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2024年04月26日
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【金欠ンデレ】

2010年04月27日
 物を書いて飯を食うようになって早数年。近頃はどうにか書き物だけで暮らしていけるようになった。
 なわけで、家でぽちぽちとキーボードを叩いてたら、インターホンが鳴った。今は家政婦さんは買い物に出かけているようなので、もったらもったら受話器のあるとこまで移動する。
「はいはい」
『…………』
「ええと、どなたでしょうか」
『……開けろ』
「ははーん。強盗だな? 困ります」
『いいから早く開けなさいこの馬鹿ッ!』
「ひぃ」
 とても怖かったので受話器を戻して部屋に戻りガタガタ震えてると、携帯が鳴った。このアニソンは……!
「智恵理か! ちょうどよかった、いま俺の家に強盗が入らんと企んでいるみたいなんだ! お前の無駄にある暴力性を発揮する時だ、蹴散らしてくれ! 後の始末は俺に任せろ、ただ死体は原型を留めておいてくださると何かと助かりますが、無理なら好きにしろ」
『アンタはあたしをなんだと思ってんのよ!』
「無手での殺しを得意とする学生。握力500kg」
『ただの学生よッ! あと、不満だけど、アンタの仕事仲間!』
 智恵理は学生という身分でありながら俺の小説の挿絵を描いてくれているすごい奴で、俺の大事な仲間だ。
「で、そのゴリラ仲間が何の用だ?」
『アンタの嘘説明が混じってる! ただの仕事仲間よ! んなことより、早く開けなさいよ!』
「何を?」
『玄関のドア! いつまで待たせるのよ!』
 ドアとな。玄関の方まで行き、耳を澄ます。
『早くしなさいってば!』
 携帯から聞こえてくる声と、表から聞こえてくる声が一致。ここから導き出される答えは……!
「智恵理、大変だ。玄関先の奴が、お前と全く同じこと喋ってる! すごい偶然が今ここに!」
『あたしがアンタの家の前で携帯で喋ってるの!』
「実は玄関のくだり辺りから分かってたんだ」
『…………。早く開けないと殺す』
 死ぬのは嫌なので震えながら玄関のドアを開ける。拳がお出迎えとはどういうことだ。
「開けたのに」
「早くしないからよ! 殺されないだけマシと思いなさいよね!」
「悪魔のような台詞ですね」
「うっさい! そんなのどーでもいいの!」
 そう言うと、智恵理は俺を押しのけて勝手に家の中にずかずかと入っていった。どこに行くのかついていくと、着いた場所は台所?
 智恵理はシンク下の棚を漁り、カップヌードルを取り出すと、ぺりぺりとビニールを破りだした。慌てて奪う。
「ちょ! 何するのよ!」
「それはこっちの台詞だ。いきなり何をする」
「食べるの!」
 変な事を言ってると感じているのは俺だけではないはずだ。俺が高く掲げているカップヌードルを取ろうと、ぴょんこぴょんこジャンプしている智恵理を見ながら思った。
「うー……ちょっと背が高いからって馬鹿にして!」
「普通の身長です。お前が小さいだけだ」
「うるさいの!」
 146cmが怒った。
「ていうかだな、人の家に来てまず飯を食うって、どういうこと? お前の家の両親は飯を食わせてくれないのか? ネグレクト?」
「一人暮らししてるのっ! パパとママを悪く言うなッ!」
 口で言えば分かります。いちいち殴らないで。そりゃ鼻血も出ますよ。
「……ちょっと、パソコン新調したら、お金なくなっちゃって」
「はぁ。そりゃ自業自得で」
「むー。……パソコンは挿絵を描くのに使うの! 必要経費なの!」
「む。そう言われたら弱い。しょうがない、お兄さんがご飯食べさせてあげよう」
「やたっ、ラッキー♪」
「しかし、飯代くらい残ってないのか?」
「……あと、服とかコスメとかアクセサリーとかおやつとか本とかゲームとか携帯代とか学校帰りに買い食いしたりとかで、その……」
 カップヌードルを元あった場所に戻しながら訊ねると、智恵理はばつの悪そうな顔をしながら答えた。
「やっぱ飯なし」
「えーっ! 何よそれ! 男なら一度言ったことは守りなさいよね!」
「さっき言ってた物の値段の方がパソコン本体より高いだろ。ていうか、明らかに無駄遣いだよな」
「うるさいの! 女の子はそーゆーのが大事なの! 文句言ったらアンタの小説に絵つけないわよ!?」
「仕事だろ」
「うっさい! アンタの駄小説なんて、私の絵で売れてるようなものなのよ? 分かってる? 私が描かなかったら、アンタなんか即お払い箱よ?」
 もうダメだ。
「ちょ、いきなり倒れないでよ! ……うわ、泣いてる」
「もういい。死にます。帰ってください」
「……もー、すぐ傷つく。……こほん。……あ、あのね、ホントはアンタの小説、面白いわよ? みんな私の絵なんておまけ程度にしか思ってないわよ?」
「なんだそうか! いややっぱりな、薄々そうじゃないかと思ってたんだ! わはははは!」
「はぁ……しかもすぐ立ち直るし。防御力はヤケクソに低いくせに、その回復力の高さはなんなのよ」
 智恵理は呆れたような顔をして俺の頬を引っ張った。
「……で」
「ん?」
「ごはん! 早くどっか連れて行きなさいよ!」
「そういう話でしたっけ」
「そういう話だったの! お腹空いたの! ごはん食べたい、ごはん!」
「チクショウ、智恵理が演ずる欠食児童の姿が火垂るの墓の節子と重なる! 分かった、俺に全部任せろ!」
「そっ、それはいいけど抱きつくなっ!」
 節子の非業の最期を思い出してしまい、気がつくと智恵理を力いっぱい抱きしめていた。慌てて離れる。
「……もー、ばか。痛いじゃないの」
「あ、や。そ、その、ごめん」
「……まー、いいケドさ」
 智恵理はほんのり頬を染めながら、俺の胸を軽く押した。どうにも気恥ずかしくて困る。
「さ、さて! とりあえず、飯でも食うか!」
「そ、そうね! そうしましょうか!」
 先の雰囲気を払拭すべく、殊更明るく言ったら智恵理も乗ってきた。

「……で、なんだってカップラーメンなのよ」
 小さなちゃぶ台を挟み、俺の前に座っている智恵理が不満をぶつけてくる。
「よく考えたら俺もお金なかった」
「はぁ……かいしょーなし」
「面目次第もない」
「ばーかばーかばーか」
 言葉とは裏腹に、智恵理はなんだか楽しそうに俺のおでこを小突いていた。
「それ以上突付くとおでこに穴が開き、俺のあだ名がクリリンになりますがよろしいか」
「じゃ、六ヶ所突つかないとね♪」
「鬼だ……!」
 とかなんとかやってる内に三分経った。できあがり。蓋をぺりぱり剥がす。
「こんなの食べるの久々だけど、やっぱおいしそーね」
「む。なんだか見てたら俺も腹減ってきたので、少しくれ」
「嫌」
「お前が一度口に含んだものでも我慢して食うから」
「絶対嫌!」
 交渉の結果、拒絶の度合いが強くなった。
「アンタねー……学校での私見たら、我慢なんて台詞口が裂けても出てこないわよ?」
「ほう? 学校で君臨してるのか?」
「そうそう、私ってば学校中の不良をこてんぱんにした伝説の不良少女なのよってなんでやねーん」
 智恵理は満面の笑みで俺にツッコミをした。世界が凍りついた。
「……うー、アンタがやらせたんでしょうが! 何か言いなさいよ!」
 羞恥心はあるのか、智恵理は顔を真っ赤にしながら俺にがうがう言った。
「ひどいノリツッコミを見た」
 ツッコミではないパンチが俺の顔面に炸裂。
「まったく……あのね、こう見えても私、学校では文武両道の才媛で通ってるのよ? ラブレターとか貰いまくり。……すごいでしょ?」
「はぁ」
「はぁ、って……張り合いないわねー。もうちょっと驚いたりなんかしたりできないの?」
「智恵理が相撲部部長とは知らなかった。是非俺にも練習風景を見せてくれ」
「勝手に捏造しろとは言ってない!」
 智恵理との会話は難しい。
「まーいーわ。じゃ、いただきまーす」
 行儀よく手を合わせ、智恵理は麺をすすった。
「んー! おいしー♪」
「…………」
「そんな目で見てもやんないわよ。これ、ぜーんぶ私のなんだから♪」
「善意であげたものを、智恵理は独り占めするんだな」
「うっ……」
 これでも良心が存在したのか、智恵理は少し苦しそうに俺を見た。
「……も、もーっ! 分かったわよ! ちょっとだけ分けてあげるから、そんな目で見るなっ!」
「わーい」
 早速食べようとしたその時、はたと気づいた。箸がない。わざわざ取りに台所へ向かうのも面倒だ。ならば……!
「? どしたの、馬鹿みたいに口開けて。まあ馬鹿なのは知ってるけど」
「食べさせて」
「なっ! そっ、そんなの嫌に決まってるでしょ!」
「ええと、何にするか……あ、そうだ。ほら、取材。これを元に書くから。実体験は大事だし」
「絶対嘘! 何にするかって言ってたもん!」
「理由は後付けだが、それでも取材にはなり得ると思うます」
「うっ……そ、そんなの、知らないわよ! 勝手に想像してやったらいいじゃないの!」
「それも悪くないが、実体験と照らし合わせて書いた方が都合がいいんだ。あと、食べさせてくれない場合、俺の唾液が満遍なくラーメンの汁に注がれますがよろしいか」
「う、うう、ううううう~! わ、分かったわよ! そんなことされるくらいなら、アンタに食べさせてあげるわよ! その代わり、一回だけよ!?」
 よし、勝った。
「い、いい? アンタに強制されて嫌々やってんのよ? そこを勘違いしたら殺すわよ!?」
「恐怖のあまり涎がこぼれそうだ」
「ラーメンに近寄るなッ! そこでじっとしてろ!」
 威嚇されたので大人しく座して待つ。
「……ほ、ほら。あーん」
 智恵理は麺をすくうと、俺に向けた。
「睨むな。怖い」
「う、うっさい! ほ、ほら、早く食べなさいよ!」
「間違えて指を咥えそうだ」
「間違えたら、殺すッ!」
 失敗を許さない歪んだ社会を垣間見た。とまれ、差し出された麺を食べる。
「もしゃもしゃ」
「……ど、どうなの?」
「カップヌードル」
「知ってるわよ! じゃなくて、ほ、ほら。……私に手ずから食べさせてもらったんだから、ちょっとはおいしく感じるでしょ?」
「うーん。一緒」
「あによっ! 折角食べさせてあげたんだから、ちょっとはお世辞くらい言ったらどうなのっ!?」
「怖すぎてやはり涎がこぼれそうだ」
「ちょっとでもその場から動いたら、殺すッ!」
 どうして飯を食うだけで死に瀕さなければならないのか。
「しかし、動かないのであれば、俺はカップラーメンを食べられないままなのだけど」
「……しょ、しょうがないから私が食べさせてあげるわ。かっ、勘違いしないでよ、アンタが無駄に動いたら余計に労力がかかるからよ! 他意はないんだからねっ!」
「…………。うん、分かってる」
「その間は何よっ!?」
「まあ、気にするな。それより、お前も食え」
「ええっ!?」
「何を驚いている。そもそも、飯を食いに来たのだろ? なのに、俺ばかり食べては本末転倒じゃないか」
「て、てことは、私が食べて、次にアンタに食べさせて、ってのを順番でやれってコト……?」
「お、ないすあいであ。それ採用」
 智恵理の顔がみるみる赤くなっていく。
「そっ、そんな超間接キス合戦を私にやれって!?」
「智恵理にこれって超間接キス合戦だよなって言ったら」
「真面目に聞けッ!」
 言葉の響きが面白かったので言ってみたら怒られた。
「まあ、どうしてもとは言わないが、やってくれない場合、ショックのあまり今書いてる小説の締め切りが伸びまくることだけは覚悟しておけ。最悪の場合落ちます」
「脅迫よそれ!? ていうか、それって自分の首も絞めてるわよ!」
「だから、やってくれると俺も助かる」
「アンタ絶対に脳みそおかしいわよ!」
「学生時代よく言われた」
「はぁ……」
 やるせない感じのため息を吐かれた。
「う、うー……しょうがないわね。やってあげるわよ!」
「わーい」
「喜ぶなッ! 私は自分のためにやんの! もしアンタが落としたりしたら、私の評判も下がるから、しょうがなくやってあげるの! そこ勘違いしたら殺すわよ!」
「智恵理はよく俺を殺そうとするよね」
「ぐだぐだ言ってないで口開けろ!」
「なんてムードのないイチャイチャだ」
「い、イチャイチャとか言うなっ、ばかっ!」
「もがっ」
 口に麺が突っ込まれる。
「もがもが、もぐ。……あのさ、死ぬから」
「う、うっさい! ……で、次は、私が」
 容器から麺をすくい、じーっと箸を見つめた後、智恵理は意を決したように目をぎゅっとつぶって麺を口にした。
「ん、んー! ……ふぅ。ほ、ほら、どうよ? か、間接キスくらい、なんでもないわよ!」
「全力で顔が赤いですが、指摘しない方がいいでしょうか」
「しない方がいいわねッ!」
 口で言えば分かるので、殴らないで。
「そ、それで、いつまでこれ続けるの?」
「そりゃ、当然全て食べ終わるまでだろ。もったいないお化けが出たら怖い」
「全部!?」
 智恵理の声につられるように容器の中を見る。まだまだ沢山残っていた。
「……そ、そろそろアンタも飽きてきたでしょ? もう終わりでいいよね?」
「一生飽きない予感がある」
「そんな予感捨ててしまえっ! ああもうっ、分かったわよ! 全部食べ切るまでやってあげるわよっ! ほらっ、あーんっ!」
 半ば投げやりな感じで、智恵理は俺に口を開けさせるのだった。

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