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2026年03月20日
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【弁当を忘れたツンデレ】

2010年02月23日
 お昼休みになったので弁当をぱくついてたら、自称亡国の姫のまつりが視界に入った。何やら鞄をひっくり返しているようだが、一体どうしたのだろう。あ、こっち来た。
「そこな貧相な男。特別にわらわがおぬしのちっぽけで安っぽい弁当を食ってやろう。寄こにゃっ!」
 居丈高にそんなこと言って来たので、玉子焼きを咥えたままデコピンしてやったら猫っぽくなった。
「な、何をするのじゃ!」
「もぐもぐ……失礼な輩にやる飯はない」
「な、なんじゃと! 特別にわらわがおぬしの臭くて中国産の野菜たっぷりの超危険な弁当を食ってやろうと言ってやっておるのに、失礼とはなんにゃっ!」
 再びデコピンしたらまた猫っぽくなった。痛かったのか、まつりはおでこを押さえている。
「うぐぐ……き、貴様! わらわの珠のような肌に傷がついたらどうするのじゃ!」
「タマのような肌? タマ……ああ、猫か。まつりだしなあ」
「猫じゃないわいっ! タマ違いじゃ、珠じゃ、珠! ほら、真珠とかを表すときに使う方の珠!」
「どうでもいい」
 断言してポテトをぱくり。冷えててパサパサだけどおいしい。
「どうでもいいとは……そ、それより、あまり食ってはならんぞ? わらわが食う分がなくなるではないか」
 弁当の減る量に危惧の念を抱いたのか、まつりはそんな勝手なことを言った。
「まつりは俺みたいな庶民飯を食べたりする人種じゃないから問題ない」
「……じ、実はのう。わらわ、弁当を忘れたようなのじゃ。だ、だから、特別に献上を許すぞ?」
「いや、まつり様にこんな貧相な弁当を献上だなんて、恐れ多くてとてもとても」
 見せ付けるようにご飯をぱくぱく。まつりは羨ましそうな、悔しそうな表情で俺を睨んだ。
「ぐぎぎ……そ、そんな畏まる必要はないぞよ? 庶民の飯を食うのも姫としての勉強じゃからのう」
 ……うーん、確かに飯抜きだとこの後辛いだろうしなあ。ぼちぼちいじめるのやめようかな。
「ま、いーや。半分くらい食っちまったけど、残りやるよ」
「おおっ、そうか! 褒美として、わらわに仕える事を許してやろう。おぬしのような下賎な輩には身に余る光栄であろう?」
 偉そうなので顔面にアイアンクローしてやる。
「痛い痛い痛いのじゃ! 許してたもれ! 言い過ぎましたごめんなさいわらわが悪かったです! わらわが仕えますから手離してお願いします!」
 満足したので手を離してやる。まつりは痛そうに顔をさすった。
「うぐぐ……おのれ別府タカシ、許すまじ」
「主君に対しその態度はなんだ」
「そんな口約束守るわけないじゃろうが、ばーか! 誰がおぬしのような阿呆に仕えるものか!」
「…………」(無言で手をわきわき)
「お、怒るでないぞ? 姫とはわがままなものなのじゃ。わらわは姫なのじゃから、怒ってはならぬぞ?」
「…………」(にっこり笑顔)
「……よ、よかったのじゃ。分かってくれて嬉しいのにゃああああ!?」
 再びアイアンクロー発動。苦痛にもがいているが、逃れる力より俺の握力の方が強いので逃れられないようだ。
「痛い痛いごめんなさいわらわが悪かったです! やめてくださいご主人様このお仕置きすっごく辛いんです!」
 再び満足したので手を離してやる。まつりは悔しそうに俺を睨んだ。
「くっ……よくもわらわを手篭めに。許さん、許さんぞよ、別府タカシ! いつか必ずこの恨み晴らしてくれようぞ!」
「恨まれてる相手に弁当やるの嫌だなあ」
「……わ、わらわは心が広いので、恨んだりはしないぞよ? じゃから、弁当をよこすのじゃ」
「『ご主人様のたくましくて黒光りしてるものください』と悩ましく言ったらやる」
 たくましく黒光りする海苔弁当片手にして、何を言ってるのだろう、俺は。
「だっ、誰が言うか、阿呆!」
 案の定、まつりは顔を真っ赤にして断った。
「じゃああげない」
「お……おぬしはいじわるなうえ、えっちなのじゃ! もー最悪なのじゃ! いいから早くわらわに弁当をよこすのじゃ! 早くせぬと、チャイムが鳴ってしまうではないか!」
「はっはっは、何を言うのやら。まだまだチャイムが鳴るのは先かと」
 俺の台詞がチャイムに遮られた。
「ほれ見たことか! もー食べる時間ないのじゃ! おぬしがわらわをいじめるからなのじゃ! 責任を取れ、別府タカシ!」
「しょうがないな……で、式はいつにする?」
「誰も結婚しろとは言ってないのじゃあ!」
 教室に響くほどの大声で叫ぶまつりだった。

 その後の5時間目、まつりは隠れて俺のやった弁当を食っていたが、先生に見つかり怒られてた。
「怒られたではないか! どうしてくれる、別府タカシ!」
「『ご主人様のたくましくて黒光りしてるものから出る白濁としたものをください』と悩ましく言ったら謝ってやる」
「言うわけないのじゃっ! そも、もう弁当は食ってしまったのじゃ! というか、もうそれは何か別物なのじゃ!」
「いや、この場合は想像通りのものを指す」
「こやつ、ただの変態じゃっ!」
 半泣きで叫ぶまつりだった。

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【ツンデレとバレンタイン】

2010年02月23日
 明日はバレンタインだ。まつりは自称亡国の姫だが、実際は猫なので何の日か知るまい。優しい俺が教えてやろう。
「まつり、明日はバレンタインだぞ」
「いかにわらわがやんごとなき身分とはいえ、それくらい知っとるわい。馬鹿にするでない」
「いや、まつりは猫なので詳しくは知らないだろ? バレンタインってのは」
「猫じゃないわい! 姫じゃ! どうして貴様はわらわを猫扱いするか!」
「恋を煩う女子が想いを込めたチョコレイトを渡す日だ。菓子会社の笑いが止まらない日でもある」
「わらわの話を聞けッ!」
 なんか怒られた。
「そんなわけで、俺はまつりをとても大好きなので、チョコをくれるととても嬉しい」
「んなっ……そ、そういうことを真顔で言うな、たわけッ!」
「チョコくれたらまたたびあげるから」
「だから猫ではないと言ってるであろう、たわけっ!」
 なんか怒られた。悔しいので頭なでてやれ。
「なっ、何をするか……にゃにゃにゃにゃにゃ、にゃふー」
「猫だ」
「猫じゃないと言っておるじゃろうがあっ!」
 ものすごく怒られた。

「ちょこれいと、か。……ふん。まったく、あいつは」
 学校から帰宅後、そう独りごちながら台所に入る。
「じい、用意は?」
「全て完了しております」
 お辞儀しながら、じいは手を横にした。その先には、チョコを作るための材料が全て揃っていた。
「ふむ、完璧じゃ。ご苦労じゃったな、じい」
「もったいないお言葉。しかし姫様、なにも姫様自ら作らずとも、我らに言ってくださればすぐに作らせていただきますが」
「よいのじゃ。……そ、その、わらわが作りたいのじゃ」
「……まさか、あのタカシとかいう俗物に渡すつもりじゃないでしょうな?」
「ちちちっ、違うのじゃ! わらわはタカシなんてなんとも思ってないのじゃ! こ……これは、えっと、……じいに渡すつもりなのじゃ!」
 とっさの言い訳に、じいは目を見開いた。……ば、ばれたかの?
「くぅぅっ……このじい、姫様の心遣いに感涙ですっ!」
 ばれたのではなく、感動していたようだ。こうなっては、じいの分も作らなければいけない。……面倒じゃの。
「そういうことなら姫様、頑張ってくださいませ! じいは陰ながら応援しておりますぞ!」
「あーあー分かった。じいは草葉の陰で応援するのじゃ」
「それではじいは既に死んでおりまするっ!」
 なんか言ってるじいを追いやって、材料を前にする。……さて、やるか!

 幾度かの失敗を経て、どうにかチョコが完成した。まずはじいにチョコを渡す。
「おおっ、これが姫様自らお作りになられたチョコレイトですか! ……そ、その、なんというか、実に前衛的な形をしておりますな」
「芸術的じゃろ」
 本当は芸術ではなく失敗作だが。……正直、タカシの分を作っただけで精魂尽き果て、じいの分を作る気力が湧かなかったのだ。すまぬ、じい。
「ありがとうございます、姫様。家宝に致します」
「そんなもんにせずに食え」
「ははっ。……ところで姫様、姫様の後ろにやけに綺麗なチョコがあるのは、じいの気のせいですかな?」
「へっ?」
 振り向くと、タカシ用のチョコがちょこんと鎮座していた。
「こっ、これは違うのじゃ! あとでわらわが独りで食べるのじゃ! 別に誰かにあげるとかじゃないのじゃ!」
「…………」
「しっ、信じるのじゃ! それとも、じいはわらわが信じられぬというのかえ?」
「いえっ、まさかそんな。……ただ、姫様は彼のこととなると見境がなくなりますから」
「たっ、タカシは関係ないのじゃ! 本当にわらわが食べるのじゃ! 近頃のわらわはハラペコキャラなのじゃ! む~、ハラヘッタのじゃ! ほら、の?」
「……じいは別にタカシ殿とは言っておりませぬが」
 しまった。じいの目が薄く細まる。
「いいですか、姫様。姫様は将来国を再び興していただく大事な身なのです。あのような変人と遊んでる暇があったらもっと勉学に励み」
「あっ、なんだか凄く眠いのじゃ! お休みなのじゃ、じい!」
 じいの小言が始まる前にタカシ用のチョコをひったくり、慌てて飛び出す。
「姫様、まだじいの説教は終わっておりませぬぞ! 姫様ーっ!」
 じいの叫びを背に受けながら、わらわは自室に飛び込むのじゃった。

「……まったく、じいは小言が多いのじゃ」
 翌日。学校へ向かう道で、独り言を呟きながらチョコを鞄にしまう。
 ……タカシの奴、喜んでくれるかの? 形が変じゃと、馬鹿にせんかの? ……受け取ってくれるかの?
 だ、大丈夫じゃ。あやつはわらわにベタ惚れじゃ。受け取った瞬間、破顔一笑してわらわに抱きついてくるに違いない。ああ嫌じゃ嫌じゃ。
「おはー、まつり。……まつり?」
 しかも、そのまま「まつり、大好きだよ」とか甘く囁いてくるじゃろう。んでもって、わらわを優しくなでなでするじゃろ? で、で、そのまま、ち、ちゅーとか! とか! 困ったのう! うひー!
「大変、まつりが見る間にでろんでろんに! さては妖怪でろんでろんの仕業か! 説明しよう! 妖怪でろんでろんとは道行く人々を片栗粉を溶いたものででろんでろんにするはた迷惑な妖怪だが、普段はお好み焼きを焼いている気のいい兄ちゃんであり、妖怪でもなんでもない」
「何の話じゃっ!」
「気がついたか。おはやう、まつり」
「おは……たたっ、タカシ!?」
 想像していた人物がいつの間にか目の前におり、ものすごくうろたえる。お……落ち着くのじゃ! 深呼吸深呼吸、すーはーすーはー。
「何をいきなり深呼吸してんだ?」
「朝の新鮮な空気を思い切り吸い込んだまでじゃ。他意はない」
「なんだ。てっきり俺が現れたのにも気づかないほど妄想にはまりこんでおり、急に声をかけられ驚き、落ち着くために深呼吸していたのかと思ったぞ」
「そ、そんなわけないであろう。まったく、愚か者め。ははははは」
 8割方当てられた。ぼやーっとしておるくせに鋭い奴め。
「それで、まつりさん。その、今日はアレですよ。その、甘くて黒い物体を俺に渡す日ですよ」
「……なんのことかの?」
 途端、タカシの奴は焦った顔になった。こやつ、わらわがチョコを持ってきてないと勘違いしておるな? いつもいじめられておるし、たまにはいいのう。
「……チョコ、ないの?」
「知らんな」
 タカシの顔が絶望に染まる。
「……帰ろう」
「待て待て待つのじゃ! いきなり帰る奴がおるか!」
 元来た道へ引き返そうとするタカシを慌てて引き止める。
「もう今日は学校行く意味ない。それどころか、生きていく意味すらない」
「そこまで悲しまずともよいじゃろうが! ああもう、ほれ!」
 鞄からチョコを入れた箱を取り出し、ぶっきらぼうにタカシに押し付ける。
「……?」
「放課後の誰もいない教室で渡そうとか、帰り道で渡そうとか、色々考えてたのに全部無駄になったのじゃ! まったくもう、困った奴じゃの、おぬしは」
「……これ、チョコ?」
「い、言っとくが義理じゃぞ? 本当じゃぞ?」
 ゆっくりとタカシの顔が笑顔になっていく。
「ああ、そっか。チョコ、あったんだ。義理でもなんでも嬉しいぞ。ありがとな、まつり」
 心にしみこんでいくような笑みに、こっちまで嬉しくなってくる。
「あー……うむ、なんじゃ。気にするでないぞ」
「また今度またたび買って来るよ」
「だから、わらわを猫扱いするなっ!」
「本命またたびなのに?」
「そんな本命ないのじゃっ!」
 軽口を叩きながら、タカシは箱を開けた。
「あっ、もう開けてしまったのかえ? 堪え性のない奴め。せめて家に帰るまで我慢せんか」
「いや、まつりが買ってきてくれたチョコってどんなのかなーって」
「買ったのではないのじゃ。手作りなのじゃ」
「……えっ? これ、手作りなの?」
 瞬間、タカシの目が驚きに見開かれた。
「な、なんじゃ? そうじゃが、何か問題でもあるのかえ?」
 なんでもないフリをしながらも、内心ドキドキだ。どうしよう。手作りって嫌だったのだろうか。重いって思われただろうか。なんで手作りなんかしちゃったのだろうか。後悔が心に渦巻く。
「いや、てっきり買ってきたものだと。まさか手作りとは……俺は嬉しいぞ、まつり」
 タカシはにっこり笑ってわらわの頭をなでた。心の中でほっと息をつく。まったく、紛らわしい奴め。
「よし! ご褒美だ、なんでもしてやるぞ」
「な、なんでもじゃとお!?」
「『全力で死ね』とかはナシな。できる範囲で頼む」
 なんでも、ということは、……ち、ちゅーもOK!? ぎゅーってしてもらってから、ちゅーとか!? なんという悦楽、理想郷がすぐそこに……ッ!
「まつり、鼻血鼻血」
「ぬ?」
 興奮のあまり鼻血が垂れてしまったようだ。タカシにティッシュを詰めてもらう。
「女の子が鼻血垂らすなよな……」
「うるさいのじゃ。……ふむ。タカシ、こっちへ来るのじゃ」
 周囲を見回す。幸いにして人通りはない。だがここは念を押し、タカシを路地へ連れ込む。
「犯されそうな予感」
「なんでじゃっ! ……こほん。の、のうタカシ、さっきなんでもしてやると言ったの?」
「言ってない」
「舌の根も乾かぬうちに翻されたぞよ!?」
「冗談だよ。言ったけど、なんか思いついたのか?」
「ふ、ふむ。……そ、そのじゃの、……わらわを、ぎゅーっとせぬか?」
「……ぎゅー、ですか?」
「ほほほら、近頃寒いであろ? 温まろうと思っただけで、他意はないぞよ?」
「カイロあげる」
 カイロを手渡された。受け取ったカイロを全力で空にぶん投げる。
「しまった、落としてしまったのじゃ! 温まる暇もなかったのじゃ! これでは凍えるばかりなのじゃ。困ったのう?」
「まだあるからだいじょび」
 手渡されたカイロを再びぶん投げる。
「また落としたのじゃ! 次以降も落とす可能性が極めて高いので、カイロ以外で暖まりたいのう! 人肌とかで!」
「落とすとかでなく、投げたようにしか見えませぬが」
「いーから早くわらわをぎゅーっとせぬか!」
「ぎゅーっとしてほしいの?」
「ほしいの! ……ぬわっ! ち、違うのじゃ! いやしてほしいが、そうではなくて、寒いからであり別にタカシにぎゅーっとしてほしいだけじゃないからの!?」
 いかん、混乱して何か変なこと言ってるような気がする。
「まあ満足したし、いっか。はい、ぎゅー」
 タカシはわらわをぎゅっと抱きしめた。暖かさが伝わってくる。
「……はふー」
「変な鳴き声」
「鳴き声じゃないわいっ! 落ち着いてるんじゃ!」
「そいつは重畳」
 言いながら、タカシはわらわの頭をなでた。なんだかとても落ち着く。
「のうタカシ、もっとぎゅっとするのじゃ」
「これ以上ぎゅっとすると背骨肋骨全てを砕いてしまうぞ。まつりが俺を殺人者に仕立て上げようとする」
「そこまでぎゅっとせんでいいっ! そうじゃなくて、そうじゃなくて、もっとぎゅーっとしてほしいのじゃ。の?」
「う……」
 タカシを見上げて懇願すると、タカシは横を向いて鼻を押さえた。
「どしたのじゃ?」
「な、なんでもない」
「なんでもないことないのじゃ。はっきり言うのじゃ。なんでもすると言ったぞよ?」
「……あーと。おまいのお願いが可愛すぎておかしくなりそうになったの。以上。追求するな」
 タカシはそっぽを向き、赤い顔をしたまま鼻を押さえていた。
「な、なんじゃそりゃ」
 わらわの顔まで赤くなっている、そんな気がする。
「うっさい馬鹿」
「むっ。馬鹿じゃないのじゃ」
「うるさい馬鹿。口を開くな馬鹿。黙ってろ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいのじゃ。馬鹿と言うほうが馬鹿なのじゃ。そんな馬鹿者、こうじゃ」
 タカシの背中に手を回し、自分からも抱きつく。そして……ぬ、そ、そして……。
「ぬ……の、のうタカシ、もうちょっとかがんでたもれ」
「断る」
「いいからかがむのじゃ!」
「痛い痛い痛い!」
 タカシの髪を引っつかんで無理矢理かがませる。そして……。
「なにすんだよ、いきな……」
 ほっぺをはむはむする。
「……ば、馬鹿者はほっぺはむはむの刑じゃ」
「……すけべ」
「すっ、すけべとはなんじゃ!」
「すけべにお返し」
「あっ、こ、こら……」
 はむはむ返しをされる。こそばゆいような、痛気持ちいいような、幸せなような、そんな気持ち。
「うー、えろ魔人めが」
「おまいが最初にしたんだろーが」
「うるさいのじゃ。お返しのお返しなのじゃ」

 お返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しのお返しをした頃だろうか、ふと気づいて時計を見たらとうの昔に遅刻していた。
「ち、遅刻じゃ! ものすごい遅刻なのじゃ! 怒涛の遅刻なのじゃ! ほら、もうやめて行くのじゃ!」
「もっとちゅーしたい」
「う……」
「したい」
「……あ、あとちょっとじゃぞ?」

 学校に着いたのは、昼休みも半ばをすぎた頃だった。
「熱中しすぎだと思います」
「た、タカシが悪いのじゃ! わらわは何度もやめようと言ったのじゃ!」
「確かに最初はやめようと言われましたが、それ以降は『ぬし殿……わらわ、もっとちゅーして欲しいのじゃ』と言いながら頬を染めるまつりの顔しか記憶にありません」
 しれっと言うタカシの頭をべしべし叩くわらわだった。

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【ツンツンしたらデレたようです】

2010年02月23日
 ふとしたことで遊びに来てた大谷先生を怒らせてしまった。
「もー別府くんなんて知りませんっ! 一人でうにゃうにゃしててください、ばかーっ!」
「待て、うにゃうにゃって具体的にどうすればいいんだ、先生、せんせいーっ!」
 俺の悲痛(?)な叫びを無視し、先生は部屋から出て行ってしまった。
 ……うーん、怒りっぽいなあ先生は。もっとも、からかい過ぎた俺も悪いか。仕方ない、謝ろう。
 どうやって謝るか思案しながら家を出て、近所にある先生の家へ。インターホンを押すと、ほどなくして先生が出た。
『……はい』
「あ、俺俺。開けて」
『…………』
 先生は無言で切った。よし、ナイス度胸。インターホン連打ぴんぽんぴんぽんぴぽぴぽぴぴぴぴぴ!
『うるさいです近所迷惑です先生迷惑ですっ!』
「開けてくれるまで連打が続く地獄」
『ぐうううう……どうぞ』
 玄関を潜り、廊下を抜け、先生が待つ部屋へ。ファンシーなぬいぐるみが訪問者を睨みつける実に居心地の悪い部屋の中心で、先生は座っていた。
「…………」
「このちんまい生物(恐らく幼体)は機嫌を損ねているのか、ご主人様が来たというのにそっぽを向いて座っていた」
「誰に言ってるんですか! ちんまくないですし幼体とか意味分かんないですしなまものって言わないで欲しいですっ! あと、別府くんはご主人様でもなんでもなくてただの生徒ですっ! ……ぜはーぜはー」
「先生、つっこみすぎて息が荒いぞ。ほら、これでも飲んで落ち着け」
 テーブルの上に置いてあった牛乳を先生に手渡す。
「あ、ありがとございます。ごくごく……」
「精液」
「ぶはーっ!」
 勢いよく先生が牛乳を吐いた。
「ななな、なんてこと言うのですか! ばか、えっち!」
「いや、そうだったらいいなーっていう俺の想念が口からついて出ただけなんだ。雲が綿菓子だったらいいのになーって思うような子供のような純真な心を持ってるんだ。そんな純真な俺を褒めろ」
「純真な心の持ち主は牛乳をせ、せ、……な、なんかそーゆーこと言いません!」
「なんかそーゆーことって?」
「だ、だから……そーゆーことです!」
「だから? 具体的に?」
「う、うう……別府くんのえっち! 先生にえっちなこと言わせたいだけでしょ!」
「なんならえっちなこともしたい。その幼い肢体をもみくちゃにしたい」
「ひええええっ!」
 先生は部屋の隅っこに逃げて震えている。……ととっ、いかんいかん。謝りに来たのだった。この先生を見ると、ついついいじめてしまう。
「先生のないすばでーが生徒を籠絡させてしまいました! こ、このままでは先生、貞操の危機です!」
 なんか余裕あるっぽい。もうちょっといじろうか。……いやいやいや。終わらないし、とっとと謝って帰ろう。
「や、先生、そうじゃなくて」
「う?」
 う、と言いながら先生は稚児のような表情で俺を見上げた。ちょっとクラッとくる。
「ど、どしました? 貧血ですか?」
「や、違う。ちょっと属性の野郎が顔を出しまして」
「ぞくせー?」
「……っ! そ、そう、属性。全く、事あるごとに顔を出しやがる」
「?」
 先生はよく分からないのか、ちょこんと首をかしげた。全く、この先生は、計算でやってないのだから質が悪い。俺だからよかったものの、アレな人間だったら今頃調教されてるぞ。
「ところで先生、俺に飼われない?」
「はい?」
 しまった、俺はアレな人間だった。必死で脳内の真人間スイッチを入れ、軌道修正する。
「あー、こほん。今のなし。えっとだな、先生。ごめんな」
「はい?」
「だから、その、俺の家での云々」
 そう言われて思い出したのか、先生は急にそっぽを向いた。
「許しません。先生、度を越した冗談は嫌いです」
「や、だからその、悪かったって」
「知りません」
 先生はそっぽを向いたままほっぺを膨らませてる。困った。何が困ったって、ぷにぷにしたほっぺをつつきたくて仕方がないことだ。
「えい」
 ほら見ろ、我慢できずに押しちゃったじゃないか。
「……何のつもりですか」
「ぷにぷに」
「ぷにぷにじゃないです。先生、大人ですからガサガサです」
「いや、大人だからって誰も彼もがガサガサとは限らないと思うが」
「うるさいです。いいからツンツンするのやめてください」
 こうして喋ってる間も先生のほっぺをツンツンし続けてる俺の指をどう思うか。家主としては褒めてやりたい気持ちで一杯です。
「先生、教え子にほっぺをつつかれるだなんて思いもしませんでした」
「予想もしないことが起きるから、人生ってのは楽しいもんだ」
「先生、ちっとも楽しくないですが」
「俺は楽しいぞ。よかったな」
「ちっともよくないです! どーして怒られてるのにまるで気にせず私のほっぺをツンツンできるんですか!? 頭おかしいです!」
「いや、気にはしてるんだよ? ただ、先生のほっぺをツンツンするのが楽しすぎて、謝ることに気が回らないんじゃないかな?」
「謝る気、ぜろですよ。うー……」
 唸りながらも、先生はほっぺツンツンを止めようとはしなかった。
「先生」
「なんですか」
「口元が笑ってる」
「ふえぇっ!? わ、笑ってません! ちっとも愉快じゃないです! 楽しくもないです! 教え子にツンツンされ、不愉快極まりないです!」
「そうなの?」
「そうなのです!」
 そう断言する先生は、俺にほっぺをツンツンされて笑顔をこぼしていた。
 そしてその笑顔に我慢できずに抱っこしたら叱られた。
「いくら先生がないすぼでーだからって、いきなり抱っこしたりしたらダメでしょっ!」
「はぁ、すいません。でも、ないすぼでーではないよ。小学生だよ」
「小学生じゃないですっ! よく間違われますが、大人です! そしてないすぼでーです!」
「全部嘘」
「がーっ!」
 両手をあげて威嚇する自称大人でないすぼでーの大谷先生だった。

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【「ヘブンズドアー! 『ツンできない』ッ!」】

2010年02月22日
 矢に貫かれ、スタンド能力を身につけた。よし、好都合なことに遊びに来ているボクっ娘で試してみよう。
「ヘブンズドアー! 『ツンできない』ッ!」
 ボクっ娘の顔がまるで本のようにめくれる。そこに『ツンできない』と書き込み、スタンド解除。さてどうなる?
「う、ううん……タカシ、ボクに何かした?」
 梓は頭を振って俺に尋ねた。自分に何が起こったか理解していないようだ。
「何もしてないよ?」
「……そう? それならいいんだけど」
 さて、見た目上は何ら変わっていないようだが、はたして俺のスタンドは機能しているのだろうか。実践だ。
「ところで。梓、ちゅきちゅきー」
 我ながらとても気持ち悪いが、これくらいやった方が分かりやすいだろう。いつもの梓なら「タカシが狂った! ……いや、いつも通りカナ?」とか言うに違いないが、さて。
「な、なんだよ、いきなり。恥ずかしい奴だなあ」
 む、ちょっと反応が違うが概ねいつも通りか。失敗か。
「……まあ、ボクもちゅきちゅきだけどね」
 梓はぼそっと付け足した。成功だ。さて、こうなったらエロいことしたいよね。例えば、ふ、ふ、風呂に一緒に入るとか! で、洗いっことか! 手が滑らせもにゅもにゅやーんえっちとか! とか!
 ほとばしる妄想に鼻息を荒くしてると、梓が俺をくいくい引っ張った。
「ね、ねぇ……本当にボクに何もしてない?」
「してないっての」
「うー……でも、でもね、なんか知んないけどね、タカシがすっごい好きなんだよ。好きすぎて、むきゅーって感じなんだよ。なんかしたでしょ?」
 なんだ、むきゅーって。つーかなんでそんな恥ずかしい事を真顔で言いますか。こっちが恥ずかしいジャマイカ。
「し、してない」
「ホントにぃ……? うー、なんだろ、うー……やっ!」
 気合を込めて梓が俺の背中に抱きついてきた。
「なんですか」
「なんか知んないけど、すっごくタカシに抱きつきたいんだよ! したでしょ、なんか!」
「だから、してないっての」
 『ツンできぬ』とは書いたが、『抱きつけ』とは書いてない。
「くんくんくん」
「匂うな。犬か」
「ぬー……落ち着くよっ!」
「なんで怒ってんだよ」
「タカシなんかに抱きついて落ち着く自分が不甲斐ないよっ! もっと気骨あったよ、ボク!」
「不甲斐ないって……俺が好きなのか嫌いなのか、どっちやねん」
「ちょー好きだよっ! それはそれとして、ボクってこんなふにゃふにゃじゃなかったような気がすんだよ!」
「じゃあ離れれ」
「超お断りだよっ! なんだか一時でも離れたくない気分だよ! むぎゅーだよ!」
 むぎゅーと言いながら梓がむぎゅーと抱きしめてくるのでむぎゅー(困惑)。
「あぎあぎあぎ」
「いていて、頭かじるねい」
「うー……幸せだよっ!」
「だから、なんで怒ってんだよ」
「怒ってないよ! 感情を持て余してんだよ!」
「性欲を持て余す?」
「惜しい! ちょっと違う! それMGS!」
 なぜか詳しかった。
「性欲はともかく、ちゅーはしたいよ! いい?」
「あははははは。梓は冗談が上手だなあ」
 こんな状態の梓とそれは、流石にダメだ。どうにか背中から引き剥がし、『ツンできない』を訂正せねば……!
「ね、何にもしないからさ、ちょっとこっち向いて」
「任せろ」(反対方向を向きながら)
「…………」(無言で反対方向に顔を移動)
「…………」(その反対に)
「こっち向け! ちゅーできないだろっ!」
「あっ! 梓、見ろ! 空から金星人が!」
「嘘が下手すぎだよ! 小学生でも騙されないよ!」
「いやいや、空は空でも蒼井そらのことだから」
「……怖いよ!」
 蒼井そらが開いて中から金星人が出てくる様でも想像したのか、梓は一瞬固まった。その一瞬を逃さず、梓から離れる。
「あっ! ず、ずるい!」
「ヘブンズドアー! 『ツンできない』を解除ッ!」
 再び梓の顔が本のようになり、そこに書かれた『ツンできない』を消す。
「…………」
 どうだ? 戻ったか?
「……あ、あううううーっ!」
 梓は真っ赤になって俺を叩いた。
「やあ、戻ったようですね」
「な、な、なんてことさせるんだよっ、ばかっ!」
「しかも、全部覚えているようで何よりです」
「ちっとも何よりじゃないっ! アレだろ、ボクに惚れ薬的な何かを盛ったろっ! じゃなきゃ説明できないよっ!」
 どうしよう。「スタンドでツンを取り除いただけです。いやはや、ものすっごいことになりましたね」とか言ったら怒るよな。よし、ここは大人な対応で。
「えっと、そうです。こう、ごばーっと盛りました。ごめりんこ」
「嘘っぽい! ホントのこと言えよっ!」
「いや、本当に。こう、惚れ薬をぐわーって。決してスタンドとか使ってない」
「スタンド……?」
 いかん。

 まあ結果から言うと、全部ばれた。
「ボクは! 別にタカシのことなんて! 好きじゃないもん! 惚れ薬盛られたんだもん! スタンドでツンを取ったとか意味分かんないし!」
 そんなわけで、超真っ赤な顔でがなる梓が超うるせえ。
「あーはいはいそうな、惚れ薬盛られたんだよなー。別に俺のことなんて好きじゃないもんなー」
「そうだよ! そうに決まってるよ! それはそれとして、もースタンドとかいうの使うの禁止だかんねっ! 理由は不明であり以後ずっと不明!」
「はいはいはい」
 ご立腹なボクっ娘の頭をなでて必死にご機嫌を繕う俺だった。

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【ツンデレサモナーと召喚された男】

2010年02月22日
 一体これはどういうことなのか。
「……また、しょぼいのを引いたのう。ハズレかの」
 よし、落ち着こう。俺の名前は別府タカシ。遅い昼飯を食ってたら急に床が抜けたような感触があり、気がつけば森の中。そして、目の前で少女が何やら残念そうに喋ってるわけで。そこから導き出される答えは──
「……分かった! ゼロの使い魔的状況だ! イヤッフーーーッ! とうとう俺にも春が!」
「……うん? 言っとる意味がよく分からんのう。まあよいわ。さあ行け我がしもべよ、敵を倒すのじゃ!」
「そう、敵を倒すのが俺の目的……てき?」
「あんぎゃーす」
「あんぎゃーす?」
 少女から視点を少し横にずらす。あんぎゃーすと鳴くでっかい恐竜みたいなのがこれまたでっかい口を開けて俺を飲み込もうとしてますよ?
「馬鹿な、きゃっきゃうふふな展開しか待ってないと思ってたのにいきなり戦闘とな! ええい、異世界からの救世主なんだから特殊能力的な何かを持ってるはず! 目からビームとか目から汁粉とか目から」
「何でそんな目に固執してるのじゃ……。いいからはよう行け」
 少女が俺の尻を蹴飛ばす。たたらを踏んで前に二、三歩踏み出すと、あんぎゃーすな恐竜は俺を敵とみなしたのか、あんぎゃーすと吼えるのでとても怖い。もう帰りたい。
「む、無理無理無理! 死んじゃう! あ、それともアレか、ここはファンタジー風味な世界だし、死んでも生き返るとかそんなオチ?」
「死んだらそれまでに決まっとるじゃろ、阿呆。分かったらとっとと戦え」
 俺の命が大変ピンチ。武器もなしに恐竜と戦えと? こちとら中型犬と戦ったとこで五分五分だってレベルだぞ? あ、猫には全面降伏です。あの可愛さには勝てっこありません。
「な、何をにやにやしとる阿呆! 前を見るのじゃ!」
「む?」
 想像の中で猫と遊んでいたら、あんぎゃーすが目の前にいまして自分の名前を言うんですの。全身鳥肌人間にクラスチェンジ。
「とても怖い!」
「あっ、こら何をするんじゃ!」
 思わずそのまま言うくらいとても怖いので少女を抱え、脱兎の如く逃げる。
「ええい離せ離せ、離さぬか! 気安く触るでない! ワシを誰だと心得ておる!」
「怖い怖い怖い! おーばーけー!」
「お化けじゃないわい! アレはアンギラスじゃ!」
 何か言ってる少女を抱きかかえたまま、しばらく遁走を続けてると、これ以上走ると肺が死ぬゼと言いだしたので、その場に倒れる。
「ぶべ! こ、こら、いきなり倒れる奴がおるか!」
「……ぜはー……ぜはー……」
「おい、顔色が紫じゃぞ? ……だ、大丈夫かの?」
 はっはっは、どこをどう見れば大丈夫だと思うんだい子猫ちゃん、と言いたいが死にそうなので呼吸をするだけで精一杯です。
「ほ、ほれ、水じゃ。飲めるかの?」
 竹筒のようなものが目の前に差し出さる。慌てて奪い取り、一気に飲み干す。
「こ、これ、急ぎすぎじゃ。そんな急ぐとむせるぞ」
「んぐっんぐっ……げほげほげほ!」
「言ったそばからか!」
「げぎゃっごがっがっがっがっかーッ!」
「それもうむせてるとかそんな話じゃないぞ!? 何に変身しとるのじゃ!?」
 怖がらせるのに満足したので、普通に飲む。
「……んっんっん、ぷはーっ! いやー生き返った。やはり幼女の尿はいいな」
「しまった、変態を召喚したか!」
「冗談です。飲尿趣味はないです。……あ、それよりあんぎゃーすは!?」
「あんぎゃーす? よく分からんが、アンギラスならもうどっかに行ったぞ。というより、ワシらが撒いたんじゃが」
「おお、やるな俺。火事場の馬鹿力とはいえ、人ひとり抱えて逃げきるとは凄いな」
「もっとも、アンギラスは足が遅いから撒くのは容易いのじゃがの」
 実は凄くないことが判明して悲しい。
「……しかし、逃げてどうするのじゃ! せっかくアンギラス退治の依頼を請け負ったというのに……意味ないではないか!」
「まあ待て慌てるな。まず俺に質問させてくれ。その1、性感帯はどこ?」
 真っ赤な顔をする少女に殴られた。
「い、いの一番に聞くのがそれか、愚か者!」
「いや全く。そうじゃなくて、俺はどうなったの? 確か家でラーメン食ってたと記憶しているのだけど、どうして気がつけばこんな森の中で恐竜と対峙していたのでしょうか」
「ふん、知れた事。ワシの召喚獣として呼び出したまでよ」
「獣ですか。ていうか召喚って、やっぱアレですか、ゼロの使い魔的流れのバヤイ、き、き、キスとかするのですよね! ね!?」
「するか阿呆。なんで貴様のようなどこの誰とも知れぬ奴と口づけせねばならんのだ阿呆。一度死ね阿呆」
「ショックのあまり耳汁が出そうだ」
「それ病気じゃぞ!?」
「まあいいや。キスできないのは耳汁が出そうなほど残念ですが、なんかここは俺の理想の世界じゃないみたいだし、元の世界に返して。戻って今まで通り二次元を愛する事にするよ」
「あ、それ無理」
 少女は事も無げに手をフリフリ振った。
「……何か愉快な台詞が聞こえたような」
「だから、無理じゃって。おぬしを呼び出すので魔力が尽きたのじゃ。ゲートを開く力がもうないのじゃ」
「ああ、MP切れね。一晩休めば回復するやつね。昨夜はお楽しみでしたね」
「うん? おぬしの言う事はイチイチ分からんが……とにかく、もう一度ゲートを開く魔力を貯めるには、あと数ヶ月は必要じゃぞ」
「へー。……えええええ! 数ヶ月!?」
「い、いきなり叫ぶな、阿呆!」
 急に叫んだことに驚いたのか、少女は耳を押さえて俺を非難した。
「え、戻れないの? アニメの録画予約してないよ?」
「また訳の分からぬことを……とにかく、そういうことじゃから達者で暮らせ」
 そう言うと少女は立ち上がり、俺に背を向けた。
「ワシは帰る。おぬしはおぬして適当にやれ。時期が来ればまた迎えに来てやるから、それまで生き延びるんじゃぞ」
「まさかの放置!? 勝手に召喚して放置するなんて……許せない、許せるものか! ちゃんと保護しろ! こんな森の中で置いとかれたら2秒で餓死するぞ!」
「どんな胃袋じゃ!」
 こっちを向いて律儀につっこむ少女。根はいい奴に違いない。今まさに置いていかれそうになってるが。
「餓死はともかく、死ぬのはたぶん間違いないし、俺も連れて行け」
「嫌じゃ。なんでおぬしのようなどこの誰とも知れぬ奴を連れて行けるか」
「連れて行け」
「い・や・じゃ」
「そろそろ泣くぞ」
「子供か! とにかく、自力で頑張るんじゃ。ワシは知らん」
 そう言って、再び少女は背を向けた。その背中に抱きつく。
「にゅわあああ!? ななな、何するんじゃ!」
「妖怪、オイテクナ。置いていこうとする優しさ知らずの人間に憑りつく妖怪。類似品にコバンザメがいる。妖怪オイテクナも実はコバンザメではないか、という説もある」
「そんなこと聞いとらんわい! いーから離れるんじゃ!」
「吸盤がはがれないんだ」
「妖怪じゃなくてコバンザメじゃ!」
 なんでコバンザメ知ってるんだ。
「まーなんだ、ここに置いてかれるくらいならこうしてコバンザメしてる方がいいな、と」
「いーから離れるのじゃ! あーうあー!」
 じたじた暴れるので、抱きつくにも一苦労。
「「あ……」」
 そりゃ手がずれて胸触っちゃったりもしますよ。
「な、な、な、何をするんじゃあっ!!」
「……ま、全くない! 女装趣味の男か! まあ最近の流行だし、それもアリか!」
「立派な女じゃっ! いーから離せ、このド変態!」
「女と聞いて乳から手を離す男がいようか、いやいない。反語。……でもやっぱり全くないように思える」
 確認のため、指をふにふに動かす。……うーん、少し、ほんの少しふくらみがあるような。しかし布地に邪魔され、正直なところよく分からない。
「も、揉むなあっ! 変態じゃ、ワシは変態を召喚してしまったのじゃ!」
「布地ごしでなく、直で触るとよく分かる気がする」
「ひいいいいっ!? わ、分かった、ワシに着いてきてもいいから、もうやめるのじゃ!」
「揉む方がいい」
 言いながらふにふにする。指先を遊ばすうち、ほんのり固い何かにぶつかった。……この指先に触れるのは……アレですか!?
「んきゅっ!? どどどどこを触ってるのじゃ、どこを!?」
「ちく」
「わーわーわー! 言うな言うな言うなあっ! 分かった、どうかワシに着いてきてほしいのじゃ! お願いなのじゃ! じゃからもうやめてほしいのじゃあ!」
「えー? うーん、どうしても?」
 布地越しに固いアレをクリクリしながら問いかける。
「きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……」
 えーと。ダメですよ。そんな艶めかしい声を聞かされたら、俺のきかん棒が大変なことに。
「な、なんか固いのが背中に当たっとるぞ、当たっとるぞ!?」
「大丈夫、大変なのはこれからだ」
「ごめんなさい分かりました! お願いします、どうか愚かなワシの家に来てください! なんでもしますから!」
「……その言葉を待っていた! 言質は取った、いざいかん悦楽の園へ!」
 手を離すと、少女はその場にへたり込み、荒い息をついた。
「大丈夫か?」
「うぐぐぐぐ……おのれおのれおのれ! よくもワシに辱めを! もー許さん、消し炭にしてくれよう!」
「ぽちっとな」
 ポケットからレコーダーを取りだし、スイッチを押す。
『きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……』
「……は?」
「あ、間違った。こっちだ、こっち」
 改めてスイッチを押す。
『ごめんなさい分かりました! お願いします、どうか愚かなワシの家に来てください! なんでもしますから!』
「な、なんじゃこれはあああああ!?」
「魔法」
 では勿論なくて、偶然持っていたレコーダーの力です。
「俺を消し炭にすると、俺の魔法でこの声が世界中の人に届くから不思議」
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……そんなことをされては、ワシの威厳が……いやそれより、ワシの嬌声が……」
 当然そんなことはできないが、ここではったりをかまさないと消し炭にされるので、必死でポーカーフェイス。背中を流れる汗がすごいゼ。
「……わ、分かった。貴様を客人として我が家に招待しよう。だがいいか、もしその声を誰かに聞かせてみろ、例え世界中の者に聞かれようとも、即座に貴様を殺すからな!」
「分かった、一人で楽しむだけにする」
「たっ、楽しむな、ばかっ! いいか、魔力が貯まり次第元の世界に送り返すからな!」
 そんなわけで、しばらくこの少女と──ああ、そうだ。
「そういやお前の名前なんてーの? 俺は別府タカシと申します。気軽にタカシ、もしくはご主人様と呼べ」
「貴様なんぞに言う名前はないわい、阿呆」
「ぽちっ。『きゃうっ!? ……さ、触るな、ばかぁ……』」
「わーわーわーっ!」
 少女は真っ赤な顔で自身の嬌声を打ち消そうとした。
「お名前は?」
「ぐぐぐ……ま、まつりじゃ、馬鹿者ぉ……」
 そんなわけで、まつりという半べそをかく少女と過ごすことになりました。どうなるのでしょうね、これから先。

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