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2024年03月29日
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紫1

2010年04月12日
 歩いてると、なんか踏んだ。
紫「いったー! アンタ、いきなり何すんのよ!」
男「なんか足元から声がする気がする」
紫「踏んでる! すっごい頭踏んでる! とっととのけ!」
男「ちょっと人生に疲れたな……ここらで一休みするか」
 その場に座り込むと、下から「むぎゅ」という愉快な音がした。
男「茶でもすするか。水筒こぽこぽ……はふー」
紫「のけって……言ってるでしょーッ!」
 噴火したように紫が立ち上がった。押されて顔から地面に激突する。さらに持ってたコップが宙を舞い、中の茶が俺に降り注いだ。
男「うーん、冷たい」
紫「ちょっと! 人が昼寝してる所をいきなり踏むなんて、マナー違反よ!」
 マナー違反というのはどうかと思う。
男「ごめんなさい、小さくて見えなかったんだ」
紫「ちっ、小さい!? 小さいって言った!?」
男「水筒こぽこぽ……はふー」
紫「なにお茶飲んでるのよ!」
男「ああん」
 お茶を取り上げられた。
紫「訂正して。『紫は小さくなんかない、それどころか人並み以上に大きい大人の女性だ』って」
 随分と脚色されていた。
男「ええと……『紫は小さくない。ただし、胸はその真逆である』」
紫「ぜんっぜん違うっ!」
男「そんな長い文章覚えられるか。三文字で頼む」
紫「えっ! ええと、ええと……」
男「ごーよんさんにーいちー」
紫「ああっ、ま、待って!」
男「ぜろー。じゃ、そゆことで」
 そそくさと逃げようとしたら、足を掴まれた。すると、顔面から地面に当たって大変痛い。
男「痛いじゃないか」
紫「鼻血出てるわよ。かっこわる」
 出させた張本人がいけしゃあしゃあと。
男「じゃあ、鼻血を出した子一等賞という風説を流布する旅に出るのでこれで」
 そそくさと逃げようとしたらまた足を掴まれた。以下略。
男「まだ何か用か?」
紫「まだ謝ってもらってない。ちゃんと謝って」
男「昼飯に食ったラーメンの汁を残してしまい、申し訳ありませんでした」
紫「そんなの知らないわよ! そうじゃなくて、踏んだことを謝って!」
男「すいませんでした」
紫「なんでウサギに謝ってるの!?」
 思わず飼育小屋のウサギに向かい土下座していた。
男「たぶん、紫に謝るくらいならウサギに謝った方がマシだと思ったんだろうな」
紫「あたし、ウサギ以下!?」
男「具体的に言うと、ウサギの糞以上、ウサギ未満、かな。よかったな、霊長類として糞に負けてたらプライドも何もないもんな。はっはっは」
 紫の頭を軽くなでる。うむ、これで紫のプライドも保てたことだし、万事上手くいった。
紫「…………」
 上手くいった、と思ったのだが紫の目の色が怪しくなってきた。
男「ええと、よく分からんのだが、……ひょっとして怒ってる?」
紫「怒ってるわよ! 何よ、ウサギ未満って! あたしの魅力はウサギに劣るっていうの!?」
男「うん」
紫「がーん!」
 紫はがーんと口で言って、ふらふらとその場に座り込んでしまった。
男「だって、ウサギ可愛いもん」
紫「あ、あたしだって可愛いわよ! うっふーん! ほら、ほら!」
男「自称美術家が酔っ払いながら作った彫刻みたい」
紫「うっ……うわああああん! 覚えてろ、ばかー!」
 紫は子供みたいに泣きながらどっか行ってしまった。
男「……面白い娘さんだなぁ」
 残された俺は、ぼんやり紫の走っていった場所を見ていた。

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