【ツンデレと運動会の練習】

2010年09月07日
 もうすぐ運動会なので、毎日放課後に練習を行っている。だがしかし、俺は運動とか大変苦手な生物なのでサボりがちだ。
「あっ、アンタまた逃げようとしてる! ほら、ちゃんとやりなさいよ!」
 そんなわけで今日もこっそり教室から抜け出そうとしたら、かなみに見つかってしまった。
「いや、当日はちゃんと真面目にやりますよ? ただ、それ以外は面倒くさいのでサボりたいんだ」
「ダメに決まってるでしょ! アンタ一応リレー選手でしょ? ちゃんと練習しないと!」
 くじ運が激烈に悪いのでそんなのに選ばれた俺なのだった。俺以外全員が陸上部員という地獄に君は耐えられるだろうか。
「うーん。でもなあ。めんどくさいしなあ。ハートはどこにつけよかなあ」
「知らんッ!」
 かなみさんはとても怖いです。
「ほら、いいから行くわよ! 先生にも頼まれてるのよ、アンタがサボらないようにちゃんと監視しててくれって」
「どこの囚人だ、俺」
「ほらほら、いーから行く行く」
「うわたた、押すな押すな」
 そんなわけで、無理やりに着替えさせられ運動場に連れて来られた。もう既にやる気メーターが0だ。
「あー今日もよく頑張った。さて帰るか」
「まだ着替えただけっ! とっとと練習しろっ!」
「暑くてやる気がしないんだ」
 着替えた時点でやる気はないと言うのに、さらにこの暑さが俺のやる気メーターをマイナスへと追いやる。そんなわけで、練習してるクラスメイトを尻目に木陰に退避。
「こらっ、早々とリタイヤするなっ! みんな頑張ってるんだから、アンタも頑張りなさいよ!」
 そんな俺を叱りつけるかなみ。腰に両手をあててお姉さん叱りするのは大変に喜ばしいが、その程度では俺のやる気メーターは変動しない。
「気温を10度ほど下げてくれたらやる」
「神様じゃないんだからそんなのできないわよ、馬鹿。ほーら、頑張る」
「うぁー」
 両手をぐいーっと引っ張られるが、その程度では俺様を動かすことは出来ない。いや、俺の方が体重が重いので。
「ふぅふぅ……ちょっと! 重いわよ!」
「100kgを超えた身体にこの暑さは辛いデブー」
「そんなにないでしょ! そんな語尾ついてなかったし! いーから練習しなさい!」
「かなみがチアガールの格好で俺を応援してくれたら頑張れる」
「なっ、なんでアンタなんかのためにそんな格好しなきゃいけないのよ、馬鹿!」
「なんで、と言われても、見たいから、としか言いようがない」
「見……だっ、誰がするもんですか、この変態!」
「残念なことこの上ないな。んじゃ俺帰るな」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ! ……ほ、ホントに着たらやるんでしょうね?」
「おおっ!? その台詞はつまり着てくれるのか!?」
「かっ、勘違いしないでよね! 先生にアンタを練習に参加させるよう頼まれたからで、そのために仕方なく着るだけなんだから! 嫌々着るんだからねっ!」
「テンプレをありがとう」
「はあ?」
「ま、ま。とにかく、着て俺を応援してください」
「こっ、こら、押すな!」
 ぐいぐいかなみを押して校舎に押しこめ、クラスメイツの待つ場所へ戻る。
「待たせた皆の者! 王の帰還だ!」
 全員に無視された。
「サボってすいませんでした。今から頑張るのでどうか参加させてください」
 何かの虫みたいにぺこぺこ謝ってご機嫌を伺った結果、許してもらった。
「やれやれ。それで俺は何をしたらいいのかな? 女子のブルマの観察? 任せろ、得意だ」
 今の発言で女子全員が俺を敵と認識したようで、とんでもない量の視線が突き刺さってきたが、気づかないフリをする。まともにぶつかると廃人になること請け合い。
 視線の恐怖で半泣きになりながらも走ったりバトンの受け取り方の練習をしたり走ったりした結果、超疲れた。
「ああ……ああ、本当に疲れた。もう帰りたい。よし、帰ろう」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ、ばかっ!」
 聞きなれた声に慌てて振り向く。そこに、待ち焦がれた姿があった。
「……な、何よ、じろじろ見て」
 かなみがいた。チアガール姿のかなみがいた。両手にポンポンを持ち、短いスカートを履き、真っ赤なノースリーブを着たかなみがそこにいた。大きなポンポンで自分の胸元を隠すようにしている。
「大変可愛いですね!」
「うっ……か、可愛いとか言うなっ、ばかっ!」
 かなみは真っ赤になりながら俺をげしげし叩いた。しかし、ポンポンは応援には適していても攻撃には向いてないようで、俺のダメージは0だ!
「いやはや。もう既にかなみのチアガール姿で俺のやる気メーターは大分回復したが、これに応援が伴うと俺のやる気メーターは天井知らずになるのでお願いします」
「回復したんでしょ? じゃあやんない」
「衝撃の発言におしっこが漏れそうだ」
「幼児かッ!」
「ていうかお願いします応援してください。土下座? 任せろ、得意だ」
「土下座なんかされても嬉しくないッ!」
 一切の躊躇なく土下座したのに、かなみときたら全く応援してくれない。
「ここまでしてもダメとは。これはもういっそおしっこを漏らすべきか……?」
「漏らすなッ! ……そ、そんなにあたしに応援してほしいの?」
「そりゃ勿論。そのためだけに俺は今ここにいるのだから」
「……ふ、ふーん。そなんだ。……あたしのためなんだ」
 なぜか知らないが、かなみは頬を染めながらゴニョゴニョ呟いた。そんなにチアガール姿が恥ずかしいのだろうか。
「……わ、分かった。覚悟決める。でっ、でも、応援した姿見て笑ったりしたら殺すわよ!?」
「笑いません」
 ガクガク震えながら答える。このチアガール超怖え。
「そ、そう。……じゃ、やるわよ?」
「お、おう」
「……ふ、ふぁいと」
「…………」
 俺の前までちょこちょこやって来ると、かなみはポンポンを小さく揺らしながらぽしょぽしょと俺を応援した。
「が、がんばれー。ふぁいとー」
「…………」
「え、えっと。元気、出た?」
 ちょこんと小首を傾げつつ、かなみは俺に訊ねた。
「超!」
「ひっ!?」
「超! 元気! が! 出た!」
「そ、そう。それならよかった」
「今なら空だって飛べそうな! ……いや、飛べる! よしかなみ、ちょっと屋上からFly Highってくるので見てて!」
「それただの自殺! 飛べないから行くな、馬鹿!」
「いやまあそれくらい元気が出たってことですよ! 本当にありがとう、かなみ! お前の応援に感謝する!」
「え、あ、そ、そこまで感謝されたらアレなんだけど……そ、そんな嬉しかったの?」
「それはもう! ここ数年来で一番嬉しかった!」
「こんなのが一番って、アンタの人生結構哀れなのね……」
 失礼なことを言われている気がする。
「まあとにかくまた練習してくる! ありがとな、かなみ!」
「そ、そう。……んじゃ、まあ、仕方ないから、あたしが引き続き応援してあげ」
「……あ、おにーさん」
 すぐ横から聞き覚えのある声がした。学校と外を隔てる金網の向こうに、知り合いの中学生であるふみがいた。慌ててそちらへ駆け寄る。
「よう、ふみ。学校帰りか? それとも探し物か? なかなか見つからないか? それより僕と一緒に踊りませんか?」
「……うふーふーうふーふーうふーふー?」
 この娘は俺と似た感性を持っているので、一緒にいて楽しい。時折(でもないが)辛らつな言葉を投げかけられるのを抜きにすると。
「……まあ、おにーさんと一緒に踊るのはともかくとして、おにーさんの背後にいるおもしろ格好をしているおねーさんが鬼もかくやと思えるほどの形相をしているので、私は逃げます」
 とてとてとふみはゆっくり逃げていった。なんだかすごく振り向きたくないよバーニィ。
「……え、ええと。それで、何の話だっけ、かなみ?」
「知らないわよっ、馬鹿ッ!」
 俺の口の中にポンポンを詰め、かなみは足音も荒く校舎に入って行ってしまった。
「もがもが……もがもがもが」
「ふーんふーん……ひっ、見たら死ぬ系の妖怪!? はわ、はわわわわ!?」
 偶然通りがかった大谷先生が悪戦苦闘しながらポンポンを取り出そうとする俺を見て腰を抜かしていた。

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【ツンデレと一緒に祭りに行ったら】

2010年09月02日
 今日は祭りなので、光に誘われる正の光走性を持つ俺としては行かざるを得ない。でも、一人で行ったら途中で寂しくなって泣きながら帰る可能性があるので、かなみを誘ってみた。ぴぽぱぽ、ぷるるるる。
「今すぐ来い」
『何の話よっ』
 怒られたので、簡単に説明してみる。
『なるほどね……で、なんであたしがアンタなんかと一緒にお祭りに行かなくちゃいけないのよ』
「おごってやるから。100円分だけ」
『最近のお祭りじゃ100円じゃ何もできないわよっ!』
「じゃあ200円」
『それでも一緒! 最低400円はいるわよ!』
「しょうがない。それで勘弁してやろう」
『わーい……って、アンタがあたしに頼んでるの!』
「さっきのノリつっこみを友人連中に吹聴されたくなければ、大人しく俺と一緒にお祭りを楽しめ」
『脅迫されて楽しめるわけないでしょ、ばかっ!』
 それでも一応やってきたかなみはいい奴だと思う。
「まったくもぉ……なんであたしがアンタなんかと一緒に」
「とか言ってる割に、がっつり浴衣着てますよね」
 待ち合わせた場所にいたかなみは、目にも鮮やかな浴衣を身に纏っていた。向日葵の模様がかなみらしい。
「わ、悪い? い、言っとくけどね、アンタに見せるために着たんじゃないからね! 今年一回も着てなかったから、折角だし着ておこうかなーって思っただけなんだから!」
「叫ぶな。耳が痛い」
「誰が叫ばしてんのよっ!」
「んじゃ、早速屋台を冷やかそうではないか」
「あっ、待ちなさいよ馬鹿。こっちはサンダルなんだから」
「そう言いながら、かなみはペンギンみたいにぺったらぺったら寄ってきた。ペンギンそのものなら可愛いのに、実際にはかなみなので残念な感じだ」
「それは悪かったわねッ!」
 全力で頬をつねられ痛い痛い。
「アンタみたいに無粋を固めた普段着じゃなくて、こっちは浴衣なの。ちょっとくらいゆっくり歩いてくれても罰は当たらないわよ?」
「でも、かなみと肩を並べてゆっくり歩いたりなんてしたら恋人同士じゃないかと友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「途中からときメモになってる! ていうか、アンタが普段からそーゆーことばっか言うから、あたしまでそーゆーオタクっぽいネタに詳しくなっちゃったじゃない! どーしてくれんのよっ!」
「今後も色々仕入れておきます」
「そういう話じゃないっ!」
「じゃ、そろそろ行こっか」
「だから、ゆっくり歩……いてるわね。わ、分かってるならいいのよ、うん」
 かなみと一緒にゆっくり街中を歩く。屋台の明かりがかなみの横顔を照らしていた。
「わー……久しぶりだけど、なんかいるだけで楽しいわね、お祭りって」
「折角だからなんか食うか? わたあめとか」
「んー……まだいい。とりあえず、色々見てまわろ?」
「あ、ああ」
 にっこり笑われたりしたら、こっちの調子が崩れます。平常心平常心……よし、大丈夫。
「それにしても、人多いわねー」
「祭りだからなあ。はぐれないように気をつけろよ? はぐれたら放送で呼び出してもらうからな」
「……アンタに呼び出された日には、とんでもないことになりそうね」
 かなみはうんざりした顔で俺を見た。期待には応えなければならないだろう。
「お前には分かりやすい記号が沢山あるから期待していいぞ。貧乳八重歯ツインテール、そういったキーワードを盛り込む予定だ」
「ねー、いま死ぬのとあとで死ぬの、どっちがいーい?」
「あとでお願いします」
「ん♪ あとですごく酷い目に遭わせるからね♪」
 とんでもないことになってしまった。
「……はぁ。そ、それにしても本当人が多いわね」
「ああ、確かにな」
「は、はぐれたりしちゃったら困るわよね」
「? だから、そうしたら放送してもらって」
「そ、そうならないために、どうにかしたらはぐれないで済むわよね?」
「どうにか……首輪?」
「なんでいの一番にそれが思いつくっ! 普通手を繋ぐでしょ、こーゆー場合!」
「ああ。なるほど」
「なっ、何よそのしたり顔! 誰もアンタなんかと手を繋ぎたいなんて言ってないわよ! ふ、ふざけないでよっ! 誰が繋ぐもんですかっ!」
「でも、はぐれたら困るからな」
 わにゃわにゃ言ってたが、こっちの心が折れる前にかなみと手を繋ぐ。
「う……」
「まあ、アレだ。役得だ」
「は、はぁ? なんだってあたしがアンタと手を繋げてラッキーって思わなくちゃいけないのよっ!」
「なんでお前が思うんだ。俺だよ。俺がお前と手を繋げてラッキーに決まってるだろ」
「え、あ、そ、そうよね。あ、あはは……」
 何をあせってるのか。よく分からん奴だ。
「……ね、ねぇ。アンタはあたしと手を繋げて嬉しいの?」
「当然だろ」
「と、当然なんだ。……そなんだ。……嬉しいんだ。……へへっ、そっか」
 かなみはこっそりニマニマしつつ、俺と繋いだ手を軽く振った。
「ねーねー。あたしと手繋げて嬉しい?」
「だから、嬉しいと言ってるだろ」
「役得?」
「役得だっての」
「……へへー♪」
「ものすげー嬉しそうですね」
「ぜ、ぜーんぜん! アンタなんかと手繋がなきゃいけないなんて、ほんっと最悪! ……ほ、ホントに最悪。……さ、さいあく♪」
 ちらちらと繋がれた手を見ては頬を緩めてるくせに、何を言ってるのかね、このお嬢さんは。
「あ、たこ焼き! ねーねー、おごって?」
「んー……まあいいか。おっちゃん、一個おくれ」
「あいよっ。いいねぇ兄ちゃん、可愛い彼女連れて」
 調子のよさそうなおっちゃんが俺と手を繋いでるかなみを見て軽口を叩いた。
「だっ、誰が彼女よ、誰がっ!」
「全くだ。こいつは一見可愛い彼女だが、実は男の娘なんだっ!?」
 全力で足を踏み抜かれた。地響きで屋台に吊るしてあるランプが揺れた。
「あ、あと、信じられないほど暴力的なんだっ!?」
 もう片方の足も被害に遭った。屋台自体が軽く揺れた。
「……は、はい、たこ焼きおまち。御代は……半額でいいや」
 俺の隣にいる鬼に過剰に怯えてるおっちゃんに金を払い、物を手に入れる。
「まったく! 何考えてんのよアンタは! あたしのどこが男だってのよ!」
「可愛い彼女連れてとか言われて有頂天になったんだ」
「有頂天になった末の行動じゃないっ! ……まあ、安く買えたからいいけどね。ね、どこで食べよっか?」
「んー……あ、そこの公園で食おう」
 通りがかった公園の中に入る。やはり祭りとあってそれなりの人数がいたが、それでも先ほどまでいた通りと比べると多少はマシだ。
「んーと……あ、そこのベンチが空いてる。あっこに座ろ?」
「おーけー」
 近くのベンチに二人して腰掛ける。狭いので肩と肩がぶつかる距離だ。
「んー、狭いわね……アンタもっと向こう行きなさいよ」
「もう既に半分尻が浮いてる状態で、さらに向こうへ行けと? 相変わらず無茶を言う。空中浮遊のスキルを手に入れたら向こうに行くから、それまでもう少し待っててくれ」
「一生待っても無理よっ! ていうか、それならもうちょっとこっち来てもいいわよ。あとで文句言われても嫌だし」
 そんなわけで、もう少しだけかなみの方へ距離を詰める。肩どころか俺の半身全部がかなみとぶつかっている。あ、髪の香りが……。
「ひ、人の頭嗅ぐな、ばかっ」
 俺がくんかくんかしてるのに気づいたのか、かなみは自分のツインテールを両手で持って怒った。
「あ、や、悪い。なんか甘いような、いい匂いがして」
「う……あ、アリガト」
「え、や、まあ」
 なんスか、これ。
「……と、とにかくたこ焼き食おう、たこ焼き」
「そ、そうね」
 包みを破り、蓋を開ける。まだ湯気が立っており、かつおぶしがうにょろうにょろ踊っていた。
「あ、つまようじが」
「ん? あれ、一本しかないじゃない。あのおじさん、入れ忘れたのね」
 これは困った。解決策を一つすぐに思いついたのだが、それは流石に却下。
「……しょ、しょうがないから、共用するしかないわね」
 俺の却下した案が知らず可決されていた。
「ん、んじゃ、あたしからね」
 かなみはつまようじを持つと、たこ焼きをひとつぷすりと刺し、口の中に入れた。
「ほあっ、あっ、あふっ! ……んぐっ。でも、おいし」
「ほあああふ」
「えい」
「痛いっ!?」
 普通につまようじで刺された。この女超怖え。
「人を馬鹿にするからよ。ふん、だ」
「すいません」
「次はアンタがほあああふって言う番よ。はい、あーん」
 マジすか。恋人食いするんですか。俺はてっきり交互につまようじを使い合うとばっかり。
「どしたの? はい、あーん」
「あの、かなみ?」
「ほら。早く口開けなさいよ、ばか」
 そんな可愛く口を尖らせられては、こちらに抵抗する術はありません。
「……あーん」
「……えへ。そんなにあたしに食べさせてほしいんだ?」
「いや、それほどでも」
「食べさせてほしいって言いなさいよっ!」
「すいません殺さないでください」
「そんな話はしてないっ!」
「あまりの気迫に勘違いしたんだ」
「まったく……アンタっていつだって馬鹿よね。ばか、ばーか」
 かなみは楽しそうに俺の頬をつんつんと指で突付いた。
「そんなつもりはないのに」
「えへへー。ほら、食べなさいよ、ばか」
 かなみはたこ焼きを俺の前にぷらぷらとさせた。しょうがないので食べようとしたら、ふいっと動かされた。
「残念。ほらほら、こっちよこっち」
 右に動かされたので顔を右にするが、今度は左に動かされた。左に動けば右に、右に動けば左に。
「食べられません」
「ほらほら。もっとがんばれ?」
「頑張りたいのは山々なんだが、間違ってかなみの頭から垂れてる昆布を食べちゃいそうで、激しく動けないんだ」
「昆布じゃなくて髪! ツンテールっ! 間違えるの何回目か分かってる!? アンタどれだけ頭悪かったら気が済むのよ!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみだって言ってるでしょうがッ! 次間違ったら絶対殺すッ!」
 はるぴーは怖いなあ。
「まったく……ほら、いーから口開けなさい。あーん」
「そんな雑あーんでは俺の心は動かせぬ」
「じゃあ……にゃ、にゃーん?」
 ぽっと頬を染めつつ、かなみが猫っぽくなった。
「それは心が動きまくりです。はぐっ……あっ、あふっ!」
「あははっ。熱いでしょ? ざまーみろ」
「はぐはぐ……あふっ、ごくん。いや、熱かったがかなみが猫っぽくなったので全然問題ないので可愛いですね!」(なでなで)
「感想が混乱しすぎ! あ、あと、人の頭勝手になでるな!」
「なでていい?」
「ダメに決まってるでしょっ! ……ち、ちょっとしか」
 なんか知らんが許可が出たので、かなみの頭をくりくりなでる。
「……うー」
 しかし、なでると唸られるので、なかなかなでりに専念できない。
「ええと。何か気に障ることでも」
「アンタなんかになでられてるってこと自体が気に障るの!」
「む。それならもうやめ」
「でも! それでもなんかちょっと、ほんのちょこっとだけだけど、なんか嬉しいのがそれ以上にムカつくの!」
「それはもう俺にはどうしようもできないよ」
「うー……がおーがおー!」
「いや、意味が分からない」
「いかく!」
「説明されてもやっぱり分からない」
「うるさい! いーからもっとなでなさいよ!」
「おかしなことになったものだ」
「がおーがおー!」
 威嚇されたので、くりくりとかなみの頭をなでる。
「んうう……うーみゅ!」
「なんか変な言語を駆使しだしましたね」
「何か言ってないと頭がおかしくなっちゃいそうなの!」
「む。それは大変にいけないのでやっぱなでるのはやめ」
「ない!」
「……はい」
 そんなわけで、しばらくかなみの頭をくりくりなでたり変言語を駆使されたりする。それにしても、変言語を駆使するかなみは可愛いと思う。
「……あによ、人の顔をじーっと見て」
「これで口さえ悪くなかったらなあ」
「ぐーぱんち!」
「ぐーぱんちは大変痛いうえ鼻血が出るので、控えていただけると幸いです」
 いつものように鼻を拭きながらかなみに伝える。
「うっさい! 口も顔も性格も悪い奴には、人のことをとやかく言う資格なんてないんだから!」
「酷い言い草だ。もう死のうかなあ」
「だ、ダメ! 死ぬのは禁止!」
 軽い冗談なのに、かなみは慌てた様子で制止した。
「なんて世知辛い世の中だ。唯一の脱出口を塞がれ、俺はもうどうすれば」
「う、うるさい! アンタなんてあたしに奉仕するしか生きてる意味ないんだから、ずっとあたしにご奉仕してればいいのよ!」
「なんという奴隷制度。でも一生かなみと一緒ならいいかも、なんてちらりと思った俺をどう思うか」
「え、ええっ!? ……き、気持ち悪いこと言うな、ばか!」
「悲しい限りだ。さて、ボチボチ行くか」
 かなみをなでつつたこ焼きもつまんでいたので、既にトレイの上には何もない。ゴミ箱にトレイを捨て、戻ってくるとかなみが片手を差し出しつつそっぽを向いていた。
「……ほ、ほら、手。つなぎなさいよ、馬鹿」
「え。えーっと」
「ま、迷子になったら嫌だし! 他意なんかあるはずないし! ……い、いいから早くしろ、ばか!」
「は、はい」
 慌てて手を取ると、かなみは立ち上がった。だが、こちらを見ようとしない。
「……い、一生なんてありえないけど、まあ、とりあえず、祭りの間は一緒にいてあげる」
「そ、そか。祭り限定とはいえ、嬉しい限りだ」
「……う、うぅー!」
「なんで俺は頬をつねられてるの?」
「うっさい! ほら、行くわよばか!」
 かなみに手を引っ張られ、俺たちは再び祭りの中へ駆けていくのだった。

拍手[12回]

【寝てる間に『おはようのちゅー』をしようとする新妻ツンデレ】

2010年08月27日
 あっちいので目覚ましが鳴るより早く目が覚めた。ここは一つ近所の子供に混じってラジオ体操でもしつつ子供を視姦したいなあうへへへと思いつつ目を開けたら、なんかすぐ目の前にかなみの顔が。
「……お、おはよう」
 とりあえず挨拶してみる。
「なっ、なんで起きてるのよ!?」
 すると、なんだか狼狽されたので申し訳ないと思った。よし、ここはひとつ適当言って笑わせてみよう!
「いや、これは全て俺の夢の中での出来事なので、寝るも起きるもないんだ。現実では未だ俺とかなみは結婚はおろか、お互いに嫌い合ってるんだ」
「え……うそ、やだ」
 笑うどころか、かなみの顔がみるみる真っ青になっていく。これは大変にいけないと思ったので、ここでネタばらし。
「でもそれも嘘で、本当は学生婚をしていてまだ新婚ほやほやなんだ」
「う……へ、変な嘘つくなっ、ばかっ!」
「げはあっ!?」
 朝っぱらから腹に突きは死ぬほど辛いです。衝撃がどこにも逃げないので超痛え。
「……いたい?」
「内臓が口から飛び出るんじゃないかと危惧しちゃう程度には!」
「じゃ、これは夢じゃなくて、ちゃんと結婚してるのよね?」
「そうです」
「そ、そっか。……あーあ、夢だったらよかったのになー。なんでアンタなんかと結婚なんてしちゃったんだろ。うりうり」
 かなみは楽しそうに俺の鼻をむいむいと引っ張った。
「やめれ」
「へへー、やめなーい♪」
「やめないとちゅーするぞ」
「う……き、昨日あんなにしたのに、朝からするの? ほ、本当アンタってけだものよね」
「ああ、毛だもの」
「なんかあたしが言ってるのと違う!」
 何故分かる。
「毛だもの みつを」
「やっぱそっちか! みつを禁止!」
「そんなぁ! もうパーマンを読めないだなんて!」
「みつお違い! そっちのみつおはどーでもいい!」
「朝からなんの話でしょうか」
「わかんないわよ! わかんないけど……うう、やっぱアンタといると楽しい! どーしてくれんのよ!」
「なんで怒られてるの?」
「悔しいの! アンタなんかと一緒で楽しい自分が!」
「難儀な話だな。ふああ……あー、完全に目が覚めた。ご飯食べよっか。何食いたい?」
「高級フレンチ」
「…………」
「半泣きで貯金通帳を探すなッ! 嘘に決まってるでしょ! いーわよ、パンで」
「いつかは高級ふれんちにでも連れて行ってあげたいが、今はこれで精一杯」
「へ?」
 かなみのほっぺにちゅっとキスする。
「…………」
「ふああ……さて、飯食うか。そろそろ宿題しなくちゃなあ……ああ、面倒くさい」
「……こっ、こんなの嬉しくともなんともないんだからねっ! ちょっと、聞いてる!?」
「あーはいはい」
「聞いてない! ちっとも聞いてない! いい!? ちっとも嬉しくなんてないんだからねっ!」
「あーほりゃほりゃ」
「ばっかにしてえ! 違うんだからねっ! わ、笑っちゃってるのは別に嬉しいとかじゃないんだから! なんか顔が戻らないだけなんだからねっ!」
 後ろからぎゃーぎゃー文句言ってる嫁を引き連れ、俺は食卓に向かうのだった。

拍手[22回]

【ツンデレから夜中に電話が掛かって来て、今何してるって聞かれたら】

2010年08月20日
 夜は寝るタイプの人間なのでぐっすりすやすや寝てたら、突然携帯の野郎がぷるるるるって! さしもの俺もこれは許せないと思ったので説教したのだが、携帯は物なので叱られても堪えないと気づいたのは数分後。
「でもまあ寝ぼけてたからしょうがないと思わないか?」
『なんの話よッ!』
 とりあえず俺に電話をかけてきた奴に思いの猛りを伝えたら怒られた。
『まあいいわ、アンタが突拍子のない馬鹿ってのはいつものことだし。あのさ、今なにしてるの?』
「寝てた」
『あ、あはは……ま、まあいいわよね? どーせアンタのことだから、昼も寝てるから眠くないだろうし』
「昼は部屋の気温が38度を記録しているので、寝るどころか生命を維持させるだけで精一杯です」
『外より暑いじゃないの! どーいうことよそれ!?』
「俺に怒られても困る。ていうか、どなた?」
 電話の向こうで盛大にこける音が響いた。
「分かった、吉本新喜劇の人だ。ポコポコヘッドやって」
『違わいっ! あたしよ、かなみよ! てか、電話受ける前に確認するでしょ! 普通!』
「寝ぼけてたんで何も見ずに受けたんだ」
『今日もミラクルに馬鹿ね』
「奇跡的な馬鹿なのか、俺」
『そうよ。知らなかったの?』
「なんて残酷な真実なんだ。だがよく教えてくれた、ありがとう。じゃ、おやすみ」
『待って待って待って! 切らないで!』
「なんだ。俺は依然眠いので眠りたいのだが」
『え、えっとね? あたしさ、なんか眠くないのよ。だから、なんか話してよ。アンタお得意の全く中身がないけど、面白い話を』
「ひどい言い様だな。まあいいか、じゃあ猿夢でも」
『それ怖い話でしょ! あたし知ってるもん! ていうか思い出した! べ、別に怖くはないけど、寝るのちょっとアレじゃない! どうしてくれるのよ!?』
「とても可哀想にと思いました」
『超他人事!』
「はっはっは」
『笑うなーっ!』
「かなみは愉快だなあ。じゃ、お休み」
『だからっ、切るなっ! 今切られたら怖……じゃない、な、なんか暇だからあたしが困るじゃない!』
「怖いなら仕方ないな」
『こっ、怖くなんてないわよっ! 子供じゃないんだから!』
「…………」
『な、何よ。ホントよ!?』
「…………」
『な、何か喋りなさいよ。ね、ねえ!』
「……ふう。かなみ、さっき悪夢を見る呪いをかけておいたので、安心して眠ってくれ」
『超余計なことすんな、ばかーっ!』
「いや、怖くないと言っていたので、ならばとささやかな老婆心で」
『嘘だろうケド、嘘に決まってるだろうケド! なんか寝るの嫌になっちゃったじゃない! どーしてくれんのよ、ばかーっ!』
「夜も深いのだからあまり叫ぶな」
『うっさい! 誰が叫ばしてんのよ! もーっ! しかもなんかちょっと眠くなってきちゃったし! もーっ!』
「夢の中で君も猿と一緒にミンチ! ヤッタネ♪」
『嫌なこと言うな、ばかあっ! ……うーっ! 決めた! アンタ、今からあたしの家に来なさい!』
「はい?」
『アンタが余計なこと言ったせいで寝らんなくなっちゃったじゃないの! 責任取りなさいよね!』
「いや、責任と言われても。てか、行った所でどう責任を取るというのだ」
『アンタの馬鹿面見てないと落ち着かないって言ってるの!』
「しかし、俺の顔はいつだって美男子だから、行った所で何の役に立てるのか疑問だぞ?」
『いーから早く来いっ! あ、あと電話は切っちゃダメだからね! 切ったら怒るからね!』
「超めんどくさいです」
『……い、いーわよ。一人でがんばるもん』
「……はぁ。分かったよ、着替えるから少し待ってろ」
 我ながら人が良すぎる。というか、俺のせいで怖がらせてしまったのだから、行くのが当然か。それでもめんどくさいなあ。
『う、うん。で、でも早く来ないとダメだからね!? 怒るからね!』
「怒られるのは嫌だから行くの躊躇するなあ」
『怒らないから早く来いっ!』
「もう既に怒られている気がする」
 文句を言いながらも着替えて家を出る。鼻歌代わりに般若心境を唱えて超怒られてると、かなみの家に着いた。
「着いたぞ。鍵開けて」
『わ、分かった』
 家の中からわずかな物音がする。
「これでドア開けたら俺じゃなくて血まみれの包丁持ったサラリーマンがいたら超怖いよな」
『余計なこと言うなっ! あっ……あ、あと、人を叫ばすな、馬鹿。みんな起きちゃうじゃない』
 それからほどなく、ドアがゆっくりと開いた。そして、その隙間からかなみが恐る恐る顔を出した。きょろきょろと周辺を見回している。
「おす」
「お、おす。……サラリーマン、いない?」
「いるか、馬鹿」
 挨拶代わりにかなみの頭をわしわしなでながら答える。
「馬鹿じゃないわよ。馬鹿じゃないもん。馬鹿はアンタよ」
 言葉だけは怒りながらも、かなみは少しだけ嬉しそうに頭をなでられていた。
「んじゃ、とっとと入れて。早くしないとサラリーマンに追いつかれる」
「嫌な嘘つくなっ、ばかっ!」
 それでもさっきより入念に周辺をきょろきょろしてから、かなみは俺を家にいれてくれた。暗い廊下を抜け、かなみの部屋に辿り着く。
「ふー……」
 落ち着いたように、かなみはベッドに座って深く息を吐いた。
「で、俺は何をしたらいいんでしょうか」
「あたしが寝るまで話し相手してて」
 薄い布団を頭まですっぽりかぶり、かなみはぴょこんと顔だけ出した。
「へへー。怖くない♪」
「…………」
「ん? どしたの、鼻つまんで」
「……いや」
 これが計算だとしたら将来女優になったらいいし、そうじゃないなら俺は頭がおかしくなります。
「かなみ、顔中べろべろ舐めていい?」
「ド変態ッ!」
 ほらみろ、おかしいだろ。
「まったく……変態だし馬鹿だし、アンタ最低よね」
「悲しくなるばかりです」
「あははっ。……あのね、えとね。……あんがとね、わざわざ来てくれて」
 ……びっくりした。よもや歩く傍若無人のかなみが礼を言うだなんて。
「ほ、ほら! ほとんどアンタのせいとはいえ、こんな夜中に文句も言わずに来てくれたし」
「文句は言った覚えがあるのですが」
「そだっけ? へへっ、覚えてないや♪」
 にぱーっと晴れやかな笑顔を見せられては、もう何も言えやしねえ。
「まあ、なんだ。もう夜も遅い、寝ろ」
「……寝てる間にどっか行ったりしない?」
「あー、コンビニくらいは行くかも」
「なんでよ! ずっとあたしのそばにいなさいよ! そうしてくんないと寝ない!」
「お子様か、おまえ」
「う……い、いいじゃない! アンタのせいで寝れなくなったんだから責任取りなさいよね!」
「分かった、結婚しよう」
「そういう責任じゃないっ!」
 かなみの手をとってまっすぐに目を見つめたのに頭突きされた。
「もー。……じゃ、寝るからなんか面白いお話して」
「また無茶ブリを。しょうがない、猿夢でも」
「さっきと一緒! ほら、また怖くなった! どーしてくれんのよっ!」
 かなみは半泣きでがうがう吠えた。
「怖くないんじゃなかったのか」
「うるさいうるさいうるさいっ! どーにかしなさいよねっ!」
「あーもう、お前が一番うるさい。ほれ、こーやってたらちょっとは怖くねーだろ」
「あ……」
 かなみの手を軽く握る。
「嫌かもしれんが、諦めろ。そばに誰かいるって分かってたら、恐怖も薄れるだろ」
「…………」
「かなみ?」
「……え、え!? ち、違うわよ!? こんなの嬉しくともなんともないわよ!?」
「そんなことは聞いてませんが」
「ええっ!? ……ゆ、誘導尋問なんてずるい!」
「そんなこともしてませんが」
「うっ、うるさいっ! と、とにかくアンタはあたしが寝るまで手繋いでないとダメなんだからねっ!」
「途中で尿意を催した場合、想像を絶することになることが容易に想像できるのですが」
「うるさいうるさいうるさいっ! なんでもいーからアンタはずっとあたしと一緒にいないとダメなのっ!」
「一生?」
「一生! ……へ? あ、や、今のは違う、違うのっ!」
 真っ赤な顔でぎゃんぎゃんほえてるかなみと一緒に夜を過ごしました。

「……それでも手を出さなかった俺を誰か褒めろ」
 安心しきった顔ですぴゃすぴゃ寝てるかなみに手を握られたまま、朝日がこぼれる部屋で一人つぶやく俺だった。

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【バナナの日】

2010年08月07日
 今日はバナナの日らしいのでバナナを買い込んだら部屋がバナナに侵された。このままでは以後の人生に多大なる影響を与えそうだったので、かなみを呼んで事態の収拾を要請したら殴られた。
「痛いですよ?」
「うっさい、ばか! なに考えたら部屋に入れなくなっちゃうくらいバナナ買っちゃうのよ!」
 部屋の入り口から溢れてるバナナを指して、かなみが叫ぶ。
「暑いから頭が動かなかったんだと思う。ほら、夏だし。あと、搬入が超大変だった。だけどそれでも頑張った俺を褒めるか?」
「100回死ね!」
「頭の悪い台詞ですね!」
 無言で頬をぎううううっとつねりあげられたので大変に痛く超泣きそう。
「まだ何か言うことは?」
「今日もかなみ様はお綺麗ですね。だから俺の頬を取り外さないで」
「別に取り外そうとはしてないわよっ! お仕置きしてるだけっ!」
「なんだ」
「なんでこの子はこんな馬鹿なの……?」
 本気で不思議がらないで。
「まあそういうことなんで、バナナの処理をお願いします」
「なんであたしがそんなのやんなきゃいけないのよ。アンタの招いたことなんだから、アンタがやりなさいよね」
「友達が悲劇に見舞われているというのに、なんて酷い奴なんだ。今日はお前を痴漢する妄想をおかずにしてやる」
「著作権の侵害っ!」
 いちいち殴らないで。そりゃ鼻血も出ますよ。
「脳内に著作権は適用されませんよ?」
 鼻血をフキフキしながら訴える。関係ないが、フキフキ、という単語を聞くと無性に興奮する。
「うっさい、馬鹿! 気持ち悪いからあたしをアンタの妄想に登場させるなっ!」
「俺をかなみの妄想に登場させてもいいから」
「しっ、したことないわよっ! 妄想なんて! 一回も!」
「そんな顔を赤くして怒らなくても分かってます」
「うー……し、したことないからね! 本当に! アンタなんか出てきたことなんてないから!」
「ほうほう」(もぐもぐ)
「人の話は真剣に聞けっ!」
 部屋から溢れてるバナナをもぐもぐ食べてたら殴られた。この人は俺をすぐ殴るので酷いと思います。
「あーもうっ、しょうがないからあたしも手伝ってあげるわ。この暑さだし、すぐ傷んじゃうだろうし」
 かなみはバナナを一房取ると、いそいそと皮をむき始めた。
「舌をえろちっくに這わせてくれると嬉しいです」
「…………」
「嬉しいです!」
「睨んでることに気づけ、ばかっ!」
 また殴られた。そろそろ訴えたら勝てるレベルだと思う。
「はぁ……。馬鹿だし変態だし、アンタっていいとこ一個もないわねー。そんなアンタを見捨てずにつきあってあげてるあたしって、ほんっと優しいわねー?」
「優しい人は自分でそう言わないだろうし、何よりすぐ手を出さないと思う」
「手が滑った!」
 全力でバナナの皮を人の口に投げ入れる事を、手が滑ったとは言いません。
「もがもがもが」
「あははっ! ばっかみたーい」
「もがもが……ぺっ。あのな、死ぬから」
「いいじゃない、別に」
「なんて言い様だ。悪魔がここにいる」
「あははっ、ばーかばーかばーか。……うん、お似合い♪」
 かなみは楽しそうに俺の頭にバナナの皮を乗せた。ちっとも嬉しくない。
「アンタって馬鹿な格好よく似合うわよねー」
「そうか? じゃ、夏休みが明けたらこの姿で学校行く」
「来てもいいけど、あたしに近寄らないでよね」
「その時には頭のバナナが腐って異臭を放ってるから?」
「新しいのに取り替えてから来いっ!」
 近寄るなと言った割に新品に取り替えろと忠告してくれるあたり、根っこはいい奴なのだろう。
「ふぅ……。それにしても、食べても食べても減らないわねー」
 くだらない話をしつつも食べているのだが、一向にバナナは減らない。いい加減黄色い山に嫌気を指したのか、うんざりした表情でかなみが呟いた。
「どうしよう。ロケットにくくりつけて宇宙にでも飛ばすか?」
「バイバインは関係ないっ!」
「おお……すぐにそのツッコミを選択するとは。すごいな、かなみ」
「う……べ、別にアンタなんかに褒められても嬉しくなんてないし」
 と言いながらも、かなみはほんのり頬を染めてこっそり笑っていた。
「あー、それにしてもいい加減飽きたな。それに、腹もかなり膨れてきた」
「どうするの? ……言っとくけど、捨てたりしたら許さないからね。食べ物を粗末にする奴は嫌いよ」
「大丈夫、俺もそうだ。……よし、奥の手だ!」
 携帯電話をとりだし、ぴぽぱ。
「大変だ、リナっ! 俺の家がバナナに……バナナに襲われてるんだ! 助けてくれっ!」
 それだけ言って、すぐに通話を切る。電源も落とす。これでよし、と。
「ね、ねぇ、今の……?」
 かなみの問いかけとほぼ同時に、遠くから何かの曲が聞こえてきた。これは……ワルキューレの騎行?
「ほーっほっほっほ! わたくしにお任せ、でーっすわ!」
 馬鹿がヘリコプターでやってきた。
 うちの狭い庭に無理やり着地すると、ヘリからリナが颯爽と出てきた。そして、優雅な所作でうちに入ってきた。
「バナナに襲われたというわけの分からない理由でも、優しい優しいわたくしは助けに……ばっ、バナナが家を蹂躙してますわ!?」
 俺の部屋からあふれ出るバナナを見て、リナが驚いてた。
「こんちゃ、リナ。とりあえずバナナをおっぱいではさんで下さい」
「「下品っ!」」
 ステレオで怒られた。あと、貧乳の方に殴られた。
「まったく……。それで、どうしたんですの、このバナナ?」
「バナナの日だから買い込んだらKONOZAMAだ」
 リナが残念な人を見る目で俺を見るので悲しい。
「ええと、まあそういうわけなんで、おまえんちの巨大冷蔵庫を貸してくれると嬉しい。あと、おっぱいを触らせてもらえるともっと嬉しい」
「胸のことは言わないでくださいますことっ!?」
 リナの胸がぶるんっと震えた。
「……いいなあ」(ぼそり)
「隣で貧乳がうらやましそうに何か言っていた」
「そういうことは心の中で言えっ!」
 貧乳が僕の口にバナナをたくさんつめこみます。
「と、とにかく、このバナナをわたくしの家の冷蔵庫に入れればいいんですのね?」
「もがもが……ぺっ。そう。お願いできるか?」
「……ふふん。どうして貴方なんかの言う事を聞かなければならなくって? お断りよ! おーっほっほっほっほ!」
「あー、これが言いたくてヘリで飛んできたのか。暇だなあ」
「貴方に呼ばれて来たのになんて言い様ですの!?」
「とにかく、頼むよ。もし断るならお前の目の前で全部捨てる」
「捨てる!? ……え、この大量のバナナを、ですの?」
「そう、全部。まだ食えるのに捨てる。完膚なきまでに捨てる」
「……か、考え直しませんこと? もったいないですわよ?」
 このお嬢さんは金持ちのくせに庶民の感性も持っているので、こういった攻撃が割と有効だったりする。
「考え直さない。捨てる。飽食の日本人を体現した存在に俺はなる!」
「……分かった、分かりましたわ! わたくしが全部持って帰ればいいんでしょう!?」
「おお、流石は俺のリナ。そう言ってくれると信じていたぜ」
「だっ、誰が貴方のリナですの!? ふ、不愉快ですわ! ぷんぷんですわ! ぷんぷーんですわ!」
 リナは怒りで顔を真っ赤にして、家から飛び出した。そしてそれと入れ替わりに黒服の連中がぞろぞろと家に入ってきたかと思ったら、手際よくバナナをヘリに詰め込み、そして飛び立って行った。
「すげー……全部なくなった」
 あっという間にバナナは消え、綺麗な俺の部屋が残った。
「…………」
 そして、なんか知らんがぶっすーとしてる貧乳の人。
「え、ええと。ありがとな、かなみ。手伝ってくれて」
「……俺のリナ、って言った」
「え、あ、ああ。こ、言葉のあやでな」
「……ふーん」
 いかん。なんか知らんが俺の背中が冷や汗ダンス。
「……一番に呼んだのあたしなのに、あたしにはそーゆーの言わないんだ。……まあ、言って欲しくもないけど」
「そ、そなんだ」
「…………」(じぃーっ)
 見られてる。超見られてる。何かを期待した目で超見られてる。
「え、ええと……こほん。今日は助かったよ、かなみ。えーと、あー……その、なんだ、なんだろう?」
「……別に、言われなくても平気だし」(涙じわーっ)
「これからもどうか俺のそばにいてください俺のかなみ!?」
「…………」
 ど、どうだ? セーフか? アウトか?
「……そ、それ、言いすぎだし。なんかプロポーズみたいだし。アンタなんかにそんなの言われるの超迷惑だし」
「え、あ、そ、そうだな。悪かった」
「……め、迷惑だけど、もっかい言って。もっかい」
 なんでちょっと頬を赤らめながら上目遣いで俺の服をくいくい引きますか。どんなスタンド攻撃ですか。
「え、えーと。……俺のそばにいてください、俺のかなみ?」
「う、うわぁ、気持ち悪い台詞。……で、でも面白いからもっかい。もっかい」
 なんで引き続き俺の服をくいくい引きますか。そしてなんで言葉とは裏腹に笑顔なんですか。
「もう無理。死にます」
「いいからもっかい! もっかい言うの!」
 わにゃわにゃ言うかなみに服を引っ張り続けられる俺だった。

拍手[13回]

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