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2019年10月15日
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【ツンデレにお世辞を強要されたら】

2010年02月08日
 休みなのでたまには贅沢に喫茶店でコーヒー飲んでたら、帽子を目深に被ったかなみが店内に入ってきた。店の奥へ行こうとしてる最中、俺を見つけて勝手に人の席に座った。
「勝手に座るねい」
「あ、誰か来るの? それともデート? なわけないわよね。アンタだもんね」
「ものすっげー失礼だな……」
「あはははは。あ、あたしコーヒーね」
 注文を聞きに来たウェイトレスさんに、手馴れた様子でかなみは答えた。
「で、どしたんだ? 今日は休みなのか?」
「そうじゃなくて、ちょっとだけ休憩。窓からアンタがここに入ってるの見えてね、寂しいアンタの相手してあげようって思ってね」
「別に寂しくはないが……で、どこでやってんだ?」
「そこのビルで、ちょっとね」
 そう言うと、かなみは手をぎゅっと握り、口をパクパクさせた。
「職業に貴賎はない、というが、やはりクラスメイトが風俗で働いてるのは悲しいな」
「違うッ! 歌手! アイドル! 芸能人! 新曲の収録中よ!」
「という設定のイメクラ」
「脳みそぶちまけますわよ?」
 とても怖いので泣きそう。
「……ったく。アンタねー、今をときめくかなみちゃんにセクハラするなんて、いい度胸してるわね」
 別にかなみの頭がおかしくなったのではなく、本当にこいつは今をときめいている。簡単に言うとマジ芸能人で売れっ子。
「芸能人なんだから、セクハラ慣れしてるだろ」
「あ、それ偏見。確かに枕やってる子もいるけど、やってない子もいるのよ? で、あたしはそういうの一切断ってるの。実力のみでここまで来たのよ? すごい? すごい?」
 なんか褒めてほしそうな顔で俺をじーっと見てるので、適当に褒めてやることにする。
「あーすごいすごい」
「なんかテキトー。もっとちゃんと褒めなさいよ」
「昆布ひとつでよくぞここまで登りつめた!」
 かなみの頭の両端からでろーんと伸びてる昆布を掴みながら褒める。
「昆布違うっ! これ髪の毛! ツインテール!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみよッ!」
「……ぃよし。じゃ、俺そろそろ帰るな」
「何をしてやったりな顔してるか! ちっとも褒めてない! ちゃんと褒めるまで帰宅不許可!」
「別に俺が褒めなくても、誰も彼もがちやほやしてくれんだろ」
「うっ……そ、そだけど、その……」
「だろ? んじゃ、そゆことでぐげっ」
 にゅるりと帰ろうとしたら、襟を掴まれた。
「い、いーから褒めるの! アンタはそれくらいしか能がないでしょ!」
「失敬だな、キミは……」
「いーから! アンタに褒めてもらわないと、なんかやる気でないの! ほら、ぐだぐだ言ってないで褒めるの!」
 さて、どうしたものか。褒めろ、と言われても……。
「えーと。えらいぞッッッッッ!!!」
「何がよっ!」
「すずねえっぽいのにダメなのか?」
「誰よすずねえ!?」
「いや、しかしいきなり褒めろ言われても困るのだが。何を褒めるのだ?」
「え、えーと……ほ、ほら、あたしの笑顔がキュートだとか、歌を聴いたら癒されるとか、色々あるじゃない?」
「キュート(笑)癒される(笑)」
 大層殴られた。
「芸能人にボコられる一般人って、下世話な週刊誌が喜びそうなネタだと思わないか?」
「うっさい! ……あー! 時間なくなっちゃたじゃないの!」
 店に備えられてる時計を見て、かなみは素っ頓狂な声を上げた。
「そか。それは残念」
「今日の夜アンタの家行くから待ってなさいよ! ちゃんと褒めてもらうから!」
「え」
「嫌そうな顔するな! このあたしが行ってあげるんだから、光栄に思いなさいよ?」
「無茶を言うな」
「口答えするな!」
「はい」

 で、その夜。
「すっごいすっごい頑張って、早めに終わらせてあげたわよ!」
 ものすっごい笑顔でかなみが俺の部屋にいます。
「頼んでませんが」
 てってってと俺の元まで歩み寄り、かなみはちょこんと座った。
「こんな頑張ったあたしに、何か言うことあるでしょ?」
「明日も頑張れ」
「ちーがーうーっ!」
 耳をぎうーっと引っ張られた。痛い。
「じゃなくて! ほ、ほら、アンタあたしのこと好きで好きでしょうがないでしょ?」
 まず前提条件が間違ってる。……べっ、別にそこまで好きじゃないんだからねっ!
「だ、だから特別に……そ、その、褒めるのに、なでなでとかしてもいいから。あ、あと、ほっぺにチュッとかも、別に……」
「じゃあほっぺをなでなでする」
「ホントッ!?」
 てっきり「混ぜるなッ!」とか言われると思ったのだが、なんか気に入られたっぽい。
「ほらほら、早くやりなさいよ」
「任せろ、得意だ」
 言われるままほっぺをなでなでする。
「なんで自分のほっぺをすりすりしてるかっ!」
「間違えた」
「そんな間違え普通しないっ! ほら、あたしのほっぺをすりすりしなさい!」
 俺の手をとり、かなみは自分のほっぺに押し当てた。
「ほら、ふにふにむにむにしなさいよ」
 そう言って、かなみは目をつむった。
「そこまでやったら、もう自分でやるも同じだと思うが」
「アンタの手でないと意味ないわよ。……べべべ別に深い意味はないケドっ!?」
「ふむ。つまり言葉に深い意味はないが、声が裏返ってることに深い意味があるのだな。動揺?」
「冷静に分析するなッ!」
 赤い人に殴られた。
「もー。……いーから、ふにふにむにむにしなさいよ」
「すごい動詞だな」
「いーからする!」
「はいはい」
 言われるままふにふにむにむにする。
「今日も一日よく頑張ったな。偉いぞ」
「ふふん、当然よ。……はふー」
「気持ちいいのか?」
「全然。……はふー」
 否定するかなみだったが、口元を緩ませ涎を一筋垂らしてる様は、どう見ても気持ちよさげだった。
「なんか、動物をグルーミングしてるみたい」
「むにゃー」
「猫?」
「むにゃー♪」
 猫らしい。

 ひとしきり頬をふにふにむにむにしたら満足したのか、かなみは人の布団で眠ってしまった。
「警戒ゼロかよ……」
 いっそ襲ってやろうか、と思いもしたが、俺を信頼して油断しきってる顔を見ると、そんな気も失せてしまう。
「さて、と」
 携帯を取り出し、かなみのマネージャーにぴぽぱ。寝てしまったので今日は俺んちに泊めることを告げ、いつもすいませんというマネージャーの気弱げな声と同時に通話終了。
「はぁーあ。どこで寝るかな……」
 人の布団を全部占領して口をむにむにさせてるアイドルを見て、ため息をつく俺だった。

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