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2024年05月03日
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【妹ちなみん】

2014年01月12日
 ちなみが妹になったと言い張る。
「……いや、言い張るとかじゃなくて、本当の話」
 俺の部屋にやってきたちなみが、ベッドに座って足をプラプラさせながら普段と変わりない口調で言った。
「そうだった。親が再婚したんだった。やーい妹」プニプニ
「……ほっぺをぷにぷにされた。……頬の裏に仕込んだ自爆装置の作動を確認。5秒後に爆発する」
「助けてぇ!」(腰砕けになりあわあわしながら)
「……爆発してほしくなかったら、さっきの無駄な揶揄を謝れ」
「すいません妹ができて嬉しさのあまりおかしくなったんです!」(必死)
「…………。……ま、まあ、それなら仕方がない。……た、ただ、タカシはいつもおかしいので、いつも通りとも言えよう。……と、とにかく、自爆装置は止めてやろう」
「はぁ……よかった。でも、なんで自爆装置なんて仕込んでるんだ?」
「……嘘だが?」
「…………。……し、知ってましたよ!? そりゃ自爆装置とかあるわけないじゃないですか! 誰が信じるってんだ! ばーかばーかばーか! 小学生!」
「……やれやれ、酷いものだ。……ただ、最後の小学生というふざけた文句だけは看過できない」
「ちなみって小学生じゃなかったっけ?」
「……同級生だが」
「あー。そういやうちのクラスに小学生がいたな。もしや、そいつが……?」
「……にゃー」(目潰し)
「あああああ」ゴロゴロ
「……床をゴロゴロ転がるのが、兄、か……」ションボリ

 そんな素敵な出会いを果たした俺たちだったが、普通に顔見知りだったので特別な感情など湧くはずもなく。
「強いて言うなら、同じ屋根の下に住むことになるので着替えやお風呂やトイレを覗けるかなァというわずかな希望を胸に秘めているくらいだ」
「……どうしてそれを私に言うのか。今日もタカシは理解に苦しむ」ウンザリ
「こうして直接対象者に言っておくことにより、ちなみに残るわずかな良心が俺を犯罪行為がしやすいようにドアを少し開けたりしてくれるかなーと思ったんだ」
 ちなみの顔がウンザリから本格的な呆れ顔へ移行していく。
「もしそこまで良心が残っていなかった場合は、覗いていることがばれた際、事前に言っておくことで『まったく、お兄ちゃんってば私がいないとダメなんだからっ☆』という思念を挟み込み、通報を躊躇させるため」
「……はぁー。……話が長いうえ、ただの夢物語とは。……やはりタカシは死んだ方がいい」
「新生お兄ちゃんに酷いことをいうね、この妹は」ナデナデ
「……なでるな」ムスーッ
「聞いた話によると、兄という存在は妹をなで放題らしいよ」ナデナデ
「……そんなことはない」ムスーッ
「楽しいのに」ナデナデ
「……タカシが楽しくなるのと比例して、私の不快感はうなぎ登りだ。……寝てる時に、タカシのパジャマに氷入れてやれ」
「この季節にそれはもはや殺人未遂として逮捕されてもおかしくないぞ」
「……じゃあ、熱湯入れてあげる」
「それは優しさではない」
「……ちゃんと100度だよ?」
「人間が火傷するお湯の温度とか分かる?」
「……実験しないと分からない」
「知的好奇心が旺盛なのはとても結構なことだが、頼むから兄の体で実験しないでくれ」ナデナデ
「……むぅ。……あと、なでるな」
「どうしてもと言うなら、その願い事をきいてやろう」ナデナデ
「……やっぱり、金と名声と永遠の命がいい」
「しまった、“言うことをきく”ではなく、“願い事をきく”なんて言ったために妹の欲望を聞く羽目に! というか、もうちょっと可愛い願い事はないですかね?」
「……かーね。……めーいせい。……えーいえんのいーのち」クイクイ
「くっ……両手でクイクイと服の裾を引っ張られては仕方ない。その願い、叶えよう!」パァァ
「……なんかぱぁぁって言いながら両手をバッて上げた」
「説明しないでください」
「……そして顔を赤らめた」
「ちくしょう」
「……くふふ。……こんな、外から見てる分には愉快なのが兄になったとは。……私の人生、面白くなってきた」
「あー。俺もこんな、外から見てる分には可愛いのが妹になるとは予想だにしなかったよ。むしろ予想谷だよ」
「むしろ……?」
「じゃあ学校でもヨロシクということで。コンゴトモヨロシク。オレサマオマエマルカジリ!」ナデナデ
「……学校で兄妹になったとか言ったら、殺す」
「オレサマオマエマルカジリとか言ったから? 嘘ですよ? 何故なら、俺にカニバリズム的趣味はないから」ナデナデ
「…………」ハァー
「ひゅっ」
「……ちょっとそこ座れ。正座」
「はい」
「……人のため息を吸うな、妖怪」ペチペチ
「すいません、目の前だったので、つい」
「……どうしてタカシはそんなに妖怪なのか。……形式上は私の兄になったのだから、妖怪はほどほどにしてもらわないと困る。……聞いているのか」ペチペチ
「はい、聞いてます。ですから形式上の兄の頭をペチペチしないでください」
「……嫌だ」ペチペチ
「はい」
 おかしい。俺の未来予想によると、兄妹になった瞬間にちなみの妹の才能が開花し『お兄ちゃん、大好きーっ!』となり結婚していたはずなのに、どうして俺は妹の前で正座して、頭をペチペチされているのか。
「……まったく。……これに懲りたら、もう妹のため息を吸わないこと」
「はい。ところでちなみ、これは兄としての言葉なんだが」
「……なに? もう兄貴面してるの?」
「あ、悪い。じゃあ友人としての言葉でもいい。それでも嫌ならクラスメートの言葉でも構わない」
「……まあ、どっちでもいいけど。……なに?」
「俺はいま正座している。そしてちなみは俺の前で立っている、という位置関係だ」
「…………」コクコク
「すると、どうしても俺の頭の位置は低くなり、自然俺の視線も低くなる」
「……だからなに? ……もったいぶらずに早く言え」
「パンツが見えてます」
「……?」
「だから、ちょうど俺の視線上にちなみのしまぱんが存在するため、がっつり見えています。見上げる形になるからね。ちょっと短めのスカートだからね。しまぱんだからね」
「そっ、そういうことは、早く言え、ばかっ」ババッ
 ちなみは素早く座り込み、スカートで先ほどの魅惑の三角ラインを隠してしまった。今はもう見えない素敵なストライプは、それでも俺の脳内シアターで今後連日活躍してくれることだろう。夜のお供とかにね!
「いやはや、言いたかったんだけど、どうしてもパンツから目が離せなくて。とりあえず焼き付け終わったから言った次第です」
「……うー。黙って見てるとか、今日もタカシは卑怯すぐるうえに、えろすぎる。……近く犯される」ペチペチペチ
「この妹は兄を淫獣か何かと勘違いしてやがる。あと、人の頭をペチペチしすぎだ。さすがにちょっと痛え」
「うるさい、ばか。だまれ。しね。はげ」ペチペチペチ
「ええっ、ハゲてる!? まだ高校生なのに!」
「……この連続ペチペチは、毛根に大ダメージとの噂」ペチペチペチ
「助けてぇ!」
「……くふふ。……い、いや違う。さっきのくふふナシ」
「?」
「……うー。……あまり人を楽しませるな、ばか」ムーッ
「特別意識してませんが」
「……う、うるさい。と、とにかく、そ、その。……ば、ばーかばーか」トテテテテ
 何やら妙な捨て台詞を残して、ちなみは部屋から出て行った。……と思ったら、すぐにドアがまた開き、ひょこっとちなみが顔だけ覗かせた。
「どした? 何か忘れ物か?」
「……ま、まあ、そんなもの」
「なんだ? 見られて困るものなら、ちょっと出てるけど」
「……そ、そゆのじゃなくて、えと。……こ、これからよろしく、……お、お兄ちゃん」
「え」
「じゃ、じゃっ!」
 ちなみには似つかわしくない速度で頭が引っ込み、即座にドアが閉められた。
「……ちくしょう。俺の妹は可愛いなあ!」
 ……ドダダダダダ、ガチャッ!
「さっ、叫ぶなっ、ばかっ!」
「あ、はい。すいません」
 なんか真っ赤な顔してる妹に叱られました。

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【ツンデレとみかんを食べたら】

2013年12月30日
 寒い。もう何もしたくない。こうしてコタツに入っていたい。永遠に。
「そう。永久に俺はここにいるのだ……」ブツブツ
「うるさい。さっきから何ブツブツ言ってるのよ。あと夏もコタツ入ってたら熱中症で死ぬわよ」
 人がいい感じに超(すーぱー)☆コタツ引きこもり宣言をしていると、そのコタツの持ち主が冷たい声で俺を現実に引き戻す。
「だが冷たいのは声だけで、足は割合温かい。何故ならコタツに足を突っ込んでいるから」サワサワ
「あっこら、触るな馬鹿!」
「触ってません! 言いがかりだ! これが痴漢冤罪か! 皆さん、これが冤罪です、よく見ててください!」サワサワ
「だから、触ってるでしょ! せめて冤罪って言ってる最中は触るのやめなさい馬鹿!」ゲシッ
「あうちっ」
 蹴られたので足を触るのを中止。ちなみに足で足を触ってました。
「だけど本当は手でしっかりと触りたかった。ふとももとか。勇気が出ない俺をどうか許してくれ」
「うるさい、変態。はぁ、なんで暇だからってこんなの呼んじゃったかなー……」
 ウンザリした顔で、コタツの主であるところのかなみが卓上に手を伸ばした。なんとなく、みかんの入った器をかなみから遠ざける。
「…………」
「…………」
 かなみの顔がゆっくりこちらを向く。視線が絡み合い、火花が散る。戦の合図だ。
「ちょっと。それこっちによこしなさいよ」
「分かった。では、輸送費としてみかんを5個いただきます」
「それじゃ全部なくなっちゃうじゃない! いいからよこせ、馬鹿!」
「みかん亡者ですね。痛っ、痛いっ!? すいません全部献上しますから!」
 コタツの中でいっぱい蹴られたので全面降伏、器ごとみかんを差し出す。
「最初からそうしろ、馬鹿」
 かなみはみかんの皮をむくと、実を口に入れた。
「ん~♪ やっぱみかんはおいしいわね♪」
「俺も食っていい?」
「ダメ」
「丸ごと口に入れて実だけ器用にプププと吐き出し、かなみの口に直接入れる奇芸を見せるから」
「キモいっ! 妖怪かっ! ああもう、分かったわよ。アンタのバカ話も食べてる間は聞かなくて済むし」
「やったね」
 手渡されたみかんをむく。かなみは白い筋も全部取ってるが、俺はそんなの気にせずそのままひょいぱく。おいしい。
「わ、筋取らないで食べた」
「んー、別に気にならないし、食物繊維が豊富と聞くし」
「んー……じゃさ、これだけ食べられる?」
 そう言って、かなみは自分のみかんから取った筋を手に取り、俺に渡した。
「…………。まあ、食えなくはないが、決して楽しいものではないな」モグモグ
「わ、ホントに食べた! 変な奴~!」
「失敬な。別に好んで食べているわけではないぞ?」
 と認識を正しているのに、かなみの奴は既に次の白い筋を取りにかかっている。
「ほらほら、おかわりよ?」
「聞け。俺の話を聞け」
「ほら、あーん?」
「ちくしょう」
 可愛い女の子にあーんと言われると、口を開けてしまう。悲しい男の習性を知り尽くしたかなみの策にしてやられ、再び食物繊維を摂取する羽目に。
「あははっ、また食べた」
「もういいからな。いらないからな。おいしいものじゃないからな」
「分かってるって」ムキムキ
「いいや、分かってないね! 何故なら既に次の白い筋を取りにかかっているから!」
「気のせいよ。……よし、むけた。はい、あーん?」
「ちくしょう。ちくしょう」
 また食べさせられる。おいしくない。甘みがほしい。
「むぐむぐ……。ちっとも楽しくないのに口を開けてしまうのは俺が馬鹿だからか」
「そうよ、ばーかばーか。あははっ」
 ケラケラ笑って、かなみは顔をコタツの天板に頭を乗せた。頬が重みでむにょりとゆがむ。かわいい。
「はぁ。あー……うー。あーもう、本当にコイツといると……」
「うん?」
「なんでもなーいっ。このこのー」ゲシゲシ
「痛い痛い」
 コタツの中で軽く足を蹴られた。文句のひとつでも言ってやろうと思ったが、ケラケラと楽しそうに笑ってるのでまあいいや。
 それに、今はかなみのツインテールで遊ぶほうが先決だ。かなみの髪を一房軽く掴み、毛先を軽く触る。
「うー。何すんのよー」
「体毛を触ってます」
「たいもーとか言うな、ばか」
「む、そりゃそうだ。頭毛を触ってます」
「あたまげ……」
 嫌そうな顔をされた。
「かなみのあたまげは綺麗だな」
「褒められてるけどちっとも嬉しくない……」ムーッ
「女性はあたまげを褒められると喜ばれると聞きましたが」
「馬鹿には無理な芸当よ」
「なんと。なら仕方ない、諦めよう」ナデナデ
「うー。勝手に人の頭をなでるなー」
「嫌なら自爆して俺もろとも死ぬのだな」ナデナデ
「無茶言うなーこのーやめろーばかー」ニコニコ
「わはは」ナデナデ
 俺にされるがままなのにニコニコしてるかなみは可愛いなあ、とか思いながらしばらくなでてました。

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【ツンデレと黒板を消したら】

2013年12月29日
 先日、そこらの鬼より口が悪い女と知り合ってしまった。だが、あんな奴百害あって一利なし。このまま知り合いという細い間柄で過ごし、これ以上仲を深めなければ最低限の被害で済むはず!
「早く黒板を消してください別府くん。何をぼーっとしてるんですか。どうせ想像の中で私をセクハラしているんでしょう死んでください」
 ──って思ってたんだけどなあ。なんだよ日直でコイツと一緒の当番って。
「はぁぁぁぁ……」
「なんですかそのウンザリした顔は。辛気臭いですこちらに顔を向けないでくださいついでに死んでください」
「鬼め。ああもういいや、とっとと終わらせちまおう」
 適当に黒板を拭く。ん、大体おーけー。終わり終わり。
「待ってください。全然綺麗になってないじゃないですか。雑過ぎです。貴方が何事も雑に終えて人生の最後に路傍で朽ち果てるのは勝手ですが、仕事はキチンとしてください」
 軽く手を払って戻ろうとしたら、黒板消しをこちらに向けた女に引き止められた。
「ああ、もう! 分かった、分かったからイチイチ攻撃するない!」
 向けられた黒板消しを半ばひったくるように取り、乱雑に黒板を拭く。だが、黒板に黒板消しの白い軌跡が描かれるばかりで、ちっとも綺麗にならない。
「ええい、こんなのまで俺を馬鹿にしやがる。クリーナーってあったかな……」
 キョロキョロと周囲を見回す。……あ、例の女の側にある。近づきたくないなあ。また死ね死ね言われそうだし。
「…………」
 だが、女は自分の手を見つめたまま固まっている。なんだろう。
「お、おい。どした?」
「…………。い、いえ。……ちょっと、先ほど黒板消しを貴方に取られた際に、手が当たったもので」
「あ、悪い。大丈夫か? 痛かったか?」
「……い、いえ。大丈夫です。痛くないです」
 む? てっきり『何を気遣ったふりして私の手を触ろうとしているんですかキモいです死にます死んでください殺します』とか言われると思ったが、普通の反応だ。
 いつもそういう対応ならこちらも態度を軟化させるのだが、普段が普段だからなあ。なかなかに難しいね。
「……な、何を見ているのですか」
「あ、いや、なんでもない。その、そこのクリーナーを使いたいのだが、いいか?」
「ど、どうぞ。私の物ではないですから」
「そりゃそうだ。逆に私物だと言われたらびっくりするわ」
 俺の軽口に反応することもなく、未だ手を見たり軽くさすったりしている女。……うーむ。
「あのさ、本当に大丈夫か? なんか手を気にしてるみたいだが……爪でも割れたか?」
「だ、大丈夫と言ってます。くどいです。なんですか、私は手を気にするのに貴方の許可がいるのですか。なんて横暴ですか許可を得る代わりに私の身体を貪るつもりですね死んでください」
 1言放つと5、6発返ってきて辛い。もうさっきの普通の反応が懐かしいよ。
「すいません俺が悪かったです。……や、なんでもないならいいんだが、やけに手を気にしているようだからさ。俺の手が当たったのが原因で何かあったのなら悪いし、その」
「な、なんですか私の手がおかしくなったらどうすると言うのですか一生面倒を見るとでも言うのですかそのついでにえっちなことをする気ですね死んでください」
「なんという言いがかりを! ……ていうか一生面倒を見るって、その……」
「……じ、冗談に決まってるじゃないですか。何をまともに受け取っていますかユーモアのセンスぜろですか」
「そ、そうだよな。ははは」
「そ、そうです。は、はは」
 ええい。なんだ、突然現れたこのむず痒空間は。
「……う、うぅ」
 目の前の女も何か困ったように手をさすったりして、こっちをチラチラ見たりなんかしたりして!
 何だ、何のフラグが立ったというのだ。いつの間に立ったというのだ。それとも全ては俺の勘違いなのか。
「か、勘違いしないでよねっ! 俺の勘違いを危惧しているだけなんだからねっ!」
「…………。近寄らないでください伝染ります」
 明らかに後退りされた。シッシともされた。あとフラグが折れた気がした。
「違いますよ!? ちょっと混乱してたので落ち着こうとしたらツンデレ語が出ちゃっただけなんだからねっ」
「まだ残ってます」
「しまった。まあいいや、別に病気じゃなくてただのクセなので伝染るとか言うない」
「馬鹿が伝染ります」
「あー」
「何を納得してますか馬鹿ですか人に言われて納得する程度には馬鹿なんですか馬鹿は生きてる価値がないです死んでください」
 この女はよく口が回るなあ。将来アナウンサーとかになるといいだろうなあ。とか思って現実逃避しないと生きることを挫けてしまいそうになるよ。
「……はぁ。ええと……女。クリーナーを使うからちょっとそこどいてくれるか?」
「嫌です」
「掃除できないのだけど」
「人を性別で区別するような方の言うことは聞きたくないです」
「あ……。い、いやその、名前を知らないんだ。おしえ……」
 はっ。このパターンは『チミの名前を教えてくだたいっ♪』『絶対に御免です私の名前で検索してSNSを調べて個人情報を集めてストーカーの末に目を覆わんばかりの犯罪行為を働くつもりですねその前に死んでください世界のためです』とかいうアレ!
「きいろ」
「はい。え?」
「で、ですから。……篠原きいろ、です。……名前。私の」
「あ、ああ。きいろね、きいろ」
 変な名前、と思ってたら、にわかに女……いや、きいろの顔色が変わった。
「な、馴れ馴れしいですいきなり名前で呼ぶとは何事ですか馬鹿ですか貴方は馬鹿なんですか」
 なんかあわあわしながら俺を指さしてあわあわしてる。つまり、二回言っちゃう程度には慌てている。……ちょっと可愛い、とか思ってしまって悔しい。
「ええと。大丈夫か、きいろ?」
「また呼びましたねなんですか早くも亭主関白気取りですか片腹痛いです私はそういうの困りますし大丈夫ですええとても大丈夫です今日も私は元気です」
「なんか魔女の宅急便が混じってるし、とても大丈夫には見えないぞ。とにかく、なんだ。落ち着け」
「私はいつだって落ち着いてますそうです座右の銘にいつだって落ち着くとあるくらい落ち着いているのですむしろ貴方がもう少し落ち着いて色々思い出した方がいいです」
「待て、座右の銘が変なきいろ! ちょっと目が怖いです! と、とにかく一度落ち着いてだな……」
 ──その時。俺の脳裏になんか変な猫耳娘が現れ、『落ち着くにはなでなでが一番と先日の妹サミットで決まったんだよ、お兄ちゃん!』と囁いた。

 気づいた時には手が動いていた。
「よしよし」ナデナデ
「…………」
「落ち着け」ナデナデ
「…………?」
 不思議そうな顔で俺を見てるきいろ。一方、俺は俺で不思議に思いながらきいろをなでている。どうして俺はこんなナチュラルに今日初めて名を知った奴の頭をなでているのか。
「──っ!?」
 ややあって、きいろの顔が赤一色で染まった。すごいバックステップで思い切り俺から距離を取り、物凄い速度で俺を指そうとしてるが目標が定まらないようで、一見北斗の拳系の技のよう。あべし。
「あ、あ、あ、あ、貴方は、何をーっ!?」
「いや本当に。その、訴訟しない方向で対処して頂けると何かと助かります」
「わ、わざとですか!? わざと私を辱めて楽しんでいるのですか!?」
「いや、辱めるて……いくらなんでも人聞きが悪すぎるだろ。ていうかいきなり女性の頭をなでた俺が全面的に悪いが、きいろはきいろで色々と問題があるかと」
「ま、また名前を!? そういうプレイなのですか!? いくらなんでも気が早過ぎると思いますよ!?」
「何の話だ!?」
 俺の脳裏で『やれやれなのにゃ』と肩をすくめる猫耳娘だった。誰だお前。

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【ツンデレに消しゴムを拾われたら】

2013年12月28日
 英語の授業中。とても眠い。だが、最近寝すぎて先生に目をつけられているため、例えポーズだけでも起きていなければ。ああそれにしても眠い。
 ……そうだ、板書をノートに写して目を覚まそう。えーと、I am a pen、と。斬新なカミングアウトだな……あ、全然違う。寝ボケて見間違えたか。
 消しゴムを筆箱から取り出そうとしたら、手が滑って床に落ちてしまった。慌てて腰を浮かしかけてると、隣の席の女子が拾ってくれた。
「あ、サンキュ」(小声)
「うるさいです殺しますよ」(小声)
 はい、と俺に消しゴムを手渡し、なんでもない顔で授業に戻る女生徒。俺も黒板に向き直る。
「……いやいや、いやいやいや! 違うだろう! そりゃ拾ってくれたことには感謝しますがその感謝に対しうるさい殺しますよはないんじゃないですかねェ!? いやうるさいまでは100歩譲っていいとしても殺されるのはどうしても嫌だ! なぜなら死ぬのはとても怖いから!」
「別府うるさい。座れ」
「はい」
 あまりの納得のいかなさのあまり思わず立ち上がって思いの丈をぶち撒けたら、普通に英語教師に叱られた。
「とてもうるさいです殺します」(小声)
 そしてまた殺意をぶつけられた。睨まれもした。
「……あのさ、俺なんかしたか?」
 このままでは大人しく授業を受けることなんてできやしない。こそこそっと例の女子に耳打ちしようと近寄ったら、その距離だけ離れられた。
「お、おい待て。逃げるな」
「悪臭がします。むしろ死臭です」
「あれ、俺死んでた?」
「はい」
「いつの間に!? 嫌だあ!」
「別府うるさい。座れ」
「はい」
 知らず死んでいた恐怖に再び立ち上がって叫んだらまた怒られたので、座る。あと、よく考えたらこんなので騙される俺が悪い。が、それとこれは別。
「ええい、よくも騙しやがって、この……ええと、名も知らぬ女生徒!」ヒソヒソ
「私だって貴方の名前なんて知らないです」ヒソヒソ
「さっきから教師に名前を呼ばれてますが。口だけじゃなく耳まで悪いのか」
「う、うるさいです死にます死になさい殺します」
 このお嬢さんはすぐに人を殺そうとするので怖いが、ちょっと頬が赤いので恐怖心が薄れた。
「すぐに人を殺そうとするな。それより、どうしてそんなに俺を殺そうとするんだ。アレか、実はお前は悪魔か何かで、俺の魂にすごく価値があるからそれを他の悪魔に奪われまいといち早く俺を殺して魂を取ろうとしているのか」
「邪気眼キモいです」
「…………」
「さらに言うなら、貴方の魂にそんな価値があるとはどうしても思えません。どれだけ自惚れてるんですか。自身を顧みたことないのですか。その上での発言ならもうどうしようもないです、一人で穴でも掘って永遠に埋まっててください」
「…………」
「最後に、授業中です。邪魔しないでください。とても迷惑です」
「うっうっうっ……」ポロポロ
「泣いたッ!?」
 畳み掛けられすぎて思わず涙が出てしまった。そしてそれを大声で言われた。
「うわっ、マジだ! 別府の奴泣いてるぞ!」
「すげぇ、高校生でここまでマジ泣きしてる奴初めて見た」
「別府くんの泣き顔よ! レアよレア! 早く撮らないと!」パシャパシャ
「うわ、調教したい……」ハァハァ
 周囲から聞こえてくる黄色い声に、自らの立ち位置を自覚して死にたくなる。ていうか最後のなんだ。
「どうした別府、お腹でも痛いのか? ほら、便所行って来い」
 そういうわけではないが、ここで晒し者になってるよりマシだ。俺は逃げるように教室から出て行った。

「はぁ……」
 数分時間を潰してから教室に戻る。先ほどの喧騒が嘘のように、教室は静寂を取り戻していた。だが、生徒たちの俺を見るニヤニヤとした顔が夢幻ではなく現実であると知らしめる。
 ただ、ニヤニヤされて悔しいので俺なりの精一杯の愉快な顔をして対抗したのだが、全員一斉に真顔になったので一層辛い。
「ちくしょう」
 さっき泣いたのとはまた別の理由で泣きそうになりながら着席する。今日は厄日だ。大人しく最初から寝てりゃよかった、とか思ってたらツンツンと肩をつつかれた。例の女がボールペンでつついている。
「なんだコンチクショウ。今の俺のは非常に傷心なので、これ以上死ねと言われたら実行しかねないので勘弁してくれると嬉しいです」
「さっきの顔はなんですか?」
 真新しい傷に塩をたっぷり塗り込まれた。
「……なんでもない」
「そうですか。……あの、その。……さっきはごめんなさい。私が言わなかったらあんなことにならなかったですよね?」
 ……びっくりした。この殺します女に、こんな殊勝な態度を取れるとは。
「全くだ。土下座して謝れ。その際全裸でお願いします。支配欲が満たされそうだし、その大きなおっぱいが床でぐにゃりと押しつぶされる様をとても見たいです」
 そこで、全力で大人げない態度をとる。
「…………」ジーッ
「嘘ですごめんなさい」
 養豚場の豚を見る目で見られたので、思わず謝ってしまう。
「……いや違う、なんで俺が謝ってんだ。そうだ、お前が謝るんだ。酷いこと言って泣かせてごめんなさいと言え。あ、泣かせてはやっぱナシで」
「ちょっと言っただけで高校生を泣かせてしまい申し訳ありません」
「ちくしょう」
 謝らせたはずなのに、心は晴れるどころかより一層重くなる。
「ところで、なんであんなので泣けるんですか? 何か秘訣があるのですか? 子供じゃあるまいし、あんなので普通泣けませんよね?」
「俺に恨みでもあるのか」
「はい」
「え? マジ? 何かしたの、俺?」ズイッ
「近寄らないでください真剣にキモいです死にます殺します」
「うっうっうっ……」ポロポロ
「また泣いた!?」
 十数分前の繰り返しになったので割愛。

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【シロ 最初】

2013年12月23日
 先日、うちで飼ってる猫がめでたく化けた。
「にゃあ……にゃうう……くひゅうぅ……」スピャー
 学校から帰ると、俺のベッドで寝息を立てる少女。件の猫、シロだ。
「人が学校行ってる間、ずっと寝てたのか……なんて羨ましい。俺も猫になりてえ」ナデナデ
「んっ……んーっ。……くああああ。……んー。……ん? あっ! にいちゃ! おかえり!」
 シロの目が覚めてしまったようだ。ベッドの上で丸まって寝ていた姿勢から一気にこちらに飛びついてくる。
「うおっ! ……っと。いきなり飛びついたりしたら危ないじゃないか」ナデナデ
「んぅ? 前からしてるが?」ゴロゴロ
「や、今は猫の形をしてないだろ。人の形をしてるなら、それ相応の対応をだな」
「なでなでが止まってるが!」プンスカ
「人の話を聞いてください」ナデナデ
「ぜんしょはするが、やくそくはできない」フンス
「この猫変な言葉使うな」ナデナデ
「んー。んぅー。……ん。ちょと満足。ただあとでまたなでてもらうがな!」ズビシ
 何やらキメ顔で俺に指さした後、シロは床に降りると部屋の中をうろつき出した。
「どした? おしっこなら便所でな」
「ちがう!」
「大きいほうか。そっちも便所でお願いします」
「もっとちがう! なわばりをたんけんちゅう! これだいじ。とてもだいじ」ウンウン
「それはいいが、あまり狭いところへ行くない。詰まるぞ」
「せまい!」フカーッ
「ほら早速挟まった」
 シロはベッドと壁の隙間で一人で動けなくなって勝手に怒っていた。
「ちょっと、にいちゃ! うごけないんだけど!」
「そのようですね」
「うぐぐぐぐ。……そだ」ポヒュ
「お」
「ニャー」
 小さな煙をあげ、シロは元のにゃんこに戻った。かわいい。
「フニャッ」
 小さくなったのでスペースが空き、シロは隙間から簡単に抜け出せた。ベッドの上に軽く跳び乗り、ペロペロと自分の足を舐めて毛づくろいしている。
「かわいい」ナデナデ
「ニャー!」
 可愛かったのでなでたら怒られた。毛づくろい中に触られるのは嫌なようだ。
「すいません」
「ニャムッ。ニャムニ! ンニャー」
 何やらぶつぶつ文句を言ってから、シロは再び毛づくろいを始めた。
「さっきショムニって言った?」
「カーッ!」
「すいません」
 またニャムニャム文句を言ってペロペロ毛を舐めている。
「シロも相手してくれないし、ゲームでもするかな」
 パソコンの電源を入れて椅子に座り、ぼんやり起動を待ってると毛づくろいを終えたシロがトテトテやってきた。
「どしました」
「ンニャッ」ピョイン
「うおっ」
 シロは軽いジャンプで俺の膝に飛び乗り、足をふみふみして丸まった。
「成る程」
「ンゥー。……ンニャッ」ポムッ
「おっ。……おおおおおっ!?」
「うるさい、にいちゃ」(迷惑げ)
「服は!?」
 猫から人になったシロは、普通に裸だった。
「むこうに落ちてるが?」
 そういえばベッドの隙間で猫になったのだから、当然そこに落ちている。
「着てください!」
「いやだ」
「全部見えてますよ!?」
「にいちゃがシロによくじょうしている……!」
「はい」
「はいときた」
「だってシロってつるぺたじゃないですか。そりゃ興奮しますよ」
「にいちゃがじゅうかんをすいしょうするー……」プルプル
「こいつの言語感覚変だな。何で学んだ」
「まあいいや。ふくを着ろというなら着る。ぺっとのしゅくめい。かなしい」
 シロは俺から離れると、ベッドの上に四つん這いになって服を取ろうとした。
「後ろから見たら何もかも丸見えですが!!!」
「とてもうるさい! あまりのうるささにシロはねむくなってきた!」フカーッ
「いや、それはおかしい」
「いわれてみるとそのとおり。だまされた!」フカーッ
「いいから早く服を拾って着てください」
「シロのすじはもう見なくてもヘーキか、にいちゃ?」
「コイツわざとか」
「のうさつ!」ウッフーン
 シロがハニワのポーズを取った。
「いいから服を着ろ」
「しっぱい……」ションボリ
「いいから」
「いま着てるとこ!」
 シロは服に手をかけ、頭からかぶった。
「今日もふくのやろうシロにはむかう!」フカーッ
 そして今日も頭の出口を見失っていた。
「ほら、落ち着け」
 仕方ないのでシロの頭を服の穴に誘導してやる。
「……んっ! まったく、ふくのやろーは……あっ、にいちゃ! あははー、にいちゃ!」ペチペチ
「人の顔を叩かないでください」
「むちゃをいうものではない!」ペチペチ
「無茶なのか」
「んー。ちゅーしていい?」
「ダメです」ナデナデ
「しかたない。しょくごにしよう」
「そういうことじゃない」
「……ねるとき?」
「違います」
「まえはしてくれたのに! まいにち!」ドタバタ
「はいはい」ナデナデ
「うぐぐぐ。あまりなでるものではない。ふまんがきえる」
「そりゃ初耳だ」ナデナデ
「あああ。あああああ」ゴロゴロ
 何やら恍惚とした表情をしている猫娘をしばらくなでてました。

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