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2024年11月21日
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【沙夜 鼻息】
2014年07月18日
毎日暑くて大変ね。俺は特に大変ね。
「…………」スヤァ
何故なら、幼馴染の沙夜が人の家に入り浸っては俺に抱きついて寝るから。
「はぁ……なんだってこいつはこんなクソ暑いのにヘーキな顔して寝れるかなあ……」
こっちは暑いやら沙夜の足が俺の足に絡みついてるやら柔らかいやらいい匂いやらで寝れやしねえってのに……ムカつくからほっぺ引っ張ってやれ。そーれ、びよーん。
「……? ……??」
沙夜が寝たまま困ったような顔をした。眉がハの字になってかわいい。
「……?」
やがて、薄っすら目が開いた。しまった、やりすぎた。
「あー、悪い沙夜。起こしたか」
「…………」ムニュムニュ
眠たげな目をこすり、沙夜は口の中で何か呟いた。猫みてえ。
「……~~~!」
そして大きく口を開けて大あくび。完全に猫だ。つか、幼馴染とはいえ、異性の前でこうまでさらけ出されると、なんというか……いやまあ抱き合って寝てる時点で充分アレなんだが、それはそれとして一応ね。
「沙夜。ちったあ恥じらいを持て」
「……?」
眠たげに目をしぱしぱさせてる沙夜に、一応言っておく。
「いやほら、いちおー俺も異性なんだし、あくびする時は口を手で覆うなりなんなりした方が色々といいのではなくって? と知らずマリーアントワネット風になりながら提案してみる」
「…………」
「え、俺は家族みたいなものだから気にしない? ……あー、まあ昔っからの付き合いだからなあ」
「…………」
「そして数年後には本物の家族になる? お前は何を言ってんだ」
是非は……その、まあアレだ。とりあえずデコピンしておく。
「っ! ~!」プンスカ
沙夜が怒った。プンスカしながら俺の肩を甘咬みしてくる。
「うーん。ちっとも痛くねえ。噛むならもっと肩甲骨を噛み砕くくらいの強い意志で!」
「…………」
「え、可哀想? おまいは怒ってたんじゃなかったのか」
「…………」
「……それはそれ、スか」
怒らせた俺が言うのもなんだが、どうにもこいつは優しすぎる。困ったものだ。
「…………」ペロペロ
「……なんで舐めてるんだ」
気がつけば甘咬みはぺろぺろへ移行していた。
「…………」
「しょっぱい? そりゃ暑いわ沙夜とくっついてるわで汗かいてるからな。つーか、味なんか聞いてねえ」
「…………」ペロペロ
「人の話を聞け」
「…………」ムーッ
「しょっぱい? 知らん。怒るな」
「…………」ペロペロ
「ヤだ、この娘ちょっとバカかも」キュン
「……! ……!」
「はいはい、怒るな」ナデナデ
「…………」ムフー
「むふーじゃねえ」ナデナデ
「…………」ムヒュー
鼻息の音を変えるなんて器用だなあ、と思いながら沙夜の頭をなでつつ半ばまどろんでる俺だった。
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【沙夜 prpr】
2012年11月12日
部屋で寝転んで漫画を読んでると、幼馴染の沙夜が音もなく部屋にやってきて、俺と漫画の隙間に収まった。
「何をしている」
「?」
「いや、?ではなくて」
「……!」
「うむ、分かってくれたようだな」
「…………」(ぺろぺろ)
分かっていなかった様子。
「舐めるな。人の顔を舐めるな」
「…………」(ドヤ顔)
「褒めてねえ」
何やらショックを受けてる様子。がーんじゃねえ。
「はぁ……。まあいいや」(なでなで)
「♪」(嬉しい)
なでられて満足したのか、沙夜は俺の隣に寝転んで一緒に漫画を読み始めた。
「?」
「ん、ああ。前から持ってる漫画だ。最近金なくて新刊が買えなくてなあ」
「……?」
「ああ、いやいや。貸してもらうほど困ってはないから大丈夫だ」(なでなで)
「…………」(ぺろぺろ)
「顔を舐めるのはお返しにならないです」
沙夜は残念そうな顔をした。
「ところで、何か用か?」
ぷるぷるぷる。沙夜の顔が横に振られる。その拍子に沙夜の髪が俺の顔にびしばし当たって痛い。
「……♪」
何が楽しいのか知らないが、さらにぷるぷる首を横に振って俺の顔に髪を当てまくる沙夜。
「痛いです」
「…………」コクコク
「やめれ」
ぷるぷる、という否定の動作でさらに俺に攻撃を加える沙夜。
「ぷるぷるじゃねえ」
チョップで沙夜の動きを止める。
「…………」ムー
沙夜は両手で頭を押さえると、不満げな顔で俺を見た。
「怒るねい」(なでなで)
「……♪」
なでたら機嫌直った。沙夜さんちょお簡単。
「……ふむ。ていっ」(チョップ)
「……!」
ちょっとした実験を思いついたので、も一度チョップしてみる。案の定、沙夜が怒った。
「そして、こうだ!」(なでなで)
続けざまに沙夜の頭をなでる。連続なら、機嫌はどうなるか。
「……! ……!」
実験失敗。沙夜の機嫌は直っていなかった。
「なるほど。委細承知しました。叩いたりしてごめんな、沙夜」(なでなで)
「…………」ムフー
分かればいい、とばかりに沙夜は大きく鼻息を漏らした。
「鼻息が綺麗に全部かかった」
「…………///」
さすがに恥ずかしかったのか、沙夜の顔が赤く灯る。
「…………」(ぺろぺろ)
そして誤魔化すように俺の顔を舐める沙夜。
「いや、それは誤魔化しにならないかと」
「…………」(ぺろぺろぺろ)
舐める量が増えた。そういうことじゃない。
「熱意は伝わったが、誤魔化されていないぞ。あと、舐められすぎて顔がべっとべとなんだが」
「…………。……!」
何事か考えた後、沙夜は自分の顔をくいくいと指した。
「んん?」
「…………」クイクイ
「ふぅむ。……まさか、いや、まさかだな」
ひとつの考えが脳裏をよぎるが、流石にそれはないと流す。
「…………」(ぺろぺろ)
だが、沙夜が俺の頬を舐めて、それから自分の顔を指したことから、やはりその結論に行き着く。
「……あー、違ったら悪いが、その、沙夜の顔も舐めてバランスを取れ、って言いたいのか?」
「…………」コクコクコク
なるほど。沙夜は馬鹿に違いない。
「…………。ええと、ほっぺにな」
だが、俺も馬鹿なので断らない。ていうか、俺も沙夜をぺろぺろしたい。
「…………」
「口に、じゃねえ。ほっぺだ、ほっぺ」
「…………」ムー
膨れだしたほっぺをめろりと舐める。やーらかい。
「…………」(ぺろぺろぺろ)
すると、俺が舐めた量の三倍くらい舐められ返された。
「どういうことだ」
「…………」
「嬉しくなって、つい? なるほど。だが嬉しいのは沙夜だけではないぞ!」
逆襲の俺が登場。ぺろぺろと沙夜の顔を舐める。ちょっとした妖怪といっても過言ではあるまい。
「……!」(ぺろぺろぺろ)
対抗心が芽生えたのか、沙夜も俺を舐めだした。ここに妖怪が二体います。
「ええい、負けるか!」(ぺろぺろ)
「……!」(ぺろぺろぺろ)
「ふべべべ。俺の負けです」
もう俺なんだか沙夜の涎なんだか分からない存在になってしまったので、潔く白旗を挙げる。
「♪」(ぺろぺろ)
「いや、あの。負けたのだからもう舐める必要はないかと」
「…………」
「え、勝負とか関係なく単に舐めたいだけ? 俺の顔から何か甘い分泌液でも出ているのか」
それなら奇病にかかっているので病院に行かなければならないが、ふるふると沙夜の首が横に振られたので一安心。
「…………」
「俺を舐めるのが好き? ほほう。ちなみに俺も好きだぞ」
「…………///」
何か勘違いしたのか、沙夜の顔がゆっくり赤くなっていく。
「……♪♪♪」(スリスリ)
そしてゴキゲンな蝶になって俺にスリスリしだした。
「負けるか!」(スリスリ)
対抗意識が無駄に刺激され、沙夜にスリスリし返す。
「いかん! このままスリスリし続けたら、互いの肌をこすり合わせすぎ、もみじおろしになる未来しかない!」
「……!」
沙夜が泣きそうになった。なんで信じる。
「が、幸いにして沙夜の肌は柔らかくてすべすべしてるので大丈夫っぽい」
「……!」プンプン
騙されたことに気づいたのか、ようやっと沙夜が怒った。
「そう怒るねい」(ふにふに)
「……♪」
ほっぺをふにふにしたら機嫌が直った。相変わらず沙夜の機嫌修復機能は優れている。
といった感じで、なでたり怒らせたり舐められたりしたら夜になったので一緒に寝た。
「何をしている」
「?」
「いや、?ではなくて」
「……!」
「うむ、分かってくれたようだな」
「…………」(ぺろぺろ)
分かっていなかった様子。
「舐めるな。人の顔を舐めるな」
「…………」(ドヤ顔)
「褒めてねえ」
何やらショックを受けてる様子。がーんじゃねえ。
「はぁ……。まあいいや」(なでなで)
「♪」(嬉しい)
なでられて満足したのか、沙夜は俺の隣に寝転んで一緒に漫画を読み始めた。
「?」
「ん、ああ。前から持ってる漫画だ。最近金なくて新刊が買えなくてなあ」
「……?」
「ああ、いやいや。貸してもらうほど困ってはないから大丈夫だ」(なでなで)
「…………」(ぺろぺろ)
「顔を舐めるのはお返しにならないです」
沙夜は残念そうな顔をした。
「ところで、何か用か?」
ぷるぷるぷる。沙夜の顔が横に振られる。その拍子に沙夜の髪が俺の顔にびしばし当たって痛い。
「……♪」
何が楽しいのか知らないが、さらにぷるぷる首を横に振って俺の顔に髪を当てまくる沙夜。
「痛いです」
「…………」コクコク
「やめれ」
ぷるぷる、という否定の動作でさらに俺に攻撃を加える沙夜。
「ぷるぷるじゃねえ」
チョップで沙夜の動きを止める。
「…………」ムー
沙夜は両手で頭を押さえると、不満げな顔で俺を見た。
「怒るねい」(なでなで)
「……♪」
なでたら機嫌直った。沙夜さんちょお簡単。
「……ふむ。ていっ」(チョップ)
「……!」
ちょっとした実験を思いついたので、も一度チョップしてみる。案の定、沙夜が怒った。
「そして、こうだ!」(なでなで)
続けざまに沙夜の頭をなでる。連続なら、機嫌はどうなるか。
「……! ……!」
実験失敗。沙夜の機嫌は直っていなかった。
「なるほど。委細承知しました。叩いたりしてごめんな、沙夜」(なでなで)
「…………」ムフー
分かればいい、とばかりに沙夜は大きく鼻息を漏らした。
「鼻息が綺麗に全部かかった」
「…………///」
さすがに恥ずかしかったのか、沙夜の顔が赤く灯る。
「…………」(ぺろぺろ)
そして誤魔化すように俺の顔を舐める沙夜。
「いや、それは誤魔化しにならないかと」
「…………」(ぺろぺろぺろ)
舐める量が増えた。そういうことじゃない。
「熱意は伝わったが、誤魔化されていないぞ。あと、舐められすぎて顔がべっとべとなんだが」
「…………。……!」
何事か考えた後、沙夜は自分の顔をくいくいと指した。
「んん?」
「…………」クイクイ
「ふぅむ。……まさか、いや、まさかだな」
ひとつの考えが脳裏をよぎるが、流石にそれはないと流す。
「…………」(ぺろぺろ)
だが、沙夜が俺の頬を舐めて、それから自分の顔を指したことから、やはりその結論に行き着く。
「……あー、違ったら悪いが、その、沙夜の顔も舐めてバランスを取れ、って言いたいのか?」
「…………」コクコクコク
なるほど。沙夜は馬鹿に違いない。
「…………。ええと、ほっぺにな」
だが、俺も馬鹿なので断らない。ていうか、俺も沙夜をぺろぺろしたい。
「…………」
「口に、じゃねえ。ほっぺだ、ほっぺ」
「…………」ムー
膨れだしたほっぺをめろりと舐める。やーらかい。
「…………」(ぺろぺろぺろ)
すると、俺が舐めた量の三倍くらい舐められ返された。
「どういうことだ」
「…………」
「嬉しくなって、つい? なるほど。だが嬉しいのは沙夜だけではないぞ!」
逆襲の俺が登場。ぺろぺろと沙夜の顔を舐める。ちょっとした妖怪といっても過言ではあるまい。
「……!」(ぺろぺろぺろ)
対抗心が芽生えたのか、沙夜も俺を舐めだした。ここに妖怪が二体います。
「ええい、負けるか!」(ぺろぺろ)
「……!」(ぺろぺろぺろ)
「ふべべべ。俺の負けです」
もう俺なんだか沙夜の涎なんだか分からない存在になってしまったので、潔く白旗を挙げる。
「♪」(ぺろぺろ)
「いや、あの。負けたのだからもう舐める必要はないかと」
「…………」
「え、勝負とか関係なく単に舐めたいだけ? 俺の顔から何か甘い分泌液でも出ているのか」
それなら奇病にかかっているので病院に行かなければならないが、ふるふると沙夜の首が横に振られたので一安心。
「…………」
「俺を舐めるのが好き? ほほう。ちなみに俺も好きだぞ」
「…………///」
何か勘違いしたのか、沙夜の顔がゆっくり赤くなっていく。
「……♪♪♪」(スリスリ)
そしてゴキゲンな蝶になって俺にスリスリしだした。
「負けるか!」(スリスリ)
対抗意識が無駄に刺激され、沙夜にスリスリし返す。
「いかん! このままスリスリし続けたら、互いの肌をこすり合わせすぎ、もみじおろしになる未来しかない!」
「……!」
沙夜が泣きそうになった。なんで信じる。
「が、幸いにして沙夜の肌は柔らかくてすべすべしてるので大丈夫っぽい」
「……!」プンプン
騙されたことに気づいたのか、ようやっと沙夜が怒った。
「そう怒るねい」(ふにふに)
「……♪」
ほっぺをふにふにしたら機嫌が直った。相変わらず沙夜の機嫌修復機能は優れている。
といった感じで、なでたり怒らせたり舐められたりしたら夜になったので一緒に寝た。
【沙夜 鼻遊び】
2011年07月16日
これだけ暑いと寝るのも難しい。
「…………」
それも、一人でなくもう一人寝床にいると、難易度は格段に上昇する。
「あー……あのな、沙夜。あちいので家に帰っては如何かな?」
「……?」
「いや、?じゃなくて。帰れと言っているのですよ、俺は」
「…………」(ぷるぷる)
「……はぁ。あのな、沙夜。俺の部屋暑いだろ?」
「…………」(コクコク)
「クーラーがないからそれも道理だよな。ほら、お前んち隣だし、お前の部屋にはクーラーついてるし、帰ると快適だぞー?」
「…………」
沙夜はしばし虚空を眺めて何かを考えると、こちらにぽてぽてと歩み寄り、俺の腕を引っ張った。
「ん、なんだ?」
「…………」
「あー……ええと。俺も一緒に来い、と?」
「…………」(コクコク)
「いやいや。俺はここで寝るよ。暑いのは慣れてるし」
「…………」(ぷるぷる)
「いや、ぷるぷるじゃなくて。一人で寝なさい」
「…………」(ぷるぷる&半泣き)
「ええいっ、んなことで泣くなッ! わーったよ、行くよ!」
「……♪」
「やっぱ嘘泣きか」
沙夜のほっぺを軽く引っ張ってお仕置きしてから、一緒に部屋を出る。何が嬉しいんだか知らないが、先ほどから沙夜は俺の腕にくっついて……というよりも、しがみついている。
母さんに今日は隣に泊まると言ってから、家を出る。そのまま隣の沙夜の家に入り、おじさんとおばさんに挨拶する。……っつーか、まあ、もうほぼ毎日顔を合わせてるので家族みたいなもんなので、挨拶も何もないが。
「んじゃ、お前の部屋に行くか」
「…………」(コクコク)
階段を上ろうとすると、なんか知らんが沙夜が背中に乗ってきた。乗せたまま階段を上り、沙夜の部屋に入る。
「…………」(くいくい)
「へーへー」
操縦アンテナのように沙夜が俺の髪を掴み、クーラーのリモコンがある方へ誘導する。スイッチを押すと、クーラーは冷風を吐き出し始めた。ようやっと一心地ついた。
「ふぃー……あー、暑かった」
「…………」(コクコク)
ソファに座り、息を吐く。沙夜は俺の背中から膝に移動し、今度は自分の背中を俺に預けた。
「…………」(じぃーっ)
そして、何か意味ありげな視線を自分の肩越しに俺にぶつけ始めるのだった。
「とうっ」
視線の意味が分からなかったので、沙夜のほっぺを押してみる。大変ぷにぷにで柔らかい。
「…………」
どうやら違ったようだが、それはそれで問題ないのか、沙夜は俺にぷにぷにされたまま、こちらをじぃーっと見ていた。
「…………」
いや、違う。俺じゃなくて、もっと奥……つまり、俺の後ろを見ている。くるりと振り返ると、そこにはブラシがあった。
「ああ、そゆことか」
ブラシをとり、元の位置に戻る。沙夜はもうこちらを見ていなかった。正解のようだ。沙夜の髪にブラシをあて、優しくとかす。
「…………♪」(ご機嫌)
「沙夜、もうちょっと前行け。狭い」
「…………」(ぎうぎう)
「前だ、前! なんで後ろに寄ってくる!」
「…………」(ふにふに)
「いやいや、いやいやいや! どうして抱きついてきますか! 今は髪をとかす時間だろ!」
「…………」(ぶすーっ)
「なんで不満げやねん」
沙夜のデコに軽くチョップしてつっこむ。沙夜は両手でおでこを押さえると、わざとらしく痛そうに顔をしかめた。
「んな強くしてねーよ。いーからほら、そっち向け。髪とかせねーだろ」
沙夜の髪は無駄に(失礼)量があるので、とかすのも一苦労だ。とはいえ、沙夜の髪は絹のような手触りのため、苦労はするが全然嫌ではない。むしろこの時間を俺は好ましく思っている。
「…………」
沙夜はどう思っているのだろう。任せるということは、多少は俺と同じ感情を抱いてくれているのだろうか。
「……?」
「ん、ああ。悪い」
俺の手が止まったことを不思議に思ったのか、沙夜がこちらを見ていた。慌てて沙夜の髪にブラシをあてる。
「…………」
何かを感じ取ったのか、沙夜はブラシを持つ俺の手を優しく握り、コクコクと頷いた。
「……ん、ああ。そっか。サンキュな……ってのもおかしいが」
それだけで、なんとなく沙夜の言いたいことが伝わってきた。
「…………」(むふー)
満足げに鼻息を漏らす沙夜。その鼻息が全部俺にかかった。いや、別にいいんだケド。
「なんか軽く甘いのな、お前の鼻息」
「……!!!」(がぶがぶ)
いくら幼なじみとはいえ鼻息を嗅がれるのは恥ずかしいのか、沙夜は顔を赤くしながら俺の肩を噛んだ。
「……! ……!」
「へーへー。分かったよ。嗅ぐの禁止な。了解了解」
「…………」(むふー)
またしても満足げに鼻息を漏らす沙夜。そしてやっぱり全部こっちにかかった。
「やっぱちょっと甘いのな」
「……! ……!」(がぶがぶがぶ)
肩がとても痛いです。そして学習しろ俺&沙夜。
「ていうかいうかていうかだな、そもそもお前が鼻息を漏らさなけりゃ済む話だろ」
「…………」
「え、俺が嗅がなきゃ済む話って? 俺の顔全体をお前の鼻息が覆うから、嗅がないわけにはいかんのだよ」
「…………」
「息をしなければいい? 人は呼吸をしなければ死ぬのですが」
「…………」
「いやいや、気にしないじゃなくて。気にしてくれ」
会話してるうちに、沙夜は身体ごと回転させてこちらを向いていた。俺の膝に乗り、相対している形だ。
「…………」(つんつん)
「や、葬式は盛大にしてやるじゃなくて。それより、あの、沙夜さん。議論を交わしている最中に何をしているのですか」
「…………」(コクコク)
「いや、こくこくじゃなくて。何をしているか聞いているのです」
「…………」(つんつん)
さっきから沙夜は自分の鼻と俺の鼻をつんつんと合わせていた。意味が分からん。ただ、まあ、なんか超楽しいですが。いや、表面には出しませんよ! 沙夜が調子乗るので!
「……?」
「え、うそ、笑ってるか、俺!?」
「…………」(コクコク)
思ったよりも俺はポーカーフェイスができない模様。くそぅ。
「……?」(つんつん)
「あーはいはい。そうだよ、俺も楽しいよコンチクショウ」
「……♪」
ご機嫌体質になってしまった沙夜が飽きるまで、この遊びは繰り返されたという噂。
「…………」
それも、一人でなくもう一人寝床にいると、難易度は格段に上昇する。
「あー……あのな、沙夜。あちいので家に帰っては如何かな?」
「……?」
「いや、?じゃなくて。帰れと言っているのですよ、俺は」
「…………」(ぷるぷる)
「……はぁ。あのな、沙夜。俺の部屋暑いだろ?」
「…………」(コクコク)
「クーラーがないからそれも道理だよな。ほら、お前んち隣だし、お前の部屋にはクーラーついてるし、帰ると快適だぞー?」
「…………」
沙夜はしばし虚空を眺めて何かを考えると、こちらにぽてぽてと歩み寄り、俺の腕を引っ張った。
「ん、なんだ?」
「…………」
「あー……ええと。俺も一緒に来い、と?」
「…………」(コクコク)
「いやいや。俺はここで寝るよ。暑いのは慣れてるし」
「…………」(ぷるぷる)
「いや、ぷるぷるじゃなくて。一人で寝なさい」
「…………」(ぷるぷる&半泣き)
「ええいっ、んなことで泣くなッ! わーったよ、行くよ!」
「……♪」
「やっぱ嘘泣きか」
沙夜のほっぺを軽く引っ張ってお仕置きしてから、一緒に部屋を出る。何が嬉しいんだか知らないが、先ほどから沙夜は俺の腕にくっついて……というよりも、しがみついている。
母さんに今日は隣に泊まると言ってから、家を出る。そのまま隣の沙夜の家に入り、おじさんとおばさんに挨拶する。……っつーか、まあ、もうほぼ毎日顔を合わせてるので家族みたいなもんなので、挨拶も何もないが。
「んじゃ、お前の部屋に行くか」
「…………」(コクコク)
階段を上ろうとすると、なんか知らんが沙夜が背中に乗ってきた。乗せたまま階段を上り、沙夜の部屋に入る。
「…………」(くいくい)
「へーへー」
操縦アンテナのように沙夜が俺の髪を掴み、クーラーのリモコンがある方へ誘導する。スイッチを押すと、クーラーは冷風を吐き出し始めた。ようやっと一心地ついた。
「ふぃー……あー、暑かった」
「…………」(コクコク)
ソファに座り、息を吐く。沙夜は俺の背中から膝に移動し、今度は自分の背中を俺に預けた。
「…………」(じぃーっ)
そして、何か意味ありげな視線を自分の肩越しに俺にぶつけ始めるのだった。
「とうっ」
視線の意味が分からなかったので、沙夜のほっぺを押してみる。大変ぷにぷにで柔らかい。
「…………」
どうやら違ったようだが、それはそれで問題ないのか、沙夜は俺にぷにぷにされたまま、こちらをじぃーっと見ていた。
「…………」
いや、違う。俺じゃなくて、もっと奥……つまり、俺の後ろを見ている。くるりと振り返ると、そこにはブラシがあった。
「ああ、そゆことか」
ブラシをとり、元の位置に戻る。沙夜はもうこちらを見ていなかった。正解のようだ。沙夜の髪にブラシをあて、優しくとかす。
「…………♪」(ご機嫌)
「沙夜、もうちょっと前行け。狭い」
「…………」(ぎうぎう)
「前だ、前! なんで後ろに寄ってくる!」
「…………」(ふにふに)
「いやいや、いやいやいや! どうして抱きついてきますか! 今は髪をとかす時間だろ!」
「…………」(ぶすーっ)
「なんで不満げやねん」
沙夜のデコに軽くチョップしてつっこむ。沙夜は両手でおでこを押さえると、わざとらしく痛そうに顔をしかめた。
「んな強くしてねーよ。いーからほら、そっち向け。髪とかせねーだろ」
沙夜の髪は無駄に(失礼)量があるので、とかすのも一苦労だ。とはいえ、沙夜の髪は絹のような手触りのため、苦労はするが全然嫌ではない。むしろこの時間を俺は好ましく思っている。
「…………」
沙夜はどう思っているのだろう。任せるということは、多少は俺と同じ感情を抱いてくれているのだろうか。
「……?」
「ん、ああ。悪い」
俺の手が止まったことを不思議に思ったのか、沙夜がこちらを見ていた。慌てて沙夜の髪にブラシをあてる。
「…………」
何かを感じ取ったのか、沙夜はブラシを持つ俺の手を優しく握り、コクコクと頷いた。
「……ん、ああ。そっか。サンキュな……ってのもおかしいが」
それだけで、なんとなく沙夜の言いたいことが伝わってきた。
「…………」(むふー)
満足げに鼻息を漏らす沙夜。その鼻息が全部俺にかかった。いや、別にいいんだケド。
「なんか軽く甘いのな、お前の鼻息」
「……!!!」(がぶがぶ)
いくら幼なじみとはいえ鼻息を嗅がれるのは恥ずかしいのか、沙夜は顔を赤くしながら俺の肩を噛んだ。
「……! ……!」
「へーへー。分かったよ。嗅ぐの禁止な。了解了解」
「…………」(むふー)
またしても満足げに鼻息を漏らす沙夜。そしてやっぱり全部こっちにかかった。
「やっぱちょっと甘いのな」
「……! ……!」(がぶがぶがぶ)
肩がとても痛いです。そして学習しろ俺&沙夜。
「ていうかいうかていうかだな、そもそもお前が鼻息を漏らさなけりゃ済む話だろ」
「…………」
「え、俺が嗅がなきゃ済む話って? 俺の顔全体をお前の鼻息が覆うから、嗅がないわけにはいかんのだよ」
「…………」
「息をしなければいい? 人は呼吸をしなければ死ぬのですが」
「…………」
「いやいや、気にしないじゃなくて。気にしてくれ」
会話してるうちに、沙夜は身体ごと回転させてこちらを向いていた。俺の膝に乗り、相対している形だ。
「…………」(つんつん)
「や、葬式は盛大にしてやるじゃなくて。それより、あの、沙夜さん。議論を交わしている最中に何をしているのですか」
「…………」(コクコク)
「いや、こくこくじゃなくて。何をしているか聞いているのです」
「…………」(つんつん)
さっきから沙夜は自分の鼻と俺の鼻をつんつんと合わせていた。意味が分からん。ただ、まあ、なんか超楽しいですが。いや、表面には出しませんよ! 沙夜が調子乗るので!
「……?」
「え、うそ、笑ってるか、俺!?」
「…………」(コクコク)
思ったよりも俺はポーカーフェイスができない模様。くそぅ。
「……?」(つんつん)
「あーはいはい。そうだよ、俺も楽しいよコンチクショウ」
「……♪」
ご機嫌体質になってしまった沙夜が飽きるまで、この遊びは繰り返されたという噂。
【寝癖が直らない沙夜】
2010年09月04日
寝てると神が降臨。
「…………」(くいくい、くいくい)
ではなく、幼なじみの沙夜が降臨。くいくいと布団を引っ張っているところから察するに、起こしにきたらしい。
「……んん、んあ。……ああ、もう朝か。早いなあ。眠いなあ。よし、今日は学校休もう」
そうと決まればもう一度布団を被りなおし寝なおそうと思ったら、再び布団をくいくい引っ張る感覚。
「…………」(くいくい、くいくい)
薄く目を開けると、沙夜が少し困った顔をしながら布団をくいくい引っ張っていた。
「うーん。起きなきゃダメか?」
「…………」(こくこく)
「沙夜がちゅーしてくれたら起きる」
沙夜は少し困った顔をした。
「しないなら寝る」
そう言って目をつむるが、少し薄目を開けておく。
沙夜はほんの少し逡巡した後、薄く頬を染め、ゆっくり顔をこちらに近づけた。充分引き付けてから、おでこに頭突きをかます。
「…………」
沙夜は片手でおでこを押さえ、不満げに俺をにらんだ。
「こんな簡単な罠にはまる己の無能さを恨むがいい。ふわーっはっはっは!」
朝から大声で笑ったせいで目が覚めてしまった。しょうがない、起きるか。
「…………」(がぶがぶ)
沙夜に左手を噛まれたまま居間へ。母さんが俺と沙夜を見て呆れたように息を吐いた。
「アンタまた沙夜ちゃん怒らせたの?」
「沙夜が馬鹿だからしょうがないんだ」
「…………」(がぶがぶがぶ)
俺の手が受ける痛みが増加した。
「沙夜、そろそろ血が出るのでやめてくれると大変嬉しい」
「…………」(じーっ)
何か言いたげに、沙夜は俺の手を咥えたままこちらをじっと見た。
「……ええと。馬鹿呼ばわりしてごめんなさい」
一応は謝ったのだが、未だ俺の手は沙夜の歯が食い込んだままだ。はて。
「……ああ! それと、沙夜。毎日起こしてくれてありがとうな。感謝してる」
これで満足したのか、ようやっと沙夜は俺の手を離してくれた。涎やら歯形やらで大変なことになっているが、とにかく痛みからは解放された。やれやれだ。
沙夜は俺の手をぺろぺろ舐めて治すと、隣の椅子に座り、食卓に置かれた焼きたてのパンに手を伸ばした。俺もいただく。
「うん。今日もうちのパンはうまい」
「…………」(こくこく)
「特売で買ってきたパンなのに……安上がりな息子と嫁で大助かりよ」
「結婚した覚えはないのですが」
「…………」(こくこく)
俺と沙夜の抗議を全く気にせず、母さんはテレビを見るばかり。
「まあいいか。しょうがないので結婚しようか、沙夜」
母さんの間違いを正解にすべく、沙夜の手を取ってプロポーズしてみる。
「…………」(こくこく)
「受け入れるな。冗談だ」
沙夜の顔が残念そうなものへと変化していった。
そんなこんなで飯も食い終わり、沙夜と一緒に登校。
「……ん?」
いつものようにだらだら歩いてると、沙夜の髪がはねてることに気づいた。
「沙夜、頭」
そう言うと、沙夜は何の躊躇もなく俺に頭突きをしてきた。鎖骨折れるかと思った。
「違う、誰もいきなり頭突きをしろなんて言ってない。髪がはねてるぞ」
そう言われて初めて沙夜は自分の頭を触った。頭の丁度真ん中、つむじあたりの髪が一本重力に逆らうように天にそびえ立っていた。
「アホ毛みたいで素敵ですね」
沙夜は不満げに俺を睨んだあと、両手でぎゅーっと髪を押さえつけた。しかし、そんなもので寝癖が直るはずもなく、手を離すとすぐにまたぴょこんと髪が立ち上がった。
「…………」
直ってないと知り、沙夜は少し悲しそうな顔をした。
「大丈夫だ、沙夜。俺に任せろ」
沙夜の頭に手を置き、むぎゅーっと押さえる。
「!!?」
力が強すぎたのか、沙夜がゆっくりと沈んでいった。
「あ、すまん」
「…………」(がぶがぶ)
「不可抗力なので、噛まないでいただけると何かと助かります」
しかし、沙夜は噛むのをやめない。しょうがないので左手を噛まれたまま、今度はそれなりに力を調整して沙夜の頭をぎゅっと押さえる。
しばらく押さえた後、そっと手を離す。やはり髪がぴょこんと立ち上がった。
「うーん。一度帰って濡れタオルか何かで直すか? でも今から戻ったら遅刻確定だしなあ……」
「……!」
何か閃いたのか、沙夜は俺の手を取って自分の頭へ誘った。そして、ぽふりと頭に手を置いた。
「ほう。それで?」
沙夜は俺の手を左右に動かした。そして、小さくうなずいた。
「ええと、頭をなでる運動により寝癖を粉砕する、ってことか?」
「…………」(こくこく)
「俺の気のせいでなければ、なでられたいだけでは」
「…………」(こくこく)
肯定されるとは思わなかった。しょうがないので沙夜の頭をなでる。
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
何そのうなずき。そして何この一連の動作。
「でもまあ楽しいからいいか!」
「…………」(こくこくこく)
そんな感じで道端で足を止めて沙夜の頭をなで続けてたので、遅刻した。
「…………」(がぶがぶ)
「俺のせいじゃないのに」
沙夜に手を噛まれながら校門をくぐる俺たちだった。
「…………」(くいくい、くいくい)
ではなく、幼なじみの沙夜が降臨。くいくいと布団を引っ張っているところから察するに、起こしにきたらしい。
「……んん、んあ。……ああ、もう朝か。早いなあ。眠いなあ。よし、今日は学校休もう」
そうと決まればもう一度布団を被りなおし寝なおそうと思ったら、再び布団をくいくい引っ張る感覚。
「…………」(くいくい、くいくい)
薄く目を開けると、沙夜が少し困った顔をしながら布団をくいくい引っ張っていた。
「うーん。起きなきゃダメか?」
「…………」(こくこく)
「沙夜がちゅーしてくれたら起きる」
沙夜は少し困った顔をした。
「しないなら寝る」
そう言って目をつむるが、少し薄目を開けておく。
沙夜はほんの少し逡巡した後、薄く頬を染め、ゆっくり顔をこちらに近づけた。充分引き付けてから、おでこに頭突きをかます。
「…………」
沙夜は片手でおでこを押さえ、不満げに俺をにらんだ。
「こんな簡単な罠にはまる己の無能さを恨むがいい。ふわーっはっはっは!」
朝から大声で笑ったせいで目が覚めてしまった。しょうがない、起きるか。
「…………」(がぶがぶ)
沙夜に左手を噛まれたまま居間へ。母さんが俺と沙夜を見て呆れたように息を吐いた。
「アンタまた沙夜ちゃん怒らせたの?」
「沙夜が馬鹿だからしょうがないんだ」
「…………」(がぶがぶがぶ)
俺の手が受ける痛みが増加した。
「沙夜、そろそろ血が出るのでやめてくれると大変嬉しい」
「…………」(じーっ)
何か言いたげに、沙夜は俺の手を咥えたままこちらをじっと見た。
「……ええと。馬鹿呼ばわりしてごめんなさい」
一応は謝ったのだが、未だ俺の手は沙夜の歯が食い込んだままだ。はて。
「……ああ! それと、沙夜。毎日起こしてくれてありがとうな。感謝してる」
これで満足したのか、ようやっと沙夜は俺の手を離してくれた。涎やら歯形やらで大変なことになっているが、とにかく痛みからは解放された。やれやれだ。
沙夜は俺の手をぺろぺろ舐めて治すと、隣の椅子に座り、食卓に置かれた焼きたてのパンに手を伸ばした。俺もいただく。
「うん。今日もうちのパンはうまい」
「…………」(こくこく)
「特売で買ってきたパンなのに……安上がりな息子と嫁で大助かりよ」
「結婚した覚えはないのですが」
「…………」(こくこく)
俺と沙夜の抗議を全く気にせず、母さんはテレビを見るばかり。
「まあいいか。しょうがないので結婚しようか、沙夜」
母さんの間違いを正解にすべく、沙夜の手を取ってプロポーズしてみる。
「…………」(こくこく)
「受け入れるな。冗談だ」
沙夜の顔が残念そうなものへと変化していった。
そんなこんなで飯も食い終わり、沙夜と一緒に登校。
「……ん?」
いつものようにだらだら歩いてると、沙夜の髪がはねてることに気づいた。
「沙夜、頭」
そう言うと、沙夜は何の躊躇もなく俺に頭突きをしてきた。鎖骨折れるかと思った。
「違う、誰もいきなり頭突きをしろなんて言ってない。髪がはねてるぞ」
そう言われて初めて沙夜は自分の頭を触った。頭の丁度真ん中、つむじあたりの髪が一本重力に逆らうように天にそびえ立っていた。
「アホ毛みたいで素敵ですね」
沙夜は不満げに俺を睨んだあと、両手でぎゅーっと髪を押さえつけた。しかし、そんなもので寝癖が直るはずもなく、手を離すとすぐにまたぴょこんと髪が立ち上がった。
「…………」
直ってないと知り、沙夜は少し悲しそうな顔をした。
「大丈夫だ、沙夜。俺に任せろ」
沙夜の頭に手を置き、むぎゅーっと押さえる。
「!!?」
力が強すぎたのか、沙夜がゆっくりと沈んでいった。
「あ、すまん」
「…………」(がぶがぶ)
「不可抗力なので、噛まないでいただけると何かと助かります」
しかし、沙夜は噛むのをやめない。しょうがないので左手を噛まれたまま、今度はそれなりに力を調整して沙夜の頭をぎゅっと押さえる。
しばらく押さえた後、そっと手を離す。やはり髪がぴょこんと立ち上がった。
「うーん。一度帰って濡れタオルか何かで直すか? でも今から戻ったら遅刻確定だしなあ……」
「……!」
何か閃いたのか、沙夜は俺の手を取って自分の頭へ誘った。そして、ぽふりと頭に手を置いた。
「ほう。それで?」
沙夜は俺の手を左右に動かした。そして、小さくうなずいた。
「ええと、頭をなでる運動により寝癖を粉砕する、ってことか?」
「…………」(こくこく)
「俺の気のせいでなければ、なでられたいだけでは」
「…………」(こくこく)
肯定されるとは思わなかった。しょうがないので沙夜の頭をなでる。
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
何そのうなずき。そして何この一連の動作。
「でもまあ楽しいからいいか!」
「…………」(こくこくこく)
そんな感じで道端で足を止めて沙夜の頭をなで続けてたので、遅刻した。
「…………」(がぶがぶ)
「俺のせいじゃないのに」
沙夜に手を噛まれながら校門をくぐる俺たちだった。
【沙夜 カップ麺】
2010年02月06日
ここ数日金欠なので、昼は体にあまりよくないと知りつつ庶民に優しいカップ麺ばかり食べてる。ぺりぺりと包装を破いてたら、カップ麺に影が差した。顔を上げると、知り合い。沙夜だ。
「どした?」
「…………」
沙夜は何も言わず、じぃぃぃぃっと俺のカップ麺を見てる。
「欲しいのか? やらんぞ」
蓋を取り、職員室から拝借してきたヤカンでカップにお湯を入れ蓋をする。
「…………」
その様子をじーっと見てる沙夜。
「なんだ? ひょっとして、弁当忘れたのか?」
そう尋ねると、沙夜はぷるぷると首を横に振って自分の席に戻った。そして鞄から弁当箱を取り出し、また戻ってきた。
「…………」
そして見せ付けるようにぐいぐい俺に押し付けてくる。俺の顔に。
「お前が弁当持ってることは分かった。分かったから押すな」
満足そうに鼻息を漏らすと、沙夜は再びじぃぃぃぃっとカップ麺を見つめた。
「……繰り返すが、やらんぞ」
沙夜は弁当箱で俺の顔をぺしぺし叩いた。痛え。
「お前は弁当持ってるんだから、それ食え。これは俺の」
俺の話なんてちっとも聞かず、沙夜はなおも俺の顔を弁当箱でべしべし叩いた。痛いっての。
「……ん、3分経ったか」
蓋を取り除くと、ふわりと湯気が舞い上がった。うまそう。
「さて、いただきます」
両手を合わせていただきますを言ってたら、横から手が伸びてきてカップ麺と箸を奪われた。
「…………。いやいや、いやいやいや! 俺の飯だから! 返せ沙夜!」
沙夜はカップ麺を持ったまま走って逃げた。ていうかアイツ食いながら逃げてやがる!
「てめえ、何しやがる! てめえ!」
もう半泣きで沙夜を追いかける。あれを食われると本日の摂取カロリーが足らなくなる。
「…………♪」
あんにゃろう、ちらりとこっちを振り向いては満足そうに麺をすすってやがる! チクショウ、俺のカップ麺!
「唸れ俺の脚、輝け俺の肺、瞬け俺の生命!」
いらんこと言ってる間に距離を空けられた。ぜいぜい言いながら米粒みたいに小さくなってる沙夜を追いかける。
「ひー……たまには、運動、しねぇとな……はひー」
沙夜を追いかけ、見失い、道行く人々に尋ね、たくさん階段を上る。きしむドアを開け、屋上へ。
「はぁはぁはぁ……お、追い詰めたぞ、沙夜!」
「…………」
沙夜はカップ麺の最後の汁を飲み干してた。
「遅かったぁぁぁぁぁ……」
力なく膝から崩れ落ちる。無駄にカロリー使っちまったし、もうこのまま朽ちてしまいそう。
「…………」
沙夜は俺の肩に手を置き、ぷるぷると首を横に振った。まだまだ甘いらしい。
「おまえなあ……冗談にしては悪質だぞ。俺の飯……」
泣きそうになってる俺の視界に、布に包まれた四角い箱が。つい、と顔を上げる。
「弁当……? え、くれるの?」
沙夜はコクコクとうなずいた。
「なんで?」
尋ねると、沙夜はげふーとゲップした。
「腹いっぱいスか……」
じゃあ最初から取るな、と思ったが、そこではたと気づく。
まさか、最近カップ麺ばっか食ってたから、それじゃ栄養が偏ると思って、わざと……?
じっ、と沙夜の顔を見る。何かを察したのか、沙夜は顔を逸らした。ほんのり頬が赤い。
「……ありがとな、沙夜」
何のことか分からない、とでも言いたげにぷるぷる首を振る沙夜だったが、頬の赤みは強くなってた。
「言いたいから言っただけだ、気にするな。さってと、食うか!」
弁当箱を開ける。なんか緑まみれ。ていうかおかずが野菜。超野菜。
「……超ヘルシーですね、この弁当」
コクコク、と嬉しそうな沙夜のこめかみをぐりぐり。
「肉を入れろ、肉を! 力が出ねえよ!」
俺の手を取り、沙夜は半泣きになりながらも負けじと俺の指をがじがじかじった。
「痛い痛い痛い! いやちょっと肉が食いたかっただけで別に嫌とかそんなじゃなくてそのごめんなさい俺が悪かったです!」
あまりの痛みに許しを請うと、沙夜はぴたりと俺の指をかじるのをやめ、ちゅーちゅー吸い始めた。
「あー……許してくれる、と」
俺の指をちゅーちゅーしながら沙夜はコクコクうなずいた。
「そか。サンクス。じゃ、飯食うんで手を解放してくれると助かる」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……いやいや。片手じゃ飯食えないし」
ぷるぷるぷる。食えと。片手で食えと。
「……分かったよ。食うよ、食いますよ」
左手に箸、右手に沙夜の舌。どんな二刀流だ。
「でも、せめて手を交換してくれると助かります」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。
「あははー、思いがけず両利きの訓練できてラッキー」
やけくそ気味にそう言い、震える手で飯を食う。超食いにくい。
「…………♪」
そんな俺を楽しげに眺めつつ、人の指をちうちうれろれろする沙夜だった。
「どした?」
「…………」
沙夜は何も言わず、じぃぃぃぃっと俺のカップ麺を見てる。
「欲しいのか? やらんぞ」
蓋を取り、職員室から拝借してきたヤカンでカップにお湯を入れ蓋をする。
「…………」
その様子をじーっと見てる沙夜。
「なんだ? ひょっとして、弁当忘れたのか?」
そう尋ねると、沙夜はぷるぷると首を横に振って自分の席に戻った。そして鞄から弁当箱を取り出し、また戻ってきた。
「…………」
そして見せ付けるようにぐいぐい俺に押し付けてくる。俺の顔に。
「お前が弁当持ってることは分かった。分かったから押すな」
満足そうに鼻息を漏らすと、沙夜は再びじぃぃぃぃっとカップ麺を見つめた。
「……繰り返すが、やらんぞ」
沙夜は弁当箱で俺の顔をぺしぺし叩いた。痛え。
「お前は弁当持ってるんだから、それ食え。これは俺の」
俺の話なんてちっとも聞かず、沙夜はなおも俺の顔を弁当箱でべしべし叩いた。痛いっての。
「……ん、3分経ったか」
蓋を取り除くと、ふわりと湯気が舞い上がった。うまそう。
「さて、いただきます」
両手を合わせていただきますを言ってたら、横から手が伸びてきてカップ麺と箸を奪われた。
「…………。いやいや、いやいやいや! 俺の飯だから! 返せ沙夜!」
沙夜はカップ麺を持ったまま走って逃げた。ていうかアイツ食いながら逃げてやがる!
「てめえ、何しやがる! てめえ!」
もう半泣きで沙夜を追いかける。あれを食われると本日の摂取カロリーが足らなくなる。
「…………♪」
あんにゃろう、ちらりとこっちを振り向いては満足そうに麺をすすってやがる! チクショウ、俺のカップ麺!
「唸れ俺の脚、輝け俺の肺、瞬け俺の生命!」
いらんこと言ってる間に距離を空けられた。ぜいぜい言いながら米粒みたいに小さくなってる沙夜を追いかける。
「ひー……たまには、運動、しねぇとな……はひー」
沙夜を追いかけ、見失い、道行く人々に尋ね、たくさん階段を上る。きしむドアを開け、屋上へ。
「はぁはぁはぁ……お、追い詰めたぞ、沙夜!」
「…………」
沙夜はカップ麺の最後の汁を飲み干してた。
「遅かったぁぁぁぁぁ……」
力なく膝から崩れ落ちる。無駄にカロリー使っちまったし、もうこのまま朽ちてしまいそう。
「…………」
沙夜は俺の肩に手を置き、ぷるぷると首を横に振った。まだまだ甘いらしい。
「おまえなあ……冗談にしては悪質だぞ。俺の飯……」
泣きそうになってる俺の視界に、布に包まれた四角い箱が。つい、と顔を上げる。
「弁当……? え、くれるの?」
沙夜はコクコクとうなずいた。
「なんで?」
尋ねると、沙夜はげふーとゲップした。
「腹いっぱいスか……」
じゃあ最初から取るな、と思ったが、そこではたと気づく。
まさか、最近カップ麺ばっか食ってたから、それじゃ栄養が偏ると思って、わざと……?
じっ、と沙夜の顔を見る。何かを察したのか、沙夜は顔を逸らした。ほんのり頬が赤い。
「……ありがとな、沙夜」
何のことか分からない、とでも言いたげにぷるぷる首を振る沙夜だったが、頬の赤みは強くなってた。
「言いたいから言っただけだ、気にするな。さってと、食うか!」
弁当箱を開ける。なんか緑まみれ。ていうかおかずが野菜。超野菜。
「……超ヘルシーですね、この弁当」
コクコク、と嬉しそうな沙夜のこめかみをぐりぐり。
「肉を入れろ、肉を! 力が出ねえよ!」
俺の手を取り、沙夜は半泣きになりながらも負けじと俺の指をがじがじかじった。
「痛い痛い痛い! いやちょっと肉が食いたかっただけで別に嫌とかそんなじゃなくてそのごめんなさい俺が悪かったです!」
あまりの痛みに許しを請うと、沙夜はぴたりと俺の指をかじるのをやめ、ちゅーちゅー吸い始めた。
「あー……許してくれる、と」
俺の指をちゅーちゅーしながら沙夜はコクコクうなずいた。
「そか。サンクス。じゃ、飯食うんで手を解放してくれると助かる」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……いやいや。片手じゃ飯食えないし」
ぷるぷるぷる。食えと。片手で食えと。
「……分かったよ。食うよ、食いますよ」
左手に箸、右手に沙夜の舌。どんな二刀流だ。
「でも、せめて手を交換してくれると助かります」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。
「あははー、思いがけず両利きの訓練できてラッキー」
やけくそ気味にそう言い、震える手で飯を食う。超食いにくい。
「…………♪」
そんな俺を楽しげに眺めつつ、人の指をちうちうれろれろする沙夜だった。