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2024年05月05日
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【寝過ごした男】

2010年03月21日
 目覚めるとちなみが隣でぷーぷー寝息を立てていた。
 ははぁ我ながら俺の全自動ロリ鹵獲機能も大したものだなあと一瞬驚嘆したものの、そんなわけはないと頭を振る。
 なんでコイツが隣で寝てんだ。とりあえず、起こして事情を聞こう。
「ちなみ、ちなみ。起きろ」
「……んー?」
「いや、んーではなくて。起きろ」
「……んー。……うー、眠い」
 ちなみはうっすら瞼を開けると、手でこしこしこすった。そして、大きく口を開けてあくびをした。
「……ふわぁぁぁ。……ふう」
「女の子がそんな大口開けるな。ちょっとは隠せ」
「……うるさい」
「それはともかく、現在の状態について事情を聞きたいのだが」
「……むぅ。タカシは眠い私を無理やりに起こし、頭が回ってないのをいいことに騙くらかしてちゅーとかしようと画策しているに違いない」
「寝起きでそういうことをすらすら言える人が頭回ってないとは思えませんが」
「…………」(不満げ)
「睨むな。それより、なんで人の布団でぐっすりすやすや寝ていたのか説明を求める」
「……まあ、端的に言うと、タカシが悪い」
「端折らずに言ってください」
「…………」(不満げ)
「だから、睨むな。いいから普通に言え」
「……起こしに来てやったのに、タカシと来たら平和そうな顔で寝てた」
「はぁ。まあ平和かどうかは知らないが、寝てたわな」
「……で、一所懸命起こしてやったのに、ちっとも起きない。時間は逼迫している。なのに、ちっとも起きない。起こしているうち、なんだか疲れてしまって私も眠たくなってきた」
「嫌な予感がしてきましたが、続けて」
「……丁度目の前には布団が。何か横で歯軋りをしてる物体があるけど、布団には換えられない。……で、ぐっすりすやすやと」
「なるほどそうか。眠くなったと」
 ちなみはこっくりうなずいた。そのどたまにチョップを落とす。
「……痛い」
 ちなみは両手で頭を押さえ、不満げに俺を睨んだ。
「起こしに来てくれたのはありがたい。感謝する。だが、どうして一緒に寝てしまうのか」
「……眠かった」
 極めて簡潔で分かりやすい理由だが、再びチョップを落とす。
「……痛い」
 再度頭を押さえ、ちなみは俺を不満げに睨んだ。
「はぁ……まあやってしまったものは仕方ない。とりあえず学校……学校?」
 恐る恐る時計を見る。一時間目はとうの昔に終わっており、二時間目も半ば過ぎている時間だった。
「はっはっは……いや、ここまで全力で遅刻するのって初めてだなあ」
「タカシのせいで私まで遅刻だ。……まったく、タカシは人を悪の道に引きずりこむのが上手すぎる」
「起こしに来たのにその業務を全うせず、あまつさえ自分も寝てしまった奴は言うことが違うな」
「…………」(不満げ)
「だから、睨むなっての。あー、もうここまでの遅刻だと多少急いだところで変わらんな。ちなみ、お前飯は?」
「……うちで食べてきた」
「そか。じゃ、俺は自分の食ってくるから、お前は適当に待っててくれ」
「……でも、睡眠でカロリーを大量に消費したので、ご飯を食べる必要がある」
「……はぁ。一緒に食うか?」
 コクコクうなずく生物を引き連れ、台所へ。両親は、まあこの時間なら当然だが、既に出かけているようだ。米は……あるな。
「何にすっかな……ちなみ、何がいい?」
 ちなみは食卓に着くと、足をぱたぱたさせながら何にするか思案しているようだった。
「……んと、おにぎり」
「熱いから嫌だ」
「……予めコンロでタカシの手をあぶれば、熱さに抵抗ができるため、おにぎりを握っても熱くない。……名案?」
「愚策。なぜならあらかじめの時点で俺の手が黒焦げになるから」
「…………」(不満げ)
「いちいち睨むでない。まあいいや、おにぎりな。作るからちょっと待っててくれ。あ、何個食う?」
「……ふたつ」
「食ってきたくせに、結構食うな。太るぞ」
「…………」(超不満げ)
「まあ、お前はちっとやせすぎだから多少は肉あるほうがいいけど。んーと、塩しお……」
「……褒めているように見せかけ、絶妙に私の胸がないことを指摘するタカシは悪魔だ」
「どんだけ悪くとってんだよ……あ、あった」
 引き出しの中にあった塩を取り出し、準備完了。炊飯器を開け、手を軽く濡らして塩をつけ、米を手に乗せる。
「あっちぃ!」
「……ふぁいと」
「応援するならもっとやる気を出してやってくれ!」
「……ふぁいとー」
「聞いているだけでどんどんやる気がなくなってくるその技術はすごいな」
 後ろにいるのでどんな顔をしているのか分からないが、何か不満げな雰囲気がこちらにまで漂ってきた。
「怒るな。んーで、具は何がいい?」
「……しゃけ」
「ない」
「……しーちきん」
「ない」
「……この家には何もない」
「失礼なことを言うな。偶然切らしてるだけだ。昆布はあるぞ」
 言いながら、勝手に塩昆布をおにぎりに詰める。
「……それしかない、とも言う」
「うるさい。ほい、できたぞ」
 言ってる間にぽんぽん作り、皿におにぎりを5つ乗せ、食卓に置く。
「ちょっと待ってろ、手洗ってくるから一緒に食おう」
「……それには及ばない予感」
「ん?」
 ちなみは俺の手を取ると、何のためらいもなく口に含んだ。
「人の手を食うな」
「……ぺろぺろ。……んと、水で洗うより、舐め取った方が、地球に優しい?」
「言ってることは素晴らしいが、そういった地球に優しいだのエコだのって台詞は超嫌いです」
「……私の唾液に含まれる毒素を送ってる最中?」
「それだ、それこそがちなみだ!」
「…………」(がじがじがじ)
「何も言わずに歯を立てるでない。痛いです」
「……ふん、だ。……ぺろぺろ。……はい、綺麗になった予感」
「感謝したいが、結果お前の唾液まみれであまり変わらないような」
「……タカシは私の指も舐め、お互いに唾液まみれにしてえと言う」
「言ってねえ」
 ……まあ、その提案は非常に甘美な誘いではあるけど。
「……まあ、タカシが舐めたらタカシ毒が私にまわるので舐めさせないけど」
「こんなところに美人局がいようとは」
 とりあえず席に着き、唾液まみれの指でおにぎりを食べる。我ながらよい塩加減だと思うが、よられでベトベトなのでよく分からない。
「私も。……もくもく、おいしい」
「そいつぁ何よりだ」
「もくもく。もくもくもく。……けぷ。おいしかった」
「お前の咀嚼音変だよな」
「うるさい。……むう、手がべたべただ」
 おにぎりは手掴みで食べるものなので、どうしても手はべたつく。手抜きして海苔も貼ってないので尚更だ。
「……はい」
「はい?」
 手を差し出されたので、疑問で返す。
「……みっしょん。舐めて綺麗にせよ」
 ちなみが変なことを言い出した。
「い、いや、ほら。さっき言ってたじゃん、タカシ毒がまわるので舐めさせないって」
「……幸か不幸か、私の体内にはタカシ毒の血清が生成されている。なので、だいじょぶ」
「つまり、俺が舐められるのはちなみだけなのか」
「…………」
「顔を赤くするなッ!」
「……うう、タカシは私だけしかぺろぺろしたくないと言う」
「う……」
 虚を突かれた。普段のようにつっこめばいいのだろうけど、なぜか何の言葉も出なかった。
「……ひ、否定するターンなのに、何も言わないという攻撃に出るとは。……う、うぬぬ、タカシは日々進化しており、侮れない」
「あ、う、うん、そうだな。はっはっは」
「……うう」
 回答失敗。ちなみは俺を見て、顔を赤くしながらうめくばかり。
「……は、はい」
「え?」
「……み、みっしょん。……舐めて綺麗にせよ」
 再びちなみの手が向けられた。
「……あー、まあ、うん。俺の毒が効かないのはちなみだけだから、しょうがないな?」
「そ、そう。しょがない」
 差し出された指を、そっとくわえる。で、舌でぺろぺろ舐める。
「……う、うー。……タカシは舐め方がえっちだ」
「し、失敬な。お前の方がよっぽどだ」
「……そんなことはない。実験」
 え、と思う間もなく、ちなみは俺の手を取って再び口に含んだ。
「……ぺろぺろ。……ほら、えっちくない」
「む。そんなことはないぞ、大変にえっちいぞ。なぜならオラワクワクしてきたから」
「……タカシは時々戦闘民族になる」
「俺には興奮したら一瞬にして髪を金色に染色する技術はないぞ?」
「……ぺろぺろぺろ」
 俺の話なんてちっとも聞かずに、ちなみはなんだか嬉しそうに俺の指をぺろぺろ舐めている。
「……うう、どうしてこんなことで楽しいのか」
「なんで悔しそうやねん」
「……タカシは時々関西人にもなる」
「ていうかだな、いつまで舐めてんだ。そろそろ学校行くぞ」
「……はむはむ」
 ちなみは残念そうに俺の指を甘噛みした。そして最後にちゅーっと強めに吸うと、ようやっと口から指を離した。そして最後に軽く俺の指に口付けした。
「……ちゅ。綺麗になった予感」
「そいつはありがとうございます」
「……続いて、タカシが私の指を綺麗にするターン」
「……ええと、もう舐めたよ?」
「……私はいっぱいいっぱい舐めてあげたと言うのに、私の指は舐めたくないと言う。……貧乳の指を吸うと俺のアレまで貧しくなると言う」
「超言ってねえ! ていうか色々問題ありすぎの発言だッ!」
「……嫌なら、いい」(寂しげ)
「そうは言ってない! ……ああもう、分かったよ。誠心誠意尽くさせていただきますよっ!」
 半ばヤケクソにちなみの指を口に含み、ぺろぺろれろれろする。ああもう、なんかいけない気分。
「……こーふん?」
「終わりっ! もう終わりっ!」
「ぶー」
 指を引き抜いてタオルで拭いてやると、ちなみは不満げに口をとがらせた。
「……ま、いい。……んじゃ、行こ?」
「あいあい」
 皿をシンクに入れ、家を出る。
「……やれやれ、タカシのせいで手がべたべただ」
「そもそも舐め始めたのはお前からだろうが」
「……うるさい。……そうだ、なすりつけてやれ」
 きゅっ、とちなみの手が俺の手を握る。
「え、ええと」
「な、なすりつけただけ。……そ、その先が偶然タカシの手だっただけ。……ほ、ほんとに」
「ま、まあ、偶然なら仕方ないわな。わっはっは」
「そ、そう。……あ、あと、どーせ遅刻だし、ゆっくり行った方が疲れない予感」
「あ、うん。大変に賛成だ」
 そんなわけで、ちなみと手を繋いだままゆっくりゆっくり通学路を歩くのだった。
 そしてゆっくり歩きすぎたせいで到着したのは昼休みだった。
「……ゆっくりしすぎだ。タカシは本当に頭が悪い」
「途中で公園寄ったりアイス食べ合いっこしたり休憩と称して膝枕させたのは誰だ」
「……ま、まったく。タカシは本当にいぢわるだ」
「鼻を引っ張るな」
 赤い顔で人の鼻を引っ張るちなみだった。

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