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2019年10月15日
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【男とツンデレの相合い傘】

2010年01月29日
 急な雨に困ったなあと思わせつつ、天気予報を見ていたので傘を持ってる俺は優等生。
 そんな優等生が鼻歌交じりに帰宅途中、困った顔をした知り合いが雨宿りしてるのを見つけたので困った。
 いや、普通に声をかければいい話なのだが、生憎とその知り合いは普通に声をかけても面倒くさいことになってしまうのだ。何、信じられない? じゃあやってみるぞ。(幻聴と会話中)
「よっ、ふみ。傘持ってこなかったのか?」
 知り合い──ふみは俺の声に気づくと、くるりとこちらを向いた。やる気なさげな半眼が俺を見つめている。
「……誰かと思ったらおにーさんですか。用がないなら帰ってください。これは秘密ですが、おにーさんが私の視界に入ってると不愉快なんです」
「その秘密は墓まで持っていけ!」
 ほら見ろ、とんでもないことになった。
「それで、私に声をかけてどうするつもりですか。略取ですか。未成年者略取ですか。高校生が中学生を略取していいんですか」
「人を犯罪者扱いするのはやめてほしいです」
「おにーさんだけです、こんなこと言うの」
 特別扱いが裏目に出た。
「はぁ……なんでもいいから、俺の傘に入ってけ。知らない顔ならまだしも、知ってる奴、しかも年下の子供を放って帰ったりしたら、枕を高くして寝れないんだよ」
「子供じゃないです。中学生です」
「そうやってムキになるところが子供」
「えい」
「危なっ! 危なあっ!」
 淡々と目を狙ってきやがった。怖すぎる。
「中学生です。大人です」
「は、はい。ふみは大人です」
「それでいいんです」
 満足げに鼻息を漏らす様子は、どう見ても子供だった。言うと失明するから言わないけど。
「それより、私をほっといても平気なよい案が浮かんだので聞きなさい」
「嫌な予感がするが、まあいいや。何だ?」
「寝なければいいんです。ぐっどあいであ」
 予感は予想通り当たった。
「ばっどあいであ。何故なら人間は寝ないと死ぬから」
「それを含めての、ぐっどあいであ」
 とりあえずほっぺをぐにーっと引っ張ってやる。
「体罰です。おにーさん最悪です」
「気にするな」
「します。しまくりです。一生気にします。裁判沙汰です。勝訴しました。一億円で手打ちです。臓器売りまくりで、おにーさん可哀想」
 ふみの中で俺の人生が大変なことに。
「傘に入れてやるから、訴訟は取り下げる方向で」
「……入れて“やる”?」
「どうか私めの貧相な傘の中に入ってください。ついでと言ってはなんですが、訴訟も取り下げていただけると何かと助かります」
「まあ、そこまで言うなら」
 ようやっとふみは重い腰を上げ、俺の傘に入ってくれた。やれやれだ。
 ふみの体は小さいのだけど、それでも傘ひとつに人間ふたりとなると、やはり濡れない面積は限られてくる。ばれないよう少しだけふみの方に傘をずらし、ふみを濡れないようにする。
「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん。……雨は嫌いじゃないです」
「好きな人と相合傘できるから?」
 鳥類あたりなら悶死する視線を向けられたので、違うみたい。
「……世界が静かになるからです。傘の内側と外側、その隔てられた世界で、雨粒が傘に当たる音を静かに聞く。……わびさびです」
「子供のくせに枯れてんなあ」
「子供じゃないです。失明したいんですか」
「ごめんなさい」
「まったく、懲りない人です……あれ?」
「ん? どうかしたか?」
 ふみは何かに気づいたようで、無言で俺をじーっと見つめている。なんだか嫌な予感がするよパトラッシュ。
「……どうしておにーさんの肩が濡れてるんですか」
「肩だけ異常に発汗する体質なんだ」
「……どうして左肩だけ濡れてるんですか」
「訂正。左肩だけ異常に発汗する体質なんだ」
「……どうして傘を私の方に傾けてるんですか」
 ああもう。これだから無駄に賢しい奴は。
「女の子なんだから体冷やしても面白いことひとつもねーぞ」
「……どうして、おにーさんは私に優しくするんですか?」
 一呼吸置いて、ふみはゆっくりとした口調で俺に尋ねた。
「善人だから」
 一瞬にして様々な答えが浮かんだが、その中で一番無難な答えを選ぶ。
「……自分で善人と言う人に、善人はいません。おにーさんは偽善者です」
「偽善者でも、ふみの体が冷えなけりゃそれでいーや」
 ふみはちょっとふてくされたような様な顔をしながら、数度俺の顔を見た。
「……おにーさんはずるいです。そーゆーこと言われたら、返しようがないです」
「大人はずるいのさ」
「……むぅ」
 ふみは少しだけほっぺを膨らませると、俺が握っている傘の柄に自分の手を重ねた。
「お、おい」
「……し、出血大さーびす。中学生の柔肌に、おにーさんうはうは」
「時々おやじ臭いな、お前」
「嫌なら手、離しますけど」
「んなこたぁ言ってませんよ!?」
「……ならいーです。さ、早く帰りましょう」
「あ、ああ」
 それから、世間話をしながら帰ったと思うんだけど、意識の大半をふみの柔らかな手に持っていかれたのでよく覚えていない。

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ふみはふみでもうふみのカテゴリを作ってしまってはどうだろう?
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