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2026年03月18日
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【アイドルなツンデレと一般人のタカシ2】
2010年03月15日
以前のことがあってから、生徒のかなみとちょっと仲がいい感じです。教師としては問題ありだけど、一個人としては大変喜ばしい変化だと言える。
「先生、クッキー焼いたの。よかったら食べて」
「うまいうまいまぐまぐ」
「先生、食べてもないのにうまいとか言わないでよ……ほら、ちゃんと食べて」
「もがもがもが」(クッキーを口に直接流し込まれて呼吸不能)
とまあ、冷静に思い返してみると本当に仲がいいのかどうか自信がなくなってきたけど、そんな毎日です。
ある日、かなみがふいに友達を紹介すると言ってきた。
「ちょっと口を滑らしちゃって、家庭教師がいるって言ったら、見てみたいって」
「見たいって……見世物みたいだな。俺なんか見てどうすんだ?」
「別にいいじゃない、減るものじゃなし。ね?」
「んー、でもなぁ、面倒だしなぁ」
「……友達って、可愛い子よ。あたしと同じ年で、アイドルしてるの」
「よし会おう、すぐ会おう、今すぐ会おう」
「…………」
「どした、かなみ。ほれ、さっさとセッティングしろ。ぼさーっとするな」
「分かったわよッ!」
なんか殴られたけど、会うことになったので問題なし。
数日後、かなみの家で問題の子と会うことになった。
「あなたが別府さんですか。私、みなかと申します」
見た目は確かにアイドルというだけあってかなり高ランクの美少女だが、……なんか、誰かを思い出す口調だな。
「はじめまして、別府タカシです。気軽にタカシ、もしくはお兄ちゃんと呼んでくれ」
「冗談だよね、先生?」
かなみが笑いながらも怒りのオーラをまといだしたので、慌てて訂正する。
「別府、もしくはお兄ちゃんと呼んでくれ」
「そっちに怒ってるんじゃないわよ、このダメ教師!」
叱られた。
「お兄ちゃん、ですか。……年下が好みなんですか?」
「いや、そういうわけじゃ。ただ、途方もなく妹という存在に恋焦がれているだけなんだ」
「はあ。じゃ、……お兄ちゃん」
「結婚しよう」
あまりの感激に、気づいたら求婚してた。
「先生を殺してあたしも死ぬッ!」
するとかなみが激昂して俺の首を締め出したので苦しい。
「修羅場ですね」
冷静に見てないで助けて。
どうにかかなみを言いくるめ、奇跡的に助かった。
「やれやれ、死にかけた」
「せ、先生が悪いんだよ? ……あ、あたしがいるのに、その……」
「ごにょごにょ言われても分からん。はっきり言え」
「う……し、初対面の子に結婚申し込む先生が悪いの!」
「すいません」
まったく反論できないので素直に謝る。
「なるほど、そういう関係なんですね」
俺たちを見ていたみなかが、無表情にそう言った。
「そっ、そういうって、別にあたしと先生は、た、ただの教え子と先生って関係で……ねぇ?」
「まだほっぺにちゅーしかしてもらってません」
「ぽんぽん言うなッ!」
かなみは顔を真っ赤にして、思い切り俺を殴った。痛い。
「まったく……みなか、飲み物取ってくるから先生の面倒みてて」
「分かりました」
みなかが頷くのを見て、かなみは台所に消えて行った。
「ふふ、幼児扱いだ。一番年上なのになあ」
「いじけないでください、別府さん」
頭をなでられた。どんどん幼児になっていく気分である。
「それにしても、別府さんって姉さんに聞いた通りの人ですね」
「姉さん? 誰、俺の知り合い?」
「私の姉さんは、かなみさんのマネージャーをしてます」
……ああ、なるほど。どうりで口調やら見た目やら似てると思った。
「で、俺のことなんて言ってた? いい男って? 股が濡れそぼるほどいい男って?」
「頭がおかしい人、って言ってました。そして、さっきの言葉で深く納得しました」
姉妹揃って失礼極まりなし。よし、姉の方は後で……えっと、口じゃ勝てないし、ええと、……心の中で悪口言ってやれ。冷血女!
「ふぅ……復讐完了」
「よく分かりませんが、清々しい顔で……」
突然、みなかの動きが止まった。
「どした? 動作不良でも起こしたか?」
ゆっくりとした動作で、みなかが指を俺の背後にある壁に向けた。見ると、壁に小さな蛾がとまっていた。全身総毛立つ。
「み、みなか、どっかやって」
すごい速さでブンブン首を横に振られた。俺だけでなく、みなかも苦手のようだ。
「し、刺激せずにこのまま待って、かなみが戻ってくるの待とうな」
何も言わずコクコクうなずくみなか。だが、かなみが戻ってくる前に、蛾がこっちに飛んできた。
「!!!!!?」
みなかは半狂乱で手近にあるもの──俺にしがみついてきた。
「痛い痛い柔らかい怖い!」
蛾が飛んでくるという恐怖に、思わず手近にあるもの──みなかにしがみつく。
「…………」
いつの間にかやって来たかなみが何も言わず蛾を空中で掴み、外に捨てた。
「ふひゅー。いや、助かったぞかなみ。生きた心地がしなかったぞ」
「……で、なんで抱き合ってるのか教えてくれない、先生?」
にっこり微笑むかなみ。不思議なことに、さっきよりも生きた心地がしない。
「……男の人に抱きつかれたの、初めてです」
「先生ッ!」
みなかがいらんこと言ったので、かなみが鬼に。
「……なるほどね。それなら最初から言えばいいのに」
殴られる合間を縫って説明すると、かなみはやっと手を止めてくれた。
「ふふ、中学生の教え子に暴力をふるわれる大学生」
「情けないですね」
誰のせいだという思いを込めてみなかを睨む。
「惚れましたか?」
「先生ッ!」
「違う違う待ってげふっ」
本来殴られないで済むシーンだったのにまた殴られてもう帰りたい。
「大変ですね」
誰のせいだという思いを込めてみなかを睨まない。きっと繰り返される。
「……ちっ」
小さく舌打ちされた。確信犯だった。怖い。
「もう帰れ。これ以上お前がいると、たぶん死ぬ。俺が」
「そうはいきません。傷物にされたので、お嫁にもらってもらいます」
みなかがしれっとそう言ったら、かなみの顔がちょっと直視できないくらい怖くなった。
「あたしというものがありながら……本当にいい度胸だね、先生♪」
「か、かなみ。君はきっと誤解をしている。人は他の動物と違い、言葉で分かり合うことが出来る。これは素晴らしいことなんだ。みなかが傷物と言っていたが、そもそもそれが間違いで」
「……幸せに、してくださいね」
必死で説得してるのに、みなかが無表情に三つ指ついて俺に頭を下げた。
「あはっ♪ せんせい、死んで♪」
「言っておくが、誤解だぞ!」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「待てこのダメ教師ッ!」
「軽い冗談で、こんな修羅場になるなんて……こんな面白い人、逃がすわけにはいきません」
般若の如きかなみと、愉快犯なみなかが二人して追ってきた。そんな一日。
「先生、クッキー焼いたの。よかったら食べて」
「うまいうまいまぐまぐ」
「先生、食べてもないのにうまいとか言わないでよ……ほら、ちゃんと食べて」
「もがもがもが」(クッキーを口に直接流し込まれて呼吸不能)
とまあ、冷静に思い返してみると本当に仲がいいのかどうか自信がなくなってきたけど、そんな毎日です。
ある日、かなみがふいに友達を紹介すると言ってきた。
「ちょっと口を滑らしちゃって、家庭教師がいるって言ったら、見てみたいって」
「見たいって……見世物みたいだな。俺なんか見てどうすんだ?」
「別にいいじゃない、減るものじゃなし。ね?」
「んー、でもなぁ、面倒だしなぁ」
「……友達って、可愛い子よ。あたしと同じ年で、アイドルしてるの」
「よし会おう、すぐ会おう、今すぐ会おう」
「…………」
「どした、かなみ。ほれ、さっさとセッティングしろ。ぼさーっとするな」
「分かったわよッ!」
なんか殴られたけど、会うことになったので問題なし。
数日後、かなみの家で問題の子と会うことになった。
「あなたが別府さんですか。私、みなかと申します」
見た目は確かにアイドルというだけあってかなり高ランクの美少女だが、……なんか、誰かを思い出す口調だな。
「はじめまして、別府タカシです。気軽にタカシ、もしくはお兄ちゃんと呼んでくれ」
「冗談だよね、先生?」
かなみが笑いながらも怒りのオーラをまといだしたので、慌てて訂正する。
「別府、もしくはお兄ちゃんと呼んでくれ」
「そっちに怒ってるんじゃないわよ、このダメ教師!」
叱られた。
「お兄ちゃん、ですか。……年下が好みなんですか?」
「いや、そういうわけじゃ。ただ、途方もなく妹という存在に恋焦がれているだけなんだ」
「はあ。じゃ、……お兄ちゃん」
「結婚しよう」
あまりの感激に、気づいたら求婚してた。
「先生を殺してあたしも死ぬッ!」
するとかなみが激昂して俺の首を締め出したので苦しい。
「修羅場ですね」
冷静に見てないで助けて。
どうにかかなみを言いくるめ、奇跡的に助かった。
「やれやれ、死にかけた」
「せ、先生が悪いんだよ? ……あ、あたしがいるのに、その……」
「ごにょごにょ言われても分からん。はっきり言え」
「う……し、初対面の子に結婚申し込む先生が悪いの!」
「すいません」
まったく反論できないので素直に謝る。
「なるほど、そういう関係なんですね」
俺たちを見ていたみなかが、無表情にそう言った。
「そっ、そういうって、別にあたしと先生は、た、ただの教え子と先生って関係で……ねぇ?」
「まだほっぺにちゅーしかしてもらってません」
「ぽんぽん言うなッ!」
かなみは顔を真っ赤にして、思い切り俺を殴った。痛い。
「まったく……みなか、飲み物取ってくるから先生の面倒みてて」
「分かりました」
みなかが頷くのを見て、かなみは台所に消えて行った。
「ふふ、幼児扱いだ。一番年上なのになあ」
「いじけないでください、別府さん」
頭をなでられた。どんどん幼児になっていく気分である。
「それにしても、別府さんって姉さんに聞いた通りの人ですね」
「姉さん? 誰、俺の知り合い?」
「私の姉さんは、かなみさんのマネージャーをしてます」
……ああ、なるほど。どうりで口調やら見た目やら似てると思った。
「で、俺のことなんて言ってた? いい男って? 股が濡れそぼるほどいい男って?」
「頭がおかしい人、って言ってました。そして、さっきの言葉で深く納得しました」
姉妹揃って失礼極まりなし。よし、姉の方は後で……えっと、口じゃ勝てないし、ええと、……心の中で悪口言ってやれ。冷血女!
「ふぅ……復讐完了」
「よく分かりませんが、清々しい顔で……」
突然、みなかの動きが止まった。
「どした? 動作不良でも起こしたか?」
ゆっくりとした動作で、みなかが指を俺の背後にある壁に向けた。見ると、壁に小さな蛾がとまっていた。全身総毛立つ。
「み、みなか、どっかやって」
すごい速さでブンブン首を横に振られた。俺だけでなく、みなかも苦手のようだ。
「し、刺激せずにこのまま待って、かなみが戻ってくるの待とうな」
何も言わずコクコクうなずくみなか。だが、かなみが戻ってくる前に、蛾がこっちに飛んできた。
「!!!!!?」
みなかは半狂乱で手近にあるもの──俺にしがみついてきた。
「痛い痛い柔らかい怖い!」
蛾が飛んでくるという恐怖に、思わず手近にあるもの──みなかにしがみつく。
「…………」
いつの間にかやって来たかなみが何も言わず蛾を空中で掴み、外に捨てた。
「ふひゅー。いや、助かったぞかなみ。生きた心地がしなかったぞ」
「……で、なんで抱き合ってるのか教えてくれない、先生?」
にっこり微笑むかなみ。不思議なことに、さっきよりも生きた心地がしない。
「……男の人に抱きつかれたの、初めてです」
「先生ッ!」
みなかがいらんこと言ったので、かなみが鬼に。
「……なるほどね。それなら最初から言えばいいのに」
殴られる合間を縫って説明すると、かなみはやっと手を止めてくれた。
「ふふ、中学生の教え子に暴力をふるわれる大学生」
「情けないですね」
誰のせいだという思いを込めてみなかを睨む。
「惚れましたか?」
「先生ッ!」
「違う違う待ってげふっ」
本来殴られないで済むシーンだったのにまた殴られてもう帰りたい。
「大変ですね」
誰のせいだという思いを込めてみなかを睨まない。きっと繰り返される。
「……ちっ」
小さく舌打ちされた。確信犯だった。怖い。
「もう帰れ。これ以上お前がいると、たぶん死ぬ。俺が」
「そうはいきません。傷物にされたので、お嫁にもらってもらいます」
みなかがしれっとそう言ったら、かなみの顔がちょっと直視できないくらい怖くなった。
「あたしというものがありながら……本当にいい度胸だね、先生♪」
「か、かなみ。君はきっと誤解をしている。人は他の動物と違い、言葉で分かり合うことが出来る。これは素晴らしいことなんだ。みなかが傷物と言っていたが、そもそもそれが間違いで」
「……幸せに、してくださいね」
必死で説得してるのに、みなかが無表情に三つ指ついて俺に頭を下げた。
「あはっ♪ せんせい、死んで♪」
「言っておくが、誤解だぞ!」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「待てこのダメ教師ッ!」
「軽い冗談で、こんな修羅場になるなんて……こんな面白い人、逃がすわけにはいきません」
般若の如きかなみと、愉快犯なみなかが二人して追ってきた。そんな一日。
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【アイドルなツンデレと一般人のタカシ】
2010年03月15日
近頃お金がないので、家庭教師で糊口を凌ぐ大学生の別府タカシですこんにちは。
さて、そんなわけで生徒がいるわけなんだが、その生徒は中学生の女の子、とここまではいいんだけど、なんか有名なアイドルらしい。ということで、
「サインくれ、サイン」
「……アンタもそういうのなのね。はぁ、まあいいけ……って、アンタこれ連帯保証人のサインじゃないの!」
「しまった、ばれた」
「ばれた、じゃないでしょうが! ……ったく、変な奴ね」
そんなわけで、何が気に入られたのか知らないが、割と長い期間生徒──かなみに勉強を教えてる。
「先生さ、あたしのライブ来たくない?」
そんなある日。数学の授業中に、かなみがそんなことを口にした。
「ライブって……ははっ、まるでアイドルみたいだな」
「立派なアイドルよっ! テレビつけたらよくあたし映ってるでしょうが! 前にも言ったでしょ、Mステ見ろって!」
「タモリを見るとイモリに変身するんだ。奇病、タモリイモリなんだ。モリモリコンビがお送りする家庭教師の時間です」
「もうちょっとマシな言い訳しなさいよね……」
「テレビはあんまり見なくて。基本的にゲームしたりネットしたりエロゲしたり」
「えろげ? なに、それ」
本当に知らないようなので、ゲームのストーリーやらキャラやらゲーム中に行うことやら体位やらを詳しく詳しく教えると、殴られた。
「なっ、なんで家庭教師が生徒を襲うようなゲームしてんのよっ! この変態変態変態!」
「だいじょぶ、襲わないよう我慢するから」
「我慢とか言うなっ! ……しっかし、典型的なオタクね。やーいオタクオタク」
「ふふ、賛美の声が心地よい。けど、本当は傷つくので、あまりそういうことは言わないで」
「あ、思ったより防御力低い。あははっ、やーいオタクオタク」
「しくしくしく」
「あははっ。……でね、ライブよ、ライブ。来る?」
「タダなら行く」
「……びんぼーにん。しょーがないから、タダであげるわ」
ということで、ライブに招待された。こういうことは初めてなので、少し楽しみだ。
当日。てっきり路上ライブか何かだと思ってたんだけど、
「……しっかりした所じゃん」
立派なコンサートホールの前で、少し驚く。
「……タキシードとか着た方がよかったか?」
しかし、周りを見てみるとそんな格好をした奴はいないのでほっとすると同時に、その方が面白かったかもという考えが俺を襲ったけど面倒なのでこのまま行こう。モギリにチケットを引き裂かれ、中へ。
「……ん?」
通路の脇で、人が群がっていた。何があるのか覗いてみると、かなみの顔がプリントされた悪趣味なCDやらウチワやらが売られていた。
「……買うのか、アレを」
以前、かなみに無理やりCDを渡された時のことを思い出す。一応の礼儀として聞いてはみたものの、その、ええと、……いや、今なら歌唱力も上がってるに違いない! 結構前のことだし、アレ!
嫌な記憶を思い出してしまったことを後悔しながら、チケットに印刷された席に移動する。割と前の方の席だ。
……あ、そういや「挨拶に来ないと殺す」とか言われてたっけ。死ぬのは嫌なので行こう。
ホールの中をほろほろさまよってると、ここから先は関係者以外禁止ですと警備員に止められた。こいつぁラッキーと思いつつ戻ろうとしたら、警備員の後ろに顔見知りを見かけてしまった。
「あっ、先生っ! 来てくれ……こほんっ。やっぱ来たんだ」
嬉しそうに駆け寄ってきたが、突然嫌そうな顔をしたかなみが寄ってきた。そして、俺の腕をがっしと掴み、そのまま楽屋へ連れて行かれた。
「いいのか、俺なんかが入っても」
「ホントはダメだけど、あたしのお客さんだからいいの」
「……? かなみ、なんか緊張してないか?」
「あ、あは、分かる? ……何回やっても、ライブの前は、ね」
小さく震えるかなみの手を、そっと握る。
「せ、先生?」
「あー、なんだ。頑張ってる奴に頑張れって言うの嫌いだから、頑張れとは言わない。適当にやったらいいさ」
そう言いながら、震えをほぐすようにかなみの手を何度も揉む。
「……せ、先生って無責任。適当なんて、できないよ。みんな、今日のために頑張ったんだから」
「…………。国語の授業を始めます」
「せ、先生? 何を……」
「適当の意味を言いなさい」
「え、えっと……その場をつくろうこと、いい加減なこと、……かな?」
「正解。だけど、それで全部じゃないぞ」
「え?」
「ある状態・目的・要求などにぴったり合っていること。ふさわしいこと。……頑張りすぎず、手を抜きすぎず。適当に、な」
なんて、偉そうにかなみを励ます。先生と呼ばれるに相応しいなんて思ってないけど、こんな時くらいは先生らしく虚勢を張る。
「……先生って、すごいね。さすがは先生だね」
「意味が分からん」
「いいのいいの。さっ、そろそろ出てって、準備するから」
かなみに背を押され、そのまま出て行くと見せかけて壁にぶつかって怒られてから、楽屋を出る。
「…………」
その様子を廊下で待機していたマネージャーのお姉さんに見られてた。大変恥ずかしい。
「妖怪、鼻ぶつけ。出現すると壁という壁に鼻をぶつけまくる特殊な」
「失礼、準備がありますので」
皆まで言う前にマネージャーさんは楽屋に入っていった。前から思ってるが、この人冷たい。
「……や、別にいいですけど」
誰に言うでもなくそう呟き、席に戻る。しばらくそのまま待ってると、幕が上がった。始まった。
……終わった。いや、思った以上に面白かった。かなみもステージ上でのびのびしてたし、歌も上達してたし。また来たいと思えるライブだった。
挨拶、してくかな? ……ま、いいか。関係者って訳でもないし、今は内輪だけで盛り上がってるだろ。
人影もまばらになった客席を出て、休憩所でジュースを買う。
「すいません。別府タカシさん、ですね?」
取り出し口からジュースを取ってると、黒服に囲まれた。死ぬのか。
「違います。妖怪の里から出てきたばかりの新米妖怪です。特技はネットでエロ画像収集」
「情報通りの適当ぶり……確保!」
必死に誤魔化そうとするも、瞬く間に拘束され、どっかに運ばれる。
「いやだー、コンクリで海にドボンはいやだー」
「そんなことしません」
運ばれた先に、見覚えのある顔があった。
「あ、マネージャーさんこんにちは。……はっ、ま、まさかあなたも黒服の一員!? 待て、俺を消す前に俺のパソコンのHDDの破壊してくれ! 決して中は見ないで!」
「あなたの性癖なんて興味ありません。この子が呼んでるんです」
マネージャーの後ろから、ステージ衣装のままのかなみが顔を出した。
「先生のことだからそうするとは思ってたけど、やっぱ帰ろうとしてたー。頼んでてよかった。みなさん、ありがとうございました」
かなみが一礼すると、黒服たちは俺の拘束を解き、軽く頷いてどこかへ去っていった。
「ホントにいるんだな、黒服って」
「私が手配したんです。まったく、この忙しいのになんだって……」
マネージャーさんに睨まれた。なんで俺が睨まれるのか分からないので、最大級の変な顔をしてやる。
「ぶふっ! ……くっ、この私が」
吹き出した後、マネージャーさんは悔しそうに俺を見た。なんで悔しいんだ。
「先生、海上に急浮上してきた深海魚みたい……」
よく分からないけど馬鹿にされてるようだ。
「あのさ、先生。これから打ち上げなんだけど、先生も来たいでしょ? どうしてもって言うなら、別に来てもいいわよ」
「いい。居場所なさそうだし」
「当然です。かなみさん、この方は無関係ですし、打ち上げに呼ぶ必要なんてありません」
マネージャーさんが俺をいらんもの扱いするが、言ってることはもっともなので特に反論しない。しないが、悔しいので別verの変な顔をする。
「ぶふっ! ……くっ、この私が二度までも」
「先生、変な顔しないの!」
「すいません」
なんか俺が怒られた。
「いいから来るっ! ……その、先生がいたら、打ち上げもちょっとは面白くなるかもしれないからさ」
……ひょっとしたら、かなみはあまり打ち上げが好きじゃないのかもしれない。
「行く。行って可愛い子とお知り合いになってうはうは」
「先生ッ!」
「すいません」
怒られたけど、打ち上げに紛れ込むことに成功。色々な人に誰? と言われたので、その度に
「妖怪、いつの間にか打ち上げに紛れ込みです。特に害はないけど可愛い子がいたら声をかけて知り合いになる。君、俺に電話番号を」
「先生ッ!」
「すいません」
というやりとりをして怒られた。けど、怒りながらも笑っていたので、俺の役目は果たしたと言えよう。
色々あって、打ち上げも終わり、マネージャーさんの運転する車で帰途に着く。一人で帰ると言ったのだが、一緒に連行された。
「あー……怒り疲れた」
隣に座るかなみがぐったりした様子で言った。
「俺は怒られ疲れた」
「怒られるようなことばっかするからでしょうが! ……でも、ありがとね」
「うん?」
「……先生がいたから、今日の打ち上げは楽しかったよ」
「俺は可愛い子とお知り合いになりに行っただけ。感謝される意味が分からん」
「……へへっ、そだね」
ぽふりとかなみが俺の胸元に倒れこんだ。
「ちょっと、疲れちゃった。……少し寝るから、着いたら起こしてね」
「え、あ、う」
「分かりました。お休みなさい、かなみさん」
こっちがオロオロしてる間に、マネージャーさんが答えてしまった。
「……貴方は」
そのまま無言でしばし過ごしてると、ふいにマネージャーさんが口を開いた。
「貴方は、かなみさんのことをどう思ってるんですか?」
「どうって……生徒、ただの生徒だよ」
「それは、本心ですか?」
「……大事な、生徒だよ」
「……なるほど。……かなみさんを泣かせたら、承知しませんよ」
「大丈夫、泣かされてるのは主にこっちだ」
マネージャーさんが笑う雰囲気がこっちに伝わってきた。
「……んにゅ、せんせ……」
胸元でかなみが寝言で小さく俺を呼んだ。
「はいはい、俺はここだよ」
軽くかなみの頭をなでてあげる。
「……うにゅ♪」
変な鳴き声と共に、かなみがはにかんだ。
「あ、そうそう」
かなみの変声に微笑んでると、マネージャーさんが思い出したように声を上げた。
「かなみさんは未成年ですから、手を出したらダメですよ」
「…………。任せろ!」
「……なんですか、最初の間は」
「大丈夫、まだ出してない」
「まっ、まだって何ですか、まだって!」
マネージャーさんの慌て具合が運転にもでたのか、蛇行運転を開始。
「まっ、前見ろ前! バカ、ぶつかる!」
「ばっ、馬鹿とはなんですか、馬鹿とは! 貴方の通ってる三流大学と違い、私は一流大学を出て」
「いいから、まえーっ!」
「んにゅ、もう着いたの……うわわわっ、なになに、ジェットコースター!?」
あやうく死にかけたが、どうにかかなみの家に辿り着いた。
「先生先生、ちょっとちょっと」
家の前までかなみを送ってると、かなみが手招きした。
「うん、なんだ?」
「……人影、なし、と。先生、ちょっとかがんで」
……これは、アレですか。恋人とかがよくやる、アレですか。
「あ、いや、その、アレですよアレなんですよ、ほら、アイドルに手を出すと色々問題があるしそのいや俺としてはやぶさかでもないんですが」
「早くっ!」
「はい」
条件反射的にかがむと、かなみの顔が目の前に。
「……ちゅ」
頬にキスされた。
「……お、お礼。……そ、その、ちゃんとライブに来てくれたことと、励ましてくれたことと、打ち上げに着いてきてくれたことと、えっと、えっと」
「あー……うん。ありがとう」
「ち、違うっ! 感謝するの、あたし!」
そう言われても、頭が柔らかかったとしか考えてくれないのでよく分からない。
「……うっと、そ、その、……また今度っ!」
かなみは顔を真っ赤にして、家に飛び込んでいった。
「あ、うん」
残された俺は俺で、たぶん赤くしているのだろう。
「……ふ、ふふ、手を出すなと言った途端これですか。……いい度胸ですね、貴方」
そして、車の中にいるはずのマネージャーの声が聞こえてきて、赤いのが青くなってきた。
「すなわちナイス度胸」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「あっ、待ちなさい! この、三流大学がーっ!」
マネージャーが俺に大変嫌なあだ名をつけつつ、追ってきた。そんな一日でした。
さて、そんなわけで生徒がいるわけなんだが、その生徒は中学生の女の子、とここまではいいんだけど、なんか有名なアイドルらしい。ということで、
「サインくれ、サイン」
「……アンタもそういうのなのね。はぁ、まあいいけ……って、アンタこれ連帯保証人のサインじゃないの!」
「しまった、ばれた」
「ばれた、じゃないでしょうが! ……ったく、変な奴ね」
そんなわけで、何が気に入られたのか知らないが、割と長い期間生徒──かなみに勉強を教えてる。
「先生さ、あたしのライブ来たくない?」
そんなある日。数学の授業中に、かなみがそんなことを口にした。
「ライブって……ははっ、まるでアイドルみたいだな」
「立派なアイドルよっ! テレビつけたらよくあたし映ってるでしょうが! 前にも言ったでしょ、Mステ見ろって!」
「タモリを見るとイモリに変身するんだ。奇病、タモリイモリなんだ。モリモリコンビがお送りする家庭教師の時間です」
「もうちょっとマシな言い訳しなさいよね……」
「テレビはあんまり見なくて。基本的にゲームしたりネットしたりエロゲしたり」
「えろげ? なに、それ」
本当に知らないようなので、ゲームのストーリーやらキャラやらゲーム中に行うことやら体位やらを詳しく詳しく教えると、殴られた。
「なっ、なんで家庭教師が生徒を襲うようなゲームしてんのよっ! この変態変態変態!」
「だいじょぶ、襲わないよう我慢するから」
「我慢とか言うなっ! ……しっかし、典型的なオタクね。やーいオタクオタク」
「ふふ、賛美の声が心地よい。けど、本当は傷つくので、あまりそういうことは言わないで」
「あ、思ったより防御力低い。あははっ、やーいオタクオタク」
「しくしくしく」
「あははっ。……でね、ライブよ、ライブ。来る?」
「タダなら行く」
「……びんぼーにん。しょーがないから、タダであげるわ」
ということで、ライブに招待された。こういうことは初めてなので、少し楽しみだ。
当日。てっきり路上ライブか何かだと思ってたんだけど、
「……しっかりした所じゃん」
立派なコンサートホールの前で、少し驚く。
「……タキシードとか着た方がよかったか?」
しかし、周りを見てみるとそんな格好をした奴はいないのでほっとすると同時に、その方が面白かったかもという考えが俺を襲ったけど面倒なのでこのまま行こう。モギリにチケットを引き裂かれ、中へ。
「……ん?」
通路の脇で、人が群がっていた。何があるのか覗いてみると、かなみの顔がプリントされた悪趣味なCDやらウチワやらが売られていた。
「……買うのか、アレを」
以前、かなみに無理やりCDを渡された時のことを思い出す。一応の礼儀として聞いてはみたものの、その、ええと、……いや、今なら歌唱力も上がってるに違いない! 結構前のことだし、アレ!
嫌な記憶を思い出してしまったことを後悔しながら、チケットに印刷された席に移動する。割と前の方の席だ。
……あ、そういや「挨拶に来ないと殺す」とか言われてたっけ。死ぬのは嫌なので行こう。
ホールの中をほろほろさまよってると、ここから先は関係者以外禁止ですと警備員に止められた。こいつぁラッキーと思いつつ戻ろうとしたら、警備員の後ろに顔見知りを見かけてしまった。
「あっ、先生っ! 来てくれ……こほんっ。やっぱ来たんだ」
嬉しそうに駆け寄ってきたが、突然嫌そうな顔をしたかなみが寄ってきた。そして、俺の腕をがっしと掴み、そのまま楽屋へ連れて行かれた。
「いいのか、俺なんかが入っても」
「ホントはダメだけど、あたしのお客さんだからいいの」
「……? かなみ、なんか緊張してないか?」
「あ、あは、分かる? ……何回やっても、ライブの前は、ね」
小さく震えるかなみの手を、そっと握る。
「せ、先生?」
「あー、なんだ。頑張ってる奴に頑張れって言うの嫌いだから、頑張れとは言わない。適当にやったらいいさ」
そう言いながら、震えをほぐすようにかなみの手を何度も揉む。
「……せ、先生って無責任。適当なんて、できないよ。みんな、今日のために頑張ったんだから」
「…………。国語の授業を始めます」
「せ、先生? 何を……」
「適当の意味を言いなさい」
「え、えっと……その場をつくろうこと、いい加減なこと、……かな?」
「正解。だけど、それで全部じゃないぞ」
「え?」
「ある状態・目的・要求などにぴったり合っていること。ふさわしいこと。……頑張りすぎず、手を抜きすぎず。適当に、な」
なんて、偉そうにかなみを励ます。先生と呼ばれるに相応しいなんて思ってないけど、こんな時くらいは先生らしく虚勢を張る。
「……先生って、すごいね。さすがは先生だね」
「意味が分からん」
「いいのいいの。さっ、そろそろ出てって、準備するから」
かなみに背を押され、そのまま出て行くと見せかけて壁にぶつかって怒られてから、楽屋を出る。
「…………」
その様子を廊下で待機していたマネージャーのお姉さんに見られてた。大変恥ずかしい。
「妖怪、鼻ぶつけ。出現すると壁という壁に鼻をぶつけまくる特殊な」
「失礼、準備がありますので」
皆まで言う前にマネージャーさんは楽屋に入っていった。前から思ってるが、この人冷たい。
「……や、別にいいですけど」
誰に言うでもなくそう呟き、席に戻る。しばらくそのまま待ってると、幕が上がった。始まった。
……終わった。いや、思った以上に面白かった。かなみもステージ上でのびのびしてたし、歌も上達してたし。また来たいと思えるライブだった。
挨拶、してくかな? ……ま、いいか。関係者って訳でもないし、今は内輪だけで盛り上がってるだろ。
人影もまばらになった客席を出て、休憩所でジュースを買う。
「すいません。別府タカシさん、ですね?」
取り出し口からジュースを取ってると、黒服に囲まれた。死ぬのか。
「違います。妖怪の里から出てきたばかりの新米妖怪です。特技はネットでエロ画像収集」
「情報通りの適当ぶり……確保!」
必死に誤魔化そうとするも、瞬く間に拘束され、どっかに運ばれる。
「いやだー、コンクリで海にドボンはいやだー」
「そんなことしません」
運ばれた先に、見覚えのある顔があった。
「あ、マネージャーさんこんにちは。……はっ、ま、まさかあなたも黒服の一員!? 待て、俺を消す前に俺のパソコンのHDDの破壊してくれ! 決して中は見ないで!」
「あなたの性癖なんて興味ありません。この子が呼んでるんです」
マネージャーの後ろから、ステージ衣装のままのかなみが顔を出した。
「先生のことだからそうするとは思ってたけど、やっぱ帰ろうとしてたー。頼んでてよかった。みなさん、ありがとうございました」
かなみが一礼すると、黒服たちは俺の拘束を解き、軽く頷いてどこかへ去っていった。
「ホントにいるんだな、黒服って」
「私が手配したんです。まったく、この忙しいのになんだって……」
マネージャーさんに睨まれた。なんで俺が睨まれるのか分からないので、最大級の変な顔をしてやる。
「ぶふっ! ……くっ、この私が」
吹き出した後、マネージャーさんは悔しそうに俺を見た。なんで悔しいんだ。
「先生、海上に急浮上してきた深海魚みたい……」
よく分からないけど馬鹿にされてるようだ。
「あのさ、先生。これから打ち上げなんだけど、先生も来たいでしょ? どうしてもって言うなら、別に来てもいいわよ」
「いい。居場所なさそうだし」
「当然です。かなみさん、この方は無関係ですし、打ち上げに呼ぶ必要なんてありません」
マネージャーさんが俺をいらんもの扱いするが、言ってることはもっともなので特に反論しない。しないが、悔しいので別verの変な顔をする。
「ぶふっ! ……くっ、この私が二度までも」
「先生、変な顔しないの!」
「すいません」
なんか俺が怒られた。
「いいから来るっ! ……その、先生がいたら、打ち上げもちょっとは面白くなるかもしれないからさ」
……ひょっとしたら、かなみはあまり打ち上げが好きじゃないのかもしれない。
「行く。行って可愛い子とお知り合いになってうはうは」
「先生ッ!」
「すいません」
怒られたけど、打ち上げに紛れ込むことに成功。色々な人に誰? と言われたので、その度に
「妖怪、いつの間にか打ち上げに紛れ込みです。特に害はないけど可愛い子がいたら声をかけて知り合いになる。君、俺に電話番号を」
「先生ッ!」
「すいません」
というやりとりをして怒られた。けど、怒りながらも笑っていたので、俺の役目は果たしたと言えよう。
色々あって、打ち上げも終わり、マネージャーさんの運転する車で帰途に着く。一人で帰ると言ったのだが、一緒に連行された。
「あー……怒り疲れた」
隣に座るかなみがぐったりした様子で言った。
「俺は怒られ疲れた」
「怒られるようなことばっかするからでしょうが! ……でも、ありがとね」
「うん?」
「……先生がいたから、今日の打ち上げは楽しかったよ」
「俺は可愛い子とお知り合いになりに行っただけ。感謝される意味が分からん」
「……へへっ、そだね」
ぽふりとかなみが俺の胸元に倒れこんだ。
「ちょっと、疲れちゃった。……少し寝るから、着いたら起こしてね」
「え、あ、う」
「分かりました。お休みなさい、かなみさん」
こっちがオロオロしてる間に、マネージャーさんが答えてしまった。
「……貴方は」
そのまま無言でしばし過ごしてると、ふいにマネージャーさんが口を開いた。
「貴方は、かなみさんのことをどう思ってるんですか?」
「どうって……生徒、ただの生徒だよ」
「それは、本心ですか?」
「……大事な、生徒だよ」
「……なるほど。……かなみさんを泣かせたら、承知しませんよ」
「大丈夫、泣かされてるのは主にこっちだ」
マネージャーさんが笑う雰囲気がこっちに伝わってきた。
「……んにゅ、せんせ……」
胸元でかなみが寝言で小さく俺を呼んだ。
「はいはい、俺はここだよ」
軽くかなみの頭をなでてあげる。
「……うにゅ♪」
変な鳴き声と共に、かなみがはにかんだ。
「あ、そうそう」
かなみの変声に微笑んでると、マネージャーさんが思い出したように声を上げた。
「かなみさんは未成年ですから、手を出したらダメですよ」
「…………。任せろ!」
「……なんですか、最初の間は」
「大丈夫、まだ出してない」
「まっ、まだって何ですか、まだって!」
マネージャーさんの慌て具合が運転にもでたのか、蛇行運転を開始。
「まっ、前見ろ前! バカ、ぶつかる!」
「ばっ、馬鹿とはなんですか、馬鹿とは! 貴方の通ってる三流大学と違い、私は一流大学を出て」
「いいから、まえーっ!」
「んにゅ、もう着いたの……うわわわっ、なになに、ジェットコースター!?」
あやうく死にかけたが、どうにかかなみの家に辿り着いた。
「先生先生、ちょっとちょっと」
家の前までかなみを送ってると、かなみが手招きした。
「うん、なんだ?」
「……人影、なし、と。先生、ちょっとかがんで」
……これは、アレですか。恋人とかがよくやる、アレですか。
「あ、いや、その、アレですよアレなんですよ、ほら、アイドルに手を出すと色々問題があるしそのいや俺としてはやぶさかでもないんですが」
「早くっ!」
「はい」
条件反射的にかがむと、かなみの顔が目の前に。
「……ちゅ」
頬にキスされた。
「……お、お礼。……そ、その、ちゃんとライブに来てくれたことと、励ましてくれたことと、打ち上げに着いてきてくれたことと、えっと、えっと」
「あー……うん。ありがとう」
「ち、違うっ! 感謝するの、あたし!」
そう言われても、頭が柔らかかったとしか考えてくれないのでよく分からない。
「……うっと、そ、その、……また今度っ!」
かなみは顔を真っ赤にして、家に飛び込んでいった。
「あ、うん」
残された俺は俺で、たぶん赤くしているのだろう。
「……ふ、ふふ、手を出すなと言った途端これですか。……いい度胸ですね、貴方」
そして、車の中にいるはずのマネージャーの声が聞こえてきて、赤いのが青くなってきた。
「すなわちナイス度胸」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「あっ、待ちなさい! この、三流大学がーっ!」
マネージャーが俺に大変嫌なあだ名をつけつつ、追ってきた。そんな一日でした。
【クマちなみん】
2010年03月15日
学校を休んだら、ちなみが家にまで押しかけてきた。熊の格好のまま。
「……くまです。がおー」
正直、家にまで来るとは予想だにしていなかった。
「……正確には、ツキノワグマです。……ほら、ここに月のような模様が」
知らん。聞いてない。
「……調子、悪いんですか?」
「ちょっとな。風邪ひいたかも」
「……太古の昔より、熊の肝は万病に効くと言います」
「……はぁ」
ちなみは自分の腹をさすさすと両手でさすった。
「……さすがに、肝を取り出すと死ぬ気がします」
「いや、普通に死ぬだろ」
「……死ぬのは嫌なので、……肌の上から舐めてください」
「…………はい?」
「……肝ちからで、すぐ治ります。……大丈夫です」
そう言って、ちなみはきぐるみを脱いでお腹をさらけ出した。
「いや、別にただの風邪だからすぐ治るだろうし……」
「……いっぱい舐めて、……病気治して、……また、学校で遊びましょう」
「…………」
ああ、こいつはこんなだけど、俺のこと心配してくれてるんだな。
その気持ちを裏切りたくないのと、エロパワーの相乗効果でもう舐める気満々。ぺたんとしたお腹を、れろん。
「! ……ど、どうです? 元気になりました?」
「まだ。れろれろ、ちゅーちゅー」
「す、吸う必要はないです……」
柔らかなお腹に舌を這わせる。ぷにぷにとした感触と不思議に甘い味が、俺の脳をとろけさせる。
舐めにくいからとちなみをベッドに寝かせ、覆いかぶさるように彼女のお腹を舐める。
親に見つかった。
なんで「絶対責任は取らせるから」なんて言ってるの、母さん?
「……くまです。がおー」
正直、家にまで来るとは予想だにしていなかった。
「……正確には、ツキノワグマです。……ほら、ここに月のような模様が」
知らん。聞いてない。
「……調子、悪いんですか?」
「ちょっとな。風邪ひいたかも」
「……太古の昔より、熊の肝は万病に効くと言います」
「……はぁ」
ちなみは自分の腹をさすさすと両手でさすった。
「……さすがに、肝を取り出すと死ぬ気がします」
「いや、普通に死ぬだろ」
「……死ぬのは嫌なので、……肌の上から舐めてください」
「…………はい?」
「……肝ちからで、すぐ治ります。……大丈夫です」
そう言って、ちなみはきぐるみを脱いでお腹をさらけ出した。
「いや、別にただの風邪だからすぐ治るだろうし……」
「……いっぱい舐めて、……病気治して、……また、学校で遊びましょう」
「…………」
ああ、こいつはこんなだけど、俺のこと心配してくれてるんだな。
その気持ちを裏切りたくないのと、エロパワーの相乗効果でもう舐める気満々。ぺたんとしたお腹を、れろん。
「! ……ど、どうです? 元気になりました?」
「まだ。れろれろ、ちゅーちゅー」
「す、吸う必要はないです……」
柔らかなお腹に舌を這わせる。ぷにぷにとした感触と不思議に甘い味が、俺の脳をとろけさせる。
舐めにくいからとちなみをベッドに寝かせ、覆いかぶさるように彼女のお腹を舐める。
親に見つかった。
なんで「絶対責任は取らせるから」なんて言ってるの、母さん?
【アイドルなタカシと一般人のツンデレ】
2010年03月15日
色々な偶然が重なって、アイドルに祭り上げられた。テレビとかにも出るようになった。毎日忙しくて、あまり寝る時間もない。
「なっ、なんでタカシがここにいるんだよぉ!」
「逃げて来たに決まってるだろうが、ばかちん!」
あまりにも疲れたので、梓の家にしばらく隠れることにした。
「ばかちん!? ていうか、なんでボクが怒られてるの!?」
「それはまぁ、お約束と言うか、いじられやすい顔をしているからというか、ボクっ娘だからというか」
「ボクっ娘って……いや、そんなことより、そんな所にいたら危ないよ! とにかく上がって上がって!」
そんな所とは窓であり、今現在窓の外側にヤモリのように張り付いており、落ちると骨折、誰かに見つかると通報される。許可が出たので、部屋に飛び込め。
「やれやれ、怖かった」
「もっと普通に入ってきたらいいのに……それよりさ、こんなとこにいちゃダメだろ? ほら、一応タカシみたいなのでも芸能人なんだし」
「ボクっ娘が冷たい事言って追い出そうとする。傷ついた羽を癒やそうと、一時身を寄せる事すら拒まれるのか!」
「わ、なんかかっこいいっぽいこと言ってる! すごいね、さすがは芸能人だね」
「ふふん、どうだ? 芸能人になればこの程度、すらりすらすら出てくるぞ! もっと聞きたかろ?」
「いや、すごいけど別に……」
「聞きたいよな?」(威圧しつつ)
「き、聞きたいよぅ……」(子犬のようにぷるぷる震えながら)
「ふふん、それでいいのだ。つーわけで、聞きたいならしばらくここに置いてください」
「土下座!? って、ホントにダメだよ。みんな探してるんじゃないの? ……そ、それに、タカシを独り占めなんかしたら、ボク、ファンの子に恨まれちゃうよ」
「え、俺にファンいるの!?」
「いないの!? タカシ、テレビに出まくってるんだから、いるでしょ?」
「……そういや、楽屋に手紙が山ほど届いてて、好きですとか愛してますとか結婚してくださいとか書いてたけど……そうか、あれファンレターか」
「なんだと思ってたんだよ! それ以外ないだろ!」
「いや、なんか電波の人が集団で俺に嫌がらせの手紙を送ってたんだとばかり」
「タカシって、芸能人になっても変なんだね」
なんだとコンチクショウ。
「……でも、そっか。タカシみたいなのでも、そういうファンレター貰うんだね」
「んーむ……一人くらい食っときゃよかった」
「だっ、ダメに決まってるだろっ! ダメのダメダメだよっ! 食べちゃダメっ!」
「いや、別に物理的にむしゃむしゃ食うってワケじゃなくて、エッチするって意味の食べるだ。安心しろ」
「全然まったくちっとも安心できないっ! エッチとかしちゃダメだよっ! そういうことは、すっ、好きな人としか、しちゃダメなんだからッ!」
「ぶーぶー、いーじゃんちょっとくらい」
「ぶーぶーじゃないっ! 好きでもない子とエッチとか禁止禁止禁止っ!」
「やれやれ、分かったよ。エッチしない」
「はふー……それでいいんだよ、それで」
「代わりに、しばらくここに居させろ」
「う……だ、だからダメだって」
「ダメならファンの子とエッチする。しまくる。そりゃもう阿鼻叫喚の地獄絵図もかくやというほど」
「うぐ……わ、分かったよ! いろよ! い、いてもいいけど、ボクに手だしたら怒るよ!」
「だいじょぶ、つるぺたは趣味じゃないです」
「嘘つけっ! 前にテレビで見たけど、おっぱいちっちゃい子とタカシが一緒に出演してた時、すっごく嬉しそうだったじゃん!」
「な、俺の最重要機密がこうも易々と!?」
「なーにが最重要機密だよ。大体さ、テレビに出る前から、タカシって胸が小さい子好きじゃん」
「ぬぐ、俺の99の秘密が次々と……!」
「何が99の秘密だよ。……ぷっ」
「梓が異性の前でためらいもなく屁を」
「違うよっ! 吹き出したんだよっ! タカシがさ、アイドルになる前と全然変わらないことにちょっと可笑しくなったから吹き出したの!」
「なんだ。それなら普通に吹き出せばいいものを」
「ボクは普通にしたの! タカシが変にしたんだよっ! ……まったく、全然変わってないよ。……本当、ボクと一緒に学校通ってた頃と同じだもん」
ほんの数ヶ月前までは毎日のように通っていた学校も、近頃はまるで足を向けていない。その頃を思い出したのか、梓は少し寂しそうに笑った。
「……そんな顔すんない。なに、すぐに俺なんて飽きられて、仕事もなくなるって。そしたら、また一緒に学校行けるようになるさ」
「……無理だよ。知んないの? タカシってさ、すっごい人気なんだよ? グッズとかCDとか、人気すぎて売り切れ店続出なんだから。飽きられるなんて、ずっとずっと先……」
「グッズって、これか?」
「え? ……にゃーっ!」
ベッドに置かれてたタカシくん人形を手に取ったら、ボクっ娘にあるまじき速度で奪われた。
「か、買ってない、買ってないよ!? 朝の4時から並んでない! え、えと……当たった! なんか、雑誌のプレゼントで偶然! いらないんだけど、捨てるのもアレだし!」
「あ……うん」
あまりにも必死なので、信じてあげる。嘘も時には優しさです。あと、背中に隠してるみたいだけど、全然隠れてません。
「あ、あとCDラックも見るなよ! 理由は特にないけど!」
CDも買いましたか。や、いいんだけど、友達が俺のCD持ってるってのは、なんか凄く恥ずかしいです。
「別にそんなの買わなくても、お前にだったら生で直接歌ってやるのに……ま、俺の歌なんて聴いてもしょうがな」
「え、えええっ!? い、いいの?」
「……聴きたいの?」
首がもげる勢いでうなずかれた。
「あー……じゃ、歌おうか? アカペラで悪いが」
「わぁ……タカシの生歌だぁ……」
「じゃ、生タカシが生梓に生歌を生歌います生」
せっかく歌ってやるというのに、梓が嫌そうな顔をした。
歌い終わった。んむ、そこそこの出来かと。
「はぅ……」
が、梓はトリップしっぱなしで帰ってきてない。
「梓たん、終わりましたよ? 聞こえてますか?」
「……んにゅ? ……はっ、……え、えと、まぁまぁだったね」
「まーなー。歌、そんな上手くないし」
「そんなことないっ! すっごい素敵だったよっ! 聞き惚れちゃうくらい!」
「…………」
「……はうあっ! ちっ、違くて! そ、そういう意見の人もいるんじゃないかって思ったりしたり、その……あぅ」
「……ひょっとしてさ、梓って、俺のファン?」
「そそそっ、そんなわけないよっ! 自意識かじょーマンが出現だよ! 自衛隊に出動要請だよ! びびびびびーっ!」
「お嬢ちゃんいくつ?」
びびびーと言いながら落ちてたリモコンをOnOffするお嬢ちゃんに優しく訊ねる。
「タカシと同い年だよっ! どうせ子供っぽいよっ!」
「いやはや、お前も変わらんな」
「ふん、ふん。そんな数ヶ月で変わったりしないよ」
「だな。……あー、なんか安心した」
「へ?」
「ずっとこっちにいなかったから、俺の知ってる梓はいなくなってると勝手に思ってて。でも、梓は昔のままで、俺の知ってる子供っぽくも優しい梓のままで、安心した」
言いながら、梓の頭をやさしくなでる。
「う……た、タカシってさ、……真顔でそういうこと言うからさ、……ず、ずるいと思う」
恥ずかしいのか、梓は顔を真っ赤にして言った。
「そういうことって……ああ、おっぱい触らせてって台詞か。いや、自分でもかっこいい台詞かと」
「そんなこと言ってないだろっ! その台詞のどこにかっこいい要素があるんだよ! ……あれ? ひょっとして、自分の言った台詞で照れてる?」
「全然まったくちっとも意味が分からん! 意味が分からんので追求は不可!」
「タカシってば、アイドルになっても照れ屋さんなんだねぇ。まったく、困ったちゃんだね♪」
梓の奴がにっこり笑って俺を見るのでああもう困る。
「困ったちゃんは眠いので寝る! お休み!」
「あ、うんいいけ……あっ、コラ、床で寝るなんてダメだよ! 布団で寝ないと疲れ取れないよ!」
「いや、布団一個しかないし、俺が使うと梓が」
で、色々協議した結果。
「た、タカシ、もっとそっち行けよ。こっち狭いんだよ」
「ぬ、ごめん。それより梓、あまりつるぺたいものをすりつけるな」
「つっ、つるぺたいってなんだよ、つるぺたいって!」
一緒に寝ることになってなんか女の子の甘い匂いとか腕に感じるふにふにしたのとか寝れるか。
「……うー、なんかタカシの顔、えっちぃ顔だよ」
「超気のせいだ!」
「……言っとくけどね、ボクが寝てる間に触ったり、ち、ちゅーしたりしたら、怒るからね」
「なんだ、怒るだけか」
「超! 怒るから! 触るのもちゅーも禁止だよっ!」
超怒られては敵わないので、理性を総動員して触らないでおこうと決意。俺、頑張るよ!
……が、梓の柔らかな身体は腕に当たってるし常時甘い匂いがするし口唇が半開きで妙にエロいし寝言で俺の名前呼んだりするしまさに蛇の生殺し。死ぬゼ。
「なっ、なんでタカシがここにいるんだよぉ!」
「逃げて来たに決まってるだろうが、ばかちん!」
あまりにも疲れたので、梓の家にしばらく隠れることにした。
「ばかちん!? ていうか、なんでボクが怒られてるの!?」
「それはまぁ、お約束と言うか、いじられやすい顔をしているからというか、ボクっ娘だからというか」
「ボクっ娘って……いや、そんなことより、そんな所にいたら危ないよ! とにかく上がって上がって!」
そんな所とは窓であり、今現在窓の外側にヤモリのように張り付いており、落ちると骨折、誰かに見つかると通報される。許可が出たので、部屋に飛び込め。
「やれやれ、怖かった」
「もっと普通に入ってきたらいいのに……それよりさ、こんなとこにいちゃダメだろ? ほら、一応タカシみたいなのでも芸能人なんだし」
「ボクっ娘が冷たい事言って追い出そうとする。傷ついた羽を癒やそうと、一時身を寄せる事すら拒まれるのか!」
「わ、なんかかっこいいっぽいこと言ってる! すごいね、さすがは芸能人だね」
「ふふん、どうだ? 芸能人になればこの程度、すらりすらすら出てくるぞ! もっと聞きたかろ?」
「いや、すごいけど別に……」
「聞きたいよな?」(威圧しつつ)
「き、聞きたいよぅ……」(子犬のようにぷるぷる震えながら)
「ふふん、それでいいのだ。つーわけで、聞きたいならしばらくここに置いてください」
「土下座!? って、ホントにダメだよ。みんな探してるんじゃないの? ……そ、それに、タカシを独り占めなんかしたら、ボク、ファンの子に恨まれちゃうよ」
「え、俺にファンいるの!?」
「いないの!? タカシ、テレビに出まくってるんだから、いるでしょ?」
「……そういや、楽屋に手紙が山ほど届いてて、好きですとか愛してますとか結婚してくださいとか書いてたけど……そうか、あれファンレターか」
「なんだと思ってたんだよ! それ以外ないだろ!」
「いや、なんか電波の人が集団で俺に嫌がらせの手紙を送ってたんだとばかり」
「タカシって、芸能人になっても変なんだね」
なんだとコンチクショウ。
「……でも、そっか。タカシみたいなのでも、そういうファンレター貰うんだね」
「んーむ……一人くらい食っときゃよかった」
「だっ、ダメに決まってるだろっ! ダメのダメダメだよっ! 食べちゃダメっ!」
「いや、別に物理的にむしゃむしゃ食うってワケじゃなくて、エッチするって意味の食べるだ。安心しろ」
「全然まったくちっとも安心できないっ! エッチとかしちゃダメだよっ! そういうことは、すっ、好きな人としか、しちゃダメなんだからッ!」
「ぶーぶー、いーじゃんちょっとくらい」
「ぶーぶーじゃないっ! 好きでもない子とエッチとか禁止禁止禁止っ!」
「やれやれ、分かったよ。エッチしない」
「はふー……それでいいんだよ、それで」
「代わりに、しばらくここに居させろ」
「う……だ、だからダメだって」
「ダメならファンの子とエッチする。しまくる。そりゃもう阿鼻叫喚の地獄絵図もかくやというほど」
「うぐ……わ、分かったよ! いろよ! い、いてもいいけど、ボクに手だしたら怒るよ!」
「だいじょぶ、つるぺたは趣味じゃないです」
「嘘つけっ! 前にテレビで見たけど、おっぱいちっちゃい子とタカシが一緒に出演してた時、すっごく嬉しそうだったじゃん!」
「な、俺の最重要機密がこうも易々と!?」
「なーにが最重要機密だよ。大体さ、テレビに出る前から、タカシって胸が小さい子好きじゃん」
「ぬぐ、俺の99の秘密が次々と……!」
「何が99の秘密だよ。……ぷっ」
「梓が異性の前でためらいもなく屁を」
「違うよっ! 吹き出したんだよっ! タカシがさ、アイドルになる前と全然変わらないことにちょっと可笑しくなったから吹き出したの!」
「なんだ。それなら普通に吹き出せばいいものを」
「ボクは普通にしたの! タカシが変にしたんだよっ! ……まったく、全然変わってないよ。……本当、ボクと一緒に学校通ってた頃と同じだもん」
ほんの数ヶ月前までは毎日のように通っていた学校も、近頃はまるで足を向けていない。その頃を思い出したのか、梓は少し寂しそうに笑った。
「……そんな顔すんない。なに、すぐに俺なんて飽きられて、仕事もなくなるって。そしたら、また一緒に学校行けるようになるさ」
「……無理だよ。知んないの? タカシってさ、すっごい人気なんだよ? グッズとかCDとか、人気すぎて売り切れ店続出なんだから。飽きられるなんて、ずっとずっと先……」
「グッズって、これか?」
「え? ……にゃーっ!」
ベッドに置かれてたタカシくん人形を手に取ったら、ボクっ娘にあるまじき速度で奪われた。
「か、買ってない、買ってないよ!? 朝の4時から並んでない! え、えと……当たった! なんか、雑誌のプレゼントで偶然! いらないんだけど、捨てるのもアレだし!」
「あ……うん」
あまりにも必死なので、信じてあげる。嘘も時には優しさです。あと、背中に隠してるみたいだけど、全然隠れてません。
「あ、あとCDラックも見るなよ! 理由は特にないけど!」
CDも買いましたか。や、いいんだけど、友達が俺のCD持ってるってのは、なんか凄く恥ずかしいです。
「別にそんなの買わなくても、お前にだったら生で直接歌ってやるのに……ま、俺の歌なんて聴いてもしょうがな」
「え、えええっ!? い、いいの?」
「……聴きたいの?」
首がもげる勢いでうなずかれた。
「あー……じゃ、歌おうか? アカペラで悪いが」
「わぁ……タカシの生歌だぁ……」
「じゃ、生タカシが生梓に生歌を生歌います生」
せっかく歌ってやるというのに、梓が嫌そうな顔をした。
歌い終わった。んむ、そこそこの出来かと。
「はぅ……」
が、梓はトリップしっぱなしで帰ってきてない。
「梓たん、終わりましたよ? 聞こえてますか?」
「……んにゅ? ……はっ、……え、えと、まぁまぁだったね」
「まーなー。歌、そんな上手くないし」
「そんなことないっ! すっごい素敵だったよっ! 聞き惚れちゃうくらい!」
「…………」
「……はうあっ! ちっ、違くて! そ、そういう意見の人もいるんじゃないかって思ったりしたり、その……あぅ」
「……ひょっとしてさ、梓って、俺のファン?」
「そそそっ、そんなわけないよっ! 自意識かじょーマンが出現だよ! 自衛隊に出動要請だよ! びびびびびーっ!」
「お嬢ちゃんいくつ?」
びびびーと言いながら落ちてたリモコンをOnOffするお嬢ちゃんに優しく訊ねる。
「タカシと同い年だよっ! どうせ子供っぽいよっ!」
「いやはや、お前も変わらんな」
「ふん、ふん。そんな数ヶ月で変わったりしないよ」
「だな。……あー、なんか安心した」
「へ?」
「ずっとこっちにいなかったから、俺の知ってる梓はいなくなってると勝手に思ってて。でも、梓は昔のままで、俺の知ってる子供っぽくも優しい梓のままで、安心した」
言いながら、梓の頭をやさしくなでる。
「う……た、タカシってさ、……真顔でそういうこと言うからさ、……ず、ずるいと思う」
恥ずかしいのか、梓は顔を真っ赤にして言った。
「そういうことって……ああ、おっぱい触らせてって台詞か。いや、自分でもかっこいい台詞かと」
「そんなこと言ってないだろっ! その台詞のどこにかっこいい要素があるんだよ! ……あれ? ひょっとして、自分の言った台詞で照れてる?」
「全然まったくちっとも意味が分からん! 意味が分からんので追求は不可!」
「タカシってば、アイドルになっても照れ屋さんなんだねぇ。まったく、困ったちゃんだね♪」
梓の奴がにっこり笑って俺を見るのでああもう困る。
「困ったちゃんは眠いので寝る! お休み!」
「あ、うんいいけ……あっ、コラ、床で寝るなんてダメだよ! 布団で寝ないと疲れ取れないよ!」
「いや、布団一個しかないし、俺が使うと梓が」
で、色々協議した結果。
「た、タカシ、もっとそっち行けよ。こっち狭いんだよ」
「ぬ、ごめん。それより梓、あまりつるぺたいものをすりつけるな」
「つっ、つるぺたいってなんだよ、つるぺたいって!」
一緒に寝ることになってなんか女の子の甘い匂いとか腕に感じるふにふにしたのとか寝れるか。
「……うー、なんかタカシの顔、えっちぃ顔だよ」
「超気のせいだ!」
「……言っとくけどね、ボクが寝てる間に触ったり、ち、ちゅーしたりしたら、怒るからね」
「なんだ、怒るだけか」
「超! 怒るから! 触るのもちゅーも禁止だよっ!」
超怒られては敵わないので、理性を総動員して触らないでおこうと決意。俺、頑張るよ!
……が、梓の柔らかな身体は腕に当たってるし常時甘い匂いがするし口唇が半開きで妙にエロいし寝言で俺の名前呼んだりするしまさに蛇の生殺し。死ぬゼ。
【バレンタインにチョコ渡し損ないホワイトデーに期待の持てないツンデレ】
2010年03月14日
一ヶ月前のことは何一つ思い出したくない。戦果が0とか嘘だと言ってよバーニィ。
だがしかし。それでも男には戦わねばならない時がある!
「具体的には記憶喪失を装い、バレンタインにチョコを貰った風で何気ない顔でホワイトデーにお返しを贈り、目当ての女の子と仲良くなるってえ寸法だ」
「……で、なんでそれをオレに言うんだ?」
放課後、学校に残ってた友人のみおに相談したら、嫌な顔をされた。
「俺の演技力では記憶喪失を装うのは難しいし、ここはひとつみおに一発殴ってもらって実際に記憶を飛ばしてみようと思ったんだ。あ! でも、飛ばすのは記憶だけで生命は留まらせていただければ幸いです」
「なんでオレがそんなのやんなくちゃいけないんだよ。一人でやってろ、ばか」
「あと、パンツとか見せてもらっても幸いです」
「言いながらオレのスカートの中に入るなっ!」
「とても居心地がいいので住みたいです」
たくさん殴られ蹴られたので、ほうほうの体で逃げ出す。
「畜生、しまぱんまでが俺を迫害する……!」
「いっ、言うなっ、ばかっ! えっち!」
真っ赤な顔で俺をなじるみおだったが、そのような台詞は俺を喜ばすばかり。
「ふふん」
「なんで誇らしげなんだよっ! う~……あのなあっ! おまえのそーゆーとこ、すっごいダメだかんなっ! 分かってんのか!? ちょっとは反省しろっ、ばかっ!」
「知ってるけど、止められないんだ。体が勝手に動いたんだ」
「痴漢常習犯の台詞だぞ!?」
「大丈夫。俺の体が勝手に機能は、みおのしまぱんにしか発動しないから」
「うっ……い、いちいち人のパンツの柄を言うなっ! ばかっ、えっち!」
「白と薄い水色のコントラストが俺の心を掴んで離さないんだ。ただ、さらにもう一歩踏み込み、ローレグにしてくれると俺嬉しくて泣いちゃうかも。……いや、うん。泣きます!」
「そんな宣言知らんっ! お前もうどっか行けっ!」
「まあそう言わないで。俺を記憶喪失にしてくれたらどっか行くから」
「勝手にやってろ!」
みおはぷりぷり怒って教室を出て行った。やりすぎたか。しょうがない、俺も帰ろうと思いながら鞄を取ろうとしたら、みおの席に鞄が置いてあるのに気づいた。
あいつ、怒りすぎてて忘れたな。俺のせいだし、持っていってやるか。
軽い駆け足で下駄箱へ急ぐ。果たして、ちょっと困ったような顔で所在なさげに立っているみおがそこにいた。恐らく鞄がないことに気づいたはいいが、怒って出て行った手前戻ることも出来ないのだろう。
「ん」
「あ……オレの鞄。……な、なんだよ、別に感謝なんかしないかんなっ!」
「か、勘違いしないでよねっ! 感謝されたくて持ってきたんじゃないからねっ!」
「どやかましいっ!」
超怒られた。
「せっかく持ってきたのに怒られて悲しいが、まあいいや。一緒に帰ろうぜ、みお」
「う、うー……わ、わーったよ」
みおとてくてく帰路に着く。
「……で?」
その途中、みおが不意に口を開いた。
「はい?」
「だ、だから。……バレンタインにさ、誰に貰いたかったんだよ、チョコ」
こちらを見ないまま、ぶっきらぼうにみおは俺に問い質した。
「誰って、まあ、別にいいじゃん」
「まあ、そだけどさ」
ややあって。
「……誰でもいいならさ、別に教えてもいいよな?」
「まあ、そうなんだけど。逆に言えば、教えなくてもいいよな?」
「……あー、もう! いーよ、もう!」
それからしばらくして。
「……な、なー?」
「ああもう。分かったよ。お前だよ、お前」
「ふぇ……っ!?」
みおの口から変な声が出た。
「だから、お前だっての。一日中わくわくしてたのに、そのそぶりすらなかったので泣く泣く帰宅したのですよ」
「う、あ、う……」
「何を口をパクパクさせてる。気絶したいほど恥ずかしいのは俺だっつーの。ふん」
顔に血が集まるのを感じたので、分からない程度に自分の顔をみおの反対に向ける。ええい。
「え、あ、いやだって、……う、嘘だろ! そーやってオレにお世辞言ってるだけだろ!」
「まあ、好きにとってくれ」
「う……うー!」
「頬を抓るな。痛いです」
「う、うっさい! ……え、えーと! あ、あのさ、お前さ、ホワイトデーにお返しを渡す相手誰もいないんだろ?」
「どこかの誰かが義理でも渡してくれなかったので、渡す権利が発生していないので。だからこそ、みおに俺が記憶喪失するように殴打してくれと頼んだんだけどな」
「なんで当の本人に頼むんだよ、ばか。……んでさ、その。……どーしてもってんなら、さ。……お、オレに渡してもいーぜ?」
慌ててみおを見る。夕日のせいだかなんだか知らないが、みおの顔はまっかっかだった。
「ちっ、違うかんな!? べ、別にそーゆーのじゃなくて、お前があんまりにも哀れだったからで! みおは全然欲しくなんてなくて! え、えーと! あ、あの、罪滅ぼし! それで!」
「みおさん、一人称、一人称」
「あっ……う、うー」
みおは興奮すると一人称がオレからみおへと変化するので、俺の好物となり危険です。
「うー!」
「なんで俺が唸られているの? そしてなんで俺の頬をつねっているの?」
「うっさい! いーから明日はオレに貢物よこせ! いーな!?」
「渡すとこの頬引っ張りは解除されるのでしょうか」
「されるから!」
「じゃあ、渡す」
「う、うん。……あ、あの、いちおー聞くけどさ、嫌々じゃないよな?」
……ここまで根掘り葉掘り聞いて、何を不安げな顔をしているかな、この娘は。
「確かに誰にもお返しできないってのは、男として矜持が許さない。だからと言って誰でもいい、という話でもない。その点、前述したように、みおが相手なら嬉しいことこの上ない」
「う……うー!」
「なぜ俺の頬引っ張りが再開されたのでしょうか」
「う、うっさい! そーゆーことを真顔で言うやつなんか信用できないから! とかそーゆーの!」
「そろそろ痛みで涙腺が決壊しますが、いいでしょうか」
「だから、なんでいっつも真顔なんだ!?」
「気を抜くと顔が緩み、嬉しさがはちきれるので」
「う……うーっ!!!」
「超痛いのですが」
いつまで経っても頬引っ張りは解除されそうにないようだ。みおの真っ赤な顔を見ながら、そう思った。
そんなわけで翌日、ちょっと高めのクッキーを買ってみおに渡す。
「ほい、お返し。……いや、貰ってないのだから、お返しってのはおかしいな。そうな、貢物だな。年貢?」
「人を悪代官にすんな、ばか。……で、でもそーだよな、何も渡してねーのにお返しって変だよな」
「あ、いやまあそうなんだけど、今回は俺のわがままを通してもらった形だし、気にすることはないと思うが」
「う、うっさい! オレを礼儀知らずにしたいのか!?」
「よく分からんなあ……」
「い、いーから! ……その、こ、これ」
みおが後ろ手に持っていた包みが差し出された。これは……
「……チョコレート?」
「ちっ、違うかんな!? 別に渡せなかった奴とかじゃないから! こないだ沢山買って家に余ってたの! ホントに!」
「あー……。うん。ありがと、みお」
感謝の意を込めて、みおの頭をなでる。この娘は標準より小さいので、なでやすくて俺に最適なので持って帰りてえ。
「う、うー……。お前、すぐみおの頭なでる……」
「みおさん、みおさん。一人称」
「え? ……あ、う、……うー!」
「照れ隠しに俺の頬を引っ張るのやめませんか」
「うっ、うるさいっ! 照れてなんかないもんっ!」
「しかし、そんな真っ赤な顔では信憑性が」
「うるさいうるさいうるさいっ! 文句言うぞチョコやんねーぞ!?」
「それは大変にいけない! 何も言わないのでどうか俺にチョコレートを」
「……そ、そんな欲しいの?」
「そりゃ、みおの一ヵ月ごしのバレンタインだし」
「そ、そーゆーのじゃないってば! これはみおが買いすぎて余ってただけなの!」
またしても一人称が変わってるが、言うとまた俺の頬が大変なことになるので黙っておこう。
「と、とにかく。……はい、ちょこ。あげる」
綺麗にラッピングされた包みを受け取る。なんかこれだけで生きてた甲斐があったような。
「……あ、あのさ。まじくても文句言うなよ?」
「え? あれ、これ手作り……?」
「な、なんだよ。いいじゃんか」
「や、さっき買いすぎで余ってるって」
ややあって、みおの顔が音を立てて赤くなった。
「ち、ちがーの! 間違えただけなの! 市販品だけど、まずいって有名なとこで買ったから! ホントに!」
無茶ないいわけだなあ、と思いながら改めて受け取った包みを見る。確かに綺麗にラッピングされているが、何箇所かに折り目がついていた。生まれつき不器用なコイツのことだ、何度も失敗したのだろう。
ラッピングでそれなのだから、中身は推して知るべし、か。不器用ながら一生懸命……ええい、畜生。
「う、うー……にやにやすんな、ばか!」
「嬉しいと人間はニヤニヤしちまうもんなんだ。諦めろ」
「う、うぐぐ……うー!!!」
「だから、頬を引っ張るのはやめてくれと何度言ったか」
「うるさい! みおの勝手だもん!」
もう全力で顔を赤くさせながら、俺の頬を引っ張り続けるみおだった。
だがしかし。それでも男には戦わねばならない時がある!
「具体的には記憶喪失を装い、バレンタインにチョコを貰った風で何気ない顔でホワイトデーにお返しを贈り、目当ての女の子と仲良くなるってえ寸法だ」
「……で、なんでそれをオレに言うんだ?」
放課後、学校に残ってた友人のみおに相談したら、嫌な顔をされた。
「俺の演技力では記憶喪失を装うのは難しいし、ここはひとつみおに一発殴ってもらって実際に記憶を飛ばしてみようと思ったんだ。あ! でも、飛ばすのは記憶だけで生命は留まらせていただければ幸いです」
「なんでオレがそんなのやんなくちゃいけないんだよ。一人でやってろ、ばか」
「あと、パンツとか見せてもらっても幸いです」
「言いながらオレのスカートの中に入るなっ!」
「とても居心地がいいので住みたいです」
たくさん殴られ蹴られたので、ほうほうの体で逃げ出す。
「畜生、しまぱんまでが俺を迫害する……!」
「いっ、言うなっ、ばかっ! えっち!」
真っ赤な顔で俺をなじるみおだったが、そのような台詞は俺を喜ばすばかり。
「ふふん」
「なんで誇らしげなんだよっ! う~……あのなあっ! おまえのそーゆーとこ、すっごいダメだかんなっ! 分かってんのか!? ちょっとは反省しろっ、ばかっ!」
「知ってるけど、止められないんだ。体が勝手に動いたんだ」
「痴漢常習犯の台詞だぞ!?」
「大丈夫。俺の体が勝手に機能は、みおのしまぱんにしか発動しないから」
「うっ……い、いちいち人のパンツの柄を言うなっ! ばかっ、えっち!」
「白と薄い水色のコントラストが俺の心を掴んで離さないんだ。ただ、さらにもう一歩踏み込み、ローレグにしてくれると俺嬉しくて泣いちゃうかも。……いや、うん。泣きます!」
「そんな宣言知らんっ! お前もうどっか行けっ!」
「まあそう言わないで。俺を記憶喪失にしてくれたらどっか行くから」
「勝手にやってろ!」
みおはぷりぷり怒って教室を出て行った。やりすぎたか。しょうがない、俺も帰ろうと思いながら鞄を取ろうとしたら、みおの席に鞄が置いてあるのに気づいた。
あいつ、怒りすぎてて忘れたな。俺のせいだし、持っていってやるか。
軽い駆け足で下駄箱へ急ぐ。果たして、ちょっと困ったような顔で所在なさげに立っているみおがそこにいた。恐らく鞄がないことに気づいたはいいが、怒って出て行った手前戻ることも出来ないのだろう。
「ん」
「あ……オレの鞄。……な、なんだよ、別に感謝なんかしないかんなっ!」
「か、勘違いしないでよねっ! 感謝されたくて持ってきたんじゃないからねっ!」
「どやかましいっ!」
超怒られた。
「せっかく持ってきたのに怒られて悲しいが、まあいいや。一緒に帰ろうぜ、みお」
「う、うー……わ、わーったよ」
みおとてくてく帰路に着く。
「……で?」
その途中、みおが不意に口を開いた。
「はい?」
「だ、だから。……バレンタインにさ、誰に貰いたかったんだよ、チョコ」
こちらを見ないまま、ぶっきらぼうにみおは俺に問い質した。
「誰って、まあ、別にいいじゃん」
「まあ、そだけどさ」
ややあって。
「……誰でもいいならさ、別に教えてもいいよな?」
「まあ、そうなんだけど。逆に言えば、教えなくてもいいよな?」
「……あー、もう! いーよ、もう!」
それからしばらくして。
「……な、なー?」
「ああもう。分かったよ。お前だよ、お前」
「ふぇ……っ!?」
みおの口から変な声が出た。
「だから、お前だっての。一日中わくわくしてたのに、そのそぶりすらなかったので泣く泣く帰宅したのですよ」
「う、あ、う……」
「何を口をパクパクさせてる。気絶したいほど恥ずかしいのは俺だっつーの。ふん」
顔に血が集まるのを感じたので、分からない程度に自分の顔をみおの反対に向ける。ええい。
「え、あ、いやだって、……う、嘘だろ! そーやってオレにお世辞言ってるだけだろ!」
「まあ、好きにとってくれ」
「う……うー!」
「頬を抓るな。痛いです」
「う、うっさい! ……え、えーと! あ、あのさ、お前さ、ホワイトデーにお返しを渡す相手誰もいないんだろ?」
「どこかの誰かが義理でも渡してくれなかったので、渡す権利が発生していないので。だからこそ、みおに俺が記憶喪失するように殴打してくれと頼んだんだけどな」
「なんで当の本人に頼むんだよ、ばか。……んでさ、その。……どーしてもってんなら、さ。……お、オレに渡してもいーぜ?」
慌ててみおを見る。夕日のせいだかなんだか知らないが、みおの顔はまっかっかだった。
「ちっ、違うかんな!? べ、別にそーゆーのじゃなくて、お前があんまりにも哀れだったからで! みおは全然欲しくなんてなくて! え、えーと! あ、あの、罪滅ぼし! それで!」
「みおさん、一人称、一人称」
「あっ……う、うー」
みおは興奮すると一人称がオレからみおへと変化するので、俺の好物となり危険です。
「うー!」
「なんで俺が唸られているの? そしてなんで俺の頬をつねっているの?」
「うっさい! いーから明日はオレに貢物よこせ! いーな!?」
「渡すとこの頬引っ張りは解除されるのでしょうか」
「されるから!」
「じゃあ、渡す」
「う、うん。……あ、あの、いちおー聞くけどさ、嫌々じゃないよな?」
……ここまで根掘り葉掘り聞いて、何を不安げな顔をしているかな、この娘は。
「確かに誰にもお返しできないってのは、男として矜持が許さない。だからと言って誰でもいい、という話でもない。その点、前述したように、みおが相手なら嬉しいことこの上ない」
「う……うー!」
「なぜ俺の頬引っ張りが再開されたのでしょうか」
「う、うっさい! そーゆーことを真顔で言うやつなんか信用できないから! とかそーゆーの!」
「そろそろ痛みで涙腺が決壊しますが、いいでしょうか」
「だから、なんでいっつも真顔なんだ!?」
「気を抜くと顔が緩み、嬉しさがはちきれるので」
「う……うーっ!!!」
「超痛いのですが」
いつまで経っても頬引っ張りは解除されそうにないようだ。みおの真っ赤な顔を見ながら、そう思った。
そんなわけで翌日、ちょっと高めのクッキーを買ってみおに渡す。
「ほい、お返し。……いや、貰ってないのだから、お返しってのはおかしいな。そうな、貢物だな。年貢?」
「人を悪代官にすんな、ばか。……で、でもそーだよな、何も渡してねーのにお返しって変だよな」
「あ、いやまあそうなんだけど、今回は俺のわがままを通してもらった形だし、気にすることはないと思うが」
「う、うっさい! オレを礼儀知らずにしたいのか!?」
「よく分からんなあ……」
「い、いーから! ……その、こ、これ」
みおが後ろ手に持っていた包みが差し出された。これは……
「……チョコレート?」
「ちっ、違うかんな!? 別に渡せなかった奴とかじゃないから! こないだ沢山買って家に余ってたの! ホントに!」
「あー……。うん。ありがと、みお」
感謝の意を込めて、みおの頭をなでる。この娘は標準より小さいので、なでやすくて俺に最適なので持って帰りてえ。
「う、うー……。お前、すぐみおの頭なでる……」
「みおさん、みおさん。一人称」
「え? ……あ、う、……うー!」
「照れ隠しに俺の頬を引っ張るのやめませんか」
「うっ、うるさいっ! 照れてなんかないもんっ!」
「しかし、そんな真っ赤な顔では信憑性が」
「うるさいうるさいうるさいっ! 文句言うぞチョコやんねーぞ!?」
「それは大変にいけない! 何も言わないのでどうか俺にチョコレートを」
「……そ、そんな欲しいの?」
「そりゃ、みおの一ヵ月ごしのバレンタインだし」
「そ、そーゆーのじゃないってば! これはみおが買いすぎて余ってただけなの!」
またしても一人称が変わってるが、言うとまた俺の頬が大変なことになるので黙っておこう。
「と、とにかく。……はい、ちょこ。あげる」
綺麗にラッピングされた包みを受け取る。なんかこれだけで生きてた甲斐があったような。
「……あ、あのさ。まじくても文句言うなよ?」
「え? あれ、これ手作り……?」
「な、なんだよ。いいじゃんか」
「や、さっき買いすぎで余ってるって」
ややあって、みおの顔が音を立てて赤くなった。
「ち、ちがーの! 間違えただけなの! 市販品だけど、まずいって有名なとこで買ったから! ホントに!」
無茶ないいわけだなあ、と思いながら改めて受け取った包みを見る。確かに綺麗にラッピングされているが、何箇所かに折り目がついていた。生まれつき不器用なコイツのことだ、何度も失敗したのだろう。
ラッピングでそれなのだから、中身は推して知るべし、か。不器用ながら一生懸命……ええい、畜生。
「う、うー……にやにやすんな、ばか!」
「嬉しいと人間はニヤニヤしちまうもんなんだ。諦めろ」
「う、うぐぐ……うー!!!」
「だから、頬を引っ張るのはやめてくれと何度言ったか」
「うるさい! みおの勝手だもん!」
もう全力で顔を赤くさせながら、俺の頬を引っ張り続けるみおだった。


