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2024年04月17日
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【月刊お姉ちゃんの占いコーナーを一緒に見ようとせがむちなねえ】

2010年03月31日
 外から帰ってきて、汗かいた。着替えよう。
「上着分離! ズボン分離! そして……パンツマン参上!」
「…………」
 一人でかっこいいポーズを決めてたら、いつの間にか部屋に入ってきていたちなねえに無言で見られてた。
「…………」
 固まったまま、ちなねえと見つめあう。
「……タカくんではなく、パンツマンでしたか。……失礼しました」
「いやあああ! 見ないで、俺を見ないで!」
 あまりの羞恥にしゃがみ込み、頭を抱える。
「……誰にでも一つや二つ、人に言えない趣味があるものです」
「違う、趣味じゃないです! ちょっと魔が差しただけなんです!」
「……いいんです。……どんな特異な趣味を持ってたとしても、お姉ちゃんはタカくんを見捨てたりしませんから」
 いっそ見捨ててくれた方がどれだけ楽か。とにかく、急いで着替える。
「はぁぁぁぁ……。んで、ちなねえ。なんか用か? 俺は今から傷心の旅に出かけるので手短に」
「……今日買ってきた本の占いを、一緒に見ようと思いまして」
「あ~……俺、そういうのあんま信じてないんだよな……」
「……お姉ちゃん、なんだかタカくんのステキな趣味をお友達に教えたくなりました」
「是非見ましょう、いま見ましょう、すぐ見ましょう! ちなねえと一緒に本を見れるなんて幸せだなぁ!」
 ちなねえの脅迫にあえなく屈する。
「し、幸せだなんて……タカくんの幸せは簡単ですね」
 やけに嬉しそうに俺の背中をばんばん叩くちなねえ。遠慮なしなので結構痛い。
「……さ、さぁ、早く見ましょう」
 ちなねえは持ってきた包みを破り、中の雑誌を机の上に広げた。目に痛いほど弟という文字が並ぶ。
「……また月刊お姉ちゃん、スか」
「……家宝に成り得るほど、良い本です。……ええと、占いコーナーは、と……」
 ぱらぱらとめくり、目当てのページで止まる。
 本来なら『今月の恋愛運』とあるべき場所に、『今月の弟運』とあった。なんだ、弟運って。
「……今月の弟運は最高。……弟と急接近の予感。……ラッキープレイスは、近所の公園」
 ちなねえがにやにやしだした。
「……タカくん。お姉ちゃんは、なんだか公園に行きたくなりました。……ただ散歩したいだけで、他の意図は全くありません」
「ちなねえ、嘘下手すぎ」
「…………」
 ちなねえがしょんぼりした。なんだか可哀想になったので、つきあってあげることにする。
「というわけで近所の公園ですが、暑いせいか人気があまりないね、ちなねえ」
「……弟と急接近。……どきどき、どきどき」
 俺の話を聞かず、ちなねえは口でドキドキ言っていた。
「変な人だ」
「むっ。……お姉ちゃんは変じゃないです。……変の称号は、タカくんにこそ相応しいです」
「はいはい。しかし、あっちーなぁ」
「むむっ。……お姉ちゃんを適当にあしらうとは、許しがたいです。……罰です」
 そう言うと、ちなねえは俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「ちっ、ちなねえ!?」
「……この暑い中、私とくっつくことで体温を上昇させるという罰です。……熱中症にならないよう、注意が必要です」
 もう熱中症になってるんではないだろうかと心配するほど赤い顔のまま呟くちなねえ。
「はぁ……やれやれ」
「……罰ですから、もっとくっついて体温を上昇させます」
 そう言って、ちなねえはさらにくっついてきた。控えめな胸の柔らかな感触が腕に伝わる。
「ちっ、ちなねえ! あ、当たってる、当たってるから!」
「……あ、当ててるんです」
「んなこと言ってると打ち切りされるぞ!」
「……? タカくんは今日もよく分からないこと言いますね。……あ」
「ふぎゃっ!?」
 いきなりちなねえに押し飛ばされ、顔面から木にぶつかる。
「いつつ……いきなり何すんだよ!」
「あれ、別府くんじゃない。何やってるの?」
 ちなねえに文句を言ってると、クラスメイトの梓に声をかけられた。
「あー……木陰で休んでる」
「暑いもんね。えっと……こちらは?」
「……お初にお目にかかります。私、これの姉です」
 俺を突き飛ばしたにも関わらず、涼しい顔をしてるちなねえが梓に自己紹介した。
「あ、は、初めまして! ボク、梓って言います! よろしくです!」
「なに緊張してんだよ」
「だ、だって……綺麗な人だし」
 俺にしか分からないほど小さく、ちなねえがにやけた。
「ちっこいけどな」
「……弟の度量ほど小さくないです」
「し、失敬な!」
「あはは……それじゃボク行くね。また学校でね、別府くん。お姉さんもサヨナラ」
 バイバイと手を振って、梓は公園から出て行った。見えなくなった途端、ちなねえがすすすーっと俺のそばに寄ってきた。
「……タカくん。顔、大丈夫ですか?」
「どっかのちっこいのにいきなり押し飛ばされ木にぶつかったため、大変痛い」
「……ごめんね、タカくん。……悪いお姉ちゃんでした」
 そう言ってちなねえは俺のそばにしゃがみ込み、俺の頬を両手で優しく撫でた。
「……痛いの、取れました?」
「あ、うん。……じゃなくて! なんでいきなり突き飛ばすんだよ!」
「……だ、だって、……そ、そうです。……タカくんがお姉ちゃんと一緒にいて、彼女さんと勘違いされないようにしただけです」
 少しだけ目を反らし、ちなねえは小さな小さな声で「……腕組んでるの見られて恥ずかしいから、突き飛ばしたんじゃないです」なんて言った。
「……そースか。お気遣いに感謝します」
「そ、そうです。……タカくんは、もっとお姉ちゃんに感謝すべきです。た、例えば、……なでなでして労わる、……とか」
「今年で何歳ですか、なでなでされると喜ぶ人」
 ちなねえが泣きそうになった。可哀想なので撫でた。
「……やっぱりあの本の占いは当たります。……的中率ばつぐん、です」
 なんて言って、ちなねえは微笑んだ。……ちょっとドキドキした。
「……そ、そうだタカくん。弟と一緒に寝ると、世界平和になると占いに」
「却下」
 ちなねえは悲しそうにうつむくのだった。

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