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2024年03月29日
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【まる ささみ】

2010年02月08日
 学校から帰ると、腹を丸出しにして盛大にいびきをかいてる美少女がいた。
「誰!? アレか、冴えない僕の元に異次元から美少女がってアレか! よし来た、据え膳食うぞ!」
「むにゅ、むー……あ、おはような、ご主人」
「あ、うんおはよう」
 俺の小芝居を無視し、美少女こと元俺の飼い猫で、現なんか知らんが人間になったまるが欠伸をした。
「くぁぁぁぁ~……。ぬ、ご主人、その袋なんなのな? あちしが入る袋なのな?」
 俺の持つ小さなコンビニ袋を見て、まるの目が光った。こんなナリをしてるがやはり元猫、血が騒ぐのだろう。
「これほど小さな袋に収まるにはお前を複数のパーツに分ける必要があるが、まあどうしてもと言うのであればご主人様として協力してやろう。斧どこだっけっか……」
「殺されるのな!」
 まるは頭から布団にもぐり、ガタガタ震えだした。
「冗談に決まっとろーが。つか、尻丸出しでスカートまくれてパンツ丸見えだぞ」
 店員さんにヒソヒソされながらも買った水色ストライプが非常にまぶしい感じだ。
「ドキドキなのな?」
「うむ、土器土器」
「……なんか、あちしの思ってるドキドキと違う気がするのな」
 妙に鋭い奴め。
「ほれ、それよりこの中身を知りたいと思う猫ではないのか?」
「じゃあ、思うのな。なんなのな?」
 にゅるりと布団から抜け出し、まるは袋に鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
「くんくんくん……ぬー、分からないのな」
「鼻が利かない猫なんて無意味だよな」
「ねこぱんち!」
 ねこぱんちられ鼻血出た。
「ぬー……血がいっぱい出たのな。汚いのな」
「お前、俺のこと嫌いだろ」
「ぬ?」
 ええい、分からないフリをしおって。
「まぁいいや……ほい、これ買ってきた」
 鼻にティッシュを詰めつつ、まるの前に袋から商品を取り出す。
「おー! チョコ! チョコなのな!」
「いや、それは俺の分。お前食うと中毒起こすだろ」
「嫌なのなー! 昔っからご主人が食べてるの見て、おいしそーって思ってたのな! 食べる、食べたいー!」
 まるは俺に奪われまいとチョコをしっかと握り、胸に抱きしめた。
「いや、しかしだな……うーん、でも人型になってるし、大丈夫か?」
「なのな! なのなのな!」
「でもなぁ……万が一ってこともあるしなぁ」
「だいじょーぶなのな! ご主人、しんぱいしょーなのな。ご主人はしんぱいしょー。売れるな?」
「売れねぇよ」
「なんでなのなー……」
 なんで悲しそうやねん、と思いながら鼻からティッシュを抜く。お、血止まったか。
「冗談はともかく、ダメ」
 一瞬のスキをついて、まるからチョコを奪う。
「あ! 取った! あちしのチョコ取った! 返すのな!」
「うべ、痛、痛いっての! お前取るんなら手狙え、手!」
 チョコを取り返すべく、まるは俺の顔やら頭やらをべしばし叩いた。
「弱らせて奪うのな」
「狩猟だ!」
「むふー。ほらほら返すのな! 痛いの嫌なのな?」
「痛かろうが何だろうが、お前が病気になるのが一番嫌だからダメ」
「ぬ……」
 そう言った途端、まるの攻撃がぴたりと止んだ。俺の隣に座り、労しげな視線で俺を見上げる。
「……ごめんなのな、ご主人。痛かったのな?」
「痛いのも、それはそれで」
「変態なのな! 助けてほしいのな!」
「冗談だっての。むしろ痛くする方が興奮する」
「ご主人、どっからどこまで冗談なのか分からないのな!」
「俺も時々自分で言ってて混乱する」
「ご主人、ダメダメなのな……」
 がっかりされた。
「ま、とにかくだ。これはダメだけど、代わりにこれ買ってきた」
 袋の中に入ってる、もうひとつのものをまるの前に出す。
「こ……こりは! ささみ! ささみなのな! さささみなのな!」
「さが一個多い」
「さささささみなのなのな?」
「うむ!」
 もうちっとも分からなくなったので力強くうなずく。
「ご主人、これ、あちしが食べていいのな? ご主人の分じゃないのな?」
「いいのいいの。ほれ、食え。お前のために買ってきたんだから」
 ささみをほぐしてやり、皿の上に出してやる。
「ご主人、食べさせてほしいのな。あーんって口開けたいのな」
「え、いや、猫時代は確かに食べさせたりもしたけど、既に時代は人へと移行しているので、それはちょっと」
「……食べさせて、くんないのな?」
 おめめうるうるさせるなんて、どこでそんな超技術身に付けたの、まるさん。
「あげるともっさ!」
 ええ、そりゃもう断る理由なんてこの銀河に存在しませんよ。容易く篭絡しましたよ。
「やったのなー♪ ほらほらご主人、あーんってあちしに言うのな♪」
「あー」
「違うのな! ご主人が口開けてもしょうがないのな! あちしが開けるのな! あー!」
「あー」
「あー!」
 二人揃って口内を見せ合う。何コレ。
「お前、やっぱ猫だけあって八重歯すげえな。尖りまくりだ」
「あー! あーあー!」
「あーあーうるさい」
「嫌ならあーんって言ってほしいのな! あーあーあー!」
「分かったよ。ほれ、あーん」
「あー♪」
 まるの大きく開いた口に、千切ったささみを放り込む。
「もむもむ……おいしい! おいしいのな! 最高なのな! 世界で一番おいしいのな! たぶん」
「それは流石にないと思うが」
「本当なのな! 嘘だと思うならご主人も食べてみるのな。はい、あーん、なのな」
 まるはささみを手に取り、にっこり笑って俺に差し出した。
「え、いや、自分で食うからいい」
「あーん、なのな♪」
「……あーん」
 ささみを口に入れられる。
「もぐもぐ。んー、普通」
「そんなことないのな。ご主人は頭悪いからそう感じるだけなのな」
 何このちっともご主人様を敬わない駄猫。
「ほらほら、いーからあちしに食べさせるのな、あーんやるのな」
「あー」
「だから、ご主人が口開けてもしょうがないのな! あちしに食べさすのな! あー! あー!」
「うるさい。はい、あーん」
「あー♪ もむもむ……やっぱおいしいのな! このおいしさが分からないとは、ご主人の頭は可哀想なのな。いーこいーこしてほしいのな?」
「お前も大概失礼だな……ほれ、あーん」
「あー♪ もむもむ……むふー、おいしいのなー♪」
 それからしばらく食べさせてたら、ささみがなくなった。
「ほい、今ので終わり」
「ぬー……足りないのな。ご主人、もっとほしいのな」
「また後日な。食いすぎると太るぞ」
「ぬー。しょうがないから、ご主人の指舐めて我慢するのな」
「ダメです」
「ぺろぺろ……塩味が利いてておいしいのな!」
「人の話を聞け」
 俺の話なんて全く聞かずに、まるは人の指を舐めまくった。
「ぺろぺろ……はうー。ぺろぺろ……はうー!」
「はうはううるさい」
「ぺろぺろ……ふぬー! ぺろぺろ……ふぬー!」
 別に言い方を変えればいいという話ではない、と思いながら俺の指を舐めては恍惚としているまるの頭を撫でた。

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