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2017年09月24日
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【凛 誰だ】

2010年07月05日
 昼休み。飯も食い終わったので、中庭でぼやーっとしてたら、不意に視界が黒に染められた。誰かに後ろから目を塞がれた様だ。
「えへへっ。だーれだ?」
「符長彰人です」
「違うの! 彰人が誰か聞いてないの! こうやって、だーれだってやってる人を聞いてるの!」
「分かりません」
「もーちょっと考えてから、そういうことは言ってほしいのに……」
「ふむ。声から考えるに、女性、もしくはまだ声変わりが起きていない少年だろう。さらに顔に当たる手の大きさから、小柄な人物と考えられる。体温はやや低い。そこから導き出される答えは──」
「もー! 遅い!」
 折角人が答えようとしたのに、視界を開けられた。そして、件の人物が俺の前に回りこんできた。
「やっぱ凛か。こんにちは」
 俺に目隠しをしていたのは、絶賛交際中のお嬢さん、凛だった。気の強そうな切れ長の瞳が俺を見つめている。
「こんにちは! そうじゃなくて、もっと早く答えるの!」
「こんぬつはっ」(0.2秒)
「するんじゃないかと思ったけど、そうじゃないの! あとなんかなまってる!」
「田舎出身なんだ」
「嘘ばっかり……それで、何か言うことは?」
 凛は腰に手をあて、俺に何かを促した。
「ええと。よしよし?」(なでなで)
「違うの! ……ち、違うけど、もちょっと」
 欲求されたので、もっと頭をなでてみる。
「へへ……なでられちった♪」
 凛は嬉しそうにニコニコしながらなでられた箇所をさすった。
「嬉しそうで何よりです」
「うんっ♪ ……じゃなかった。あのね、彰人。彰人が好きな人がだーれだってやったんだから、すぐに分からなくちゃダメだよ?」
「すきなひと」
「そ、そだよ。……そだよね?」
 心なしか不安な面持ちで、凛は俺の顔色を窺った。
「まあ、否定はしませんが。ていうか、恋人ではないのですか」
「ち、違うもん。彰人が凛のこと好きなだけで、凛は別に彰人のこと好きじゃないもん」
「そうなの?」
「そうなの! だから、もっとしっかり凛のこと捕まえておかないと、凛、どっか行っちゃうよ?」
「浮気されて許せるほど男らしくも心が広くもないからなあ。裏切られたら絶望してすぐに自殺すること請け合い」
「しないけど! 絶対にしないけど! ずっとずーっと彰人と一緒だけど! でも捕まえておかないとダメなの!」
 凛は半泣きになりながら俺の服の袖をぎゅっと強く握った。お前が捕まえてどうする。
「捕まえるなあ……具体的には?」
「え? えと……次のお休みにデート! ショッピングとかー、映画とかー、動物園とか! あ、水族館とかもいーね?」
「次の小遣い支給日まで、お金がありません」
「彰人のかいしょーなし……」
「面目次第もない」
「しょーがないなあ……凛がおごったげるから、一緒に行こ? ね?」
「いや、しかし……」
「なに? お金ならあるから心配しなくてもいーよ?」
 凛は少し前まで豪奢な衣装を纏ってTVカメラや人前で踊ったり歌ったりする仕事に就いており、その時に貯めた金がものすごいことになっている、というのを以前本人の口から聞いたことがある。
「うーん。やはり女性におごられるというのは、どうにも男としてプライドが邪魔をする」
「気にしないでいいのに……。だいたいさ、もし凛と結婚したら、彰人は一生凛におごられっぱなしなんだよ? だから、全然気にしなくてもいーんだよ?」
「クズ男の見本みたいで嫌なので、凛と結婚はしないでおこう」
「もし結婚したらお金全部どっかに寄付するから平気だよ!?」
「それはそれでどうかと」
「うー……そんなのいーからデート! デートするの! デートデートデート!」
「あー、はいはい、分かったからあんま連呼するな。だが、デート費用は俺に出させてもらおう。男のささやかなプライドを守らせてくれ」
「うんっ、うんうんっ! えへへっ、やったね。彰人とデートだ。……えへへっ♪」
 凛ははちきれそうな笑顔を振りまいた。見てるこっちまで嬉しくなってきそうだ。
「そこまで喜んでいても、俺が好きではないのですね」
「う……え、えと、そう。そうなの。彰人が凛を好きなだけで、凛は別に、って感じなの」
「悲しさのあまり自殺しそうだ」
「別にって感じの中でも最上級の好きだから大丈夫だよ!?」
 何が大丈夫なのか。しかしまあ、必死の形相で俺の服の袖を引っ張っているので、やめておこう。
「うー……彰人はすぐ自分の命を脅迫の材料に使うよね」
 凛は少し不満そうに俺の鼻をむぎゅーっと押した。
「あまり押すと自爆装置が作動するので危険ですよ?」
「彰人ってロボットなの?」
「初耳だ」
「彰人って、基本的に思考が混乱してるよね」
 なんて失礼な奴だ。髪をわやくちゃにしてやれ。というわけで、両手で凛の頭をわしわしする。
「うやー♪」
 失敗。なんか喜ばれただけだった。
「ううう……うふー。へへー、なんかまたいっぱいなでられちゃった♪」
「じゃあそういうことで、次の休みはどっかデートな。そして現在、腹いっぱいの俺は眠い」
「そなんだ。……あのさ、膝枕。してあげよっか?」
「ほう、それはナイス提案。んじゃ、早速お願い」
「ちょっとは照れるとか喜ぶとかしてほしいのにぃ……」
「凛に膝枕されるというとんでもない事態に、心臓がドキドキを堪え切れず爆発四散しそうだ」
「また思ってもないこと言って……うー、それでも嬉しくなっちゃう自分がヤダ」
 凛は少しだけふてくされた顔をして、正座した。そして、俺にこいこい手招きした。
「はい。準備かんりょーだから寝ていいよ?」
 いいらしいので、凛の太ももに頭を乗せる。少々肉付きが足りないが、それでも一応は女性なのでもふもふして柔らかい。
「へへー。どう? どう? 気持ちー?」
 凛は俺の顔をぺたぺた触りながら、ニコニコ訊ねた。
「悪くない」
「もっと全力で喜ぶの! わーいって!」
「わーいって」
「余計な部分がついてるの!」
「いって」
「必要な部分がどっかいっちゃった!? ……もーいーよ。彰人に普通を要求した凛が馬鹿だったよ」
「いって、炒って……コーヒー豆? むぅ、なんかコーヒーが飲みたくなってきた」
「しかも、なんか勝手に話進めて、勝手にコーヒー飲みたくなっちゃってるし……」
「ちうわけで、凛。そこの自販機で缶コーヒー買ってくるから、ちょっと待ってて」
「あっ……」
 名残惜しいが凛の太ももから離れ、自販機に向かおうとしたら手をきゅっと握られた。
「凛?」
「凛も一緒に行く」
「え、いや、すぐそこなんだけど……」
 中庭を挟み、ほんの50mほど先の自販機を指差すが、凛は手を離そうとはしなかった。
「一緒に行くの! ……ほ、ほら、彰人、一人だったら泣いちゃうだろうし」
「幼児か、俺」
「いーから一緒なの!」
「まあいいか……」
 凛と二人、おてて繋いで自販機へ向かう。その道中、何やら隣からじーっと見られているような。
「どした、凛?」
「んー? なんでもないんだけどね……えへへ。一緒がね、嬉しいの♪」
「…………」
「り、凛がじゃなくて、彰人がそうじゃないのかなーって思っただけなんだよ!? ほ、ホントに……ホントだよ?」
「可愛いですね」
「う!? ……そ、そりゃ可愛いもん。元アイドルだもん。で、でも唐突にそゆこと言うの禁止!」
「見た目もそうだけど、今回は性格の方です」
「なっ!? ……う、うー! そゆの禁止! 凛を喜ばすの禁止!」
「なんて無茶な。言論の弾圧だ」
「弾圧でもなんでも禁止! 禁止なの!」
 隣でわきゃわきゃ言いながらにやにやしてる赤ら顔の生物を引きつれたまま、俺はゆっくり中庭を横断するのだった。

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