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2024年05月04日
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【ツンデレに勝負を挑まれたら】

2010年02月05日
 学校から帰宅中に猫と出くわしたので小一時間ほど遊ぼうかとしゃがんだら、その瞬間に逃げられた。
「…………」
「あーっはっはっはっは! すっごいおまぬけな奴はっけーん!」
 ちょっと泣きそうになってたら、頭上から声がした。立ち上がって顔を上げると、塀の上から俺を見下ろす影が。最近仲良くなった瑠姫だ。
「何の話だか、俺にはちっとも」
「あたし見てたもんねー。逃げられてやんの。ばーかばーか」
 両手で口の両端を引っ張り、瑠姫はべろべろと舌を出して俺を馬鹿にした。
「えい」
「ぎにゃっ!?」
 悔しいので非常食のミカンを投げつけてやる。思い切り顔に当たった。愉快痛快。
「ううううう……何すンだ、ばか!」
「おすそ分け」
「おすそ分けられてない! ミカンどっか行った!」
「鈍いなあ……ほれ、も一個やるよ」
 ぶつけるのではなく、今度は渡すために瑠姫にミカンを投げる。ミカンは放物線を描き、すっぽりと瑠姫の手の平に収まった。
「最初っからそうやって投げろ、バカ。しゃむしゃむ」
 皮のまま食べやがった。化け物か。
「うにゃあああっ! まずい!」
 化け物ではなく馬鹿だった。
「皮は剥け」
「騙したなあ!」
「騙してねえ」
 塀から飛び降り、瑠姫は怒りに燃える瞳で俺を睨んだ。ちなみに、降りる時にスカートが捲れてパンツが丸見えになったのは内緒だ。しまぱんだった。
「ううううう……こーなったらショーブだ!」
「いや、しまぱんだ」
「っ!? みっ、見たなあ!?」
 瑠姫は顔を真っ赤にさせ、スカートをばっと押さえた。恨みがましい目で俺を睨んでいる。
「いや、その、もっと見てえ」
 どうして俺はテンパると思ってることが口から出るのでしょう。
「おっ、オマエ、オマエなあッ! もー許さないかンな!」
 そう言うと、瑠姫は深く深呼吸した。
「……いーか、今からあたしがこの辺の猫を呼ぶから、一匹でもいーからこの鈴を付けられたらオマエの勝ち、無理だったらあたしの勝ち。いーな!?」
「よくない。勝負する意味が分からないし、勝負の内容も意味不明だし、イカサマする余地がないし」
「イカサマすンなッ! いいな? いくぞ! ……すぅぅぅぅ、にゃーッ!!!」
「にゃー(笑)」
「ばっ、馬鹿にすンなッ! ほら、見てみろ!」
 どこにこんないたのか不思議に思うほど、道から塀から路地から猫たちが大挙してやってきた。皆一様に瑠姫に向かってにゃーにゃー鳴いている。
「……ええと、お前って猫の国のお姫様?」
「ま、そのようなモンだ。ほらほら、早くやンないと時間なくなるゾ?」
「え、時間制限アリ?」
「あったりまえダロ! はい、開始ー!」
 投げられた鈴を受け取る。しょうがない、やってやるか。ま、これだけいるんだ、一匹くらい鈍い奴がいるだろ。

「……おーい、まだー?」
「まだ!」
「ふぁあああああ……ねむー」
 かれこれ20分ほど格闘しているが、捕まえようと前傾姿勢をとった瞬間に、猫たちは警戒しやがるのでちっとも捕まえられない。俊敏……そう、奴らは俊敏だッ!
「なんかもう疲れた。こいついいや」
「にゃ?」
 塀の上にのぼり、欠伸してた瑠姫の腕に鈴をつける。
「あたし、猫じゃないゾ!」
「似たようなもんだろ。ほーりほり、ノドくりくり」
「こンなことされてもゴロゴロ言わない!」
「む。なれば、頭なでなで」
 瑠姫の頭に手を乗せ、優しく優しくなでる。
「にゃ……べ、別にこンなの、嬉しくないし」
「だよなあ」
「にゃ……」
 手をどけると、瑠姫は物足りなさそうな目で俺の手を追いかけた。
「もっとしてほしかったのか?」
「ぜ、全然! ちっとも! と、とにかく、時間切れ! オマエの負け!」
「いやいや、時間ギリギリに鈴つけたぞ」
「あたしについてる! リンリン鳴ってる! 猫についてないから、あたしの勝ち!」
「しかし、俺の見識では瑠姫はかなりの猫力を保持しているので、猫の範疇に入れても問題ないぞ?」
「知るか、バカ! オマエの負け! けってー!」
「ぶーぶー」
「ぶーぶーウルサイ。じゃ、罰ゲームな」
「罰ゲーム? 聞いてないぞ」
「最初に聞かなかったオマエが悪いンだゾ!」
「なんということだ! このままでは罰ゲームという名の処刑が俺に待ち受けている! やられる前にやれ、という格言もある。いっそ……?」
「早とちりすンな、バカ! そンな酷いことしない! え、えとな、罰ゲームは……罰ゲームは……」
 そう言ったきり、瑠姫はもじもじするばかりで言葉を続けようとはしなかった。一体なんだと言うんだろう。
 ……ん? さっきから、俺の手をじっと見てるような……。もしかして。
「なあ、瑠姫。ひょっとしてさ」
「にゃあ!? ちち違うゾ? あたしはなでなでなンてしてほしくないゾ!?」
「俺の手をもぎ取る算段をつけてたの?」
「…………」
「もぎ取るのはとても痛そうなので勘弁してください!」
「……ああ、オマエ、バカだったな。忘れてた」
 失敬な。
「……あっ、そだ! ……こほん。じゃ、じゃあ、もぎ取られたくなかったら、あたしをなでなでシロ!」
「…………」
「なっ、なンだその目は! べっ、別になでなでが気持ちよかったンじゃないからな!」
 ……まあ、いっか。
「じゃ、なでなでするか?」
「うんうん、うんうんうん!」
 木に体を預けてなでなで体勢を取ると、瑠姫は目をキラキラと輝かせ、ぶんぶんうなずいた。
「おいで、瑠姫」
「にゃっ♪ ……あっ、い、言っとくケドな、罰ゲームだかンなッ! したくてしてンじゃないからな!」
 そっちがもちかけた罰ゲームだろうに、とは思ったが、口には出さず苦笑する。
「分かってるって。それじゃ、なでなでなで」
「にゅ、ふにゅ……」
 俺に体を預け、瑠姫は気持ちよさそうに目を細め、ふにゅふにゅ言った。
『ね、見てアレ』
『うわ、すっごいカップルもいたものね』
「ん? ……うあ」
 下から聞こえる声に視線をそちらに向けると、歩いてる学生たちが俺たちをじろじろ見まくってた。そういやここは通学路にあるただの塀の上だった。
「る、瑠姫、終わり、終わりだ」
「まだー。もっとー」
 ゴロゴロという音が聞こえそうなほど心地よさそうな顔で俺を引き止める瑠姫。きっと周囲の声も耳に入ってないに違いない。
「うう……そういう罰ゲームなのか?」
 衆人環視の中、瑠姫が満足するまで抱っこしたままなでなでし続ける俺だった。超恥ずかしかった。

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