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2024年04月23日
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【アンドロイドがやってきた】

2010年03月08日
 叔父さんがロボットを開発したらしく、テストケースとしてそのロボを預かってる。てっきりTo Heartのはわわロボットみたいなのがくると思ったのだけど、実際にやってきたのは、お堅い感じのロボットだった。
「HTR-017、汎用人型ロボット、通称ヒナタです。以後よろしくお願いします、マスター」
 ニコリともせず頭を下げる、一見人間みたいなロボ。
「あー……マルチでなく、セリオみたいなのか。残念だが、まぁよしとしよう」
「所長の命なので、世話してやります。感謝しまくるがいいとヒナタは思います」
「……え、えと? おかしいな、ロボットのくせになんかやけに偉ぶってるような、そんな不思議幻聴が」
「幻聴ではないとヒナタは答えます。それと同時に、マスターは常々幻聴が聞こえる頭がおかしい人と記録します」
「やめて記録やめて! おかしい人じゃないです! 普段は幻聴とかしない!」
「疑わしいものですが、どうしてもと土下座されたので記録を解消する心優しいヒナタに感謝するがいいと思うヒナタです」
「土下座なんてしてねぇ!」
「すればいいと思うヒナタです」
「なんで!?」
「どっちが上か最初にはっきりさせておく方がいいと思うヒナタなのです」
 こいつの思考回路作ったの誰だ。
「じゃあ、今日からしばらくよろしくと言っておくヒナタです」
「帰って欲しいと思うタカシです」
「……ハッ。パクリ」(ぼそっ)
「笑った! いま鼻で笑ったよ!? あと小声でパクリとか言った!」
「気のせいだと断言するヒナタです。ヒナタには感情を表現する機能はついておりません」
 あー、だからさっきからずっと無表情だったのか。
「ですので、心の中で密かにマスターの事を小馬鹿にしていたとしても顔に出ないので、とても有益だと考えるヒナタです」
「お願い、帰ってください」
「ヒナタの部屋はどこにしましょうか。……お、ここは広くていいです。ここに決定します。決定」
 勝手に家に上がり込み勝手に自分の住処を決定する勝手なロボ。
「あー……美味しい電気です。デリシャスと言っていいです」
 しかもどこから出したか知らないが、自分の体から出てるコンセントを勝手に差し込むロボ。
「待て。電気代とか、すごいことになってるんじゃないか?」
「……こんな美少女がやってくるのです。小さなことを気にするのは器が小さいことが露呈するので、やめた方がいいと思うヒナタです」
「む、確かに! ……いやいやいや! 器小さいとかどうでもよくて! 金だよ金! マネー!」
「脅迫を受けました。初体験です。記録。完了。法廷で勝つ自信はかなりのものと自負するヒナタです」
 誰か助けてください。

 そんな毎日を送りつつも、人間とは慣れるもので、なんとかこの勝手なのと共存してます。
「マスター、朝なので起きる方がよいと判断するヒナタです。我ながら好判断です」
「ぐごーぐごー」
「あと1秒で起きないと、人間が耐え得ると言われているギリギリの量の電流を流します」
「起きた!」
「……ちっ」
「ちって言った! 絶対言った!」
「気のせいです」
 ヒナタと暮らしてから目覚めはよくなったが、睡眠がとても浅くなりました。
「朝食を作りました。早く食べないと冷めるので、一刻も早く食卓に着く方がいいと提言するヒナタです」
「めしー? お前のことだから、ボルトとかナットとかそんなオチだろ?」
「記録。完了。次回からそうします」
「やめてお願いごめんなさい俺が悪かったです」
「愚かなマスターをサポートするのも優れたアンドロイドの務めですので、気にしないように言う心優しいヒナタです」
 こいつ嫌い。

「ふああ……おお、ちゃんとしたメシだ! グゥレイト!」
 アクビを噛み殺しながら台所へ行くと、そこにはほかほかと湯気を立てる食事が並んでいた。
「グゥレイト……ディアッカ・エルスマンの名セリフ。マスターはエルスマンフェチと記録。完了」
「違うやめてエルスマンフェチ違う! つーか種ガンダムはスパロボで手に入れた知識ぐらいしかないです!」
「スパロボにヒナタが入ってないことに義憤を抱く、とマスターは言うのですね」
「言わねえよっ!」
 こんな性悪ロボット入ってるわけない。
「こんな愛らしい女性型アンドロイドがスパロボに出ない事に不満を抱かないなんて……マスターはホモに違いないとヒナタの高性能頭脳は結論づけます」
「ホモじゃねえ! むしろロリ! 最近ショタも可!」
「マスターの異常性癖の話題にまったく興味を抱けないヒナタですが、相槌打ち機能を働かせて聞いているフリを行います。ほうほうほう」
 馬鹿にされてる。絶対馬鹿にされてる。
「……ところで、ロリということは、体に凹凸の少ない女性に淫らな感情を呼び起こされる劣等種のことですよね」
「おまえ、仮にも主人に対し劣等種とか……ああ、そういやお前の体も凹凸が実に少ないな。ぺたぺたぺたの超々貧乳かと。まぁ、大喜びですが!」
「敵性因子発見。撲殺の許可を」
「それ俺のことだろ! 不許可! お前もご主人様が喜んでるんだから、自らのナイチチを喜べ」
「敵性因子発見。撲殺の後、焼却の許可を」
「だからダメだっつーの! なんですぐ殺そうとするか!」
「……ちっ」
「また! またちって言った!」
「気のせいです。それより、早く食べて感想を言うがいいと思うヒナタです」
「はぁ……ま、いいや。じゃ、いただきまーす」
 まずは玉子焼きをぱくり。ん、んー……生焼けだな。まぁ、食えないことはないが。
「ま、最初だとこんなもんだな」
「あまりの美味に本当は大絶賛したいが、器の小ささに邪魔をされ、素直に言えないのですね。やれやれ、困ったマスターです」
「すごい解釈ですね。つーか器小さい言うな」
 続いてみそ汁をごくり。……んーむ、濃い。すげー濃い。まぁ、食えないことはないが、お湯足そう。
「ポットの湯をみそ汁に。……つまり、マスターは白湯が大好物、と。記録。完了」
「違う! そんな可哀想な子じゃないっ! 濃かったの!」
「健康のために薄味を好む、とマスターは言うのですね」
 なんでこうも自分に都合よく解釈できるのか。ある意味尊敬する。
「今後は、ひょっとしたらこれは無味の料理ではないだろうかと万人が首を傾げる料理を創造しようと思うヒナタです」
「首を傾げるような料理を目指すなっ! 普通の作れ!」
「マスターはとてもわがままですが、それを受け入れる度量のあるヒナタに感謝するといいです。普通のアンドロイドだと、マスターは既に7回は殺されている計算です」
 その計算式たぶん間違ってる。
「……しかし、おかしいです。ヒナタの計算では、既に褒められているはずなのですが……やはり、マスターは一筋縄ではいかないようです」
「ん? なんだ、褒められたいのか?」
「そんなことはまったく考えていない、と宣言するヒナタです。ですが、マスターのどうしても褒めたい欲をふいにするほどダメアンドロイドではないので、我慢して褒められます」
 なんで普通に言えないかねぇ、と思いながらご飯をぱくり。
「ん、これは普通にうまいぞ。まぁ、炊飯器があれば誰でもできるけど」
「そんなことはないです。ご飯を炊くまでの艱難辛苦、マスターにも見せてやりたいと思うヒナタです。なのに、“誰でもできる”などとのたまう冷たいマスターは、地獄に落ちる確率が100%を越しました」
 勝手にそんなの計るな。つーか地獄とか信じてるのか、機械。
「あー分かった分かった。味はともかく、俺のためにメシ作ってくれてありがとな、ヒナタ」
 感謝の意を込めて、ヒナタの頭をなでる。
「……ひ、ヒナタは高性能アンドロイドなので、これくらい当然のことです。感謝されるほどのことじゃないです」
 ん? 自分から言ってたくせに……こいつ、ひょっとして褒められるの苦手か? 実験、実験!
「いや、ヒナタが来てくれてホント助かった。ヒナタがいなかったら、どうなってたか……」
「そ、その思考は当然の帰結かと思いますが、思ってもそういう事はあまり言うべきじゃないです。その、ヒナタは、そういう事を言われる経験が欠如しているので、その、……反応に困ります」
 うおお、あの鉄面皮が狼狽してる! これは初の光景だぞ。記録してえ。
「……と、ところで、褒められるのは覚悟してましたが、その、……頭なでなでは想像の外でして、……いや、それが嫌悪に属するかと言われたら否と答えるしかないのですが、その、なでなでは……」
「……可愛い、可愛いぞヒナタ!」
 ちょっと感極まって、ヒナタをむぎゅーっと抱きしめる。
「!!!!!」
 え、あれ、顔赤く……?
「はぎゅっ!?」
 顔をぎゅっと押され、壁まで吹き飛んだ。改めてヒナタを見ても、いつもの無表情。
 さっきのあの照れた顔は、気のせいか……?
「セクハラを受けました。記録。完了」
「セクハラ違うっ! ちょっとぎゅってしただけ!」
「立派なセクハラです。女性の敵とヒナタは認識します。去勢の許可を」
「不許可に決まってんだろうがっ!」
「ちっ……」
「言った! ちって! 絶対!」
「マスターにはやはり幻聴の気があると断定するヒナタです」
 やっぱこいつ嫌い。可愛いと思ったの気の迷い。決定。
「ところで、ヒナタの料理に歓喜の涙を流すのもとてもとても理解できますが、マスター。そろそろ登校しないと遅刻する危険性があると知らせるヒナタです」
 ヒナタの指摘に時計を見ると、全力で走ってギリギリ間に合うかどうかって時間ですよ。
「もっと早く知らせろ、このポンコツッ!」
「む、聞き捨てならない捨て台詞です。憤慨のあまり惨殺死体を作成しかねない勢いです。謝罪を要求するヒナタです」
「うっせーばーかばーか! いってきまーす!」
「いってらっしゃいと言いつつ、惨殺死体になりたくなければ学校でヒナタに謝る台詞を練習する事を推奨するヒナタです」
 恐ろしい事を言いながら無表情に手を振るヒナタに見送られ、全力で学校に向かう俺だった。

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