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2025年04月21日
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【ツンデレと食】

2010年03月01日
 あと一歩で餓死、というところでチャイムが鳴った。昼休みだ。
 ミラクルダッシュで学食へ向かおうとしたが、あまりの腹減りに力が出ず幽鬼のようにふらふら走る。当然の帰結として、パンは売り切れていた。
「腹、減ったぁ……」
 教室に戻り机に伏せっていると、頭を殴られた。
「何やってんの、陰気臭い」
 顔を上げると、見知った顔があった。
「お腹空いたのですよ。パンが売り切れたのですよ。……金、ないのですよ」
「あらま可哀想。あはははは!」
 愉快そうに笑う娘さんに、軽い殺意を抱く。が、腹が減ってその気も萎える。
「なんでもいいから恵んでくれ。おまえ、確か弁当だろ? なんか残ってないか?」
「残飯漁れば?」
「ないすあいであ。漁ってくる」
 もうプライドだとか尊厳だとか言ってる場合ではないので、提言通り残飯を漁りに行こうとしたら慌てて止められた。
「冗談に決まってるでしょ、馬鹿! ……ったく、しかたないわねぇ。ほら」
 差し出された手に、小さな弁当箱が乗っていた。
「おお! 意外にいい奴だったんだな、おまえって」
「あ、味は期待しないでよね」
「なんだ? おまえが作ったのか?」
「ちっ、違うわよ! ママが作ったに決まってるでしょ!」
「そか。なら安心だな、おまえのおばさん料理の腕プロ級だから」
「……ふん」
 何か機嫌を損ねてしまったけど、まぁいいや、弁当箱を開いて頂きます。
「……ん? おい、これ残りじゃないぞ?」
 弁当箱の中身は、三色ごはんにアスパラのベーコン巻き、ハンバーグに玉子焼きと気合の入った内容だった。そして、そのどれにも食べた跡は見られなかった。
「え、えっと、その、だから、……そう! あたしってたくさん食べるから二つ持ってきてるの。あはははは!」
「なるほろ。その割りに乳は育ってないようだが」
 殺されかけた。マスタースキル:土下座で生き延びた。
「いらんことばっか言ってないで、さっさと食べなさい。もうあんまり時間もないんだから」
「ん、分かった。……むぐむぐ」
 アスパラのベーコン巻きを箸で掴み、食べる。
「……ど、どう?」
「アスパラが半生で硬い。ベーコンは焼けすぎで炭の味がする。おばさん、料理下手になった?」
「ぐ……ち、ちょっとね。風邪ぎみだったから舌がおかしくなってるんじゃない?」
 続けてそぼろ、卵、ふりかけの三色ご飯を食べる。
「そ、それはどう? これはおいしいでしょ?」
「んー、ご飯が柔らかすぎてべちょべちょする。そぼろとふりかけはうまいが、卵はこげてて苦い」
「……そ、そう。ダメねーママって、あはははは」
 どこか乾いた笑い声を上げる娘さんをよそに、次の料理、ハンバーグへ。
「今度こそおいしいでしょ?」
「……にがい。焼けすぎ。生よりはマシだが」
「……も、もういいでしょ? そろそろお腹一杯になったんじゃない? ほ、ほら、まずいの無理して食べてもしかたないじゃない」
「まだ足りん」
 止めようとする娘さんを置いて、最後の料理である玉子焼きを。
「…………」
「ま、まずかった? まずかったよね? ほら、ここに出していいから」
「うまい」
「……へ?」
「うん、これはうまい。他のはちょっとアレだけど、これはうまい。ダシに使ってるのなんだ? 醤油か?」
「いや、醤油じゃなくて素麺つゆ……はっ!」
 自分の失言に気づいたのか、目の前の少女は狼狽した様子で手をわたわたと横に振った。
「いや、そうじゃなくて、ママが作ってたのを横で見てて、その、だから!」
「サンキュ。すげーうまかったぞ。また作ってくれな」
 笑ってそう言うと、少女のほおが赤く染まった。
「……いじわる。いつ気づいたの?」
「最初から。おまえ、いつも弁当一つしか持って来てないからな。次はもっと上手に作れよ」
「……いいわよ。じゃあ明日も明後日もその次も作ってくるから、食べなさいよ! あっと言わせてやるんだから!」
 少女の言葉に、俺は笑顔でうなずいた。

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【ツンデレと大晦日】

2010年02月28日
 年末だというのに両親が海外で年越しだと。で、お目付け役としてかなみが俺の家に来て。まあいいやと思ってぼやーっとテレビ見てたら大掃除をさせられて日が暮れた。
「鬼め」
 床にうつぶせになったまま悪態を吐く。
「アンタが悪いんでしょ! なんで全然掃除してないのよ! 普通、大晦日になる前にちょっとくらい掃除しておくでしょ、このぐーたら男!」
「うっさい」
 疲れ果てたのでほふく前進、いやほふく後退でコタツに入り、ぐんにゃりする。あー、気持ちいい。
「体力ないわねー、アンタ。それよりさ、掃除手伝ってあげたんだから、ちょっとくらい感謝の言葉があってもいいと思うけど?」
「どぅも」
「全然気持ちがこもってない!」
 うるさいなあと思いながらテレビをぼーっと見る。
「もー……おそば作るけど、食べるでしょ?」
「食べる」
 やれやれ、と言い残してかなみは台所に消えていった。テレビからは笑い声、台所からはぐつぐつと何かが煮える音。なんかいいなと思った。
「はい、お待たせー」
 そのままうつらうつらしてたら、かなみの声に起こされた。むっくら起き上がると、コタツの上にそばが二杯置かれていた。
「二杯は多いなあ。しかし、かなみの気持ちだし、頑張ろう」
「一つはあたしのよ! 決まってるでしょ!」
 かなみは俺の対面に座り、そばをたぐった。
「ん、上出来ね。ほら、アンタも冷めないうちに食べなさいよ」
「んー」
 つるつるとたぐりながらテレビを見る。テレビの中でぐっちょんがでっかい魚を持ち上げていた。
「なんでとったどー見てんの? ガキ見ないの?」
「録画してるから。途中から見てもつまんないし」
「ふーん。……ね、後で見せてね」
「おっぱい見せてくれるなら」
 コタツの中で足を蹴られた。
「ったく、常時スケベなんだから……」
「んむ。……ん?」
 遠くの方から鐘の音が聞こえてきた。
「あ、もうこんな時間なのね。……来年もよろしくね、タカシ」
「えー」
「嫌がるなッ! もうっ、一年の最後くらい普通にできないの?」
「任せろ。普通とか超得意」
「…………」
 ものすごい疑わしい目で見られた。なんでだ。
「じゃあ普通にいくぞ。えっと、本年は誠にありがとうございました。色々と迷惑をおかけしましたが、どうか来年もよろしくお願いします」
「……へぇ、普通にできるじゃない。偉い偉い」
 かなみはにっこり笑って俺を褒めた。
「おちんちんびろーん」
「全然偉くないッ!」
 反動のせいですごく怒られた。
「あーもう、締まらないわね……」
「んじゃ、締めるため今から初詣でも行くか? 近所にちっさい神社あるし」
「んー、……朝になってからでいいわ。寒いし、ここでごろごろしてる方がいい」
 かなみはコタツの中にもぐり、俺のすぐ横から出てきた。
「甘えん坊モードですか?」
「寒いから引っ付いてるだけよ♪」
 かなみはむふーと言いながら俺に抱きついてきた。
「あー、なんかこのまま寝ちゃいたいなー」
「風邪ひくぞ」
「タカシが暖めてくれたら、ひかないもーん」
「黙っていたけど、俺……実は恒温動物じゃなくて変温動物なんだ! だから、暖められないんだ。ごめん……ごめん、かなみ!」
「はいはい。むぎゅー」
 適当にあしらわれてむぎゅーと抱きしめられた。
「暖かいねー」
「ねー」
 そんな大晦日でした。

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【ツンデレとデレデレと鍋】

2010年02月25日
 とても鍋が食いたくなったので、鍋パーティを開く事にした。一人で鍋を食うのは少し寂しいので、友人を2人ほど招待した。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、ご招待ありがとねっ!」
「ごはっ」
 俺を兄と慕う隣家のちみっこ、夕美が先にやってきた。満面の笑みを浮かべつつ俺の腹に突撃してきたので痛い。
「うぐぐ……夕美、突撃はどうかと思うな」
「てへ☆ しっぱいしっぱい」
 夕美は自分の頭をこつりと叩き、舌をちょろっと出した。
「うひゃあ! な、なんたる媚び! だが、俺はこんな作り物に負けないぞ!」
「媚びとか言わないで」
「は、はい」
 冷静に言われてちょっと怖かった。
「分かればいいんだよー♪ それじゃお兄ちゃん、鍋食べよ?」
「俺は夕美が食べたいな」
「どっきゅんこな発言に、驚きを隠せない夕美だよ! ……た、食べゆ?」
「はい」
「ど、どうぞ。……新鮮な内に食べてね?」
 夕美はこてりと横になり、窺うように俺を見た。
「いただきます」
「はいそこまで!」
 俺のルパンダイブを見覚えのある足の裏が阻む。簡潔に言うと蹴り飛ばされたわけで、大変痛い。
「あ、かなみおねーちゃん! えへー、ようこそ!」
 きりもみながら飛んで行く俺のことなど歯牙にもかけず、夕美はかなみに抱きついた。
「あー、夕美ちゃん。こいつロリコンだから、あんまり一緒にいない方がいいわよ?」
「失敬だなキミは。俺はロリコンではなく、つるぺたが好きなだけです。故にかなみ、貴様も俺のストライクゾーンだ!」
「……なんでもいいけど、壁にめりこんだままよ」
 自力での脱出は困難なので、夕美とかなみに手伝ってもらって抜いてもらう。
「やれやれ。しかし、文面だけだとエロいな」
 俺の言葉に首をかしげる二人だった。説明してもいいけど、殴られるのでしない。
「で、鍋するって聞いたから来たのに、なんで二人で乳繰り合ってんの?」
 かなみが俺だけを睨みながら吐き捨てるように言うので、とても怖い。
「お兄ちゃんがね、鍋より夕美を食べたくなっちゃったの」
 言い訳をする時間すら与えず、かなみは問答無用で俺を殴りまくった。
「お兄ちゃんはよく血まみれになるね♪」
 懇切丁寧に包帯を巻いてくれる夕美だが、実のところ俺のことが大嫌いなのかもしれない。
「もう鍋とかどうでもよくて帰ってほしい気分マンマンですが、一応鍋をしましょう」
「アンタが余計なことしなけりゃ済む話でしょうに……」
「お兄ちゃんは余計なことしないと死ぬ生き物なの」
 夕美が真顔で非常に失礼なことを言う。
「鍋! 鍋食べよう! 用意は済んでいる、あとは食うだけだ!」
 これ以上夕美を喋らせるとまたかなみが俺を殴りかねないので、とっとと飯を食ってしまおう。腹が膨れたらお子様の夕美は寝てしまうに違いない。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、なに鍋? なに鍋?」
「土鍋」
「知ってるよ?」
「…………」
「あはははは! 夕美ちゃんにかかったらアンタも形無しね?」
 楽しげに笑うかなみがむかちゅく。もういい、飯食う。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、夕美が取ってあげるよ」
 鍋から具材を取ろうとしたら、夕美におたまを取られた。
「ん、そうか? じゃ頼むな」
「おっまかせだよう☆ えっと、白菜とー、ネギとー、お豆腐とー、夕美の愛情たっぷり入れるよ♪」
 俺の取り皿に並々と具材を入れ、最後に夕美は愛情という名の念を込めた。
「うぉぉぉぉ……入れ、夕美の愛情、たっぷり入れ……」
 夕美の愛情は怖い感じなのでちょっと食べたくない。
「はい、お兄ちゃん。夕美の愛情たっっっっっっぷりだから、すっごくすっごく美味しいよ!」
「お腹下しそうですね」
「その時はまた愛情入れなおすから、いつでも言ってね♪」
 苦笑いで応えて豆腐を食ってると、かなみが俺をじーっと見て……いや、睨んでることに気づいた。
「と、豆腐食べたかった? まだあるぞ?」
「違うわよっ! なんだって夕美ちゃんみたいないい子がこんな奴を好きになるかなーって思っただけよ」
「調教したから」
 ちょっとした冗談でマウントポジションになり人をがつんがつん殴るかなみをどう思うか。
「わわわっ、お兄ちゃんがまたしても血まみれにっ! 今日二度目の光景だよ!」
 冷静に説明してる暇があったら助けて。
「あーあ、包帯が血まみれになっちゃったよ。取り替えなきゃ」
 夕美が血まみれの包帯を抱えてどっかに行くのを他人事のように見てから、かなみを睨む。
「本当か冗談か判断してから殴ってはくれまいか。血が足りなくてクラクラする」
「う、うっさいわねー。アンタが冗談言わなけりゃ済む話でしょうが。……ほら、お肉でも食べて精つけなさいよ」
 少しは申し訳ないと思ったのか、かなみは俺に肉を取り分けてくれた。
「今は肉より止血が先かと思いますが」
「自力で止めなさい」
 相も変わらず無茶を言う。だがしかし、やってやれないことはない。気合を入れて止血を試みる。
「ふんぬっ」
「新しい包帯持ってきた……ああっ、お兄ちゃんから噴水のように血が! 往年の名レスラー、ブッチャーみたいだよ!」
 夕美のどこか余裕のある叫びを聞きながら、意識が途絶える。

「うーん……んむ?」
「あっ、お兄ちゃんの目が覚めた! かなみおねーちゃん、お兄ちゃんの目が覚めたよー!」
 目が覚めると、夕美の顔が正面にあった。どうやら膝枕されていたようだ。
「はぁ……なんだってご飯食べに来たのに、アンタなんかの看病しなきゃいけないのよ」
「そもそもおまいが俺をがっつんがっつん殴らなけりゃ済む話だろうに」
「うっさいわねー、そもそもアンタが余計なこと言わなかったら済む話でしょ!」
「ぐるるるる!」
「がーっ!」
 一触即発(?)の雰囲気の中、ふいに夕美が吹き出した。
「夕美が狂った!」
「狂ってません」
 冷静に否定され、とても怖かった。
「じゃなくて、かなみおねーちゃん、お兄ちゃんが気絶してる時はあんなに心配してたのに、起きた途端に態度が変わっちゃったんだもん。夕美、なんだかおかしくって」
「え……そうなのか?」
 夕美の言葉にかなみを見ると、かなみは顔を真っ赤にして狼狽していた。
「ちちちっ、違うわよ! ゆ、夕美ちゃんが勘違いしてるのよ! ね、ね?」
 かなみは顔を真っ赤にしたまま必死に夕美を揺さぶった。
「あにゃにゃにゃにゃ、ゆ~れ~る~」
「あにゃあにゃ言ってないで否定してよ、夕美ちゃーん!」
「とても楽しそうで羨ましい! かなみかなみ、次俺にして!」
「遊びじゃないわよっ!」
「ふにゃー、揺れる世界ー」
 夕美は目をぐるぐる回して楽しげな事を言っている。
「やはり羨ましい! 俺もそんな世界に! かなみ、俺に是非!」
「うっさい!」
 楽しい食事会でした。 

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【一度も勝ったことのないツンデレ】

2010年02月20日
「勝負よ、タカシ!」
 昼下がりの教室。机に頭を乗せ、ぼんにゃりひなたぼっこしてたら、かなみが仁王立ちして俺に指を突きつけた。
「嫌です」
「嫌でも勝負するの! そっちが来ないなら、勝手にするわよ!」
「困ります」
「うっさい! いくわよ!」
 頭上に飛来する肘の気配を察し、華麗にかわすと同時に体を翻し廊下に脱兎。
「あっ、こら逃げるな!」
 俺の机に大きな穴を開けたかなみが、慌てて追いかけてきた。来なくていいのに。
「あー、いかん。眠い。……ふああああ」
「あくびしながら逃げるな! こら、勝負しろ!」
「嫌だ」
 窓のさんに乗り、そこから外の木に飛び移る。
「この、猿みたいに……ちょ、ちょっと待ってなさいよ! すぐそこまで行くからね!」
 流石にスカートで飛ぶのは抵抗があるのか、かなみは窓からそう吐き捨てると校舎の中に消えていった。この隙に木から降り、こそこそっと体育倉庫に隠れる。
「ふひゅー。やれやれ、まいたか」
 なんだか知らないが、かなみは俺と勝負し、勝ちたいらしい。学校で名のある奴は全部倒し、残りは俺だけとか。しかし、殴られるのは嫌いなのでこうして逃げているのだけど……全く、迷惑な話だ。
「タカシッ! ここかっ!」
 がらりとドアが開き、怖い女の子が入ってきた。慌てて息を潜め、気配を消す。
「……いないの?」
 いません。だから出ていって。お願い。
「あー、走って汗かいちゃった。誰か拭いてくれないかなー、あたしの体」
「こんな展開を待っていた! 今こそ俺のフキフキぱぅわーを魅せる時!」
 あまりの提案に、思わず立ち上がって叫んでしまった。いや、うん。罠って気づいていたんだけど、しょうがないじゃないか!(泣)
「……自分でやっておいてなんだけど、なんでこんなのに引っかかるかね」
「うう、うるさい! 引っかかってやったんだからフキフキさせろ! 股間とか!」
「させるわけないでしょ、この変態! とにかく、勝負よ!」
 かなみは一足飛びで俺の懐まで飛び込み、肘打ちを仕掛けてきた。当たると痛い(予想)ので、いなして地面に敷いてあるマットに倒す。
「んきゃっ! ……うう、まだよ!」
 かなみは尻餅を着いたまま、鋭い蹴りを連続で仕掛けた。これまた当たると痛い(予想)ので、しっかり見切って足首を掴む。
「きゃっ! は、離しなさいよ!」
「離すと蹴るだろ」
「当たり前じゃない! 早く離しなさいよ、ばかっ!」
「あーうん、ちょっと待って」(じーっ)
「ちょっと、人の話を聞いて……こっ、こらっ、どこ見てんのよ!」
「ぱんつ」
「言うなっ、ばかっ!」
 どこを見てるのか聞かれたから言ったのに怒られた。しかも空いてる足で蹴られたので、手を離してしまった。
「うー……」
 さらに追撃が来るかと思って身構えていたのだけど、かなみは恥ずかしそうにスカートを押さえているだけだった。
「や、よいパンツでしたよ? ただ、惜しむらくは暗がりなのでよく見えませんでした」
「感想を言うなッ! もー、なんでアンタみたいな変態に勝てないのよッ! 空手部もボクシング部も不良グループも制圧したのに、なんでアンタにだけ勝てないのよッ!」
「いやあ、はっはっは」
 ナントカ流の師範代だという近所の爺さんの、稽古という名の虐待を受け続けたガキの頃を思い出し、軽く身震い。あまり思い出したくない記憶だ。
「笑うなッ! あーっ、もーっ! こんな奴に負けた自分が腹立つ!」
「まあそんな日もあるよね」
「うるさい笑うなヘラヘラすんなっ! こーなったら、あたしが勝てるまで勝負しなさい、勝負!」
「嫌。困る。すごい迷惑」
「いいからしなさいよっ!」
「うーん、勝負しても俺にメリットがないしなぁ……あ、そうだ!」
 とてもナイスな案が浮かんだ。

「……ほ、ホントにこうしたら勝負してくれるのね?」
「そのたうり。むふー」
 ナイスな案、それは勝負する毎に俺とイチャイチャすることだ! そんなわけで、かなみを膝に乗せ、後ろから抱っこしてます。
「うー……」
「ほら、むくれてないで台詞台詞」
「わ、分かってるわよ。……えっと、『ねぇ、タカシ。あたしのこと好き? あたしは、タカシのこと大好きだお♪』」
「うお……うおお、俺も好きだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「きゃっ、この……変なとこ触るな! ばかあっ!」
 感極まってぎゅーっと抱きしめたら怒られた。
「や、失敬失敬。ちょっと感情が溢れまして」
「この、ド変態が……いい、言っとくケドね、アンタのことなんて好きでもなんでもないんだからね! 勝負してもらうために好きって言ってるだけなんだからねっ!」
「はいはい、よーく分かってますよ。んじゃ、また甘い台詞お願い」
「ま、またぁ? い、いいじゃない、もう言ったんだから」
「ダメ。勝負しねーぞ」
「わ、分かったわよ。……た、タカシ、ずっとあたしの側にいてよね」
「もちろんだッ! 一生守ってやるぞ、俺の嫁ッ! 大好きだぞッ!」
「嫁じゃないッ! 好きとか言うなイチイチ抱きつくなほっぺにちゅーするな、ばかっ!」
 こんな楽しいご褒美があるのなら、毎日勝負したいです。

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【ツンデレに後ろから追い掛けられたら】

2010年02月20日
 悪友にそそのかれて更衣室を覗いてたら、丁度着替えてたかなみと目が合ってしまったので逃げたら追いかけてきた。
「くぉるぁあああああ! 待ちなさい、このド変態ッ!!!」
 悪鬼羅刹のような表情で追いかけてくるかなみを見るに、怒髪天を衝くほど怒っているのだろうなあ。捕まると大変な目に遭いそうだなあ。
「待って違う違うんだ、俺が悪いんじゃない、そそのかれたんだ!」
「そそのかれようが覗いた事実は変わらないっ! そしてアンタがあたしに殺される事実も変わりようがないのよッ!」
 いかん、本気で怒ってる。このままではミンチより酷い状態になりかねない。なんとかなだめてお仕置きを緩めてもらわねば……!
「安産型のお尻でしたよ?」
「絶対死なすッッッ!!!」
 いかん、火に油を注いでしまった。必死に階段を駆け上り……しまった、この上は屋上だ! 逃げ場がない! しかし、ここでまごまごしていても待ち受けるのは死だけなので、ドアを開け放ち屋上に飛び出る。
「……ふっふっふ、年貢の納め時のようね、別府タカシ!」
 ドアを背にかなみは勝ち誇った。屋上は金網で周囲をぐるりと囲まれており、ベンチがいくつかあるだけで隠れられるような場所なんてない。もう……ダメだ。
「何か言い残すことある?」
 がっくりと膝を着く俺の前で仁王立ちになり、かなみが問いかける。
「この位置関係だと、ちょうどパンツが見えて大変嬉しいです」
「なっ、み、見るな変態っ!」
 思い切り頭を踏まれ、おでこから地面に激突。世界が暗転した。

「……カシ、タカシ、タカシ!」
「……あー、はい。俺の名前です」
「……ばかっ! 早く目を覚ましなさいよ、ばかばか!」
「あい?」
 真っ暗な世界にいたかと思ったら、赤の世界に来たようです。風に遊ばれてるかなみの髪も燃える様な赤に染まっていて、とても綺麗です。
「……アンタ、さっきまでピクリとも動かなかったんだから。……死んだかと思ったじゃない」
 そう言って、かなみは目をこすった。ちょっと心配をかけてしまったようだ。
「あー、うん。ごめんな」
「う、……ま、まぁ、あたしもちこっとだけ悪かったけど。こんなトコで頭踏んじゃったんだし」
 かなみが心配そうに俺のおでこを触った途端、焼けるような痛みが走った。
「いたっ!」
「あ、ご、ごめん、ごめんね。痛かった?」
「ヒリヒリする。下がコンクリなのに、思い切り踏まれるとは予想だにしなかった。恐るべし、かなみ」
「わ、悪かったわよ。……悪かったと思ってるんだから、こうして膝枕してやってるんじゃない」
 ……?
「膝枕?」
「そ、そうよ。悪い?」
 あーそういや木のベンチの割になんか頭の後ろがふかふかするなーって思ってたんだ。そっか膝枕だとふかふかだよなー太ももだもんなーって
「何ィッ!?」
 あまりの驚きにバネじかけの人形みたいな動きで跳ね起きる。
「きゃっ! も、もう! 変な動きしないでよ! びっくりするじゃない!」
「びっくりはこっちの話だ! いわゆる吃驚ってえ奴だ! え、膝枕? 予定調和的ラブコメの主人公が頻繁に遭遇する例のアレ?」
「よ、よく分かんないけど、膝枕は膝枕よ。……べ、別に好きでやってるんじゃないわよ。頭ぶつけてたし、他に枕みたいなのがなかったから、仕方なくしてただけよ」
 頬を軽く染めながら、かなみは恥ずかしそうに呟いた。
「いーからほら、もうちょっと休んでなさい。頭ぶつけたんだから、急に動いたりしたら危ないわよ」
「む」
 優しく誘導され、再び膝枕状態に。
「覗きなんかするからこんな目に遭うのよ。まったく、なんでこんなエッチなのよ……」
「や、また膝枕されるなら、再び覗くのもやぶさかでもない」
「覗くなッ! ちょっとは反省しなさい!」
「それが嫌なら、今後も継続して膝枕を要求する」
「な、なんであたしがアンタなんかのためにわざわざしてあげなくちゃいけないのよ!」
「してほしいなあ……かなみに膝枕してほしいなあ」
「う……そ、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよ」
「きゅーん、きゅーん」
「……ああもうっ! そんな目で見られるくらいなら、してやった方がマシよ! 分かったわよ、そのうちまたしてあげるわよ!」
「やった! 絶対だぞ? 約束だぞ?」
「はいはい、分かったわよ」
「楽しみだなあ……かなみとのベロちゅー!」
「んな約束してないわよッ!」
 屋上にかなみの叫びが響き渡った。

拍手[9回]