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2019年10月15日
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【ツンデレ手編みのマフラー】

2010年05月05日
「ふぇっくしょいっ!」
 下校中、私の隣でタカシが大きくくしゃみをした。
「風邪か? 不摂生をしているからだ、愚か者め」
「ずず……いや、違う違う。ちょっと寒くてな。あと、愚か者とか言うない」
 鼻をすすり、タカシは軽く体を震わせた。
「……まあ、馬鹿は風邪を引かんと言うから大丈夫とは思うが、一応家に帰ったならうがいを忘れんようにな」
「お、心配してくれんのか? サンキュ、みこと」
 タカシはにっこり笑って私の頭をなでてくれた。恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じる。
「だっ、誰が貴様なんかの心配をするというのだ! 頭をなでるな、たわけ!」
「痛い痛い痛い! 殴るな蹴るな、傘で刺すなッ!」
 タカシと別れ、私は家に帰った。そして部屋に入り、布団の上に置かれたものに視線を向ける。
「タカシの誕生日まであと数日。……間に合うだろうか」
 布団の上に、編みかけのマフラーがあった。ひいき目に見ても上手と言えはしないが、不器用な私にしては頑張ったほうだろう、うん。
 制服を着替える暇ももどかしく、私は編みかけのマフラーに棒針を通した。
 それから数日後、タカシの誕生日の朝。私はいつものタカシとの待ち合わせ場所で、いつもより早く彼を待っていた。
 鞄と一緒に持ってる紙袋の中には、昨晩なんとか仕上げたマフラーが入っている。
 編み目はぐちゃぐちゃだし、目が大きすぎて風が通ってしまうが、それでも精一杯心を込めて編んだつもりだ。
 タカシはなんと言ってくれるだろう。呆れるだろうか。馬鹿にするだろうか。……いや、奴のことだ、馬鹿みたいに喜んでつけるに違いない。
 その様子を想像し小さく笑っていると、道の向こうから人影が見えた。タカシだ。……ただ、少しいつもと服装が違っていた。
 彼の首元に、鮮やかな色彩のマフラーがあった。私は思わず物陰に隠れ、紙袋を覗き込んだ。その中には、くすんだ赤いぼろぼろのマフラーが入っている。
 どう比べても、タカシのマフラーに勝てる自信がなかった。
「おはよーさん、みこと。んなとこで何やってんだ?」
「うひゃっ!?」
 突然声をかけられ、変な声が出た。振り返ると、不思議そうな顔をしたタカシがいた。……無論、首には色鮮やかなマフラーが。
「い、いきなり声をかけるな! 心臓が止まるかと思ったぞ!」
「いや、ただの挨拶だし。……ところでその紙袋、なに?」
「こっ、これはなんでもない! 気にするな!」
「うん……? あ、ところでこのマフラーどうだ? 結構いいだろ?」
「あ、ああ……そうだな」
 私の気も知らず、タカシは嬉しそうにマフラーを指で摘まんだ。
「近所の古着屋に激安で売っててな。中古の割には綺麗だし、デザインも悪くないだろ?」
「そ、そうだな。……悪くないどころか、かなりの品だ」
「お、分かる? へへっ、嬉しいな」
 私は、なんだか凄く惨めな気分になってしまった。分かってる、タカシが悪いんじゃない。
 でも、タカシの笑顔を見る度、私の編んだマフラーが貶されているような気がして。タカシを想う気持ちまで貶されているような気がして。
「……みこと?」
 気がつくと、私は泣いていた。
「なっ、なんでもない」
「なんでもないわけないだろっ! 何か俺、みことを傷つけること言っちゃったのか? 頼む、言ってくれ」
「なんでもないと、言っている!」
 思わず持っていた物をタカシに投げつけ、私は学校へ逃げた。
 最悪だ。何を逃げてるんだ私は。しかも、何も悪くないタカシに怒ったりなんかして。
 最悪だ。最低だ。もう嫌だ。
 私は教室に着くと、顔を机に伏せた。
 友達が私の様子に何事か問いかけてきたが、返事がないと知ると離れて行った。
「みこと」
 それからしばらくして、一番聞きたくない人の声が聞こえた。
「いきなり走って行っちゃうからびっくりしたぞ」
「……うるさい、話しかけるな」
 私は顔を伏せたままタカシに告げた。
「……実はさ、ここに来る途中にマフラーを木に引っ掛けちゃって千切れちゃったんだ」
「……え」
 思わず顔を上げる。そこにタカシが、そしてその首に、見慣れた……くすんだ、赤いマフラーが。
「てなわけで、代わりに落ちてたマフラー使ったんだけど、いいよな?」
 そう言って笑いかけるタカシの手に、私の鞄と、空になった紙袋があった。そういえば、あの時投げてそのままだった。
「な、なぜ私に聞く。私は知らん!」
「そか。じゃ、もらっちゃお」
「……だ、誰のものとも知れん落ちてたマフラーをするとはな。相変わらずタカシは馬鹿だな」
「へへっ、でもな、このマフラー暖かいぞ。誰が作ったか知らないけど、感謝しないとな」
「……ふ、ふん。そんな粗末なものに感謝なぞする必要もあるまい。編み目はぐちゃぐちゃだし、目が大きすぎて風が入ってくるだろうに」
「んー……でもな、心を込めて編んだのが伝わってくるから、思った以上に暖かいんだな、これが」
「……ふ、ふん! 物好きな奴め」
 笑いかけるタカシの姿が、ゆっくりとにじんでいく。
「……プレゼントありがとな、みこと」
 優しく頭がなでられる。もう、ダメだった。
 私は、タカシにしがみついて子供みたいにわんわん泣いた。

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