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2019年10月15日
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【ツンデレとバレンタイン】

2010年02月23日
 明日はバレンタインだ。まつりは自称亡国の姫だが、実際は猫なので何の日か知るまい。優しい俺が教えてやろう。
「まつり、明日はバレンタインだぞ」
「いかにわらわがやんごとなき身分とはいえ、それくらい知っとるわい。馬鹿にするでない」
「いや、まつりは猫なので詳しくは知らないだろ? バレンタインってのは」
「猫じゃないわい! 姫じゃ! どうして貴様はわらわを猫扱いするか!」
「恋を煩う女子が想いを込めたチョコレイトを渡す日だ。菓子会社の笑いが止まらない日でもある」
「わらわの話を聞けッ!」
 なんか怒られた。
「そんなわけで、俺はまつりをとても大好きなので、チョコをくれるととても嬉しい」
「んなっ……そ、そういうことを真顔で言うな、たわけッ!」
「チョコくれたらまたたびあげるから」
「だから猫ではないと言ってるであろう、たわけっ!」
 なんか怒られた。悔しいので頭なでてやれ。
「なっ、何をするか……にゃにゃにゃにゃにゃ、にゃふー」
「猫だ」
「猫じゃないと言っておるじゃろうがあっ!」
 ものすごく怒られた。

「ちょこれいと、か。……ふん。まったく、あいつは」
 学校から帰宅後、そう独りごちながら台所に入る。
「じい、用意は?」
「全て完了しております」
 お辞儀しながら、じいは手を横にした。その先には、チョコを作るための材料が全て揃っていた。
「ふむ、完璧じゃ。ご苦労じゃったな、じい」
「もったいないお言葉。しかし姫様、なにも姫様自ら作らずとも、我らに言ってくださればすぐに作らせていただきますが」
「よいのじゃ。……そ、その、わらわが作りたいのじゃ」
「……まさか、あのタカシとかいう俗物に渡すつもりじゃないでしょうな?」
「ちちちっ、違うのじゃ! わらわはタカシなんてなんとも思ってないのじゃ! こ……これは、えっと、……じいに渡すつもりなのじゃ!」
 とっさの言い訳に、じいは目を見開いた。……ば、ばれたかの?
「くぅぅっ……このじい、姫様の心遣いに感涙ですっ!」
 ばれたのではなく、感動していたようだ。こうなっては、じいの分も作らなければいけない。……面倒じゃの。
「そういうことなら姫様、頑張ってくださいませ! じいは陰ながら応援しておりますぞ!」
「あーあー分かった。じいは草葉の陰で応援するのじゃ」
「それではじいは既に死んでおりまするっ!」
 なんか言ってるじいを追いやって、材料を前にする。……さて、やるか!

 幾度かの失敗を経て、どうにかチョコが完成した。まずはじいにチョコを渡す。
「おおっ、これが姫様自らお作りになられたチョコレイトですか! ……そ、その、なんというか、実に前衛的な形をしておりますな」
「芸術的じゃろ」
 本当は芸術ではなく失敗作だが。……正直、タカシの分を作っただけで精魂尽き果て、じいの分を作る気力が湧かなかったのだ。すまぬ、じい。
「ありがとうございます、姫様。家宝に致します」
「そんなもんにせずに食え」
「ははっ。……ところで姫様、姫様の後ろにやけに綺麗なチョコがあるのは、じいの気のせいですかな?」
「へっ?」
 振り向くと、タカシ用のチョコがちょこんと鎮座していた。
「こっ、これは違うのじゃ! あとでわらわが独りで食べるのじゃ! 別に誰かにあげるとかじゃないのじゃ!」
「…………」
「しっ、信じるのじゃ! それとも、じいはわらわが信じられぬというのかえ?」
「いえっ、まさかそんな。……ただ、姫様は彼のこととなると見境がなくなりますから」
「たっ、タカシは関係ないのじゃ! 本当にわらわが食べるのじゃ! 近頃のわらわはハラペコキャラなのじゃ! む~、ハラヘッタのじゃ! ほら、の?」
「……じいは別にタカシ殿とは言っておりませぬが」
 しまった。じいの目が薄く細まる。
「いいですか、姫様。姫様は将来国を再び興していただく大事な身なのです。あのような変人と遊んでる暇があったらもっと勉学に励み」
「あっ、なんだか凄く眠いのじゃ! お休みなのじゃ、じい!」
 じいの小言が始まる前にタカシ用のチョコをひったくり、慌てて飛び出す。
「姫様、まだじいの説教は終わっておりませぬぞ! 姫様ーっ!」
 じいの叫びを背に受けながら、わらわは自室に飛び込むのじゃった。

「……まったく、じいは小言が多いのじゃ」
 翌日。学校へ向かう道で、独り言を呟きながらチョコを鞄にしまう。
 ……タカシの奴、喜んでくれるかの? 形が変じゃと、馬鹿にせんかの? ……受け取ってくれるかの?
 だ、大丈夫じゃ。あやつはわらわにベタ惚れじゃ。受け取った瞬間、破顔一笑してわらわに抱きついてくるに違いない。ああ嫌じゃ嫌じゃ。
「おはー、まつり。……まつり?」
 しかも、そのまま「まつり、大好きだよ」とか甘く囁いてくるじゃろう。んでもって、わらわを優しくなでなでするじゃろ? で、で、そのまま、ち、ちゅーとか! とか! 困ったのう! うひー!
「大変、まつりが見る間にでろんでろんに! さては妖怪でろんでろんの仕業か! 説明しよう! 妖怪でろんでろんとは道行く人々を片栗粉を溶いたものででろんでろんにするはた迷惑な妖怪だが、普段はお好み焼きを焼いている気のいい兄ちゃんであり、妖怪でもなんでもない」
「何の話じゃっ!」
「気がついたか。おはやう、まつり」
「おは……たたっ、タカシ!?」
 想像していた人物がいつの間にか目の前におり、ものすごくうろたえる。お……落ち着くのじゃ! 深呼吸深呼吸、すーはーすーはー。
「何をいきなり深呼吸してんだ?」
「朝の新鮮な空気を思い切り吸い込んだまでじゃ。他意はない」
「なんだ。てっきり俺が現れたのにも気づかないほど妄想にはまりこんでおり、急に声をかけられ驚き、落ち着くために深呼吸していたのかと思ったぞ」
「そ、そんなわけないであろう。まったく、愚か者め。ははははは」
 8割方当てられた。ぼやーっとしておるくせに鋭い奴め。
「それで、まつりさん。その、今日はアレですよ。その、甘くて黒い物体を俺に渡す日ですよ」
「……なんのことかの?」
 途端、タカシの奴は焦った顔になった。こやつ、わらわがチョコを持ってきてないと勘違いしておるな? いつもいじめられておるし、たまにはいいのう。
「……チョコ、ないの?」
「知らんな」
 タカシの顔が絶望に染まる。
「……帰ろう」
「待て待て待つのじゃ! いきなり帰る奴がおるか!」
 元来た道へ引き返そうとするタカシを慌てて引き止める。
「もう今日は学校行く意味ない。それどころか、生きていく意味すらない」
「そこまで悲しまずともよいじゃろうが! ああもう、ほれ!」
 鞄からチョコを入れた箱を取り出し、ぶっきらぼうにタカシに押し付ける。
「……?」
「放課後の誰もいない教室で渡そうとか、帰り道で渡そうとか、色々考えてたのに全部無駄になったのじゃ! まったくもう、困った奴じゃの、おぬしは」
「……これ、チョコ?」
「い、言っとくが義理じゃぞ? 本当じゃぞ?」
 ゆっくりとタカシの顔が笑顔になっていく。
「ああ、そっか。チョコ、あったんだ。義理でもなんでも嬉しいぞ。ありがとな、まつり」
 心にしみこんでいくような笑みに、こっちまで嬉しくなってくる。
「あー……うむ、なんじゃ。気にするでないぞ」
「また今度またたび買って来るよ」
「だから、わらわを猫扱いするなっ!」
「本命またたびなのに?」
「そんな本命ないのじゃっ!」
 軽口を叩きながら、タカシは箱を開けた。
「あっ、もう開けてしまったのかえ? 堪え性のない奴め。せめて家に帰るまで我慢せんか」
「いや、まつりが買ってきてくれたチョコってどんなのかなーって」
「買ったのではないのじゃ。手作りなのじゃ」
「……えっ? これ、手作りなの?」
 瞬間、タカシの目が驚きに見開かれた。
「な、なんじゃ? そうじゃが、何か問題でもあるのかえ?」
 なんでもないフリをしながらも、内心ドキドキだ。どうしよう。手作りって嫌だったのだろうか。重いって思われただろうか。なんで手作りなんかしちゃったのだろうか。後悔が心に渦巻く。
「いや、てっきり買ってきたものだと。まさか手作りとは……俺は嬉しいぞ、まつり」
 タカシはにっこり笑ってわらわの頭をなでた。心の中でほっと息をつく。まったく、紛らわしい奴め。
「よし! ご褒美だ、なんでもしてやるぞ」
「な、なんでもじゃとお!?」
「『全力で死ね』とかはナシな。できる範囲で頼む」
 なんでも、ということは、……ち、ちゅーもOK!? ぎゅーってしてもらってから、ちゅーとか!? なんという悦楽、理想郷がすぐそこに……ッ!
「まつり、鼻血鼻血」
「ぬ?」
 興奮のあまり鼻血が垂れてしまったようだ。タカシにティッシュを詰めてもらう。
「女の子が鼻血垂らすなよな……」
「うるさいのじゃ。……ふむ。タカシ、こっちへ来るのじゃ」
 周囲を見回す。幸いにして人通りはない。だがここは念を押し、タカシを路地へ連れ込む。
「犯されそうな予感」
「なんでじゃっ! ……こほん。の、のうタカシ、さっきなんでもしてやると言ったの?」
「言ってない」
「舌の根も乾かぬうちに翻されたぞよ!?」
「冗談だよ。言ったけど、なんか思いついたのか?」
「ふ、ふむ。……そ、そのじゃの、……わらわを、ぎゅーっとせぬか?」
「……ぎゅー、ですか?」
「ほほほら、近頃寒いであろ? 温まろうと思っただけで、他意はないぞよ?」
「カイロあげる」
 カイロを手渡された。受け取ったカイロを全力で空にぶん投げる。
「しまった、落としてしまったのじゃ! 温まる暇もなかったのじゃ! これでは凍えるばかりなのじゃ。困ったのう?」
「まだあるからだいじょび」
 手渡されたカイロを再びぶん投げる。
「また落としたのじゃ! 次以降も落とす可能性が極めて高いので、カイロ以外で暖まりたいのう! 人肌とかで!」
「落とすとかでなく、投げたようにしか見えませぬが」
「いーから早くわらわをぎゅーっとせぬか!」
「ぎゅーっとしてほしいの?」
「ほしいの! ……ぬわっ! ち、違うのじゃ! いやしてほしいが、そうではなくて、寒いからであり別にタカシにぎゅーっとしてほしいだけじゃないからの!?」
 いかん、混乱して何か変なこと言ってるような気がする。
「まあ満足したし、いっか。はい、ぎゅー」
 タカシはわらわをぎゅっと抱きしめた。暖かさが伝わってくる。
「……はふー」
「変な鳴き声」
「鳴き声じゃないわいっ! 落ち着いてるんじゃ!」
「そいつは重畳」
 言いながら、タカシはわらわの頭をなでた。なんだかとても落ち着く。
「のうタカシ、もっとぎゅっとするのじゃ」
「これ以上ぎゅっとすると背骨肋骨全てを砕いてしまうぞ。まつりが俺を殺人者に仕立て上げようとする」
「そこまでぎゅっとせんでいいっ! そうじゃなくて、そうじゃなくて、もっとぎゅーっとしてほしいのじゃ。の?」
「う……」
 タカシを見上げて懇願すると、タカシは横を向いて鼻を押さえた。
「どしたのじゃ?」
「な、なんでもない」
「なんでもないことないのじゃ。はっきり言うのじゃ。なんでもすると言ったぞよ?」
「……あーと。おまいのお願いが可愛すぎておかしくなりそうになったの。以上。追求するな」
 タカシはそっぽを向き、赤い顔をしたまま鼻を押さえていた。
「な、なんじゃそりゃ」
 わらわの顔まで赤くなっている、そんな気がする。
「うっさい馬鹿」
「むっ。馬鹿じゃないのじゃ」
「うるさい馬鹿。口を開くな馬鹿。黙ってろ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいのじゃ。馬鹿と言うほうが馬鹿なのじゃ。そんな馬鹿者、こうじゃ」
 タカシの背中に手を回し、自分からも抱きつく。そして……ぬ、そ、そして……。
「ぬ……の、のうタカシ、もうちょっとかがんでたもれ」
「断る」
「いいからかがむのじゃ!」
「痛い痛い痛い!」
 タカシの髪を引っつかんで無理矢理かがませる。そして……。
「なにすんだよ、いきな……」
 ほっぺをはむはむする。
「……ば、馬鹿者はほっぺはむはむの刑じゃ」
「……すけべ」
「すっ、すけべとはなんじゃ!」
「すけべにお返し」
「あっ、こ、こら……」
 はむはむ返しをされる。こそばゆいような、痛気持ちいいような、幸せなような、そんな気持ち。
「うー、えろ魔人めが」
「おまいが最初にしたんだろーが」
「うるさいのじゃ。お返しのお返しなのじゃ」

 お返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しをした頃だろうか、ふと気づいて時計を見たらとうの昔に遅刻していた。
「ち、遅刻じゃ! ものすごい遅刻なのじゃ! 怒涛の遅刻なのじゃ! ほら、もうやめて行くのじゃ!」
「もっとちゅーしたい」
「う……」
「したい」
「……あ、あとちょっとじゃぞ?」

 学校に着いたのは、昼休みも半ばをすぎた頃だった。
「熱中しすぎだと思います」
「た、タカシが悪いのじゃ! わらわは何度もやめようと言ったのじゃ!」
「確かに最初はやめようと言われましたが、それ以降は『ぬし殿……わらわ、もっとちゅーして欲しいのじゃ』と言いながら頬を染めるまつりの顔しか記憶にありません」
 しれっと言うタカシの頭をべしべし叩くわらわだった。

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