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2019年10月18日
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【タカシのにおいをクンクンしてるところを目撃されたツンデレ 】

2010年05月30日
 ちなみが部屋を見たいと聞いたタカシは、彼女を自分の部屋に招待した。
「……汚い部屋。なんか変な臭いするし」
 ポスンとベッドの上に座り、ちなみは物珍しそうにタカシの部屋を見ていた。
「悪かったな。掃除なんて面倒なんで滅多にしないもんでね」
「……特にこの枕。すごい汚い」
「あーあー悪かったな。俺、寝る時うつぶせで寝るから、よだれで汚れてんだろ」
「……最悪。ところで、お客さんに飲み物を出すという概念は、この家にはないの?」
「くっ……了解しましたよ、お客様。直ちにお持ち致しますので、少々お待ちください」
 タカシは言われた通り、飲み物を取りに行った。
「…………」
 部屋の主がいなくなったことを確認すると、ちなみは当初の目的を遂行すべく行動に移した。
「……これが、タカシの……」
 枕に顔を埋め、深く深呼吸する。彼のにおいが鼻腔に充満する。
「……くんくん、くんくん。……はうぅ、臭いよぅ。タカシ臭いよぅ。くんくん、くんくん」
 何度も何度も顔を寄せ、枕を嗅ぐ。まるで猫がマタタビに酔うように、ちなみはタカシの枕に酔っていた。
「はぅ、はぅ~♪ いい匂いだお~♪」
 枕を抱きしめ、ベッドの上を転がる。ゴロゴロ、ゴロゴロ、がちゃ。
「…………」
「…………」
 お盆にジュースを載せ棒立ちしているタカシの視線と、ベッドの上で枕を抱きしめ、悶え転がるちなみの視線が絡み合った。
「……こほん」
 ちなみはゆっくり枕をベッドに置き、居住まいを正した。ほのかに頬が赤い。
「……ええと、ジュース持ってきたんだけど……早かったか?」
「何の話をしたいのか全然さっぱりちっとも分かりません」
「何の話って、さっきの……」
「分かりません。全然分かりません。そうだ用事を思い出しました、帰ります」
「えっ、ちょっ」
「そうだこの枕汚いから洗ってあげます」
 一息でそう言うと、ちなみは素早く枕を自分の鞄の中に入れた。
「え、えと……?」
「それじゃさよなら。また明日学校で」
「あ、は、はぁ……」
 ちなみは普段の緩慢な動きが嘘のように、素早く部屋を出て行った。それを、タカシは呆然と立ち尽くして見送った。

(……見られた)
 ちなみは自室で激しく落ち込んでいた。
(……恥ずかしいところ、すごい見られた)
 壁に頭を預け、タカシから頂戴した枕をぎゅっと抱きしめる。
(……嫌われたかな。……気持ち悪いって思われたかな。……もう、喋ってくれないかな)
 自分の考えで、じわっと涙が出てくる。
「……いやだよぅ。もっと、いっぱいお喋りしたいよぅ……。頭、なでてほしいよぅ……」
 涙が、抱きしめた枕に落ちた。後から後から涙がこぼれた。

 結局、ちなみはほとんど眠れず朝を迎えた。泣きすぎたせいで、目が真っ赤だ。
(……とにかく、謝ろう。許してくれなくても、嫌われても、謝ろう。気持ち悪いことして、ごめんって。もう近寄らないから許して、って)
 それが、一晩考えて出た結論だった。喋れなくなるのはとても辛いけど、そう考えただけで泣きそうになるけど、嫌われるよりはマシだ。
 急いで学校に向かいたいのだけど、足がどうしても急いでくれない。どこかで、タカシに会うのを怖がっている自分がいる。
「おはよ」
「!」
 心臓が飛び出るかと思った。振り返ると、……タカシがいた。
「……なんで? こんなところ、通らないでしょ?」
「んー……なんとなく今日はこっちから学校に行きたくなった、じゃダメか?」
 この人は……どうして、こうなんだろう。
「枕を洗ってもらう礼も、昨日言えなかったしな。昨日のアレ、どんだけ汚れてるのか調べてだけだろ?」
 どうして……私の悲しみを取り去ってくれる、魔法のような言葉を知っているのだろう。
 それが嘘だと分かっていても、私を許してくれる言葉。私の心を暖かくしてくれる、魔法の言葉。
「ありがとな、ちなみ」
 そう言って、タカシは笑って、すごく優しい顔で私の頭をなでた。
「…………」
「なっ、なに泣いてんだ!? なんかしたか、俺!?」
 私は無言で頭を横に振った。小さくすん、とすすり上げ、タカシを見つめる。
「……なんでもないです。それより、遅刻しますよ」
 タカシを置いて先に学校へ向かう。
「えっ? ま、待ってくれよ。折角だから一緒に行こうぜ」
「嫌です。……誰かに誤解されたら、不愉快です」
 素直になれない私のばか。なんで嬉しい、って言えないの。
「俺は誤解されたら嬉しいけどな……ああ、待って! スピードあげないで!」
「ばか、ばーか。変なこと言わないでください」
 私は、心の中でタカシに謝罪と、感謝をした。
 素直じゃなくてごめんなさい。こんな私のそばにいてくれて、ありがとう、って。
 ……言葉になんてできないから、少しだけ勇気を出す。
 私は立ち止まり、後ろを振り返った。息を切らせたタカシの手を素早く握る。
「うわっ! ち、ちなみ!?」
「……変なこと言わないなら、一緒に行ってあげます」
 顔を上げずにそう言った。きっと、私の顔は真っ赤だろうから。
「……手、繋いでか?」
「……嫌ならいいです」
 離そうとすると、タカシの手が私の手を強く握った。
「いや、そんなわけない! この時を夢みていたほどだ!」
「……やっぱり馬鹿」
 私は、世界で一番大切な人と手を繋いで、できるだけこの時間が長く続くように、ゆっくり、ゆっくり歩いた。

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