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2024年05月04日
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【傘を盗まれたところをツンデレに見られたら】

2012年06月23日
 今日も雨が降っている。梅雨なので毎日のことだ。というわけで傘を持ってきている。持ってきているハズなんだ。朝、傘立てに入れたんだけどなあ。
「…………」
「ちょっと、何やってんのよ」
「いやね、俺の傘がどうやら知らない間に擬人化してどこかへ出かけたようなんだ。だから、どうにか探しだしてこれから毎日家を焼……いや、これから毎日一緒に楽しく過ごす予定なんだ」
「なくなったの? 誰かにパクられた?」
「…………」
「ぷふ~っ! こういうところで日頃の行いが出るわね~♪」
「そんな放屁で揶揄しなくてもいいだろうに」
「おならじゃないわよっ! 口で言ったの!」
 誰かに後頭部を殴られた。
「痛いなあ……何すんでい」
「アンタのせいよっ!」
 探すのを一時中断し、埃を払って立ち上がる。目の前に不機嫌そうな顔をしたかなみがいた。
「で、で? どうなの? なくなったの?」
 しかし、一転して機嫌良さげに嫌なことを聞いてきた。なんて性格だこの娘。
「いや、俺の目論見だと、ようやっと九十九神になったはいいが、突然のことに物陰に隠れていると踏んでいるのだが」
「はいはい、はーい。戯言はいいから」
「ばか、俺から戯言を取ったら何も残らないぞ」
「自信満々に言うなっ!」
「付け加えるなら、雨の時にしか使われないので、少しネガティブな感じの子になってると思う。頭なでて大丈夫だよ、君は必要なんだよって言ってあげたい」
「うわっ、キモッ!」
「俺が思ったことを言うと、往々にしてそういう鳴き声が聞こえる。その鳴き方流行ってるの?」
「鳴き声じゃないわよ! 気持ち悪いって言ってるの!」
「臆病な自尊心が気づかないフリをしろと告げるんだ。あと、尊大な羞恥心も」
「どこの山月記よ……」
 かなみは思ったより博識だった。分からないネタだと思ったのに。
「……んーでっ。アンタ、傘もないのに今日はどうやって帰るの?」
「瞬間移動」
「んじゃやってみなさいよっ!」
「んなのできるわけねーじゃねーか。ばーかばーかばーか」
「…………」ギリギリ
「ぐげげぇ」
 小学生みたいな囃し声をあげたら首を締められた。このお嬢さんのツッコミは生死に関わることがあるので、もうちょっと優しい感じのでお願いしたい。
「げほっげほっ……あのさ、死ぬから。そこを締められると、死ぬから」
「早く死になさい」
「嫌です」
「まったく……で、濡れて帰るの?」
「もうしばらく探すつもりだが、見つからないならそうするしかあるまい。はぁ……なんで人のをパクったりするかなあ……」
「あはっ、とうとうパクられたって認めたわね」
「おどけてでもなけりゃ、正直やってられねえよ。ああもう、人間不信になりそうだ」
「ちょ、ちょっと。なにを大袈裟な……」
「自分でもそう思うが、やられると結構なダメージだぞ? あー、ヘコむわ……」
「…………。……じゃ、じゃあさ。ヘコむのと同じくらい嬉しいことあったら、人間不信が直るわよね?」
 どういうわけか、かなみは顔を赤くしながら何かを決意したような顔でそう言った。
「? や、別になりそうなだけで、なってるわけじゃ……」
「いいから! そうよね!?」
「は、はい」
 勢いに押されて思わず肯定する。一体何をしようというのか、このお嬢さんは。
「…………」
 固唾を飲んで様子を伺っていると、かなみは傘立てに近づいた。そして中を探り、一本の傘を抜き取った。鮮やかな赤の傘だ。
「ほ、ほら。何ぼーっとしてるのよ。帰るわよ」
「え、いや、俺は自分の傘を探さないといけないから」
「どうせ誰かにパクられてるわよ。だ、だから今日のところは、……そ、その。……わっ、私と一緒に帰ったらいいじゃない」
「や、だから傘が」
「……あ、アンタも一緒に私の傘に入ったらいいじゃない」
 視線は足元に、顔は傘に負けないくらい赤く染め、かなみが呟く。
「かっ、勘違いしないでよねっ!? アンタがヘコんだりしてたら殴っても楽しくないから嫌々傘に入れてやるってだけで、アンタと相合傘なんて生涯最後なんだからねっ!?」
 かなみは俺を見ると、ものすごい勢いでまくしたてた。あと顔が超赤いです。
「え、あ、は、はい。……はい?」
 あまりの勢いに、何がなんだか分からなくなる。
「な、なによ。……それとも、嫌なの?」
「いいえいいえいいえいいえ!」ブルブルブル
「そ、そんないっぱい否定しなくていいケド……じゃ、じゃあ、どする? もちょっと探す? それとも帰る?」
「え、ええと、帰るます」
「そ、そうね。今日のところはそうね。うん」
 何かコクコクうなずきながら、かなみは昇降口へ向かうと、こちらに振り向いた。
「ほら、何してんのよ。帰るわよ、ばか」
「あ、ああ」
 慌ててかなみの元へ向かい、隣に立つ。
「……ん、んじゃ、帰るわよ」
「あ、ああ」
 ばさりと傘を広げ、かなみはその下に入った。遅れて俺も入る。
「あ、あんまり近寄らないでよね」
「友達に噂とかされると恥ずかしいから?」
「どんな時でも気持ち悪いわねぇ……」
 呆れた様子でかなみはため息をついた。それと同時に、肩の力も抜けたようだ。うむ、よし。
「…………。……えへへっ」
「なんですか」
「なんでもないないっ♪」バシバシ
「痛い痛い」
 なんか知らんが背中をバシバシと叩かれた。痛いんですの。
「ほらほらっ、アンタの方が背高いんだから、傘持ちなさいよ」
「遠近法の関係でそう見えるだけだ。だからお前が持ってろ」
「んなわけないでしょっ! ほら持った持った!」
 無理やりに柄を持たされた。まだかなみの体温が残ってる。
「にひひっ、らっくちーん♪」
「やるェやるェ」
「なんで巻き舌!? 普通にやれやれって言いなさいよ!」
「やれやれは言いたかったが、やれやれ系主人公にはなりなくなかったので、苦肉の策だ」
「今日も変な奴ー♪」
 なんだか嬉しそうに、かなみは歩き出した。遅れて俺も続く。
「にしても、アンタもついてないわよね。傘を盗まれるなんてさ?」
「んー、まあ、なあ」
「なによ、奥歯に物が挟まったみたいな言い方して」
「ついてないのは確かだが、こうしてかなみと一緒に相合傘で帰れるので、プラマイゼロ、むしろプラスの方が大きいから、どちらかと言えば幸運じゃないかなー、と思ったので」
「な……」
 みるみるかなみの顔が赤くなっていく。忙しい奴め。
「……こっ、今回だけの特別よっ! そ、そんなの、毎回毎回なんてありえないからねっ!?」
「へーへー」
「次はちゃんと傘に名前をでっかく書いておきなさいよねっ!? 盗まれないようにっ!」
「分かった、書く。俺の名前をでっかく書いた100円のビニ傘持ってくる」
「盗まれる気マンマンじゃないのっ! ……そ、そんなに相合傘したいの?」
「う」
「そ、それなら、たまにならしてあげるから……ちゃんと普通の傘に名前書いて持って来なさい。ね?」
「は、はい」
 優しくたしなめられては、何も抵抗できない。
「よろしい♪ ……す、素直な子には、ご褒美が必要よね」ギュッ
「へ? ……はふぇ!?」
「へ、変な声出すな、ばかっ!」
 突然、かなみが傘の柄を握った。俺の手の上から。
「い、いや、その、あの、そこ俺の手がありますよ?」
「し、知ってるわよ! わざわざ言うな、ばかっ!」
「いやはや、その、なんというか、なんて言いますか!」
「よ、喜ぶな変態っ! ご、ご褒美だから! それ以外の感情なんて何もないからねっ!」
「ああもう、一年を通してずっと雨が降ればいいのに!」
「だから、喜ぶな変態っ!」
 空いてる手でぺこぽこ叩かれながらも、手に触れる感触はそのままに、一緒に楽しく帰りました。

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【ツンデレの家に居候したら】

2012年03月06日
 なんかうちの親が海外に転勤とかいう話が出て、俺もついていかなくてはいけないとか。日本語しか扱えない俺には辛すぎる展開。
 そんな愚痴をかなみにこぼしたら、あれよあれよという間に俺の所属が俺の親からかなみの親に移動していた。気がつけばかなみの家に居候してた。マジか。
「あ、アレよ。アンタみたいな変なの海外に輸出したら、日本人が全部こんなのばっかと思われるの嫌だからよ。……ほ、他に理由なんてないんだから!」
「何も聞いてませんが」
「うっ、うるさいっ、ばかっ!」(頬ぎゅー)
「ひはひ(痛い)」
 そんなわけで、かなみと一つ屋根の下でキャッキャウフフという噂。

「ぐぅぐぅ。……ぐぅ?」
 そんなこんなでかなみの家に泊まること一週間ほどになるのだが、今日もかなみはどういうことか俺の布団の中にいます。
「すぅすぅ……」
「うーん。今日もか。どういうことなんだ」(なでなで)
「ん、ぅん……んー♪」
 寝てても分かるのか、かなみの表情が何やら嬉しげになってきた。これはなでなでの手が止まらない。
「黙ってる分には可愛いんだよなぁ……」(なでなで)
「んー♪ んぅー、んー♪ ……ん?」
「ハァハァ……」
「朝から変態が目の前にいるッ!?」
「待て落ち着け! 大丈夫だ、その変態は顔見知りだ」
「へ? ……あ、ホントだ。よく知ってる変態だ」
「そうそう、いつもの変態だ。息が荒いのは、お前をなでて興奮しただけだ」
「なるほどそっかあ。んじゃ、そろそろ殴っていい?」
「できれば手加減お願いします」
「うん、それ無理♪」
「うわ、今時ハルヒて。しかも、意気揚々と言ってるのがまた。黒歴史を築いてる真っ最中なのか」
「えい」(ぶすり)
「ぎにゃあ」
 目潰しされた。とても痛いので布団の中をごろんごろん転がりたいところだが、あいにくとすぐ隣にかなみがいるためスペースを確保できず、狭い範囲を右往左往するばかりで痛みを誤魔化せない。
「ああもう狭いんだから暴れるな!」
「はい」
「思った以上に素直!? ていうかアンタ、目大丈夫なの?」
「このくらいなら、ものの数秒で治ります」
「アンタの回復力も化物じみてきたわねぇ……」
「ところでかなみさん、一応聞いておきますが、なんで今日も俺の布団にいるの?」
「うっ……そ、その、夜中にトイレ行って、自分の部屋と間違えてここに来ちゃったの! 寝ぼけてたの! しょーがないの!」
「昨日も一昨日もその前も似たようなこと言ってませんでした?」
「き、気のせいよ」
 明らかに目が泳いでる。ただ、まあ、仮にわざとだとしても、俺には一向に問題がないというか「むしろかなみと一緒に寝るのはとても気持ちがいいのでありがたい話だ」
「なっ、何をいきなり言ってんのよっ!」
「え、あ。いかん、途中から考えが口に出てた」
「このエロが……」(頬ぎゅー)
「うーむ、痛い」
「あ、アンタのことだから、わ、私の胸がぽよぽよ当たって興奮してるんでしょ! この変態め!」
「いや、かなみのおっぱいは貧乳なので、ぽよぽよ当たるとかありえません」(即答)
「…………」
「しまった、本音が出た! しかし本当のことだし! ただ、寝てる時は俺にしがみついてくるので感触は味わえます。これが小さいなりにほにょほにょと結構柔らかくて、お兄さん実は楽しみにしてるんですよ?」
 そうなるんじゃないかと思ったが、やっぱり殴られました。

「まったく……なんだって朝からこんな目に遭わなきゃいけないのよ……」
 階段を下りながら前方のかなみが呟く。
「俺の布団に入り込まなければ済む話ではないだろうか」
「ね、寝ぼけてるから仕方ないの! 好きで一緒に寝てるわけじゃないもん!」
「へーへー」(ぷらぷら)
「あっ、こらっ! 人の髪で遊ぶな!」
 かなみのツインテールを両手に持ってぷらぷらしたら怒られた。
「そうだな、食べ物で遊ぶなんて我ながら行儀が悪いな。すまん、謝る」
「だから、昆布じゃないって言ってるでしょうがあ!」
「朝からうるさいなあ。腹が減ってるのか? しょうがない、君の昆布を食べなよ」
「僕の頭を食べなよみたいに言うなっ! ああもう、アンタ明日から先に行きなさいよ、そしたら蹴り落とせるから!」
「そうならないために、いつもお前の後ろを心掛けているんです」
「それより私に余計なことしないことを心がけなさいよっ!」
「それは無理です」
「どんだけ嫌がらせが好きなのよ、アンタはッ!」
 などとぎゃーぎゃー言い合い(というか、主に俺が怒鳴られている)ながら階下におり、すぐ側のダイニングに入る。
「二人とも今日も元気ねえ。ここまで声が届いてたわよ」
 人の良さそうな笑顔を浮かべたおばさんが俺達を出迎えてくれた。
「やったな、かなみ。お前の腹話術が評価されたぞ」
「あらあら、うちの娘は知らない間にいっこく堂みたいになってるのね。こういうしっかりした芸がある方が、テレビに出てる芸人さんより将来安心ね♪」
 のほほんとした笑顔でおばさんが俺の話を吸収発展させた。この女、やる……!
「違うっ! お母さんもコイツの話に乗らないっ!」
「全くだぞ、おばさん。俺は適当なことしか言わないんだから、まず疑うことを覚えないと」
「怒られちゃった。てへぺろ(・ω<)」
「アンタもちょっとは悪びれろっ! そしてお母さんは自分の年を考えろ!」
 このように、俺とおばさんが揃うとボケの量が増えるのでツッコミ要員のかなみの労力が甚大になるので大変だと思った。

 そんなこんなで朝の用事を済ませ、一緒に登校。
「はー……。朝から疲れるわ」
「大変だな」
「何を他人事みたいに……主にアンタのせいよ!」
「昆布が怒った」
「昆布じゃなくて私が怒ってるの! ていうか昆布じゃなくて髪! ややこしいボケをするなっ!」
「ひぃ。助けて昆布」(ぷらぷら)
「くどいッ! まったく……それより、アンタよく私の髪を触るわよね」
「あ、すまん。そう気安く触るものでもなかったよな。悪い悪い」
 慌てて手を離す。どうもかなみ相手だとズケズケと入り込んでしまうな。いかんいかん。
「……べ、別にアンタだったらいいケド」
「ほう。きっと俺は評価に値しないレベルなんだろうなあ。はっはっは」
「……そ、そう。そんなとこ。それより、この髪形、好き?」
「ん、ああ。かーいーよね、ツインテール。ようじょにぴったり!」
「ようじょって言うな! 立派な高校生よっ!」
「ざんねん! 乳と背がたりない!」
「がーッ!」
「凶暴性は十分です」(たくさん殴られて半泣き)
「ふん。小さいのは分かってるわよ、ばか」
「でも、そのおかげで俺みたいな変態に大人気だよ?」
「自分で言うな! くらえ変態!」
 かなみは自分の髪を持つと、その先端で俺をこちょこちょとくすぐった。
「これはこそばゆいが同時にとても嬉しい! ウヒヒィ!」
「しまった、変態だったから喜んじゃった! でも面白いからもっとやってやれ。うりうり♪」
「ウヒヒィ、ウヒヒィ」
 などとやってたら遅刻した。廊下で立たされるという時代錯誤の罠が俺達を襲う。
「あーもー! 全部アンタのせいアンタのせいアンタのせい!」
「全部ではないと思う」
「アンタが変な声だして喜ばなかったらあんなにやってないもん! 全部アンタが悪い!」
「うーん。いや、やっぱり責任の一端はお前にもあると思うが」
「うっさい! くらえ馬鹿!」(こしょこしょ)
「ウヒヒィ、ウヒヒィ」
「お前ら、うるさい。あとそこの馬鹿、踊るな」
 めんどくさそうに俺達を叱る担任だった。

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【バレンタインなのにイス扱いしてくるツンデレ】

2012年02月18日
 今日はバレンタインということで、ちょっとは期待していたのだけど、何やら俺の予想と違う。
「あのー。かなみさん? 一体これはどういうことなのでしょうか」
「うるさい。イスのくせに話しかけるな、ばか」
 かなみと一緒に帰ったんだけどね。俺の家まで来て、なんか知らないけど、俺の膝の上にちょこんと座ってるの。今現在も。
「時に四つ足にトランスフォーム~コンボイの謎~するので誤解されるのも仕方が無いと思いますが、実は人間なんですよ?」
「そのくらい知ってるわよ! イス扱いしてるってだけよ! アンタはあたし専用のイスなんだから、黙ってあたしに座られてたらいいのよ!」
「いやそりゃ無茶な話でゴンスよ。俺の膝が大変ですよ? 主に感触的な意味で」
「変態!」
「ありがとうございます!」(満面の笑み)
「うー……ホンモノめ。死んじゃえ、ばか」
 などと悪態をつきながらも、決して俺から離れようとしない。どうすればいいの。(ナディアのED風)
「…………」
 脳内で突如繰り広げられたナディアコンサートに出席してたら、かなみが自分の肩越しにこちらをじーっとみていることに気づいた。何やら不満気な様子だ。
「むー……」
 口でも不満を表現している。これはかなりの不満度に違いない。ただ、いったい何が不満なのか、その一点だけが分からないのだけれど。
「……よし。こうなったら運否天賦だ、俺の選択はこれだッ!」
「ひゃっ!?」
 かなみの頭に手をのせ、なでなで開始。俺にはこれくらいしか。
「いかがですか、姫?」
「……ご、50点。もっと頑張りなさいよ、ばか」
「分かった、火が出るまで頑張る」
「なでる速度を頑張れって言ってるんじゃないわよ!」
「そう言われても」
 しかし、50点という低評価の割には、かなみの顔はご機嫌っぽいのだが。ふぅむ。
「まったく……今日もバカね、アンタは」
「そんなことはないと思うのだけど」
「何言ってるのよ。馬鹿よ馬鹿、それも大馬鹿」
「あまり馬鹿馬鹿言うない」
「せ、折角このかなみちゃんが哀れなアンタにチョコをあげるチャンスをやろうってのに、それをふいにしようって言うんだもの。馬鹿以外の何者でもないわよ」
「ほう。……む? いま素敵な言葉を聞きましたが!!!」
「ん、あ、ああ。チョコ? ぐーぜん持っててね。自分で食べてもいいんだけど、ほ、ほら、なんか今日バレンタインらしいし。そ、その、……あ、アンタ欲しいでしょ?」
「そりゃ当然!」
「そ、そだよね。……よかった、用意しといて」(ぼそり)
「用意していたのであれば、偶然持っていたという発言はおかしいのではないでしょうか」
「思わず言っちゃった言葉を聞き逃す努力くらいしなさいッ!」
 なんか超怒られた。
「うー……と、とにかく。このチョコが欲しいのなら、あたしをもてなすことね」
「つまり、そのチョコが欲しいのなら、かなみをもてなすのだな?」
「そ、そうだけど……なんで繰り返したの?」
「よし。そのチョコが欲しいので、かなみをもてなしてやる!」
「また繰り返した! なんで!?」
「さて、そのチョコが欲しいでのかなみをもてなしたいが、何をしたらかなみは喜ぶのだろう」
「なんかもう言うこと自体が楽しくなっちゃってるみたいだし……。あのね、あたしは抱っ……」
 ぴたりとかなみの動きが止まった。
「だ? 脱穀?」
「そ、そう! 脱穀! 脱穀が大好きなの!」
 何やら真っ赤になりながら、かなみはあわあわと慌てて言った。
「なるほど。脱穀マニアなのか。変な奴」
「そ、そうなの! あたし変な奴なの! えへへ、えへえへ!」
「だが、生憎とここには稲穂などないので、抱っこで手を打ってはどうだろうか」
「ぅあーっ! もーっ! やっぱ気づいてるしい! アンタなんて大っ嫌い!!!」
「いやははは。つーわけで、むぎゅー……と、したいのですが、その。いい?」
「へ、へっ!?」
「だから、抱っこ。その、していい?」
「……………………い、いい」
 かなりの時間逡巡したようだが、許可は出してもらった。まあ、視線は明後日の方向に向いたままだったが。
「べっ、別に抱っこが好きとかアンタだから許したとか勘違いしないでよねっ!?」
「じゃあどう考えればいいのだ」
「…………。い、いーから早く抱っこしろっ!」
「はいはい」(むぎゅっ)
「むきゅっ。こ、こら! もーちょっと緩く抱っこしなさい!」
「頭のネジを?」
「それ以上緩くするとネジが取れちゃうわよ?」
「随分自虐的だなあ」
「あたしじゃなくてアンタの頭のネジよッ!」
「ロボットじゃあるまいし、頭にネジなんてないぞ。頭大丈夫か?」
「うがー!」
 からかったら暴れだしたので、背中をぽんぽん叩いて落ち着かせる。
「うぅー……やっぱアンタなんて嫌いよ」
「なんと。そして今気づいたが、この態勢は大丈夫か?」
「へ? ……へ、へぇっ!?」
 最初は俺に背を預けた態勢で座っていたはずなのだが、先程暴れたせいで姿勢がくるりと180度回転、向き合った状態で抱き合ったモノがこちらになります。む、どういうわけか料理番組風味に。
「……だ、だいじょーぶだ、問題ない」
「ならその全力で顔が赤いのをどうにかしろ」
「だいじょーぶだ、問題ないの!」
「頑ななイーノックめ。しかし、この態勢で抱っことなると、その」
「い、いーじゃん。抱っこしやすいだろーし。……こ、こゆこともできるし」
「う」
 鼻と鼻をチョンと合わされた。こんなことされると、とても嬉しいので何も抵抗できなくなります。
「…………」
 そしてやった本人の方が恥ずかしがってるのはどういうことだ。
「あー……うん。とりあえず、抱っこな、抱っこ」
「う、うん」
 軽く抱っこしてかなみの後頭部をぽんぽん。この態勢ならばお互いに顔を見ないですむので、恥ずかしさは軽減されるハズだ。
「……その、頭ぽんぽんっての、ネットで見たの?」
「ん? あー、なんか女性に気に入られるらしいな」
「※だけどね」
「しまった、俺に扱える代物ではなかったか! 人類には過ぎた代物だったんだ!」
「……まー、でも、その。……あたしは、そんな嫌じゃないよ? アンタにぽんぽんされるの」
「そうなのか? 実を言うと無意識にしていたのでどうしよう状態だったので、結果として助かった」
「……天然?」
「いや、俺は常に意図的にボケてるぞ。そして今回は特にボケていないのだけれど」
「うー……注意しとかないとね」
「何が」
「いーの。アンタって、そーゆーことは察しが悪いよね」
「まったく何の話か分からないのだけれども」
「だから、いーんだってば。あんまりしつこいと嫌いになっちゃうぞ」
「む。じゃあ今は好きなのか」
「すっ……なっ、なわけないじゃん! ばーかばーかばーか!」
 べりりと俺を引き剥がすと、かなみは顔を赤くしながら馬鹿馬鹿と連呼した。
「冗談に決まっとろーが」(むぎゅっ)
「むきゅっ。……ふん、知ってるわよ。ばか」
「なるほど。ところで、そろそろチョコをもらえないでしょうか」
「……ヤだ」
「えっ」
「ヤだ! こんなもてなしじゃ全然足りない! もっといっぱい抱っこしたりなでなでしたりちゅーしたりしなさいよっ!」
 再びべりりと俺を引き剥がし、かなみは何やら妙なことを言い出した。
「えっ」
「あっ、ちっ、違うっ! ちゅーはナシ、ちゅーはまだ!」
「えっ」
「だ、だからあ! ……も、もー! ナシ! 今のナシ! 全部ナシなの!」
「言葉は放たれる矢の如く。こぼれたミルクは戻らないですよ?」
「う……うっさい! ミルクがこぼれたなら舐めとればいいじゃないの!」
「ほう。面白い、そういう無茶は嫌いじゃない。じゃあ今から私が舐めとりますので、おっぱいから母乳を出してください」
「出ないわよッ! 屏風から虎を出せみたいに言うなッ!」
「坊主が屏風に上手にニャルラトホテプの絵を描いた」
「あたしの知ってる早口言葉と違うっ! 坊主が人外のもの描いてる!」
「想像すると、なかなかにシュールな光景ですね。そんな坊主に葬式あげられた日には、成仏できそうにないですね」
「成仏どころか、魂を何か変なものに捧げられそうよ……」
「閑話休題、やはりちゅーをしないとチョコはもらえないのでしょうか?」
「今の話題引っ張ってなかったことにしたかったのに! したかったのに! 今日もアンタはヤなやつ!!!」
「いやははは」
 全力で頬をつねられた。痛え。
「これ以上ちゅーのことを言ったら殺すからねっ!?」
「了解、とても怖いので言いません。じゃあ、その。抱っこの続きをしてもよろしいか?」
「……よ、よろしい。じゃあ、はい」
 かなみは両手を前に出し、抱っこのポーズをした。
「うーん可愛い。写真撮っていい?」
「だ、ダメに決まってるでしょ!」
「ネットにあげる時は目線入れるから」
「絶対ダメ!!!」
 真顔だ。説得ロールに失敗した。
「うー……アンタと一緒だと、ムードも何もあったもんじゃないわね……」
「ギクシャクするの苦手なんですよ。つーわけで、ぎゅー」(むぎゅっ)
「ふきゅっ。……たまには、甘い囁きとかあってもいーかなーって思うけどなー」
「ふむ。……お前の鉄拳で、何度血反吐を吐いたか分からないゼ……」
「甘くない! ちっとも甘くない!」
「奇遇だな。俺も甘いどころか、口の中に鉄の味が蘇りました」
「もっと色々あるでしょ? ……や、優しいトコロが素敵だとか」
「いいえ」(即答)
「…………」
「いてててっ! 無言で耳を引っ張るな!」
「うるさいっ! アンタなんか嫌い嫌いっ! ばかっ!」
「むう。でも、俺以外には優しいよな。というか、俺にだけ厳しいというか」
「そ、それは……」
「?」
「あっ、アンタが馬鹿だからしょーがないの! あたしは悪くないの!」
「酷い話だ」(なでなで)
「うっ……理不尽なこと言われてるのに、優しく頭なんかなでるな、ばか」
「うーん。なんかね。言ってるお前の方が辛そうな気がしてね」
「……気のせいだもん。そゆとこ、嫌い。大嫌い」
「いやはや」
「……嫌いだから、ずっとアンタに嫌がらせしてやる。これから先ずっと」
「え」
「そ、その最初の嫌がらせが、……んしょ、これ」
 かなみは近くに落ちてた自分のバッグを漁り、中から小奇麗な箱を取り出した。そしてそれを俺に渡してきた。
「えーっと。これは、その、チョコ?」
「中身は毒。相手はしぬ」
「嫌がらせの範疇を超えてますね」
「食べて」
「はい」
 パワーオブパワーで包装を破り、蓋を開ける。中に入ってるチョコが明らかにハート型で顔がほてりんぐ。
「し、心臓を模したからハート型なの。……手作りでハート型だからって、本命と勘違いしないでよね。義理なんだからね」
「そこまで手間暇かけたなら、もう本命でいいだろ」
「愛情じゃなくて毒を入れてるから義理なの!」
「義理チョコならぬ義理毒物か。義理で死ぬのは嫌だなあ。モチロン本命毒物でも嫌なものは嫌だが」
「いーから早く食べろ!」
「へーへー」
 そんなわけで、一口かじる。
「ど、どう? おいしい?」
「もぐもぐ……うん、甘くておいしい」
「ほっ。……ほっとか言ってない!」
「もうちょっと言い訳頑張れ」
「う、うるさいの! ……それで、どう? しぬ?」
「たぶんだけど、毒は入ってないから死なない」
「は、入ってるもん。砂糖も食べ過ぎたら毒だもん。……偶然、レシピ通りの量しかなかったからだいじょぶだけど」
「それ普通のチョコだよね」
「そ、そんなのより、どだった? おいしかった? おいしいから好きになった?」
「なんか最後おかしい」
「いーから! どーなのよ!」
「おいしいと好きになるなら、俺は全国のコックさんへ告白行脚に出かけなければならないので、おいしかったが特に感情の変化はないようだ」
「バレンタインのチョコレートに限るから大丈夫なの!」
「しかし、仮に俺がお前を好きになったとして、お前は俺が嫌いなんだよな?」
「えっ? う、うん。……いちおー」
「じゃあ、失恋しか道はないのか。それは嫌だなあ」
「もー! いーから素直に好きだって言え! そしたら断ってやるから!」
「あんまりだ」
「うるさいうるさいうるさいっ! アンタみたいなのは、あたしに100回くらい告白して初めてOKもらえるんだからねっ!」
「ほう。言い換えると、100回告白したら付き合えるということなのだな?」
「えっ? ……ま、まあ、そうなる……かな?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
「早い早い早い! そして怖い! なんで無表情で連呼してるのよっ!?」
「こうも続けて言うと作業感でいっぱいだが、しょうがないよね」
「しょうがなくないっ! もっと一回一回心を込めて言いなさいよっ!」
「早く100回言ってつるぺたおっぱいを舐めたいなあ。さて、好き好き好きっ好き一休さ」
「そんな心は込めるなッ! あと最後一休さんの歌になってた!」
「ままならないなあ。ところで何回言ったかな?」
「こんなのノーカンよ、ノーカン! 一回一回心を込めなきゃカウントには入れないに決まってるじゃない!」
「超めんどくせえ」
「アンタ本当にあたしと付き合う気あるの!?」
「めんどくさいから、今まで通りかなみの頭なでたり膝に座られたり抱っこしたりの関係でいいや」
「…………。……な、なんか客観的に聞くともう既に付き合ってるみたいじゃない。全然付き合ってなんてないけど!」
「ふむ。じゃあ今後はそういうの全部やめようか」
「今日もヤな奴でいじわるで最悪!」(がじがじ)
「噛まないで」
「じゃあそういういじわるなこと言うな、ばかっ! がうがうっ!」
「あら可愛い。これはなでるしかない」(なでなで)
「お、怒ってる最中なのになでるな、ばかっ」
「困った顔もたまりませんね」(なでなで)
「う、うー……」
「……ハァハァ」
「こっそり興奮してるっ! やっぱ変態だコイツ!」
「しまった、ばれてた。しょうがない、堂々と興奮しよう。ハァハァ、ハァハァ!」
「怖いわよっ!」
「ままならないなあ」(なんとなくほっぺふにふに)
「全力でこっちの台詞よっ!」
 自分のほっぺをふにふにされながらも、俺の頬をぐにーっと引っ張るかなみだった。

拍手[40回]

【ツンデレに噂話について詰問されたら】

2012年02月10日
 もうすぐバレンタインという噂を聞きつけた俺は、根回しに躍起になっていた。だが、どうにもうまくいかない。
 そんなある日の放課後。今日はどこから行こうか教室でプランを練っていると、かなみが何やら不機嫌そうな顔をしてこちらにやってきた。とても怖いのでそーっと逃げようとしたら回りこまれた。
「くそっ! やっぱり大魔王からは逃げられない!」
「誰が魔王よッ! くだらないことしてないで、ちょっと顔貸しなさいよ」
「嫌な予感しかしねぇので嫌です」
「早く!」
「はいすいません」
 叱られたので、素直に自分の席に着く。かなみは近くの机の上に座った。お行儀が悪いですよ?
「あのさ、なんか最近『放課後に色んな教室を練り歩き、食物を必死な顔でねだる妖怪が出る』って噂が流れてるんだけど、アンタなんかしたでしょ?」
「あー。多分その妖怪のモデル俺です」
「やっぱか! あたしも聞きながらアンタを想像したわよ! 勝手に学校の七不思議を増やすな馬鹿っ!」
「別に好んで増やしたわけではない。ただチョコをもらおうと必死だっただけなんです。それがよもや学校の歴史に名を刻む羽目になろうとは……」
「なんかかっこよさげだけど、どう考えてもかっこ悪いわよ」
 ですよねー。
「んで、なに? チョコ? あ、バレンタインの」
 コクリとうなずくと、かなみはいかにも馬鹿にした様子で俺に話しかけた。
「その調子だと、当然のようにチョコレートはもらえそうにないみたいね。ま、トーゼンよね。誰がアンタみたいな変人にチョコを渡すってのよ♪」
「今日もかなみは楽しそうに俺を罵倒しますね」
「罵倒じゃないわ、ただ事実を述べているだけよ。それが、どういうことか、罵倒になっちゃうのよねー。不思議♪」
「俺の魅力がなせる技だな!」
「けなしてるんだからそろそろ怒れッ! 何を全部吸収してるのよ!」
「なんで俺が怒られてるの?」
 頬をぐにーっと引っ張られた。痛い。
「うー……ちっとも堪えてないし」
「いや、痛いんですよ? ただ、人より表情に出にくいだけで」
「あ、引き千切ったら流石のアンタでも痛がるかな?」
「助けてぇ!」
「叫ぶなッ! 冗談よ、冗談」
「なんだ。かなみのことだ、頬を引き千切るだけに飽きたらず、太ももとかつまんで引き千切るに違いない! と強く思ったんだが……いや俺の勘違いでよかったよかった」
「どこの花山と勘違いしてんのよッ!」
「握撃!」
「ふにゃあ!?」
 わっしと顔を掴んだら、やけに可愛いリアクションをされて、俺は一体どうしたら。
「…………」
「…………」
 どうしたらいいか分からなくなって、そっと手をのけたら、あらかなみさん顔真っ赤。
「……えーと」
「うるさい喋るな死ねッ! そしてさっきの忘れなさい!」
「ネコミミつけて『なでなでしてくださいですにゃあ』と媚っび媚びに言ってくれるなら忘れる」
「なんで恥ずかしいのを隠すためにより恥ずかしいマネしなきゃいけないのよ! するわけないでしょ、この馬鹿!」
「むぅ。しょうがない、さっきの『ふにゃあ』を脳内リピートして楽しもう」
「忘れなさいって言ったでしょ! 忘れろ、この馬鹿!」
「脳内リピート開始。ふにゃあふにゃあふにゃあ」
「アンタを殺してあたしは死なないッ!」
「ふにゃげげげ」
 首を締められたので忘れることにする。そしてさっきのかなみの台詞だと、ただ俺が殺されるだけなので納得いかない。
「はぁはぁ……あのさ、死ぬから」
「それがあたしの望みよ」
「なんて酷いやつだ。チョコはもらえず、よもや死をもらう羽目になろうとは」(ドヤッ)
「うわっ、超うっとうしい。……そ、それで、やっぱりチョコはもらえそうにないの?」
 興味がないのだろう、かなみは髪の先をいじりながら素っ気なく聞いた。ただ、視線だけが毛先と俺の間をせわしなく行き来していた。
「あー。なんかね、誰もくれないんですよ。俺も知らないことなんだが、どうやら俺には既に相手がいるからって」
「相手っ!? どっ、どういうことよッ!?」
「痛い痛い苦しいやめて誰か助けてぇ!」
「うるさいっ!」
 がっくんがっくん揺さぶられたので、得意の萌えボイスで悲鳴をあげたら怒られた。
「いやね、なんか俺にはいつも側にいる奴がいるらしくて。仲が良さそうな悪そうな、一見するとよく分からない関係で、でもいっつも側にいるからチョコを渡すのもねぇ、という話なんです」
「だだだ誰よそれっ! 名前を言いなさいよ、名前!」
「俺も名前までは。ただ、容姿の特徴は聞いてきた」
「よしっ! 極々稀に役に立つわね!」
「でへへぇ」
「うわっ、気持ち悪ッ! 死ね!」
「…………」
 折角のいい気分が台無しだ。
「はぁ……ええと、そいつの特徴なんだが、なんかいっつも俺をぽんぽん叩いてるらしい」
「ふーん。あたし以外にそんな殊勝な趣味を持った奴がいるのね。是非お友達になりたいわ」
「お前は一度殊勝という単語を調べなおしたほうがいいと思う」
「うっさい。ほらほら、早く次の特徴言いなさいよ」
「ん、ああ。でだな、身長はあまり高くないらしい。平均よりもやや低いとか」
「ふーん」
「これは俺様大喜びなんだが、胸はぺったんぺったんつるぺったんだとか。最高だよね!」
「…………」
「最高だよね!」(満面の笑み)
 繰り返すと殴られます。要注意。
「まったく……ん? アンタをいっつも殴ってて、小柄で、胸がぺった……す、スレンダー? ……それって」
「あと、頭の両端から昆布が垂れてるらしい。ここまで変な奴は人間ではなく妖怪の一種だと思う」
「明らかにあたしのことじゃない! あと昆布じゃない! 髪! ツインテールだって何百回と言ってるでしょ! え、ていうか周りのみんなもこの髪形を昆布って認識してるの!?」
「いや、なんかツインテールとかなんとか訳の解らんことを言ってたから、きちんと意訳してあげた。こんな気の利く俺を褒めてはどうだろうか」
 いや、殴るんじゃなくて。褒めるの。
「この馬鹿は……あれ? じゃあ、え? み、みんなあたしとアンタのこと……?」
 何やらかなみの顔がゆっくりと赤くなっていきますよ?
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわよ! うぅ……こ、こっち見るな馬鹿!」
「よく分からんが、大丈夫か? 保健室行くか?」
「そ、そういうんじゃないから、別に! 心配とかするな、ばか!」
「まあ、問題ないならいいんだけど。女の子なんだから、どこかおかしいと思ったら無理せず保健室へ行くんだぞ?」
「う、うるさいっ! 女の子とか言うな、ばかっ! ばかばかばかっ!」
「いやはや。ところでかなみ、俺にチョコをくれませんかね?」
「えっ?」
「いやね、この調子だと誰にももらえそうにないんですよ。俺の側にいる謎の人物は結局お前ってことで解決してしまったし、ここはやはりかなみに頼るしか」
「……ふ、ふーん。そなんだ。あたしのチョコが欲しいんだ」
「この際だ、多少なら異物が混入されていても文句言わない」
「込めないわよッ! 人をなんだと思ってるのよ!」
「隙あらば俺を殺そうとする暗殺者」
「違うわよっ! んなことしたことないわよっ!」
 いやもう今日既に殺されかけたけど。
「ああもう、どっと疲れた……」
「まあそういう訳で、頼む。チョコくれ。いや、ください」
「……ふっふ~ん。どーしよっかな?」
 ニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべるかなみ。本領発揮といったところか。
「分かった。どこを舐めればいい?」
「なんでよっ! 寄るな変態ッ!」
 負けじとこちらも本領を発揮させたら嫌がられた。
「いや、こういうシチュエーションなので、どっか舐めさせられるものかと。個人的にはおっぱいとかがいいです」
「はぁぁ……そうよね、こういう奴だったもんね。……あーあ、なんでこんな奴を……」
 かなみは俺を見ながら何やらぶつくさ言っていた。
「うー……ちょっとこっち来なさいよ、ばか」
「馬鹿ではないが、了解」
 てってこ近寄ると、何やら頬を引っ張られた。
「痛いのですが」
「ふん。冗談ばっか言ってるからよ、ばか。罰よ、罰」
「我々の業界ではご褒美ですよ」
「どこの業界よ! 全く……ばかなんだから。えいえいっ」
「ご褒美ではあるが、痛いのですよ?」
「チョコほしいんでしょ? だったら我慢することね。とーっ、やーっ♪」
 かなみは小さく笑いながら俺の頬をむいむいと楽しげに引っ張るのだった。

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【かなみは俺の嫁3】

2011年12月24日
 今日も俺の嫁はかなみで、しかも嫁になってから初のクリスマス。これは気合を入れねばなるまい! ふおおおお!
「うわぁ……」
 しかし、気合を注入してる最中に明らかに引いてる声が聞こえてきたので、一気に気合が霧散した。
「あの。引かないで」
「引くに決まってるでしょ。なんだって朝一番に見るのがアンタの尻なのよ……」
「気合を入れている最中だったがために起こった悲劇と言えよう」
「何の気合なんだか……ふああああ」
 大きくあくびをして、むにゅむにゅと口を動かしている。うーむ、可愛い。
「ふひゃっ!? な、何すんのよっ!」
 ので、思わず抱っこしたら怒られた。だが、婚前と違い、叱られるだけで手が出ないので大変嬉しい。
「……あ、朝からするの? 何かコスプレした方がいい?」
「かなみはえろいなあ!」
 ものすごい殴られた。婚前と変わらず手は出る模様。
「アンタが仕掛けたことでしょうがッ!」
「いやはや。それはそうとおはよう、かなみ」
「あ、うん。おはよ」
 夫婦の決まり事として、どんなことがあっても挨拶する時は笑顔を心がける、というものがある。そんなわけで二人して笑顔で挨拶したのだが、これがもう毎日破壊力がありまして。
「……アンタって、挨拶のあと、いっつも私の頭なでるわよね。もーいい加減慣れたけど」
「そしてお前はその度嬉しそうだな」
「うっ、嬉しくなんてないもん! 挨拶の余韻が残って笑顔のままなだけなんだから!」
「猫語で」
「ええっ!?」
「猫語で」
「……にゅ、うにゃにゃんにゃにゃににゃ! にゃににゃにゅにょにょにょにんにゃにょにょっにぇにぇにゃにょにょにゃにゃにゃんにゃにゃにゃ! ……にゃ?」
「うーん、素晴らしい」(なでなで)
「うにゃー」(やり遂げた顔)
「しかし、何言ってんだか一切分からなかったな。はっはっは」
「がぶがぶがぶっ!」
 猫語強制は大変危険です。
「もー……ていうか朝から何やってんのよ」
「いや、クリスマスですから」
「それ関係ないしっ! クリスマスだから猫語で会話するとか聞いたことないしっ!」
「俺もまさかやってくれるとは思わなかった」
「う……だ、だって、アンタこーゆーの好きじゃん」
「うむ。それをかなみにやってもらうと、好きの相乗効果でもう凄いことになります」
「そー……それってさ、私のコトが好き、ってコトだよね?」
「結婚しといて今更聞くか」
「い、いーじゃない! 何回だってアンタの気持ち悪いトコロ見たいし! で、どーなのよ」
「あーはい好き好き」
「もっと気合入れて言いなさいよっ! そんな片手間の好きなんて嫌なの!」
「さて、折角だしどっか出かけるか」
「ちゃんと言いなさいよッ!」
「つーわけで。大好きなかなみさん、俺と一緒にデートしませんか?」
「…………。す、する。……じゃない、どしてもって言うならしてあげるっ! あんまりにもアンタが哀れだから!」
「そういうの毎回言わなきゃいけない決まりでもあるの?」
「うっさい!」
 超怒られた。

「えっへっへー。なんかね、いーわよね♪ 街がキラキラしてるもんね♪」
 しかし、外に出たら機嫌が即直ったようで、俺と繋いだ手をプラプラ揺らしながらにへにへしている。薬でもやってそうで一寸怖い。
「…………」
「…………」
 なので、そーっと手を緩めて逃げようとしたらとても怖い顔で睨まれたので、握り直す。
「うんっ、それでよし♪ まったく、なんで逃げようとするかな」
「いやはや。なんだかんだ言って、大好きなのな」
「なっ、だっ、誰が誰を大好きだってのよ!? さ、寒いから手を繋いでるだけだしっ! 暖かくなって思わず笑顔になっちゃっただけだしっ!?」
「帰ったらいっぱいちゅーしようね」
「……う、うん。……って、し、しないわよ、ばかっ! 誰がアンタなんかとっ!」
「分かった、絶対しない」
「素直でありがたいわねッ!」
 そう言ったら言ったで半泣きになりながらも全力で頬をつねってくるので、うちの嫁は厄介です。
「痛い痛い。分かった、帰ったら嫌がるお前に無理やりちゅーしてやる」
「……ど、どれくらい?」
「ん、回数か?」
 コクコクうなずかれたので、指を一本立ててみた。かなみの頬が膨らむ。
「んー……じゃあ、2?」
 プルプルとかなみの首が横に振られる。それにつられてツインテールが揺れた。一本ずつ立てる指の数を増やしていき、最後にパーの形になってようやくかなみの顔に笑顔が灯った。
「そ、そか。5回もされちゃうんだ。……あーヤだヤだ♪」
「それはいいんだけど、街中でこんな話して大丈夫かな? ようじょにいたづらする好青年に見えないかな?」
「誰がようじょで誰が好青年よッ! どっちもおかしい!」
 140cmが怒った。
「だってお前発育不良のうえ、ちっこいじゃん。そして俺は誰がどう見ても好青年じゃん」(なでなで)
「ちっこくない! そしてアンタは誰がどー見ても不審者! 頭なでるなっ!」
「そんな不審者と結婚したのか、お前は」
「う……あ、あれよ、誰かがそばにいて見てなきゃ捕まっちゃうだろーし。ほ、ほら、貧乏クジ引いたっていう感じ?」
「ぎゅー」(抱っこ)
「むみゃー♪」(大喜び)
「貧乏クジ?」
「……び、貧乏くじ」
 自分でも無理があると思っているのか、顔が赤い。
「て、ていうかいきなり抱っことか反則! ……咄嗟だと、反応できないじゃん」
「うーん可愛い。よし、今日は一緒にお風呂入ろうね」
「毎日一緒に入ってるでしょっ!」
「しまった、既に毎日いたづらしていた!」
「い、いたづらとか言うな、ばかっ!」
「どんだけ揉んでも大きくならないのは呪いか何かなんですか?」
 ものすごく顔の赤いかなみに手を引っ張られ、その場から逃げ出しました。
「どういうことよッ!?」
 さほど人気のない公園まで辿り着くと、何やら詰問された。
「それは呪いをかけた人に言ってもらわないと」
「じゃなくて! ていうか呪いじゃない!」
「なんだ。つか別に呪いだろうが何だろうがこちとら一向に構いませんが。ちっこいの大好きだし!」
「そ、そうよね。暇さえあればぺろぺろしてるもんね。……だから、そうじゃなくて!」
「外でしたくなったの? そんな勇気は持ち合わせていないのですが……いや、かなみの頼みだし……ううむ、悩む!」
「んな頼みしたことないッ! そうじゃなくて、そうじゃなくて! 外でそーゆーこと言うなって言ってるの!」
「ああなんだ、そうだったのか。分かった、努力しよう」(なでなで)
「努力しなきゃ無理なんだ……」
 頭をなでるついでに呆けた様子のかなみの頬を両手で包み込むようにすりすりする。
「……うー。アンタ、ほんっとーに私のこと好きよね」
「なぜに」
「気づいてないかもしんないけどさ、すっごい嬉しそーなんだもん、私のほっぺ触ってる時」
「女体に触り放題でウハウハだからな」
「ヘタだよね、照れ隠し」
「ぐぅ」
「えっへっへー。そんじゃさ、デートの続き、しよっか?」
「おや、突然機嫌が直った。貧乳の神様の仕業か? 粋なことしやがる」
 何やらつねられたが、どうにか無事クリスマスを過ごせました。

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