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2024年03月28日
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【運動会で弁当忘れた男】

2010年03月27日
 今日は運動会だ。わーいわーい。面倒だよしんどいよ逃げ出したいよ。
「だが、ウチのクラスの期待を一身に背負っているゆえ、逃げ出さない俺を褒めろ」
「ばーか」
 目の前をてこてこ歩いてたレミットに褒めるよう要請したが、罵声を浴びせられるだけだった。
「馬鹿と、馬鹿と申したか、そこなちみっこ!」
「ちみっこじゃないわよ、この馬鹿!」
「ふふ、馬鹿としか言わないとは……素晴らしい語彙力だな、ちみっこよ」
「馬鹿、愚鈍、間抜け、痴漢、異常性欲者、能無し、塵芥。まだいる?」
「うっうっ、ごめんなさい……」
「な、何も泣かなくても……」
 酷い言葉に思わず泣いてしまっていると、チャイムが鳴った。昼休みの時間のようだ。
「腹減った。レミット、一緒に飯でも食わないか?」
「……一人で食え!」
 なぜか俺の頭の上に置かれていた手を戻し、レミットは足音荒くどこかへ行ってしまった。
「難しい年頃ですなぁ」
「は、はぁ……」
 突然話を振られ、困惑顔の校長だった。
「ところで、校長はどんな弁当食うの? 豪華だったら容赦しねぇ」
「ひぃ、殺される予感!」
 慌てふためき尻を振りながら逃げる校長を追いかけてると、教頭に出て行けと言われた。仕方ないので自分の陣地に戻り、鞄を漁る。……む?
「どした別府、変な顔して」
「貴様、俺の弁当盗んだな!」
 隣で平和そうな顔して飯を食ってる友人に詰め寄る。
「盗るか。大方持ってくるの忘れたんだろ」
「……いや、そもそも用意した記憶がないな。登校途中でパンでも買うつもりが、寄るのを忘れていたようだ」
「そりゃご愁傷様で」
 それだけ言って、友人は再び栄養補給に戻った。……むぅ、腹が減った。
「あのさ、その弁当」
「絶対やらん」
「…………」
 視線を他のクラスメイトに向けるが、一斉に目を逸らされる。……いや、一人だけ呆れた目をした奴が残ってる。
「レミット。麗しく、さらに優しい貴方なら、俺に施しを与えることに何の躊躇いも」
「あげない。忘れたアンタが悪いんでしょ?」
「……いや、ちょっとくらい考えても罰は当たらないかと」
「んー……あげない」
 10人いたら10人が「考えたフリだ」と見抜くに違いない。
「お腹が減って力が出ないと、この後の競技に差し支えが出るぞ。俺の活躍が見れなくなってもいいのか?」
「午前中の競技で、アンタ何したか覚えてる?」
「ええっと、綱引きに、玉入れに、借り物競走。どれもこれも俺の活躍により、我がクラスは見事な成績を誇っていると記憶しているが」
「綱引きは相手チームの握る綱の部分に油を塗る工作をして、それがばれて反則負け」
「それぐらい構わないと思ったんだけどなぁ」
「……玉入れは相手のカゴを押さえてる女生徒にえっちなことして反則負け」
「ブルマにほお擦り。素敵なブルマでした。ナイスブルマ!」
「…………。さらに借り物競走では『帽子』という指令に、校長のカツラを奪って反則負け。アンタが絡むと全部反則負けになんのよ!」
「ヅラも頭に被るという意味では帽子と一緒だし、いいかなーって」
「校長、泣いてたわよ……」
 今は嬉しそうに弁当食ってるけどな。む、美味そうな弁当食ってるな。……盗むか?
「とにかく! アンタのせいでうちのクラスの成績はガタガタよ。アンタが何もしない方がまだ勝てる見込みあるんだから、アンタは午後はじっとしてなさい。それだったら、弁当もいらないでしょ?」
「しかし、それでは餓死するぞ?」
「世界のためよ」
 世界と来たか。そこまで俺の存在は有害ですか?
「しゃーねえ。じゃ、ちょっくら食料を調達してくる」
 軽く腰を上げながら校長の飯を奪う作戦を練ってると、レミットに手を掴まれた。
「……まさかとは思うけど、校長先生のお弁当盗るつもりじゃないでしょうね?」
「お、さすがはレミット。俺の考えがよく分かったな」
「校長先生の方じっと見てたじゃない。とにかく、盗むなんてダメよ! そんなことしたら、アンタ停学よ?」
「や、でも、お腹空いたし」
「……ああもうっ、ホントに馬鹿! ちょっとそこに座りなさい!」
「え、でも弁当……」
「いいからっ!」
 これ以上断ると殴られそうだったので、素直に座る。
「……はい」
 そう言って差し出されたのは、女の子らしい小さな弁当箱。
「……いいの?」
「アンタみたいのでも、いなくなったらつまんないからね。……そっ、それだけなんだから!」
 何を怒ってるのか知らないが、ありがたい話だ。
「レミット」
「何よっ!」
「ありがとな」
「……っ!! うっ、うるさいっ! 黙って食べろ!」
 ご所望どおり黙って食べた。すごい美味しかった。
「午後からは俺に任せろ! レミットの弁当パワーで一騎当千の活躍を見せる予定!」
「……反則負けなんかしたら、許さないからね」
「体育委員を抱きこむから大丈夫だ」
「ダメに決まってるでしょ!」
 じゃあ、真面目にしてかっこいいところ見せるか。よし、頑張れ俺!

「……全然だったわね」
「ははははは」
 大差で負けました。卑怯技を使わないとこんなもんです。
「……でも、反則しなかったのは褒めてあげる。反則しないのが普通なんだけどね」
「では、努力賞ということで、ほっぺにキスなどいかが?」
「そーゆーことは勝ってから言いなさい、ばーか!」
 夕日を背に、レミットは俺にあっかんべーをした。

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