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2024年05月08日
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【ツンデレに「いつか俺の魅力の虜にしてやる」って言ったら】

2010年04月16日
 どっかの国から転校生がやってきた。一目惚れ。
「レミットって言います。まだこっちに来て日は浅いですが、仲良くして……」
「付き合ってください、娘っ子」
「うわっ! な、なにアンタ!? いま自己紹介してるの見て分かんないの!?」
 言われて見れば、その通り。思わず前まで出てきてしまったが、さてどうしよう。
「ええとだな……そう! この燃えたぎる欲望は止められないという理由を今思いついた! というわけで、付き合え」
「嫌に決まってるでしょ! 初対面の相手と付き合えるわけないじゃない!」
「がーん」
 すごすご自分の席に戻り、悲しみのあまり手を眺める。……爪伸びてるな。
「うわ、普通に爪切ってる……先生、アイツなんなの?」
「んー……遠巻きに見てる限り安心だから大丈夫だいじょうぶ。はっはっは」
 先生がとても聖職者とは思えないほど失礼なことを言ってるが、爪を切るのに忙しいので放置。
「ま、まぁいいわ……それで、私の席はどこ?」
「ああ、アレの隣だ。遠巻きに、と言ったそばから悪いが」
「ええっ、アレの!?」
 人のことをアレアレ言うない。失礼にも程があるぞ。
 しかし、それでも嫌そうな顔をしてやってきた転校生を笑顔で迎える。小さな積み重ねが大事だ。
「うわっ、笑ってる……気持ち悪」
「惚れた?」
「惚れるか! 気持ち悪って言ってるでしょ! アンタ耳ついてるの!?」
「……おかしい、俺のエンジェリックスマイルが通用しない」
「何がエンジェリックスマイルよ。下心見え見えのデビルスマイルって感じよ」
「むぅ……ままならん。しかし、いつか俺の魅力の虜にしてやるから待ってろよ」
「無理に決まってるでしょ、ばーか」
「……じゃあ、これならどうだ?」
 そっとレミットの机の上に物を置く。
「お金でどうこうなる話じゃないでしょ! しかも10円って、アンタ私のこと馬鹿にしてない!?」
「今日は300円しか持ってきてないんだ。これ以上払うと昼飯のグレードが下がるから、それが限界」
「……はぁ。無視しよ、無視。それが一番ね」
「…………」
「無視されたからって人の髪いじくるな! 勝手に三つ編みすんな!」
「器用だろ? すごい?」
「褒めてない、怒ってんの! 分かってる? その頭、飾り?」
「んなわけないじゃん、はっはっは」
「うぐぐ……こいつ、マジでムカつく……」
 どうしたことか、凄い勢いで嫌われている気がする。
「まぁとにかく、よろしく」
「よろしくしたくないっ! 先生、場所変えて!」
 癇癪を起こしたようにレミットは叫んだ。
「まーまー。いーじゃん、おまえら面白いぞ? いや、しばらく面白いことなかったし、これはいい暇つぶしになるな」
「うう……先生まで変な奴だぁ。なんてクラスなの……」
 絶望したように机につっぷすレミットだった。
「…………」
「だから、髪いじるなって言ってるでしょ!? ツインテールにしたらいいって話じゃない!」
「なんか落ち込んでるし、サービス」
「巨大なお世話よッ! もう話しかけてこないで!」
 好意を持たれるどころか、話しかけると噛み付かれんばかりに嫌われているような。
 頑張ります。

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【生まれて初めて雪を見たツンデレ】

2010年04月16日
 寒いなと思っていたら、雪が降っていた。
 喜び勇んで外に駆け出し顔面からコケること7回、顔をさすりながら大人しく学校へ向かう。
「うわ、別府だ……」
 快い声と快くない言葉に振り向くと、そこに交際熱烈希望中のレミットさんがおりました。
「おはよう、レミットたん。今日も元気そうで何よりです」
「たんとか言うな! いい? 近寄らないでよね!」
 なんて、レミットは悲しいことを言うのだった。
「了解。後ろから獲物を狙う狩人の視線でじっとレミットを眺めることにします」
「だからそういうことをするなって……ひゃあ!?」
 振り返った時に足を滑らしたのか、レミットの体が斜めに倒れて行く。
「よっ、と。大丈夫か?」
 咄嗟にインド人ばりに手を伸ばし、レミットを抱き留める。転ばなくてよかった。
「あ……う、うん」
 俺の腕の中で、レミットは小さな体をさらに小さくさせ、軽くうなずいた。
「ん、怪我がなくて何よりだ。こけると結構痛いからな」
「そ、そう。……べっ、別に誰も助けてくれなんて言ってないからね! お礼なんて言わないから!」
「いや、それは別に構わないけど……いつまで抱っこされてんだ? 俺としてはこの上なく幸せだけど」
「えっ……きゃっ! あ、アンタねぇ、そういうことはもっと早く言いなさいよ!」
 慌てて俺から離れ、レミットは頬を染めたまま素早くまくし立てた。
「ごめんなさい」
「う、う~……別に、謝らなくてもいいんだけどさ。……うう」
「あー……それにしても、寒いな。雪が降ると嬉しいけど、寒いのだけは勘弁してほしいよな」
 何か困っているようなので、適当に話題を振る。
「あ……そ、そうね。……そういえば、雪見るのって初めてかも」
「ほう、それは珍しい。今まで住んでたとこは、暖かい所だったんだな」
「ん、ん~……まぁ、そうかも。……冷たいけど、けっこ綺麗ね、雪」
 手の平を出し、レミットはちらつく雪を受けた。
「……そんな嫌な奴でもないのかも、ね」
「そんな、どころか嫌なところなんて全くないぞ。そんな俺に惚れろ」
「えっ……ちょ、勝手に独り言聞くなぁ!」
 隣を歩いてるのに勝手に独り言を言うほうがどうかと思うなぁ、なんて思いながらレミットに腕を噛まれる。痛い。
「やっぱヤな奴! ばか、ばーか! べーっ、だ!」
 レミットは軽く駆けて俺から距離を取り、大きく口を開けて舌を出し、俺を馬鹿にした。だけど、馬鹿にされるというよりむしろ微笑ましく、思わず笑ってしまう。
「わっ、笑うなーっ! くのっ、ホントヤな奴!」
「あ、いや……とにかく、一緒に学校行こう」
「お断りよ、ばーか!」
 レミットはもう一度舌を出し、学校へ駆けて行った。
「はぎゅっ!」
 そしてすぐにコケた。
「ううううう~……何よ何よ、雪まで私を馬鹿にして!」
 レミットは雪の上にぺたんと座り、苛立たしげに雪をぺしぺし叩いた。
「走ったりするからそうなるんだ。雪の日は歩くべし」
「うっさい! ……何よ」
 レミットの元まで歩み寄り手を差し出すと、彼女は疑わしげに俺を見つめた。
「んなとこ座ってたら寒いだろ。ほら、掴まれ」
「じ、自分で立てるわよ!」
 俺の手を振り払い、レミットは一人で立った。雪を払い落とし、俺を睨む。
「あんたのせいでコケちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
「俺のせい……か?」
「そ、そうよ! コケたのも服が濡れちゃったのも寒いのも全部アンタのせい!」
「じゃあ、パンツまで濡れたのも俺のせいだな」
「なっ、なんで知ってるのよ!」
 適当に言ったのに、当ててしまったようだ。レミットの顔が羞恥で赤く染まっていく。
「う、ううう~っ!」
 気が立ってるせいか、どこか獣じみてきたレミット嬢。さてどうしよう。
「つまり、俺のせいでパンツがびしょびしょで濡れ濡れ、というわけか。……やるなぁ、俺」
 どうやらダメな選択肢を選んだようだ。真っ赤な顔で俺の腕に歯を食い込ませるレミットを見ながらそう思った。

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【バレンタイン レミットの場合】

2010年04月16日
 バレンタインまであと数日と迫ったある日、俺はレミットの席の前に立っていた。
「レミット。この国には、親しい男にチョコレートをあげないといけない日があってな、それが数日後に迫ってるわけなのだが」
「あー知ってる。Saint Valentine's Dayでしょ?」
「おおっ、話が早くて助かる。そこで! この俺にチョ」
「私はそういうの、やんないけどね。めんどいし」
 驚愕の言葉がレミットの口から零れる。
「な、なに泣いてるのよ!」
「うぐっ……せ、せめて義理でもいいから欲しかったのに、それすらも手に入らないというのか!」
「お、怒られても……だいたい、作ったとしてもアンタなんかには義理もあげないんから、別にいいじゃない」
「その場合、レミットが他の奴にくばったチョコを奪取する」
「すんなッ! だいたい、私は誰にもあげるつもりないわよ」
「……仕方ない。レミットからチョコが貰えないなら、誰彼構わずチョコを奪い自尊心を保つしかないか……」
「無茶苦茶言ってること、分かってる!?」
 レミットが何か言ってるが、それどころではない。俺はバレンタイン当日に向け、どうすれば効率的に奪えるか作戦を練ることにした。
「……はぁ」
 小さなため息が聞こえた。

「あの馬鹿、放っておいたら本気でやりそうだしなぁ……」
 レミット宅にて、彼女はぶつくさ言いながら買い物袋から色々な食材を取り出した。市販のチョコ、アーモンド、ナッツ、クルミ、等々。
「……ええと、どうやるんだろ」
 一緒に買った初心者用手作りチョコの本を開き、熱心に眺める。
「……よく分かんない。全部鍋に入れちゃえ」
「あらあらレミットちゃん、チョコレート作ってるの?」
 鍋に買ってきた食材を全部入れ火にかけていると、側にいるだけで和んでしまうような雰囲気を纏わせた女性がレミットの元へ歩み寄った。
「まっ、ママ! な、なんでいるの!? お仕事は?」
「急にお休みになっちゃって、さっき帰ってきたの。それ、バレンタイン用のチョコね。もう好きな子ができたの? ママ、なんだか寂しい……」
「ちっ、違うわよ! 誰があんな奴を好きになるってのよ! ええと……義理以下の義理、超義理よ!」
 レミットは顔を真っ赤にして必死に否定した。
「……でも、手作りよね?」
「ぐっ……あ、あんな奴に市販のチョコやるなんて、お金もったいないからね! そ、それだけ!」
「……でも、市販のチョコ溶かしてるのよね?」
「うぐっ……も、もう! ママは出てって!」
「うふふっ、頑張ってね……ってレミットちゃん、鍋なべ!」
「鍋? 鍋がどうした……きゃああああ!」
 鍋から黒い煙がもくもくと立ち昇っていた。二人して慌てて火を止め、恐る恐る中を見る。
「……うう、コゲてる」
「ふ、ファイトよレミットちゃん! ママも手伝うから頑張ろ!」
「ううっ……ごめんね、ママ。……お願いする」
 簡単と思われたチョコ作りは、予想外に難航した。
「それじゃレミットちゃん、チョコを細かく刻んで。包丁使い慣れてないだろうし、気をつけてね」
「大丈夫だって、ママ。……えいっ!」
 包丁を両手で持ち、レミットは勢いよく振り下ろした。チョコを真っ二つにし、さらにまな板に深い傷を刻む。
「あははっ、思ったより簡単ね♪ えいっ、えいっ、えいっ」
 レミットは笑顔を浮かべたまま何度も何度も包丁を振り下ろした。隣で顔を青ざめている母親に気づかないまま。
「……ふぅっ、できた! それでママ、次は?」
「え、ええとね、次は湯せんね。チョコをボウルの中に入れて、湯せんするの」
「分かった!」
 レミットはボウルの中に粉々になったチョコを入れた。次に鍋に湯を入れ火にかけ、その上にボウルを浮かべた。
「温度は50度以上にならないよう注意してね。そうしないと……」
「えー、温度高い方が早く溶けるからいいよー。えいっ、強火」
 火の勢いが増すと同時に、ボウルの中のチョコがみるみる溶け出す。
「あははっ、すごいすごい。早く溶けろー、えいえいっ」
 さらに、レミットはチョコをかき混ぜ始めた。乱暴にかき混ぜ、ボウルの中にお湯が入る。
「あちゃ、ちょっとお湯入っちゃった。まいっか」
「ああ、あああ……」
 お湯が入ると酷い味になると知っている母親は、娘に言うこともできず隣で青ざめていた。
「……ん、どろどろになったわね。ママ、次は?」
「そ、そうね。ええと、ボウルを取り出して、氷水にあてて」
「ん、分かった」
 ボウルを取り出し、氷水を入れた鍋の中に浮かべる。
「ここにも氷入れたほうが早いよね♪」
 さらに、チョコの中にも氷を入れる。
「…………」
 母親は諦めたような顔で娘を優しく見ていた。
「……ん、もういいかな。それでママ、次は?」
「……そうね、次は……」
 次々と舞い起こる失敗に、母親は受け取るであろう少年に同情を禁じ得なかった。

 バレンタイン当日。あらゆる手段を用いチョコを奪いまくったのはいいが、とても空しいので全員に返した。すごい怒られた。
 放課後、チョコ狩りの件で教師に職員室で説教を喰らい、教室に戻る。当然のように誰もいない。静かにため息をつく。
「……ま、そりゃそうか」
 鞄がないところを見るに、レミットはもう帰ってしまったのだろう。……俺も帰ろう。
 鞄を持って教室を出、下駄箱を通り校庭に出る。外はもう夕焼けに包まれていた。ずいぶんと長い間説教を喰らっていたようだ。
「遅いッ!」
 俯き加減に校門を潜っていると、罵声に迎えられた。顔を上げる。そこに、仁王立ちしているレミットの姿があった。
「おまえ、もう帰ったんじゃ……?」
「わ、私のことはどうでもいいでしょ! なんでこんな遅いのよ!」
「いや、ちっと教師に呼ばれて職員室に……」
「なんで今日に限ってそんなとこ呼ばれるのよ! ばっかじゃないの?」
「別に今日に限った話でもないんだけど……なんか用か?」
 そう言った途端、レミットは落ち着きなさそうに視線をさ迷わせ、体を小さく揺すった。
「べ……別に用ってわけじゃないけど、その……勘違いしないでよね?」
「はぁ」
 いまいち要領を得ない。あれほどくれないと言っていたのだ、チョコって訳でもあるまい。一体なんだろう。
「……これ」
 ぶっきらぼうに差し出されたそれは、赤い包装につつまれていた。
「……ええと、違ったらゴメンだけど、ひょっとして」
「だっ、だから勘違いしないでって言ったでしょ! あんまりにも必死にチョコ奪ってるアンタ見て、ちょっと、ちょっっっっとだけ哀れになっただけなんだから!」
 包装を慎重に破り、箱を開ける。果たして、そこに歪な形のチョコがあった。
「……チョコだ」
「……ふ、ふん。ホントはもっと上手に作れるんだけど、アンタみたいなの相手じゃ本気にもなれないからね。アンタぴったりの、へなちょこチョコよ」
 ゆっくりと、実感が湧いてくる。……レミットから、惚れてる相手からチョコを貰えた。
「……ぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!」
 天まで届け、とばかりに雄叫びを上げる。
「ありがとな、ありがとな、レミット! 俺、すっげー嬉しい!」
「う……そ、そんな喜ぶことじゃないわよ。き、昨日お菓子作った時にあまったの持ってきただけだもん。……ほっ、ホントよ!?」
「はぐはぐむぐむぐ」
「ちょ、そんな一気に食べることないでしょ! ……そ、それで、味、どう?」
 レミットの作ったチョコは、その、なんというか、……愛の力を持ってしても、ボンドみたいな味がする。
「ま……ま、ま、ま、……まぁまぁ、カナ?」
 それが精一杯の賞賛の言葉だった。
「……なによそれ。一所懸命作ったんだから、おいしいに決まってるでしょ! まぁまぁな訳ないじゃない!」
 レミットが俺のチョコを奪いにかかった。取られては味を知られてしまうので、必死に抵抗する。
「こら取るな、全部俺のチョコだ!」
「ちょっと位いいでしょ、私が作ったんだから!」
「いやだっ! むしゃむしゃむしゃ!」
「こら、食べるな! もぐもぐもぐ!」
 右端から食べてると、レミットは反対側から食べだした。そして、
「……もぐもぐ、もぐ。……うあ、なにコレ!」
 口の中に入れたチョコを、地面に吐き出してしまった。
「ああ、もったいない」
「ぺっぺ! ちょっとちょっとちょっと! 何よ、すっごいまずいじゃないの!」
「そ、そうか? 俺は悪くないかと……」
「嘘つけっ! こんなの、誰が食べてもまずいに決まってるでしょ! 貸して、捨ててくるっ!」
「嫌だ、ぜってー嫌! この俺様が一度もらったものを返すとでも思ったか!」
 チョコの入った箱を抱え、俺は一目散に駆け出した。
「こらっ、返せーッ!」
 後ろの方から何か怒ったような声が聞こえてきた気がしたけど、気のせい!
 その後、ちゃんと自分の部屋で全部平らげました。今ならボンドでも食える気がします。
 味はともかく、嬉しかったのは確かなのでホワイトデーを楽しみにしておくだな、レミット!
「ふ、ふははははは! ふひゃーっはっはっはっは!」
「タカシー、ご飯……また壊れてる」
 部屋にやってきた母さんが、ドアを静かに閉めて出て行った。少し悲しい。

「……ただいま」
 意気消沈して帰ってきたレミットを、母親は笑顔で迎えた。
「あら、おかえりレミットちゃん。どうだった? 渡せた?」
「渡せた……けど、ママ! あれ、すっごい不味かったよ!」
「え、そ、そう? おっかしいわね~」
「あんなまずいのに、あいつってば悪くないとか言うんだよ!? おかしいよ、あの馬鹿!」
「まぁ、まぁ……そうなの。よかったね、レミットちゃん」
「何がいいのよ! あの馬鹿、あんなまずいの食べてすっごい嬉しそうな顔して……ホント頭おかしいんじゃないの!?」
 顔を赤くして当り散らすレミットを、母親は優しく見守っていた。
「……ママッ! このままじゃ私の気がすまないわ。特訓して!」
「そうね。美味しいチョコ、食べさせてあげたいものね」
「べっ、別にそういうわけじゃなくて……その、私があの程度のレベルだと思われるのもシャクだしね!」
 顔を赤くしてエプロンをつける娘を、母親はとても楽しげに見ていた。

拍手[14回]

【ホワイトデー】

2010年04月11日
 一ヶ月ほど前にレミットからねんがんのチョコレートをてにいれた!
「今日はホワイトデーよ。当然、お返しは用意してるんでしょうね?」
「殺してでも うばいとる!」
「何の話よッ!」
 一人ガラハドごっこをしてると、何やらレミットの怒り顔が目の前に。
「何を怒っているのだ? 可愛らしい顔が怒りに歪み……いかん、それでも可愛い。惚れた弱みという奴か」
「うっ、うるさいっ! そんなことより、ホワイトデーよ、ホワイトデー! ほら、アンタみたいなバカでも感謝の気持ちくらいあるでしょ?」
「失敬な、俺はバカじゃないぞ。なぁ、友よ?」
 偶然通りがかった友人に、いかに俺の頭がいいか説明を求める。
「いや、別府は馬鹿だぞ」
 当然のように俺を馬鹿と言い放ち、友人は去って行った。
「…………。とまぁ、俺が秀才であることが露見しました」
「…………。そうね、よかったね」
 哀れみを感じさせる口調だけど、額面通り受け取ることにした。ほら、知らない方が幸せなこともあるし。
「とにかく、お返し貰ってあげるから寄越しなさい。当然、用意してるでしょうね?」
「当たり前だろ。ほら、これだ」
 ポケットから品を取り出し、机の上に置く。
「……何、コレ」
「きゃんでぃー。おいしいよ」
 一つ包みを開き、口に入れる。レモンの味が口に広がった。
「……つまんない」
「はい?」
「つまんない、つまんない、つまんない! これで終わりって、アンタ私がどれだけ苦労してチョコ作ったのか分かってるの!?」
「苦労? ……俺のために?」
「そっ、そうじゃなくて、いやそうだけど……うぅ、ええと、アンタなんかが知る必要ないの! とにかく、こんなんじゃ割りに合わない!」
「ううん、苦労してくれたのは嬉しいが……金ないしなぁ」
 口の中で飴を転がし、どうしたもんかと腕を組む。他にプレゼントを用意してないし、はてさてどうしよう。
「……よし。鶴と飛行機、どっちが好き?」
「折り紙なんかもらっても嬉しくないッ!」
 鞄から折り紙を取り出したら、レミットに叩き落とされた。
「贅沢だなぁ……」
「こんなの貰っても誰も喜ばないわよ! いい? 今日の放課後までに何か用意しときなさい!」
「ええっ、そんな無茶な!?」
「無茶でもなんでもするの! 言っとくけど、さっきみたいなの持ってきたり、何も用意してなかったら一生口きかないからね」
 レミットが去って行くのを見ながら、血の気が引くのを感じる。放課後までって、いま昼休みだからあと2時間しかないじゃん!
 とにかく、考えるよりまず行動だ。俺は駆け足で廊下に飛び出した。

「あー、では授業を始める。……ん、別府いないのか。あの馬鹿、またサボリか」
 チャイムが鳴って先生が教室に来ても、別府は戻ってこなかった。
 ……ちょっと無茶言っちゃったかな? ううん、いいよね。こんな飴しか用意してないんだもん、これくらい当然よ。
 ポケットから飴を取り出し、口に入れる。……あ、おいしい。
 ……あいつ、何持ってくるだろ。お金ないって言ってたし、何も持ってこないかな。
「……いや、それはないか」
 無駄に行動力だけはあるし、何かしら持ってくるだろうな。……変なの持ってこなきゃいいけど。
 ぼんやり隣にある別府の席を見る。いつもそこにあるアイツの姿がないだけで、なんか変な感じ。
「……ミット、レミット。いないのか?」
「え、あ、はい! います!」
「何をぼーっとしてるんだ。とにかく、この問に答えてくれ」
「す、スイマセン……どのページですか?」
 ぼーっとしていて、先生に呼ばれたのに気づかなかった。みんなに笑われ、恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じる。
 ……うぅ、これも別府のせいだ。いてもいなくても迷惑な奴。これで変なの持ってきてみろ、本当に絶交してやるから。

 6時間目の授業が終わって、ホームルームも終わった。
 ……別府は、戻ってこなかった。面倒くさくなって家に帰っちゃったのかな? いや、鞄もここにあるし、大丈夫だいじょうぶ。
「ねぇレミットちゃん、一緒に帰らない?」
 自分を納得させてると、友達が話しかけてきた。
「あ、ごめんね。私、別府の馬鹿を待ってないと」
「あー、昼休みのアレね。大変ね、別府くんも」
「なーに言ってるのかな。お返しがこれよ、これ」
 私はポケットからキャンディーを取り出し、友達に見せた。
「……お返しがキャンディーって、普通じゃない?」
「で、でも、私があんな苦労してチョコ作ったのに、こんなどこにでもあるキャンディーで済まされるって、その……」
「あははっ、わがままな彼女で別府くんってば本当に大変ね」
「か、かか、彼女ぉ!? じょ、冗談じゃないわよ!」
「違うの?」
「違う違う違う! ただの友達!」
「なーんだ。別府くん、レミットちゃんに好き好きオーラ出してるし、てっきり付き合ってるものだと思ってた」
「勘弁してよ、なんであんな奴と付き合わなくちゃいけないのよ……」
 友達のあんまりな言いように、思わずぐったりしてしまう。
「でも、嫌いじゃないよね?」
「ま、まぁ……と・も・だ・ち、だからね!」
 友達、というのを強調して言うと、彼女は笑顔を見せた。
「あははっ、そっかぁ。じゃ、そろそろ私帰るから、頑張ってね!」
「な、何を頑張るって言うのよ!」
 友達は笑顔を残して教室を出て行った。がらんとした教室に一人取り残される。
 あーあ、アイツも帰ってこないし、私も帰っちゃおうかな。
 ……で、でも、もうちょっとだけ待ってあげてもいいよね、友達だもん。そう、友達友達。恋人じゃなくて、友達!
 ……ああもう、あの子が変なこと言うから意識しちゃうじゃないの。
「はぁっはぁっ……れ、レミットはいるか!?」
 なんて考えてると、別府が息を切らせて教室に飛び込んできた。
「お、遅いじゃないの! もう授業終わっちゃったわよ!?」
「はぁはぁ……ほ、放課後に間に合った? セーフ?」
「アウト……と言いたいところだけど、ギリギリセーフにしてあげるわ」
 別府の顔が絶望に落ちた表情から、ゆっくり安堵に満ちた表情に変化していく。ふふっ、変な顔。
「はぁ……よかった、死ぬかと思った。ちょっとプレゼント探すのに手間取ってな、遅れてゴメン。はい、プレゼント」
 そう言って、別府は花束を私に渡した。
「花……?」
「や、色々探し回ったはいいが、金もないし時間もないでろくな物が見つからなくてな。で、公園でちょっと休憩してたらいい匂いがして。その元を探したらこれがあったんだ」
 そう言って別府は花束を──沈丁花を指した。
「結構いい匂いだろ?」
「確かにいい香りだけど……近くで嗅ぐにはちょっと匂いが強すぎて嫌味ね」
「う……と、とりあえず今日のところはそれで我慢してくれ。また後日、ちゃんとしたプレゼント渡すから」
 そう言って、別府は申し訳なさそうに笑った。
「……べ、別に、これだけでいい」
「え、いや、でも」
「綺麗だし、……それに、近くで嗅がなかったらいい匂いだもの。まるで誰かさんみたい」
「……誰かって、誰かなー?」
「ヒントを言うなら、そばにいたら迷惑だけど、遠くから見る分には面白い奴ね」
「……いやはや、誰のことかまったく分かりませんな。そんな奴いたかな?」
 そう平然と言う別府だったけど、明らかに誰を指してるか分かってるな。あははっ、不満そう不満そう。
「とにかく、帰るべ。なんかもークタクタだ」
「だらしないなぁ、もう」
「お前なぁ、2時間くらい走りまわってたんだぞ? それで疲れない奴いたら見たいぞ」
「そ、それもそうね。あははっ」
 ……そっか、ずっと私へのプレゼント探してくれてたんだ。
「うー、足ガクガクだ……明日筋肉痛だな」
 よろよろと歩く別府の後姿に、私は心の中で感謝の言葉を告げた。
 ……口にすると、どーせまた調子に乗るしね、コイツは。

「レミットちゃん、その花は?」
 リビングの花瓶に花を生けてると、ママが帰ってきた。
「ちょっとね」
「へぇ、いい匂いね。……でも、近くで嗅ぐと匂いが強すぎるわね」
「……慣れたら、近くで嗅ぐのも悪くないわよ」
「そう?」
「うん。……えへへっ、いい匂い」
 不思議そうなママをよそに、私は沈丁花の甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

拍手[11回]

【ツンデレに捧げる殺し文句】

2010年04月05日
 なんでも、この世界には殺し文句というものがあるらしい。それを使うと、メロメロになるとか。
「何にやにやしてんのよ。笑うのは勝手だけど、こっち見ないでくれる?」
 なれば、隣の席で不機嫌そうに俺を睨むレミットも俺にメロメロになるという訳だな。よし、いくぞ!
「レミット。……キミの瞳に乾杯」
 死ねって言われた。
「なんで!? 殺し文句ですよ!? なんでメロメロにならない!?」
 殺すぞって言われた。
「……照れ隠し?」
 5回くらい殴られた。
「すいません、調子に乗りました」
 もう殴られるのは嫌なので素直に土下座する。
「……ったく。殺し文句言うなら、もうちょっとマシなの言いなさいよ」
「分かった、ちょっと待て。いま調べるから」
 携帯を取り出し、殺し文句検索開始。……終了。
「よし、完璧だ。惚れる準備はOKか?」
「惚れないから大丈夫」
「…………。い、言うぞっ! ”僕に会いたい”っていう願いは叶ったよ。さぁ、あと二つの願いは何だい?」
「うわ、サイテー。自意識過剰すぎ」
「あれぇ!? 殺し文句ですよ!? 一位ですよ!?」
「どんなとこで調べたのよ、ちょっと見せなさい」
 見せなさい、と言いながら俺の携帯を奪うレミット。
「……アンタこれ、殺し文句ワースト30じゃない!」
 投げつけてきた携帯をどうにか受け止める。
「や、でも一位だし、その」
「意味ないじゃない!」
「……それもそうな。レミット、貴方は何て言われたらメロメロになりますか?」
「別にそういうのないし、あってもアンタには教えない」
「じゃあ適当に考えるる。……お嬢ちゃん、チョコレートあげるからお兄ちゃんと結婚しよう」
「すごい台詞ね……」
 おやつ用チョコレートを差し出すと、レミットは呆れたように口を開いた。
「惚れた? 惚れた? 結婚しよう」
「しない。……それを殺し文句と考えるアンタが少し哀れだけど、なんでそんな子供相手の台詞を?」
「や、胸が子供っぽいし」
 馬乗りされて殴られた。
「褒め言葉なのに殴るとはどういうことか!」
「褒めてないッ!」
 そんなつもりはないのだが、どうにも火に油を注いでいるように思えて仕方がない。
「……もしかして、貧乳を気にしているのですか? 今の世は貧乳の方が人気高いですよ? 俺とかに」
「それは嬉しいわねッ!」
 嬉しいと言いながら俺の頭を鷲づかみにして潰しにかかるのはどういうことか。
「……ったく、ホントに馬鹿ね。殺し文句の一つも言えないなんて」
 泣いて謝り解放された後、頭が取れてない事を確認している俺にレミットは馬鹿にしたように言った。
「むぅ……やっぱこういうのは苦手だな。思ったことしか言えねーや」
「馬鹿ねー。それなら人の言葉なんか使わないで、思ったこと言えばいいじゃないの」
「……と言ってもなぁ。レミットが好きで好きで仕方ないっていう想いに足る言葉が、俺の語彙の中にゃ見当たらないんだ」
「なっ……!」
 どうしたらいいかな、と思いながらレミットを見ると、なんだか顔が赤い。
「どしたレミット? 顔が赤いようだが……」
「う、うるさいっ! なんでもないっ!」
 なんでもないはずがないのだが、しつこく言うと殴られるので追求を止める。
「ふむ……言葉じゃとても伝えきれないな。どうだろう、言葉ではなく態度で示してはダメかな?」
「た、態度?」
「キスとかどうだろう? きっと俺の熱い想いが伝わるかと」
「き、き、き、キス!? ふざけるにゃ、誰がアンタなんかと! ばーかばーかばーか!」
 両手の指で口の端を引っ張って舌を出すと、レミットは駆け足で教室を出て行った。
「……んー、ままならんなぁ」
「あはは、別府くんて鋭いんだか鈍いんだか分からないね」
 そばで見ていた女生徒のよく分からない言葉に、俺は変な顔で応戦した。すごい笑われた。

拍手[6回]

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