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2024年03月29日
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【悪の組織の幹部なツンデレと新人ヒーローな男4】

2010年03月03日
 ヒーローとはいえ、冬は寒い。
「ふっふっふ、よく来たなヒーロー。見よ、これこそが荒ぶる海の悪魔、怪人ホンマグロだ! 強い上おいしいという素晴らしい怪人だぞ! ふふん、恐れ入ったろう?」
「なんでこんなクソ寒いのに海なんかで悪事を働くか、このおばか!」
 大威張りしてるみことのおでこを指でぐりぐりする。
「うああっ、ぐりぐりするなっ! くっ……なんたる屈辱だ。許さん! いけっ、怪人ホンマグロ!」
「しゃー」
 おでこを押さえるみことに命じられ、怪人ホンマグロは海に飛び込み、海中をぐるぐる回った。海の中にいる奴が相手では、俺の武器(火炎放射器)じゃ効果が薄い。どうする……おや?
「ま、待て怪人ホンマグロ! どこへ行く!?」
「しゃー……」
 しばらく回転した後、ホンマグロは地平線の彼方に消えました。
「…………」
 みことは呆然と地平線を見つめている。どうしよう、とても気まずい。
「……ええと、今日も恐るべき相手だった!」
「戦ってない! 逃げた! なんだあいつ、折角稚魚の時から頑張って育ててやったのに! ああもうっ!」
 みことは地団駄を踏んで悔しがった。割と手間をかけているのだなあ。無意味だったけど。
「……と、とにかくだ! 今日のところは勝負を預けてやる! 次こそが貴様の命日にゃーっ!?」
 突然みことが猫化したのではなく、俺が背中からむぎゅーと抱きしめたため、猫っぽくなったのだろうと思う。
「ま、またかまたなのかっ!? また我をすりすりするのか!?」
「いや、今日は寒いので人肌で温まろうかと」
「我はホッカイロではないっ! ええいっ、離せ離せ離せっ!」
「ちゅーしてくれたら離す」
「誰がするかっ! いつもいつも我にすりすりしおって……我を誰だと心得ておるっ! 我こそは数万の兵を統べる悪の大幹部、みことだぞっ!」
「そんなみことも今は俺のホッカイロ。落ちるのは早いな」
「ちーがーうーっ! 落ちるとか言うなっ! ああこらっ、すりすりするなあっ!」
 みことのふにふにほっぺにほおずりする。とてもやーらかくて幸せ。
「この……いい加減にしろっ!」
 俺の腹に肘打ちして、みことは素早く離れた。
「ぜーっ、ぜーっ……貴様、ヒーローならばヒーローらしくちゃんとしろっ! どうしていつもいつも我にすりすりうにゃあああ!?」
「だから寒いと言ってるだろう!」
 離れた距離をヒーロー力で詰め、今度はみことを前からぎゅっと抱きしめる。
「はっ、離れた、離れてたのにっ! ずるいぞ!」
「今日は戦ってないのでヒーロー力が余りまくってるんだ」
「いつも戦ってない! 火炎放射器で燃やすだけだろっ! そうだ、いい機会だから教えてやる! そもそもヒーローが戦闘するなり必殺技使うなんて」
「うーん、やっぱ寒いな。よし、帰ろう」
「ままま待て! 話を聞けっ! いやそれより、我を置いていけ! 貴様の基地なんかに連れて行かれたら、我を拷問して秘密を聞き出した後、色んな男が我に、その……色々するに違いない!」
「いや、えっちなことするのは俺だけと決めてるよ? 俺のみことに酷いことなんてさせやしない!」
「だっ、だだ誰が貴様のものかっ! 貴様なんてだいっ嫌いだっ! 離せばかーっ!」
 みことは顔を真っ赤にして暴れた。
「ええい、暴れるねい。連れて行かれるのが嫌なら、代わりにやってほしいことがあるのだけど」
「ま、まさか……まさかまさか!?」
 何かを察したのか、それとも経験が知らせるのだろうか、みことは声を荒げた。
「さーやってきましたイチャイチャラブタイム! 俺の大いなる性欲……げふんげふん、大いなる愛に、果たしてみことは耐えられるでしょうか?」
「性欲って言った、言ったぞ!?」
「気のせい。さて、とりあえずちゅーしましょうか」
「せんわっ! 何をさも当然のように言ってるか!」
「何だと!? こんなにちゅーしたいのにか!?」
「我はしたくないわいっ!」
 なかなか俺の願望とみことの願望は合致しないようだ。
「ちぇ。非常に不満ですが、すりすりで我慢します」
「何が不満か! 我はすりすりだって嫌なのだぞ! そんな態度だと、してやらんぞ!」
「すいません、ほおずりしてください」
「まったく……最初からそう言えばいいのだ。いいか、我は貴様に強要されて嫌々するのだぞ? その辺り勘違いするなよ!」
 そう強調して、みことは俺にほおずりした。もちもちした頬の触感が気持ちいい。
「んに、んに……ど、どうだ? もうよいか? もうよいな?」
「まだ。あと12時間」
「長すぎるわ! もっと常識で考えてものを言え!」
「それくらいしてほしいほど幸せなんですよ、この時間が」
「ぬ……ま、まあ我も鬼ではない。もう少しだけやってやろう」
 満更でもない顔をして、みことは再び俺にほおずりをした。
「しかし、相も変わらずふにふにで、幸せすぎて死にそうですね」
「お、大げさな。……そんなによいのか?」
「いい。一生このままこうしていたい」
 あまりの心地よさに、思わずみことをぎゅっと抱きしめ、自分からふにふにほっぺにすりすりする。みことはくすぐったそうに目を細めた。
「こらっ、やめよ」
「へへへっ。みことー」
 感極まって、みことのほっぺをぷにっと押す。
「にゃうっ。こら、何をするか。このイタズラ坊主めが」
「あっ、便所行ったあと手洗ってなかった」
「にゃうううううーっ!!?」
 みことが極めて猫っぽくなったかと思ったら、俺を思い切り突き飛ばした。
「いたたた……なんだよ、折角恋人みたいな甘々空気だったのに」
「どこに汚い手で恋人を触る奴がおるっ!」
「世界に一組くらい、そんな恋人がいてもいいと思わないか?」
「思わんっ! そ、そもそも、我と貴様は恋人でもなんでもないっ! 敵同士だっ!」
「あんなにラブ空気を出しておいて、何を言ってるかな……」
「そっ、それは貴様があんまりにも幸せそうだったから、我もついムードに飲まれて、その……」
「じゃあもう一度しましょう。ラブ空気出すから。はあっ!」
 数ある特技の一つ、ヒーロー蒸気を出して周囲を霧に包む。
「な、なんだっ!?」
「ラブ空気」
「明らかに違うっ! 見えん、何も見えんぞっ!?」
「おや、確かに1m先も見えませんね。これは困った。はっはっは」
「ぬ、しかしこれは逃亡のチャンス……はっはっは、自らの技で我を逃がすとは、愚かなりヒーロー! 覚えていろ、いつか必ずぎゃふんと言わせてやるっ!」
 はっはっは、という高笑いがしたかと思うと、
「みぎゃっ!」
 何かにぶつかったのか、みことは愉快な声を上げた。
「おーい、大丈夫かー?」
「うっ、うるさいっ! ちょっとおでこぶつけただけだっ!」
 その後も“みぎゃ”とか“ふぎゃ”とか言う声と何かにぶつかる音を出しながら、どうにか逃げれたようだった。

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