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2024年12月04日
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【ツンデレが美人過ぎて男がおいそれと声を掛けられなかったら】

2011年08月03日
 学校の中庭には、木がたくさんある。そのうちの一つ、とある木陰に座り込み、思索にふける。思索にふけるとか、俺はなんてかっこいいだ……!
「……あ、何やら難しげな顔をしているけど、実際は何も考えてない馬鹿発見」
「し、失敬な! 少しは考えてますよ! 今日の晩ご飯のこととか! ソーメン飽きたからそろそろ違うの食べたいが、先日母がスーパーで大量に仕入れていたのを見てしまったのでそれも夢幻になりそうだなあとか!」
 くるりと振り返り、なんだか自分で言ってて悲しくなりそうなことをちなみにぶちまける。
「……予想以上にくだらないことを考えていた」
「まあそれだけじゃないんですがね」
「……? どったの? 悩み事? 相談する? みんなに言いふらすけど」
 ちなみは俺の隣にちょこんと座りこみ、小さく小首を傾げた。
「最後の一言さえなければ百点だったのになあ」
「……それはもう、諦めるしかない。そのために心配したフリをしてやったのだから」
「普通の友人が欲しい……!」
「……それは私も同様」
 お互いままならないようだ。
「……で、本当にどしたの?」
 ちなみは再びくりっと首を傾げた。今度は本当に心配しているのだろう。多少は。
「いやね、お前が美人過ぎておいそれと声をかけられない状態になりたいのだが、なれないのだよ」
「……意味が分からないが、不愉快にはなった」
 ちなみは俺を睨みながら全力で人の頬を引っ張った。
「まあ待て、落ち着け。誰もブサイクとは言ってないだろう」
「……言ったも同然」
「違う違う。お前は美人ではなく、明らかに可愛いの系統だと言いたかったんだ」
「…………。そ、それくらいで機嫌を直すほど、私は簡単じゃない」
 と言いながらも、明らかに俺の頬が受ける痛みが激減している。あと、頬が少し赤らんでいる。
「まあそれはそれとして、お前が美人と仮定して、おいそれと声をかけられない状況を作りたいのだが、どうだろう」
「……どうもこうも、頭が悪いなあ、という印象を受けた」
 あながち間違っていない。
「……ま、いい。暇だし。付き合ってやる」
 ちなみは俺から手を離し、すっくと立ち上がった。
「本当か? 時々ちなみはいい奴だよな」
「…………」
「ちなみはいつだっていい奴だよー」
 またつねられたので言論を調整した。
「……はぁ。それで、私はどうしたらいいの?」
「美人オーラを振りまきながらしゃなりしゃなりとこちらに歩いてきてくれ。そうしたら、俺が行動を起こすから」
「…………。分かった」
 ちなみは難しい顔をしながら向こうへ行った。さて。
「……う、うっふん。うっふん」
 なんかうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「それは、美人では、ないです」
 ちなみの頭をぽふぽふ叩きながら、一字一句区切って説明してやる。
「……わ、分かってる。自分でもちょっと変だと思ってた」
「じゃあやるな」
「……でも、どういうのが美人かよく分からない」
「む、言われてみると確かに。俺は可愛い系にしか興味がないのでそういうものはよく見てなかった。具体例を示すなら、こんな感じの奴」
「……何をするか」
 ちなみのほっぺをふにふにしたら額を殴られた。痛い。
「時々お前のほっぺを触りたくてしょうがなくなる時があるんだ。一日に数回」
「大変に迷惑。今すぐ死ね」
「嫌です。んじゃ、もっかい美人オーラを出しながらこっちへ来てくれ」
「……さっきと同じ展開になること請け合い」
 それはお互いなんとしても避けたいところだ。うぅむと知恵をひねり出す。
「……! ……ひらめいた」
「おおっ、ちなみの頭上に豆電球が光っている!」
「……幻覚が見えている様子」
 なんてドライなつっこみだ。
「えへんえへん。んじゃまあ、やってみろ」
 ちなみはこくこくうなずいて、先ほどの位置まで戻った。そして。
「……うっふんにゃ。うっふんにゃ」
 やっぱりうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「繰り返すが、それは、美人では、ないです」
「……せっかく媚びてやったのに」
「もっと上手に媚びてください。ていうか媚びるとか言うな」
「ふにゃー」
「……いや、はい。ごめんなさい可愛いです」(なでなで)
「ふにゃふにゃ」
「いや、そうじゃない。初志貫徹しなければ!」
「……今日もタカシは私に操られてばかりだ」
 うるさいやい。
「と、とにかくだ! 最後にもう一度、やってみようではないか!」
「……もう飽きた」
「ま、まあそう言わず! 最後だから!」
「……次の休み、私の買い物に付き合うならやってやる」
「ん、ああ。それくらいなら別に構わないが……」
「……やたっ。タカシのお金で贅沢三昧」
「おごるとは言ってませんよ!?」
「……じゃあ、言質もとったので、最後にやってやる」
「取ってません、取ってません! おごるとは言ってません!」
 俺の言葉を完膚なきまでに無視し、ちなみは三度向こうへ行った。
「……にゃっにゃにゃにゃ。にゃっにゃにゃにゃ」
 もう原型を留めてないほどワケ分かんない状態で、うねうねしながら歩いてる人がこっちに来た。
「……にゃー?」
 そして、期待に満ちた目でこちらを見上げている。
「これは良い猫だ」(なでなで)
「ふにゃふにゃ。……いや、違う。なでなでじゃなくて、何かするんでしょ?」
「いやね、ちなみさん。実は『美人過ぎておいそれと声をかけられない奴に、「おいそれ!」と声をかける』という小ネタをやろうとしたんですが、そんなのよりなんかうにゃうにゃ言ってる奴をなでる方を優先したいと思った次第でありまして」
「……酷い話だ」
「まさかこんな引っ張るとは思わなくて。そもそもお前が最初から普通に美人オーラを出して歩けばいいものを、なんか語尾ににゃがついたり極めつけは全部にゃになったりするからこうなるのだ」
「……酷い責任転嫁を見た。……それで」
「ん?」
「……いつまで人の頭をなでてるか」
「ん、おおっ!」
 言われてみれば、確かに俺の手はちなみの頭をずっとなでていた。
「なんかね、幸せなんですよ、なでてると」
「……タカシが幸せになると、それに比例して私は不愉快になる」
「うーむ。じゃ、こうしよう。うにゃうにゃ言われると、俺は不幸になります!」
「……大変胡散臭いが、やってみよう。……うにゃうにゃ」
「ああ不幸だあ!」(なでなでなで)
「……ものすごく棒読み。……なでなでも強まったし」(不満げ)
「きっ、気のせいダヨ?」
「……もっかい実験。……うにゃうにゃ」
「不幸に違いない!」(なでなでなで)
「……やはり棒読み&なで力があっぷしているように思える」
「じゃあ、もう一度うにゃうにゃ言ってください。あ、次は可愛い感じでお願いします」
「……不幸になる?」
「なる! なります!」
「……死ぬほど胡散臭いが……まあ、いい。……うにゃうにゃ」
 いつもより半音高めのうにゃうにゃが出た。しかも、手を丸め、俺の胸を軽く叩く攻撃付き!
「ああ不幸だこれは実に不幸だあ!」(激なでなで)
「……喜んでいるようにしか見えない」
「いやいや、そんなまさか! 喜ぶだなんて、そんな!」
「……うにゃー」
「ああもうちなみは可愛いなあ!」(超なでなで)
「……馬脚を現した」
「しまったあ! でも、ちなみも途中で……というか、たぶん最初から気づいてたよな」
「……な、なんのことか、ちっとも分からないにゃ。……猫なので」
 ちなみは顔を赤らめつつ、明後日の方を見ながらぼそぼそっと呟いた。
「猫か。それなら仕方ないな」
「……そうなのにゃ」
 そんな感じでで、猫の頭をなでまくりでした。

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