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2019年10月15日
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【節分とツンデレ】

2010年04月19日
 昼休み。豆を廊下に蒔いてたら、学食で食事を終えたかなみに見つかりこっぴどく叱られた。
「いやでも、今日は節分ですし……」
 腫れた顔をさすりながらどうにか言い訳するも、
「だからって廊下歩いてる人にぶつけんなッ!」
 かなみは飛沫を飛ばしながら俺を怒鳴るのだった。
「そう怒るな。ほら、お前もやったらいかに楽しいか分かるだろう。なくなったら、そこに置いといた豆使っていいから」
 教室の隅を占拠している豆袋を指しつつ、かなみに豆を持たせる。すると、かなみの口角が吊り上がっていくではないか。
 しまった。鬼に金棒、かなみに豆だ。殺される。
「……そうね。鬼は外と言うし、馬鹿も外でいいわよね」
「いやいやいや! 馬鹿も人権を保持している感じが痛い痛い痛い!」
 かなみはこの上なく嬉しそうに俺に豆をぶつけた。
「あーっはっはっはっは! こりゃ楽しいわ!」
「……あ、またタカシがいじめられてる」
 ちなみが俺を指差し酷いこと言った。
「いじめられてねぇ! 倒錯した愛の形だ!」
「ちなみ、アンタもやる?」
「……やる」
 ちなみは嬉しそうに豆を受け取ると、楽しそうに俺目がけ豆を投げつけた。
「いてててて! 畜生、そうは見えないのに何気に豆痛え!」
「……うふふふふ、これ、楽しい」
 このままここにいては豆に殺される。俺は校庭まで逃げることにした。
「あ、逃げた! みんな、手伝って!」
 かなみの声に、「おう」とか「任せろ」とか「私もやりたかったんだー」とか、そんな声が背中から聞こえてくる。
 畜生、なんでウチのクラスこういう時だけ団結力がありやがるんだ!
 上履きのまま校庭に出る。校庭にいる生徒たちが、俺の顔を見て驚いてる。失礼な。
 ……いや、違う。俺じゃない、俺の背後を見て驚いてる。
 恐る恐る肩越しに背後を見る。ウチのクラス総出で俺を追いかけていた。
「な、なんで全員が!?」
「日頃の行いの成果ね! あーっはっはっはっは!」
 かなみは嬉しそうに哄笑した。
「ふふふふふ……タカシ! 積年の恨み、ここで晴らせてもらう!」
「恨み持たれる覚えなんてねーよ!」
 みことの投げる豆弾をどうにか避ける。……ありえねー、地面に穴開いてる。
「ふふっ、愉快よのぉ♪」
 どこから先回りしたのか、満面の笑みでまつりが眼前の木の後ろから現れ、至近距離で豆を俺に投げつけた。
「秘技! 今時マトリックス!」
 説明しよう! 今時マトリックスとは、今時マトリックスの例の変なポーズをして弾丸をさけることである!
「いてててて! 超痛え!」
 今時マトリックスは豆を避けることは出来ないだけでなく、腰に致命的なダメージを与えた。
「あははははっ、やっぱりタカシって馬鹿だねー。ボクもいくよーッ!」
 梓の投げるひょろひょろ豆を受け取り、反対に投げ返す。
「ふぎゃっ! ……ううううう、なんでボクだけ当たらないんだよー!」
「そんなへろへろ豆、当たる方がどうかしてるさな。わはははひぎゃ!」
 腰に手を当て笑ってると、四方八方から豆の集中砲火を受けた。
「なーに笑ってるのよ。ほらほら、逃げないと死ぬわよ?」
「うぐぐぐぐ……奥義、セクハラ離脱!」
 説明しよう! セクハラ離脱とは、女生徒のスカートをめくり、それに人々が気を取られている隙に包囲から脱出することである!
 結果は大成功。女生徒二人の悲鳴と、見事なしまぱんを網膜に残し、俺はその場から逃げた。すまない、見知らぬ女生徒よ。
「た、タカシーッ! 絶対許さないわよーッ!」
 鬼気迫る声が聞こえたけど、聞こえないフリ。振り返ると、たぶん失禁する。
 今年一番の頑張りを使い、どうにか校庭裏の窓から校舎に逃げ込む。
「はぁ、やれやれ……ん?」
「…………」
 小さな先輩が洋式便座の上に座り、顔を真っ赤にして俺を見ていた。よく見ると、スカートからパンツが覗いていた。
「や、先輩。……その、なんというか、……パンツにプリントされてる熊、かわいいね」
「……! ……!」
 先輩は半狂乱で俺にトイレットペーパーを投げた。
「ごごごめん先輩! この侘びはいずれまた!」
 ほうほうの体で便所から逃げ出す。……うう、女子便所の窓だったとは。
「あーっ! アンタ、どっから出てきてんのよ!」
 便所から出てくるところをかなみに見つかった。
「女子便所」
 素直に答えると、いつになく鋭い勢いで豆が飛んできた。
「アンタ……アンタ、ぜーったいに殺す!」
「まま待って! 先輩のパンツを見たのは不可抗力でして!」
「こ……この、犯罪者がーッ!」
 鬼はどっちだ、と言いたい程かなみの顔が憤怒に染まる。
 本気で身の危険を感じたので、必死に走ってかなみを振り切り屋上へ。
「あ、タカシや」
「ニイハオ、タカシ。何やってるアル?」
「うぐ、いずみにメイシン……」
 屋上には、手すりにもたれ掛かったいずみとメイシンがいた。
「お、お前らも俺を?」
「なんかあったん? ウチら、昼休みはずっとここにおったから知らんねんけど」
「そうアル。ワタシたち、ここでご飯食べてたネ」
 しかし、そう言われても素直に信じることは出来ない。
「悪いが、調べさせてもらう」
「え、ちょ、ちょっと」
「な、何するカ?」
 いずみとメイシンの体をまさぐり、豆がないか調べる。
「ちょ、ちょっと、こんなお天道様が出てるうちからやなんて……ウチ、ウチ」
「た、タカシ……そんなことされたら、ワタシ、あぅぅ……」
 ふむ……どうやら豆はないようだ。勘違いを詫びるため顔を上げると、熱っぽく潤むいずみとメイシンの瞳が。
「ふ、二人とも、どしたの?」
「はぁはぁ……た、タカシ……ウチ、ウチな」
「た、タカシ……ワタシ、ワタシは……」
「ここかーっ、タカシーッ!」
 叫び声と同時に扉が大きな音を立てて開いた。そこに、かなみがいた。
「や、やぁ、かなみ。ご機嫌いかが?」
「な……あ、あ、アンタ、何やってんの!?」
 何をやってるか、と言われても。ただいずみとメイシン、二人と抱き合って
「って、何ぃぃぃぃ!? ち、違う、誤解だ!」
「何が誤解よ! 何をどう見ても乳繰り合ってるようにしか見えないじゃない! し、しかも二人同時だなんて……不潔よ!」
「乳繰り合ってるとは……また凄い言葉が出てきたなぁ」
「誤魔化すなぁ!」
 かなみと話してる間に、続々とクラスメイトが屋上にやってきた。
「……むっ。……タカシ、変態行為してる」
「ふっ、不潔なッ! ええい、今日こそ成敗してくれる!」
「まったく、こんな楽しそうなことになんで儂を呼ばんのじゃ!? 許さん、手打ちの刑じゃ!」
「…………」
「綺麗なお姉さんをはずかしめた罰を、って先輩が言ってるよ。ボクも助太刀したい気分だよ!」
 みんな勝手なこと言ってやがる。一つだけ共通してるのは、どうやら俺は今日死ぬらしい。
「は、ははは……いずみ、メイシン、助けて」
「なんや分からんけど、タカシが悪いみたいやな」
「そうアルね。たまには懲らしめられるべきアル」
 望みは絶たれた。……否、切り札がまだある!
「……家主のピンチだ。こういう時くらい役に立て、無駄飯食らいの幽霊ッ!」
 一か八か、空に向かって叫ぶ。刹那、何もない空間から煙とともに幽霊が現れた。
「無駄飯ぐらいじゃないわよッ! たまに掃除とか手伝ってるじゃない!」
「頬に飯粒ついてる」
「ご、ご飯食べてる最中に呼ばれたんだから仕方ないじゃない! そ、それでピンチって?」
「俺を除き、この場にいる連中全員呪え」
「ああ、そういうの無理。ごめーんね。んじゃ、ご飯食べてくるー」
 何の役にも立たず、幽霊は消えた。
「……心底使えねー! 畜生、あの無駄飯食らい!」
「……呪えとか、面白いこと言うわねー、タカシ?」
 じりじりと、笑顔の奥に怒気を秘めたかなみたちが寄ってきた。
「は、ははは、……冗談だよ?」
 クラスメイト総出で豆をぶつけられた。豆で臨死体験できるとは思いもしなかった。

 臨死体験の後、十八番の土下座で許しを請って皆に許してもらった。
 その後、ぼんやり過ごしてると放課後になってお家へダッシュ。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさいまし」「ん、おかーりー」
 なんか、俺の部屋なのにリナっぽい女生徒と藪坂っぽい女生徒がいる。
「……いかん、俺の病状が幻覚までレベルアップした」
「幻覚って失礼ですわね。本物ですわよ」
「……レベルアップって何だよ」
 藪坂がせんべいを食いながら馬鹿にしたように……って
「おまえ、なに俺のせんべい食ってんだよ! 返せ!」
「せんべいうめー。ばりばりばり」
 手を伸ばすが時すでに遅く、藪坂は一気に俺の、俺のせんべいを!
「う、ううううう……クラス中から寄ってたかっていじめられ、果ては楽しみにしていたせんべいまでも……!」
「や、藪坂さん、タカシ泣いてますわよ?」
「う……せ、せんべいくらいで泣くなよ。男だろ?」
「ううっ……こうなっては、藪坂の手に残るせんべいの欠片だけでも!」
 藪坂に襲い掛かり、手を舐めまくる。
「なっ、何しやがるテメェ!」
「べろべろべろべろ! うーん、せんべいの味しない。強いて言うなら、藪坂味?」
「きゃああああ! た、タカシが藪坂さんを手篭めに!」
 藪坂は俺の頭をぽこぽこ殴るし、リナはでっかい声でとんでもないこと叫ぶし、たーいへん。
「……落ち着いたか?」
「はい、すいませんでした」
 顔を腫らしながら藪坂に頭を下げる。二人がかりで殴られ、とても痛かったです。
「ええとな、オレらが別府ん家来たのは」
「わたくし達も豆まきをしたかったんですわ」
 それなら二人で勝手にやってくれよ、と言いたかったけど言わない。もう殴られるの嫌だし。
「やっぱ鬼役は別府で決まりだろ? 豆投げやすいし」
 決まってません。勝手に俺に鬼の面をつけないでください。
「まぁ……とっても似合ってますわ。まるで鬼の面をつけるために生まれてきたかのよう」
 褒められても嬉しくない。ていうか、微妙に馬鹿にされてるような。
「んじゃ、豆まき開始ー!」
「いや、あの」
「えいえいっ、ですわっ」
 文句を言う暇もなく、リナが俺めがけ豆を投げつけた。
 しかし、そこはクラスメイト全員から豆を投げられたという経験を持つ俺。この程度の豆、痛くも痒くもない。
「あら……なんだか平気って感じですわね。やはり、これを使わないとダメのようですわね」
 リナは、さっきから気になっていたどでかい袋から、何か禍々しい機械を取り出した。
「な、なんですか、それ?」
「鬼殲滅用機関銃、らしいですわ。詳しいことは知りませんが、とっても素敵ですわよね?」
「あっ、いいなそれ。オレにも貸して」
「いいですわよ、もう一つありますから」
 よく分からんが、また死ぬのは嫌なので藪坂が機械をいじくってる間に窓から脱出。
「逃がさないぜっ!」
 藪坂の叫びと同時に、怪しい機械から豆がとんでもない勢いで飛び出した。
「いででででででッ! こんなの豆まきじゃねえ!」
 窓から庭に立ってる木に飛び移り、リナたちから距離を取る。体に穴開くかと思った。
「うふふふふっ、そんなところにいたらダメですわよ。……すぐ終わってしまいますわ」
 リナはどこか恍惚とした表情で機械のトリガーを引き絞った。素早く手を離し、木から飛び降りる。
「りっ、リナ! その機械禁止! 見ろ、木の枝吹き飛んだぞ!?」
「うふふふっ、タカシも吹き飛びたくなかったら逃げた方がいいですわよ?」
 リナの目にハンターの炎が灯る。さぁ、逃げろ。
「なっ、なんで俺ばっかこんな目に……!」
 泣きながら裸足で街を駆ける俺を、通行人が奇異の目で見ていた。
「うふふふ……楽しいわ、楽しいですわ、タカシ!」
「あははははっ! 逃げろ逃げろ、別府ーッ!」
 狩猟者の声が背後から聞こえてきたので、俺は涙を撒き散らしながら逃げた。
 すぐ捕まった。トラウマがまた増えた。豆が怖い。

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