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2019年10月18日
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【財布を忘れたツンデレ】

2011年08月02日
 夏は暑いので結構な頻度で自販機のジュースを買う。学校でもまた同様。しかも、学校の自販機は安いのでお得だ。しかし、レパートリーがお前それ誰が飲むんだ的なものも多いので、注意が必要だ。
 とか思ってるとノドが乾いた。よし、実際に買って偏った品揃えを脳内で実況しよう。
 そんなわけで件の自販機に向かうと、先客がいた。ちなみだ。何やら途方に暮れた様子で自販機を見上げているが……あ、こっちに気づいた。
 ちなみはずかずかとこちらに歩いてくると、殴る勢いで手を出した。
「……金を出せ」
「脅迫とな! お兄さん流石に驚いたよ。よもや学校で犯罪に巻き込まれるとは予想だにしなかった」
「……くだんないこと言ってないで、いーから金を出せ」
「財布でも忘れたのか?」
 ちなみは「ぐ」と小さくうめいて、手を震わせた。
「……わ、忘れてない。家に置いてきただけ。……無意識に」
「それを一般的に忘れたというのです」
「……いーから早く金を出せ」
「へーへー」
 ちゃりちゃりと小銭を投入口に入れてやる。
「んで、何飲むんだ?」
「……タカシには関係ない」
「金出したの、俺」
 ちなみは半眼で俺をじろーっと睨んだあと、嫌そうに小さく呟いた。
「……ぎゅうにゅう」
「……あー、いや、今更そんなの飲んでも背も乳も無理だと思……痛っ、痛え!」
 俺のすねを遠慮なく蹴りまくるちなみさん。痛いです。
「……黙れゴミ虫。また背とか胸のこと言ったら殺す」
「どちらも俺のストライクゾーンど真ん中なのに!?」
「……それもあるから、大きくなりたい」
「そんな馬鹿な!!? ちなみはこの全体的にちっこい感じが可愛らしいのに! 世界はまた俺を裏切るのか!?」
「……最後のだけ聞くとかっこいいのに、前半部分のせいで全部台無しだ」
「いやあ厨二病っぽいの大好きなんですよえへへへへ」
「……照れるな。気持ち悪い」
 ままならぬ。
「……いーから早く牛乳を買え、のろま」
「ええい、イチイチ罵詈雑言が付着しやがる……ほい」
 購入ボタンを押し、取り出し口から牛乳を取り出す。それをちなみに差し出すと、ひったくるように奪われた。
「ん。……ん、よく冷えてておいしい」 
「そいつぁ何より。さて、俺も何か飲むかな……」
「……クラスの女子の噂によると、これを買う男子が今モテモテらしい」
「なんだと!? そいつぁ聞き逃せん! どれだっ!?」
 ちなみが指す先を見る。
「……あの、このクソ暑いのにどうして『あったか~い』コーナーがあるんでしょうか」
「……この学校の七不思議のひとつ」
「そして、その中でもひときわ異彩を放っているものを指しているような気がするのですが」
「……だいじょぶ、気のせい」
 そう言って、ちなみはニヤニヤと底意地の悪い笑みを見せた。
「あの。なんですか、『なす汁』って」
「……なすびの、汁?」
「いやいや、いやいやいや。そんなわけない、そんなわけない。だって、金を取ってるんだよ? 金を取って、消費者に買ってもらうんだよ? 仮にも大人が……いやいや、そんなハズがない」
「……じゃあ、買ってみればいい」
「う、うぅむ……」
「……なす汁を飲む男性って、かっこいい」
「あ」
 手が無意識にボタンを押下していた。ガチャコン、と無慈悲な音が取り出し口から響く。
「……おおぅ、チャレンジャー」
「てめぇ! 何しやがる! てめぇ!」
「……やったのは自分」
「だってあんなこと言われたら体が勝手に動きますよ、普通!」
「……そんなことはない」
「ああもう、ああもう! 暑いからジュース飲みに来たのに! よりにもよってなすびの汁! しかもあったか~い! 優しい響きがまた恨めしい!」
「……うるさい」
 ちなみは迷惑そうに眉をひそめた。
「……いーから早く飲み干してこの場から去れ。もしくはこの世界から去れ」
「死ねって言われた!?」
「……だから、うるさい。早く飲め」
「いや、でも……」
 改めて缶を見る。全体が紫色で染め上げられており、一目見ただけで食欲を減退させる仕組みになっている。しかも、その紫色の上に『なす汁』という単語が無秩序に、これでもかというほど並べられている。呪いの品だと言われても納得しそうだ。
「あの、やっぱり……」
「飲め。のーめ」
 ちなみは手をぱたぱたやって俺を追い立てた。
「人が飲むと思って、勝手なことを……!」
「……それとも、ちなみが選んだの、飲んでくれないの……?」(うるうる)
「飲むに決まってるじゃないか!」
 一瞬の躊躇なく缶を飲み干……
「げほげほげほばびゅらっ!」
 無理。人類には無理ですこんなの。
「……折角媚びてやったのに、飲まないなんてタカシらしくない」
「いや頑張りましたよ!? ただ、無理です。もう完全にナスビの汁なんです。それをぬるくした感じです」
 『あったか~い』ではなく、『ぬる~い』だった。節電の影響か。
「……はぁ、しょがない。まあ、面白かったので我慢してやる」
「別に俺は面白がらせようとした覚えはないです。潤いが欲しかっただけです」
「……新しいジュースを買えばいい」
「一日にそう何度も買えるほど金銭的余裕ないんだよ……」
「びんぼーにん」
「その貧乏人に奢らせたの誰だ」
「……はぁ。しょがない、これをちょっとだけやる」
 そう言って、ちなみは自分が先ほどまで飲んでいた牛乳を差し出した。
「……いいのか?」
「……元々おごってもらったものだし、別に構わない」
「あー……いや、それとは別の件で」
「……? ……! ……か、構わない。そ、そんなの全然ヘーキだし」
 ようやっと思い至ったのか、ちなみは顔を赤くしながら目をそむけた。
「まあ、お前がそう言うなら……」
「の、飲むだけ。口つけるところぺろぺろしたら殺す」
「どんだけ変態だと思われてんだ、俺は」
「タカシならやりかねない……」
 これだけ変態だと思われている様子。悲しい。
「まあいい、いただきます」
 ストローに口をつけてちうちう飲む。先ほどのナス汁が洗い流され、清涼感に包まれる。
「……んマいっ! いや、久々に牛乳飲んだけど、うまいのな!」
「……い、いーから早く飲め、ばか」
 俺の感想なんて聞かずに、ちなみは落ち着かない様子で俺と牛乳を交互に見ていた。
「あー……その、どしてもアレだったらも一個買ってもいいんだが……」
「……さっき、お金ないって言ってた」
「や、ないのは事実だけど、まあ明日ジュース飲むの我慢すればいい話で」
「……だ、だいじょぶ。へーき。タカシなんかには負けない」
「いや、負けないって……」
「……ほ、ほら。もういいでしょ。返して」
 ちなみは俺から牛乳を奪い取ると、赤い顔でじっと見つめた。
「……じゃ、じゃあ。飲む。飲むから」
「は、はあ。どうぞ」
 無駄に緊張感をみなぎらせ、ちなみは宣言した。そこまで嫌なら素直にもう一個おごられりゃいいのに。
「……ん、んー」
「…………。あの、ネタでしょうか」
「……?」
「どうして、ストロー口にキスしてるんですか」
「!!? ……ちっ、違う。ちょっと緊張しすぎただけ。別にタカシとキスしたいとかそんなの欠片も思ってない」
 普段ならそりゃそうだろうと信じるが、もう顔全体がりんごみたいに赤くなってるので、ちょっとばかり信憑性が怪しい感じだ。
「……う、うぅ。……に、ニヤニヤするな、変態!」
「痛えっ!?」
 再びすねを蹴り上げられるも、顔の弛緩を止められない俺だった。

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