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2024年04月20日
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【留美 押しかけにゃー】

2010年08月17日
 このところ暑いのでおうちでうんだりしてる毎日なのですが、そんな平穏な日常を脅かす魔の手が俺の元へ忍び寄ろうとしていた。
「暑いっ!」
 ていうか早速来た。魔の手が。
「あの。留美さん、いきなりなんの御用でせうか」
「夏休み入ってからずーっと待っ……じゃない、アンタがあたしの家に突然来るかもしんないって思うと落ち着かないから、あたしから来てやったのよ! 感謝しなさいよね!」
 この魔の手は留美といい、俺のクラスメートだ。高校に入ってからずっと同じクラスで、俺の自意識過剰でなければそこそこ仲がいいと思う。のだけど。
「あの、留美さん。行かないから。用事とかないから」
「来なさいよっ! 落ち着かないじゃない!」
「行ったら行ったで文句言うだろ」
「言うに決まってるじゃない」
 どうしろと言うのだ。
「それより! 折角来てやったんだから、あたしを楽しませなさいよ。アンタあたしの奴隷なんだから、いつ何時でもあたしを楽しませなきゃダメなんだからね?」
「はい?」
「奴隷よ、奴隷! 言っとくけど、永続契約だから解除とかはないからね!」
「何を言ってるのですか。暑いからですか。それとは関係ナシに頭がダメなのですか」
「むーっ!」
 むーと言われつつ頬をつねられていると、ふと思い出した。
 一年ほど前、こいつと一緒にゲームして遊んでたとき、戯れに賭けをして、勝った奴が負けた奴を奴隷にできる、というゲームをした。そして俺は負け、奴隷になってしまった。で、その契約はまだ継続している、らしい。
「ほら、楽しませなさいよ。アンタ奴隷でしょ?」
「なんてめんどくさい奴だ」
「うるさい! 暇になっちゃったんだから、何かして楽しませなさいよ!」
「ああ、そういうことか。んじゃ、どっか遊び行くか?」
「えっ、そ、それって、デー……ト?」
 留美は手をこしょこしょと結び合わせ、上目遣いで俺を見た。
「いや、んな大層なものではないけれども」
「…………。ふ、ふん! それは嬉しい限りね! 誰がアンタなんかと遊びになんて行くもんですか! 調子に乗らないでよね! ばか、ばーか!」
「やっぱデートかも」
「うっ……で、でも、どーしてもあたしと一緒に遊びたいなら、あんまりにもアンタが哀れだから遊んであげなくも」
「いや、やっぱデートではない」
「…………。もーっ! 人で遊ばないの! いーから一緒に遊びなさいっ!」
「いいけど、暑いから外に行くのは嫌だ。おうちで遊ぶならいい」
「え? ……こ、こんな狭い場所で、ふたりっきり?」
 留美はほんのり頬を染め、きょろきょろと周囲を窺いつつ確かめた。
「そう。もし嫌ならもうちょっと涼しい日に改めてどこかへ遊びに行きますが」
「ううんっ! ここで! 今日! 一緒に! 遊ぶの!」
「そ、そうか」
 あまりの勢いに、少したじろぐ。
「あっ! ……べ、別にアンタと一緒で嬉しいとかじゃないからねっ! そこ、勘違いしたら殺すからねっ!」
「はぁ」
「……で、でもちょこっとだけの勘違いならゆるす」
 何がだ。
「そ、それより! 一体何をしてこのあたしを楽しませてくれるって言うの?」
「何も考えていません」
「はぁ? そんなのでよくもまああたしを誘ったものね。何考えてんだか」
「誘ってません。勝手に押しかけられました」
「……そ、それはともかくとして」
 ともかくとするな。
「じゃ、じゃあ、あたしの考えた遊び、する?」
「まあ、いいけど」

「……遊び?」
「そ、そうよ。何か変なことでも?」
 留美の考えた遊びとは、俺が留美を前から抱っこして時折頭をなでること、らしい。
「遊びではないよね。ていうか、対面座位だよね」
「? なにそれ」
「……いや、なんでもない」
 思ったより性の知識がなくてお兄さん安心しました。
「それより、この体勢はどうかと思うぞ。なんちうか、恋人同士が抱き合ってるように見えるような」
「あ、アンタの身勝手な恋人論なんてどうでもいいの! それより、手が空いてるわよ?」
「はぁ」
 指摘されたので、とりあえず留美の頭をよしよしなでる。
「もっと」
 もうちょっとなでる。
「もっと! もっといっぱい!」
 たくさん望まれたのでたくさんなでる。
「そ、そう。そんな感じ。……で、でも、もちょっと」
 言われた通りにもっとなでる。なでる合間に頭をごく軽く、ぽんぽん叩いたりとかもしてみる。
「へへ……えへへ。えへへぇ」
「留美の言語野がおかしくなった。しかしこの暑さだ、留美だけを責めるのは酷か」
「おかしくなってないっ! ……そ、それよりさ。アレだったら頭だけじゃなくて、他のとこもなでていーから」
「胸かっ!」
「言うと思ったわよ、変態っ! ……そ、そゆとこじゃなくて、ほっぺたとか、おなかとか」
「お尻とか!」
「今日も変態っ!」
 変態扱いされ悲しいので、乳やら尻やらは置いといて、ほっぺをなでたりふにふにしたり両手で挟み込んだりしてみる。
「……あ、アンタってばホントーにあたしを触るの好きよね。ほっぺなでる手つきとか、いやらしーもん」
「あー。お前触ってると気持ちいいからそうなっちゃうのかな」
「……へ、へんたい」
 留美は俺をなじりながらも、ほっぺをうにうにされて気持ちよさそうに目を細めていた。
「留美って猫みたいだな。にゃーとか鳴け」
「誰が鳴くもんですか!」
「ほら、にゃーだ。にゃー」
「い、言わないってば」
「にゃーって言って。ほら、留美。にゃー」
「……にゃ、にゃー」
「留美は簡単だな」
「にゃー!」
 にゃーぱんちが飛んできて痛い。
「痛いのですが」
「人を馬鹿にした罰よ。ふん、だ」
「いや、人を猫にしたんだ。だから、人を猫にする罰にしろ」
「にゃー!」
 再びにゃーぱんちが飛んできてやっぱり痛い。
「一緒なのですが」
「人を猫にするからよ。がうがう」
「食うな」
 留美は俺の肩に口をつけ、あむあむ軽く噛んだ。
「あう……なんかしょっぱい」
 しかし、すぐに俺から口を離すと、留美は顔をしかめさせながら舌を出した。
「汗かいたからな。それも已む無しだ」
「しゃざいとばいしょーをようきゅーするにだー」
「ふむ。じゃ、今度どっか一緒に出かけたときに何か買ってやるよ。安いの」
「最後に何か変なのついた! 高いのが欲しい!」
「俺と一緒にいる限り、高級品とは縁がないものと思え! ふわーっはっはっは!」
「あぅー……なんて甲斐性のない奴だ。こんなで将来だいじょぶかなあ」
「将来?」
「ん? ……ち、違くて! 別にアンタと一緒の未来なんて想像なんてしてないし! そんなの考えるだけでもおえーって感じだし! 子供は二人くらい欲しいし!」
 留美は顔を真っ赤にさせながらあわあわと抗弁した。ていうか、なんか混じってる。混乱しすぎだ。
「そ、そゆことだから。勘違いしたらにゃーだからね!?」
「それは大変に怖いので勘違いしません」
「そ、それならいい。……で、でも、1ミリくらいなら勘違いゆるす」
 何をだ、と思いながらぶすーっとしてる留美のほっぺをむにむにする俺だった。

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