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2025年04月21日
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【ツンデレの靴下を脱がしたら】
2010年02月11日
かなみが人の家に遊びに来て、俺のベッドの上でうつ伏せに寝そべり、漫画読んで笑ってる。
「その様子をななめ後方からパンツが見えないか必死で眺める俺」
そんな俺を蹴り飛ばすかなみの足。
「覗くな、変態」
「分かった、触る」
「そういうことじゃない!」
かなみの尻を両手で鷲掴みしたら、足でビンタされた。器用な奴。
「引き締まってますね。流石は運動部」
「感想言うなッ! ……ったく、次したら殺すわよ」
「分かった、次は違うことしてイライラさせる」
かなみの目つきに殺意が混じり始めたので、いたづらはやめることにする。そして暇になる俺。
「かなみさん、家主は暇を訴えています」
「知らないわよ。適当に遊んだら?」
「分かった、適当に遊ぶ」
ベッドにのっかり、かなみの足を掴んで靴下を脱がす。
「あっ、こら! 何するのよ!」
「ここで俺が足フェチであればこすりつける等のアクションをするのだろうが、生憎とそんな性癖はないので、これで終わりだ。期待させてすまなかったな、かなみ」
「万々歳よッ! ……あー、でも、靴下脱いだら楽かも。もう片方も脱がせて」
靴下を履いてるほうの足を上げ、かなみは俺に足先を出した。
「どっかのお姫様みたいですね」
「お姫様並の美貌はあるけどね」
「すげえ自負心」
「……あによ、あたしが可愛くないっての?」
こちらに振り向いてるかなみの顔が、ちょっと不満げなものに変化する。
「いや、かなみは可愛いよ」
「んなっ……」
瞬間湯沸かし器の如く、かなみの顔が一瞬で真っ赤になった。
「そういう風に、不意の褒め言葉に弱いところとか可愛いのではないかと」
「……あ、アンタのそーゆーキザっぽいところ、嫌い」
「じゃあかなみの大好きな変態っぽく行く。パンツ好きぃ」
スカートをまくりあげ、顔を尻に押し付けたら気持ちいい。
「死にたいようねッ!」
髪を掴まれ身動きできない状態で顔面を何度も殴打され、とてもとても痛くて泣きそう。
「ごめんなさい」
「謝るくらいなら最初っからするな、馬鹿!」
「いや、殴られる予感はものすごくあったが、尻にほお擦りしたい欲求には勝てなくて。それがしまぱんだった日にはお前、なんかお金あげたい気分。10円あげよう」
「一人くらい殺しても、罪に問われない法律にならないかしらね……」
「かなみが快楽殺人者に!」
「アンタ限定でなりそうよ……」
せっかくお小遣いをあげたのに、冴えない様子。
「何やらぐったりして、お疲れのようですね。マッサージでもいかが?」
「どーせアンタのことだから、えっちなことするんでしょ?」
「うん。……い、いや、しないよ? たぶん。いや、する。……いやいや、しませんよ? 本当はするけど」
「嘘をつくなら貫き通せッ!」
「嘘とか苦手でして」
「……ったく、変なところで不器用なんだから。ほら、マッサージするんでしょ? 早くしなさいよ」
「エロ許可が出た! よし、尻と言わず乳と言わずまさぐりまくるぞ!」
「えっちなことしたら目ぇ潰す」
「背中から揉ませて頂きます」
おしっこちびりそうなくらい怖かったので、煩悩を全力で押さえつける。
「……の前に、靴下脱いでから。はい、脱いで」
「うー……めんどい。アンタが脱がせなさいよ」
「任せろ、得意だ」
いそいそとスカートをずらしたら、またしても会いましたね、しまぱん。
「靴下を! 脱がすに! 決まってるでしょうが!」
「分かっててやったんだ。確信犯なんだ。でも本当は故意犯っていうらしいよ?」
「知るかッ! ていうかちょっとは苦しそうにしろ、ばかっ!」
パンツ一丁で俺の首を絞めるかなみたんだった。
「その様子をななめ後方からパンツが見えないか必死で眺める俺」
そんな俺を蹴り飛ばすかなみの足。
「覗くな、変態」
「分かった、触る」
「そういうことじゃない!」
かなみの尻を両手で鷲掴みしたら、足でビンタされた。器用な奴。
「引き締まってますね。流石は運動部」
「感想言うなッ! ……ったく、次したら殺すわよ」
「分かった、次は違うことしてイライラさせる」
かなみの目つきに殺意が混じり始めたので、いたづらはやめることにする。そして暇になる俺。
「かなみさん、家主は暇を訴えています」
「知らないわよ。適当に遊んだら?」
「分かった、適当に遊ぶ」
ベッドにのっかり、かなみの足を掴んで靴下を脱がす。
「あっ、こら! 何するのよ!」
「ここで俺が足フェチであればこすりつける等のアクションをするのだろうが、生憎とそんな性癖はないので、これで終わりだ。期待させてすまなかったな、かなみ」
「万々歳よッ! ……あー、でも、靴下脱いだら楽かも。もう片方も脱がせて」
靴下を履いてるほうの足を上げ、かなみは俺に足先を出した。
「どっかのお姫様みたいですね」
「お姫様並の美貌はあるけどね」
「すげえ自負心」
「……あによ、あたしが可愛くないっての?」
こちらに振り向いてるかなみの顔が、ちょっと不満げなものに変化する。
「いや、かなみは可愛いよ」
「んなっ……」
瞬間湯沸かし器の如く、かなみの顔が一瞬で真っ赤になった。
「そういう風に、不意の褒め言葉に弱いところとか可愛いのではないかと」
「……あ、アンタのそーゆーキザっぽいところ、嫌い」
「じゃあかなみの大好きな変態っぽく行く。パンツ好きぃ」
スカートをまくりあげ、顔を尻に押し付けたら気持ちいい。
「死にたいようねッ!」
髪を掴まれ身動きできない状態で顔面を何度も殴打され、とてもとても痛くて泣きそう。
「ごめんなさい」
「謝るくらいなら最初っからするな、馬鹿!」
「いや、殴られる予感はものすごくあったが、尻にほお擦りしたい欲求には勝てなくて。それがしまぱんだった日にはお前、なんかお金あげたい気分。10円あげよう」
「一人くらい殺しても、罪に問われない法律にならないかしらね……」
「かなみが快楽殺人者に!」
「アンタ限定でなりそうよ……」
せっかくお小遣いをあげたのに、冴えない様子。
「何やらぐったりして、お疲れのようですね。マッサージでもいかが?」
「どーせアンタのことだから、えっちなことするんでしょ?」
「うん。……い、いや、しないよ? たぶん。いや、する。……いやいや、しませんよ? 本当はするけど」
「嘘をつくなら貫き通せッ!」
「嘘とか苦手でして」
「……ったく、変なところで不器用なんだから。ほら、マッサージするんでしょ? 早くしなさいよ」
「エロ許可が出た! よし、尻と言わず乳と言わずまさぐりまくるぞ!」
「えっちなことしたら目ぇ潰す」
「背中から揉ませて頂きます」
おしっこちびりそうなくらい怖かったので、煩悩を全力で押さえつける。
「……の前に、靴下脱いでから。はい、脱いで」
「うー……めんどい。アンタが脱がせなさいよ」
「任せろ、得意だ」
いそいそとスカートをずらしたら、またしても会いましたね、しまぱん。
「靴下を! 脱がすに! 決まってるでしょうが!」
「分かっててやったんだ。確信犯なんだ。でも本当は故意犯っていうらしいよ?」
「知るかッ! ていうかちょっとは苦しそうにしろ、ばかっ!」
パンツ一丁で俺の首を絞めるかなみたんだった。
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【膝を擦りむいたツンデレ】
2010年02月09日
「ふにゃっ!?」
登校中、猫っぽい声に後ろを振り向くと、かなみが見事なまでにずっこけていた。
「何やってんだよ……」
「う、うっさいわねー! こんなところに石があるのが悪いのよ! あと、アンタがそこにいるのも悪い! ていうかアンタがそこにいるせいで、あたしがこけたの!」
「なんで俺のせいやねん。……はっ、まさか、俺に人を転ばせるという秘められた超能力が、今まさに開花したのか……? 嬉しくない、かなみ、そんな超能力嬉しくない! 透視とかがいい!」
「うっさい! ……あ痛っ」
立ち上がろうと体を起こすかなみだったが、またすぐにぺたんと尻餅をついてしまった。
「あ、お前怪我してんじゃん、膝。うあ、痛そ」
こけた際にすりむいたのか、かなみの膝は血で赤くにじんでいた。
「痛そう、じゃなくて痛いの! どーにかしなさいよ!」
「なんでそんな偉そうなんだよ……まあいいや、善人なので手を貸そう」
「アンタなんかに手を握られるくらいなら、ここで人生を全うする方がマシよ!」
「かなみが道端に居を構える決意を。つまり、ホームレスになる決意を」
「違うっ!」
「あーもう、にゃーにゃー言ってる暇があったら行くぞ」
「だっ、誰がにゃーにゃーって……きゃっ!?」
かなみを抱きかかえ、そのまま歩き出す。
「ちょっ、だっ、誰がこんなこと許可したのよ!?」
「俺様。お前ほって学校行くのも嫌だから、お姫さん抱っこで連れて行くことについて脳内会議を行った結果、全員一致で可決した」
「勝手に可決するなっ、このばかっ! 離せ、はーなーせー!」
かなみは俺の腕の中でじたじたと暴れた。細い手が俺の顔をべしべし叩くので大変痛い。
「ええいっ、暴れるな! 落ちるだろーが! じっとしてないとキスするぞっ!」
「きっ、キス!? なっ、なななっ、なんでアンタなんかとしなくちゃいけないのよっ!」
「じっとしてないとするってぇ話だ! 大人しくしてたらしないから、じっとしてろ」
「…………。だっ、誰がアンタなんかの言うこと聞くもんですか! はーなーせー!」
俺の話を聞いた上で、かなみはさらにじたじたと暴れた。手が俺の鼻やら口やらを叩くので泣きそうなくらい痛い。
「あい分かった! 許さん。もうキスする」
「そっ、そんなのお断りよっ! 誰がアンタなんかと!」
「…………」
「……ぜ、絶対嫌なんだから(どきどき、どきどき)」
「……かなみさん」
「な、何よ! キスなんて絶対許さないんだからねっ!」
「なんで目つぶってるんですか」
「お、お日様がまぶしかっただけよ!」
「あと、なんで口をタコみたいにむぅーってやってんですか」
「や、やってないわよ、そんなこと!」
「してないのか。俺の目がおかしかったのか」
「そ、そうよ。そうに決まってるわよ」
「そっか。それはそれとして、再度キスを!」
「だっ、だから嫌って言ってるでしょ!」
「…………」
「(どきどき、どきどき)」
「俺の目が腐りきっているのか、どうしてもかなみが目をつぶって口をむちゅーってしているようにしか見えないのですが」
「アンタわざとやってるでしょ!」
「いやあ、かなみの恥ずかしがる姿がとても愛らしくて」
「ちょ! あ、アンタ、なに言ってんのよ! ……は、恥ずかしいじゃない」
俺の胸に頭を預け、かなみは俺の胸をくりくりと指でいじった。
「そして、そんなのろけを道行く通行人の方々に聞かせたくて」
「へ? ……あ、アンタ、アンタ、アンタ! こっ、こここここっ、ここ道じゃない! 道端じゃない!」
かなみの言うとおりここはごく普通の通学路であり、そして今は登校中なので学生さんがたくさんいる。知った顔もちらほら。
「みっ、みんな見てるじゃないの! 降ろしなさい! 今すぐ!」
「怪我人を歩かせるなんて、俺のダンディズムが許さない。あと、ダンジネスも許さない」
「ダンジネスって誰!? ていうか早く降ろせっ、ばかーっ!」
真っ赤な顔でじたじたと暴れるかなみだった。
登校中、猫っぽい声に後ろを振り向くと、かなみが見事なまでにずっこけていた。
「何やってんだよ……」
「う、うっさいわねー! こんなところに石があるのが悪いのよ! あと、アンタがそこにいるのも悪い! ていうかアンタがそこにいるせいで、あたしがこけたの!」
「なんで俺のせいやねん。……はっ、まさか、俺に人を転ばせるという秘められた超能力が、今まさに開花したのか……? 嬉しくない、かなみ、そんな超能力嬉しくない! 透視とかがいい!」
「うっさい! ……あ痛っ」
立ち上がろうと体を起こすかなみだったが、またすぐにぺたんと尻餅をついてしまった。
「あ、お前怪我してんじゃん、膝。うあ、痛そ」
こけた際にすりむいたのか、かなみの膝は血で赤くにじんでいた。
「痛そう、じゃなくて痛いの! どーにかしなさいよ!」
「なんでそんな偉そうなんだよ……まあいいや、善人なので手を貸そう」
「アンタなんかに手を握られるくらいなら、ここで人生を全うする方がマシよ!」
「かなみが道端に居を構える決意を。つまり、ホームレスになる決意を」
「違うっ!」
「あーもう、にゃーにゃー言ってる暇があったら行くぞ」
「だっ、誰がにゃーにゃーって……きゃっ!?」
かなみを抱きかかえ、そのまま歩き出す。
「ちょっ、だっ、誰がこんなこと許可したのよ!?」
「俺様。お前ほって学校行くのも嫌だから、お姫さん抱っこで連れて行くことについて脳内会議を行った結果、全員一致で可決した」
「勝手に可決するなっ、このばかっ! 離せ、はーなーせー!」
かなみは俺の腕の中でじたじたと暴れた。細い手が俺の顔をべしべし叩くので大変痛い。
「ええいっ、暴れるな! 落ちるだろーが! じっとしてないとキスするぞっ!」
「きっ、キス!? なっ、なななっ、なんでアンタなんかとしなくちゃいけないのよっ!」
「じっとしてないとするってぇ話だ! 大人しくしてたらしないから、じっとしてろ」
「…………。だっ、誰がアンタなんかの言うこと聞くもんですか! はーなーせー!」
俺の話を聞いた上で、かなみはさらにじたじたと暴れた。手が俺の鼻やら口やらを叩くので泣きそうなくらい痛い。
「あい分かった! 許さん。もうキスする」
「そっ、そんなのお断りよっ! 誰がアンタなんかと!」
「…………」
「……ぜ、絶対嫌なんだから(どきどき、どきどき)」
「……かなみさん」
「な、何よ! キスなんて絶対許さないんだからねっ!」
「なんで目つぶってるんですか」
「お、お日様がまぶしかっただけよ!」
「あと、なんで口をタコみたいにむぅーってやってんですか」
「や、やってないわよ、そんなこと!」
「してないのか。俺の目がおかしかったのか」
「そ、そうよ。そうに決まってるわよ」
「そっか。それはそれとして、再度キスを!」
「だっ、だから嫌って言ってるでしょ!」
「…………」
「(どきどき、どきどき)」
「俺の目が腐りきっているのか、どうしてもかなみが目をつぶって口をむちゅーってしているようにしか見えないのですが」
「アンタわざとやってるでしょ!」
「いやあ、かなみの恥ずかしがる姿がとても愛らしくて」
「ちょ! あ、アンタ、なに言ってんのよ! ……は、恥ずかしいじゃない」
俺の胸に頭を預け、かなみは俺の胸をくりくりと指でいじった。
「そして、そんなのろけを道行く通行人の方々に聞かせたくて」
「へ? ……あ、アンタ、アンタ、アンタ! こっ、こここここっ、ここ道じゃない! 道端じゃない!」
かなみの言うとおりここはごく普通の通学路であり、そして今は登校中なので学生さんがたくさんいる。知った顔もちらほら。
「みっ、みんな見てるじゃないの! 降ろしなさい! 今すぐ!」
「怪我人を歩かせるなんて、俺のダンディズムが許さない。あと、ダンジネスも許さない」
「ダンジネスって誰!? ていうか早く降ろせっ、ばかーっ!」
真っ赤な顔でじたじたと暴れるかなみだった。
【ツンデレにお世辞を強要されたら】
2010年02月08日
休みなのでたまには贅沢に喫茶店でコーヒー飲んでたら、帽子を目深に被ったかなみが店内に入ってきた。店の奥へ行こうとしてる最中、俺を見つけて勝手に人の席に座った。
「勝手に座るねい」
「あ、誰か来るの? それともデート? なわけないわよね。アンタだもんね」
「ものすっげー失礼だな……」
「あはははは。あ、あたしコーヒーね」
注文を聞きに来たウェイトレスさんに、手馴れた様子でかなみは答えた。
「で、どしたんだ? 今日は休みなのか?」
「そうじゃなくて、ちょっとだけ休憩。窓からアンタがここに入ってるの見えてね、寂しいアンタの相手してあげようって思ってね」
「別に寂しくはないが……で、どこでやってんだ?」
「そこのビルで、ちょっとね」
そう言うと、かなみは手をぎゅっと握り、口をパクパクさせた。
「職業に貴賎はない、というが、やはりクラスメイトが風俗で働いてるのは悲しいな」
「違うッ! 歌手! アイドル! 芸能人! 新曲の収録中よ!」
「という設定のイメクラ」
「脳みそぶちまけますわよ?」
とても怖いので泣きそう。
「……ったく。アンタねー、今をときめくかなみちゃんにセクハラするなんて、いい度胸してるわね」
別にかなみの頭がおかしくなったのではなく、本当にこいつは今をときめいている。簡単に言うとマジ芸能人で売れっ子。
「芸能人なんだから、セクハラ慣れしてるだろ」
「あ、それ偏見。確かに枕やってる子もいるけど、やってない子もいるのよ? で、あたしはそういうの一切断ってるの。実力のみでここまで来たのよ? すごい? すごい?」
なんか褒めてほしそうな顔で俺をじーっと見てるので、適当に褒めてやることにする。
「あーすごいすごい」
「なんかテキトー。もっとちゃんと褒めなさいよ」
「昆布ひとつでよくぞここまで登りつめた!」
かなみの頭の両端からでろーんと伸びてる昆布を掴みながら褒める。
「昆布違うっ! これ髪の毛! ツインテール!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみよッ!」
「……ぃよし。じゃ、俺そろそろ帰るな」
「何をしてやったりな顔してるか! ちっとも褒めてない! ちゃんと褒めるまで帰宅不許可!」
「別に俺が褒めなくても、誰も彼もがちやほやしてくれんだろ」
「うっ……そ、そだけど、その……」
「だろ? んじゃ、そゆことでぐげっ」
にゅるりと帰ろうとしたら、襟を掴まれた。
「い、いーから褒めるの! アンタはそれくらいしか能がないでしょ!」
「失敬だな、キミは……」
「いーから! アンタに褒めてもらわないと、なんかやる気でないの! ほら、ぐだぐだ言ってないで褒めるの!」
さて、どうしたものか。褒めろ、と言われても……。
「えーと。えらいぞッッッッッ!!!」
「何がよっ!」
「すずねえっぽいのにダメなのか?」
「誰よすずねえ!?」
「いや、しかしいきなり褒めろ言われても困るのだが。何を褒めるのだ?」
「え、えーと……ほ、ほら、あたしの笑顔がキュートだとか、歌を聴いたら癒されるとか、色々あるじゃない?」
「キュート(笑)癒される(笑)」
大層殴られた。
「芸能人にボコられる一般人って、下世話な週刊誌が喜びそうなネタだと思わないか?」
「うっさい! ……あー! 時間なくなっちゃたじゃないの!」
店に備えられてる時計を見て、かなみは素っ頓狂な声を上げた。
「そか。それは残念」
「今日の夜アンタの家行くから待ってなさいよ! ちゃんと褒めてもらうから!」
「え」
「嫌そうな顔するな! このあたしが行ってあげるんだから、光栄に思いなさいよ?」
「無茶を言うな」
「口答えするな!」
「はい」
で、その夜。
「すっごいすっごい頑張って、早めに終わらせてあげたわよ!」
ものすっごい笑顔でかなみが俺の部屋にいます。
「頼んでませんが」
てってってと俺の元まで歩み寄り、かなみはちょこんと座った。
「こんな頑張ったあたしに、何か言うことあるでしょ?」
「明日も頑張れ」
「ちーがーうーっ!」
耳をぎうーっと引っ張られた。痛い。
「じゃなくて! ほ、ほら、アンタあたしのこと好きで好きでしょうがないでしょ?」
まず前提条件が間違ってる。……べっ、別にそこまで好きじゃないんだからねっ!
「だ、だから特別に……そ、その、褒めるのに、なでなでとかしてもいいから。あ、あと、ほっぺにチュッとかも、別に……」
「じゃあほっぺをなでなでする」
「ホントッ!?」
てっきり「混ぜるなッ!」とか言われると思ったのだが、なんか気に入られたっぽい。
「ほらほら、早くやりなさいよ」
「任せろ、得意だ」
言われるままほっぺをなでなでする。
「なんで自分のほっぺをすりすりしてるかっ!」
「間違えた」
「そんな間違え普通しないっ! ほら、あたしのほっぺをすりすりしなさい!」
俺の手をとり、かなみは自分のほっぺに押し当てた。
「ほら、ふにふにむにむにしなさいよ」
そう言って、かなみは目をつむった。
「そこまでやったら、もう自分でやるも同じだと思うが」
「アンタの手でないと意味ないわよ。……べべべ別に深い意味はないケドっ!?」
「ふむ。つまり言葉に深い意味はないが、声が裏返ってることに深い意味があるのだな。動揺?」
「冷静に分析するなッ!」
赤い人に殴られた。
「もー。……いーから、ふにふにむにむにしなさいよ」
「すごい動詞だな」
「いーからする!」
「はいはい」
言われるままふにふにむにむにする。
「今日も一日よく頑張ったな。偉いぞ」
「ふふん、当然よ。……はふー」
「気持ちいいのか?」
「全然。……はふー」
否定するかなみだったが、口元を緩ませ涎を一筋垂らしてる様は、どう見ても気持ちよさげだった。
「なんか、動物をグルーミングしてるみたい」
「むにゃー」
「猫?」
「むにゃー♪」
猫らしい。
ひとしきり頬をふにふにむにむにしたら満足したのか、かなみは人の布団で眠ってしまった。
「警戒ゼロかよ……」
いっそ襲ってやろうか、と思いもしたが、俺を信頼して油断しきってる顔を見ると、そんな気も失せてしまう。
「さて、と」
携帯を取り出し、かなみのマネージャーにぴぽぱ。寝てしまったので今日は俺んちに泊めることを告げ、いつもすいませんというマネージャーの気弱げな声と同時に通話終了。
「はぁーあ。どこで寝るかな……」
人の布団を全部占領して口をむにむにさせてるアイドルを見て、ため息をつく俺だった。
「勝手に座るねい」
「あ、誰か来るの? それともデート? なわけないわよね。アンタだもんね」
「ものすっげー失礼だな……」
「あはははは。あ、あたしコーヒーね」
注文を聞きに来たウェイトレスさんに、手馴れた様子でかなみは答えた。
「で、どしたんだ? 今日は休みなのか?」
「そうじゃなくて、ちょっとだけ休憩。窓からアンタがここに入ってるの見えてね、寂しいアンタの相手してあげようって思ってね」
「別に寂しくはないが……で、どこでやってんだ?」
「そこのビルで、ちょっとね」
そう言うと、かなみは手をぎゅっと握り、口をパクパクさせた。
「職業に貴賎はない、というが、やはりクラスメイトが風俗で働いてるのは悲しいな」
「違うッ! 歌手! アイドル! 芸能人! 新曲の収録中よ!」
「という設定のイメクラ」
「脳みそぶちまけますわよ?」
とても怖いので泣きそう。
「……ったく。アンタねー、今をときめくかなみちゃんにセクハラするなんて、いい度胸してるわね」
別にかなみの頭がおかしくなったのではなく、本当にこいつは今をときめいている。簡単に言うとマジ芸能人で売れっ子。
「芸能人なんだから、セクハラ慣れしてるだろ」
「あ、それ偏見。確かに枕やってる子もいるけど、やってない子もいるのよ? で、あたしはそういうの一切断ってるの。実力のみでここまで来たのよ? すごい? すごい?」
なんか褒めてほしそうな顔で俺をじーっと見てるので、適当に褒めてやることにする。
「あーすごいすごい」
「なんかテキトー。もっとちゃんと褒めなさいよ」
「昆布ひとつでよくぞここまで登りつめた!」
かなみの頭の両端からでろーんと伸びてる昆布を掴みながら褒める。
「昆布違うっ! これ髪の毛! ツインテール!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみよッ!」
「……ぃよし。じゃ、俺そろそろ帰るな」
「何をしてやったりな顔してるか! ちっとも褒めてない! ちゃんと褒めるまで帰宅不許可!」
「別に俺が褒めなくても、誰も彼もがちやほやしてくれんだろ」
「うっ……そ、そだけど、その……」
「だろ? んじゃ、そゆことでぐげっ」
にゅるりと帰ろうとしたら、襟を掴まれた。
「い、いーから褒めるの! アンタはそれくらいしか能がないでしょ!」
「失敬だな、キミは……」
「いーから! アンタに褒めてもらわないと、なんかやる気でないの! ほら、ぐだぐだ言ってないで褒めるの!」
さて、どうしたものか。褒めろ、と言われても……。
「えーと。えらいぞッッッッッ!!!」
「何がよっ!」
「すずねえっぽいのにダメなのか?」
「誰よすずねえ!?」
「いや、しかしいきなり褒めろ言われても困るのだが。何を褒めるのだ?」
「え、えーと……ほ、ほら、あたしの笑顔がキュートだとか、歌を聴いたら癒されるとか、色々あるじゃない?」
「キュート(笑)癒される(笑)」
大層殴られた。
「芸能人にボコられる一般人って、下世話な週刊誌が喜びそうなネタだと思わないか?」
「うっさい! ……あー! 時間なくなっちゃたじゃないの!」
店に備えられてる時計を見て、かなみは素っ頓狂な声を上げた。
「そか。それは残念」
「今日の夜アンタの家行くから待ってなさいよ! ちゃんと褒めてもらうから!」
「え」
「嫌そうな顔するな! このあたしが行ってあげるんだから、光栄に思いなさいよ?」
「無茶を言うな」
「口答えするな!」
「はい」
で、その夜。
「すっごいすっごい頑張って、早めに終わらせてあげたわよ!」
ものすっごい笑顔でかなみが俺の部屋にいます。
「頼んでませんが」
てってってと俺の元まで歩み寄り、かなみはちょこんと座った。
「こんな頑張ったあたしに、何か言うことあるでしょ?」
「明日も頑張れ」
「ちーがーうーっ!」
耳をぎうーっと引っ張られた。痛い。
「じゃなくて! ほ、ほら、アンタあたしのこと好きで好きでしょうがないでしょ?」
まず前提条件が間違ってる。……べっ、別にそこまで好きじゃないんだからねっ!
「だ、だから特別に……そ、その、褒めるのに、なでなでとかしてもいいから。あ、あと、ほっぺにチュッとかも、別に……」
「じゃあほっぺをなでなでする」
「ホントッ!?」
てっきり「混ぜるなッ!」とか言われると思ったのだが、なんか気に入られたっぽい。
「ほらほら、早くやりなさいよ」
「任せろ、得意だ」
言われるままほっぺをなでなでする。
「なんで自分のほっぺをすりすりしてるかっ!」
「間違えた」
「そんな間違え普通しないっ! ほら、あたしのほっぺをすりすりしなさい!」
俺の手をとり、かなみは自分のほっぺに押し当てた。
「ほら、ふにふにむにむにしなさいよ」
そう言って、かなみは目をつむった。
「そこまでやったら、もう自分でやるも同じだと思うが」
「アンタの手でないと意味ないわよ。……べべべ別に深い意味はないケドっ!?」
「ふむ。つまり言葉に深い意味はないが、声が裏返ってることに深い意味があるのだな。動揺?」
「冷静に分析するなッ!」
赤い人に殴られた。
「もー。……いーから、ふにふにむにむにしなさいよ」
「すごい動詞だな」
「いーからする!」
「はいはい」
言われるままふにふにむにむにする。
「今日も一日よく頑張ったな。偉いぞ」
「ふふん、当然よ。……はふー」
「気持ちいいのか?」
「全然。……はふー」
否定するかなみだったが、口元を緩ませ涎を一筋垂らしてる様は、どう見ても気持ちよさげだった。
「なんか、動物をグルーミングしてるみたい」
「むにゃー」
「猫?」
「むにゃー♪」
猫らしい。
ひとしきり頬をふにふにむにむにしたら満足したのか、かなみは人の布団で眠ってしまった。
「警戒ゼロかよ……」
いっそ襲ってやろうか、と思いもしたが、俺を信頼して油断しきってる顔を見ると、そんな気も失せてしまう。
「さて、と」
携帯を取り出し、かなみのマネージャーにぴぽぱ。寝てしまったので今日は俺んちに泊めることを告げ、いつもすいませんというマネージャーの気弱げな声と同時に通話終了。
「はぁーあ。どこで寝るかな……」
人の布団を全部占領して口をむにむにさせてるアイドルを見て、ため息をつく俺だった。
【ツンデレと同じ家に住んでたら】
2010年02月06日
ひょんなことから、かなみと一緒に住むことになってしまった。
「冗談じゃないわよ、こんな奴!」とはかなみの談。「ああっ、よくあるギャルゲみたい! 凄い!」と言って殴られたのは俺。
そんなわけで、今日もかなみと一緒に登校。一緒に登校しないと後でママンに叱られます。
「いい? 学校ではあたしたちが一緒に住んでること秘密だからね。喋ったら殺すわよ」
「喋ったらコロ助よ? 俺、コロッケ中毒じゃな……はい、分かりました。喋りません」
とても怖い目で見られたので、途中で諦める。
「ったく。なんでアンタなんかと一緒に住まなきゃいけないのよ。あーあ、ヤだヤだ」
「俺はかなみとずっと一緒で嬉しいけどな」
「なっ……な、何言ってんのよ! は、恥ずかしい奴ねー!」
そう言いながらも、かなみの顔はみるみる赤くなっていた。
「だって、俺貧乳大好きだから! かなみの乳が平らでよかった!」
俺の顔もみるみる赤くなっていく。かなみの攻撃で流血してるからね。死にそうだよ。
「この変態!」
「いやあ、はっはっは」
「褒めてないッ! 照れるな、ばかっ!」
なぜか怒ってるかなみと一緒に、教室へ。
「おはよー、かなみちゃん。おはよ、別府く……べ、別府くん、血まみれだよっ!?」
挨拶をしてくれた顔馴染みの女生徒──犬っぽいので、俺は犬子と呼んでる──が、俺の顔を見て青ざめていた。
「急に生理が来たんだ」
「んなわけあるかっ! 仮にそうだとしても、顔から出ないっ!」
ぽんぽんっと俺に突っ込みをいれるかなみ嬢。
「ほ、保健室、保健室行かないと……」
「あ」
青ざめた顔で犬子は俺の手を取り、廊下へ連れ出した。
「犬子、なんだか俺よりお前の方が顔色が悪いように思えるが」
「血、苦手なんだ……」
苦手なのにわざわざ付き添ってくれるなんて、犬子はいい奴だな。
「犬の忠誠心が発揮されたか。伊達や酔狂で犬っぽいわけじゃないんだな」
「……別府くんが私のこと犬子犬子って言うから、みんなも私のこと本名じゃなく、犬子って呼ぶようになったんだよ?」
「そう感謝するな」
「一ミリたりともしてないのに……」
「……で、なんでお前も着いて来たんだ、かなみ?」
俺たちの一歩後ろを、なんだか気まずそうな顔をして着いてくるかなみに問いかける。
「え、えーっとぉ……ほ、ほら犬ちゃんだけじゃ危ないじゃない? いつアンタに襲われるか分かんないし」
「別府くん、私を襲うの……?」
「……ふむ。犬子の乳は平均的な女子より割と大きい。よって俺の攻略対象とは成り得ない。だがしかし、ここに甲斐甲斐しい女性的な性格が加味されることにより、その範囲は俺の攻略対象に入ってくる。故に犬子が俺に襲われる可能性はそこそこある。あと、髪型が犬っぽいのもかなりの魅力だ。ワンとか鳴け」
「しっかり考えた上での結論がそれか、この馬鹿っ!」
熟考した答えを言ったのに、かなみに蹴られた。
「か、かなみちゃん、別府くん怪我してるんだから、蹴ったりしたらダメだよぉ」
「うっさい! いーのよこんな奴! あーもう腹立つ! 何が攻略対象よ! 貧乳大好きって言ってたじゃないこの馬鹿!」
「貧乳大好き……? 何の話、かなみちゃん?」
「え? え、えっと、ち、違うのよ、犬ちゃん」
「うん?」
「なんでもいいが、そろそろ保健室に連れて行ってはくれまいか、お嬢さん方」
「わわっ、別府くんが倒れてる! わわわっ、顔色がとっても悪いよ! 保健室保健室っ!」
「ちょ、ちょっとアンタ、死ぬんじゃないわよ! 死んだら一生恨むからねっ!」
気がついたらベッドの上でした。
「気づいたか、別府」
体を起こしてきょろきょろしてたら、その様子に気づいたのか、何か書き物をしていた先生が声をかけてきた。
「あー……ここは? 保健室?」
「そうだ。まったく、何をどうやったら血まみれになれる。あまり私の仕事を増やすな」
頭に手をやると、包帯がグルグル巻かれていた。
「目が覚めたのなら教室へ戻れ。ここは休憩所ではない」
そう言って、先生は机に向き直った。
「はぁ……どうもありがとうございました?」
「なぜ疑問系だ。……ああ、そうだ。犬子と椎水に礼を言っておくんだな。あの二人、休み時間ごとにお前の様子を見に来ていたぞ。ついさっきもここにいたんだがな」
「え……」
なんとなく犬子は心配してそうだなあと思ったが、まさかかなみまで見舞いに来てたとは……。
「で、どっちが本命だ、色男?」
「まあどっちかと言うと、醤油かな」
「何の話だッ!?」
過剰に驚いてる先生にお礼を言って、保健室を出る。
礼、礼なあ……包帯取って頭から血を噴出させて水芸……いかん、それでは死んでしまう。
そんなことを思いながら廊下を歩いてたら、腹が鳴った。時計を見ると、もう昼だった。
そりゃ腹も鳴るなと思いつつ教室に入ると、俺の姿を確認した犬子が駆け寄ってきた。
「別府くん、もう大丈夫なの?」
「ん。見舞いに来てくれたらしいな。心配させて悪かったな、犬子」
感謝の意を示すため、犬子の頭をなでなでする。
「わ、わふ……」
犬子はちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。だがそれ以上に気になることが。
「やっぱり犬っぽい」
「い、犬じゃないもん!」
「まあ犬談義はどうでもいい。おい、そこの興味ないフリしてるの」
「な、なんのことかしら?」
犬子の真後ろに立ち、偶然通りましたよーという顔をしてるかなみに話しかける。
「おまえにも一応感謝をな。まあ、俺が保健室に担ぎこまれた原因を考えると感謝するのも難しいが、それでも一応な」
「い、一応って何よ! そもそもアンタが変なこと言わなけりゃ済む話でしょうが!」
「そんなことはできない!」
「……まあ、アンタはそうよね」
理解されてるのに、どうしてだか悲しいよ。
「と、とにかく! あんなのでイチイチ気を失わないでよね! まったく、ひ弱なんだから」
血まみれで失神しない奴がいたらお目にかかりたい、とか思ってたら、犬子が耳打ちしてきた。
「……あんなこと言ってるけどね、別府くん。別府くんが気を失った時、かなみちゃんすっごく心配してたよ?」
「え、マジで?」
「うんうん、まじまじ♪」
「……ちょっと。アンタら近すぎじゃない?」
ひそひそ話をしてたら、かなみがジト目で犬子と俺を見る。
「犬子の珍しい犬耳を近くで見せてもらったんだ」
「こっ、これは犬耳じゃなくて髪型だよっ!?」
変な耳だなあ。
「まあとにかく二人とも感謝だ」
「わふっ」
最後に犬子の頭をひとなでして自分の席に戻ろうとしたら、かなみが俺の服の裾を引っ張っていることに気がついた。
「動けませんが」
「……なんであたしにはなでないのよ」
「え、だってお前は、その、……怒るじゃん」
「怒るけど! 怒るけど、……犬ちゃんばっかり、ずるいじゃない」
「う」
拗ねたように視線を逸らすかなみに、ちょっとクラクラ。
「……何よ」
ちょっと口を尖らせてるかなみの耳元に、口を寄せる。
「……帰ったら、いっぱいぎゅーってして、なでなでしてやるから。な?」
途端、かなみの顔が火がついたように赤くなった。
「ま、まあ、そういうことならいいわ。……覚悟しておきなさいよ!」
顔を真っ赤にしたまま、かなみは自分の席に戻っていった。
「……何を言ったの?」
「秘密」
「ぶー」
不満顔の犬子を置いて、俺は自分の席に戻るのだった。
で、その夜。
「かなみさん」
「な、なによ」
「邪魔なのですが」
「う、うっさいわねー。アンタがいっぱいぎゅーってするって言ったんでしょうが! 全然足りないわよ!」
「しかし、頭が邪魔でテレビが見れないのですが」
かなみを後ろから抱っこしている状態なので、かなみ頭が俺の視界を遮りテレビからは音だけをお届けしております。
「うっさいわねー、アンタはあたしだけを見てればいいのよ!」
「…………」
「か、顔を赤くするなっ、ばかっ! そ、そういう意味で言ったんじゃないわよ、ばかばかばかっ!」
俺の膝の上でじたじたするかなみたんでした。
「冗談じゃないわよ、こんな奴!」とはかなみの談。「ああっ、よくあるギャルゲみたい! 凄い!」と言って殴られたのは俺。
そんなわけで、今日もかなみと一緒に登校。一緒に登校しないと後でママンに叱られます。
「いい? 学校ではあたしたちが一緒に住んでること秘密だからね。喋ったら殺すわよ」
「喋ったらコロ助よ? 俺、コロッケ中毒じゃな……はい、分かりました。喋りません」
とても怖い目で見られたので、途中で諦める。
「ったく。なんでアンタなんかと一緒に住まなきゃいけないのよ。あーあ、ヤだヤだ」
「俺はかなみとずっと一緒で嬉しいけどな」
「なっ……な、何言ってんのよ! は、恥ずかしい奴ねー!」
そう言いながらも、かなみの顔はみるみる赤くなっていた。
「だって、俺貧乳大好きだから! かなみの乳が平らでよかった!」
俺の顔もみるみる赤くなっていく。かなみの攻撃で流血してるからね。死にそうだよ。
「この変態!」
「いやあ、はっはっは」
「褒めてないッ! 照れるな、ばかっ!」
なぜか怒ってるかなみと一緒に、教室へ。
「おはよー、かなみちゃん。おはよ、別府く……べ、別府くん、血まみれだよっ!?」
挨拶をしてくれた顔馴染みの女生徒──犬っぽいので、俺は犬子と呼んでる──が、俺の顔を見て青ざめていた。
「急に生理が来たんだ」
「んなわけあるかっ! 仮にそうだとしても、顔から出ないっ!」
ぽんぽんっと俺に突っ込みをいれるかなみ嬢。
「ほ、保健室、保健室行かないと……」
「あ」
青ざめた顔で犬子は俺の手を取り、廊下へ連れ出した。
「犬子、なんだか俺よりお前の方が顔色が悪いように思えるが」
「血、苦手なんだ……」
苦手なのにわざわざ付き添ってくれるなんて、犬子はいい奴だな。
「犬の忠誠心が発揮されたか。伊達や酔狂で犬っぽいわけじゃないんだな」
「……別府くんが私のこと犬子犬子って言うから、みんなも私のこと本名じゃなく、犬子って呼ぶようになったんだよ?」
「そう感謝するな」
「一ミリたりともしてないのに……」
「……で、なんでお前も着いて来たんだ、かなみ?」
俺たちの一歩後ろを、なんだか気まずそうな顔をして着いてくるかなみに問いかける。
「え、えーっとぉ……ほ、ほら犬ちゃんだけじゃ危ないじゃない? いつアンタに襲われるか分かんないし」
「別府くん、私を襲うの……?」
「……ふむ。犬子の乳は平均的な女子より割と大きい。よって俺の攻略対象とは成り得ない。だがしかし、ここに甲斐甲斐しい女性的な性格が加味されることにより、その範囲は俺の攻略対象に入ってくる。故に犬子が俺に襲われる可能性はそこそこある。あと、髪型が犬っぽいのもかなりの魅力だ。ワンとか鳴け」
「しっかり考えた上での結論がそれか、この馬鹿っ!」
熟考した答えを言ったのに、かなみに蹴られた。
「か、かなみちゃん、別府くん怪我してるんだから、蹴ったりしたらダメだよぉ」
「うっさい! いーのよこんな奴! あーもう腹立つ! 何が攻略対象よ! 貧乳大好きって言ってたじゃないこの馬鹿!」
「貧乳大好き……? 何の話、かなみちゃん?」
「え? え、えっと、ち、違うのよ、犬ちゃん」
「うん?」
「なんでもいいが、そろそろ保健室に連れて行ってはくれまいか、お嬢さん方」
「わわっ、別府くんが倒れてる! わわわっ、顔色がとっても悪いよ! 保健室保健室っ!」
「ちょ、ちょっとアンタ、死ぬんじゃないわよ! 死んだら一生恨むからねっ!」
気がついたらベッドの上でした。
「気づいたか、別府」
体を起こしてきょろきょろしてたら、その様子に気づいたのか、何か書き物をしていた先生が声をかけてきた。
「あー……ここは? 保健室?」
「そうだ。まったく、何をどうやったら血まみれになれる。あまり私の仕事を増やすな」
頭に手をやると、包帯がグルグル巻かれていた。
「目が覚めたのなら教室へ戻れ。ここは休憩所ではない」
そう言って、先生は机に向き直った。
「はぁ……どうもありがとうございました?」
「なぜ疑問系だ。……ああ、そうだ。犬子と椎水に礼を言っておくんだな。あの二人、休み時間ごとにお前の様子を見に来ていたぞ。ついさっきもここにいたんだがな」
「え……」
なんとなく犬子は心配してそうだなあと思ったが、まさかかなみまで見舞いに来てたとは……。
「で、どっちが本命だ、色男?」
「まあどっちかと言うと、醤油かな」
「何の話だッ!?」
過剰に驚いてる先生にお礼を言って、保健室を出る。
礼、礼なあ……包帯取って頭から血を噴出させて水芸……いかん、それでは死んでしまう。
そんなことを思いながら廊下を歩いてたら、腹が鳴った。時計を見ると、もう昼だった。
そりゃ腹も鳴るなと思いつつ教室に入ると、俺の姿を確認した犬子が駆け寄ってきた。
「別府くん、もう大丈夫なの?」
「ん。見舞いに来てくれたらしいな。心配させて悪かったな、犬子」
感謝の意を示すため、犬子の頭をなでなでする。
「わ、わふ……」
犬子はちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。だがそれ以上に気になることが。
「やっぱり犬っぽい」
「い、犬じゃないもん!」
「まあ犬談義はどうでもいい。おい、そこの興味ないフリしてるの」
「な、なんのことかしら?」
犬子の真後ろに立ち、偶然通りましたよーという顔をしてるかなみに話しかける。
「おまえにも一応感謝をな。まあ、俺が保健室に担ぎこまれた原因を考えると感謝するのも難しいが、それでも一応な」
「い、一応って何よ! そもそもアンタが変なこと言わなけりゃ済む話でしょうが!」
「そんなことはできない!」
「……まあ、アンタはそうよね」
理解されてるのに、どうしてだか悲しいよ。
「と、とにかく! あんなのでイチイチ気を失わないでよね! まったく、ひ弱なんだから」
血まみれで失神しない奴がいたらお目にかかりたい、とか思ってたら、犬子が耳打ちしてきた。
「……あんなこと言ってるけどね、別府くん。別府くんが気を失った時、かなみちゃんすっごく心配してたよ?」
「え、マジで?」
「うんうん、まじまじ♪」
「……ちょっと。アンタら近すぎじゃない?」
ひそひそ話をしてたら、かなみがジト目で犬子と俺を見る。
「犬子の珍しい犬耳を近くで見せてもらったんだ」
「こっ、これは犬耳じゃなくて髪型だよっ!?」
変な耳だなあ。
「まあとにかく二人とも感謝だ」
「わふっ」
最後に犬子の頭をひとなでして自分の席に戻ろうとしたら、かなみが俺の服の裾を引っ張っていることに気がついた。
「動けませんが」
「……なんであたしにはなでないのよ」
「え、だってお前は、その、……怒るじゃん」
「怒るけど! 怒るけど、……犬ちゃんばっかり、ずるいじゃない」
「う」
拗ねたように視線を逸らすかなみに、ちょっとクラクラ。
「……何よ」
ちょっと口を尖らせてるかなみの耳元に、口を寄せる。
「……帰ったら、いっぱいぎゅーってして、なでなでしてやるから。な?」
途端、かなみの顔が火がついたように赤くなった。
「ま、まあ、そういうことならいいわ。……覚悟しておきなさいよ!」
顔を真っ赤にしたまま、かなみは自分の席に戻っていった。
「……何を言ったの?」
「秘密」
「ぶー」
不満顔の犬子を置いて、俺は自分の席に戻るのだった。
で、その夜。
「かなみさん」
「な、なによ」
「邪魔なのですが」
「う、うっさいわねー。アンタがいっぱいぎゅーってするって言ったんでしょうが! 全然足りないわよ!」
「しかし、頭が邪魔でテレビが見れないのですが」
かなみを後ろから抱っこしている状態なので、かなみ頭が俺の視界を遮りテレビからは音だけをお届けしております。
「うっさいわねー、アンタはあたしだけを見てればいいのよ!」
「…………」
「か、顔を赤くするなっ、ばかっ! そ、そういう意味で言ったんじゃないわよ、ばかばかばかっ!」
俺の膝の上でじたじたするかなみたんでした。
【クリスマスをツンデレと過ごしたら】
2010年02月05日
今年もそろそろ終わり。で、現在クリスマスイブの夜。今頃ホテルでは年頃の男女がイチャイチャラブラブしていることだろう。(怨)
一方、年頃の俺には何ら素敵イベントが起きる気配はない。寂しさを紛らわせるように、テレビを点ける。
何かの歌番組なのか、クラスメイトのかなみがテレビの中でサンタの格好をし、クリスマスの歌を歌っていた。
「一応は芸能人なんだし、すげーパーティーしてるんだろうなあ……」
想像の中で行われているパーティーの面子より、むしろ豪華な食事に興味をそそられていると、携帯が鳴った。
「誰だ。俺は現在想像の中で行われているパーティーの飯を羨ましがるのに忙しいので、よっぽどの用件でなければ許さない」
『……アンタ、哀れにも程があるわよ』
「なんだ、かなみか。なんか用か? なんか妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
『うわ、寒ッ! 死ね!』
通話を切られた。泣きそうになってたら、またかかってきた。
『あんまりつまんないこと言うなッ! 思わず切っちゃったじゃないの!』
「なぜ俺が怒られているのだ」
『まあそんなのはどうでもいいわ。さっきの言動からすると、アンタ暇でしょ? 今からアンタの家行くから』
「いいけど……なんでまたこんな日に? 俺みたいな奴より、家族やら恋人やら、そういう大事な人と過ごす方がいいと思うぞ」
『え? あ、その、だ、だから、その……』
「うん?」
『……う、うっさい! どうでもいいでしょ! あたしの勝手よ!』
「はあ。まあいいや、来い来い。ちょうど死ぬほど暇してたんだ」
『……アンタねぇ、今世紀最大のアイドルと言われるかなみちゃんが来るって言うのに、そのテンションはなに? もっと盛り上がりなさいよ!』
「嬉しさのあまりかなみが来るころには全身から謎の汁を噴き出して死んでるだろうから、後始末頼む」
『死ぬなッ! あーもー、いーから変なことしないで大人しくしてないさいッ! ケーキとか買ってくるからアンタは動くなッ!』
「心臓とかも? 困る」
『臓器は動かしとけッ!』
それだけ言って、かなみは通話を切った。ふむ、よく分からんがこれから来るのか。何もするなと言ってたが、せめて掃除だけでもしておこう。
せっせこ掃除してると、インターホンが鳴った。玄関に向かい、ドアを開ける。
「やほー、サンタさんだよー♪」
サンタの格好をしたかなみが妙なポーズを決めてた。
「病院へ行け」
思ったことを言ったらサンタに殴られた。
「なんつー言い草よ! ったく、せっかく衣装さんに言ってサンタの衣装借りてやったってのに……」
「いてて……いやまあ、うん。可愛い可愛い」
「そ、そう……? え、えへへ、まあ当然よね。ほら、あたしってば超可愛いし?」
「衣装のことを言いました」
また殴られた。このサンタ凶暴だ。
「誰かに見られたら面倒だからあがるわよッ!」
足音も荒く勝手に人の家に入る凶暴サンタ。続いて家に戻る。
「(ったく……人がせっかく頑張って早めに仕事終わらせて来てやったってのに……あによ、この仕打ち)」
「ん、何か言ったか?」
「何も言ってないッ!」
また殴られた。よく殴られます。
「ほら、ケーキ」
「ははー。謹んでお預かりします」
ぶっきらぼうに差し出された箱を、恭しく両手で受け取る。結構でかいな。
「お前が帰ったらありがたく食べるな」
「あたしも食べるに決まってるでしょうがッ!」
「スイーツ(笑)」
再び殴られた。何度目だ。
「ホントにもう……アンタねぇ、この状況分かってるの? 超人気アイドルのかなみちゃんと一緒のクリスマスなんて幸運、アンタが100万回生まれ変わったって訪れないんだからね?」
「お、ホールケーキか。二人で食いきれるかな」
「人の話聞けッ!」
ケーキの箱を開けてたら怒られた。よく殴られるだけでなく、よく怒られもします。
「……はぁ、せっかくのクリスマスだし、怒ってばっかりいてもしょうがないか。ほら、食べましょ」
「ちょっと待ってろ、ナイフ持ってくる」
台所へ向かい、ナイフを探す。そんな洒落たのねぇ。皿と包丁を持って戻る。
「これしかなかった」
「……まあいいわ。ほら、切りなさい」
「分かった。全然関係ないけど、包丁持つと興奮するよな」
かなみは無言で俺から包丁をひったくると、自分でケーキを切ってしまった。
「ちゃんとやる時もあるのに」
「あんなこと言ってる奴を信用できるかッ! ほら、アンタの分」
取り分けられたケーキを受け取る。
「ん、さんくす。じゃ、いただきます」
「はいはい。……しっかし、色気の欠片もないクリスマスねー。……あ、あのさ」
居住まいを正し、かなみは俺に話しかけた。
「もぐもぐ……うん?」
「……あ、アンタは、さ。あたしでよかったの?」
「?」
「だ、だから! ……だから、さ。……クリスマスに一緒なのが、あたしで」
「いいも何も、お前みたいな……言うのも恥ずかしいが、いわゆる超人気アイドルと一緒のクリスマスが嫌な奴なんていないだろ」
「……なんか、芸能人だったら誰でもいいみたいで、嬉しくない」
なんだか機嫌を損ねてしまったようだ。難しいなあ。
「うーん。というか、クリスマスに俺と一緒にいてくれるような奇特な奴なんて、世界中でお前くらいしかいないからなあ。比較のしようがない」
「……じゃ、一緒にいてくれるなら、誰でもよかったってこと?」
誰でも? ……こうして俺の向かいに座ってるのが、かなみじゃなく、他の誰でも?
「うーん……」
フォークを咥えたまま、腕を組んで考える。
「ちょ、そんな真剣に考えなくても、別に……」
「……いや。やっぱり、かなみじゃないと嫌だな」
わたわたと手を振るかなみを遮り、はっきりとそう言う。
「あ……う、そ、そう」
かなみの顔がゆっくりと赤くなっていった。
「あ、赤くなるな。こっちまで照れるだろうが」
「て、照れてなんてないわよっ! ばか、タカシのばか!」
「むう」
何かをごまかす様に、ケーキをもさもさ。うめえ。
「……その。それ、おいしい?」
「おいしい」
「……そか。……ふふっ、そっか」
「なんだよ、笑ったりして」
「んーん、なんでも。ほらほら、それより食べよっ」
「言われずとも食べてる」
「男なんだからもっと食べなさいよ。ほらほらほら」
「もがもがもが」
口の中にケーキをたくさん詰め込まれる。いかん、殺される。
「ほらほら。ふふ、おいしい?」
「もげもげもぐ……もぐ、ごくん。助けてえ!」
「なんで助けを呼んでるのよ!」
生命の危機を感じたからです。
「ったく、相変わらずバカねぇ……ほら、もう無理やり食べさせないから、ゆっくり食べよ?」
そう言ってかなみは優しく微笑んだ。不意に、胸がドキリとした。……かなみって、こんな可愛かったか?
「……サンタ衣装のせいだな」
「ん? 何が?」
「俺の視力がおかしくなった理由」
「え、なになに? あたしが可愛く見えでもした? ふっふーん、やっとタカシにも絶世のアイドル、かなみちゃんの魅力が分かってきたのね」
「なっ、何故それを!?」
……ってえ! 語るに落ちすぎだ、俺!
「え、あ……そ、そなんだ。本当にそなんだ」
いかん。照れたように自分の髪をいじるかなみが、妙に可愛くて見えて仕方ない。
今更ながら、クリスマスの夜にかなみというテレビでお馴染みのアイドルと一つ屋根の下にいるという事実に半びびり。
「……あー、そのだな。今更言うのもなんだが、折角のクリスマスだというのに、お前は俺と一緒でよかったのか?」
「むっ。嫌だったら最初っから誘わないっての。そんなこと聞くな、ばか」
かなみは指でケーキの生クリームをすくい、それを俺の鼻につけた。
「何をする」
「罰ゲーム。手を使って取っちゃダメだからね」
「むう。妖怪鼻舐めになるしか、このクリームを取る術はないな。妖怪鼻舐めとは、人間の鼻の脂を主食にする舌の長い妖怪であり、夜な夜な山里から降りてきては人間の鼻を舐めとるエコロジーな妖怪だ。鼻の脂以外を食べると死ぬ」
「んじゃ死ぬじゃない! ……じゃ、じゃあ、代わりにあたしが舐め取ってあげる」
「え゛」
何か言う前に、かなみはふわりと俺のすぐ間近まで迫り、俺の鼻をぺろりと舐めた。
「なっ、お、おま、おまえ、おまえなあッ!」
「ふふっ、あまーい♪」
「あ、あま、甘いとか、甘くないとか、最初に言い出したのは誰なのかしら」
「ムードぶち壊しにするようなこと言うなっ! なんでときメモよッ!」
「緊張感に耐え切れなかったんだ」
「ああもう……色々台無しよぉ……」
テーブルに突っ伏し、ぐでーとなるかなみさん。しょうがないとはいえ、少し申し訳ない。
「えーと。えい」
「ひゃっ!? 何するの……よ」
かなみの鼻にクリームをつけ、それをぺろり。
「ええと、お返し」
「……あ、そ、そう。……あによ、これで勝った気?」
「はい?」
「そんな奴は……こーだ!」
かなみは手に大量のクリームをつけ、俺のほっぺにべたりと塗った。そしてすぐさまぺろぺろと舐めだした。
「わっ、お、おまっ! さすがにやりすぎだぞ!」
「知らないわよ! へっへー、悔しかったらやり返しなさいよ!」
「……と、当然だとも! とうっ!」
一瞬躊躇したが、すかさず思い直し、クリームを手に取りかなみのほっぺにぬたぬた。そして、ぺろぺろ舐め取る。
「ふひゅっ……な、なんか、これ、……すっごくえっちかも」
「じゃあこのままIN+OUTになだれ込んでも気がつかれないかも!」
「つくわよっ! ったく、このかなみちゃんとそう簡単にえっちできると思わないことね、このヘンタイっ♪」
かなみは両手につけたクリームを俺の首筋になすりつけ、それをぺろぺろと舐め取った。熱くて柔らかな舌の触感に、腰骨が震えるような感覚を覚える。
「ふ、うぐ……ま、負ける気がしねー」
かなみのサンタ服をまくり、出てきた腹にクリームをなすりつけ、そこをぺろぺろぺろ。
「はひゅっ!? ちょ、そこはちょっとどうかと思うわよ!?」
「実は俺もやりすぎているかもと思っている」
とか言いながら、舌先でヘソのくぼみをぺろぺろ。
「ふにゃっ!? ちょ、そこダメ!」
「テンション上がってきた」
「上がるな! 顔を振るな! ついでに人のおなか舐めまくるなあっ!」
俺の顔もかなみの腹もクリームまみれです。
「うー……ひ、人のお腹を陵辱して、許さないからね!」
「陵辱て。人聞きの悪い」
「う、うっさい! とうっ!」
かなみは俺を押し倒し、俺の顔についているクリームをぺろぺろと舐めた。頬やらおでこやらまぶたやら舐められ大変。
「ぷわ、ぬわ、ぷわ」
「ぺろぺろ、ぺろぺろ。……わ、どうしよ。なんかすっごい楽しい」
「ぬわ、だからって舐めまくるのは、ぷわ、どうかと、ぬわ」
「ひひー♪ じっとしてないと、間違って口舐めちゃうわよー?」
「動きたいという本能と、じっとしていなければならないという理性が、俺の中で戦を!」
「……そ、それで、どっちが勝ったの?」
真剣な表情で、かなみが尋ねる。
「あー……その。ほ、本能って強いよね」
ゆっくりとした動きで、少しだけ顔を動かす。かなみの頬が赤くなっていく。
「そ、そう。……そんな動いてたら、間違えちゃうかもしれないわよね」
「か、かもな」
ゆっくりと降りてくるかなみの顔。鼻息が届きそうな距離から、鼻と鼻が挨拶するほどの距離まで近づく。かなみの吐息が、鼓動が、熱まで届きそうな。
「……あ、あれ?」
そのまま口と口が触れ合うとばかり思ってたのだが、かなみの口は俺の頬に触れただけだった。
「……すると思った?」
イタズラっぽい笑みを浮かべるかなみに、ようやっと騙されたことに気づく。
「て、てめえ! 純情な俺様の感情を弄びやがったなあ!」
「へっへー、そーんな軽くないんだな、かなみちゃんは♪」
イタズラが成功した子供の笑顔で、かなみはニコニコした。
「ね、ね、本当にすると思った? へっへー、どう、あたしの演技?」
「あー、流石は芸能人、見事な演技だ。お前が俺のことを好きだと勘違いする程度には騙された」
「えっ、あ、そ、それは……勘違いってゆーか」
「うん?」
「……い、いいのっ、タカシは何も気にしないで! いーわね!?」
よくないけど、なんか鬼気迫る勢いなのでコクコクうなずく。
「そっ。……すっ、素直だから、ご褒美あげる」
かなみは自分の体を俺の隣に横たえ、そのまま俺に抱きつき、俺の顔に残ってるクリームをさらに舐めた。
「ぷわ、ぬわ。……これ、ご褒美?」
「あによ。こんなことしてあげる奴なんて世界中でタカシだけなんだから、もっと喜びなさいよ」
俺のほっぺを甘噛みしながら、かなみは少し不満そうに言った。
「独占欲が満たされた!」
「普通に喜びなさいよ! ……ほんっと、変なやつ」
力の抜けたような笑みを浮かべ、かなみは俺のほっぺをひと舐めした。その顔をぼーっと眺める。
「ん? なに?」
吸い込まれるようにかなみの頬に口づけする。
「んひゃっ!? な、なに? く、クリームついてないわよ?」
「や、なんかしたくなった」
「……そ、そう。じゃ、仕方ないわよね」
俺もかなみも何が仕方ないのか分からないまま納得する。
「……ええと、だな。もっかいしていいか?」
「ど、どうしてもしたいなら、別に?」
微妙な許可が出たので、もう一度かなみのほっぺに吸い付く。
「……うー、な、なんか、あたしもしたい。いい?」
「ちゅーちゅー……不許可」
「なんでよ! あたしもする!」
俺を引き離すと、今度はかなみが俺のほっぺに吸い付いた。
「んー♪ んうー♪」
「くう、負けるものか!」
「ちゅー……だめー。あたしの番だもんー♪」
その後、吸ったり吸われたり舐めたり舐められたりした。
そんなことをしてたら知らない間に寝てたようで、気がつくと既に日が昇っていた。
「んにゅ……くー」
隣で寝てるサンタの頭を優しくなでる。
「んにゅ♪ ……んー、んう?」
うっすらとまぶたが開いていく。
「おはよう、サンタさん」
「……んー♪」
俺に抱きついてくるかなみの頭を、軽くなでなで。
「んー……ん?」
何かに気づいたかのように、かなみは頭を巡らした。そして、ある一点でぴたりと止まった。俺も釣られて同じ場所を見る。時計……?
「あああああーッ! ちっ、遅刻ーッ!」
「遅刻? もう学校は休みに入ってるぞ?」
「仕事! あるの! 朝から!」
ばたばたと立ち上がり、かなみは携帯を取り出すと、なにやら操作した。
「……うわあ、マネージャーからメール、すっごい来てた」
「大変だなあ。ふわあああ……さて、俺は寝直すか」
「ダメ! タカシのせいで寝過ごしたんだから、アンタも一緒に謝るの! ……あ、マネージャ? ……ああもう、分かってるわよ。すぐ車回して。……うん、そう、いつものところ」
マネージャーさんに連絡しながら、不思議なことを俺に言うかなみさん。
「あの、俺が行っても面倒になるとしか思えないのだけど」
「うっさい! なんでもいいからアンタも来るの! うー、服クリームでべとべとぉ……」
「精液でベトベトじゃなくてよかったね。らっきー♪」
ものすごい怖い顔で睨まれたので怖い。とか思ってたら、かなみの携帯が鳴った。
「はい! ……え、もう来たの? 分かった、すぐ行く!」
マネージャからのようだ。通話を切り、かなみは俺の手を取った。
「ほら、行くわよ!」
「え、マジで俺も行くの?」
「行くの! 別に一緒に謝れとか言わないから! 現場見学してるだけでもいいから! ……そ、その、すぐ離れるの、なんか嫌だし。……ダメ?」
俺を見上げる叱られた子供のような視線に、ノックアウト。
「……せめて顔くらい洗わせてくれ」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうなかなみと一緒に洗面台へ向かう俺だった。
一方、年頃の俺には何ら素敵イベントが起きる気配はない。寂しさを紛らわせるように、テレビを点ける。
何かの歌番組なのか、クラスメイトのかなみがテレビの中でサンタの格好をし、クリスマスの歌を歌っていた。
「一応は芸能人なんだし、すげーパーティーしてるんだろうなあ……」
想像の中で行われているパーティーの面子より、むしろ豪華な食事に興味をそそられていると、携帯が鳴った。
「誰だ。俺は現在想像の中で行われているパーティーの飯を羨ましがるのに忙しいので、よっぽどの用件でなければ許さない」
『……アンタ、哀れにも程があるわよ』
「なんだ、かなみか。なんか用か? なんか妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
『うわ、寒ッ! 死ね!』
通話を切られた。泣きそうになってたら、またかかってきた。
『あんまりつまんないこと言うなッ! 思わず切っちゃったじゃないの!』
「なぜ俺が怒られているのだ」
『まあそんなのはどうでもいいわ。さっきの言動からすると、アンタ暇でしょ? 今からアンタの家行くから』
「いいけど……なんでまたこんな日に? 俺みたいな奴より、家族やら恋人やら、そういう大事な人と過ごす方がいいと思うぞ」
『え? あ、その、だ、だから、その……』
「うん?」
『……う、うっさい! どうでもいいでしょ! あたしの勝手よ!』
「はあ。まあいいや、来い来い。ちょうど死ぬほど暇してたんだ」
『……アンタねぇ、今世紀最大のアイドルと言われるかなみちゃんが来るって言うのに、そのテンションはなに? もっと盛り上がりなさいよ!』
「嬉しさのあまりかなみが来るころには全身から謎の汁を噴き出して死んでるだろうから、後始末頼む」
『死ぬなッ! あーもー、いーから変なことしないで大人しくしてないさいッ! ケーキとか買ってくるからアンタは動くなッ!』
「心臓とかも? 困る」
『臓器は動かしとけッ!』
それだけ言って、かなみは通話を切った。ふむ、よく分からんがこれから来るのか。何もするなと言ってたが、せめて掃除だけでもしておこう。
せっせこ掃除してると、インターホンが鳴った。玄関に向かい、ドアを開ける。
「やほー、サンタさんだよー♪」
サンタの格好をしたかなみが妙なポーズを決めてた。
「病院へ行け」
思ったことを言ったらサンタに殴られた。
「なんつー言い草よ! ったく、せっかく衣装さんに言ってサンタの衣装借りてやったってのに……」
「いてて……いやまあ、うん。可愛い可愛い」
「そ、そう……? え、えへへ、まあ当然よね。ほら、あたしってば超可愛いし?」
「衣装のことを言いました」
また殴られた。このサンタ凶暴だ。
「誰かに見られたら面倒だからあがるわよッ!」
足音も荒く勝手に人の家に入る凶暴サンタ。続いて家に戻る。
「(ったく……人がせっかく頑張って早めに仕事終わらせて来てやったってのに……あによ、この仕打ち)」
「ん、何か言ったか?」
「何も言ってないッ!」
また殴られた。よく殴られます。
「ほら、ケーキ」
「ははー。謹んでお預かりします」
ぶっきらぼうに差し出された箱を、恭しく両手で受け取る。結構でかいな。
「お前が帰ったらありがたく食べるな」
「あたしも食べるに決まってるでしょうがッ!」
「スイーツ(笑)」
再び殴られた。何度目だ。
「ホントにもう……アンタねぇ、この状況分かってるの? 超人気アイドルのかなみちゃんと一緒のクリスマスなんて幸運、アンタが100万回生まれ変わったって訪れないんだからね?」
「お、ホールケーキか。二人で食いきれるかな」
「人の話聞けッ!」
ケーキの箱を開けてたら怒られた。よく殴られるだけでなく、よく怒られもします。
「……はぁ、せっかくのクリスマスだし、怒ってばっかりいてもしょうがないか。ほら、食べましょ」
「ちょっと待ってろ、ナイフ持ってくる」
台所へ向かい、ナイフを探す。そんな洒落たのねぇ。皿と包丁を持って戻る。
「これしかなかった」
「……まあいいわ。ほら、切りなさい」
「分かった。全然関係ないけど、包丁持つと興奮するよな」
かなみは無言で俺から包丁をひったくると、自分でケーキを切ってしまった。
「ちゃんとやる時もあるのに」
「あんなこと言ってる奴を信用できるかッ! ほら、アンタの分」
取り分けられたケーキを受け取る。
「ん、さんくす。じゃ、いただきます」
「はいはい。……しっかし、色気の欠片もないクリスマスねー。……あ、あのさ」
居住まいを正し、かなみは俺に話しかけた。
「もぐもぐ……うん?」
「……あ、アンタは、さ。あたしでよかったの?」
「?」
「だ、だから! ……だから、さ。……クリスマスに一緒なのが、あたしで」
「いいも何も、お前みたいな……言うのも恥ずかしいが、いわゆる超人気アイドルと一緒のクリスマスが嫌な奴なんていないだろ」
「……なんか、芸能人だったら誰でもいいみたいで、嬉しくない」
なんだか機嫌を損ねてしまったようだ。難しいなあ。
「うーん。というか、クリスマスに俺と一緒にいてくれるような奇特な奴なんて、世界中でお前くらいしかいないからなあ。比較のしようがない」
「……じゃ、一緒にいてくれるなら、誰でもよかったってこと?」
誰でも? ……こうして俺の向かいに座ってるのが、かなみじゃなく、他の誰でも?
「うーん……」
フォークを咥えたまま、腕を組んで考える。
「ちょ、そんな真剣に考えなくても、別に……」
「……いや。やっぱり、かなみじゃないと嫌だな」
わたわたと手を振るかなみを遮り、はっきりとそう言う。
「あ……う、そ、そう」
かなみの顔がゆっくりと赤くなっていった。
「あ、赤くなるな。こっちまで照れるだろうが」
「て、照れてなんてないわよっ! ばか、タカシのばか!」
「むう」
何かをごまかす様に、ケーキをもさもさ。うめえ。
「……その。それ、おいしい?」
「おいしい」
「……そか。……ふふっ、そっか」
「なんだよ、笑ったりして」
「んーん、なんでも。ほらほら、それより食べよっ」
「言われずとも食べてる」
「男なんだからもっと食べなさいよ。ほらほらほら」
「もがもがもが」
口の中にケーキをたくさん詰め込まれる。いかん、殺される。
「ほらほら。ふふ、おいしい?」
「もげもげもぐ……もぐ、ごくん。助けてえ!」
「なんで助けを呼んでるのよ!」
生命の危機を感じたからです。
「ったく、相変わらずバカねぇ……ほら、もう無理やり食べさせないから、ゆっくり食べよ?」
そう言ってかなみは優しく微笑んだ。不意に、胸がドキリとした。……かなみって、こんな可愛かったか?
「……サンタ衣装のせいだな」
「ん? 何が?」
「俺の視力がおかしくなった理由」
「え、なになに? あたしが可愛く見えでもした? ふっふーん、やっとタカシにも絶世のアイドル、かなみちゃんの魅力が分かってきたのね」
「なっ、何故それを!?」
……ってえ! 語るに落ちすぎだ、俺!
「え、あ……そ、そなんだ。本当にそなんだ」
いかん。照れたように自分の髪をいじるかなみが、妙に可愛くて見えて仕方ない。
今更ながら、クリスマスの夜にかなみというテレビでお馴染みのアイドルと一つ屋根の下にいるという事実に半びびり。
「……あー、そのだな。今更言うのもなんだが、折角のクリスマスだというのに、お前は俺と一緒でよかったのか?」
「むっ。嫌だったら最初っから誘わないっての。そんなこと聞くな、ばか」
かなみは指でケーキの生クリームをすくい、それを俺の鼻につけた。
「何をする」
「罰ゲーム。手を使って取っちゃダメだからね」
「むう。妖怪鼻舐めになるしか、このクリームを取る術はないな。妖怪鼻舐めとは、人間の鼻の脂を主食にする舌の長い妖怪であり、夜な夜な山里から降りてきては人間の鼻を舐めとるエコロジーな妖怪だ。鼻の脂以外を食べると死ぬ」
「んじゃ死ぬじゃない! ……じゃ、じゃあ、代わりにあたしが舐め取ってあげる」
「え゛」
何か言う前に、かなみはふわりと俺のすぐ間近まで迫り、俺の鼻をぺろりと舐めた。
「なっ、お、おま、おまえ、おまえなあッ!」
「ふふっ、あまーい♪」
「あ、あま、甘いとか、甘くないとか、最初に言い出したのは誰なのかしら」
「ムードぶち壊しにするようなこと言うなっ! なんでときメモよッ!」
「緊張感に耐え切れなかったんだ」
「ああもう……色々台無しよぉ……」
テーブルに突っ伏し、ぐでーとなるかなみさん。しょうがないとはいえ、少し申し訳ない。
「えーと。えい」
「ひゃっ!? 何するの……よ」
かなみの鼻にクリームをつけ、それをぺろり。
「ええと、お返し」
「……あ、そ、そう。……あによ、これで勝った気?」
「はい?」
「そんな奴は……こーだ!」
かなみは手に大量のクリームをつけ、俺のほっぺにべたりと塗った。そしてすぐさまぺろぺろと舐めだした。
「わっ、お、おまっ! さすがにやりすぎだぞ!」
「知らないわよ! へっへー、悔しかったらやり返しなさいよ!」
「……と、当然だとも! とうっ!」
一瞬躊躇したが、すかさず思い直し、クリームを手に取りかなみのほっぺにぬたぬた。そして、ぺろぺろ舐め取る。
「ふひゅっ……な、なんか、これ、……すっごくえっちかも」
「じゃあこのままIN+OUTになだれ込んでも気がつかれないかも!」
「つくわよっ! ったく、このかなみちゃんとそう簡単にえっちできると思わないことね、このヘンタイっ♪」
かなみは両手につけたクリームを俺の首筋になすりつけ、それをぺろぺろと舐め取った。熱くて柔らかな舌の触感に、腰骨が震えるような感覚を覚える。
「ふ、うぐ……ま、負ける気がしねー」
かなみのサンタ服をまくり、出てきた腹にクリームをなすりつけ、そこをぺろぺろぺろ。
「はひゅっ!? ちょ、そこはちょっとどうかと思うわよ!?」
「実は俺もやりすぎているかもと思っている」
とか言いながら、舌先でヘソのくぼみをぺろぺろ。
「ふにゃっ!? ちょ、そこダメ!」
「テンション上がってきた」
「上がるな! 顔を振るな! ついでに人のおなか舐めまくるなあっ!」
俺の顔もかなみの腹もクリームまみれです。
「うー……ひ、人のお腹を陵辱して、許さないからね!」
「陵辱て。人聞きの悪い」
「う、うっさい! とうっ!」
かなみは俺を押し倒し、俺の顔についているクリームをぺろぺろと舐めた。頬やらおでこやらまぶたやら舐められ大変。
「ぷわ、ぬわ、ぷわ」
「ぺろぺろ、ぺろぺろ。……わ、どうしよ。なんかすっごい楽しい」
「ぬわ、だからって舐めまくるのは、ぷわ、どうかと、ぬわ」
「ひひー♪ じっとしてないと、間違って口舐めちゃうわよー?」
「動きたいという本能と、じっとしていなければならないという理性が、俺の中で戦を!」
「……そ、それで、どっちが勝ったの?」
真剣な表情で、かなみが尋ねる。
「あー……その。ほ、本能って強いよね」
ゆっくりとした動きで、少しだけ顔を動かす。かなみの頬が赤くなっていく。
「そ、そう。……そんな動いてたら、間違えちゃうかもしれないわよね」
「か、かもな」
ゆっくりと降りてくるかなみの顔。鼻息が届きそうな距離から、鼻と鼻が挨拶するほどの距離まで近づく。かなみの吐息が、鼓動が、熱まで届きそうな。
「……あ、あれ?」
そのまま口と口が触れ合うとばかり思ってたのだが、かなみの口は俺の頬に触れただけだった。
「……すると思った?」
イタズラっぽい笑みを浮かべるかなみに、ようやっと騙されたことに気づく。
「て、てめえ! 純情な俺様の感情を弄びやがったなあ!」
「へっへー、そーんな軽くないんだな、かなみちゃんは♪」
イタズラが成功した子供の笑顔で、かなみはニコニコした。
「ね、ね、本当にすると思った? へっへー、どう、あたしの演技?」
「あー、流石は芸能人、見事な演技だ。お前が俺のことを好きだと勘違いする程度には騙された」
「えっ、あ、そ、それは……勘違いってゆーか」
「うん?」
「……い、いいのっ、タカシは何も気にしないで! いーわね!?」
よくないけど、なんか鬼気迫る勢いなのでコクコクうなずく。
「そっ。……すっ、素直だから、ご褒美あげる」
かなみは自分の体を俺の隣に横たえ、そのまま俺に抱きつき、俺の顔に残ってるクリームをさらに舐めた。
「ぷわ、ぬわ。……これ、ご褒美?」
「あによ。こんなことしてあげる奴なんて世界中でタカシだけなんだから、もっと喜びなさいよ」
俺のほっぺを甘噛みしながら、かなみは少し不満そうに言った。
「独占欲が満たされた!」
「普通に喜びなさいよ! ……ほんっと、変なやつ」
力の抜けたような笑みを浮かべ、かなみは俺のほっぺをひと舐めした。その顔をぼーっと眺める。
「ん? なに?」
吸い込まれるようにかなみの頬に口づけする。
「んひゃっ!? な、なに? く、クリームついてないわよ?」
「や、なんかしたくなった」
「……そ、そう。じゃ、仕方ないわよね」
俺もかなみも何が仕方ないのか分からないまま納得する。
「……ええと、だな。もっかいしていいか?」
「ど、どうしてもしたいなら、別に?」
微妙な許可が出たので、もう一度かなみのほっぺに吸い付く。
「……うー、な、なんか、あたしもしたい。いい?」
「ちゅーちゅー……不許可」
「なんでよ! あたしもする!」
俺を引き離すと、今度はかなみが俺のほっぺに吸い付いた。
「んー♪ んうー♪」
「くう、負けるものか!」
「ちゅー……だめー。あたしの番だもんー♪」
その後、吸ったり吸われたり舐めたり舐められたりした。
そんなことをしてたら知らない間に寝てたようで、気がつくと既に日が昇っていた。
「んにゅ……くー」
隣で寝てるサンタの頭を優しくなでる。
「んにゅ♪ ……んー、んう?」
うっすらとまぶたが開いていく。
「おはよう、サンタさん」
「……んー♪」
俺に抱きついてくるかなみの頭を、軽くなでなで。
「んー……ん?」
何かに気づいたかのように、かなみは頭を巡らした。そして、ある一点でぴたりと止まった。俺も釣られて同じ場所を見る。時計……?
「あああああーッ! ちっ、遅刻ーッ!」
「遅刻? もう学校は休みに入ってるぞ?」
「仕事! あるの! 朝から!」
ばたばたと立ち上がり、かなみは携帯を取り出すと、なにやら操作した。
「……うわあ、マネージャーからメール、すっごい来てた」
「大変だなあ。ふわあああ……さて、俺は寝直すか」
「ダメ! タカシのせいで寝過ごしたんだから、アンタも一緒に謝るの! ……あ、マネージャ? ……ああもう、分かってるわよ。すぐ車回して。……うん、そう、いつものところ」
マネージャーさんに連絡しながら、不思議なことを俺に言うかなみさん。
「あの、俺が行っても面倒になるとしか思えないのだけど」
「うっさい! なんでもいいからアンタも来るの! うー、服クリームでべとべとぉ……」
「精液でベトベトじゃなくてよかったね。らっきー♪」
ものすごい怖い顔で睨まれたので怖い。とか思ってたら、かなみの携帯が鳴った。
「はい! ……え、もう来たの? 分かった、すぐ行く!」
マネージャからのようだ。通話を切り、かなみは俺の手を取った。
「ほら、行くわよ!」
「え、マジで俺も行くの?」
「行くの! 別に一緒に謝れとか言わないから! 現場見学してるだけでもいいから! ……そ、その、すぐ離れるの、なんか嫌だし。……ダメ?」
俺を見上げる叱られた子供のような視線に、ノックアウト。
「……せめて顔くらい洗わせてくれ」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうなかなみと一緒に洗面台へ向かう俺だった。