、カンですが」
「…………」
 こいつ嫌い。
「どうしました、マスター。これほど綺麗で聡明、完全無欠なアンドロイドが側にいるというのに不機嫌そうですね」
「おまいが言うところの美点全てが、根性悪ひとつで消されるけどな」
「美点がない人間は言うことが違いますね」
 こいつすごく嫌い。
「も、いい。自分で耳掃除するから、耳かき返して」
「否定。ヒナタの仕事を取らないでください。ヒナタが行います」
「ダメだっての。おまいがすると、脳みそまで一緒に掃除するだろうが」
 ヒナタの持つ耳かきを取ろうと手を伸ばすが、ガードされ奪えない。
「大丈夫です、ヒナタを信じてください。マスターの信じるヒナタを信じてください」
「おまいのことなんて1mmたりとも信じてねーっ! そんなパクリ名セリフ言われても心動かねーっての!」
 叫びながら耳かきを引っ張るが、女の力とは思えないほどの力で握られており、取れない。
「ぐぎぎ……おまえ、すげー力だな。かの有名な妖怪、ゴリラ女か?」
「アンドロイドですので、多少は力持ちです。が、マスター相手でしたら普通の女性程度の力で充分でしたね」
「あっ、カッチーンと来たぞ! 今のセリフに男としてのプライドが刺激されたぞ! もー何が何でも奪ってやる!」
「ヒナタの唇を、ですか。マスターは気持ち悪いですね」
「言ってねーっ! 気持ち悪い言うなっ! 誰がおまいみたいな性悪ロボ子とキスしたいなんて思うか!」
「…………」
 ヒナタは無表情なまま耳かきをぐいっと引っ張った。すると、耳かきを掴んでいた俺は、釣られた魚のごとく空中を飛んでいた。
「おや? どうして俺は空にへぶっ!」
 そのままの勢いで顔面から壁に激突する。したたかに鼻を打ちつけ、とても痛い。
「……ったあ~! 何しやがるこのポンコツ!」
 鼻を押さえながらヒナタに向き直る。
「ヒナタのような見目麗しいアンドロイド相手にキスしたいと思わないなんて、マスターは異常ですね。一度脳洗浄をお勧めします」
「死ぬわっ! 何度も言うが、おまいみたいなのとロボと、どうしてキスなんてしようと思うかね。まぁ、マルチみたいな可愛いはわわっ娘なら考えないでもないけど」
「はわわ」
「…………」
「はわわ」
 無表情のまま、淡々と“はわわ”という言葉を羅列するヒナタ。
「マスターは私の萌え動作に心を奪われた様子。必ずや、キスしようとするに違いありません。マスターの要望とは言え、とても嫌だと感じずにはいられないヒナタです」
「おまいは分かっちゃいない……何も分かっちゃいない! “萌え”とはいわば、心の泉から湧き出る雫! そんな模造品で俺を満足させるなんて不可能だ!」
「こういった話題になると、マスターは途端にハキハキ喋りますね」
「…………」
「とても憮然としている顔に満足したので、耳掃除してあげます。さ、横になってください」
 その場に正座し、ヒナタは膝をぽんぽん叩いた。ここに寝ろ、ということらしい。
「耳を抉るのか?」
「それがマスターの望みとあらば、やぶさかではありません。掘削用ドリル取ってきますね」
「待って取りに行かないで抉るのノー! 普通にしろ、普通に! いいか、痛いこと禁止だぞ! 泣くからな!」
 恐る恐るヒナタの太ももに膝を乗せる。うっ……こいつ、ロボのくせに人みたいに柔らかいな。ふにふにしてる。
「……マスター、ヒナタの太ももに顔をこすりつけるのはおやめください」
「しっ、してないぞお、俺はすりすりなんてしてないぞお!?」
 本当はしました。気持ちよかったです。
「おかしいですね。マスターの表情、声の調子、発汗、動悸、全ての要素が嘘と告げています」
「なっ、何ぃっ!? そ、そんなことまで分かるのか!?」
「まぁ、カンですが」
 なにこの適当な機械。で、なんで俺は何度も騙されるのか。
「しかし、マスターの反応を見る限り、ほぼ確実に嘘ですね」
「……ああそうさ、嘘さ! したさ、ヒナタのふっにふにの太ももにすりすりしたさ! ははっ、笑うなら笑えよ! 哀れな俺を笑うがいいさ!」
「ヒナタには表情を作る機能はないので、笑えません。なので、声だけで笑ってあげます。ははははは」
 無表情ではははと声をあげるヒナタ。なんだかとってもムカツク。
「さて、それでは耳かきをします。神への祈りは済みましたか?」
「え、そんな危ないことなの?」
「ヒナタに搭載された最新式コンピュータによると、43%の確率で成功すると出ました」
「なにその低い数値!? やめて耳掃除やめて!」
「大丈夫、残りは勇気で補います」
「なんか聞いた事あるセリフですよ!? ていうかそこまでして耳掃除してほしくないしやめてやめてやめて!」
「がががーがががーがおがいがー」
「人が生きるか死ぬかの瀬戸際にへったくそな歌を歌うとな!?」
「…………」
「おや、機嫌を損ねましたね? 耳かきの動きが急に乱雑になりましたよ? ていうかホントすいませんやめてください死にますもう死にますからひぎゃあああ!」
 あまりの恐怖に気絶。

「……マスター、起きてください。マスター、起きてください」
「…………」(気絶中)
「起きないと、脳に電極を刺して強制的に起こします。3、2、1」
「起きた!」
「……ちっ」
「ちって言った! 刺す気だったよこのロボ!? ていうかなにその手のでっかい電極!?」
「気のせいです」
 気のせいとか言いながらヒナタは巨大な電極を投げ捨てた。隠す気ゼロじゃん。
「マスター、掃除完了です。ぴっかぴかになりましたと宣言するヒナタです」
「ん? ……おお、耳がすっきりしてる!」
「奇跡とはこのことを言うのですね」
 奇跡が起きないと無事じゃない耳掃除なんて聞いたことない。
「過程はともかく、耳掃除してくれてサンキュな。もう頼まないけど」
「マスターの感謝を確認。と同時に、“モウタノマナイケド”というノイズも確認。ノイズを記憶から消去」
 なんて都合のいいロボなんでしょう。
「マスターの望みを叶えられたヒナタは、素晴らしいアンドロイドだと自画自賛します。自画自賛モード発動。偉い偉い」
 自分で自分の頭をなでる変なロボ。表情は変わらないが、どこか満足そうだった。
「変なのでやめなさい。なでなでくらい、俺がやってやるよ」
 むっくら起き上がり、ヒナタの手を止めてから頭をなでる。
「あ……」
 ほんのり、ヒナタの頬に朱が差す。
「へぇ、そんな機能はあるのな。表情もつけりゃいいのに」
「機能……? 何の事か、ヒナタには理解不能です。マスターの伝達能力は赤子未満と断言します」
「断言すなっ! 頬が赤くなる機能があるんだなって言ってんだよ」
「そんな機能、ヒナタには搭載しておりません。脳の障害により、マスターにはそう見えているだけと判断します」
「イチイチ人を障害者扱いすなっ! 実際赤いんだよ、おまえのほっぺ」
 そう言いながら、ヒナタのほっぺをつんつんする。やーらかい。
「ひゃっ」
 ヒナタの口からやけに甲高い、似つかわしくない可愛らしい声が飛び出した。
「……ひゃっ?」
「気のせいです。ヒナタはそんなこと言ってません。マスターの耳はヒナタのドリル耳掃除により粉砕され、正常に機能していないと思われます」
「なんだよドリル耳掃除って! 掃除成功したんだろーが! 粉砕されてたら聞こえてねーっての!」
「うるさいです。細かい事を気にする男は女性にもてないと思うヒナタです。……もっとも、マスターはそんなものに関係なく、女性と縁がなさそうですが」
「貴様、俺の秘密どこで知った!?」
「……マスターの仮定情報を確定情報に変更。想像通り、マスターは女性に縁がない。記録。完了」
 俺の悲しい個人情報がヒナタに記録されてしまった。
「ああもう知らんっ! 俺は部屋で寝る!」
「不許可。マスターはまだヒナタへのなでなでが完了しておりません」
「ここまで馬鹿にされてするかっ!」
「マスターの狭量さを垣間見たヒナタですが、それはそれです。一度なでなですると言った以上、何が何でもなでなでしてもらいます」
 ここにすれ、と頭を差し出される。まったく、誰がするか!
「しないと、睡眠中に言った寝言を再生します」
「え……なに、俺なんか変なこと言ったの?」
「…………」
「なんか言えよう! 怖いじゃんか!」
「…………」
「分かった、分かったよ! なでりゃーいいんだろ、なでりゃ!」
 半ばヤケクソ気味に、ヒナタの頭をなでる。
「もっと優しくしないと、再生します」
 脅迫を受けたので、泣く泣く優しく頭をなでる。
「……あー、いい感じです。マスターは何をやってもダメな超ダメ人間ですが、なでなでが上手なので嫌いじゃないです」
「いや、他にも多少は取り得あると思うが。さすがになでなでだけじゃないだろ」
「ぐだぐだ言ってる暇があれば、もっと愛情を込めてなでるべきだと提案するヒナタです」
「もうしんどい」
「あと20時間頑張ってください」
「長い! 長すぎる!」
「やれやれ、マスターはひ弱ですね。根性なしなマスターなので、20分くらいで我慢します」
 目を閉じてなでなでを受ける無表情なロボを撫で続ける俺、という奇妙な構図のまま、数十分過ごす。
「おい、もういいだろ? 充分に労わったと思うが」
「……にゅ~」
 ヒナタの口から間延びした、似つかわしくない可愛らしい声が飛び出した。
「にゅー?」
「……にゅ~」
 いかん、なですぎてヒナタがおかしくなった! なんか口がωな感じになってるし!
「まあいっか、可愛いし」
「……にゅ~」
 にゅーにゅー鳴き続けるヒナタをしばらく眺めてた。程なくしてから元に戻ったヒナタにそのことを伝えると、
「超気のせいです。ヒナタはそのような言語扱いません。記憶から抹消してください。忘れないと抹殺します」
 と、真っ赤になりながら脅迫してきた。怖かったけど、ちょっと可愛かった。

拍手[17回]

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