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2024年04月27日
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【羊いずみん】

2010年05月13日
 幻覚を見た。いや、見ている。
「ひ、羊や。めぇめぇ。……なんやねん、その目は」
「幻覚が喋った」
「誰が幻覚やねん! ……いや、まぁそう思う気持ちも分かるけどな」
 めぇ、と鳴いていずみは俺のそばに座った。
「ちょっと聞いてや。あんな、寝てたら、神様が出てきてん」
「いずみが壊れた」
「壊れてへん! ええから、聞き。あんな、神様いうても夢ん中や。で、その神様が言うには、羊のかっこして男の友達に会えば大金を授かるらしいんや」
「……で、それを信じた、と」
「うち、結構正夢見るねんで? こないだも10円拾う夢見たら、実際に拾たし!」
「あーもう、分かった分かった。とにかく用事は終わったな? じゃとっとと帰れ。俺は寝る」
 朝っぱらから家に押しかけられ、堪ったものではない。俺はベッドの中に入った。
「あー待って待って! 夢には続きがあってな、その……男に腕枕をされたらさらに大金が! ……みたいなことを、……な?」
「な、じゃねえ。別に男の友人って俺だけじゃないだろ? おまえ見た目だけは可愛いんだから、そいつらに頼みゃ喜んでやってくれるぞ」
「そ、そうやねんけど……こんなん言えるんタカシだけやねん。な、減るもんやなし、ええやろ? なぁ、なぁて♪」
 見た目だけは可愛いと言ったことに突っ込みがなかったことに軽く戦慄する。
 けどもういいや、面倒だし頭まで布団に入って黙殺しよう、と思っていたら、いずみが上に飛び乗ってきた。
「ぐぇ!」
「ええやん! ちょっとくらいええやん! なんや、それとも女が怖いんか? んん?」
「女は怖くないが、いずみは怖い。後で金請求されそう」
「なんやて! ……ん、んん。うち、怖くないでぇ~? お金も取らへんし、うちの体、や~こいで~♪」
「挿れていいってことか?」
「ええわけあるか、アホ! あーもうええやん、眠いんやろ? うちに腕枕してくれたらぱぱっと出て行くさかい、それでええやん?」
「あーもう……わーったよ。ほれ」
 腕を伸ばして横になると、いずみは少し恥ずかしそうに俺の腕に頭を乗せた。
「へへ……んじゃ、お邪魔します」
 羊の毛がちくちくして痛い。寝れねぇ。
「脱げ」
「な、なに言いだすねん! 脱げやなんて、いきなり……」
「羊毛がちくちくすんだ。寝れやしねえ」
「あ、こ、これのことかいな。あ、あはははは」
 いずみは乾いた笑い声を立てて着ぐるみを脱いだ。……ちゃんと下に服を着てる。ちぇ。
「……なんや、その残念そうな顔は」
「全裸を期待してました」
 鼻を殴られた。
「アホかっ! どこの世界に着ぐるみだけ着るアホがおんねん!」
 いずみを指差したらまた殴られた。鼻を。
「ええから腕枕しい!」
 怖いので大人しく腕枕をする。
「どうだ?」
「ん、悪ないな……ひゃ!」
 いずみが俺の腕に頭を乗せたのを確認すると、すかさず彼女を抱きしめた。
「な、な、なんやねん!?」
「抱っこ。寝るまで抱っこさせろ」
「な、なんで?」
「したいから。腕枕してやるんだから、それくらいいいだろ?」
「……し、しゃあないなあ。ちょっとの間だけやで?」
 少し呆れたようにいずみは言った。でも、声はなんだか優しかった。
「努力する。んじゃお休み、いずみ」
「ん、おやすみ、タカシ……」
 俺といずみは、抱き合って眠りに就いた。

 後日、「大金拾わんかったやんか! どないしてくれる!」といずみに恫喝され、たこ焼きおごらされました。なんでだろう。

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