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2026年03月21日
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【男とツンデレの相合い傘】

2010年01月29日
 急な雨に困ったなあと思わせつつ、天気予報を見ていたので傘を持ってる俺は優等生。
 そんな優等生が鼻歌交じりに帰宅途中、困った顔をした知り合いが雨宿りしてるのを見つけたので困った。
 いや、普通に声をかければいい話なのだが、生憎とその知り合いは普通に声をかけても面倒くさいことになってしまうのだ。何、信じられない? じゃあやってみるぞ。(幻聴と会話中)
「よっ、ふみ。傘持ってこなかったのか?」
 知り合い──ふみは俺の声に気づくと、くるりとこちらを向いた。やる気なさげな半眼が俺を見つめている。
「……誰かと思ったらおにーさんですか。用がないなら帰ってください。これは秘密ですが、おにーさんが私の視界に入ってると不愉快なんです」
「その秘密は墓まで持っていけ!」
 ほら見ろ、とんでもないことになった。
「それで、私に声をかけてどうするつもりですか。略取ですか。未成年者略取ですか。高校生が中学生を略取していいんですか」
「人を犯罪者扱いするのはやめてほしいです」
「おにーさんだけです、こんなこと言うの」
 特別扱いが裏目に出た。
「はぁ……なんでもいいから、俺の傘に入ってけ。知らない顔ならまだしも、知ってる奴、しかも年下の子供を放って帰ったりしたら、枕を高くして寝れないんだよ」
「子供じゃないです。中学生です」
「そうやってムキになるところが子供」
「えい」
「危なっ! 危なあっ!」
 淡々と目を狙ってきやがった。怖すぎる。
「中学生です。大人です」
「は、はい。ふみは大人です」
「それでいいんです」
 満足げに鼻息を漏らす様子は、どう見ても子供だった。言うと失明するから言わないけど。
「それより、私をほっといても平気なよい案が浮かんだので聞きなさい」
「嫌な予感がするが、まあいいや。何だ?」
「寝なければいいんです。ぐっどあいであ」
 予感は予想通り当たった。
「ばっどあいであ。何故なら人間は寝ないと死ぬから」
「それを含めての、ぐっどあいであ」
 とりあえずほっぺをぐにーっと引っ張ってやる。
「体罰です。おにーさん最悪です」
「気にするな」
「します。しまくりです。一生気にします。裁判沙汰です。勝訴しました。一億円で手打ちです。臓器売りまくりで、おにーさん可哀想」
 ふみの中で俺の人生が大変なことに。
「傘に入れてやるから、訴訟は取り下げる方向で」
「……入れて“やる”?」
「どうか私めの貧相な傘の中に入ってください。ついでと言ってはなんですが、訴訟も取り下げていただけると何かと助かります」
「まあ、そこまで言うなら」
 ようやっとふみは重い腰を上げ、俺の傘に入ってくれた。やれやれだ。
 ふみの体は小さいのだけど、それでも傘ひとつに人間ふたりとなると、やはり濡れない面積は限られてくる。ばれないよう少しだけふみの方に傘をずらし、ふみを濡れないようにする。
「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん。……雨は嫌いじゃないです」
「好きな人と相合傘できるから?」
 鳥類あたりなら悶死する視線を向けられたので、違うみたい。
「……世界が静かになるからです。傘の内側と外側、その隔てられた世界で、雨粒が傘に当たる音を静かに聞く。……わびさびです」
「子供のくせに枯れてんなあ」
「子供じゃないです。失明したいんですか」
「ごめんなさい」
「まったく、懲りない人です……あれ?」
「ん? どうかしたか?」
 ふみは何かに気づいたようで、無言で俺をじーっと見つめている。なんだか嫌な予感がするよパトラッシュ。
「……どうしておにーさんの肩が濡れてるんですか」
「肩だけ異常に発汗する体質なんだ」
「……どうして左肩だけ濡れてるんですか」
「訂正。左肩だけ異常に発汗する体質なんだ」
「……どうして傘を私の方に傾けてるんですか」
 ああもう。これだから無駄に賢しい奴は。
「女の子なんだから体冷やしても面白いことひとつもねーぞ」
「……どうして、おにーさんは私に優しくするんですか?」
 一呼吸置いて、ふみはゆっくりとした口調で俺に尋ねた。
「善人だから」
 一瞬にして様々な答えが浮かんだが、その中で一番無難な答えを選ぶ。
「……自分で善人と言う人に、善人はいません。おにーさんは偽善者です」
「偽善者でも、ふみの体が冷えなけりゃそれでいーや」
 ふみはちょっとふてくされたような様な顔をしながら、数度俺の顔を見た。
「……おにーさんはずるいです。そーゆーこと言われたら、返しようがないです」
「大人はずるいのさ」
「……むぅ」
 ふみは少しだけほっぺを膨らませると、俺が握っている傘の柄に自分の手を重ねた。
「お、おい」
「……し、出血大さーびす。中学生の柔肌に、おにーさんうはうは」
「時々おやじ臭いな、お前」
「嫌なら手、離しますけど」
「んなこたぁ言ってませんよ!?」
「……ならいーです。さ、早く帰りましょう」
「あ、ああ」
 それから、世間話をしながら帰ったと思うんだけど、意識の大半をふみの柔らかな手に持っていかれたのでよく覚えていない。

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【あぶく銭が入った男とそれを嗅ぎ付けたツンデレ】

2010年01月29日
 宝くじで! 当選して! お金が! 沢山! 潤沢に! 手に入った!
 その翌日、目覚めると枕元にふみの顔。
「うわらばっ!?」
「うわらば?」
「あ、いや……え? なんでふみがここにいるの?」
「ふむ。おにーさんは私の存在を否定しますか。じゃ、私は全身全霊でそれに対抗します。とー」
 極めてやる気のない声をあげながら俺の目を潰そうとする知り合いの魔の手から必死で逃げる。
「そんなつもりはありません! ありませんとも!」
「なんだ。おにーさんは紛らわしいです。反省してください」
 朝っぱらから人の命を奪おうとする行為の方が反省に値すると思います。言うと怖いので言わないけど。
「まったく……で、何用ですか」
「おにーさん、宝くじが当たったそうですね」
「いいえ」
「……どうして顔を背けるんですか」
「ふみの顔があまりに美しすぎて、直視するのが難しいんだ」
「男性なら美しい女性におごるのが当然ですよね、おにーさん」
「ロリ趣味だから美しい女性よりも可愛らしい女性のほうが好みなんだ」
「幸いなことに私はロリ系なので、可愛い系ですよ、おにーさん」
 普段は子供扱いしたら怒るくせに、こういう時だけ自分の武器を使いやがる。
「……欲求は」
「おにーさんのお金で贅沢三昧」
「ものすごく真っ直ぐに金をせびるその気概が気に入った! 分かった、今日は一日ふみとデートだ!」
「デートじゃないです。放蕩三昧です。おにーさんは財布です」
「デートなら行く」
「じゃ、来なくていいんで財布だけください」
「そんな青いサイバーロボネコのポケットなしみたいな扱いは嫌だあ!」
「ぐだぐだ言ってると昏倒させて財布だけ奪いますよ」
 脅迫されたので、着替えて出かけることに。
「さて。おにーさん、何を買いますか。あのビル買いますか。入ってるテナントもこの不況で少ないし、安いと思いますよ」
「買わない」
「おにーさん、ケチです……」
 無茶を言うふみを引き連れ、近所のモールにやってきた。
「ここを買うんですか。……10億くらいいるんじゃないですか? お金足ります?」
「なんでお前はすぐに店を買おうとする」
「昨日、いただきストリートをやったので」
 ああ、と納得しそうになる自分が嫌。
「まー、デートだしここで軽く飯でもと思いまして」
「デートじゃないです」
「クレープか。美味そうだな」
「……デートではないですが、おにーさんがどうしてもと言うのであれば食べてあげます」
 表面上は嫌がるふみと一緒にクレープ屋台の前に並ぶ。休日ということもあってか、そこそこの列ができていた。
「おにーさん、お金を投げて並んでる愚民たちを追い払ってください」
「酷い成金もいたものだ」
「早くしないとクレープが売り切れます」
「そう簡単に売り切れねーよ」
「売り切れたらおにーさんのせいです。一生恨みます。その上で財布も奪います」
 ことあるごとに人の財布を付け狙うふみだったが、幸いにしてそのような事態にはならなかった。
「さて。何にするかなー」
「私はバナナカスタード。おにーさんには梅昆布茶をひたひたに浸した生地のバナナカスタードを」
「和洋折衷の均衡が崩れた!?」
 しかし、そんなメニューはなかったのでイチゴジャムを注文する。
「はむはむ。……おいしーです」
「そいつは重畳」
 おいしそうにクレープを食べるふみの頭をなでながら、俺も自分のクレープを食べる。数年ぶりだが、昔と変わらずおいしかった。
「おにーさん、この店舗を買い取るべきです。いつでもこの味を楽しめます」
「だから、すぐに店を買おうとするな。どんな衝動買いだ」
「おにーさん、宝くじ当たったのに全然お金使ってません。お金腐りますよ?」
「腐らねーよ。それに、金ならさっき使ったじゃんか」
「こんなの、全体のちょっぴーりです。全然、ぜーんぜんです」
「しかし、もう残りも2万と……9000円ちょいだしなあ」
 はむはむしてるふみの動きがぴたりと止まった。
「……おにーさん、宝くじ、いくら当たったんですか」
「沢山」
「……具体的な数字を」
「三万円」
「全然たくさんじゃないです! そんなの、ちょっと遊んだらすぐなくなっちゃいます!」
「え、いやでも、高校生に三万円ってお前、結構な額だぞ? バイト半月分くらいには」
「うー……一生たかるつもりだったのに。計画が崩れました」
「まあまあ。少なくとも、数ヶ月は遊べる額だぞ?」
「……しょうがないです。数ヶ月たかってやります」
「うむ。数ヶ月デートしましょう」
「デートじゃないです」
「ふみ、口にカスタードついてる」
 指でついてたクリームを拭ってやる。そして、そのクリームをぺろりと舐める。甘い。
「デートじゃないのにデートっぽいことされました。恨みます」
「じゃあ、黙ってて道行く通行人たちに心の中で笑われた方がよかったか?」
「……ハンカチとかでさらりと拭うと、エレガントです」
「エレガント率は極めて低いから、ハンカチを携帯してないなあ」
「じゃ、今日はそれを買いにいきましょう。私が見立ててあげます」
「実にデートっぽくなってきましたな!」
「デートじゃないです」
 再三デートじゃないと繰り返すふみと一緒にデートをしました。アンパンマンハンカチ買わされた。
「ふみ……あの、このハンカチ」
「おにーさんの精神年齢にぴったり。お似合いです」
 色々言い返したかったが、嬉しそうに笑うふみを見てると、何の文句も出なくなってしまうから女の子はずるい。
「明日から学校にも持っていってください。おにーさんが手を洗うたび巻き起こる失笑……私も高校生ならよかったです」
 流石に文句言った。
「むー」
 可愛くむくれられたので、学校に持って行くことになってしまった。畜生。

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【沙夜 エイプリルフール】

2010年01月29日
 今日はエイプリルフールだ。4月1日ったらそうなんだ。
 そんなわけで、何か嘘をつきたいらしく、さっきから幼馴染の沙夜が俺の部屋で腕を組んで考えている。
「あのさ、沙夜。別にいいんだが、なんで俺の部屋で考えてるんだ? 自分の部屋の方が落ち着くだろ」
 そう言いながら近寄ると、沙夜は怒ったように手を振り回した。邪魔してほしくないらしい。
「分かった、分かったよ。邪魔しねーから存分に考えてくれ」
 困ったなぁ、と思いながら漫画でも読んで時間を潰す。
「……ん?」
 数冊読み終え、次の漫画を取ろうと腕を伸ばしてたら、沙夜がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「思いついたか。さあ、この嘘王のお眼鏡に適う嘘はつけるかな?」
 沙夜は鼻息をばふーと吐くと、意を決したように両手で握りこぶしを作った。やる気充分だな。
 しかし、こいつは基本的に喋るのが好きじゃない。いったいどうやって嘘をつくのかと思っていたら、沙夜は顔をぷいっとそむけた。
「……えーと?」
 どういう意図なのか分からず困っていると、沙夜も同じように困っていた。そして、もう一度顔をぷいっとそむけた。
「うーん……はっ! まさか、俺に愛想をつかしたってサインか!?」
 沙夜は嬉しそうにコクコク頷いた。いや、嬉しそうにするな。一応愛想つかしてるんだろ。
 さて、どうしよう。これに乗って俺からも離れるフリをするってのも手だが、頑なに嫌がるのも面白そうだ。
「嫌だ! 俺は沙夜と離れたくない!」
 俺内部での協議の結果、後者を採ることに決定。沙夜のちっこい体をぎゅっと抱きしめ、すりすりしてみる。
「っ!? …………」
 沙夜は困惑した様子で小さく腕を動かしたが、それ以上強い反抗はしてこなかった。
「……♪」
 それどころか、俺の背中に腕を回し、嬉しそうに抱きついてくる始末。
「いや、沙夜さん。なんで普通に抱っこしかえしてんだ」
「?」
「お前は俺に愛想をつかしてるんだろ? じゃあ、嫌がらないと」
 沙夜は悲しそうな顔をした。
「そんな顔してもダメだ。お前は俺のことが嫌い、でも俺は沙夜のことが好き、って設定で」
 沙夜はほんのり頬を染めた。
「赤くなるな。設定だ、設定。じゃ、開始ー」
 沙夜から離れ、ぱんと手を叩く。沙夜はわたわたした後、居住まいを正した。そして、三度顔をぷいっとそらした。
「おまいはそればっかか」
 沙夜の眉毛が情けない八の字を描く。
「まあいいや。……こほん。例え愛想をつかされているとしても、俺はお前と一緒にいたいよ」
 沙夜は阿呆みたいに口をほけーっと開けたまま俺を見た。ちょっと心が折れそうだけど、頑張る。
「な、沙夜。俺のダメなところ、教えてくれないか? 頑張って直すから、これからも一緒にいさせてくれないか?」
 沙夜の手を握り、真摯に訴えかけてみる。冷静になると死にそうなので、全力で自分を騙す。
「……! ……!」
 沙夜はあわあわしながら俺の手と顔を交互に見た。
「沙夜……」
 なんかもう茹でタコみたいに赤くなってる沙夜に、優しく囁きかける。
「…………」(むちゅー)
「なんでやねん」
 そっと目をつむり、唇を突き出す沙夜のでこにチョップ。
「……! ……!」
 沙夜はおでこを押さえ、半泣きで怒った。
「怒るな。おまいは俺を嫌ってるって設定だろうが。なんでキス待ち状態になってんだよ」
「…………」
 不満げな様子で、沙夜は俺を見た。
「じゃ、も一回な。次はちゃんとしろよ?」
 コクコクうなずくのを確認してから、数度咳払い。
「ん、んん……沙夜。どうか俺とずっと一緒にいてくれないか?」
 沙夜はニコニコ笑いながら俺に抱きついてきた。ほっぺすりすりのサービスも追加ときたもんだ。
「テメェ、実はもうやる気ねーだろ!」
「♪♪♪」
 ひたすら嬉しそうな沙夜だった。

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【ゲリラ豪雨とツンデレ】

2010年01月29日
 授業も終わったのでさて帰ろうと下駄箱で靴を履き替えてたら、突如信じられないほどの勢いで雨が降ってきた。
「うあ……なんだこの雨。すっげーなあ」
 まさにいま俺が言おうとした台詞を言われた。この俺様と全く同じ心象風景を持った人物とは何者だと隣を見たら、級友のみおがいた。
 口をあんぐりと開け、ぽかーんと空を見上げている様は、あまりおにゃのこらしいとは言えない。とはいえ、それもみおの魅力のひとつなのかもしれないが。
「おす、みお」
「うあ、さらに別府まで追加か。最悪じゃん」
 みおは俺の姿を認めると、嫌そうに顔をしかめた。
「いや、俺は別に空から降ったりはしない」
「んな意味で言ってんじゃねー!」
「しかし、これから先何かの弾みでスカイダイビングをするかもしれないので、将来的には空から降るかもしれない」
「そのままパラシュートが開かなけりゃいいのに……」
「その時はどうにかして軌道を曲げ、絶対にみおの家に降るから覚悟しろ」
 みおが大変に嫌そうな顔をしたのに満足したのはいいが、そんなことをしたところで雨が止むはずもなく。
「みお、傘は?」
「あるけど、こんなすげーゲリラ豪雨じゃ意味ねーよ」
「えっ、ゲリラが降らしてるの!?」
「ちげー! 突然降ってくる雨をそう言うんだよ!」
「知ってるけど、一応驚いてあげた方が喜ぶかなと思ったんだ」
「喜ばねーよ! ……あーもー、オマエといたら疲れるよ」
「不思議だね。さて、どうするかな」
 ……んー、少し待ってたら雨の勢いも多少は治まるかもしれないし、どこかで時間を潰すか。
 ちらりと隣を見ると、みおも俺と同じ考えを持ったのか、こちらと目が合った。
「みお、一緒に」
「ぜってーヤだ」
「子作りしようよ」
「絶対に嫌だ!!!!!」
 物凄く嫌がられた。
「ちげーだろ! なんか別のこと言おうとしただろ!」
「いや、提案する前に断られたし、いっそ絶対に受け入れられないであろうことを言ったら逆に受け入れられると思ったんだけど、否定の要素が強くなっただけで残念無念」
「当たり前だろーが! バカ!」
 何か言うたびに怒られる。
「そうじゃなくて、少し時間を潰して雨の勢いが治まるのを一緒に待とうと言おうとしたんですよ」
「やっぱか。でも、オマエと一緒なんて嫌だ」
「学校で時間潰せる所……図書室か?」
「い、嫌だって言ってるのになんでオレの手握ってんだバカ!」
 このまま一人で時間を潰すのもなんだかなあと思ったので、逃さぬようにみおの手をきゅっと握ってはみたものの、頬を染められて急に恥ずかしくなってきた。
「友達に見られて噂とかされると恥ずかしい」
「オマエが握ってんだ! オレが恥ずかしいの!」
 なんかみゃーみゃー言ってるみおを引き連れ、図書室へ。俺たちと一緒の考えを持った奴も多いのか、普段より少し騒がしい室内だった。
「だっ、だから握るなって! 逃げないから!」
 その中でも最も騒がしい人物が俺の手から必死に逃れようともがいている。
「みお、図書室では静かに」
「みゅ……わ、分かったよ」
 指を自分の口に押し当て、しーっというジェスチャーをしたら途端に静かになった。これで結構素直で可愛いなあチクショウ! なんだよ、みゅって!
 などという俺内部動揺を悟られないよう、最大限のさりげなさで室内に滑り込もうとしたら、雨で床が濡れていたのかすーっと足が滑り、みおと一緒に大きくバランスを崩す。
「みゃー!?」
 このままではみおが痛い思いをしてしまうので、咄嗟の機転でみおの下に滑り込もうとしたが、全然間に合わなかった。
「みぎゃっ! みぎゃっ!?」
 しかも、倒れたみおの上に俺が倒れてしまう始末。なんたる様。
「みゅーっ! 痛い重い痛い重いー!」
「いや、それが俺は痛くない上に柔らかくてとても気持ちがいい」
「ひゃうっ!? ばばばばかっ、どけっ、どけーっ!」
「でもですね、みおさん。こんな心地よい場所がよもや現世にあるとは思わなかったんで、体の野郎が言うことを聞かないんです。こんな場合どうしたらいいんでしょうか」
「みゃーっ!? すりすりすんなっ、すりすりすんなあっ!」
「……いかん、ムラムラしてきた」
「みーっ!?」
 もうこうなったら勢いに任せて色々しちゃおうかと思った瞬間、部屋中の視線が俺たちに集まっていることにようやっと気づいた。
「……あー、いやはや。偶然って怖いですよね」
「偶然じゃねー! ぜってーオマエわざとだろ!」
「別府くん、ちょっと来なさい。みおちゃんも」
「はい」
「なんでオレも!?」
 司書さんに連れられ、部屋の奥で大変に叱られた。

 やっと解放された頃には、雨はすっかりあがっていた。あれほど騒がしかった図書室も、しんと静まり返っている。
「なんでオレまで叱られなくちゃいけなかったんだよぉ……みゅー」
「ぐっ」
「むー?」
 ぐったりした様子で俺を見るみおだったが、こちらとしては悲しそうな鳴き声に反応しないよう、鼻をぎゅーっと押さえるのに忙しい。
「はぁ……まーいーや。いーか、今後オレに近づくんじゃねーぞ?」
「悲しいことを言う娘め……まあいいや、今後は約4万km離れるよ」
 そう言いながら、みおにぴたーっと近づく。
「バカみたいな距離言いながらすっげー近づいてるじゃねーか!」
「しまった、偶然言った距離がちょうど地球一周分の距離だったため、逆に近づく羽目に!」
「わざとだろ、ぜってーわざとだろ、このバカ!」
「くんかくんかくんか」
「頭におうなーっ!」
「大丈夫、今日もいい匂いだ。健康体で二重丸!」
「鼻チョップ鼻チョップ鼻ちょーっぷっ!」
「やっ、はっ、ほっ」
「防御すんな、ばかーっ!」
 何度も繰り出される鼻チョップを受け流しまくる放課後だった。

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【自分の名前が気に入らないツンデレにそんなことないよ俺は好きだよって言ったら】

2010年01月28日
 ボクっ娘と一緒に帰宅中、不意に件の娘がため息をついてるのにきずいた。
「せいやっ! せいやあっ!」
「うわあああ!? なになに、何事!?」
「いや、気づいたと言おうとしたのだけど、変換を誤って築いたと言ってしまったので、仕方なく梓の頭に煎り豆を築きあげてる最中です」
「色々ダメだよこの人!?」
 全くその通りと思ったので、煎り豆砦の建築は中止する。果てしなく防衛力なさそうだし。
「まったくもー……どしたの、その豆」
「おやつ。家から持ってきた」
「タカシはへーわだねぇ……一個ちょーだい」
「いいぞ。はい、あーん」
「…………」
 梓は無言で俺から豆をひったくり、口の中に入れた。
「なんて酷い奴だ」
「あーんなんてするわけないだろ、ばかっ!」
「いや、する。特に歯医者とかでならしまくる」
「誰でもそうだよ、そんなの!」
「なんだ。それよりだな、梓の人。何か悩み事があるなら俺に言え。解決は期待するな」
「まるで話そうと思えない前置きを言うな、ばかっ! ……いちおー言うけど」
 言うのか。
「……あのね、ボクって名前、梓っていうじゃん?」
「初耳だ」
「タカシさっきから梓あずさって言ってるじゃんか! ふつーに受け答えしろよ!」
「任せろ、得意だ」
「…………」
 俺がこう言うと、誰が相手でも大概ジト目で見られます。
「……まあいいや、タカシだし。あのね、ボク梓って名前があんまり好きじゃないんだ」
「なんだと!? じゃあ俺はタカシって名前が異常に嫌いだ。その名を聞いただけでも虫唾が走るのに、その名を俺が持っているせいで常に虫唾が走り、故に体が痒い」
「なんで無駄に対抗すんだよっ!」
「だが実際は昨日体を洗うの面倒だから洗っておらず、そのせいで体が痒い」
「うるさいっ! 今はボクが悩み事を話すターンなの!」
 叱られたので黙る。
「……えーと。あ、そーそー。ボクの名前の話だ。タカシはどう? ボクの名前」
「あずにゃんって名前なら既に婚姻届を出してるが、梓という珍妙な名前のせいで基本的には心の中は恨み言でいっぱいだ」
「珍妙なのはあずにゃんって名前の方だし、なんで梓って名前だけで恨まれてるんだよっ! ていうかボケは一回につき一つにしろっ! つっこみが大変だよっ!」
 何について怒られているんでしょうね。
「冗談はさておき、俺は梓って名前好きだよ」
「ふぇっ!?」
「そう、笛」
「何が!?」
 そんなものは俺にだって分からない。
「そ、それよりさっき! す、す、す、好きって! タカシ、好きって言った!」
「いや、言ってない」
「堂々と嘘つくなっ! ど、どしよ……うわわ、心臓ばくばく言ってる」
「あー……何か勘違いしているようなので一応訂正しておきますが、名前の話ですよ、好きって言ったの」
「へ? ……え、えと、そんなの分かりまくりだもん。わざとだもん。タカシを騙しただけだもん」
 羞恥のためか、梓は顔を真っ赤にして俺を見た。
「……でも、そっか。タカシはボクの名前好きなんだ。ねー、そんな好きならさ、特別にボクの名前呼ぶの許可してあげる。いっぱい呼んでいーよ?」
「梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓」
「怖い怖い怖いっ! なんで無表情で連呼すんだよっ!」
「ごめん。次から携帯に非通知で真夜中に連呼する」
「それだけで一本ホラー映画作れそうなくらい怖いよっ! もっと普通に言えっ!」
「わーったよ。……こほん、梓」
 優しく呼びかけてみると、梓の顔がほにゃーっと蕩けた。
「え、えへ、えへへ……えへへへっ♪ ねーねー、もっかい呼んでもいーよ?」
「いえ、一度で充分です」
「言っていーってばさ。ほらほら」
「いや、だから」
 充分と言ったのに、何度も何度も何度も呼ばされた。その度ほにゃーっとなるので、こちらも思わずほにゃーっとなりそうで大変でした。

拍手[10回]