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2024年03月29日
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【こばんざめちなみん】

2010年04月03日
 ちなみがコバンザメになった、と言い張る。
「……こばんざめなので、仕方ないのです」
 なんて言いながら、俺にぎゅーっと抱きついてきた。
「仕方ないのか?」
「のです。……やれやれ、タカシとくっつくなんて本当は不満ですが、こばんざめなので我慢です」
 我慢です、なんて言うなら嬉しそうに笑わないで。俺までにやけてくるから。
「……何だか嬉しそうですが、勘違いは禁止です。別に好きとか、そういうのじゃないのです。こばんざめの習性として、くっつかざるを得ないのです」
「得ないのか?」
「です。……あーあ、早く大きくなって巨大鮫になり、タカシの野郎を食い散らかしたいものです」
 コバンザメは大きくなっても人食い鮫にならないことを指摘したらいいのか、抱きついてる相手に食い散らかすとか言うなと注意したらいいのか。
「……まぁ、大きくなるまでの我慢です。というわけで、ご飯食べましょう。タカシが子供のようにぽろぽろこぼすご飯を食べて、こばんざめは大きくなります」
「や、期待されてるようだけど、実は飯食うの上手でして。ここ数年飯をこぼしたことがないんだ」
「…………」
 むーっという感じで睨まれた。
「代わりに涎こぼそうか?」
「……全然まったくちっとも代わりになりません。……こうなっては仕方ありません、直接タカシから栄養を摂取するしか」
 どういうことかしばらく考えて、辿り着いた答えに思わず赤面混乱大変です!
「や、ま、待つヨロシ! それはちょっと女の子として慎みに欠けているというかいや別にちなみとそういうことしたくないといったら嘘になるけどそれは段階を踏んでというかその!」
「……何か勘違いしてるようですが、違います。……タカシにご飯を食べさせてもらうだけです」
 ああなんだ、そうなのか。俺はてっきり口移しとかそういう甘ったるいアレかと。それなら別に……いやいやいや。
「それはその、なんといいますか、……恋人っぽくて、その、ね? 分かるだろ?」
「…………」
 むーっという感じで睨まれた。
「……嫌なら、別にタカシが想像した方でも……」
「いいねぇご飯食べさせるの! 恋人式食事方法と言いますかリアス式海岸と言いますか、いいよね!」
「…………」
 三度むーっという感じで睨まれる。これ以上話をこじらせるとちなみとランデブーしかねないし、とっとと飯食おう。
 ……いや、別にちなみとランデブーするの嫌とかそういうのじゃなくて、その。
「……まぁいいです。じゃあ、ご飯食べましょう、ごはん」
「ああ、分かった」
「…………」
「…………」
「……ご飯、食べないんですか?」
「食べたいのはやまやまだが、それにはお前がのいてくれないとどうしようもない予感が」
 ちなみに抱きつかれたまま動くのは大変しんどいです。
「……むぅ、これは大問題です。ごはんも食べたいですが、今の私はこばんざめなのでタカシから離れるのは至難の業です」
「や、ちょっと離れて飯食う時にでも戻ればいいじゃん」
「……折角の休みなのに、少しでも離れるなんて嫌です」
「…………」
 なんつーことを言うかな、この娘さん。俺を殺す気か。ああもう、緩むな頬!
「……こ、こばんざめの習性として、です。……私としては別にどうでもいいんですが」
「あーうん、そうな。習性なら仕方ないな」
 鼻をつまみながらちなみの話に頷く。
「よし!」
「ひゃっ」
 気合を入れ、ちなみを抱きかかえたまま立ち上がる。
「……ちょっと、びっくりです。……ぱわふるまん、です」
「そのネーミングセンスに脱帽」
「……むっ、馬鹿にされてる気がします。えいえい、許しがたいです」
「ああこら、ひっついたまま殴るな! 落ちるぞ!」
「……落ちたら、一生恨みます」
「なんて勝手な言い草だ」
「……女の子はわがままなのです。頑張れ、男の子」
「へーへー」
 ちなみとじゃれあいながら、飯食うために台所に移動しました。結構どころか、かなり楽しい一日でした。

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