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2024年05月03日
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【ツンデレにお困りの事ありませんか?って聞いたら】

2010年03月06日
 まつりが人の弁当を勝手に食うので困っているというのに、こちらが逆に聞けと言うのか。なんというvolunteer精神! 気に入った、言ってやる!
「まつり、何か困ったことあるか?」
「むしゃむしゃ……む? そうじゃのう。この量では到底足りんということくらいじゃの」
「なるほど、人の弁当を勝手に食うだけに飽き足らず、さらに献上しろと言うのだな」
「そうじゃ。ほれ、早う購買に行って何か買ってくるのじゃ」
 弁当をむっしむっし食ってるまつりの小柄な身体を背中から抱き上げる。
「む?」
 そして、おもむろにジャーマンスープレックス!
「ふん、ワシにそのような見せ技が通用するものぎゃあ!?」
 のんびり解説してたせいで成功した。ただ、まつりの身長が俺よりかなり小さかったため、俺の頭部にも均等に多大なるダメージがあり超泣きそう。
「ううう……何をするんじゃ、この莫迦者めが!」
「俺だって超痛いんだし、許せばいいんじゃないだろうか」
「知るか! うう……頭が痛いのじゃ」
 まつりは涙目になりながら両手で頭を押さえている。その姿に、少しだけ罪悪感を感じる。
「あー、まあ、いくら勝手に飯を食われたとはいえ女性にジャーマンをかますのはよくないよね。ごめんな」(なでなで)
 まつりの手の上から頭をなでる。
「む……そ、その通りじゃ。まったく、貴様は考えが足らなさ過ぎる。ちょっとはワシを見習え、愚か者」
「まつりを見習うと、世界中の食物をその手中に収めなければならなくなり、結果世界征服を目指すことになる。それは大変に面倒くさいので見習いたくない」
「ワシはそんな食いしん坊じゃないわい!」
「飯粒をつけておいて、よくもまあいけしゃあしゃあと」
 ほっぺについてたご飯粒をひょいぱく。
「む……き、貴様、そ、そういうことを普通の顔をしてするな!」
 まつりはほんのり頬を朱に染めながら、腕組みして俺を睨んだ。
「あ、ごめん。次があるなら超嫌そうな顔をしてやるよ」
「明らかに頭がおかしいのじゃ!」
「さっき頭ぶつけたからおかしくなったのやも」
「昔からおかしいわいっ!」
 とても失礼なことを言う奴め。ほっぺ引っ張ってやれ。
「むぎゅーっ! 何をするのじゃっ!」
 怒られた。そりゃそうだ。
「それより、さっきの貴様の言い分じゃワシだっておかしくなってるのじゃ。さっき貴様にいきなりじゃーまんをされたからの」
「いや、それはだってお前が人の弁当を食うから罰を与えたまでで」
「うるさいのじゃ! ぬう、思い出したらどんどん腹が立ってきたのじゃ! ふふ……こうなったらこれから毎日貴様の弁当を食い尽くしてやるのじゃ!」
「それは大変にいけない! なぜなら毎日食われると毎日俺のお腹が空くから!」
「……どうして貴様は普通に喋れんのかのう?」
 真顔で聞くな。
「ま、まあよい。それが嫌なら、今すぐワシの頭の痛みを取るのじゃ!」
「…………」
「な、なんじゃ、その目は。べ、別に他意なんてないのじゃっ!」
「……あー、うん。そうな。ええと、一応訊ねますが、頭をなでたら多少は痛み取れますか?」
「うんっ!」(満面の笑み)
「…………」
「だから、何なのじゃその目はっ!?」
「いやいや、なんでもないよ。じゃあやりますが、よろしいか?」
「うむ、苦しゅうない。やるがよい」
 偉そうなので予定変更、アイアンクロー開始。わっしとまつりの頭をわしづかみし、万力開始。
「む? ……みぎゃあああっ!? 予想だにしていなかった痛みがワシの頭部を襲っておる!?」
「冷静だなコイツ」
「痛い痛い痛いーっ! うぬれ貴様あとで覚えておれよっ、絶対泣かしてやるのじゃ!」
「ふふん、お前にそんなことができるかな? あ、ちなみに俺の弱点はほっぺにちゅーされることだ。おっと、いけないいけない。つい言ってしまった。これではまつりにちゅーされてしまう」
「絶対に嘘なのじゃーっ!」
「ちゅーしてくれたらアイアンクロー解除する予感」
「脅迫っていうのじゃコレ!」
 結局、まつりは脅迫に屈した。
「……ちゅ。しっ、したぞっ! ほれ、早く泣くのじゃ! うえーんって!」
「うへへぇ」
「にへにへするだけでちっとも泣かないのじゃ! うえーん!」
 お前が泣いてどうする。と思いながら、まつりの頭をなでなでする俺だった。

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【弁当を忘れたツンデレ】

2010年02月23日
 お昼休みになったので弁当をぱくついてたら、自称亡国の姫のまつりが視界に入った。何やら鞄をひっくり返しているようだが、一体どうしたのだろう。あ、こっち来た。
「そこな貧相な男。特別にわらわがおぬしのちっぽけで安っぽい弁当を食ってやろう。寄こにゃっ!」
 居丈高にそんなこと言って来たので、玉子焼きを咥えたままデコピンしてやったら猫っぽくなった。
「な、何をするのじゃ!」
「もぐもぐ……失礼な輩にやる飯はない」
「な、なんじゃと! 特別にわらわがおぬしの臭くて中国産の野菜たっぷりの超危険な弁当を食ってやろうと言ってやっておるのに、失礼とはなんにゃっ!」
 再びデコピンしたらまた猫っぽくなった。痛かったのか、まつりはおでこを押さえている。
「うぐぐ……き、貴様! わらわの珠のような肌に傷がついたらどうするのじゃ!」
「タマのような肌? タマ……ああ、猫か。まつりだしなあ」
「猫じゃないわいっ! タマ違いじゃ、珠じゃ、珠! ほら、真珠とかを表すときに使う方の珠!」
「どうでもいい」
 断言してポテトをぱくり。冷えててパサパサだけどおいしい。
「どうでもいいとは……そ、それより、あまり食ってはならんぞ? わらわが食う分がなくなるではないか」
 弁当の減る量に危惧の念を抱いたのか、まつりはそんな勝手なことを言った。
「まつりは俺みたいな庶民飯を食べたりする人種じゃないから問題ない」
「……じ、実はのう。わらわ、弁当を忘れたようなのじゃ。だ、だから、特別に献上を許すぞ?」
「いや、まつり様にこんな貧相な弁当を献上だなんて、恐れ多くてとてもとても」
 見せ付けるようにご飯をぱくぱく。まつりは羨ましそうな、悔しそうな表情で俺を睨んだ。
「ぐぎぎ……そ、そんな畏まる必要はないぞよ? 庶民の飯を食うのも姫としての勉強じゃからのう」
 ……うーん、確かに飯抜きだとこの後辛いだろうしなあ。ぼちぼちいじめるのやめようかな。
「ま、いーや。半分くらい食っちまったけど、残りやるよ」
「おおっ、そうか! 褒美として、わらわに仕える事を許してやろう。おぬしのような下賎な輩には身に余る光栄であろう?」
 偉そうなので顔面にアイアンクローしてやる。
「痛い痛い痛いのじゃ! 許してたもれ! 言い過ぎましたごめんなさいわらわが悪かったです! わらわが仕えますから手離してお願いします!」
 満足したので手を離してやる。まつりは痛そうに顔をさすった。
「うぐぐ……おのれ別府タカシ、許すまじ」
「主君に対しその態度はなんだ」
「そんな口約束守るわけないじゃろうが、ばーか! 誰がおぬしのような阿呆に仕えるものか!」
「…………」(無言で手をわきわき)
「お、怒るでないぞ? 姫とはわがままなものなのじゃ。わらわは姫なのじゃから、怒ってはならぬぞ?」
「…………」(にっこり笑顔)
「……よ、よかったのじゃ。分かってくれて嬉しいのにゃああああ!?」
 再びアイアンクロー発動。苦痛にもがいているが、逃れる力より俺の握力の方が強いので逃れられないようだ。
「痛い痛いごめんなさいわらわが悪かったです! やめてくださいご主人様このお仕置きすっごく辛いんです!」
 再び満足したので手を離してやる。まつりは悔しそうに俺を睨んだ。
「くっ……よくもわらわを手篭めに。許さん、許さんぞよ、別府タカシ! いつか必ずこの恨み晴らしてくれようぞ!」
「恨まれてる相手に弁当やるの嫌だなあ」
「……わ、わらわは心が広いので、恨んだりはしないぞよ? じゃから、弁当をよこすのじゃ」
「『ご主人様のたくましくて黒光りしてるものください』と悩ましく言ったらやる」
 たくましく黒光りする海苔弁当片手にして、何を言ってるのだろう、俺は。
「だっ、誰が言うか、阿呆!」
 案の定、まつりは顔を真っ赤にして断った。
「じゃああげない」
「お……おぬしはいじわるなうえ、えっちなのじゃ! もー最悪なのじゃ! いいから早くわらわに弁当をよこすのじゃ! 早くせぬと、チャイムが鳴ってしまうではないか!」
「はっはっは、何を言うのやら。まだまだチャイムが鳴るのは先かと」
 俺の台詞がチャイムに遮られた。
「ほれ見たことか! もー食べる時間ないのじゃ! おぬしがわらわをいじめるからなのじゃ! 責任を取れ、別府タカシ!」
「しょうがないな……で、式はいつにする?」
「誰も結婚しろとは言ってないのじゃあ!」
 教室に響くほどの大声で叫ぶまつりだった。

 その後の5時間目、まつりは隠れて俺のやった弁当を食っていたが、先生に見つかり怒られてた。
「怒られたではないか! どうしてくれる、別府タカシ!」
「『ご主人様のたくましくて黒光りしてるものから出る白濁としたものをください』と悩ましく言ったら謝ってやる」
「言うわけないのじゃっ! そも、もう弁当は食ってしまったのじゃ! というか、もうそれは何か別物なのじゃ!」
「いや、この場合は想像通りのものを指す」
「こやつ、ただの変態じゃっ!」
 半泣きで叫ぶまつりだった。

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【ツンデレとバレンタイン】

2010年02月23日
 明日はバレンタインだ。まつりは自称亡国の姫だが、実際は猫なので何の日か知るまい。優しい俺が教えてやろう。
「まつり、明日はバレンタインだぞ」
「いかにわらわがやんごとなき身分とはいえ、それくらい知っとるわい。馬鹿にするでない」
「いや、まつりは猫なので詳しくは知らないだろ? バレンタインってのは」
「猫じゃないわい! 姫じゃ! どうして貴様はわらわを猫扱いするか!」
「恋を煩う女子が想いを込めたチョコレイトを渡す日だ。菓子会社の笑いが止まらない日でもある」
「わらわの話を聞けッ!」
 なんか怒られた。
「そんなわけで、俺はまつりをとても大好きなので、チョコをくれるととても嬉しい」
「んなっ……そ、そういうことを真顔で言うな、たわけッ!」
「チョコくれたらまたたびあげるから」
「だから猫ではないと言ってるであろう、たわけっ!」
 なんか怒られた。悔しいので頭なでてやれ。
「なっ、何をするか……にゃにゃにゃにゃにゃ、にゃふー」
「猫だ」
「猫じゃないと言っておるじゃろうがあっ!」
 ものすごく怒られた。

「ちょこれいと、か。……ふん。まったく、あいつは」
 学校から帰宅後、そう独りごちながら台所に入る。
「じい、用意は?」
「全て完了しております」
 お辞儀しながら、じいは手を横にした。その先には、チョコを作るための材料が全て揃っていた。
「ふむ、完璧じゃ。ご苦労じゃったな、じい」
「もったいないお言葉。しかし姫様、なにも姫様自ら作らずとも、我らに言ってくださればすぐに作らせていただきますが」
「よいのじゃ。……そ、その、わらわが作りたいのじゃ」
「……まさか、あのタカシとかいう俗物に渡すつもりじゃないでしょうな?」
「ちちちっ、違うのじゃ! わらわはタカシなんてなんとも思ってないのじゃ! こ……これは、えっと、……じいに渡すつもりなのじゃ!」
 とっさの言い訳に、じいは目を見開いた。……ば、ばれたかの?
「くぅぅっ……このじい、姫様の心遣いに感涙ですっ!」
 ばれたのではなく、感動していたようだ。こうなっては、じいの分も作らなければいけない。……面倒じゃの。
「そういうことなら姫様、頑張ってくださいませ! じいは陰ながら応援しておりますぞ!」
「あーあー分かった。じいは草葉の陰で応援するのじゃ」
「それではじいは既に死んでおりまするっ!」
 なんか言ってるじいを追いやって、材料を前にする。……さて、やるか!

 幾度かの失敗を経て、どうにかチョコが完成した。まずはじいにチョコを渡す。
「おおっ、これが姫様自らお作りになられたチョコレイトですか! ……そ、その、なんというか、実に前衛的な形をしておりますな」
「芸術的じゃろ」
 本当は芸術ではなく失敗作だが。……正直、タカシの分を作っただけで精魂尽き果て、じいの分を作る気力が湧かなかったのだ。すまぬ、じい。
「ありがとうございます、姫様。家宝に致します」
「そんなもんにせずに食え」
「ははっ。……ところで姫様、姫様の後ろにやけに綺麗なチョコがあるのは、じいの気のせいですかな?」
「へっ?」
 振り向くと、タカシ用のチョコがちょこんと鎮座していた。
「こっ、これは違うのじゃ! あとでわらわが独りで食べるのじゃ! 別に誰かにあげるとかじゃないのじゃ!」
「…………」
「しっ、信じるのじゃ! それとも、じいはわらわが信じられぬというのかえ?」
「いえっ、まさかそんな。……ただ、姫様は彼のこととなると見境がなくなりますから」
「たっ、タカシは関係ないのじゃ! 本当にわらわが食べるのじゃ! 近頃のわらわはハラペコキャラなのじゃ! む~、ハラヘッタのじゃ! ほら、の?」
「……じいは別にタカシ殿とは言っておりませぬが」
 しまった。じいの目が薄く細まる。
「いいですか、姫様。姫様は将来国を再び興していただく大事な身なのです。あのような変人と遊んでる暇があったらもっと勉学に励み」
「あっ、なんだか凄く眠いのじゃ! お休みなのじゃ、じい!」
 じいの小言が始まる前にタカシ用のチョコをひったくり、慌てて飛び出す。
「姫様、まだじいの説教は終わっておりませぬぞ! 姫様ーっ!」
 じいの叫びを背に受けながら、わらわは自室に飛び込むのじゃった。

「……まったく、じいは小言が多いのじゃ」
 翌日。学校へ向かう道で、独り言を呟きながらチョコを鞄にしまう。
 ……タカシの奴、喜んでくれるかの? 形が変じゃと、馬鹿にせんかの? ……受け取ってくれるかの?
 だ、大丈夫じゃ。あやつはわらわにベタ惚れじゃ。受け取った瞬間、破顔一笑してわらわに抱きついてくるに違いない。ああ嫌じゃ嫌じゃ。
「おはー、まつり。……まつり?」
 しかも、そのまま「まつり、大好きだよ」とか甘く囁いてくるじゃろう。んでもって、わらわを優しくなでなでするじゃろ? で、で、そのまま、ち、ちゅーとか! とか! 困ったのう! うひー!
「大変、まつりが見る間にでろんでろんに! さては妖怪でろんでろんの仕業か! 説明しよう! 妖怪でろんでろんとは道行く人々を片栗粉を溶いたものででろんでろんにするはた迷惑な妖怪だが、普段はお好み焼きを焼いている気のいい兄ちゃんであり、妖怪でもなんでもない」
「何の話じゃっ!」
「気がついたか。おはやう、まつり」
「おは……たたっ、タカシ!?」
 想像していた人物がいつの間にか目の前におり、ものすごくうろたえる。お……落ち着くのじゃ! 深呼吸深呼吸、すーはーすーはー。
「何をいきなり深呼吸してんだ?」
「朝の新鮮な空気を思い切り吸い込んだまでじゃ。他意はない」
「なんだ。てっきり俺が現れたのにも気づかないほど妄想にはまりこんでおり、急に声をかけられ驚き、落ち着くために深呼吸していたのかと思ったぞ」
「そ、そんなわけないであろう。まったく、愚か者め。ははははは」
 8割方当てられた。ぼやーっとしておるくせに鋭い奴め。
「それで、まつりさん。その、今日はアレですよ。その、甘くて黒い物体を俺に渡す日ですよ」
「……なんのことかの?」
 途端、タカシの奴は焦った顔になった。こやつ、わらわがチョコを持ってきてないと勘違いしておるな? いつもいじめられておるし、たまにはいいのう。
「……チョコ、ないの?」
「知らんな」
 タカシの顔が絶望に染まる。
「……帰ろう」
「待て待て待つのじゃ! いきなり帰る奴がおるか!」
 元来た道へ引き返そうとするタカシを慌てて引き止める。
「もう今日は学校行く意味ない。それどころか、生きていく意味すらない」
「そこまで悲しまずともよいじゃろうが! ああもう、ほれ!」
 鞄からチョコを入れた箱を取り出し、ぶっきらぼうにタカシに押し付ける。
「……?」
「放課後の誰もいない教室で渡そうとか、帰り道で渡そうとか、色々考えてたのに全部無駄になったのじゃ! まったくもう、困った奴じゃの、おぬしは」
「……これ、チョコ?」
「い、言っとくが義理じゃぞ? 本当じゃぞ?」
 ゆっくりとタカシの顔が笑顔になっていく。
「ああ、そっか。チョコ、あったんだ。義理でもなんでも嬉しいぞ。ありがとな、まつり」
 心にしみこんでいくような笑みに、こっちまで嬉しくなってくる。
「あー……うむ、なんじゃ。気にするでないぞ」
「また今度またたび買って来るよ」
「だから、わらわを猫扱いするなっ!」
「本命またたびなのに?」
「そんな本命ないのじゃっ!」
 軽口を叩きながら、タカシは箱を開けた。
「あっ、もう開けてしまったのかえ? 堪え性のない奴め。せめて家に帰るまで我慢せんか」
「いや、まつりが買ってきてくれたチョコってどんなのかなーって」
「買ったのではないのじゃ。手作りなのじゃ」
「……えっ? これ、手作りなの?」
 瞬間、タカシの目が驚きに見開かれた。
「な、なんじゃ? そうじゃが、何か問題でもあるのかえ?」
 なんでもないフリをしながらも、内心ドキドキだ。どうしよう。手作りって嫌だったのだろうか。重いって思われただろうか。なんで手作りなんかしちゃったのだろうか。後悔が心に渦巻く。
「いや、てっきり買ってきたものだと。まさか手作りとは……俺は嬉しいぞ、まつり」
 タカシはにっこり笑ってわらわの頭をなでた。心の中でほっと息をつく。まったく、紛らわしい奴め。
「よし! ご褒美だ、なんでもしてやるぞ」
「な、なんでもじゃとお!?」
「『全力で死ね』とかはナシな。できる範囲で頼む」
 なんでも、ということは、……ち、ちゅーもOK!? ぎゅーってしてもらってから、ちゅーとか!? なんという悦楽、理想郷がすぐそこに……ッ!
「まつり、鼻血鼻血」
「ぬ?」
 興奮のあまり鼻血が垂れてしまったようだ。タカシにティッシュを詰めてもらう。
「女の子が鼻血垂らすなよな……」
「うるさいのじゃ。……ふむ。タカシ、こっちへ来るのじゃ」
 周囲を見回す。幸いにして人通りはない。だがここは念を押し、タカシを路地へ連れ込む。
「犯されそうな予感」
「なんでじゃっ! ……こほん。の、のうタカシ、さっきなんでもしてやると言ったの?」
「言ってない」
「舌の根も乾かぬうちに翻されたぞよ!?」
「冗談だよ。言ったけど、なんか思いついたのか?」
「ふ、ふむ。……そ、そのじゃの、……わらわを、ぎゅーっとせぬか?」
「……ぎゅー、ですか?」
「ほほほら、近頃寒いであろ? 温まろうと思っただけで、他意はないぞよ?」
「カイロあげる」
 カイロを手渡された。受け取ったカイロを全力で空にぶん投げる。
「しまった、落としてしまったのじゃ! 温まる暇もなかったのじゃ! これでは凍えるばかりなのじゃ。困ったのう?」
「まだあるからだいじょび」
 手渡されたカイロを再びぶん投げる。
「また落としたのじゃ! 次以降も落とす可能性が極めて高いので、カイロ以外で暖まりたいのう! 人肌とかで!」
「落とすとかでなく、投げたようにしか見えませぬが」
「いーから早くわらわをぎゅーっとせぬか!」
「ぎゅーっとしてほしいの?」
「ほしいの! ……ぬわっ! ち、違うのじゃ! いやしてほしいが、そうではなくて、寒いからであり別にタカシにぎゅーっとしてほしいだけじゃないからの!?」
 いかん、混乱して何か変なこと言ってるような気がする。
「まあ満足したし、いっか。はい、ぎゅー」
 タカシはわらわをぎゅっと抱きしめた。暖かさが伝わってくる。
「……はふー」
「変な鳴き声」
「鳴き声じゃないわいっ! 落ち着いてるんじゃ!」
「そいつは重畳」
 言いながら、タカシはわらわの頭をなでた。なんだかとても落ち着く。
「のうタカシ、もっとぎゅっとするのじゃ」
「これ以上ぎゅっとすると背骨肋骨全てを砕いてしまうぞ。まつりが俺を殺人者に仕立て上げようとする」
「そこまでぎゅっとせんでいいっ! そうじゃなくて、そうじゃなくて、もっとぎゅーっとしてほしいのじゃ。の?」
「う……」
 タカシを見上げて懇願すると、タカシは横を向いて鼻を押さえた。
「どしたのじゃ?」
「な、なんでもない」
「なんでもないことないのじゃ。はっきり言うのじゃ。なんでもすると言ったぞよ?」
「……あーと。おまいのお願いが可愛すぎておかしくなりそうになったの。以上。追求するな」
 タカシはそっぽを向き、赤い顔をしたまま鼻を押さえていた。
「な、なんじゃそりゃ」
 わらわの顔まで赤くなっている、そんな気がする。
「うっさい馬鹿」
「むっ。馬鹿じゃないのじゃ」
「うるさい馬鹿。口を開くな馬鹿。黙ってろ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいのじゃ。馬鹿と言うほうが馬鹿なのじゃ。そんな馬鹿者、こうじゃ」
 タカシの背中に手を回し、自分からも抱きつく。そして……ぬ、そ、そして……。
「ぬ……の、のうタカシ、もうちょっとかがんでたもれ」
「断る」
「いいからかがむのじゃ!」
「痛い痛い痛い!」
 タカシの髪を引っつかんで無理矢理かがませる。そして……。
「なにすんだよ、いきな……」
 ほっぺをはむはむする。
「……ば、馬鹿者はほっぺはむはむの刑じゃ」
「……すけべ」
「すっ、すけべとはなんじゃ!」
「すけべにお返し」
「あっ、こ、こら……」
 はむはむ返しをされる。こそばゆいような、痛気持ちいいような、幸せなような、そんな気持ち。
「うー、えろ魔人めが」
「おまいが最初にしたんだろーが」
「うるさいのじゃ。お返しのお返しなのじゃ」

 お返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しをした頃だろうか、ふと気づいて時計を見たらとうの昔に遅刻していた。
「ち、遅刻じゃ! ものすごい遅刻なのじゃ! 怒涛の遅刻なのじゃ! ほら、もうやめて行くのじゃ!」
「もっとちゅーしたい」
「う……」
「したい」
「……あ、あとちょっとじゃぞ?」

 学校に着いたのは、昼休みも半ばをすぎた頃だった。
「熱中しすぎだと思います」
「た、タカシが悪いのじゃ! わらわは何度もやめようと言ったのじゃ!」
「確かに最初はやめようと言われましたが、それ以降は『ぬし殿……わらわ、もっとちゅーして欲しいのじゃ』と言いながら頬を染めるまつりの顔しか記憶にありません」
 しれっと言うタカシの頭をべしべし叩くわらわだった。

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【ツンデレサモナーと召喚された男】

2010年02月22日
 一体これはどういうことなのか。
「……また、しょぼいのを引いたのう。ハズレかの」
 よし、落ち着こう。俺の名前は別府タカシ。遅い昼飯を食ってたら急に床が抜けたような感触があり、気がつけば森の中。そして、目の前で少女が何やら残念そうに喋ってるわけで。そこから導き出される答えは──
「……分かった! ゼロの使い魔的状況だ! イヤッフーーーッ! とうとう俺にも春が!」
「……うん? 言っとる意味がよく分からんのう。まあよいわ。さあ行け我がしもべよ、敵を倒すのじゃ!」
「そう、敵を倒すのが俺の目的……てき?」
「あんぎゃーす」
「あんぎゃーす?」
 少女から視点を少し横にずらす。あんぎゃーすと鳴くでっかい恐竜みたいなのがこれまたでっかい口を開けて俺を飲み込もうとしてますよ?
「馬鹿な、きゃっきゃうふふな展開しか待ってないと思ってたのにいきなり戦闘とな! ええい、異世界からの救世主なんだから特殊能力的な何かを持ってるはず! 目からビームとか目から汁粉とか目から」
「何でそんな目に固執してるのじゃ……。いいからはよう行け」
 少女が俺の尻を蹴飛ばす。たたらを踏んで前に二、三歩踏み出すと、あんぎゃーすな恐竜は俺を敵とみなしたのか、あんぎゃーすと吼えるのでとても怖い。もう帰りたい。
「む、無理無理無理! 死んじゃう! あ、それともアレか、ここはファンタジー風味な世界だし、死んでも生き返るとかそんなオチ?」
「死んだらそれまでに決まっとるじゃろ、阿呆。分かったらとっとと戦え」
 俺の命が大変ピンチ。武器もなしに恐竜と戦えと? こちとら中型犬と戦ったとこで五分五分だってレベルだぞ? あ、猫には全面降伏です。あの可愛さには勝てっこありません。
「な、何をにやにやしとる阿呆! 前を見るのじゃ!」
「む?」
 想像の中で猫と遊んでいたら、あんぎゃーすが目の前にいまして自分の名前を言うんですの。全身鳥肌人間にクラスチェンジ。
「とても怖い!」
「あっ、こら何をするんじゃ!」
 思わずそのまま言うくらいとても怖いので少女を抱え、脱兎の如く逃げる。
「ええい離せ離せ、離さぬか! 気安く触るでない! ワシを誰だと心得ておる!」
「怖い怖い怖い! おーばーけー!」
「お化けじゃないわい! アレはアンギラスじゃ!」
 何か言ってる少女を抱きかかえたまま、しばらく遁走を続けてると、これ以上走ると肺が死ぬゼと言いだしたので、その場に倒れる。
「ぶべ! こ、こら、いきなり倒れる奴がおるか!」
「……ぜはー……ぜはー……」
「おい、顔色が紫じゃぞ? ……だ、大丈夫かの?」
 はっはっは、どこをどう見れば大丈夫だと思うんだい子猫ちゃん、と言いたいが死にそうなので呼吸をするだけで精一杯です。
「ほ、ほれ、水じゃ。飲めるかの?」
 竹筒のようなものが目の前に差し出さる。慌てて奪い取り、一気に飲み干す。
「こ、これ、急ぎすぎじゃ。そんな急ぐとむせるぞ」
「んぐっんぐっ……げほげほげほ!」
「言ったそばからか!」
「げぎゃっごがっがっがっがっかーッ!」
「それもうむせてるとかそんな話じゃないぞ!? 何に変身しとるのじゃ!?」
 怖がらせるのに満足したので、普通に飲む。
「……んっんっん、ぷはーっ! いやー生き返った。やはり幼女の尿はいいな」
「しまった、変態を召喚したか!」
「冗談です。飲尿趣味はないです。……あ、それよりあんぎゃーすは!?」
「あんぎゃーす? よく分からんが、アンギラスならもうどっかに行ったぞ。というより、ワシらが撒いたんじゃが」
「おお、やるな俺。火事場の馬鹿力とはいえ、人ひとり抱えて逃げきるとは凄いな」
「もっとも、アンギラスは足が遅いから撒くのは容易いのじゃがの」
 実は凄くないことが判明して悲しい。
「……しかし、逃げてどうするのじゃ! せっかくアンギラス退治の依頼を請け負ったというのに……意味ないではないか!」
「まあ待て慌てるな。まず俺に質問させてくれ。その1、性感帯はどこ?」
 真っ赤な顔をする少女に殴られた。
「い、いの一番に聞くのがそれか、愚か者!」
「いや全く。そうじゃなくて、俺はどうなったの? 確か家でラーメン食ってたと記憶しているのだけど、どうして気がつけばこんな森の中で恐竜と対峙していたのでしょうか」
「ふん、知れた事。ワシの召喚獣として呼び出したまでよ」
「獣ですか。ていうか召喚って、やっぱアレですか、ゼロの使い魔的流れのバヤイ、き、き、キスとかするのですよね! ね!?」
「するか阿呆。なんで貴様のようなどこの誰とも知れぬ奴と口づけせねばならんのだ阿呆。一度死ね阿呆」
「ショックのあまり耳汁が出そうだ」
「それ病気じゃぞ!?」
「まあいいや。キスできないのは耳汁が出そうなほど残念ですが、なんかここは俺の理想の世界じゃないみたいだし、元の世界に返して。戻って今まで通り二次元を愛する事にするよ」
「あ、それ無理」
 少女は事も無げに手をフリフリ振った。
「……何か愉快な台詞が聞こえたような」
「だから、無理じゃって。おぬしを呼び出すので魔力が尽きたのじゃ。ゲートを開く力がもうないのじゃ」
「ああ、MP切れね。一晩休めば回復するやつね。昨夜はお楽しみでしたね」
「うん? おぬしの言う事はイチイチ分からんが……とにかく、もう一度ゲートを開く魔力を貯めるには、あと数ヶ月は必要じゃぞ」
「へー。……えええええ! 数ヶ月!?」
「い、いきなり叫ぶな、阿呆!」
 急に叫んだことに驚いたのか、少女は耳を押さえて俺を非難した。
「え、戻れないの? アニメの録画予約してないよ?」
「また訳の分からぬことを……とにかく、そういうことじゃから達者で暮らせ」
 そう言うと少女は立ち上がり、俺に背を向けた。
「ワシは帰る。おぬしはおぬして適当にやれ。時期が来ればまた迎えに来てやるから、それまで生き延びるんじゃぞ」
「まさかの放置!? 勝手に召喚して放置するなんて……許せない、許せるものか! ちゃんと保護しろ! こんな森の中で置いとかれたら2秒で餓死するぞ!」
「どんな胃袋じゃ!」
 こっちを向いて律儀につっこむ少女。根はいい奴に違いない。今まさに置いていかれそうになってるが。
「餓死はともかく、死ぬのはたぶん間違いないし、俺も連れて行け」
「嫌じゃ。なんでおぬしのようなどこの誰とも知れぬ奴を連れて行けるか」
「連れて行け」
「い・や・じゃ」
「そろそろ泣くぞ」
「子供か! とにかく、自力で頑張るんじゃ。ワシは知らん」
 そう言って、再び少女は背を向けた。その背中に抱きつく。
「にゅわあああ!? ななな、何するんじゃ!」
「妖怪、オイテクナ。置いていこうとする優しさ知らずの人間に憑りつく妖怪。類似品にコバンザメがいる。妖怪オイテクナも実はコバンザメではないか、という説もある」
「そんなこと聞いとらんわい! いーから離れるんじゃ!」
「吸盤がはがれないんだ」
「妖怪じゃなくてコバンザメじゃ!」
 なんでコバンザメ知ってるんだ。
「まーなんだ、ここに置いてかれるくらいならこうしてコバンザメしてる方がいいな、と」
「いーから離れるのじゃ! あーうあー!」
 じたじた暴れるので、抱きつくにも一苦労。
「「あ……」」
 そりゃ手がずれて胸触っちゃったりもしますよ。
「な、な、な、何をするんじゃあっ!!」
「……ま、全くない! 女装趣味の男か! まあ最近の流行だし、それもアリか!」
「立派な女じゃっ! いーから離せ、このド変態!」
「女と聞いて乳から手を離す男がいようか、いやいない。反語。……でもやっぱり全くないように思える」
 確認のため、指をふにふに動かす。……うーん、少し、ほんの少しふくらみがあるような。しかし布地に邪魔され、正直なところよく分からない。
「も、揉むなあっ! 変態じゃ、ワシは変態を召喚してしまったのじゃ!」
「布地ごしでなく、直で触るとよく分かる気がする」
「ひいいいいっ!? わ、分かった、ワシに着いてきてもいいから、もうやめるのじゃ!」
「揉む方がいい」
 言いながらふにふにする。指先を遊ばすうち、ほんのり固い何かにぶつかった。……この指先に触れるのは……アレですか!?
「んきゅっ!? どどどどこを触ってるのじゃ、どこを!?」
「ちく」
「わーわーわー! 言うな言うな言うなあっ! 分かった、どうかワシに着いてきてほしいのじゃ! お願いなのじゃ! じゃからもうやめてほしいのじゃあ!」
「えー? うーん、どうしても?」
 布地越しに固いアレをクリクリしながら問いかける。
「きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……」
 えーと。ダメですよ。そんな艶めかしい声を聞かされたら、俺のきかん棒が大変なことに。
「な、なんか固いのが背中に当たっとるぞ、当たっとるぞ!?」
「大丈夫、大変なのはこれからだ」
「ごめんなさい分かりました! お願いします、どうか愚かなワシの家に来てください! なんでもしますから!」
「……その言葉を待っていた! 言質は取った、いざいかん悦楽の園へ!」
 手を離すと、少女はその場にへたり込み、荒い息をついた。
「大丈夫か?」
「うぐぐぐぐ……おのれおのれおのれ! よくもワシに辱めを! もー許さん、消し炭にしてくれよう!」
「ぽちっとな」
 ポケットからレコーダーを取りだし、スイッチを押す。
『きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……』
「……は?」
「あ、間違った。こっちだ、こっち」
 改めてスイッチを押す。
『ごめんなさい分かりました! お願いします、どうか愚かなワシの家に来てください! なんでもしますから!』
「な、なんじゃこれはあああああ!?」
「魔法」
 では勿論なくて、偶然持っていたレコーダーの力です。
「俺を消し炭にすると、俺の魔法でこの声が世界中の人に届くから不思議」
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……そんなことをされては、ワシの威厳が……いやそれより、ワシの嬌声が……」
 当然そんなことはできないが、ここではったりをかまさないと消し炭にされるので、必死でポーカーフェイス。背中を流れる汗がすごいゼ。
「……わ、分かった。貴様を客人として我が家に招待しよう。だがいいか、もしその声を誰かに聞かせてみろ、例え世界中の者に聞かれようとも、即座に貴様を殺すからな!」
「分かった、一人で楽しむだけにする」
「たっ、楽しむな、ばかっ! いいか、魔力が貯まり次第元の世界に送り返すからな!」
 そんなわけで、しばらくこの少女と──ああ、そうだ。
「そういやお前の名前なんてーの? 俺は別府タカシと申します。気軽にタカシ、もしくはご主人様と呼べ」
「貴様なんぞに言う名前はないわい、阿呆」
「ぽちっ。『きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……』」
「わーわーわーっ!」
 少女は真っ赤な顔で自身の嬌声を打ち消そうとした。
「お名前は?」
「ぐぐぐ……ま、まつりじゃ、馬鹿者ぉ……」
 そんなわけで、まつりという半べそをかく少女と過ごすことになりました。どうなるのでしょうね、これから先。

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【ナンパされているツンデレを助けたら】

2010年02月21日
 とある休日。まつりは一人買い物に出かけた。普段は家の者に任せているのだが、今日は天気がよかったので、散歩がてら街に出たのだった。
 だが、それが悪かった。買い物帰り、軽薄そうな男に声をかけられた。
「ね、キミキミ、ちょっと俺と遊ばない?」
 まつりは男を一瞥すると、何も言わずその場から去ろうとした。だが、男が行く手を遮る。
「無視するなんてヒドイなー。ドイヒーだね」
 金色に染められているが、毛の根元付近は黒い髪、浅黒い肌、だらしなく開けられた胸元、チャラチャラと目にうるさい金色のネックレス、極限まで下げられたズボン。まつりの嫌悪感を引き出すには充分すぎる格好の男に、まつりは顔をしかめた。
「二度は言わん。そこを退け」
「へ? なになに、俺? 俺に言ってんの?」
「二度は言わんと言ったはずじゃ」
「え? え? なに、俺舐められてマスか? この街しきってんの、俺の友達だよ? あんま俺怒らせない方がいんじゃね?」
 まつりは一つ息を吐くと、面倒くさそうに男を見た。さて、どうしたものか。家の者を呼ぶか。いや、この程度の小物、一人で充分か。そう思案していると、見慣れた顔が視界に映った。
「ん? あ、猫だ」
「誰が猫かッ!」
「冗談だよ、まつり」
 見慣れた顔──別府タカシはまつりに軽く手を上げて挨拶した。次いで、彼女の行く手を遮るように立っている男を見る。
「あァ? なに見てんだよ」
 恫喝する男を無視し、タカシはまつりに向き直った。
「ふむ……にゃるほど。ナンパ?」
「見て分からぬか。ほれ、とっとと助けぬか、阿呆」
「えー」
「えーじゃないわいっ! ほれ、頑張らぬか!」
「はぁ、しゃーねえ……つーわけでそこの人、これは俺のなんで、ナンパは別のピーマン頭の女性にしてください」
「あァ? なめてんの? あ?」
「まつり、ダメだ。なんかニワトリみたいに頭が上下してる。この人は実はニワトリではないだろうか。ニワトリは言葉が通じないぞ」
「それはニワトリに失礼じゃぞ。それと、わらわはおぬしの物ではない。決してない」
「あー……あーあー、もーダメ、許せねー。超ぶっ殺しけってー」
 男はポケットからナイフを取り出し、二人に見せ付けるようにちらつかせた。
「つまらぬ男は凶器までつまらぬのう。ナイフなぞ、珍しくともなんともないのじゃ。のう、タカシ?」
「ひぃ、怖い! 逃げろ!」
「あっ、こら! 何をするか!」
 タカシはまつりを抱きかかえると、一目散に逃げ出した。
「あっ、テメェ待ちやがれ!」
 しばらく男の追ってくる音が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなった頃、タカシはまつりを降ろした。
「何故戦わぬ! あの程度の輩、ちょちょいのちょいじゃろう! スキだらけじゃったろうが!」
 降ろした瞬間、まつりは噛み付かんばかりの勢いでタカシに詰め寄った。
「ぜーぜー……いやほら、刃物怖いし」
「情けない……なんと情けないことか。はぁ、おぬしもつまらぬ男じゃのう」
 まつりは呆れたように首を振った。
「それに、まつりが巻き込まれて怪我しても嫌だし」
「ぬ……」
「という言い訳を今思いついた」
「そういうことは言わなくていいんじゃ、たわけっ!」
 叱りながらも、まつりは自分の身を案じてくれたタカシに感謝した。この人は不器用なのでこんな言い方しか出来ないが、実際はこれが本音なのだろう。
「ま、誰も怪我なくてよかったじゃん。な?」
 タカシはまつりの頭に手を置き、にんまり笑った。
「ぬ……ふ、ふん。別にタカシの助けなぞなくとも、わらわ一人で切り抜けられたのじゃ。まったく、いらぬ世話を」
「助けろって言ったの誰だっけ」
「うっ、うるさいのじゃ! ほれ、帰るぞタカシ! お供せい!」
「あ、いや、俺買い物の途中なんだけど……まいっか。お供しますよ、お姫様」
「うむ、苦しゅうない」
 まるで本物のお姫様のように鷹揚に頷くまつりを見て、タカシは苦笑した。
「そだ、おてて繋いで帰りましょう。なーんて」
「……ま、まぁ今日はおぬしもわらわが怪我せぬよう頑張ったからの。と、特別に許可してやるのじゃ」
 まつりは頬を赤く染め、タカシの手を握った。冗談のつもりで言ったことが成功してしまい、少し驚いたタカシは、思わずまつりの顔をまじまじと見つめてしまう。
「……な、なんじゃ、その目は。……い、嫌なのかえ?」
「や、ちょっと驚いただけ。嫌なわけないじゃん」
 まつりの不安げな顔に、冗談なんだけど、という言葉を飲み込む。
「そ、それもそうじゃな! わらわに手を握ってもらえるなぞ、特別の特別なんじゃぞ? 感謝せい!」
 嬉しそうににっこり笑うまつりと一緒に、タカシは帰途に着いたのだった。

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