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2024年04月20日
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【犬子 幼なじみ風味】

2010年07月16日
 俺には幼なじみがいない。いや、厳密に言うといるのだけど、野郎なので却下。男の娘なら許可。……いや、むしろ!
「あ、あの、符長くん? どしたの、にやにやして」
 男の娘幼なじみとの愛ある生活を想像してたら、俺のにやにや顔に興味を引かれたのか、犬子がひょこひょこやって来たのでびっくりした符長彰人ですこんにちは。……む、脳内こんにちはが発生した! でもまあいいや。
「いや、ちょっと未開発の菊を」
「へ?」
 いかん。いくら相手が犬子とはいえ、さすがに男の娘はレベルが高すぎるだろう。
「あー、なんでもない。あ、そうだ! 良いことを思いついたのでそれに付き合え」
「唐突ながら、とっても嫌な予感がするよ……」
「大丈夫だ。俺は問題ない」
「私が問題あるの!」
「それで、思いついたことなんだが」
「今日も話を聞いてないよ……」
 何やらがっくりした顔が目の前にあるが、そういう類の顔とはよくエンカウントするので気にせず話を進める。
「俺には幼なじみがいないんだ。でも、ギャルゲやエロゲにはほぼ標準でいるだろ? それが羨ましくってしょうがないから、明日だけでいいから、お前は俺の幼なじみだ」
「え?」
「だから、朝起こしに来い。飯も作れ。いつも綺麗でいろ。出来る範囲でいいから」
「途中から関白宣言になってるよ、符長くん!」
「しまった、さだまさしの亡霊が俺に乗り移ったか」
「絶賛存命中だよっ!」
「じゃあ生霊が乗り移ったんだな」
「もうそれでいいよ……」
 諦められた。根性ナシめ。
「それで、えっと……朝起こしに行って、ご飯作ってほしいってことなのカナ?」
「簡単に言うと、そうなんだ。でも、よく考えると非常識極まりないことに気づいたのでやっぱいいや」
「ん~……でも、してほしいんだよね?」
「それは、まあ」
 幼なじみに起こされる。それは思春期の男子であらば誰しもが憧れる夢であろう。もしくは姉とか妹とかメイドとかネコミミ少女とか魔法少女とかスク水少女とか武家少女とか。
「……いや、朝から刀持った奴に起こされるのはちょっとアレだな。というか後半おかしいな」
「うん?」
「ああ、こっちの話」
「ふぅん? ……あの、あのね。もし符長くんさえよかったら、私、起こしに行ってもいいよ?」
「マジか!? いやさすがは犬子、持つべきものは忠犬だな」
「今日も犬扱いだよ……」
 悲しそうだったので頭なでてあげた。
「え、えへへ?」
 疑問系扱いながらも嬉しそうになったので、よかったと思った。

 そんなわけで、翌日。起こしに来るというので目覚ましをセットせずに寝てたら、何者かが優しく俺を揺り起こしている感覚が。
「お、おはよっ、符長くんっ。あ、朝だよっ?」
 緊張しているのか、声が裏返っている。しかし、その程度のおもしろ起こしでは俺は起きない。ていうか本当は起きてて目をつむってるだけなんだけど。
「え、えと、なんて言うのかな……あ、そだ。んと、は、早くしないと学校遅れるよ?」
「zzz」
「うぅ、ダメかぁ……あ、あのね、符長くん。早く起きてくれないと、ご飯が冷めちゃうよ?」
「zzz」
「うー、zしか返ってこないよ……。あ、あのね、あのね。今日の朝ごはんはね、ご飯とー、お味噌汁とー、玉子焼きだよ? だから早く起きてよ。ねー、ねーってば」
「zzz幼なじみは起こしにきたものの、一緒に寝てしまうのが相場だzzz」
「明らかに起きて指示してるよぉ……。で、でも、その、あの、そうやったら符長くん起きる?」
「起きるzzz」
「意思の疎通ができてる状態を寝てるっていうのか疑問だけど……わ、分かった。私、頑張る。頑張って、符長くんと一緒に寝る!」
「ふしだらな犬だなあzzz」
「そういう意味じゃないよ!? い、いっしょにぐーぐー寝るだけで、えっちなことはしないんだよ!?」
「ちっ」
「うう……符長くんのえっち。あと、zzzがついてないよ?」
「めんどくさいんだ。脳内で追加しといてくれ」
「明らかに起きてるよ……。じゃ、そ、その、ね、寝るからちょっとスペース空けて?」
 お願いされたので、ベッドをごろごろ転がってスペースを開けたら壁とベッドの隙間に落ちた。
「わっ、符長くんが消えた!? 手品?」
「消えてません。隙間に落ちたのです。助けて」
「わ、分かったよ! ……わっ、わっ! 符長くんが面白いかっこうで挟まってるよ!」
 朝から辱めを受けたが、どうにか犬子に救出してもらい、事なきを得る。
「ふぅ……死ぬかと思った」
「どうして起きるだけで死にかけられるの?」
「うるさい。んじゃ、続き。寝るので俺の隣に寝るように」
「もう起きてるよ?」
 犬子がにこにこ笑いながら俺の頬を無遠慮にぺちぺち触ってきたので、お返しとばかりに頭をもふもふする。
「えへへっ。おはよう、符長くん?」
「一見起きていますが、実は夢遊病で本当は寝てるんだ。幼なじみが隣で眠り、それに気づかなけれ起きられないんだ」
「今までどうやって起きてたの?」
「今までずっと夢遊病で生活してたんだ」
「そっちの方がすごいよ!」
「そんなわけで、初の起床をしたいのでお願いします」
「明らかに嘘だよ……」
 信じられる所が一切ない言い訳を繰り出した後、俺は再びベッドに横になって犬子を待った。
「うー……私が寝たら、本当に起きる?」
「起きること請け合い」
「……じゃ、じゃあ、寝てあげる。でっ、でも、えっちなことはダメだよ!?」
「しないしない、犬子が相手なのにするわけがない」
「それはそれで女心がずたずただよ!」
「じゃあ乳も揉むし、尻も触るし、ちゅーもする」
「極端だよ、符長くん!」
 一体どうしろというのだ。
「あ、あのね? 抱っこくらいならいーよ? それでね、それでね? そのあとにね、優しーく頭なでたりとかー、甘ーい言葉とかー、……ね?」
「…………」
 薄目を開けて犬子をじーっと見る。
「たっ、例えばだよ、例えば!? 私がそーゆーのしてほしいとかじゃなくって!?」
「……ああ、うん。そだな」
「ううう……優しい声と視線がいっそ辛いよ……」
「とにかく、寝れ。犬子が嫌がるようなことはしないから」
「…………。そだね、そだったね。符長くんは優しいから、私が悲しむようなことはしないもんね?」
「今日も犬子は俺という人間を誤認識しているようだな」
「えへへー。符長くんはいっぱい優しいけど、いっぱい恥ずかしがりやさんだもんね?」
「黙らないと犯す」
「思ったより怖かった!?」
「それが嫌なら一緒に寝ろ。もしくは通報しろ」
「なんで通報を自ら仕向けるのか分かんないけど……寝るのはいいよ?」
「ふしだらな犬だなあ」
「話がループしてるよっ!」
 今日も俺は時空の歪みに迷い込みがちです。
「うぅ~……じゃ、じゃあ、寝るから、えっちなことしちゃだめだよ?」
「任せろ、得意だ」
「一切信用できない台詞が飛び出したよぉ……」
 ぶちぶち言いながらも、犬子は俺の隣にそっと身体を横たえた。
「お、お邪魔します!」
「そんな緊張して寝る奴がいるか」
「だ、だって、緊張するに決まってるよ! め、目の前に符長くんの顔があるんだもん!」
「ああ、これは失敬。すぐに身体をずらし、犬子の目の前に尻を突き出すからそれまで我慢してくれ」
「どうしてそれで緊張がほぐれるって思うんだろ……?」
 不思議そうだったので、尻移動はやめる。
「……あれ? なんか緊張ほぐれちゃった。へへー、やっぱ符長くんはすごいね?」
「犬子と一緒の布団にいるだなんて、まるで新婚初夜のようでドキドキするなあ」
「緊張がぶり返したよ! わざと言ったに違いないよ! は、はうううう!?」
 見る間に犬子の顔が赤くなっていったので大変愉快。
「まあそう緊張するな。痛いのは最初だけという話だぞ?」
「明らかに初夜の話だよ、符長くん!」
「じゃあさういうわけで、寝るのでお前も思わず寝るように」
「緊張真っ最中なのに、寝れるわけないよ!」
「むぅ。……ええと、実は緊張が解れるであろう手段を保持しているのですが、少々お前の身体に触れてしまうのだけど、どうだろう?」
「少々って……どのくらい?」
「妊娠する程度」
「超お断りだよ!」
 ものすごく手をNOな感じにされた。
「冗談です。ちょっと抱っこする程度です」
「……抱っこ?」
 ぴたり、と犬子の動きが止まった。
「……あの、むぎゅーってするやつ?」
「むぎゅーという擬音が似合う技を抱っこ以外保持していないので分からないけど、たぶんそれだと思います」
「……え、えと。あのね、いいよ、抱っこ? ほ、ほら、緊張を解すためだし?」
「なんか既に解れてませんか」
「そっ、そんなことないよ!? ほ、ほら、すっごく緊張してるもん! ほーら、びりびりびり!」
「ひぃ、漏電!」
「緊張でぷるぷる震えてるだけだよ、符長くん!」
「なんだ。まあともかくやるので覚悟はよろしいか?」
「うっ、うん」
 なんかカクカクしてる犬子の頭を、むぎゅっと抱きしめる。
「ふわ、ふわわ!?」
 そして、その頭を自分の胸に押し付ける。
「……え、えと?」
「こうやって心音を聞かせることにより、落ち着くんじゃないカナ落ち着くんじゃないカナ」
「なんで二回言ったのか分かんないけど……聞こえないよ?」
「じゃあもう俺は死んでるんだよ」
「符長くんが!?」
「あ、しまった。こっちだ、こっち」
 犬子の頭を右胸から左胸へ移動させる。
「よ、よかった、とっくんとっくん鳴ってるよ。……もー、びっくりして私の心臓が止まるかと思ったよ」
「大丈夫だ。知り合いに墓石屋がいるから、安く作ってもらえるぞ」
「誰もそんな心配してないのに……」
「わはは。んで、どうだ? ちったあ落ち着いたか?」
「ん、んと……ちょっと待ってね」
 犬子は俺の胸に耳を押し付け、目をつむった。そして、深く呼吸しだした。
「……ふぅ。あ、ホントになんか落ち着いちゃった。すごいね、符長くん?」
「カナ坊シナリオで身につけた技だ」
「金棒?」
 理解していないようだが、まあいいや。もう大丈夫なようなので、犬子から身体を離す。
「落ち着いたようなので、そろそろ俺を起こし」
「あっ! ま、またドキドキしてきちゃったよ! だ、だから、もーちょっと抱っこしてもらわないとダメ、みたいな……?」
「…………」
「え、えと……ダメかな?」
 そんなおあずけを喰らった犬みたいな表情をされて、一体誰が断れようか。
「……5分だけな」
「うんっ、うんっ!」
 嬉しそうな犬子を再び抱っこする。
「えへへー♪」
 犬子はニコニコ笑いながら俺の顔をぺたぺた触りだした。
「寝るのではないのか」
「そうなんだけど……なんかね、近くが嬉しいの♪」
「…………」
「ふっ、深い意味はないけれどもだよ!?」
「あ、ああ。そうだな」
「う、ううー……」
「そう尻を赤くして威嚇するな」
「顔を赤くしてるんだよ! 照れてるの! 犬どころか猿扱いになっちゃったよ!」
「別に奴らは威嚇のために赤くしているわけではないと思うが」
「なんでもいーの!」
 誤魔化すように、犬子はむぎゅっと俺に抱きついた。その背に手を添え、こちらからも抱っこする。
「……ふぅ。……符長くんに抱っこされてると、なんかほんとーに落ち着くなー」
「む、落ち着いたのだな?」
「起こすレベルまではいかないけど! 落ち着くなーっていう話!」
「…………」
「え、えへへ?」
 罪悪感があるようなので、まあよしとしよう。犬子の頭をわしわしとなでながらそう思った。

 が、それも少しの時間なら、の話。
「なんで本格的に寝ちまうんだ!」
「だ、だって、だって!」
「もう12時だぞ、12時! 昼過ぎてる!」
「う、ううううう~! そ、そんなこと言っても、符長くんも責任はあるよ、責任重大だよ! ずーっと私の頭優しくなでてたもん! そりゃ気持ちよくってぐーぐー寝ちゃうよ!」
「イヌミミ検査をしていただけだ。そして、その最中に誤って二度寝しただけだ」
「髪だもん! イヌミミなんかじゃないもん! 二度寝しちゃった人には私を責める権限ないもん!」
 などと言い合いながら、学校までの道のりを走る俺たちだった。

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