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2024年04月24日
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【男の匂いが大好きなツンデレ】

2010年01月31日
 何の約束もしてないのにいきなり人の部屋に上がりこんできて、あまつさえ茶を持て愚民とかいうたわけた奴だーれだ?
「答え:まつり」
「ひゃー! ひっはふは、ははー!」
 まつりのほっぺを引っ張って溜飲を下げてから、とりあえず何の用か訊ねる。
「ううう……わらわのほっぺを引っ張るとは何事じゃ、この大莫迦者め!」
「もう一度引っ張りましょうか」
「暇じゃから遊びに来てやったのじゃ、喜べうつけ者!」
 手をわきわきさせながら近寄ると、まつりは早口に用件を告げた。
「ふん、最初っからそう言えば痛い目に遭わなかったものを」
「かんっぺきに悪人の台詞じゃの。まあ、元々悪人じゃから問題ないがの。にゃはははあぅーっ!」
 最後にあぅあぅ語になったのは、まつりのほっぺが僕に引っ張られているからです。
「うー……すぐに暴力を振るいおって。覚えておれ、いつか絶対に復讐してやるからの」
「何か言う時はもっと近くに来てもらわないと聞こえません」
 俺の攻撃範囲から逃れるためか、まつりはベッドと壁の隙間にちょこんと座り込み、何かぶつぶつ言っていた。
「なんでもないわい! それより、早く茶を持て。わらわはのどが渇いた」
「偉そうな……まあいいや、淹れてやるよ」
「高級な茶じゃないと駄目じゃぞ?」
「分かった、高級な茶に混入する」
「何を!? ていうか何も入れるな、愚か者!」
「…………」
「な、何か言え、言わぬか! わ、わらわを怯えさせるなど百年早いのじゃ! じゃから早く何か言うのじゃ!」
 暗い笑みを残して、部屋を出て行く。まあ、高級ではないけど、茶くらい普通に出してやるか。
 茶葉を急須に入れ、そこにポットから湯を入れ……ようと思ったが、沸いてない。
 しょうがないのでヤカンで沸かし、それを湯飲みに注ぐ。ちょい時間がかかったが、完成したのでもよんもよんしながら戻る。
 ノブを掴んだ時、ふと部屋の中から奇妙な声が聞こえてきた。少しだけドアを開き、中を覗き見る。
「…………」
 ベッドの上に座り、まつりは熱い視線を俺が脱ぎ散らかしていたカッターシャツに注いでいた。
「……全然帰ってこんし、大丈夫じゃ……の?」
 何の話だと思っていたら、まつりは意を決した表情でシャツを手に取った。
「んー♪」
 そして、おもむろに顔に押し付けるではないか。人のシャツを顔に押し付けているではないか。嬉しそうな声を響かせベッドをごろんごろん転がってるではないか。
「んー、んぅー、んー♪」
 それだけで飽き足らないのか、まつりはシャツを咥えてふんふん振り回した。犬?
 中々に愉快な絵ではあるが、こんな様子を見られたとあってはまつりも耐えられないだろう。音を立てないようそーっと台所に戻ろうとした第一歩目で、廊下がみしりと音を立てた。
 その瞬間、部屋の中からどすんばたんどでんという愉快なのか愉快でないのか分からない音が響いた。そして、それきり何の音もしなくなった。完全にばれた。
 ……いつまでもここでこうしていても仕方ない。意を決して部屋に入る。
「や、やあまつり。こんなところで会えるだなんて、運命だと思わないかい?」
「……覗いてたじゃろ」
 まつりはベッドと壁の間に座り込み、顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。
「な、何のことか俺には皆目」
「わらわが貴様のシャツをくんくんしてるの見てたんじゃろっ!」
 隣近所にまで響かんばかりの大声で叫ぶまつり嬢。色々勘弁して。
「い、いやぁ、どうだったかな? はっはっは」
「う~……こ、これでわらわの優位に立ったつもりか! こ、この程度でわらわの牙城が崩れると思うたか、この痴れ者が!」
 む。人が折角気づかないフリをしてやってるというのに、なんだこの態度。それならそれで、こっちにも考えがある。
「はうわっ!?」
 先ほどまつりがふんがふんがしていたシャツを手に取り、ふんが部に顔をつける。
「やっ、やめぬか、この大莫迦者! 離せ、離せーっ!」
「や、俺のシャツだし。ただ、どういうわけかまつりの匂いがしますね。はっはっは」
「笑うな、阿呆! ……そ、そっちがそういうつもりなら……」
 そう言うと、まつりはふんがシャツを引っ張った。
「これと貴様を始末すれば、最早わらわを脅かすものは存在せぬ! 潔く露と消えい!」
「超嫌です」
 まつりがぐぃーっと引っ張り、俺もぐぃーっと引っ張る。互いの力でシャツがぴーんと引き伸ばされており、今にも千切れそうだ。あ、千切れた。
「ふぎゃーっ!?」
 千切れるのを予期していた俺はともかく、全力で引っ張っていたまつりは千切れたシャツを持ったままぐりんぐりん後方回転し、やがて壁に激突するとその動きを止めた。
「死んだ? もし死んでたら埋めるので、そのように言って」
「……し、死んでないわいっ! 埋めるなっ!」
 ゾンビみたいな動きで起き上がると、まつりはその手にシャツがあることに気づいた。
「……くくく。これさえ処分すれば、あとは貴様だけじゃ」
「いや、ここにもあるし」
 そう言って、千切れたシャツを見せる。ちょうど真ん中あたりで千切れており、ふんが部が二つに分かれた形になっている。
「よ、よこせ阿呆! これはわらわが処分する!」
「『これで家でもふんがふんがし放題で、らっきーにゃ♪』って言ったら譲る」
「だっ、だだだだだ誰がそんなことするか、あ、阿呆!」
 ものすごく動揺しているように見えるのは、僕の気のせいでしょうか。
「……あー、まあいいや。破れちまったし、やるよ」
「本当かっ!? ……あ、いや、別に欲しいとかじゃないんじゃぞ? 処分するだけじゃぞ?」
「じゃあこっちで捨ててもいいけど」
「わらわに任せよっ!」
 素早く俺の手からシャツを奪うと、まつりは後ろを向いた。
「……これで、家で嗅ぎ放題じゃ」
「独り言は聞こえないようにお願いします」
「おっ、乙女の独り言を聞くなっ、阿呆!」
 殴りかかってきたまつりをさらりとかわし、そのまま脇固めへと移行。
「ふぎゃー! 痛い痛い痛いのじゃー! 乙女にする技じゃないのじゃー!」
「まるで恋人同士がじゃれあっているようで素敵だね」
「恋人にプロレス技をする奴がおるか、阿呆ーっ! 痛い痛い痛いっ、ぎぶあっぷ、ぎぶあっぷじゃー!」
 必死に俺の腕をタップするまつりだった。

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