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2017年09月24日
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【音々 空腹】

2010年01月30日
 部屋で横になり、漫画を読んでたら腹が鳴った。これは俺の内臓が空腹を訴えていると判断したので、何か食おうかなと思ったら、見覚えのある顔が部屋に飛び込んできた。
「ぬし様! ちっとも遊びに来ないから、わらわの方から遊びに来たのじゃ!」
 そう言って俺の寝そべるベッドに飛び乗ってきたのは、自称許婚の音々だ。音々は猫のように俺にほお擦りすると、ぎゅっと抱きついた。
「の、ぬし様。遊びに来たわらわを褒めるかの? 甲斐甲斐しいわらわを褒めるかの? 通い妻っぽくて素敵なわらわを褒めるかの?」
「褒めたいけど、あと数秒で餓死するから褒める余裕がないんだ」
「ぬし様が餓死で即死する!? ……ぬ?」
 いかん、相手するのが面倒だから適当ぶっこいたのがばれる!
「音々……好き……だった……ぞ……」
 そこで、餓死したフリをして、ばたりと倒れる。
「ぬし様!? 駄目じゃ、わらわを残して死んではならぬぞ! そ、そうじゃ、今すぐ何か作ってくるから、それまで待っておるのじゃ! よいか、死んではならぬぞ!」
 そう言い残し、音々は部屋を飛び出ていった。よし、これで何か食物が手に入る。恐ろしい……冴え渡りすぎる己の頭脳が恐ろしい!
 そんなわけで待ってるんだけど、いつまで経っても戻ってこない。何かの拍子で家に異次元のホールが発生し、その穴に飲み込まれたと思い込んだので様子を見に行く。
「ぬー! またじゃ、また黒焦げじゃ! なんでじゃー!」
 台所で、音々が頭を抱えて絶叫していた。料理はあまり得意ではない様子。しょうがない、手助けしてやろう。
「おいすー」
「ぬ、ぬし様!? 動いて大丈夫なのかえ? 餓死で即死してないかえ?」
「実はもう死んだ後なんだ。生きてるように見えるけど、霊魂なんだ」
「ぬし様がぁぁぁぁぁ!!!!!」
 このお嬢様は箱入りだかなんだか知らないが、俺の言うことは割となんでも信じるので大変楽しい。
「……遅かったのじゃ。もう駄目じゃ。……ぬし様、わらわもすぐそちらへ行くから、寂しくないぞ?」
「待って嘘嘘です超生きてます!」
 薄い笑みを浮かべて包丁なんて持ち出したので、慌てて本当のことを教える。
「……ぬし様は優しいから、そんな方便をつくのじゃろ? ……大丈夫じゃ。死ぬことより、ぬし様のいない世界で生きていく方が、わらわは辛い」
「だから、生きてるっつーの! ほら!」
 ぐいっ、と音々の手を引っ張って俺の心臓あたりにつける。
「? ……!!! ぬ、ぬし様! 心臓の音が! 鼓動が聞こえるのじゃ!」
「だから、言っただろーが。生きてるっつーの!」
「ま、まったく。わらわを騙すなど、酷いぬし様じゃ。……でも大好きじゃー!」
 喜色満面で飛び込んできた音々をさらりとかわす。
「なんでかわすのじゃ、ぬし様! わらわを優しく抱き留めるのが、ぬし様の仕事じゃろうが!」
「包丁持った奴を抱き留められるほど胆力ありません」
「ぬ? ……まあ、小さいことなのじゃ♪」
 この女怖え。
「それよりぬし様、この卵がすぐ焦げるのじゃ。少し待ってて欲しいのじゃ、今すぐうちのコックを呼ぶのじゃ」
「音々の作るのが食べたかったが……まあいいか」
 俺の言葉を聞いた途端、音々は持っていた携帯を投げ捨てて俺を見た。いかん。
「ぬし様の望み、しかと聞いたのじゃ! 絶対にわらわがおいしい玉子焼きを作るから、待っててほしいのじゃ!」
「……音々の心意気、俺の脳髄に響いたゼ! 分かった、音々が作るのか先か、俺が餓死するのが先か、勝負だ!」
「そんな勝負はしてないのじゃ! 普通に待ってて欲しいのじゃ!」
「分かった。普通とか超得意」
「…………」
 まるで信じていない視線を俺に注いだ後、音々は料理を再開した。
「あ、そだ。お前料理苦手だろ? ちょっと教えてやるよ」
「結構じゃ。炊事洗濯は妻の仕事なのじゃ。わらわの仕事を取ってはいかんぞ、ぬし様?」
「まず妻じゃないし、仮に妻だとしてもそんな時代錯誤なことを押し付けるつもりもないが……」
「うるさいのじゃ! これはわらわの仕事なのふぎゃー!?」
 別に音々が発狂したのではなく、フライパンに引いた油に火が引火してびっくりしただけのようです。
「キャンプファイアーのようで綺麗ですね」
「火じゃ、火がついたのじゃー! ぬし様の家が丸焼けになるのじゃー! 家を無くしたぬし様は、わらわの家で同棲することに……悪くないの」
 黙ってフライパンに蓋をして鎮火する。
「ああっ! 何をするのじゃ、ぬし様!」
「……一緒に頑張りましょう」
 なんだか色々疲れたので、それだけ何とか言いました。

「できたのじゃ! 見よぬし様、こーんな上手にできたのじゃ!」
「ごあー!」
「ぬし様が壊れた!?」
 別に壊れたのではなく、台所の惨状に目を背けたくなっただけです。数十個の卵の殻も、うずたかく積まれたフライパンも、床にこぼれた卵も、掃除するの全部俺。
「……まあいいや。上手に出来たな、音々」
「全部ぬし様のおかげなのじゃ! やっぱりぬし様は素敵なのじゃ! わらわの夫に相応しいのじゃ!」
「そんなこと言いだしたら、料理学校の教師に嫁入り行く羽目になるぞ」
「ぬし様、わらわの愛情たっぷりな手料理食べて欲しいのじゃ。あーん、なのじゃ」
 俺の話なんてちっとも聞かずに、音々は熱々の玉子焼きを箸で小さく切り、俺に向けた。
「あー」
「はい、なのじゃ。どうじゃ? うまいか?」
「もぐもぐもぐ。おいしい」
「……ほ、本当かの? わらわに気を使って、嘘を言ってないかの?」
「いや、本当においしいって。頑張ったな、音々」
 労りと感謝を込め、音々の頭をなでる。
「……ぬし様、ぬし様ぁぁぁぁぁ!!!」
「へぐっ」
 突然音々が俺にダイビングヘッドバットをしてきたので大変痛い!
「ううううう~、わらわ、ぬし様の許婚でよかったのじゃー! すっごくすっごく嬉しいのじゃー!」
「俺は割と辛い」
「ぬし様? ……ああっ、ぬし様が鼻血を出しておる! わらわの料理を作る姿に興奮したのかの?」
「貴方の頭が僕の鼻に激突したんです」
「な、なんじゃとぉ!? ……こうなっては、死んでお詫びをーっ!」
「ひぃぃぃぃっ!?」
 包丁片手に狂乱する許婚を必死で説得しました。怖かったです。

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