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2024年11月24日
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【ツンデレと食】

2010年03月01日
 あと一歩で餓死、というところでチャイムが鳴った。昼休みだ。
 ミラクルダッシュで学食へ向かおうとしたが、あまりの腹減りに力が出ず幽鬼のようにふらふら走る。当然の帰結として、パンは売り切れていた。
「腹、減ったぁ……」
 教室に戻り机に伏せっていると、頭を殴られた。
「何やってんの、陰気臭い」
 顔を上げると、見知った顔があった。
「お腹空いたのですよ。パンが売り切れたのですよ。……金、ないのですよ」
「あらま可哀想。あはははは!」
 愉快そうに笑う娘さんに、軽い殺意を抱く。が、腹が減ってその気も萎える。
「なんでもいいから恵んでくれ。おまえ、確か弁当だろ? なんか残ってないか?」
「残飯漁れば?」
「ないすあいであ。漁ってくる」
 もうプライドだとか尊厳だとか言ってる場合ではないので、提言通り残飯を漁りに行こうとしたら慌てて止められた。
「冗談に決まってるでしょ、馬鹿! ……ったく、しかたないわねぇ。ほら」
 差し出された手に、小さな弁当箱が乗っていた。
「おお! 意外にいい奴だったんだな、おまえって」
「あ、味は期待しないでよね」
「なんだ? おまえが作ったのか?」
「ちっ、違うわよ! ママが作ったに決まってるでしょ!」
「そか。なら安心だな、おまえのおばさん料理の腕プロ級だから」
「……ふん」
 何か機嫌を損ねてしまったけど、まぁいいや、弁当箱を開いて頂きます。
「……ん? おい、これ残りじゃないぞ?」
 弁当箱の中身は、三色ごはんにアスパラのベーコン巻き、ハンバーグに玉子焼きと気合の入った内容だった。そして、そのどれにも食べた跡は見られなかった。
「え、えっと、その、だから、……そう! あたしってたくさん食べるから二つ持ってきてるの。あはははは!」
「なるほろ。その割りに乳は育ってないようだが」
 殺されかけた。マスタースキル:土下座で生き延びた。
「いらんことばっか言ってないで、さっさと食べなさい。もうあんまり時間もないんだから」
「ん、分かった。……むぐむぐ」
 アスパラのベーコン巻きを箸で掴み、食べる。
「……ど、どう?」
「アスパラが半生で硬い。ベーコンは焼けすぎで炭の味がする。おばさん、料理下手になった?」
「ぐ……ち、ちょっとね。風邪ぎみだったから舌がおかしくなってるんじゃない?」
 続けてそぼろ、卵、ふりかけの三色ご飯を食べる。
「そ、それはどう? これはおいしいでしょ?」
「んー、ご飯が柔らかすぎてべちょべちょする。そぼろとふりかけはうまいが、卵はこげてて苦い」
「……そ、そう。ダメねーママって、あはははは」
 どこか乾いた笑い声を上げる娘さんをよそに、次の料理、ハンバーグへ。
「今度こそおいしいでしょ?」
「……にがい。焼けすぎ。生よりはマシだが」
「……も、もういいでしょ? そろそろお腹一杯になったんじゃない? ほ、ほら、まずいの無理して食べてもしかたないじゃない」
「まだ足りん」
 止めようとする娘さんを置いて、最後の料理である玉子焼きを。
「…………」
「ま、まずかった? まずかったよね? ほら、ここに出していいから」
「うまい」
「……へ?」
「うん、これはうまい。他のはちょっとアレだけど、これはうまい。ダシに使ってるのなんだ? 醤油か?」
「いや、醤油じゃなくて素麺つゆ……はっ!」
 自分の失言に気づいたのか、目の前の少女は狼狽した様子で手をわたわたと横に振った。
「いや、そうじゃなくて、ママが作ってたのを横で見てて、その、だから!」
「サンキュ。すげーうまかったぞ。また作ってくれな」
 笑ってそう言うと、少女のほおが赤く染まった。
「……いじわる。いつ気づいたの?」
「最初から。おまえ、いつも弁当一つしか持って来てないからな。次はもっと上手に作れよ」
「……いいわよ。じゃあ明日も明後日もその次も作ってくるから、食べなさいよ! あっと言わせてやるんだから!」
 少女の言葉に、俺は笑顔でうなずいた。

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