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2017年12月11日
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【蜘蛛っ娘】

2011年08月23日
 昔、それは小さな蜘蛛を助けた記憶がある。善意ではない、ただの気紛れだ。
 その蜘蛛が今、恩返しと称し、我が家の玄関先に、人の姿で立っている。
「あっ、この姿はですね、神さまに人にしてもらったんです! えへへっ、どうですか? かわいいですか?」
 少女はくるりとその場を回り、私に容姿の論評を求めた。だが、そういったことを批評するのは苦手だ。
「あ、ああ。可愛いのではないだろうか」
 なんとかそれだけ搾り出す。まったく、慣れない事はするものではない。
「やたっ♪ えへへー、ありがとーございます、おにーさん!」
「や、それはいいんだが……」
「?」
 少女は不思議そうに私を見つめている。
「その、なんだ。恐らくだが、君は家出か何かしたのだろう? それを誤魔化すのに、恩返しに来た蜘蛛というのは、少々無理がないだろうか」
「むーっ! 違います、本当に蜘蛛ですっ! 昔、おにーさんに命を救われた蜘蛛なんですっ!」
 少女は頬を膨らませ、必死に抗議した。しかし、そう言われても、はいそうですかと首肯するわけにはいかない。
「いや、しかしだな……」
「おにーさんは頭が固いです! もっとじゅーなんに生きた方がいいと思います!」
「初対面の女性が蜘蛛だと信じる方が難しいと私には思えるが」
「もーっ! とーにーかーく! そうなんです! いーから信じてください!」
「ふむ……」
 ここまで頑なに言い張るとは、本当に蜘蛛なのだろうか。もし本当に家出少女なら、もう少しマシな理由を言うような気がする。
「……あー、信じ難いが、本当の本当に、君は蜘蛛なのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないですか。おにーさんは頭が本当に固いですね」
「……まあ、いい。君が蜘蛛だと仮定しよう。だが、恩を返されるほどのことをした覚えはない」
「そんなことないですっ! もしあの時おにーさんに助けられなかったら、今頃私は鳥さんに食べられてます! ぱくぱくーって!」
 それがさも大事であるかのように、蜘蛛だと言い張る少女は両手をあげつつ、口を大きく開けた。
「そうか。それは鳥にとっては災難だったな」
「私にとっては大幸運ですっ! おかげさまで、こーして人間になり、おにーさんに恩返しすることができますっ!」
「ふむ。しかし、恩返しと言われても、私は何をされればいいのだ? 君を我が家に住まわせ、反物を作るのを待てばいいのか?」
「あ、そーゆーのはできません」
「……では?」
「おにーさんのお嫁さんになりますっ!」
「ぶっ」
「おにーさん? どしたんですか? あっ、だいじょぶですよ、ちゃんと神さまのところで炊事洗濯はばっちり練習しました! 神れべるです! 神さまのとこで練習しただけに! だーけーにっ!」
 自信満々な表情がやけに腹が立つ。頬を引っ張ってやれ。
「あふふー」
「うむ。いや、そうじゃない。人生の伴侶を決めるのに、恩を使うのはどうだろうか。君の親御さんも悲しむぞ」
「はぁ……」
「というわけで、帰りなさい」
 少女を回れ右させ、背中を押す。面倒事は御免だ。
「わ、わ! ダメです、帰りません! というか、帰る場所なんてないです!」
「え」
「だって、私、蜘蛛でしたもん。家なんてもうないです」
 そうだ。彼女の言を信じるのであれば、彼女は蜘蛛だったのだ。帰る場所なんてどこにもない。
 ……もっとも、家出少女という一番可能性が高い選択肢を視野に入れないのであれば、という話ではあるが。
「……ふぅ。お嫁さんとか、そういうのはナシでいいのであれば、しばらく家に置いてやらなくもない」
「それは超困りますっ! お嫁さんがいいです! おにーさんの嫁に! 是非嫁に!」
 とても困った。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「……あっ、それともおにーさんは、男の人じゃないとダメな人なんですか?」
「女性は殴らない主義だが、その主義を破る時が来たようだ」
「あっ、違います違います! だって、私みたいなかわいい美少女が来たっていうのに、何もしないなんておかしいですよ! おかしいですよカテジナさん!」
「かわいいと美少女は意味がかぶっている。そして私はカテジナではない」
「あっ、すいません! 神さまのところで見たアニメが面白かったので、つい!」
 神は私が想像してるより俗っぽいようだ。
「……私はまだ学生だ。君を養う甲斐性などない。そして、君という人間のこともよく知らない。以上が、君を嫁にしない理由だ」
「私のことは、これから知ればいいんです! 社会人になれば養えます!」
 二言で論破された。
「……いや、しかし」
「しかしじゃないです! こんな据え膳食べないなんて男の風上にも置けませんっ! しかも、私はおにーさんの大好きなロリ体型です! さらに言うなら、年齢1歳です! もー超ロリです!」
「どうして私の性癖を知っている」
 背中を汗が伝う。これは非常にまずい。
「神さまのパソコンには、ありとあらゆることが載ってるんです! 分からないことなんて何もないです!」
「……分かった。分かったから、とりあえず家にあがれ。近所迷惑だ」
「やった! 嫁、嫁!」
「嫁じゃない」
 小躍りしながら家に入る蜘蛛少女にため息をつきつつ、玄関を閉める。
「えへへー、ここがおにーさんと私の愛の巣ですね? 糸を張り巡らしますか?」
「巡らせなくていい。というか、君はまだ糸が出るのか?」
「……どうなんでしょう? えいっ」
 少女が手を向けた先に、白い糸がべちゃりと付着した。その糸は、少女の手から放たれている。
「わ、出ました! すぱいだーまんみたいです! スパイダーマッ!」
 ……驚いた。彼女は、本当の本当に蜘蛛だったようだ。それはさておき。
「人の部屋を汚すな」
「すり替えておいたのさ!」
 やたら嬉しそうに決めポーズらしきものをしている少女を置いて、壁に付着した糸を剥がす。……むぅ、ベタベタしていて剥がれ難い。
「あっ、たぶん大丈夫です。やっ」
 少女が軽く声をあげると、まるで逆再生を見ているかのように糸はするすると少女の手元に戻った。
「ほら、このとおりです」
「そうか」
「そうか、じゃないです! 褒めてほしいです!」
「君がやったことを自分で解決しただけなのにか?」
「私がやったことを私が解決しただけなのにです!」
 そこまで言われては仕方がない。褒めてみよう。
「偉いぞっ」(なでなで)
 ただ、人を褒めた経験がないので、こんな有様になってしまった。
「……う、うふうううふ。……やっぱ嫁です! 嫁になるしかないです!」
「抱きつくな」
 何やら興奮した様子でふがーふがー言いながら人に抱きついてんだかよじ登ってんだか分からない蜘蛛少女だった。

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Comment
無題
良いかもしれない…

無題
今頃気付いたのですがこれだけ一人称ちがうのな
第三の主人公?
無題
神様……Vガンだけは見せちゃだめでしょ
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