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2024年04月19日
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【ツンデレがストーカー被害に遭ったら】

2011年09月14日
 授業も終わったのでさあ帰ろうと思ったら、先に帰ったはずのかなみが教室に戻ってきた。はて一体どうしたのだろうと様子をうかがっていると、まっすぐこちらにやって来た。
「ちょっと来なさい」
「今日は怒られることしてませんよ? それとも存在しているだけで怒られるレベルにまで達したの? 怪獣レベルですね!」
「いーから早く来い!」
 怒られたので素直について行く。しかし、今日は本当に大人しくしていたので怒られる理由が浮かばない。……まさか、なんかとなくむしゃくしゃしたから難癖つけて俺を殴るつもりか? なんて酷い奴だ!
 ぷんぷんしながら付いていくと、空き教室に連れてこられた。え、誰も見てないところで殴りまくるの? 死ぬよ? ……こうなったら!
「……えっと、それで話なんだけど」
「すいませんでしたっ!」
「……へ?」
 先手必勝とばかりにこちらから土下座をしかける。これで毒気を抜かれ、殴られずに済むに違いない!
「……えーと。アンタなんかやったの?」
「いや、何も。いつものように理不尽な暴力が降りかかると思い、先手を打っただけだ」
「理不尽って何よ! んなことしたことないわよ!」
 土下座したのに頭をぺこぽこ叩かれた。解せぬ。
「で、殴るんじゃなけりゃ、何の用だ? 人目を忍んでるんだから、それなりの用だろ?」
 もう土下座する理由はないので立ち上がり、教室の隅に固められてる机に寄りかかる。
「う……アンタ、無駄に察しがいいのね。頭悪いのに」
「俺は別に帰ってもいいんだが」
「あ、ウソウソ! えっとね、ちょっと頼みがあるの」
「珍しいな。俺に出来ることか?」
「……えーと、アンタにしかできないっていうか」
「? 歯切れ悪いな。ばびっと言え!」
「……ああもうっ! アンタあたしと付き合いなさいっ!」
 …………。ほう。
「なっ、何を無言で赤くなってんのよ! ちっ、違うわよ! そーゆうんじゃないわよ! 誰がアンタなんかと!」
「だよな。あーびっくりした」
「(……何で素直に納得してるのよ、馬鹿!)」
「はい? 何か言いました?」
「何も言ってないわよッ!」
「はいすいません、はいすいません!」
 なんか超怒られた。怖い。
「ったく、馬鹿。あのさ、あたしってモテるでしょ?」
「あー。性格はともかく、外面はいいからな。猫かぶり姫とでも命名しようか?」
「うるさい。まーそーゆーわけだから、モテてモテて。毎日ラブレターもらうのよ」
「自慢話しにきたのか? そういうの聞くのは得意じゃないのですが、我慢して聞かないといけないの? 一刻も早く帰りてえ」
「いいから黙って聞きなさい! そうやってもらうラブレターの中に、ちょっと変なのが混じっててね」
 何やら話がマズイ方向に行ってる気がする。
「その……あたしの盗撮写真、みたいなのが入ってて」
「分かった、犯人を見つけ出して殺す」
「違うっ! 落ち着け! 何を真顔で言ってんのよ!」
「大丈夫だ、社会的に抹殺するだけだ。もちろん骨の一本や二本は覚悟してもらうが」
「ダメだってのっ! 相手は女の子よっ!」
「女だろうが何だろうが……え? おんな? ストーカーが?」
「そうよ。それに、盗撮って言っても、えっちなのじゃなくて、登校中のあたしとか、普段着のあたしが映ってるだけだから」
「そ、そなのか。それならそこまでしなくてもいいか」
「う、うん。……その、アリガト」
「や。その。なんというか、友人が辱められるのは耐え難いからな。まあ今回は相手が女で被害も軽微なようだからアレだけど」
「……え、えいっ」
 何やら鼻をむぎゅーっとつままれた。
「何をする」(鼻声)
「うっ、うるさいっ! なんかしたくなっただけ!」
「変な奴」(鼻声)
「アンタには言われたくないっ! ……そ、それでね。そういう写真と一緒に、いつも見てますって手紙が入ってて、ちょっと怖くて……」
「……ふむ」
 確かに、知らない奴に監視されてるなんて恐怖以外の何者でもないだろう。
「分かった。それで、俺はどうしたらいい? そのストーカー女とお前がレズってる所を写真に収めればいいのか?」
 殴られたので、違うみたい。
「だから、最初に言ったとおり、あたしと付き合うフリをしてほしいの」
「フリか」
「フリよ。当たり前じゃない。誰がアンタなんかと本気で付き合うってのよ」
「そりゃそうだ。わはははは!」
 なんかまた殴られた。
「なんで?」
「うっさい! 馬鹿!」
「解せぬ」
「うるさいうるさいうるさいっ! とにかくっ、アンタと付き合ってるって噂が立てば、その子も引き下がるでしょ? そーゆーわけだから、今からあたしとアンタは恋人同士! いいわねっ!?」
「はい」
 本当はよくないけど、とても怖かったのでうなずく俺を君は責められるだろうか。
「そっ。……じゃ、じゃあ、一緒に帰ろっか。ほら、恋人同士だし」
「あ、いや、今日は俺本屋に寄るつもりだから別々の方が」
「恋人同士だし、一緒に、帰るわよね?」
「はい」
 仮とはいえ、恋人になった瞬間に尻に敷かれる俺を君はどう思うか。
「うんっ、素直でいいわね♪」
「しかし、恋人か……。そだ、せっかくだし、おてて繋ぐか? なーん……」
「えっ!? ……そ、そうね、恋人だもんね」
 ちゃって、という声を出す前に、そっとかなみが手を出してきた。
「な、何してんのよ。早く手繋ぎなさいよ、ばか」
 なんて、軽くうつむきながら、真っ赤な顔で、ちょっと拗ねたみたいに言うんですの。
「なんかもう信じらんないくらい可愛いので顔を舐めていいですか?」
「アンタ絶対わざとでしょ!」
 べしべし叩かれましたの。

 とはいえ手は繋ぐみたいで、学校の廊下を手を繋いだまま歩いています。
「やー、しかし、なんと言うか……大変恥ずかしいですね!」
「う、うるさい。こっちだって恥ずかしいの我慢してるんだから、アンタも我慢しなさいよね。……て、ていうか、嘘とはいえ、アンタと恋人なんて最悪なんだけど」
「ごめんなさい」
「なんでアンタが謝んのよッ! あたしから頼んでるのにッ!」
「不思議だね」
「全然思ってない! ていうかあにうっすら笑ってんのよ! 怒れ、この馬鹿!」
「なんで俺が頬をつねられてるの?」
 などとイチャイチャ(?)しながら歩いてると、下駄箱に着いた。しかし、かなみは手を離そうとしない。
「あの、かなみさん。手を離さないと靴を履き替えられないのですが」
「わ、分かってるわよ馬鹿。……あの、あとでもっかい繋ぐよね?」(ちょこんと小首を傾げながら)
「うーん。やっぱ舐めていいですか?」
 なんか知らんが涙目のかなみに頬をつねられてから、靴を履き替える。履き終わると、ちょこちょこっとかなみが寄ってきて、すぐに手を繋いできた。
「ど、どこから例の子が見てるか分かんないから。外にいる時はずっと恋人のフリしないと」
「あー、確かにお前に気づかれずに隠し撮りしてるくらいだから、ひょっとしたら今も見てるかもしれんなあ」
「そ、そーゆーわけだから、手繋ぐの。……別にアンタと手繋ぎたいわけじゃないから。勘違いしないでよね」
「するわけないだろ」
 またしても涙目のかなみに頬をぎうぎう何故か引っ張られる。
「アンタ本当はあたしのこと嫌いでしょ!?」
「いやいや。一方的に嫌われてはいるが、俺はかなみのこと嫌いじゃないぞ?」
「うぐっ」
 一瞬にしてかなみの顔が真っ赤になった。
「や。その。もちろん、友達としてデスヨ?」
「わ、分かってるわよ! 当然よ! ……こ、こっち見るな、ばか!」
 またしても鼻をつままれた。
「や、そんなことをされては、そちらを見ざるを得ない」(鼻声)
「う、うるさいっ! ばかっ!」
 そんなことをしながら一緒に下校。
「はー……なんだって校門をくぐるだけでこんな疲れなくちゃいけないのよ」
「ま、ストーカーが諦めるまでだ。我慢しろ。……あ、そういや、家の中は大丈夫か? 盗撮とか」
「あー、それは流石にだいじょ……」
 途中まで言いかけた所で、急にかなみの動きが止まった。どうしたのだろうか。
「……や、やっぱダメかも」
 どういうわけか、かなみは真っ赤になりながらダメと訴えかけた。
「マジか。うーん、こうなったらそういう業者に頼んで隠しカメラとか探してもらうしかないかなあ?」
「あ、そ、それは大丈夫。窓から望遠で撮ってるみたいだから」
「あ、そうなのか。んじゃカーテン閉めれば大丈夫だな」
「で、でも、見せ付けるのが目的だから、今日はアンタあたしの家に来なさい。そこでストーカーに見せ付けるの」
「え。……あの、何を?」
「……い、色々」
「いろいろ……」
 そりゃ、恋人同士の色々と言ったら、ピンクいのがメインでしょう。
「な、何変なこと考えてんのよっ! えっちなのは禁止だからねっ!」
 かなみは頬を染めながら先手を打った。
「今の一言で生きる希望が潰えた」
「やっぱか! この変態めっ! ……そ、そんなにえっちなのはやらせるわけないでしょ、ばかっ!」
「そんなに?」
「ち、ちょっとくらいなら別に。……す、すりすりとか、なでなでとか。……ほっ、ほら、こっちから頼んでるんだから、それくらいのサービスはしないとねっ!?」
「は、はい」
 なんだかすごい勢いだったので深く考えずにうなずいたが、よかったのだろうか。
「そ、そう。……じゃ、じゃあ、今日はうちに来なさいよね」
「いかん、なんかもう興奮してきた」
「イチイチ言うなっ、ばかっ!」
 ぺこぽこ叩かれながらも、かなみの家に到着。かなみのおばさんにからかわれつつも、どうにか二階に上がることに成功。はひぃ。
「あ、着替えるから廊下で待ってて。覗いたら殺すから」
 死ぬのは嫌なので廊下で大人しく待ってると、かなみが顔を出した。
「き、着替え終わったから。入っていいわよ」
 ということなので、部屋に入る。かなみはベッドの上にちょこんと座っていた。
「す、好きなとこに座っていいから」
「あ、ああ」
 流石にかなみの隣というわけにもいかないので、部屋の中央に置かれたクッションの上に座る。と、かなみの俺の隣にすすすーっと寄ってきた。
「……な、何よ。恋人なんだからこのくらいの距離普通でしょ?」
「分かりません」
「普通なの! ……あ、あたしもよく知んないけど」
 とか言いながら、かなみは俺の手を握り、それどころか俺の肩に頭を預けましたよ!?
「これは大変にいけない! ああもう、俺の中の何かが溢れてきそうだ!」
「う、うるさい! 興奮するな、ばか! フリよ、フリ!」
「分かってます、分かってはいるんですが! ああもうなんか幸せすぎて俺は今日死ぬかもしれない」
「おおげさっ! ……て、ていうか、幸せとか嘘っぽい」
「なんで?」
「な、なんでって……ああもうっ、不思議そうな顔するなっ、ばかっ!」
「痛え」
 がじがじと肩を噛まれた。まあ、甘噛みなのでさほど痛くはなかったけど。
「そ、そんなことより、他にも色々しなさいよね」
「い、色々とは?」
「だ、抱っことか、すりすりとか、なでなでとか。……い、一般論よ!? 一般論として、恋人にやってほしいことを羅列しただけっ!」
 抱っこはともかく、なでなで等は恋人にもあまりしないと思う。
「うぅー……」
 が、してほしそうな感が強かったので、なでてみた。
「……もっといっぱいなでなさいよ、ばか。強さはそれくらいでいーから。もっといっぱい」
「はいはい」
「はいは一回! あと、抱っことかもしろ。後ろからね。抱っこね。むぎゅーってね」
 気のせいか、どこか幼くなってきている気がする。とはいえ、その要求にNOを突きつける理由などない。後ろからかなみを抱きかかる。
「う、うぅー……。ね、ねぇ、あたしのこと好き?」
「…………。ええっと。これは恋人のフリをしている状態で答えればいいのでせうか」
「べ、別に。どっちでも。アンタがあたしを好きだろうが嫌いだろうが、あたしの人生には全く関係ないし」
「そうか。なれば応えよう、その心意気に! ええと、実は嫌いじゃないどころか、物凄く好きです」
「~~~~~~~~っ!!!」
「痛い痛い痛い」
 かなみは突然俺の腕をがぶがぶ噛んだ。足もドンドン床に叩きつけている。一寸怖い。
「ど、どっちよ! 演技の方、本音の方!?」
「お前の人生には全く関係ないんじゃねーのか」
「いーから! 答えろ!」
「秘密です」
「顔赤いから本音の方! 本音の方よね!?」
「顔赤いのはお前だ。そして、秘密だと言っています」
「本音だって言え!」
「怖いです」
「んなことは聞いてないッ!」
 思ったことを言ったら怒られた。
「うぐぐぐ……がぅーっ!」
 かなみは妙な叫び声をあげると、くるりと身体を180度回転させた。つまり、俺と抱き合う形になったわけなのだが。
「ま、間違えたの! 間違えたからしょーがないの!」
「何が」
「分かんない!」
 ほら見なさい、これが混乱です。
「分かんないから、あたしを抱っこしろ!」
「この状態で? 姫様も無茶を言う」
「いーから! やんないと殺す!」
「はい」
 そんなわけで、向き合った状態でかなみを抱っこする。大変柔らかいうえ、ものすごくいい匂いまでしやがる。人生の幸運をとんでもない勢いで消費してるような気がする。
「うぅ……なんか頭クラクラするぅ……。……もーっ、なんなのよっ!」
「何が」
「ふつーの顔がムカツク! アンタは慣れてるかもしんないけど、こっちは初めてなのよっ! ちょっとは気使いなさいよっ!」
「ものすごくえろい台詞ですね!」
 ぺこぽこ殴られた。
「一応訂正しておくが、女性を抱っこするなんてこっちも初めてだぞ」
「そ、そなんだ。……は、初めてどーしだ」
 だから、どうしてお前はそういうことをはにかみながら言いやがりますか。
「わっ! ものすっごい嬉しそう! ニヤニヤしてる! 顔も赤いし! ばかみたい!」
「馬鹿とか言うな。一応俺も人間なんで、嬉しいとニヤけちまうんだよ」
「えっへっへー、一緒だ一緒ー♪」
 かなみは俺に頬擦りしまくりながら、ご機嫌な様子で節をつけて言った。
「ものっそいご機嫌ですね」
「な、何言ってんのよ。そんなことないわよ。アンタなんかとくっついてなくちゃいけないんだもん。不本意よ、不本意」
 などと言っている今現在も、かなみは依然俺にべそーっと抱きついており、説得力は皆無と言っていいだろう。
「ほら、手が止まってる。もっとなでなでしろ」
「はいはい」
 こんな感じのことをしていたら一瞬で夜になった。どういうことだ。
「はぅ、はぅぅ……」
 かなみはなでられすぎて頭がおかしくなったのか、俺に抱きついたままはぅはぅ言ってる。
「あの、そろそろ帰らないといけないのだけど……かなみ? 聞いてる?」
「んー?」
「だから、夜なので、帰らないと、いけないんです」
「んふー……。……ん?」
「いかん、脳のメルトダウンが一向に治まりやしねえ」(なでなで)
「んー♪」
「まあいっか。そういうことで、帰るな」
「ん?」
 すっくと立ち上がると、俺の膝に乗ってたかなみはその場にころんと倒れた。
「あうっ。……えっ、あっ? 嘘、もうこんな時間!? どういうことよっ!」
「なんで怒られてるの?」
 ようやっと目が覚めたのか、かなみはいつもの調子で俺を怒鳴った。
「ま、今日の様子をストーカーが見てたんならもう大丈夫だろ。そゆわけで、俺は帰るな。ばいばーい」
「う、うん。……あの、明日もよろしくね」
 なんか今変な言葉聞きましたよ?
「あの。俺の話聞いてました?」
「し、しつこいから! ストーカーはしつこいから! 最低でも一週間……ううん、二週間……いや、一ヶ月は毎日やんないと。今日みたいなの」
 一ヶ月毎日かなみとすりすりイチャイチャ地獄ですか。なんという生殺し。死ぬよ、俺?
「……あによ。嫌なの?」
「いや、そういうことじゃなくて、別の心配をですね」
「……嫌なら別にいいわよ。あ、アンタなんかいなくても、全然へーきだし」(半泣き)
「お前はもう少しその武器の威力を考えた方がいい」
「わっ、ひゃっ!?」
 あまりの威力に堪らずかなみを抱っこしつつ頭をなでる。
「え、えーっと。これはその、明日もいいってコト?」
「そゆこと」
「そ、そう。ま、まあ、ストーカーが諦めるまでの辛抱よね。あーあ、アンタなんかと恋人のフリしなきゃなんなんて、本当最悪よね」
「まあ、一ヶ月の我慢ですよ」
「……ひ、ひょっとしたら一ヶ月じゃ諦めないかもしんないから、二ヶ月くらいやんないとダメかも」
「…………」
「さ、三ヶ月カナ?」
「……まあ、いいや。俺でよければ、何ヶ月でも付き合うぞ」
「そ、そう。まあ、あたしと付き合えるんだから、そんなの当然よね?」
「なんて傲岸不遜な。明日嫌というほど抱っこしてやる」
「じゃ、じゃああたしは対抗して、嫌ってほどアンタのほっぺをぺろぺろしてやるもん!」
「誤ってキスしそうですね!」
「し、しないわよ。……えっち」
 どうして頬を染めながら満更でもない感じでそんなことを言うのですか!!!
「ああもう結婚してえなあ!!!」
「ひっ、人の家でなに叫んでんのよ、ばかっ!」
 あまりに可愛かったので思わず叫んでしまった。ここかなみの家なのに。
 戦々恐々しながら家を出る。幸いにしておじさんはまだきたくしてなかったようだ。よかった。とまれ、今日はこれで終わり。かなみと一緒に家を出る。お見送りしてくれるらしい。
「んじゃ明日な。お休みー」
「う、うん。お休み。またね。明日ね」
 ちっちゃく手をパタパタ振るかなみに見送られ、俺は家路に就くのだった。とか思ったらケータイが震えだした。かなみからメールだ。
『今日はアリガト。あと、結婚とか無理。大人になってからじゃないと無理。いっぱい稼いでくれないと無理。最悪共働きとか無理。日本式とキリスト教式とどっちがいい?』
 全体的におかしい。最後特におかしい。とはいえかなみも疲れているのだろう、責めるのは酷か。俺は無難な返事だけしておくのだった。

 で、翌日。
「昨日のメール嘘だから! あの時頭おかしくなってたから!」
 登校するなりかなみがよってきて真っ赤な顔でぎゃんぎゃん言ってきて困った。
「分かってる、分かってるから」
「そ、そう。……で、アンタ日本式とキリスト教式とどっちがいいのよ」
「ヤベェ、こいつまだ頭おかしい!」
 涙目で俺をつねるかなみでした。

拍手[88回]

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