【亜衣 ぺとぺと妹】

2010年09月08日
 妹が欲しい。いや、違う。訂正しよう。“普通”の妹が欲しい。
「何を考え込んでるんですか、お兄ちゃん?」
 最近出来た義理の妹を見ながら、そう思う。
「いや……あの、亜衣?」
「なんですか、お兄ちゃん?」
「俺の背中から降りてはどうだろうか」
 先ほどから俺の背中にべたーっと張り付いている義妹に優しく語り掛けてみる。
「嫌です。今は亜衣のお兄ちゃん引っ付きタイムなので、降りられません」
「そんな時間はないのですが」
「んー……まあいいです。んしょっと」
 亜衣は俺の背中から降りると、今度は俺の前に回りこんできて俺の手を取った。
「亜衣を抱っこしますか? いいですよ? はい、抱っこ」
「いやいや、いやいやいや。そんなの望んでません」
「望んでください」
 一体兄に何を求めているのだ、この義妹は。
「あのな、亜衣。確かに俺たちゃ兄妹になった。でも、だからって、四六時中一緒にいるのはおかしいと思わないか?」
 なぜかは知らないが顔を合わせた瞬間に大変気に入られ、それからずっと亜衣は俺と一緒にいようとする。
「亜衣はずっとずっとお兄ちゃんが欲しかったんです。半ば諦めていた頃にお母さんが再婚して降って湧いたお兄ちゃんに、亜衣は興奮を隠せませんでした。そして出会ったお兄ちゃんは、亜衣の理想のお兄ちゃん像にピタリ一致していて、亜衣の興奮は有頂天に達したのです」
「全体を通して分かったことは、頭が悪いことくらいですね」
「そういう意地が悪いことをさらっと言うところもポイント高いです」
 何を言っても気に入られるビクンビクン悔しいでも(ry
「クリムゾンですか?」
「人の思考を読まないで!」
「妹にかかればお手の物です。ふふん。……褒めますか?」
「褒めません」
「残念です……」
「…………」(なでなで)
 悲しそうだったので、思わず頭をなでてしまう俺は弱い人間だと思う。
「こういうところもポイント高いです」
「ええい。ていうかいうかていうかだな、一応俺と亜衣は兄妹なので仲が良いのは問題ないが、その仲が過剰なのは色々と問題があるのではなくって?」
「お兄ちゃんの秘蔵の本によると、兄妹仲が過剰によいのは何ら問題ないようです。むしろ、推奨されてます」
「馬鹿な!!!!?」
 幾重のダミーに守られているはずの、俺の、俺の『大人になる呪文』が、どうして亜衣の手の平に!?
「しかし、この本の妹に対し、私は中学生なので少々成長しすぎです。問題ありますか?」
「いや年齢も体つきもまだまだ余裕で俺の射程範囲内なので全く問題ありませんじゃなくって!」
「ノリツッコミです……♪」
 何をそんなに喜んでいる。
「ええいっ、いいから返せ!」
 とにかく、亜衣から本を奪い返す。
「あっ。全くもー、お兄ちゃんは乱暴です。横暴です。大好きです」
「なんか混じってる!」
「キスしますか?」
「甘えのベクトルがおかしい! 仮に甘えるとしても、兄に甘えるのであればもうちょっと、こう、緩いものだろう!?」
「初めてのお兄ちゃんなので、どこまでいったらいいのか分からないんです」
「ん……ま、まあ、それはしょうがないな。適宜言うしかないか」
「じゃあ、キスしましょう」
「いきなり間違ってるッ!」
 がぶあっと抱きついてきたので、全力で抵抗する。
「ぐぐぐ……キスします、キスします!」
「しないから! しないから!」
 おでこを押さえつけ、妹の魔の手を防ぐ。ややあって諦めたのか、亜衣はぺたりと座り込んで頬を膨らました。
「ぶー」
「ぶーじゃねえ。あのな、亜衣。さういうことは、好きな人にしなさい」
「亜衣はお兄ちゃんが大好きですよ?」
「いやいや、いやいやいや。そうじゃなくてだな、異性として好きな人に対してすることで」
「亜衣はいつだってお兄ちゃんを性的な目で見てますよ?」
「それはそれで色々問題があるかと思いますが!」
「寝てる間にちゅーとかしていいですか?」
「ダメです!」
「じゃあやっぱり起きてる間に無理やりするしかないです」
 再び寄ってきたのでぐぐぐっと抵抗する。
「キスします! させてください!」
「ダメだっての! ええい、なんでお前はやること全部力技なんだ!」
「ほっぺたで! ほっぺたで我慢しますから!」
「……本当だな?」
 コクコクと嬉しそうにうなずいたので、ひとまず信じてみることにする。
「あー……じゃあ、まあ、それならいいや。ほれ、ぶちゅーっとしろ」
「亜衣にお任せです」
 亜衣は俺の前に回りこむと、ぶちゅー。
「ほっぺって言ったろーが!!!」
 慌てて亜衣を引き離す。超びっくりした。
「ああっ、まだ舌を入れてないのに」
「入れるな!!! はぁ……全く、最近の若い子は慣れてるのだか知らないが、恥じらいがなくて困るよ」
「あ、ファーストキスですよ?」
「…………。……そ、そうか」
「お兄ちゃん、照れてます?」
「あー……まあ、人並み程度には」
「お兄ちゃんの恥ずかしがる姿に、亜衣はすっごくドキドキしてますよ? どうしてくれますか?」
「知らんッ!」
 ぺとぺとくっついてくる義妹に困る俺だった。

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【寝癖が直らない沙夜】

2010年09月04日
 寝てると神が降臨。
「…………」(くいくい、くいくい)
 ではなく、幼なじみの沙夜が降臨。くいくいと布団を引っ張っているところから察するに、起こしにきたらしい。
「……んん、んあ。……ああ、もう朝か。早いなあ。眠いなあ。よし、今日は学校休もう」
 そうと決まればもう一度布団を被りなおし寝なおそうと思ったら、再び布団をくいくい引っ張る感覚。
「…………」(くいくい、くいくい)
 薄く目を開けると、沙夜が少し困った顔をしながら布団をくいくい引っ張っていた。
「うーん。起きなきゃダメか?」
「…………」(こくこく)
「沙夜がちゅーしてくれたら起きる」
 沙夜は少し困った顔をした。
「しないなら寝る」
 そう言って目をつむるが、少し薄目を開けておく。
 沙夜はほんの少し逡巡した後、薄く頬を染め、ゆっくり顔をこちらに近づけた。充分引き付けてから、おでこに頭突きをかます。
「…………」
 沙夜は片手でおでこを押さえ、不満げに俺をにらんだ。
「こんな簡単な罠にはまる己の無能さを恨むがいい。ふわーっはっはっは!」
 朝から大声で笑ったせいで目が覚めてしまった。しょうがない、起きるか。
「…………」(がぶがぶ)
 沙夜に左手を噛まれたまま居間へ。母さんが俺と沙夜を見て呆れたように息を吐いた。
「アンタまた沙夜ちゃん怒らせたの?」
「沙夜が馬鹿だからしょうがないんだ」
「…………」(がぶがぶがぶ)
 俺の手が受ける痛みが増加した。
「沙夜、そろそろ血が出るのでやめてくれると大変嬉しい」
「…………」(じーっ)
 何か言いたげに、沙夜は俺の手を咥えたままこちらをじっと見た。
「……ええと。馬鹿呼ばわりしてごめんなさい」
 一応は謝ったのだが、未だ俺の手は沙夜の歯が食い込んだままだ。はて。
「……ああ! それと、沙夜。毎日起こしてくれてありがとうな。感謝してる」
 これで満足したのか、ようやっと沙夜は俺の手を離してくれた。涎やら歯形やらで大変なことになっているが、とにかく痛みからは解放された。やれやれだ。
 沙夜は俺の手をぺろぺろ舐めて治すと、隣の椅子に座り、食卓に置かれた焼きたてのパンに手を伸ばした。俺もいただく。
「うん。今日もうちのパンはうまい」
「…………」(こくこく)
「特売で買ってきたパンなのに……安上がりな息子と嫁で大助かりよ」
「結婚した覚えはないのですが」
「…………」(こくこく)
 俺と沙夜の抗議を全く気にせず、母さんはテレビを見るばかり。
「まあいいか。しょうがないので結婚しようか、沙夜」
 母さんの間違いを正解にすべく、沙夜の手を取ってプロポーズしてみる。
「…………」(こくこく)
「受け入れるな。冗談だ」
 沙夜の顔が残念そうなものへと変化していった。
 そんなこんなで飯も食い終わり、沙夜と一緒に登校。
「……ん?」
 いつものようにだらだら歩いてると、沙夜の髪がはねてることに気づいた。
「沙夜、頭」
 そう言うと、沙夜は何の躊躇もなく俺に頭突きをしてきた。鎖骨折れるかと思った。
「違う、誰もいきなり頭突きをしろなんて言ってない。髪がはねてるぞ」
 そう言われて初めて沙夜は自分の頭を触った。頭の丁度真ん中、つむじあたりの髪が一本重力に逆らうように天にそびえ立っていた。
「アホ毛みたいで素敵ですね」
 沙夜は不満げに俺を睨んだあと、両手でぎゅーっと髪を押さえつけた。しかし、そんなもので寝癖が直るはずもなく、手を離すとすぐにまたぴょこんと髪が立ち上がった。
「…………」
 直ってないと知り、沙夜は少し悲しそうな顔をした。
「大丈夫だ、沙夜。俺に任せろ」
 沙夜の頭に手を置き、むぎゅーっと押さえる。
「!!?」
 力が強すぎたのか、沙夜がゆっくりと沈んでいった。
「あ、すまん」
「…………」(がぶがぶ)
「不可抗力なので、噛まないでいただけると何かと助かります」
 しかし、沙夜は噛むのをやめない。しょうがないので左手を噛まれたまま、今度はそれなりに力を調整して沙夜の頭をぎゅっと押さえる。
 しばらく押さえた後、そっと手を離す。やはり髪がぴょこんと立ち上がった。
「うーん。一度帰って濡れタオルか何かで直すか? でも今から戻ったら遅刻確定だしなあ……」
「……!」
 何か閃いたのか、沙夜は俺の手を取って自分の頭へ誘った。そして、ぽふりと頭に手を置いた。
「ほう。それで?」
 沙夜は俺の手を左右に動かした。そして、小さくうなずいた。
「ええと、頭をなでる運動により寝癖を粉砕する、ってことか?」
「…………」(こくこく)
「俺の気のせいでなければ、なでられたいだけでは」
「…………」(こくこく)
 肯定されるとは思わなかった。しょうがないので沙夜の頭をなでる。
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
 何そのうなずき。そして何この一連の動作。
「でもまあ楽しいからいいか!」
「…………」(こくこくこく)
 そんな感じで道端で足を止めて沙夜の頭をなで続けてたので、遅刻した。
「…………」(がぶがぶ)
「俺のせいじゃないのに」
 沙夜に手を噛まれながら校門をくぐる俺たちだった。

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【留美 押しかけにゃー】

2010年08月17日
 このところ暑いのでおうちでうんだりしてる毎日なのですが、そんな平穏な日常を脅かす魔の手が俺の元へ忍び寄ろうとしていた。
「暑いっ!」
 ていうか早速来た。魔の手が。
「あの。留美さん、いきなりなんの御用でせうか」
「夏休み入ってからずーっと待っ……じゃない、アンタがあたしの家に突然来るかもしんないって思うと落ち着かないから、あたしから来てやったのよ! 感謝しなさいよね!」
 この魔の手は留美といい、俺のクラスメートだ。高校に入ってからずっと同じクラスで、俺の自意識過剰でなければそこそこ仲がいいと思う。のだけど。
「あの、留美さん。行かないから。用事とかないから」
「来なさいよっ! 落ち着かないじゃない!」
「行ったら行ったで文句言うだろ」
「言うに決まってるじゃない」
 どうしろと言うのだ。
「それより! 折角来てやったんだから、あたしを楽しませなさいよ。アンタあたしの奴隷なんだから、いつ何時でもあたしを楽しませなきゃダメなんだからね?」
「はい?」
「奴隷よ、奴隷! 言っとくけど、永続契約だから解除とかはないからね!」
「何を言ってるのですか。暑いからですか。それとは関係ナシに頭がダメなのですか」
「むーっ!」
 むーと言われつつ頬をつねられていると、ふと思い出した。
 一年ほど前、こいつと一緒にゲームして遊んでたとき、戯れに賭けをして、勝った奴が負けた奴を奴隷にできる、というゲームをした。そして俺は負け、奴隷になってしまった。で、その契約はまだ継続している、らしい。
「ほら、楽しませなさいよ。アンタ奴隷でしょ?」
「なんてめんどくさい奴だ」
「うるさい! 暇になっちゃったんだから、何かして楽しませなさいよ!」
「ああ、そういうことか。んじゃ、どっか遊び行くか?」
「えっ、そ、それって、デー……ト?」
 留美は手をこしょこしょと結び合わせ、上目遣いで俺を見た。
「いや、んな大層なものではないけれども」
「…………。ふ、ふん! それは嬉しい限りね! 誰がアンタなんかと遊びになんて行くもんですか! 調子に乗らないでよね! ばか、ばーか!」
「やっぱデートかも」
「うっ……で、でも、どーしてもあたしと一緒に遊びたいなら、あんまりにもアンタが哀れだから遊んであげなくも」
「いや、やっぱデートではない」
「…………。もーっ! 人で遊ばないの! いーから一緒に遊びなさいっ!」
「いいけど、暑いから外に行くのは嫌だ。おうちで遊ぶならいい」
「え? ……こ、こんな狭い場所で、ふたりっきり?」
 留美はほんのり頬を染め、きょろきょろと周囲を窺いつつ確かめた。
「そう。もし嫌ならもうちょっと涼しい日に改めてどこかへ遊びに行きますが」
「ううんっ! ここで! 今日! 一緒に! 遊ぶの!」
「そ、そうか」
 あまりの勢いに、少したじろぐ。
「あっ! ……べ、別にアンタと一緒で嬉しいとかじゃないからねっ! そこ、勘違いしたら殺すからねっ!」
「はぁ」
「……で、でもちょこっとだけの勘違いならゆるす」
 何がだ。
「そ、それより! 一体何をしてこのあたしを楽しませてくれるって言うの?」
「何も考えていません」
「はぁ? そんなのでよくもまああたしを誘ったものね。何考えてんだか」
「誘ってません。勝手に押しかけられました」
「……そ、それはともかくとして」
 ともかくとするな。
「じゃ、じゃあ、あたしの考えた遊び、する?」
「まあ、いいけど」

「……遊び?」
「そ、そうよ。何か変なことでも?」
 留美の考えた遊びとは、俺が留美を前から抱っこして時折頭をなでること、らしい。
「遊びではないよね。ていうか、対面座位だよね」
「? なにそれ」
「……いや、なんでもない」
 思ったより性の知識がなくてお兄さん安心しました。
「それより、この体勢はどうかと思うぞ。なんちうか、恋人同士が抱き合ってるように見えるような」
「あ、アンタの身勝手な恋人論なんてどうでもいいの! それより、手が空いてるわよ?」
「はぁ」
 指摘されたので、とりあえず留美の頭をよしよしなでる。
「もっと」
 もうちょっとなでる。
「もっと! もっといっぱい!」
 たくさん望まれたのでたくさんなでる。
「そ、そう。そんな感じ。……で、でも、もちょっと」
 言われた通りにもっとなでる。なでる合間に頭をごく軽く、ぽんぽん叩いたりとかもしてみる。
「へへ……えへへ。えへへぇ」
「留美の言語野がおかしくなった。しかしこの暑さだ、留美だけを責めるのは酷か」
「おかしくなってないっ! ……そ、それよりさ。アレだったら頭だけじゃなくて、他のとこもなでていーから」
「胸かっ!」
「言うと思ったわよ、変態っ! ……そ、そゆとこじゃなくて、ほっぺたとか、おなかとか」
「お尻とか!」
「今日も変態っ!」
 変態扱いされ悲しいので、乳やら尻やらは置いといて、ほっぺをなでたりふにふにしたり両手で挟み込んだりしてみる。
「……あ、アンタってばホントーにあたしを触るの好きよね。ほっぺなでる手つきとか、いやらしーもん」
「あー。お前触ってると気持ちいいからそうなっちゃうのかな」
「……へ、へんたい」
 留美は俺をなじりながらも、ほっぺをうにうにされて気持ちよさそうに目を細めていた。
「留美って猫みたいだな。にゃーとか鳴け」
「誰が鳴くもんですか!」
「ほら、にゃーだ。にゃー」
「い、言わないってば」
「にゃーって言って。ほら、留美。にゃー」
「……にゃ、にゃー」
「留美は簡単だな」
「にゃー!」
 にゃーぱんちが飛んできて痛い。
「痛いのですが」
「人を馬鹿にした罰よ。ふん、だ」
「いや、人を猫にしたんだ。だから、人を猫にする罰にしろ」
「にゃー!」
 再びにゃーぱんちが飛んできてやっぱり痛い。
「一緒なのですが」
「人を猫にするからよ。がうがう」
「食うな」
 留美は俺の肩に口をつけ、あむあむ軽く噛んだ。
「あう……なんかしょっぱい」
 しかし、すぐに俺から口を離すと、留美は顔をしかめさせながら舌を出した。
「汗かいたからな。それも已む無しだ」
「しゃざいとばいしょーをようきゅーするにだー」
「ふむ。じゃ、今度どっか一緒に出かけたときに何か買ってやるよ。安いの」
「最後に何か変なのついた! 高いのが欲しい!」
「俺と一緒にいる限り、高級品とは縁がないものと思え! ふわーっはっはっは!」
「あぅー……なんて甲斐性のない奴だ。こんなで将来だいじょぶかなあ」
「将来?」
「ん? ……ち、違くて! 別にアンタと一緒の未来なんて想像なんてしてないし! そんなの考えるだけでもおえーって感じだし! 子供は二人くらい欲しいし!」
 留美は顔を真っ赤にさせながらあわあわと抗弁した。ていうか、なんか混じってる。混乱しすぎだ。
「そ、そゆことだから。勘違いしたらにゃーだからね!?」
「それは大変に怖いので勘違いしません」
「そ、それならいい。……で、でも、1ミリくらいなら勘違いゆるす」
 何をだ、と思いながらぶすーっとしてる留美のほっぺをむにむにする俺だった。

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【犬子 幼なじみ風味】

2010年07月16日
 俺には幼なじみがいない。いや、厳密に言うといるのだけど、野郎なので却下。男の娘なら許可。……いや、むしろ!
「あ、あの、符長くん? どしたの、にやにやして」
 男の娘幼なじみとの愛ある生活を想像してたら、俺のにやにや顔に興味を引かれたのか、犬子がひょこひょこやって来たのでびっくりした符長彰人ですこんにちは。……む、脳内こんにちはが発生した! でもまあいいや。
「いや、ちょっと未開発の菊を」
「へ?」
 いかん。いくら相手が犬子とはいえ、さすがに男の娘はレベルが高すぎるだろう。
「あー、なんでもない。あ、そうだ! 良いことを思いついたのでそれに付き合え」
「唐突ながら、とっても嫌な予感がするよ……」
「大丈夫だ。俺は問題ない」
「私が問題あるの!」
「それで、思いついたことなんだが」
「今日も話を聞いてないよ……」
 何やらがっくりした顔が目の前にあるが、そういう類の顔とはよくエンカウントするので気にせず話を進める。
「俺には幼なじみがいないんだ。でも、ギャルゲやエロゲにはほぼ標準でいるだろ? それが羨ましくってしょうがないから、明日だけでいいから、お前は俺の幼なじみだ」
「え?」
「だから、朝起こしに来い。飯も作れ。いつも綺麗でいろ。出来る範囲でいいから」
「途中から関白宣言になってるよ、符長くん!」
「しまった、さだまさしの亡霊が俺に乗り移ったか」
「絶賛存命中だよっ!」
「じゃあ生霊が乗り移ったんだな」
「もうそれでいいよ……」
 諦められた。根性ナシめ。
「それで、えっと……朝起こしに行って、ご飯作ってほしいってことなのカナ?」
「簡単に言うと、そうなんだ。でも、よく考えると非常識極まりないことに気づいたのでやっぱいいや」
「ん~……でも、してほしいんだよね?」
「それは、まあ」
 幼なじみに起こされる。それは思春期の男子であらば誰しもが憧れる夢であろう。もしくは姉とか妹とかメイドとかネコミミ少女とか魔法少女とかスク水少女とか武家少女とか。
「……いや、朝から刀持った奴に起こされるのはちょっとアレだな。というか後半おかしいな」
「うん?」
「ああ、こっちの話」
「ふぅん? ……あの、あのね。もし符長くんさえよかったら、私、起こしに行ってもいいよ?」
「マジか!? いやさすがは犬子、持つべきものは忠犬だな」
「今日も犬扱いだよ……」
 悲しそうだったので頭なでてあげた。
「え、えへへ?」
 疑問系扱いながらも嬉しそうになったので、よかったと思った。

 そんなわけで、翌日。起こしに来るというので目覚ましをセットせずに寝てたら、何者かが優しく俺を揺り起こしている感覚が。
「お、おはよっ、符長くんっ。あ、朝だよっ?」
 緊張しているのか、声が裏返っている。しかし、その程度のおもしろ起こしでは俺は起きない。ていうか本当は起きてて目をつむってるだけなんだけど。
「え、えと、なんて言うのかな……あ、そだ。んと、は、早くしないと学校遅れるよ?」
「zzz」
「うぅ、ダメかぁ……あ、あのね、符長くん。早く起きてくれないと、ご飯が冷めちゃうよ?」
「zzz」
「うー、zしか返ってこないよ……。あ、あのね、あのね。今日の朝ごはんはね、ご飯とー、お味噌汁とー、玉子焼きだよ? だから早く起きてよ。ねー、ねーってば」
「zzz幼なじみは起こしにきたものの、一緒に寝てしまうのが相場だzzz」
「明らかに起きて指示してるよぉ……。で、でも、その、あの、そうやったら符長くん起きる?」
「起きるzzz」
「意思の疎通ができてる状態を寝てるっていうのか疑問だけど……わ、分かった。私、頑張る。頑張って、符長くんと一緒に寝る!」
「ふしだらな犬だなあzzz」
「そういう意味じゃないよ!? い、いっしょにぐーぐー寝るだけで、えっちなことはしないんだよ!?」
「ちっ」
「うう……符長くんのえっち。あと、zzzがついてないよ?」
「めんどくさいんだ。脳内で追加しといてくれ」
「明らかに起きてるよ……。じゃ、そ、その、ね、寝るからちょっとスペース空けて?」
 お願いされたので、ベッドをごろごろ転がってスペースを開けたら壁とベッドの隙間に落ちた。
「わっ、符長くんが消えた!? 手品?」
「消えてません。隙間に落ちたのです。助けて」
「わ、分かったよ! ……わっ、わっ! 符長くんが面白いかっこうで挟まってるよ!」
 朝から辱めを受けたが、どうにか犬子に救出してもらい、事なきを得る。
「ふぅ……死ぬかと思った」
「どうして起きるだけで死にかけられるの?」
「うるさい。んじゃ、続き。寝るので俺の隣に寝るように」
「もう起きてるよ?」
 犬子がにこにこ笑いながら俺の頬を無遠慮にぺちぺち触ってきたので、お返しとばかりに頭をもふもふする。
「えへへっ。おはよう、符長くん?」
「一見起きていますが、実は夢遊病で本当は寝てるんだ。幼なじみが隣で眠り、それに気づかなけれ起きられないんだ」
「今までどうやって起きてたの?」
「今までずっと夢遊病で生活してたんだ」
「そっちの方がすごいよ!」
「そんなわけで、初の起床をしたいのでお願いします」
「明らかに嘘だよ……」
 信じられる所が一切ない言い訳を繰り出した後、俺は再びベッドに横になって犬子を待った。
「うー……私が寝たら、本当に起きる?」
「起きること請け合い」
「……じゃ、じゃあ、寝てあげる。でっ、でも、えっちなことはダメだよ!?」
「しないしない、犬子が相手なのにするわけがない」
「それはそれで女心がずたずただよ!」
「じゃあ乳も揉むし、尻も触るし、ちゅーもする」
「極端だよ、符長くん!」
 一体どうしろというのだ。
「あ、あのね? 抱っこくらいならいーよ? それでね、それでね? そのあとにね、優しーく頭なでたりとかー、甘ーい言葉とかー、……ね?」
「…………」
 薄目を開けて犬子をじーっと見る。
「たっ、例えばだよ、例えば!? 私がそーゆーのしてほしいとかじゃなくって!?」
「……ああ、うん。そだな」
「ううう……優しい声と視線がいっそ辛いよ……」
「とにかく、寝れ。犬子が嫌がるようなことはしないから」
「…………。そだね、そだったね。符長くんは優しいから、私が悲しむようなことはしないもんね?」
「今日も犬子は俺という人間を誤認識しているようだな」
「えへへー。符長くんはいっぱい優しいけど、いっぱい恥ずかしがりやさんだもんね?」
「黙らないと犯す」
「思ったより怖かった!?」
「それが嫌なら一緒に寝ろ。もしくは通報しろ」
「なんで通報を自ら仕向けるのか分かんないけど……寝るのはいいよ?」
「ふしだらな犬だなあ」
「話がループしてるよっ!」
 今日も俺は時空の歪みに迷い込みがちです。
「うぅ~……じゃ、じゃあ、寝るから、えっちなことしちゃだめだよ?」
「任せろ、得意だ」
「一切信用できない台詞が飛び出したよぉ……」
 ぶちぶち言いながらも、犬子は俺の隣にそっと身体を横たえた。
「お、お邪魔します!」
「そんな緊張して寝る奴がいるか」
「だ、だって、緊張するに決まってるよ! め、目の前に符長くんの顔があるんだもん!」
「ああ、これは失敬。すぐに身体をずらし、犬子の目の前に尻を突き出すからそれまで我慢してくれ」
「どうしてそれで緊張がほぐれるって思うんだろ……?」
 不思議そうだったので、尻移動はやめる。
「……あれ? なんか緊張ほぐれちゃった。へへー、やっぱ符長くんはすごいね?」
「犬子と一緒の布団にいるだなんて、まるで新婚初夜のようでドキドキするなあ」
「緊張がぶり返したよ! わざと言ったに違いないよ! は、はうううう!?」
 見る間に犬子の顔が赤くなっていったので大変愉快。
「まあそう緊張するな。痛いのは最初だけという話だぞ?」
「明らかに初夜の話だよ、符長くん!」
「じゃあさういうわけで、寝るのでお前も思わず寝るように」
「緊張真っ最中なのに、寝れるわけないよ!」
「むぅ。……ええと、実は緊張が解れるであろう手段を保持しているのですが、少々お前の身体に触れてしまうのだけど、どうだろう?」
「少々って……どのくらい?」
「妊娠する程度」
「超お断りだよ!」
 ものすごく手をNOな感じにされた。
「冗談です。ちょっと抱っこする程度です」
「……抱っこ?」
 ぴたり、と犬子の動きが止まった。
「……あの、むぎゅーってするやつ?」
「むぎゅーという擬音が似合う技を抱っこ以外保持していないので分からないけど、たぶんそれだと思います」
「……え、えと。あのね、いいよ、抱っこ? ほ、ほら、緊張を解すためだし?」
「なんか既に解れてませんか」
「そっ、そんなことないよ!? ほ、ほら、すっごく緊張してるもん! ほーら、びりびりびり!」
「ひぃ、漏電!」
「緊張でぷるぷる震えてるだけだよ、符長くん!」
「なんだ。まあともかくやるので覚悟はよろしいか?」
「うっ、うん」
 なんかカクカクしてる犬子の頭を、むぎゅっと抱きしめる。
「ふわ、ふわわ!?」
 そして、その頭を自分の胸に押し付ける。
「……え、えと?」
「こうやって心音を聞かせることにより、落ち着くんじゃないカナ落ち着くんじゃないカナ」
「なんで二回言ったのか分かんないけど……聞こえないよ?」
「じゃあもう俺は死んでるんだよ」
「符長くんが!?」
「あ、しまった。こっちだ、こっち」
 犬子の頭を右胸から左胸へ移動させる。
「よ、よかった、とっくんとっくん鳴ってるよ。……もー、びっくりして私の心臓が止まるかと思ったよ」
「大丈夫だ。知り合いに墓石屋がいるから、安く作ってもらえるぞ」
「誰もそんな心配してないのに……」
「わはは。んで、どうだ? ちったあ落ち着いたか?」
「ん、んと……ちょっと待ってね」
 犬子は俺の胸に耳を押し付け、目をつむった。そして、深く呼吸しだした。
「……ふぅ。あ、ホントになんか落ち着いちゃった。すごいね、符長くん?」
「カナ坊シナリオで身につけた技だ」
「金棒?」
 理解していないようだが、まあいいや。もう大丈夫なようなので、犬子から身体を離す。
「落ち着いたようなので、そろそろ俺を起こし」
「あっ! ま、またドキドキしてきちゃったよ! だ、だから、もーちょっと抱っこしてもらわないとダメ、みたいな……?」
「…………」
「え、えと……ダメかな?」
 そんなおあずけを喰らった犬みたいな表情をされて、一体誰が断れようか。
「……5分だけな」
「うんっ、うんっ!」
 嬉しそうな犬子を再び抱っこする。
「えへへー♪」
 犬子はニコニコ笑いながら俺の顔をぺたぺた触りだした。
「寝るのではないのか」
「そうなんだけど……なんかね、近くが嬉しいの♪」
「…………」
「ふっ、深い意味はないけれどもだよ!?」
「あ、ああ。そうだな」
「う、ううー……」
「そう尻を赤くして威嚇するな」
「顔を赤くしてるんだよ! 照れてるの! 犬どころか猿扱いになっちゃったよ!」
「別に奴らは威嚇のために赤くしているわけではないと思うが」
「なんでもいーの!」
 誤魔化すように、犬子はむぎゅっと俺に抱きついた。その背に手を添え、こちらからも抱っこする。
「……ふぅ。……符長くんに抱っこされてると、なんかほんとーに落ち着くなー」
「む、落ち着いたのだな?」
「起こすレベルまではいかないけど! 落ち着くなーっていう話!」
「…………」
「え、えへへ?」
 罪悪感があるようなので、まあよしとしよう。犬子の頭をわしわしとなでながらそう思った。

 が、それも少しの時間なら、の話。
「なんで本格的に寝ちまうんだ!」
「だ、だって、だって!」
「もう12時だぞ、12時! 昼過ぎてる!」
「う、ううううう~! そ、そんなこと言っても、符長くんも責任はあるよ、責任重大だよ! ずーっと私の頭優しくなでてたもん! そりゃ気持ちよくってぐーぐー寝ちゃうよ!」
「イヌミミ検査をしていただけだ。そして、その最中に誤って二度寝しただけだ」
「髪だもん! イヌミミなんかじゃないもん! 二度寝しちゃった人には私を責める権限ないもん!」
 などと言い合いながら、学校までの道のりを走る俺たちだった。

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【犬子 名前間違い】

2010年07月10日
「符丁くん符丁くん!」
「…………」
「あれ? あの……符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
 ぐわしっと犬子の顔を鷲掴みする。
「えええっ!?」
「俺の名は符長彰人だ。分かったら繰り返せ」
「ふ、ふながあきと!」
「貴様、人の名をフルネームで呼ぶとはいい度胸だ!」
「もはや言いがかりだよ、符長くん!」
「ごめんね」
「しかも情緒不安定だよ。脳の病気なの?」
「…………」
 無言で指に力を込める。いわゆるアイアンクロー。
「あれっ? 痛いっ、痛い痛い痛い!? 痛いよ符長くん!」
「かわいそうだと思いました」
「明らかに他人事だよ!?」
 何やらびっくりしてる犬子だった。ので、解放してあげた。
「うぅ~。ひどいよ符長くん!」
「今の俺は符丁だから仕方ないんだ」
「全くもって意味が分からないよ、符長くん! ……いや、符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
 ぐわしゃっと犬子の顔を鷲掴みする。
「うわわっ!? 何やら策にはまった気がするよ!」
 策にはめて満足したので解放する。
「ううう……でも痛いは痛いよ。ひどいよ符長くん!」
「ごめんね」(なでなで)
「わふー……」
「この生物は尻をなでるとわふーと鳴きます」
「酷い言いがかりを!? 頭をなでられたんだよ!」
「犬子わふたー。む、どうにも語呂が悪いな」
「今日もちっとも話を聞いてくれないよ……」
 がっくり気味の犬子だった。

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