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2026年03月21日
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【寒いので何とか男にくっつきたいツンデレと、ごく普通にくっつくデレデレ】
2010年02月06日
急に冷え込んだ日と暖房器具が壊れた日が同時なのはどんな冗談だ。
「ふふ、外気温と部屋の温度が同じだ」
布団に入ってぶるぶる震えてたら、ぴんぽーんがちゃどたどたばたん! という擬音がした。
「お兄ちゃん遊べ!」
果たして、隣に住んでるちみっこ、夕美が水平気味に飛んできて俺の腹部に着地するので大変痛い!
「腸が出た!」
「……出てないよ?」
布団と服を捲り上げられ、確認された。
「夕美さんえっちです」
「嫁なのでへーきだよ!」
「嫁じゃないです。ただの……ただの、なんだろ? お隣さん?」
「のー! 嫁だよ! あと、ねこ! にゃー!」
そう言って、夕美は以前俺が冗談でやったネコミミを手でヒクヒクさせた。暇さえあれば付けてるので、困るやら嬉しいやら嬉しすぎるぞコンチクショウ。
「それはともかく、嫁ではないと言っとろーが」
「むぬー」
手の平を夕美の顔に押し付けると、変な声が出た。スイッチ?
「夕美は顔にスイッチがあるのか?」
「それはどうかにゃ? 確かめてみるべきだよ、お兄ちゃん! 舌とかで!」
「それは楽しそうだ! では早速」
何か間違っているような気がしないでもないが、楽しそうなのでいそいそと夕美を布団に招き入れていたら、ドアが勢いよく開いて見覚えのある顔が見えました。
「そこまでだ別府タカシ! 私の目が黒いうちは性的虐待なんて許さん……なっ、遅かったか!」
ニコニコしながら俺の膝に乗ってる夕美を見て何を勘違いしたのか、みことが俺の元まで走り寄り、俺の肩をがっくんがっくん揺する。
「貴様、なんということを……両親は泣いているぞ!」
「ふにゃにゃにゃにゃ、ゆ~れ~る~」
「夕美の尻が! 尻が俺の素敵秘密棒を刺激し、大変なことになりそうな予感!」
誰もが混乱していたという。
「少し落ち着こう」
「わっ、私は悪くないぞ! そもそも、貴様が夕美ちゃんを乗せたりなぞしなければ勘違いしなかったものを……」
そう言って視線を夕美に向けるが、依然として目をぐるぐる回している。
「ふにゅ~……おめめぐるぐるするる~」
「媚び所を分かっている娘め! 褒美に愛でてやろう!」
「媚びとか言わないで」
「はい、すいません」
時々夕美はおしっこちびりそうなくらい怖い。
「で、二人とも何か用か? 何か妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
「お兄ちゃんって、時々嫌になるくらいつまんないよね!」
天真爛漫な笑みに深く落ち込む。
「まあ、否定はできないな。もっと励め、別府タカシ」
「分かった。頑張る。俺、頑張るよ! 別府タカシ先生の次回作にご期待ください! 完」
「お兄ちゃんが打ち切られた!?」
「人生も打ち切られはしないものか」
みことのつっこみが冷たい。あと、気温も冷たい。
「寒い」
もそもそと布団を被る。やっぱり寒い。そろそろ冬布団出さないとな。
「お兄ちゃんが冷えている! これは嫁として張り切る場面だよ!」
「駄目だ。そもそも嫁ではないだろう。それに、男女七歳にして同衾せず、と言うだろう。いかに子供とはいえ、看過できはしない」
いそいそと夕美が布団に入ろうとするのを、みことが首根っこ掴んで阻んだ。
「にゃー! 止めないでよ、みことお姉ちゃん!」
「そうだ止めるな、みことお姉ちゃん」
「貴様がお姉ちゃん言うなッ!」
俺だけが怒られる。
「じゃ、お姉ちゃん言わないからお前が暖めてくれ。寒いんだ。あと、なんだかとても眠いんだ」
「んなっ!? わ、私がか!?」
「お兄ちゃんがパトラッシュってる!」
驚くみことの横で、夕美が変な動詞を作っていた。
「一緒に寝てくれないか、パトラッシュ」
「誰がパトラッシュだ!」
夕美のせいで間違えた。この野郎、という思いを込めて夕美を睨む。
「熱視線を感じるよ! 愛され視線だよ! きゃっきゃうふふ視線だよ!」
「なんだと!? きゃっきゃうふふ視線など許さんぞ、別府タカシ!」
そんな恥ずかし光線を出した覚えはない。
「俺の目から出るものなど、涙程度だ」
「……! それはつまり、かなしーことがあったと判断していいのかにゃ? 判断するよ? そんな状態に陥ったということは、夕美が慰めるターンなんだね?」
勝手な理論を構築し、夕美は俺の布団に入り込んだ。
「お兄ちゃん、夕美がいるからヘッチャラだよ。涙さんなんてどっかへ行っちゃったよ」
悲しい事態なんて起こっていないというのに、慰められた。なんとなく過去に悲しいことがあったかも、という気がしてくる。
「うっうっ……ありがとな、夕美。お前がいてくれてよかった」
「にゃ、うにゃ……夕美、照れ照れだよぉ」
夕美の手を取って感謝を伝えると、夕美は照れくさそうにはにかんだ。
「いかん、盛大に転んだ!」
とてつもない棒読みで、みことが俺と夕美の間に体を割り込ませてきた。
「下手が過ぎるぞ、みこと」
「な、なんのことか皆目検討もつかん! そ、それより、貴様は夕美ちゃんに甘えすぎだ! 相手の迷惑を考えろ!」
「夕美はお兄ちゃんに甘えられて、とっても嬉しいよ? お兄ちゃんがダメダメな大人でらっきーだよ!」
なんか色々思った。
「いいや、こんなダメな人間教育上よくない! だ、だから、私が責任を持って叩き直すから、夕美ちゃんは放っておいたらいいぞ?」
「今世紀最大のお断りを行うよ! 夕美がお兄ちゃんを永遠不滅にお世話するから、みことお姉ちゃんは何もしなくていーよ?」
俺の世話方針で対立が始まった。世話て。一応それなりに大人ですよ、俺。
「あの、おふたがた、俺は別に世話とか不要な完全自立型生命体ですので」
二つの双眸がこちらに向いた。
「貴様は放っておいたら朽ちるだろうがッ!」
「お兄ちゃんは放っておいたら一瞬で餓死するでしょッ!」
「はい、すいません」
言葉は違うが、とにかくダメ人間認定されてるのはよく分かった。
「とにかく! 私がこいつの面倒を見る!」
「夕美が見るの!」
「じゃあ俺が見よう」
ダチョウ倶楽部理論により俺が俺の世話を見る、即ち通常業務で話は片付いたかと思われたが、二人に睨まれ、あまりの恐怖にちょっと涙が出るだけで終わった。二人に隠れてこっそり涙を拭く。
「! お兄ちゃんが泣いている!」
即ばれた。
「だいじょぶだよ、夕美がついてるよ? 悲しいことなんて、にゃーんもないんだよ?」
「そ、そうだぞ、別府タカシ。私がついている、どんな艱難辛苦も私が背負ってやる。貴様はそこで、いつものように馬鹿を言っていろ」
二人がかりで頭をなでられた。怖くて泣いてしまっただけなのに、どうしたものかとちょっぴりうつむいて考える。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがさらに悲しみの底へと!」
「大丈夫、大丈夫だ! 私がいる!」
「いや、あの」
「こうなっては二人がかりで慰めるしかないよ、みことお姉ちゃん!」
「一時休戦か……まあ、致し方あるまい。ほら別府タカシ、お姉ちゃんに甘えろ」
みことが俺の頭を持ち、自分の胸元にぎゅっと押し付けた。控えめながらも、柔らかな感触が顔に当たる。
「にゃーッ!? ずるいずるいずるい! 夕美も、夕美もそれするーっ!」
「ふふん、夕美ちゃんにはそうするほどの胸囲がないだろう? 残念だったなあ」
ぽよぽよと自分のおっぱいを俺の顔に押し付けまくるみこと。なんかもうこのまま死んでもいい。
「そんなことないもん! あるもん!」
夕美は俺の頭を持ち、ぐいーっと自分の胸に押し付けた。控えめに過ぎる……というか、全然ねー。
「あるよね、お兄ちゃん? ね?」
ちょっと調べてみよう。顔をむにむにふにふに動かして確認。
「あっ……あ、あのね、お兄ちゃん。……さ、さすがの夕美も、ちょっぴり恥ずかしいかにゃー、なんて。……ふにゅ」
「そこになおれッ、別府タカシ!」
夕美の頬が染まると、みことの顔が真っ赤になり、俺も諸事情により赤くなる。(ヒント:血)
「ふふ、外気温と部屋の温度が同じだ」
布団に入ってぶるぶる震えてたら、ぴんぽーんがちゃどたどたばたん! という擬音がした。
「お兄ちゃん遊べ!」
果たして、隣に住んでるちみっこ、夕美が水平気味に飛んできて俺の腹部に着地するので大変痛い!
「腸が出た!」
「……出てないよ?」
布団と服を捲り上げられ、確認された。
「夕美さんえっちです」
「嫁なのでへーきだよ!」
「嫁じゃないです。ただの……ただの、なんだろ? お隣さん?」
「のー! 嫁だよ! あと、ねこ! にゃー!」
そう言って、夕美は以前俺が冗談でやったネコミミを手でヒクヒクさせた。暇さえあれば付けてるので、困るやら嬉しいやら嬉しすぎるぞコンチクショウ。
「それはともかく、嫁ではないと言っとろーが」
「むぬー」
手の平を夕美の顔に押し付けると、変な声が出た。スイッチ?
「夕美は顔にスイッチがあるのか?」
「それはどうかにゃ? 確かめてみるべきだよ、お兄ちゃん! 舌とかで!」
「それは楽しそうだ! では早速」
何か間違っているような気がしないでもないが、楽しそうなのでいそいそと夕美を布団に招き入れていたら、ドアが勢いよく開いて見覚えのある顔が見えました。
「そこまでだ別府タカシ! 私の目が黒いうちは性的虐待なんて許さん……なっ、遅かったか!」
ニコニコしながら俺の膝に乗ってる夕美を見て何を勘違いしたのか、みことが俺の元まで走り寄り、俺の肩をがっくんがっくん揺する。
「貴様、なんということを……両親は泣いているぞ!」
「ふにゃにゃにゃにゃ、ゆ~れ~る~」
「夕美の尻が! 尻が俺の素敵秘密棒を刺激し、大変なことになりそうな予感!」
誰もが混乱していたという。
「少し落ち着こう」
「わっ、私は悪くないぞ! そもそも、貴様が夕美ちゃんを乗せたりなぞしなければ勘違いしなかったものを……」
そう言って視線を夕美に向けるが、依然として目をぐるぐる回している。
「ふにゅ~……おめめぐるぐるするる~」
「媚び所を分かっている娘め! 褒美に愛でてやろう!」
「媚びとか言わないで」
「はい、すいません」
時々夕美はおしっこちびりそうなくらい怖い。
「で、二人とも何か用か? 何か妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
「お兄ちゃんって、時々嫌になるくらいつまんないよね!」
天真爛漫な笑みに深く落ち込む。
「まあ、否定はできないな。もっと励め、別府タカシ」
「分かった。頑張る。俺、頑張るよ! 別府タカシ先生の次回作にご期待ください! 完」
「お兄ちゃんが打ち切られた!?」
「人生も打ち切られはしないものか」
みことのつっこみが冷たい。あと、気温も冷たい。
「寒い」
もそもそと布団を被る。やっぱり寒い。そろそろ冬布団出さないとな。
「お兄ちゃんが冷えている! これは嫁として張り切る場面だよ!」
「駄目だ。そもそも嫁ではないだろう。それに、男女七歳にして同衾せず、と言うだろう。いかに子供とはいえ、看過できはしない」
いそいそと夕美が布団に入ろうとするのを、みことが首根っこ掴んで阻んだ。
「にゃー! 止めないでよ、みことお姉ちゃん!」
「そうだ止めるな、みことお姉ちゃん」
「貴様がお姉ちゃん言うなッ!」
俺だけが怒られる。
「じゃ、お姉ちゃん言わないからお前が暖めてくれ。寒いんだ。あと、なんだかとても眠いんだ」
「んなっ!? わ、私がか!?」
「お兄ちゃんがパトラッシュってる!」
驚くみことの横で、夕美が変な動詞を作っていた。
「一緒に寝てくれないか、パトラッシュ」
「誰がパトラッシュだ!」
夕美のせいで間違えた。この野郎、という思いを込めて夕美を睨む。
「熱視線を感じるよ! 愛され視線だよ! きゃっきゃうふふ視線だよ!」
「なんだと!? きゃっきゃうふふ視線など許さんぞ、別府タカシ!」
そんな恥ずかし光線を出した覚えはない。
「俺の目から出るものなど、涙程度だ」
「……! それはつまり、かなしーことがあったと判断していいのかにゃ? 判断するよ? そんな状態に陥ったということは、夕美が慰めるターンなんだね?」
勝手な理論を構築し、夕美は俺の布団に入り込んだ。
「お兄ちゃん、夕美がいるからヘッチャラだよ。涙さんなんてどっかへ行っちゃったよ」
悲しい事態なんて起こっていないというのに、慰められた。なんとなく過去に悲しいことがあったかも、という気がしてくる。
「うっうっ……ありがとな、夕美。お前がいてくれてよかった」
「にゃ、うにゃ……夕美、照れ照れだよぉ」
夕美の手を取って感謝を伝えると、夕美は照れくさそうにはにかんだ。
「いかん、盛大に転んだ!」
とてつもない棒読みで、みことが俺と夕美の間に体を割り込ませてきた。
「下手が過ぎるぞ、みこと」
「な、なんのことか皆目検討もつかん! そ、それより、貴様は夕美ちゃんに甘えすぎだ! 相手の迷惑を考えろ!」
「夕美はお兄ちゃんに甘えられて、とっても嬉しいよ? お兄ちゃんがダメダメな大人でらっきーだよ!」
なんか色々思った。
「いいや、こんなダメな人間教育上よくない! だ、だから、私が責任を持って叩き直すから、夕美ちゃんは放っておいたらいいぞ?」
「今世紀最大のお断りを行うよ! 夕美がお兄ちゃんを永遠不滅にお世話するから、みことお姉ちゃんは何もしなくていーよ?」
俺の世話方針で対立が始まった。世話て。一応それなりに大人ですよ、俺。
「あの、おふたがた、俺は別に世話とか不要な完全自立型生命体ですので」
二つの双眸がこちらに向いた。
「貴様は放っておいたら朽ちるだろうがッ!」
「お兄ちゃんは放っておいたら一瞬で餓死するでしょッ!」
「はい、すいません」
言葉は違うが、とにかくダメ人間認定されてるのはよく分かった。
「とにかく! 私がこいつの面倒を見る!」
「夕美が見るの!」
「じゃあ俺が見よう」
ダチョウ倶楽部理論により俺が俺の世話を見る、即ち通常業務で話は片付いたかと思われたが、二人に睨まれ、あまりの恐怖にちょっと涙が出るだけで終わった。二人に隠れてこっそり涙を拭く。
「! お兄ちゃんが泣いている!」
即ばれた。
「だいじょぶだよ、夕美がついてるよ? 悲しいことなんて、にゃーんもないんだよ?」
「そ、そうだぞ、別府タカシ。私がついている、どんな艱難辛苦も私が背負ってやる。貴様はそこで、いつものように馬鹿を言っていろ」
二人がかりで頭をなでられた。怖くて泣いてしまっただけなのに、どうしたものかとちょっぴりうつむいて考える。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがさらに悲しみの底へと!」
「大丈夫、大丈夫だ! 私がいる!」
「いや、あの」
「こうなっては二人がかりで慰めるしかないよ、みことお姉ちゃん!」
「一時休戦か……まあ、致し方あるまい。ほら別府タカシ、お姉ちゃんに甘えろ」
みことが俺の頭を持ち、自分の胸元にぎゅっと押し付けた。控えめながらも、柔らかな感触が顔に当たる。
「にゃーッ!? ずるいずるいずるい! 夕美も、夕美もそれするーっ!」
「ふふん、夕美ちゃんにはそうするほどの胸囲がないだろう? 残念だったなあ」
ぽよぽよと自分のおっぱいを俺の顔に押し付けまくるみこと。なんかもうこのまま死んでもいい。
「そんなことないもん! あるもん!」
夕美は俺の頭を持ち、ぐいーっと自分の胸に押し付けた。控えめに過ぎる……というか、全然ねー。
「あるよね、お兄ちゃん? ね?」
ちょっと調べてみよう。顔をむにむにふにふに動かして確認。
「あっ……あ、あのね、お兄ちゃん。……さ、さすがの夕美も、ちょっぴり恥ずかしいかにゃー、なんて。……ふにゅ」
「そこになおれッ、別府タカシ!」
夕美の頬が染まると、みことの顔が真っ赤になり、俺も諸事情により赤くなる。(ヒント:血)
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【ツンデレに勝負を挑まれたら】
2010年02月05日
学校から帰宅中に猫と出くわしたので小一時間ほど遊ぼうかとしゃがんだら、その瞬間に逃げられた。
「…………」
「あーっはっはっはっは! すっごいおまぬけな奴はっけーん!」
ちょっと泣きそうになってたら、頭上から声がした。立ち上がって顔を上げると、塀の上から俺を見下ろす影が。最近仲良くなった瑠姫だ。
「何の話だか、俺にはちっとも」
「あたし見てたもんねー。逃げられてやんの。ばーかばーか」
両手で口の両端を引っ張り、瑠姫はべろべろと舌を出して俺を馬鹿にした。
「えい」
「ぎにゃっ!?」
悔しいので非常食のミカンを投げつけてやる。思い切り顔に当たった。愉快痛快。
「ううううう……何すンだ、ばか!」
「おすそ分け」
「おすそ分けられてない! ミカンどっか行った!」
「鈍いなあ……ほれ、も一個やるよ」
ぶつけるのではなく、今度は渡すために瑠姫にミカンを投げる。ミカンは放物線を描き、すっぽりと瑠姫の手の平に収まった。
「最初っからそうやって投げろ、バカ。しゃむしゃむ」
皮のまま食べやがった。化け物か。
「うにゃあああっ! まずい!」
化け物ではなく馬鹿だった。
「皮は剥け」
「騙したなあ!」
「騙してねえ」
塀から飛び降り、瑠姫は怒りに燃える瞳で俺を睨んだ。ちなみに、降りる時にスカートが捲れてパンツが丸見えになったのは内緒だ。しまぱんだった。
「ううううう……こーなったらショーブだ!」
「いや、しまぱんだ」
「っ!? みっ、見たなあ!?」
瑠姫は顔を真っ赤にさせ、スカートをばっと押さえた。恨みがましい目で俺を睨んでいる。
「いや、その、もっと見てえ」
どうして俺はテンパると思ってることが口から出るのでしょう。
「おっ、オマエ、オマエなあッ! もー許さないかンな!」
そう言うと、瑠姫は深く深呼吸した。
「……いーか、今からあたしがこの辺の猫を呼ぶから、一匹でもいーからこの鈴を付けられたらオマエの勝ち、無理だったらあたしの勝ち。いーな!?」
「よくない。勝負する意味が分からないし、勝負の内容も意味不明だし、イカサマする余地がないし」
「イカサマすンなッ! いいな? いくぞ! ……すぅぅぅぅ、にゃーッ!!!」
「にゃー(笑)」
「ばっ、馬鹿にすンなッ! ほら、見てみろ!」
どこにこんないたのか不思議に思うほど、道から塀から路地から猫たちが大挙してやってきた。皆一様に瑠姫に向かってにゃーにゃー鳴いている。
「……ええと、お前って猫の国のお姫様?」
「ま、そのようなモンだ。ほらほら、早くやンないと時間なくなるゾ?」
「え、時間制限アリ?」
「あったりまえダロ! はい、開始ー!」
投げられた鈴を受け取る。しょうがない、やってやるか。ま、これだけいるんだ、一匹くらい鈍い奴がいるだろ。
「……おーい、まだー?」
「まだ!」
「ふぁあああああ……ねむー」
かれこれ20分ほど格闘しているが、捕まえようと前傾姿勢をとった瞬間に、猫たちは警戒しやがるのでちっとも捕まえられない。俊敏……そう、奴らは俊敏だッ!
「なんかもう疲れた。こいついいや」
「にゃ?」
塀の上にのぼり、欠伸してた瑠姫の腕に鈴をつける。
「あたし、猫じゃないゾ!」
「似たようなもんだろ。ほーりほり、ノドくりくり」
「こンなことされてもゴロゴロ言わない!」
「む。なれば、頭なでなで」
瑠姫の頭に手を乗せ、優しく優しくなでる。
「にゃ……べ、別にこンなの、嬉しくないし」
「だよなあ」
「にゃ……」
手をどけると、瑠姫は物足りなさそうな目で俺の手を追いかけた。
「もっとしてほしかったのか?」
「ぜ、全然! ちっとも! と、とにかく、時間切れ! オマエの負け!」
「いやいや、時間ギリギリに鈴つけたぞ」
「あたしについてる! リンリン鳴ってる! 猫についてないから、あたしの勝ち!」
「しかし、俺の見識では瑠姫はかなりの猫力を保持しているので、猫の範疇に入れても問題ないぞ?」
「知るか、バカ! オマエの負け! けってー!」
「ぶーぶー」
「ぶーぶーウルサイ。じゃ、罰ゲームな」
「罰ゲーム? 聞いてないぞ」
「最初に聞かなかったオマエが悪いンだゾ!」
「なんということだ! このままでは罰ゲームという名の処刑が俺に待ち受けている! やられる前にやれ、という格言もある。いっそ……?」
「早とちりすンな、バカ! そンな酷いことしない! え、えとな、罰ゲームは……罰ゲームは……」
そう言ったきり、瑠姫はもじもじするばかりで言葉を続けようとはしなかった。一体なんだと言うんだろう。
……ん? さっきから、俺の手をじっと見てるような……。もしかして。
「なあ、瑠姫。ひょっとしてさ」
「にゃあ!? ちち違うゾ? あたしはなでなでなンてしてほしくないゾ!?」
「俺の手をもぎ取る算段をつけてたの?」
「…………」
「もぎ取るのはとても痛そうなので勘弁してください!」
「……ああ、オマエ、バカだったな。忘れてた」
失敬な。
「……あっ、そだ! ……こほん。じゃ、じゃあ、もぎ取られたくなかったら、あたしをなでなでシロ!」
「…………」
「なっ、なンだその目は! べっ、別になでなでが気持ちよかったンじゃないからな!」
……まあ、いっか。
「じゃ、なでなでするか?」
「うんうん、うんうんうん!」
木に体を預けてなでなで体勢を取ると、瑠姫は目をキラキラと輝かせ、ぶんぶんうなずいた。
「おいで、瑠姫」
「にゃっ♪ ……あっ、い、言っとくケドな、罰ゲームだかンなッ! したくてしてンじゃないからな!」
そっちがもちかけた罰ゲームだろうに、とは思ったが、口には出さず苦笑する。
「分かってるって。それじゃ、なでなでなで」
「にゅ、ふにゅ……」
俺に体を預け、瑠姫は気持ちよさそうに目を細め、ふにゅふにゅ言った。
『ね、見てアレ』
『うわ、すっごいカップルもいたものね』
「ん? ……うあ」
下から聞こえる声に視線をそちらに向けると、歩いてる学生たちが俺たちをじろじろ見まくってた。そういやここは通学路にあるただの塀の上だった。
「る、瑠姫、終わり、終わりだ」
「まだー。もっとー」
ゴロゴロという音が聞こえそうなほど心地よさそうな顔で俺を引き止める瑠姫。きっと周囲の声も耳に入ってないに違いない。
「うう……そういう罰ゲームなのか?」
衆人環視の中、瑠姫が満足するまで抱っこしたままなでなでし続ける俺だった。超恥ずかしかった。
「…………」
「あーっはっはっはっは! すっごいおまぬけな奴はっけーん!」
ちょっと泣きそうになってたら、頭上から声がした。立ち上がって顔を上げると、塀の上から俺を見下ろす影が。最近仲良くなった瑠姫だ。
「何の話だか、俺にはちっとも」
「あたし見てたもんねー。逃げられてやんの。ばーかばーか」
両手で口の両端を引っ張り、瑠姫はべろべろと舌を出して俺を馬鹿にした。
「えい」
「ぎにゃっ!?」
悔しいので非常食のミカンを投げつけてやる。思い切り顔に当たった。愉快痛快。
「ううううう……何すンだ、ばか!」
「おすそ分け」
「おすそ分けられてない! ミカンどっか行った!」
「鈍いなあ……ほれ、も一個やるよ」
ぶつけるのではなく、今度は渡すために瑠姫にミカンを投げる。ミカンは放物線を描き、すっぽりと瑠姫の手の平に収まった。
「最初っからそうやって投げろ、バカ。しゃむしゃむ」
皮のまま食べやがった。化け物か。
「うにゃあああっ! まずい!」
化け物ではなく馬鹿だった。
「皮は剥け」
「騙したなあ!」
「騙してねえ」
塀から飛び降り、瑠姫は怒りに燃える瞳で俺を睨んだ。ちなみに、降りる時にスカートが捲れてパンツが丸見えになったのは内緒だ。しまぱんだった。
「ううううう……こーなったらショーブだ!」
「いや、しまぱんだ」
「っ!? みっ、見たなあ!?」
瑠姫は顔を真っ赤にさせ、スカートをばっと押さえた。恨みがましい目で俺を睨んでいる。
「いや、その、もっと見てえ」
どうして俺はテンパると思ってることが口から出るのでしょう。
「おっ、オマエ、オマエなあッ! もー許さないかンな!」
そう言うと、瑠姫は深く深呼吸した。
「……いーか、今からあたしがこの辺の猫を呼ぶから、一匹でもいーからこの鈴を付けられたらオマエの勝ち、無理だったらあたしの勝ち。いーな!?」
「よくない。勝負する意味が分からないし、勝負の内容も意味不明だし、イカサマする余地がないし」
「イカサマすンなッ! いいな? いくぞ! ……すぅぅぅぅ、にゃーッ!!!」
「にゃー(笑)」
「ばっ、馬鹿にすンなッ! ほら、見てみろ!」
どこにこんないたのか不思議に思うほど、道から塀から路地から猫たちが大挙してやってきた。皆一様に瑠姫に向かってにゃーにゃー鳴いている。
「……ええと、お前って猫の国のお姫様?」
「ま、そのようなモンだ。ほらほら、早くやンないと時間なくなるゾ?」
「え、時間制限アリ?」
「あったりまえダロ! はい、開始ー!」
投げられた鈴を受け取る。しょうがない、やってやるか。ま、これだけいるんだ、一匹くらい鈍い奴がいるだろ。
「……おーい、まだー?」
「まだ!」
「ふぁあああああ……ねむー」
かれこれ20分ほど格闘しているが、捕まえようと前傾姿勢をとった瞬間に、猫たちは警戒しやがるのでちっとも捕まえられない。俊敏……そう、奴らは俊敏だッ!
「なんかもう疲れた。こいついいや」
「にゃ?」
塀の上にのぼり、欠伸してた瑠姫の腕に鈴をつける。
「あたし、猫じゃないゾ!」
「似たようなもんだろ。ほーりほり、ノドくりくり」
「こンなことされてもゴロゴロ言わない!」
「む。なれば、頭なでなで」
瑠姫の頭に手を乗せ、優しく優しくなでる。
「にゃ……べ、別にこンなの、嬉しくないし」
「だよなあ」
「にゃ……」
手をどけると、瑠姫は物足りなさそうな目で俺の手を追いかけた。
「もっとしてほしかったのか?」
「ぜ、全然! ちっとも! と、とにかく、時間切れ! オマエの負け!」
「いやいや、時間ギリギリに鈴つけたぞ」
「あたしについてる! リンリン鳴ってる! 猫についてないから、あたしの勝ち!」
「しかし、俺の見識では瑠姫はかなりの猫力を保持しているので、猫の範疇に入れても問題ないぞ?」
「知るか、バカ! オマエの負け! けってー!」
「ぶーぶー」
「ぶーぶーウルサイ。じゃ、罰ゲームな」
「罰ゲーム? 聞いてないぞ」
「最初に聞かなかったオマエが悪いンだゾ!」
「なんということだ! このままでは罰ゲームという名の処刑が俺に待ち受けている! やられる前にやれ、という格言もある。いっそ……?」
「早とちりすンな、バカ! そンな酷いことしない! え、えとな、罰ゲームは……罰ゲームは……」
そう言ったきり、瑠姫はもじもじするばかりで言葉を続けようとはしなかった。一体なんだと言うんだろう。
……ん? さっきから、俺の手をじっと見てるような……。もしかして。
「なあ、瑠姫。ひょっとしてさ」
「にゃあ!? ちち違うゾ? あたしはなでなでなンてしてほしくないゾ!?」
「俺の手をもぎ取る算段をつけてたの?」
「…………」
「もぎ取るのはとても痛そうなので勘弁してください!」
「……ああ、オマエ、バカだったな。忘れてた」
失敬な。
「……あっ、そだ! ……こほん。じゃ、じゃあ、もぎ取られたくなかったら、あたしをなでなでシロ!」
「…………」
「なっ、なンだその目は! べっ、別になでなでが気持ちよかったンじゃないからな!」
……まあ、いっか。
「じゃ、なでなでするか?」
「うんうん、うんうんうん!」
木に体を預けてなでなで体勢を取ると、瑠姫は目をキラキラと輝かせ、ぶんぶんうなずいた。
「おいで、瑠姫」
「にゃっ♪ ……あっ、い、言っとくケドな、罰ゲームだかンなッ! したくてしてンじゃないからな!」
そっちがもちかけた罰ゲームだろうに、とは思ったが、口には出さず苦笑する。
「分かってるって。それじゃ、なでなでなで」
「にゅ、ふにゅ……」
俺に体を預け、瑠姫は気持ちよさそうに目を細め、ふにゅふにゅ言った。
『ね、見てアレ』
『うわ、すっごいカップルもいたものね』
「ん? ……うあ」
下から聞こえる声に視線をそちらに向けると、歩いてる学生たちが俺たちをじろじろ見まくってた。そういやここは通学路にあるただの塀の上だった。
「る、瑠姫、終わり、終わりだ」
「まだー。もっとー」
ゴロゴロという音が聞こえそうなほど心地よさそうな顔で俺を引き止める瑠姫。きっと周囲の声も耳に入ってないに違いない。
「うう……そういう罰ゲームなのか?」
衆人環視の中、瑠姫が満足するまで抱っこしたままなでなでし続ける俺だった。超恥ずかしかった。
【クリスマスをツンデレと過ごしたら】
2010年02月05日
今年もそろそろ終わり。で、現在クリスマスイブの夜。今頃ホテルでは年頃の男女がイチャイチャラブラブしていることだろう。(怨)
一方、年頃の俺には何ら素敵イベントが起きる気配はない。寂しさを紛らわせるように、テレビを点ける。
何かの歌番組なのか、クラスメイトのかなみがテレビの中でサンタの格好をし、クリスマスの歌を歌っていた。
「一応は芸能人なんだし、すげーパーティーしてるんだろうなあ……」
想像の中で行われているパーティーの面子より、むしろ豪華な食事に興味をそそられていると、携帯が鳴った。
「誰だ。俺は現在想像の中で行われているパーティーの飯を羨ましがるのに忙しいので、よっぽどの用件でなければ許さない」
『……アンタ、哀れにも程があるわよ』
「なんだ、かなみか。なんか用か? なんか妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
『うわ、寒ッ! 死ね!』
通話を切られた。泣きそうになってたら、またかかってきた。
『あんまりつまんないこと言うなッ! 思わず切っちゃったじゃないの!』
「なぜ俺が怒られているのだ」
『まあそんなのはどうでもいいわ。さっきの言動からすると、アンタ暇でしょ? 今からアンタの家行くから』
「いいけど……なんでまたこんな日に? 俺みたいな奴より、家族やら恋人やら、そういう大事な人と過ごす方がいいと思うぞ」
『え? あ、その、だ、だから、その……』
「うん?」
『……う、うっさい! どうでもいいでしょ! あたしの勝手よ!』
「はあ。まあいいや、来い来い。ちょうど死ぬほど暇してたんだ」
『……アンタねぇ、今世紀最大のアイドルと言われるかなみちゃんが来るって言うのに、そのテンションはなに? もっと盛り上がりなさいよ!』
「嬉しさのあまりかなみが来るころには全身から謎の汁を噴き出して死んでるだろうから、後始末頼む」
『死ぬなッ! あーもー、いーから変なことしないで大人しくしてないさいッ! ケーキとか買ってくるからアンタは動くなッ!』
「心臓とかも? 困る」
『臓器は動かしとけッ!』
それだけ言って、かなみは通話を切った。ふむ、よく分からんがこれから来るのか。何もするなと言ってたが、せめて掃除だけでもしておこう。
せっせこ掃除してると、インターホンが鳴った。玄関に向かい、ドアを開ける。
「やほー、サンタさんだよー♪」
サンタの格好をしたかなみが妙なポーズを決めてた。
「病院へ行け」
思ったことを言ったらサンタに殴られた。
「なんつー言い草よ! ったく、せっかく衣装さんに言ってサンタの衣装借りてやったってのに……」
「いてて……いやまあ、うん。可愛い可愛い」
「そ、そう……? え、えへへ、まあ当然よね。ほら、あたしってば超可愛いし?」
「衣装のことを言いました」
また殴られた。このサンタ凶暴だ。
「誰かに見られたら面倒だからあがるわよッ!」
足音も荒く勝手に人の家に入る凶暴サンタ。続いて家に戻る。
「(ったく……人がせっかく頑張って早めに仕事終わらせて来てやったってのに……あによ、この仕打ち)」
「ん、何か言ったか?」
「何も言ってないッ!」
また殴られた。よく殴られます。
「ほら、ケーキ」
「ははー。謹んでお預かりします」
ぶっきらぼうに差し出された箱を、恭しく両手で受け取る。結構でかいな。
「お前が帰ったらありがたく食べるな」
「あたしも食べるに決まってるでしょうがッ!」
「スイーツ(笑)」
再び殴られた。何度目だ。
「ホントにもう……アンタねぇ、この状況分かってるの? 超人気アイドルのかなみちゃんと一緒のクリスマスなんて幸運、アンタが100万回生まれ変わったって訪れないんだからね?」
「お、ホールケーキか。二人で食いきれるかな」
「人の話聞けッ!」
ケーキの箱を開けてたら怒られた。よく殴られるだけでなく、よく怒られもします。
「……はぁ、せっかくのクリスマスだし、怒ってばっかりいてもしょうがないか。ほら、食べましょ」
「ちょっと待ってろ、ナイフ持ってくる」
台所へ向かい、ナイフを探す。そんな洒落たのねぇ。皿と包丁を持って戻る。
「これしかなかった」
「……まあいいわ。ほら、切りなさい」
「分かった。全然関係ないけど、包丁持つと興奮するよな」
かなみは無言で俺から包丁をひったくると、自分でケーキを切ってしまった。
「ちゃんとやる時もあるのに」
「あんなこと言ってる奴を信用できるかッ! ほら、アンタの分」
取り分けられたケーキを受け取る。
「ん、さんくす。じゃ、いただきます」
「はいはい。……しっかし、色気の欠片もないクリスマスねー。……あ、あのさ」
居住まいを正し、かなみは俺に話しかけた。
「もぐもぐ……うん?」
「……あ、アンタは、さ。あたしでよかったの?」
「?」
「だ、だから! ……だから、さ。……クリスマスに一緒なのが、あたしで」
「いいも何も、お前みたいな……言うのも恥ずかしいが、いわゆる超人気アイドルと一緒のクリスマスが嫌な奴なんていないだろ」
「……なんか、芸能人だったら誰でもいいみたいで、嬉しくない」
なんだか機嫌を損ねてしまったようだ。難しいなあ。
「うーん。というか、クリスマスに俺と一緒にいてくれるような奇特な奴なんて、世界中でお前くらいしかいないからなあ。比較のしようがない」
「……じゃ、一緒にいてくれるなら、誰でもよかったってこと?」
誰でも? ……こうして俺の向かいに座ってるのが、かなみじゃなく、他の誰でも?
「うーん……」
フォークを咥えたまま、腕を組んで考える。
「ちょ、そんな真剣に考えなくても、別に……」
「……いや。やっぱり、かなみじゃないと嫌だな」
わたわたと手を振るかなみを遮り、はっきりとそう言う。
「あ……う、そ、そう」
かなみの顔がゆっくりと赤くなっていった。
「あ、赤くなるな。こっちまで照れるだろうが」
「て、照れてなんてないわよっ! ばか、タカシのばか!」
「むう」
何かをごまかす様に、ケーキをもさもさ。うめえ。
「……その。それ、おいしい?」
「おいしい」
「……そか。……ふふっ、そっか」
「なんだよ、笑ったりして」
「んーん、なんでも。ほらほら、それより食べよっ」
「言われずとも食べてる」
「男なんだからもっと食べなさいよ。ほらほらほら」
「もがもがもが」
口の中にケーキをたくさん詰め込まれる。いかん、殺される。
「ほらほら。ふふ、おいしい?」
「もげもげもぐ……もぐ、ごくん。助けてえ!」
「なんで助けを呼んでるのよ!」
生命の危機を感じたからです。
「ったく、相変わらずバカねぇ……ほら、もう無理やり食べさせないから、ゆっくり食べよ?」
そう言ってかなみは優しく微笑んだ。不意に、胸がドキリとした。……かなみって、こんな可愛かったか?
「……サンタ衣装のせいだな」
「ん? 何が?」
「俺の視力がおかしくなった理由」
「え、なになに? あたしが可愛く見えでもした? ふっふーん、やっとタカシにも絶世のアイドル、かなみちゃんの魅力が分かってきたのね」
「なっ、何故それを!?」
……ってえ! 語るに落ちすぎだ、俺!
「え、あ……そ、そなんだ。本当にそなんだ」
いかん。照れたように自分の髪をいじるかなみが、妙に可愛くて見えて仕方ない。
今更ながら、クリスマスの夜にかなみというテレビでお馴染みのアイドルと一つ屋根の下にいるという事実に半びびり。
「……あー、そのだな。今更言うのもなんだが、折角のクリスマスだというのに、お前は俺と一緒でよかったのか?」
「むっ。嫌だったら最初っから誘わないっての。そんなこと聞くな、ばか」
かなみは指でケーキの生クリームをすくい、それを俺の鼻につけた。
「何をする」
「罰ゲーム。手を使って取っちゃダメだからね」
「むう。妖怪鼻舐めになるしか、このクリームを取る術はないな。妖怪鼻舐めとは、人間の鼻の脂を主食にする舌の長い妖怪であり、夜な夜な山里から降りてきては人間の鼻を舐めとるエコロジーな妖怪だ。鼻の脂以外を食べると死ぬ」
「んじゃ死ぬじゃない! ……じゃ、じゃあ、代わりにあたしが舐め取ってあげる」
「え゛」
何か言う前に、かなみはふわりと俺のすぐ間近まで迫り、俺の鼻をぺろりと舐めた。
「なっ、お、おま、おまえ、おまえなあッ!」
「ふふっ、あまーい♪」
「あ、あま、甘いとか、甘くないとか、最初に言い出したのは誰なのかしら」
「ムードぶち壊しにするようなこと言うなっ! なんでときメモよッ!」
「緊張感に耐え切れなかったんだ」
「ああもう……色々台無しよぉ……」
テーブルに突っ伏し、ぐでーとなるかなみさん。しょうがないとはいえ、少し申し訳ない。
「えーと。えい」
「ひゃっ!? 何するの……よ」
かなみの鼻にクリームをつけ、それをぺろり。
「ええと、お返し」
「……あ、そ、そう。……あによ、これで勝った気?」
「はい?」
「そんな奴は……こーだ!」
かなみは手に大量のクリームをつけ、俺のほっぺにべたりと塗った。そしてすぐさまぺろぺろと舐めだした。
「わっ、お、おまっ! さすがにやりすぎだぞ!」
「知らないわよ! へっへー、悔しかったらやり返しなさいよ!」
「……と、当然だとも! とうっ!」
一瞬躊躇したが、すかさず思い直し、クリームを手に取りかなみのほっぺにぬたぬた。そして、ぺろぺろ舐め取る。
「ふひゅっ……な、なんか、これ、……すっごくえっちかも」
「じゃあこのままIN+OUTになだれ込んでも気がつかれないかも!」
「つくわよっ! ったく、このかなみちゃんとそう簡単にえっちできると思わないことね、このヘンタイっ♪」
かなみは両手につけたクリームを俺の首筋になすりつけ、それをぺろぺろと舐め取った。熱くて柔らかな舌の触感に、腰骨が震えるような感覚を覚える。
「ふ、うぐ……ま、負ける気がしねー」
かなみのサンタ服をまくり、出てきた腹にクリームをなすりつけ、そこをぺろぺろぺろ。
「はひゅっ!? ちょ、そこはちょっとどうかと思うわよ!?」
「実は俺もやりすぎているかもと思っている」
とか言いながら、舌先でヘソのくぼみをぺろぺろ。
「ふにゃっ!? ちょ、そこダメ!」
「テンション上がってきた」
「上がるな! 顔を振るな! ついでに人のおなか舐めまくるなあっ!」
俺の顔もかなみの腹もクリームまみれです。
「うー……ひ、人のお腹を陵辱して、許さないからね!」
「陵辱て。人聞きの悪い」
「う、うっさい! とうっ!」
かなみは俺を押し倒し、俺の顔についているクリームをぺろぺろと舐めた。頬やらおでこやらまぶたやら舐められ大変。
「ぷわ、ぬわ、ぷわ」
「ぺろぺろ、ぺろぺろ。……わ、どうしよ。なんかすっごい楽しい」
「ぬわ、だからって舐めまくるのは、ぷわ、どうかと、ぬわ」
「ひひー♪ じっとしてないと、間違って口舐めちゃうわよー?」
「動きたいという本能と、じっとしていなければならないという理性が、俺の中で戦を!」
「……そ、それで、どっちが勝ったの?」
真剣な表情で、かなみが尋ねる。
「あー……その。ほ、本能って強いよね」
ゆっくりとした動きで、少しだけ顔を動かす。かなみの頬が赤くなっていく。
「そ、そう。……そんな動いてたら、間違えちゃうかもしれないわよね」
「か、かもな」
ゆっくりと降りてくるかなみの顔。鼻息が届きそうな距離から、鼻と鼻が挨拶するほどの距離まで近づく。かなみの吐息が、鼓動が、熱まで届きそうな。
「……あ、あれ?」
そのまま口と口が触れ合うとばかり思ってたのだが、かなみの口は俺の頬に触れただけだった。
「……すると思った?」
イタズラっぽい笑みを浮かべるかなみに、ようやっと騙されたことに気づく。
「て、てめえ! 純情な俺様の感情を弄びやがったなあ!」
「へっへー、そーんな軽くないんだな、かなみちゃんは♪」
イタズラが成功した子供の笑顔で、かなみはニコニコした。
「ね、ね、本当にすると思った? へっへー、どう、あたしの演技?」
「あー、流石は芸能人、見事な演技だ。お前が俺のことを好きだと勘違いする程度には騙された」
「えっ、あ、そ、それは……勘違いってゆーか」
「うん?」
「……い、いいのっ、タカシは何も気にしないで! いーわね!?」
よくないけど、なんか鬼気迫る勢いなのでコクコクうなずく。
「そっ。……すっ、素直だから、ご褒美あげる」
かなみは自分の体を俺の隣に横たえ、そのまま俺に抱きつき、俺の顔に残ってるクリームをさらに舐めた。
「ぷわ、ぬわ。……これ、ご褒美?」
「あによ。こんなことしてあげる奴なんて世界中でタカシだけなんだから、もっと喜びなさいよ」
俺のほっぺを甘噛みしながら、かなみは少し不満そうに言った。
「独占欲が満たされた!」
「普通に喜びなさいよ! ……ほんっと、変なやつ」
力の抜けたような笑みを浮かべ、かなみは俺のほっぺをひと舐めした。その顔をぼーっと眺める。
「ん? なに?」
吸い込まれるようにかなみの頬に口づけする。
「んひゃっ!? な、なに? く、クリームついてないわよ?」
「や、なんかしたくなった」
「……そ、そう。じゃ、仕方ないわよね」
俺もかなみも何が仕方ないのか分からないまま納得する。
「……ええと、だな。もっかいしていいか?」
「ど、どうしてもしたいなら、別に?」
微妙な許可が出たので、もう一度かなみのほっぺに吸い付く。
「……うー、な、なんか、あたしもしたい。いい?」
「ちゅーちゅー……不許可」
「なんでよ! あたしもする!」
俺を引き離すと、今度はかなみが俺のほっぺに吸い付いた。
「んー♪ んうー♪」
「くう、負けるものか!」
「ちゅー……だめー。あたしの番だもんー♪」
その後、吸ったり吸われたり舐めたり舐められたりした。
そんなことをしてたら知らない間に寝てたようで、気がつくと既に日が昇っていた。
「んにゅ……くー」
隣で寝てるサンタの頭を優しくなでる。
「んにゅ♪ ……んー、んう?」
うっすらとまぶたが開いていく。
「おはよう、サンタさん」
「……んー♪」
俺に抱きついてくるかなみの頭を、軽くなでなで。
「んー……ん?」
何かに気づいたかのように、かなみは頭を巡らした。そして、ある一点でぴたりと止まった。俺も釣られて同じ場所を見る。時計……?
「あああああーッ! ちっ、遅刻ーッ!」
「遅刻? もう学校は休みに入ってるぞ?」
「仕事! あるの! 朝から!」
ばたばたと立ち上がり、かなみは携帯を取り出すと、なにやら操作した。
「……うわあ、マネージャーからメール、すっごい来てた」
「大変だなあ。ふわあああ……さて、俺は寝直すか」
「ダメ! タカシのせいで寝過ごしたんだから、アンタも一緒に謝るの! ……あ、マネージャ? ……ああもう、分かってるわよ。すぐ車回して。……うん、そう、いつものところ」
マネージャーさんに連絡しながら、不思議なことを俺に言うかなみさん。
「あの、俺が行っても面倒になるとしか思えないのだけど」
「うっさい! なんでもいいからアンタも来るの! うー、服クリームでべとべとぉ……」
「精液でベトベトじゃなくてよかったね。らっきー♪」
ものすごい怖い顔で睨まれたので怖い。とか思ってたら、かなみの携帯が鳴った。
「はい! ……え、もう来たの? 分かった、すぐ行く!」
マネージャからのようだ。通話を切り、かなみは俺の手を取った。
「ほら、行くわよ!」
「え、マジで俺も行くの?」
「行くの! 別に一緒に謝れとか言わないから! 現場見学してるだけでもいいから! ……そ、その、すぐ離れるの、なんか嫌だし。……ダメ?」
俺を見上げる叱られた子供のような視線に、ノックアウト。
「……せめて顔くらい洗わせてくれ」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうなかなみと一緒に洗面台へ向かう俺だった。
一方、年頃の俺には何ら素敵イベントが起きる気配はない。寂しさを紛らわせるように、テレビを点ける。
何かの歌番組なのか、クラスメイトのかなみがテレビの中でサンタの格好をし、クリスマスの歌を歌っていた。
「一応は芸能人なんだし、すげーパーティーしてるんだろうなあ……」
想像の中で行われているパーティーの面子より、むしろ豪華な食事に興味をそそられていると、携帯が鳴った。
「誰だ。俺は現在想像の中で行われているパーティーの飯を羨ましがるのに忙しいので、よっぽどの用件でなければ許さない」
『……アンタ、哀れにも程があるわよ』
「なんだ、かなみか。なんか用か? なんか妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
『うわ、寒ッ! 死ね!』
通話を切られた。泣きそうになってたら、またかかってきた。
『あんまりつまんないこと言うなッ! 思わず切っちゃったじゃないの!』
「なぜ俺が怒られているのだ」
『まあそんなのはどうでもいいわ。さっきの言動からすると、アンタ暇でしょ? 今からアンタの家行くから』
「いいけど……なんでまたこんな日に? 俺みたいな奴より、家族やら恋人やら、そういう大事な人と過ごす方がいいと思うぞ」
『え? あ、その、だ、だから、その……』
「うん?」
『……う、うっさい! どうでもいいでしょ! あたしの勝手よ!』
「はあ。まあいいや、来い来い。ちょうど死ぬほど暇してたんだ」
『……アンタねぇ、今世紀最大のアイドルと言われるかなみちゃんが来るって言うのに、そのテンションはなに? もっと盛り上がりなさいよ!』
「嬉しさのあまりかなみが来るころには全身から謎の汁を噴き出して死んでるだろうから、後始末頼む」
『死ぬなッ! あーもー、いーから変なことしないで大人しくしてないさいッ! ケーキとか買ってくるからアンタは動くなッ!』
「心臓とかも? 困る」
『臓器は動かしとけッ!』
それだけ言って、かなみは通話を切った。ふむ、よく分からんがこれから来るのか。何もするなと言ってたが、せめて掃除だけでもしておこう。
せっせこ掃除してると、インターホンが鳴った。玄関に向かい、ドアを開ける。
「やほー、サンタさんだよー♪」
サンタの格好をしたかなみが妙なポーズを決めてた。
「病院へ行け」
思ったことを言ったらサンタに殴られた。
「なんつー言い草よ! ったく、せっかく衣装さんに言ってサンタの衣装借りてやったってのに……」
「いてて……いやまあ、うん。可愛い可愛い」
「そ、そう……? え、えへへ、まあ当然よね。ほら、あたしってば超可愛いし?」
「衣装のことを言いました」
また殴られた。このサンタ凶暴だ。
「誰かに見られたら面倒だからあがるわよッ!」
足音も荒く勝手に人の家に入る凶暴サンタ。続いて家に戻る。
「(ったく……人がせっかく頑張って早めに仕事終わらせて来てやったってのに……あによ、この仕打ち)」
「ん、何か言ったか?」
「何も言ってないッ!」
また殴られた。よく殴られます。
「ほら、ケーキ」
「ははー。謹んでお預かりします」
ぶっきらぼうに差し出された箱を、恭しく両手で受け取る。結構でかいな。
「お前が帰ったらありがたく食べるな」
「あたしも食べるに決まってるでしょうがッ!」
「スイーツ(笑)」
再び殴られた。何度目だ。
「ホントにもう……アンタねぇ、この状況分かってるの? 超人気アイドルのかなみちゃんと一緒のクリスマスなんて幸運、アンタが100万回生まれ変わったって訪れないんだからね?」
「お、ホールケーキか。二人で食いきれるかな」
「人の話聞けッ!」
ケーキの箱を開けてたら怒られた。よく殴られるだけでなく、よく怒られもします。
「……はぁ、せっかくのクリスマスだし、怒ってばっかりいてもしょうがないか。ほら、食べましょ」
「ちょっと待ってろ、ナイフ持ってくる」
台所へ向かい、ナイフを探す。そんな洒落たのねぇ。皿と包丁を持って戻る。
「これしかなかった」
「……まあいいわ。ほら、切りなさい」
「分かった。全然関係ないけど、包丁持つと興奮するよな」
かなみは無言で俺から包丁をひったくると、自分でケーキを切ってしまった。
「ちゃんとやる時もあるのに」
「あんなこと言ってる奴を信用できるかッ! ほら、アンタの分」
取り分けられたケーキを受け取る。
「ん、さんくす。じゃ、いただきます」
「はいはい。……しっかし、色気の欠片もないクリスマスねー。……あ、あのさ」
居住まいを正し、かなみは俺に話しかけた。
「もぐもぐ……うん?」
「……あ、アンタは、さ。あたしでよかったの?」
「?」
「だ、だから! ……だから、さ。……クリスマスに一緒なのが、あたしで」
「いいも何も、お前みたいな……言うのも恥ずかしいが、いわゆる超人気アイドルと一緒のクリスマスが嫌な奴なんていないだろ」
「……なんか、芸能人だったら誰でもいいみたいで、嬉しくない」
なんだか機嫌を損ねてしまったようだ。難しいなあ。
「うーん。というか、クリスマスに俺と一緒にいてくれるような奇特な奴なんて、世界中でお前くらいしかいないからなあ。比較のしようがない」
「……じゃ、一緒にいてくれるなら、誰でもよかったってこと?」
誰でも? ……こうして俺の向かいに座ってるのが、かなみじゃなく、他の誰でも?
「うーん……」
フォークを咥えたまま、腕を組んで考える。
「ちょ、そんな真剣に考えなくても、別に……」
「……いや。やっぱり、かなみじゃないと嫌だな」
わたわたと手を振るかなみを遮り、はっきりとそう言う。
「あ……う、そ、そう」
かなみの顔がゆっくりと赤くなっていった。
「あ、赤くなるな。こっちまで照れるだろうが」
「て、照れてなんてないわよっ! ばか、タカシのばか!」
「むう」
何かをごまかす様に、ケーキをもさもさ。うめえ。
「……その。それ、おいしい?」
「おいしい」
「……そか。……ふふっ、そっか」
「なんだよ、笑ったりして」
「んーん、なんでも。ほらほら、それより食べよっ」
「言われずとも食べてる」
「男なんだからもっと食べなさいよ。ほらほらほら」
「もがもがもが」
口の中にケーキをたくさん詰め込まれる。いかん、殺される。
「ほらほら。ふふ、おいしい?」
「もげもげもぐ……もぐ、ごくん。助けてえ!」
「なんで助けを呼んでるのよ!」
生命の危機を感じたからです。
「ったく、相変わらずバカねぇ……ほら、もう無理やり食べさせないから、ゆっくり食べよ?」
そう言ってかなみは優しく微笑んだ。不意に、胸がドキリとした。……かなみって、こんな可愛かったか?
「……サンタ衣装のせいだな」
「ん? 何が?」
「俺の視力がおかしくなった理由」
「え、なになに? あたしが可愛く見えでもした? ふっふーん、やっとタカシにも絶世のアイドル、かなみちゃんの魅力が分かってきたのね」
「なっ、何故それを!?」
……ってえ! 語るに落ちすぎだ、俺!
「え、あ……そ、そなんだ。本当にそなんだ」
いかん。照れたように自分の髪をいじるかなみが、妙に可愛くて見えて仕方ない。
今更ながら、クリスマスの夜にかなみというテレビでお馴染みのアイドルと一つ屋根の下にいるという事実に半びびり。
「……あー、そのだな。今更言うのもなんだが、折角のクリスマスだというのに、お前は俺と一緒でよかったのか?」
「むっ。嫌だったら最初っから誘わないっての。そんなこと聞くな、ばか」
かなみは指でケーキの生クリームをすくい、それを俺の鼻につけた。
「何をする」
「罰ゲーム。手を使って取っちゃダメだからね」
「むう。妖怪鼻舐めになるしか、このクリームを取る術はないな。妖怪鼻舐めとは、人間の鼻の脂を主食にする舌の長い妖怪であり、夜な夜な山里から降りてきては人間の鼻を舐めとるエコロジーな妖怪だ。鼻の脂以外を食べると死ぬ」
「んじゃ死ぬじゃない! ……じゃ、じゃあ、代わりにあたしが舐め取ってあげる」
「え゛」
何か言う前に、かなみはふわりと俺のすぐ間近まで迫り、俺の鼻をぺろりと舐めた。
「なっ、お、おま、おまえ、おまえなあッ!」
「ふふっ、あまーい♪」
「あ、あま、甘いとか、甘くないとか、最初に言い出したのは誰なのかしら」
「ムードぶち壊しにするようなこと言うなっ! なんでときメモよッ!」
「緊張感に耐え切れなかったんだ」
「ああもう……色々台無しよぉ……」
テーブルに突っ伏し、ぐでーとなるかなみさん。しょうがないとはいえ、少し申し訳ない。
「えーと。えい」
「ひゃっ!? 何するの……よ」
かなみの鼻にクリームをつけ、それをぺろり。
「ええと、お返し」
「……あ、そ、そう。……あによ、これで勝った気?」
「はい?」
「そんな奴は……こーだ!」
かなみは手に大量のクリームをつけ、俺のほっぺにべたりと塗った。そしてすぐさまぺろぺろと舐めだした。
「わっ、お、おまっ! さすがにやりすぎだぞ!」
「知らないわよ! へっへー、悔しかったらやり返しなさいよ!」
「……と、当然だとも! とうっ!」
一瞬躊躇したが、すかさず思い直し、クリームを手に取りかなみのほっぺにぬたぬた。そして、ぺろぺろ舐め取る。
「ふひゅっ……な、なんか、これ、……すっごくえっちかも」
「じゃあこのままIN+OUTになだれ込んでも気がつかれないかも!」
「つくわよっ! ったく、このかなみちゃんとそう簡単にえっちできると思わないことね、このヘンタイっ♪」
かなみは両手につけたクリームを俺の首筋になすりつけ、それをぺろぺろと舐め取った。熱くて柔らかな舌の触感に、腰骨が震えるような感覚を覚える。
「ふ、うぐ……ま、負ける気がしねー」
かなみのサンタ服をまくり、出てきた腹にクリームをなすりつけ、そこをぺろぺろぺろ。
「はひゅっ!? ちょ、そこはちょっとどうかと思うわよ!?」
「実は俺もやりすぎているかもと思っている」
とか言いながら、舌先でヘソのくぼみをぺろぺろ。
「ふにゃっ!? ちょ、そこダメ!」
「テンション上がってきた」
「上がるな! 顔を振るな! ついでに人のおなか舐めまくるなあっ!」
俺の顔もかなみの腹もクリームまみれです。
「うー……ひ、人のお腹を陵辱して、許さないからね!」
「陵辱て。人聞きの悪い」
「う、うっさい! とうっ!」
かなみは俺を押し倒し、俺の顔についているクリームをぺろぺろと舐めた。頬やらおでこやらまぶたやら舐められ大変。
「ぷわ、ぬわ、ぷわ」
「ぺろぺろ、ぺろぺろ。……わ、どうしよ。なんかすっごい楽しい」
「ぬわ、だからって舐めまくるのは、ぷわ、どうかと、ぬわ」
「ひひー♪ じっとしてないと、間違って口舐めちゃうわよー?」
「動きたいという本能と、じっとしていなければならないという理性が、俺の中で戦を!」
「……そ、それで、どっちが勝ったの?」
真剣な表情で、かなみが尋ねる。
「あー……その。ほ、本能って強いよね」
ゆっくりとした動きで、少しだけ顔を動かす。かなみの頬が赤くなっていく。
「そ、そう。……そんな動いてたら、間違えちゃうかもしれないわよね」
「か、かもな」
ゆっくりと降りてくるかなみの顔。鼻息が届きそうな距離から、鼻と鼻が挨拶するほどの距離まで近づく。かなみの吐息が、鼓動が、熱まで届きそうな。
「……あ、あれ?」
そのまま口と口が触れ合うとばかり思ってたのだが、かなみの口は俺の頬に触れただけだった。
「……すると思った?」
イタズラっぽい笑みを浮かべるかなみに、ようやっと騙されたことに気づく。
「て、てめえ! 純情な俺様の感情を弄びやがったなあ!」
「へっへー、そーんな軽くないんだな、かなみちゃんは♪」
イタズラが成功した子供の笑顔で、かなみはニコニコした。
「ね、ね、本当にすると思った? へっへー、どう、あたしの演技?」
「あー、流石は芸能人、見事な演技だ。お前が俺のことを好きだと勘違いする程度には騙された」
「えっ、あ、そ、それは……勘違いってゆーか」
「うん?」
「……い、いいのっ、タカシは何も気にしないで! いーわね!?」
よくないけど、なんか鬼気迫る勢いなのでコクコクうなずく。
「そっ。……すっ、素直だから、ご褒美あげる」
かなみは自分の体を俺の隣に横たえ、そのまま俺に抱きつき、俺の顔に残ってるクリームをさらに舐めた。
「ぷわ、ぬわ。……これ、ご褒美?」
「あによ。こんなことしてあげる奴なんて世界中でタカシだけなんだから、もっと喜びなさいよ」
俺のほっぺを甘噛みしながら、かなみは少し不満そうに言った。
「独占欲が満たされた!」
「普通に喜びなさいよ! ……ほんっと、変なやつ」
力の抜けたような笑みを浮かべ、かなみは俺のほっぺをひと舐めした。その顔をぼーっと眺める。
「ん? なに?」
吸い込まれるようにかなみの頬に口づけする。
「んひゃっ!? な、なに? く、クリームついてないわよ?」
「や、なんかしたくなった」
「……そ、そう。じゃ、仕方ないわよね」
俺もかなみも何が仕方ないのか分からないまま納得する。
「……ええと、だな。もっかいしていいか?」
「ど、どうしてもしたいなら、別に?」
微妙な許可が出たので、もう一度かなみのほっぺに吸い付く。
「……うー、な、なんか、あたしもしたい。いい?」
「ちゅーちゅー……不許可」
「なんでよ! あたしもする!」
俺を引き離すと、今度はかなみが俺のほっぺに吸い付いた。
「んー♪ んうー♪」
「くう、負けるものか!」
「ちゅー……だめー。あたしの番だもんー♪」
その後、吸ったり吸われたり舐めたり舐められたりした。
そんなことをしてたら知らない間に寝てたようで、気がつくと既に日が昇っていた。
「んにゅ……くー」
隣で寝てるサンタの頭を優しくなでる。
「んにゅ♪ ……んー、んう?」
うっすらとまぶたが開いていく。
「おはよう、サンタさん」
「……んー♪」
俺に抱きついてくるかなみの頭を、軽くなでなで。
「んー……ん?」
何かに気づいたかのように、かなみは頭を巡らした。そして、ある一点でぴたりと止まった。俺も釣られて同じ場所を見る。時計……?
「あああああーッ! ちっ、遅刻ーッ!」
「遅刻? もう学校は休みに入ってるぞ?」
「仕事! あるの! 朝から!」
ばたばたと立ち上がり、かなみは携帯を取り出すと、なにやら操作した。
「……うわあ、マネージャーからメール、すっごい来てた」
「大変だなあ。ふわあああ……さて、俺は寝直すか」
「ダメ! タカシのせいで寝過ごしたんだから、アンタも一緒に謝るの! ……あ、マネージャ? ……ああもう、分かってるわよ。すぐ車回して。……うん、そう、いつものところ」
マネージャーさんに連絡しながら、不思議なことを俺に言うかなみさん。
「あの、俺が行っても面倒になるとしか思えないのだけど」
「うっさい! なんでもいいからアンタも来るの! うー、服クリームでべとべとぉ……」
「精液でベトベトじゃなくてよかったね。らっきー♪」
ものすごい怖い顔で睨まれたので怖い。とか思ってたら、かなみの携帯が鳴った。
「はい! ……え、もう来たの? 分かった、すぐ行く!」
マネージャからのようだ。通話を切り、かなみは俺の手を取った。
「ほら、行くわよ!」
「え、マジで俺も行くの?」
「行くの! 別に一緒に謝れとか言わないから! 現場見学してるだけでもいいから! ……そ、その、すぐ離れるの、なんか嫌だし。……ダメ?」
俺を見上げる叱られた子供のような視線に、ノックアウト。
「……せめて顔くらい洗わせてくれ」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうなかなみと一緒に洗面台へ向かう俺だった。
【クリスマスに風邪をひいたら】
2010年02月05日
クリスマスだってのに風邪ひいた。最悪だ。
「うー……チクショウ、健康なら能面のような表情で近所のコンビニを徘徊、もしもカップルが現れたなら二人が買おうと手を伸ばしたモノことごとくに嫌な解説を加える(例・『あ! そのシャンペン、ボクのおしっこそっくりですよ!』など)という荒川工考案の作戦を行ったものを……!」
「熱があるからそのようなことを思いつくのか、それとも普段からそのような悪行を考えているのか、判断が難しいですわね」
「あ……?」
俺じゃない声がする。
「……いよいよもって俺の妄想も性質が悪くなったな。まさか、リナの姿をこうもくっきりと現実世界に映し出すだなんて」
「妄想ではありませんわ。本当にいますわよ」
そう言いながら、俺の妄想が枕元までやってきた。
「最初に言っておきますが、見舞いじゃありませんわよ。せっかくのクリスマスに風邪をひいた馬鹿を見学に来ただけですわ」
「おっぱいが喋ってる。宇宙人?」
「おっぱいじゃありませんっ! 神野リナですわっ! 胸のことは言わないでいただけますことっ!?」
リナの乳がぶるんっと震えた。
「よく分からんが、お前が俺の妄想であれば、俺に都合がいい展開になるに違いない。ご飯作ってくれるとか、ふーふーしてくれるとか、寝るまで傍にいてくれるとか」
「冗談じゃありませんわ。何度も言いますが、ワタクシは妄想でも何でもなく、ちゃんとした本物ですも……」
「うん? どうかしたか?」
「(ワタクシを妄想と勘違いしてるし、熱で朦朧としてる今なら、ベタベタしても大丈夫じゃ……?)」
「リナ? どした、孕んだか?」
「孕みませんわっ! ……あ、いやその、……や、やっぱりワタクシ、貴方の妄想でしてよ♪」
「やっぱりだ! リナが、あの豪華絢爛DXワガママお嬢様のリナがわざわざ俺の見舞いにくるはずなんてないよな。いや、この方がよっぽどリアリティあるな」
「こっ、この、黙って聞いてれば……」
「どした、リナ?」
「な、なんでもないですわよ♪ それで、何をしてほしいんですの?」
「胸を触りてえ」
「ダメに決まってますわ!」
「じゃあ、その豊満な乳に俺の顔を埋めてえ」
グーで殴られた。俺の妄想強え。
「……性的なこと以外でお願いできますこと?」
「んー……じゃ、ご飯食べたい。おかゆ」
「おかゆ……そんな貧乏臭い料理、作ったことありませんわ」
「この妄想使えねえなあ」
「し、しょうがないですわ! 家ではいつもシェフが作ってるんですもの」
「んー……じゃ、作り方教えるから、作って」
「……下手ですわよ? いいんですの?」
「吐くから大丈夫」
「絶対に作りませんわ!」
必死で謝り、どうにかリナの機嫌を直す。なんで妄想の機嫌をとらなくちゃいけねーんだ。
その後、口で簡単におかゆの作り方を教える。
「……で、できました、わ?」
数十分後、土鍋を載せたお盆を持つリナが、自信なさげな様子で部屋に入ってきた。
「おー。待ってたぞ」
「い、言っておきますが、味の保障はしませんわよ。もっとも、ワタクシが作ってあげたという事実が何よりの調味料ですけどね。おーっほっほっほっほ!」
高笑いがうるさいなあと思いつつ、おかゆを一口。
「……ど、どうですの?」
「もにゅもにゅ……味がねえ」
「え? なんでですの?」
「お前、塩入れたか?」
「あ……」
やっぱか。ただのふにゃふにゃ飯だな、コレ。まずくはないが、味がないのでおいしくもない。
「で、でも残したら許しませんわよ! せっかくワタクシが作ってあげたんだから」
「言われなくても残さねーよ」
もう一口ぱくり。うん、平坦。のっぺり味。
「う……そ、その、でも、どうしてもって言うなら残してもいいですわよ?」
「たとえお前が妄想でも、リナの形をしたものが作ってくれたものを残すような、そんなもったいないことできないっての」
「う……」
申し訳なさそうな、嬉しそうな顔をして、リナは何やら口ごもった。その横で土鍋をどんどん空にしていく。
「あ、それじゃせめて食べさせてあげますわ」
「え、いや、いいよ。一人で食える」
「いいから。ほら、貸しなさいな」
リナは俺から無理やり土鍋を奪うと、レンゲで一口すくった。
「ふーっ、ふーっ。はい、あーん」
「俺を辱める気だな」
「ふふっ、どうかしら? ほら、早く食べなさいな」
「口を開けた瞬間に『ドッキリでしたー』って言いながらヘルメットの男が乱入したりしないか?」
「ドッキリじゃないですし、なんだか全体的に古いですわっ! ほら、いいから口をお開けなさいッ!」
口の中にレンゲを突っ込まれる。
「もがもが……突っ込むな」
「ふん。貴方が最初から素直に口を開けないからですわ」
「わーったよ、開けるよ……ほら、あー」
「あら? あらあらあら? ワタクシはさっきの一口だけのつもりでしたのに。もっと食べさせてほしいんですの?」
リナの顔が意地悪な感じに変化していく。罠か。
「うふふ、しょうがないですわね。どーしてもと言うのであれば、食べさせてあげますわよ。ああ……ワタクシって優しすぎる。おーっほっほっほっほ!」
「こいつ頭おかしい」
「失礼ですわねっ! ほら、口をお開けなさいなっ! あーんですわ!」
「あー」
「はいっ! 次! あーん!」
「あー」
本来であればイチャイチャラブいシーンなはずだが、どうにも餅つきのシーンのようで威勢はよいが悲しい。
そうこうしている内に、土鍋は空になっていた。
「げふー。味はともかく、満腹」
「……わ、悪かったですわね。次はもっと上手に作ってみせますわ」
「ん、期待してる」
期待とねぎらいを込め、リナの頭をなでる。
「こ、子供じゃないんですから、こんなことされても嬉しくありませんわ……」
ちょっと拗ねたような顔をしながらも、リナの頬はほんのりと赤くなっていた。
「さ、さて! 次ですわ。何をしてほしいかしら?」
「パイズリ」
「紳士と変態の落差が激しすぎですわッ!」
掌底ばりのビンタされた。痛い。
「うっうっ……どちらも俺なんです」
「泣きたいのはこっちですわ! せっかくの聖夜に、なんでこんなことを……」
「あー、そだな。クリスマスだもんな。こんな日に俺につき合わせて悪かったな、リナ。もう帰ってもいいぞ。後は一人でも大丈夫だから」
「……だ、ダメですわ。許しません。ちゃんと貴方が眠るまで、傍にいてあげますわ」
「え、いや、しかし」
「ワタクシは貴方の妄想なんでしょ? なら、ワタクシのことなど気にせず、したいことをなさればいいじゃなくて?」
「……いいのか?」
「もちろんですわ。……あ、言っておきますが、エッチなのはダメですわよ?」
「うっ、ううっ……畜生、畜生!」
「泣くなッ!」
「冗談だ。じゃ、寝るまで傍にいてくれ」
「テンションの落差についていけませんわ……」
そう言いながら、リナは俺の枕元に座った。そして、俺の手を握り、優しく微笑んだ。
「ほら、寝るまで手を握っててあげますから、安心して眠りなさいな」
「寝た後に濡れ布巾を顔にかけたりしないか?」
「なんで殺意があるんですのっ! いいから眠りなさいっ!」
とても怖いので目をつむる。
「まったく……」
何かぶつぶつ言った後、小さな歌声が聞こえてきた。これは……子守唄?
その歌に誘われるように、意識がまどろんでいく。
「……お休みなさい、タカシ」
その優しい声は、夢か現か。
「……ん」
目が覚めた。頭も痛くないし、だるさもないし、節々の痛みもない。よし、治った。
ふと、手に何かを握ってることに気づいた。女性の手だ。視線をずらしていく。リナが俺のベッドに上半身を預け、くーくー寝てた。
「半分くらいそうじゃないかと思ってたが、妄想じゃなかったか……」
とりあえず握られた手を外そうと、そっと手を開くが、全然離れない。空いてる手でリナの指をはがそうとするが、離れない。
「ん、んう……」
いかん、あんまり無茶すると起きる。
「そうなっては寝てるリナの胸を視姦したりそっと触ったりあまつさえ揉んだりできないじゃあないか!」
「このド変態ッ!」
リナが目を覚ますなり俺にビンタをします。
「……あら? ワタクシ、寝てましたの?」
「いや、ビンタしてた」
痛むほっぺをさすりながら、半泣きでリナに訴える。
「ど、どうせワタクシにいやらしいことをしようとしてたんでしょ? 当然の罰ですわ。おーっほっほっほっほ!」
無意識の行動か。すげえな。
「ま、なんだ。昨日は一日ありがとうな。お前のおかげで全快だ」
「な、何のことですの? ワタクシ、ついさっき来て、寝てる貴方の傍で偶然、ぐ・う・ぜ・ん! 睡魔に襲われ、ふらふらと寝てしまっただけですわ。夢でも見てたんじゃなくて?」
……あー、つじつまを合わせようとしてるのな。昨日のアレが現実のリナでなく、俺の妄想のリナってことにしたい、と。
黙っていようかと思ったが、リナの意地っ張りな様子を見てると、意地悪をしたくなってきた。
「そっかー。いやな、夢でも見てたのか、昨日うちにリナが来た気がして」
「ゆ、夢ですわ。ワタクシ、昨日はクリスマスイブなので、家で家族や各界の著名人とパーティーをしてましたの。貴方にも見せたかったですわ」
「くく……そ、そっか。んでな、俺の夢の話だが、そこでリナは甲斐甲斐しく病気の俺を世話してくれたんだ。いや、あれは嬉しかったなー」
「そ、そうですの……」
おお、リナの顔がゆっくり赤くなっていく。
「しかし、あれ全部夢だったのか。残念だな。本当だったら、思わず惚れるほどの女っぷりだったのに」
「ほっ、本当ですの!? あ、あの、えっと、その、実は」
「でもまあ、リナはパーティーしてたらしいし、夢だよな」
「あ……」
途端、リナの顔がゆっくりと沈んでいった。くく……いかん、面白すぎる。
「……もう帰りますわ」
いかん、からかいすぎた。亡霊のような歩みで出て行こうとするリナの腕を掴み、慌てて引き止める。
「……なんですの?」
「あ、いやその、ごめん。昨日はありがとう」
「……だから、それは夢の話でしょ? ワタクシは、パーティーに出ていたので、関係ないですわ」
「それでも、ありがとうって言いたいの、俺は。わざわざ来てくれてありがとう。本当に感謝してる」
「う……あ……ま、まあ、身に覚えのない話ですが、いいですわ。気にしませんわよ」
悲しそうな顔が、ゆっくりと笑顔になっていく。よかった。
「さてっ! 元気になったことだし、今日はデートでもすっか?」
「なっ、なぜワタクシが貴方のような者とデートなんてしなくてはいけなくて!?」
「俺がしたいから! よし行くぞリナ、向かうは近所の公園だ!」
「せめてもうちょっとマシな場所はなくって!? というか貴方パジャマですわよ!?」
「ははっ、気にするな」
「ワタクシが気にするんですのっ!」
俺の部屋にリナの絶叫が木霊するのだった。
「うー……チクショウ、健康なら能面のような表情で近所のコンビニを徘徊、もしもカップルが現れたなら二人が買おうと手を伸ばしたモノことごとくに嫌な解説を加える(例・『あ! そのシャンペン、ボクのおしっこそっくりですよ!』など)という荒川工考案の作戦を行ったものを……!」
「熱があるからそのようなことを思いつくのか、それとも普段からそのような悪行を考えているのか、判断が難しいですわね」
「あ……?」
俺じゃない声がする。
「……いよいよもって俺の妄想も性質が悪くなったな。まさか、リナの姿をこうもくっきりと現実世界に映し出すだなんて」
「妄想ではありませんわ。本当にいますわよ」
そう言いながら、俺の妄想が枕元までやってきた。
「最初に言っておきますが、見舞いじゃありませんわよ。せっかくのクリスマスに風邪をひいた馬鹿を見学に来ただけですわ」
「おっぱいが喋ってる。宇宙人?」
「おっぱいじゃありませんっ! 神野リナですわっ! 胸のことは言わないでいただけますことっ!?」
リナの乳がぶるんっと震えた。
「よく分からんが、お前が俺の妄想であれば、俺に都合がいい展開になるに違いない。ご飯作ってくれるとか、ふーふーしてくれるとか、寝るまで傍にいてくれるとか」
「冗談じゃありませんわ。何度も言いますが、ワタクシは妄想でも何でもなく、ちゃんとした本物ですも……」
「うん? どうかしたか?」
「(ワタクシを妄想と勘違いしてるし、熱で朦朧としてる今なら、ベタベタしても大丈夫じゃ……?)」
「リナ? どした、孕んだか?」
「孕みませんわっ! ……あ、いやその、……や、やっぱりワタクシ、貴方の妄想でしてよ♪」
「やっぱりだ! リナが、あの豪華絢爛DXワガママお嬢様のリナがわざわざ俺の見舞いにくるはずなんてないよな。いや、この方がよっぽどリアリティあるな」
「こっ、この、黙って聞いてれば……」
「どした、リナ?」
「な、なんでもないですわよ♪ それで、何をしてほしいんですの?」
「胸を触りてえ」
「ダメに決まってますわ!」
「じゃあ、その豊満な乳に俺の顔を埋めてえ」
グーで殴られた。俺の妄想強え。
「……性的なこと以外でお願いできますこと?」
「んー……じゃ、ご飯食べたい。おかゆ」
「おかゆ……そんな貧乏臭い料理、作ったことありませんわ」
「この妄想使えねえなあ」
「し、しょうがないですわ! 家ではいつもシェフが作ってるんですもの」
「んー……じゃ、作り方教えるから、作って」
「……下手ですわよ? いいんですの?」
「吐くから大丈夫」
「絶対に作りませんわ!」
必死で謝り、どうにかリナの機嫌を直す。なんで妄想の機嫌をとらなくちゃいけねーんだ。
その後、口で簡単におかゆの作り方を教える。
「……で、できました、わ?」
数十分後、土鍋を載せたお盆を持つリナが、自信なさげな様子で部屋に入ってきた。
「おー。待ってたぞ」
「い、言っておきますが、味の保障はしませんわよ。もっとも、ワタクシが作ってあげたという事実が何よりの調味料ですけどね。おーっほっほっほっほ!」
高笑いがうるさいなあと思いつつ、おかゆを一口。
「……ど、どうですの?」
「もにゅもにゅ……味がねえ」
「え? なんでですの?」
「お前、塩入れたか?」
「あ……」
やっぱか。ただのふにゃふにゃ飯だな、コレ。まずくはないが、味がないのでおいしくもない。
「で、でも残したら許しませんわよ! せっかくワタクシが作ってあげたんだから」
「言われなくても残さねーよ」
もう一口ぱくり。うん、平坦。のっぺり味。
「う……そ、その、でも、どうしてもって言うなら残してもいいですわよ?」
「たとえお前が妄想でも、リナの形をしたものが作ってくれたものを残すような、そんなもったいないことできないっての」
「う……」
申し訳なさそうな、嬉しそうな顔をして、リナは何やら口ごもった。その横で土鍋をどんどん空にしていく。
「あ、それじゃせめて食べさせてあげますわ」
「え、いや、いいよ。一人で食える」
「いいから。ほら、貸しなさいな」
リナは俺から無理やり土鍋を奪うと、レンゲで一口すくった。
「ふーっ、ふーっ。はい、あーん」
「俺を辱める気だな」
「ふふっ、どうかしら? ほら、早く食べなさいな」
「口を開けた瞬間に『ドッキリでしたー』って言いながらヘルメットの男が乱入したりしないか?」
「ドッキリじゃないですし、なんだか全体的に古いですわっ! ほら、いいから口をお開けなさいッ!」
口の中にレンゲを突っ込まれる。
「もがもが……突っ込むな」
「ふん。貴方が最初から素直に口を開けないからですわ」
「わーったよ、開けるよ……ほら、あー」
「あら? あらあらあら? ワタクシはさっきの一口だけのつもりでしたのに。もっと食べさせてほしいんですの?」
リナの顔が意地悪な感じに変化していく。罠か。
「うふふ、しょうがないですわね。どーしてもと言うのであれば、食べさせてあげますわよ。ああ……ワタクシって優しすぎる。おーっほっほっほっほ!」
「こいつ頭おかしい」
「失礼ですわねっ! ほら、口をお開けなさいなっ! あーんですわ!」
「あー」
「はいっ! 次! あーん!」
「あー」
本来であればイチャイチャラブいシーンなはずだが、どうにも餅つきのシーンのようで威勢はよいが悲しい。
そうこうしている内に、土鍋は空になっていた。
「げふー。味はともかく、満腹」
「……わ、悪かったですわね。次はもっと上手に作ってみせますわ」
「ん、期待してる」
期待とねぎらいを込め、リナの頭をなでる。
「こ、子供じゃないんですから、こんなことされても嬉しくありませんわ……」
ちょっと拗ねたような顔をしながらも、リナの頬はほんのりと赤くなっていた。
「さ、さて! 次ですわ。何をしてほしいかしら?」
「パイズリ」
「紳士と変態の落差が激しすぎですわッ!」
掌底ばりのビンタされた。痛い。
「うっうっ……どちらも俺なんです」
「泣きたいのはこっちですわ! せっかくの聖夜に、なんでこんなことを……」
「あー、そだな。クリスマスだもんな。こんな日に俺につき合わせて悪かったな、リナ。もう帰ってもいいぞ。後は一人でも大丈夫だから」
「……だ、ダメですわ。許しません。ちゃんと貴方が眠るまで、傍にいてあげますわ」
「え、いや、しかし」
「ワタクシは貴方の妄想なんでしょ? なら、ワタクシのことなど気にせず、したいことをなさればいいじゃなくて?」
「……いいのか?」
「もちろんですわ。……あ、言っておきますが、エッチなのはダメですわよ?」
「うっ、ううっ……畜生、畜生!」
「泣くなッ!」
「冗談だ。じゃ、寝るまで傍にいてくれ」
「テンションの落差についていけませんわ……」
そう言いながら、リナは俺の枕元に座った。そして、俺の手を握り、優しく微笑んだ。
「ほら、寝るまで手を握っててあげますから、安心して眠りなさいな」
「寝た後に濡れ布巾を顔にかけたりしないか?」
「なんで殺意があるんですのっ! いいから眠りなさいっ!」
とても怖いので目をつむる。
「まったく……」
何かぶつぶつ言った後、小さな歌声が聞こえてきた。これは……子守唄?
その歌に誘われるように、意識がまどろんでいく。
「……お休みなさい、タカシ」
その優しい声は、夢か現か。
「……ん」
目が覚めた。頭も痛くないし、だるさもないし、節々の痛みもない。よし、治った。
ふと、手に何かを握ってることに気づいた。女性の手だ。視線をずらしていく。リナが俺のベッドに上半身を預け、くーくー寝てた。
「半分くらいそうじゃないかと思ってたが、妄想じゃなかったか……」
とりあえず握られた手を外そうと、そっと手を開くが、全然離れない。空いてる手でリナの指をはがそうとするが、離れない。
「ん、んう……」
いかん、あんまり無茶すると起きる。
「そうなっては寝てるリナの胸を視姦したりそっと触ったりあまつさえ揉んだりできないじゃあないか!」
「このド変態ッ!」
リナが目を覚ますなり俺にビンタをします。
「……あら? ワタクシ、寝てましたの?」
「いや、ビンタしてた」
痛むほっぺをさすりながら、半泣きでリナに訴える。
「ど、どうせワタクシにいやらしいことをしようとしてたんでしょ? 当然の罰ですわ。おーっほっほっほっほ!」
無意識の行動か。すげえな。
「ま、なんだ。昨日は一日ありがとうな。お前のおかげで全快だ」
「な、何のことですの? ワタクシ、ついさっき来て、寝てる貴方の傍で偶然、ぐ・う・ぜ・ん! 睡魔に襲われ、ふらふらと寝てしまっただけですわ。夢でも見てたんじゃなくて?」
……あー、つじつまを合わせようとしてるのな。昨日のアレが現実のリナでなく、俺の妄想のリナってことにしたい、と。
黙っていようかと思ったが、リナの意地っ張りな様子を見てると、意地悪をしたくなってきた。
「そっかー。いやな、夢でも見てたのか、昨日うちにリナが来た気がして」
「ゆ、夢ですわ。ワタクシ、昨日はクリスマスイブなので、家で家族や各界の著名人とパーティーをしてましたの。貴方にも見せたかったですわ」
「くく……そ、そっか。んでな、俺の夢の話だが、そこでリナは甲斐甲斐しく病気の俺を世話してくれたんだ。いや、あれは嬉しかったなー」
「そ、そうですの……」
おお、リナの顔がゆっくり赤くなっていく。
「しかし、あれ全部夢だったのか。残念だな。本当だったら、思わず惚れるほどの女っぷりだったのに」
「ほっ、本当ですの!? あ、あの、えっと、その、実は」
「でもまあ、リナはパーティーしてたらしいし、夢だよな」
「あ……」
途端、リナの顔がゆっくりと沈んでいった。くく……いかん、面白すぎる。
「……もう帰りますわ」
いかん、からかいすぎた。亡霊のような歩みで出て行こうとするリナの腕を掴み、慌てて引き止める。
「……なんですの?」
「あ、いやその、ごめん。昨日はありがとう」
「……だから、それは夢の話でしょ? ワタクシは、パーティーに出ていたので、関係ないですわ」
「それでも、ありがとうって言いたいの、俺は。わざわざ来てくれてありがとう。本当に感謝してる」
「う……あ……ま、まあ、身に覚えのない話ですが、いいですわ。気にしませんわよ」
悲しそうな顔が、ゆっくりと笑顔になっていく。よかった。
「さてっ! 元気になったことだし、今日はデートでもすっか?」
「なっ、なぜワタクシが貴方のような者とデートなんてしなくてはいけなくて!?」
「俺がしたいから! よし行くぞリナ、向かうは近所の公園だ!」
「せめてもうちょっとマシな場所はなくって!? というか貴方パジャマですわよ!?」
「ははっ、気にするな」
「ワタクシが気にするんですのっ!」
俺の部屋にリナの絶叫が木霊するのだった。
【ツンデレと一緒にホームルームを受けたら】
2010年02月05日
今日のホームルームは文化祭で何をするか、という議題だ。結果、メイド喫茶をすることになった。
「あたし、食べるの専門!」
「早速頭の悪い発言をする奴がいたので誰かと思ったら、想像通り瑠姫だった。何の面白みもない結果に、思わず閉口してしまう」
思ったことを言ったら飛び蹴りが飛んできた。居並ぶ机を吹き飛ばし、ごろんごろん転がる。
「オマエ、シツレーだぞ!」
寝転ぶ俺の前で、瑠姫は仁王立ちした。丁度下から見上げる形になるので、スカートの中が丸見えで大変喜ばしい。
「特にしまぱんがいい。さらに言うなら、しまぱんに刻まれる一筋の線が俺の劣情を加速させる」
「ふにゃっ!? みっ、見るなバカッ!」
げしげし踏まれた。顔を。
「踏むな。その前に蹴るな。でもしまぱんを俺の顔に押し付ける刑罰なら喜んで受けるのでお願いします」
「うっさい! えっちバーカ変態!」
瑠姫は両手で口の両端を引っ張り、舌を出してべろべろした。子供か。
「委員長、こいつは人の顔を何の遠慮もなく踏むような悪漢なので、ケーキの味見役には是非この俺を」
「いいんちょー! こいつはあたしのパンツ覗くような変態だから、ケーキの味見はあたしに!」
「二人とも、廊下にいてね♪」
笑顔の委員長に圧倒され、二人してすごすご廊下に出る。
「うー……オマエのせいで怒られちゃったじゃんか! バーカバーカバーカ!」
瑠姫が俺の顔を両手で交互にチョップするので微妙に痛い。
「俺だけのせいではないと思うが」
「全部オマエのせーだ! オマエが変なこと言わなかったら、あたしがケーキ食べれたのに! うがー!」
チョップだけでは気が済まなかったのか、瑠姫は俺の手をがじがじかじりだした。微妙どころか、かなり痛え。
「俺が何も言わなくても、味見専門の係なんてものは存在しなかったと思うが。そして、俺が変なことを言うことを我慢できるはずがない」
「何をえばってんだ、バカ! うー……ケーキ、食べたかったのにぃ……」
よほど食べたかったのか、瑠姫の口の端から涎がこぼれだした。俺の手をかじってる最中なので、自然と俺の手が涎まみれ。
「瑠姫、涎が大変なことに」
「にゃ? ……うあ、オマエの手、べとべとだ。きちゃない」
瑠姫は嫌そうに口を離した。誰のせいだ、と思いながら、解放された手をべろべろ舐めまくる。
「いにゃあああ!? オマエ何やってんだ!?」
「これって間接キスだよなって言ったら」
「やめれーっ! あたしの涎食べるなっ!」
「ぺろぺろ。なんか甘い」
「感想言うにゃーッ!」
「二人ともうるさいッ!」
教室から出てきた委員長に怒られた。
「だってだっていいんちょー! こいつが変態っぽいことすんだもん!」
「いやいや、違うぞ瑠姫。変態っぽい、ではなく、変態行為そのもの、だッ!」
「余計悪いぃっ!」
格好つけて言ったのに怒られた。
「うー……いいんちょー、こいつ退学にできない?」
「そこまでの権限、残念ながら一学生にないわよ」
「そんにゃー……」
がっくりうなだれる瑠姫。そんな嫌か。
「大丈夫だぞ、瑠姫。そんなこともあろうかと、学業には力を入れている。先生からは優等生と見られているので、多少の悪行には目をつむってもらってるぞ!」
「コイツ最悪だ!」
「二人とも、これ以上騒ぐと千切るわよ♪」
瑠姫は自慢のツインテールを、俺はそけい部の中心をそれぞれ押さえながらコクコクうなずく。
「分かったならいいの。じゃ、この時間終わるまで廊下にいてね」
委員長が教室に入るのを見届け、二人して息を吐く。
「うー……オマエのせいで千切られるところだったじゃんか! バカ! もし千切られたらどーすんだ!」
「いやいや、お前の昆布は千切られても再生するが、俺の素敵棒は代替品がないんだぞ? 恐怖度が段違いだ」
「昆布じゃにゃー! かみ! オマエのなんて千切られちゃえ、ばか!」
「そうなったらオカマとして生きていく羽目になり、日銭を稼ぐため泣く泣くテレビに出演するなり大人気で億万長者になっちまうじゃねえか!」
「いいじゃん」
「ホントだ」
「にひー。切る?」
「勘弁してください」
「まーまーまー。遠慮するな?」
「勘弁しろと言っている!」
嬉しそうにつきまとってくる瑠姫から逃げるように、教室前の廊下をぐるぐる走る。
「バタバタうるさいッ!」
勢いよくドアを開け、委員長が顔を出した。いかん、かなり怒ってらっしゃる。
「瑠姫が抱いてくれってうるさくて」
「言ってないよ!?」
「……二人とも校庭ダッシュ! 10周!」
俺の言い訳が気に食わなかったのか、罰を与えられた。
「ええーっ!? そ、そんなのヤだよ! オマエもなんとか言えよ」
「瑠姫が俺の分までしてくれるらしい」
「言ってないよ!?」
「15周!」
増えた。このまま言い訳をしても増え続けるだけと思い、二人して校庭へ走る。
「ふにゃー……オマエ、絶対許さないかんなー……」
「ふふ、制服でマラソンとか。地獄だ」
へろへろになりながら校庭を走る俺と瑠姫だった。
「あたし、食べるの専門!」
「早速頭の悪い発言をする奴がいたので誰かと思ったら、想像通り瑠姫だった。何の面白みもない結果に、思わず閉口してしまう」
思ったことを言ったら飛び蹴りが飛んできた。居並ぶ机を吹き飛ばし、ごろんごろん転がる。
「オマエ、シツレーだぞ!」
寝転ぶ俺の前で、瑠姫は仁王立ちした。丁度下から見上げる形になるので、スカートの中が丸見えで大変喜ばしい。
「特にしまぱんがいい。さらに言うなら、しまぱんに刻まれる一筋の線が俺の劣情を加速させる」
「ふにゃっ!? みっ、見るなバカッ!」
げしげし踏まれた。顔を。
「踏むな。その前に蹴るな。でもしまぱんを俺の顔に押し付ける刑罰なら喜んで受けるのでお願いします」
「うっさい! えっちバーカ変態!」
瑠姫は両手で口の両端を引っ張り、舌を出してべろべろした。子供か。
「委員長、こいつは人の顔を何の遠慮もなく踏むような悪漢なので、ケーキの味見役には是非この俺を」
「いいんちょー! こいつはあたしのパンツ覗くような変態だから、ケーキの味見はあたしに!」
「二人とも、廊下にいてね♪」
笑顔の委員長に圧倒され、二人してすごすご廊下に出る。
「うー……オマエのせいで怒られちゃったじゃんか! バーカバーカバーカ!」
瑠姫が俺の顔を両手で交互にチョップするので微妙に痛い。
「俺だけのせいではないと思うが」
「全部オマエのせーだ! オマエが変なこと言わなかったら、あたしがケーキ食べれたのに! うがー!」
チョップだけでは気が済まなかったのか、瑠姫は俺の手をがじがじかじりだした。微妙どころか、かなり痛え。
「俺が何も言わなくても、味見専門の係なんてものは存在しなかったと思うが。そして、俺が変なことを言うことを我慢できるはずがない」
「何をえばってんだ、バカ! うー……ケーキ、食べたかったのにぃ……」
よほど食べたかったのか、瑠姫の口の端から涎がこぼれだした。俺の手をかじってる最中なので、自然と俺の手が涎まみれ。
「瑠姫、涎が大変なことに」
「にゃ? ……うあ、オマエの手、べとべとだ。きちゃない」
瑠姫は嫌そうに口を離した。誰のせいだ、と思いながら、解放された手をべろべろ舐めまくる。
「いにゃあああ!? オマエ何やってんだ!?」
「これって間接キスだよなって言ったら」
「やめれーっ! あたしの涎食べるなっ!」
「ぺろぺろ。なんか甘い」
「感想言うにゃーッ!」
「二人ともうるさいッ!」
教室から出てきた委員長に怒られた。
「だってだっていいんちょー! こいつが変態っぽいことすんだもん!」
「いやいや、違うぞ瑠姫。変態っぽい、ではなく、変態行為そのもの、だッ!」
「余計悪いぃっ!」
格好つけて言ったのに怒られた。
「うー……いいんちょー、こいつ退学にできない?」
「そこまでの権限、残念ながら一学生にないわよ」
「そんにゃー……」
がっくりうなだれる瑠姫。そんな嫌か。
「大丈夫だぞ、瑠姫。そんなこともあろうかと、学業には力を入れている。先生からは優等生と見られているので、多少の悪行には目をつむってもらってるぞ!」
「コイツ最悪だ!」
「二人とも、これ以上騒ぐと千切るわよ♪」
瑠姫は自慢のツインテールを、俺はそけい部の中心をそれぞれ押さえながらコクコクうなずく。
「分かったならいいの。じゃ、この時間終わるまで廊下にいてね」
委員長が教室に入るのを見届け、二人して息を吐く。
「うー……オマエのせいで千切られるところだったじゃんか! バカ! もし千切られたらどーすんだ!」
「いやいや、お前の昆布は千切られても再生するが、俺の素敵棒は代替品がないんだぞ? 恐怖度が段違いだ」
「昆布じゃにゃー! かみ! オマエのなんて千切られちゃえ、ばか!」
「そうなったらオカマとして生きていく羽目になり、日銭を稼ぐため泣く泣くテレビに出演するなり大人気で億万長者になっちまうじゃねえか!」
「いいじゃん」
「ホントだ」
「にひー。切る?」
「勘弁してください」
「まーまーまー。遠慮するな?」
「勘弁しろと言っている!」
嬉しそうにつきまとってくる瑠姫から逃げるように、教室前の廊下をぐるぐる走る。
「バタバタうるさいッ!」
勢いよくドアを開け、委員長が顔を出した。いかん、かなり怒ってらっしゃる。
「瑠姫が抱いてくれってうるさくて」
「言ってないよ!?」
「……二人とも校庭ダッシュ! 10周!」
俺の言い訳が気に食わなかったのか、罰を与えられた。
「ええーっ!? そ、そんなのヤだよ! オマエもなんとか言えよ」
「瑠姫が俺の分までしてくれるらしい」
「言ってないよ!?」
「15周!」
増えた。このまま言い訳をしても増え続けるだけと思い、二人して校庭へ走る。
「ふにゃー……オマエ、絶対許さないかんなー……」
「ふふ、制服でマラソンとか。地獄だ」
へろへろになりながら校庭を走る俺と瑠姫だった。


