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2024年11月21日
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【沙夜 節分】
2010年02月02日
幼馴染の沙夜が豆まきをしたいという目で俺を見る。
「いや、どんな目だ」
「…………?」
「や、なんでもない。ええと、間違ってたら謝るが、ひょっとして豆まきがしたいのか?」
沙夜はコクコクうなずいた。
「……すげぇな、幼馴染の以心伝心ぱぅわー」
「…………?」
「なんでもない。しかし、なんでまたこんな微妙な時期に? やるなら節分の時にすればいいものを」
沙夜の目が『するの忘れてた』と訴えてきた。
「にゃるほど。ドジ」
沙夜のほっぺがぷくーっと膨れる。
「怒るねい。しかし、豆ねぇ……あったかなあ」
冷蔵庫の中身を思い出していると、沙夜はポケットをごそごそと探り、何かを取り出した。
「用意周到ですね」
コクコクうなずきながら、沙夜は取り出した袋から豆を何粒か取り出した。そして、大きく振りかぶった。
すわ豆惨殺事件発生か、と思ったが、沙夜は振りかぶった手の動きを緩め、ゆっくり俺の口の前まで持ってきた。
「え、まかないのか? 食うの?」
沙夜はコクコクうなずくと、俺に向け口を大きく開けた。
「……えと、ひょっとして、あーんしろって?」
大きく口を開けると、正解だったのか、沙夜はにっこり笑って俺の口の中に豆を一粒入れた。
「もむもむ。ふむ、おいしい」
豆を味わっていると、沙夜は俺に豆を一粒渡し、あーんと口を開いた。
「交代ですか」
嬉しそうにコクコクうなずくと、沙夜はおあーんと口を開けた。
「ふむ。沙夜、おあずけ、おあずけだ」
沙夜はおあえーんと口を開けたまま、じっと待った。
「いやはや、犬っぽくて可愛いなあ!」
何かが気に障ったのだろう、沙夜がじとーっとした目つきで俺を見る。
「冗談だよ。ほれ、あーん」
沙夜の口の中に豆を一粒入れ、さて戻ろうかと思った瞬間に指ごと捕食された。
「沙夜さん、食うのは豆であり、俺の指は食べ物ではないので出しなさい」
淡々と説明したのに、沙夜ときたら俺の話なんてちっとも聞かずに人の指をぺろぺろするばかり。
「出せ」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「いや、ぷるぷるじゃなくて」
引き抜こうとしたら、沙夜は両手で俺の手を持ち、そのまま固定しやがった。
「百歩譲って豆まきが豆を食べさせあうのはいい。だが、これは確実に豆まきではないと思うが」
沙夜は分からないフリをして、俺の指に舌をからませた。いや、気持ちいいけど。
「楽しそうですね」
「♪」
「はぁ……まあいいや」
空いてる手で豆を拾い、ぽりぽり食う。煎ってあっておいしい。
「…………」
ふと、沙夜の舌が止まっていることに気づいた。ようやっと飽きてくれたか。
「ん? どした」
沙夜は俺の指から口を離すと、あーんと口を開けた。
「あー、俺が豆食ってるの見て自分も欲しくなった、と」
沙夜はコクコクうなずいた。
「しょーがねーなぁ……ほれ、あーん」
おあーんと開いてる口に、豆を入れる。そして、猿も驚くほどの素早さをもって指を引き抜く。失敗。
「♪」
両手でがっしり固定し、沙夜は俺の指をぺろぺろ舐めた。
「いや、あのさ。豆食えよ、豆」
沙夜は一旦俺の指を口から離すと、口の中に入れておいた豆をぼりぼり食べた。そして、すぐに俺の指を口に含んだ。
「……いや、食べたら指舐めてもいいという話ではない」
「…………」(うるうる)
「だけど俺は度量が宇宙一広いので舐めてもいいから泣かないでくださいお願いします!」
沙夜は簡単に泣き止むと、俺の指をちゅーちゅー吸い始めた。
「嘘泣きとか、ずるいと思うます」
沙夜はなんのことか分からないフリをして、楽しそうに俺の指を舐めるのだった。
「いや、どんな目だ」
「…………?」
「や、なんでもない。ええと、間違ってたら謝るが、ひょっとして豆まきがしたいのか?」
沙夜はコクコクうなずいた。
「……すげぇな、幼馴染の以心伝心ぱぅわー」
「…………?」
「なんでもない。しかし、なんでまたこんな微妙な時期に? やるなら節分の時にすればいいものを」
沙夜の目が『するの忘れてた』と訴えてきた。
「にゃるほど。ドジ」
沙夜のほっぺがぷくーっと膨れる。
「怒るねい。しかし、豆ねぇ……あったかなあ」
冷蔵庫の中身を思い出していると、沙夜はポケットをごそごそと探り、何かを取り出した。
「用意周到ですね」
コクコクうなずきながら、沙夜は取り出した袋から豆を何粒か取り出した。そして、大きく振りかぶった。
すわ豆惨殺事件発生か、と思ったが、沙夜は振りかぶった手の動きを緩め、ゆっくり俺の口の前まで持ってきた。
「え、まかないのか? 食うの?」
沙夜はコクコクうなずくと、俺に向け口を大きく開けた。
「……えと、ひょっとして、あーんしろって?」
大きく口を開けると、正解だったのか、沙夜はにっこり笑って俺の口の中に豆を一粒入れた。
「もむもむ。ふむ、おいしい」
豆を味わっていると、沙夜は俺に豆を一粒渡し、あーんと口を開いた。
「交代ですか」
嬉しそうにコクコクうなずくと、沙夜はおあーんと口を開けた。
「ふむ。沙夜、おあずけ、おあずけだ」
沙夜はおあえーんと口を開けたまま、じっと待った。
「いやはや、犬っぽくて可愛いなあ!」
何かが気に障ったのだろう、沙夜がじとーっとした目つきで俺を見る。
「冗談だよ。ほれ、あーん」
沙夜の口の中に豆を一粒入れ、さて戻ろうかと思った瞬間に指ごと捕食された。
「沙夜さん、食うのは豆であり、俺の指は食べ物ではないので出しなさい」
淡々と説明したのに、沙夜ときたら俺の話なんてちっとも聞かずに人の指をぺろぺろするばかり。
「出せ」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「いや、ぷるぷるじゃなくて」
引き抜こうとしたら、沙夜は両手で俺の手を持ち、そのまま固定しやがった。
「百歩譲って豆まきが豆を食べさせあうのはいい。だが、これは確実に豆まきではないと思うが」
沙夜は分からないフリをして、俺の指に舌をからませた。いや、気持ちいいけど。
「楽しそうですね」
「♪」
「はぁ……まあいいや」
空いてる手で豆を拾い、ぽりぽり食う。煎ってあっておいしい。
「…………」
ふと、沙夜の舌が止まっていることに気づいた。ようやっと飽きてくれたか。
「ん? どした」
沙夜は俺の指から口を離すと、あーんと口を開けた。
「あー、俺が豆食ってるの見て自分も欲しくなった、と」
沙夜はコクコクうなずいた。
「しょーがねーなぁ……ほれ、あーん」
おあーんと開いてる口に、豆を入れる。そして、猿も驚くほどの素早さをもって指を引き抜く。失敗。
「♪」
両手でがっしり固定し、沙夜は俺の指をぺろぺろ舐めた。
「いや、あのさ。豆食えよ、豆」
沙夜は一旦俺の指を口から離すと、口の中に入れておいた豆をぼりぼり食べた。そして、すぐに俺の指を口に含んだ。
「……いや、食べたら指舐めてもいいという話ではない」
「…………」(うるうる)
「だけど俺は度量が宇宙一広いので舐めてもいいから泣かないでくださいお願いします!」
沙夜は簡単に泣き止むと、俺の指をちゅーちゅー吸い始めた。
「嘘泣きとか、ずるいと思うます」
沙夜はなんのことか分からないフリをして、楽しそうに俺の指を舐めるのだった。
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【沙夜 休日】
2010年01月31日
休みなのでどっか遊びに行こうと部屋のドアを開けて外出しようとしたら、ガンッ!という景気がいい音がした。
「……えーと、だいじょぶか?」
涙目でおでこを押さえてる幼馴染の沙夜がドアの影から現れた。悲しそうに俺を見上げながら、廊下に座り込んでる。
「…………」
物言いたげな瞳でじぃぃぃぃっと見られると、なんだか俺が悪いような気がしてくる。
「いや、まさかこんなところにいるとは思わなくて。悪かった。じゃ、そゆことで」
押さえてるおでこをなでなでしてから、沙夜をまたごうと足を上げたら、足首を掴まれた。
「ええと、そこを掴まれると進退窮まるのですが」
「…………」
またしてもじぃぃぃぃっと。
「……えーと。遊びに来たのか?」
こっくり、とうなずく沙夜。
「いや、しかし俺は外出するつもりだったんだけど。そうだ、お前も一緒に来るか?」
ぷるぷるぷる、と首を横に振る。
「そっか。んじゃ、俺一人で行って来るな」
またしてもぷるぷるぷる。
「……はぁ。それじゃ、一緒に部屋でぐだぐだすっか?」
沙夜は嬉しそうにコクコクうなずいた。なんとなく嬉しそうな顔にチョップしてから、部屋に戻る。
「…………(怒)」
チョップされて怒ってるのか、沙夜はちょっとむくれながら部屋に入ってきた。
「そう怒るな。ただの外出を邪魔された腹いせだ」
沙夜は怒ってるぞー、という雰囲気を振りまきながら俺のベッドに座った。
「さて……することないな。することないからどっか行こうとしたわけだし」
何をするかな、と思いながら座布団に座る。その俺に座る沙夜。
「重い」
ぷるぷるぷる。重くないらしい。
「いや、重いっての」
またもぷるぷるぷる。
「ていうか、怒ってたんじゃないのか」
しばしの沈黙(まあ、いつも黙ってるのだけど)の後、沙夜はくるりと体を回転させ俺と相対すると、俺のほっぺをむにーっと引っ張り、にっこり笑った。
「えーと。これで帳消し、ってコトか?」
コクコクうなずく平和そうな顔を鷲づかみする。慌ててる雰囲気が手の奥から伝わってくる。
「帳消しの上書き」
手を離すと、はぅーって顔になってた。やれやれ、困ったちゃんだぜー、とでも言いたげな顔がむかちゅく。
「……まあいいや。そうだ、録り貯めしてたビデオでも見るかな」
沙夜を膝に乗せたまま、リモコンでテレビをつける。そのままビデオを再生しようとリモコンを操作する俺の手を、沙夜が制した。
「ん?」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。テレビを見ると、動物系の番組をやってた。
「いや、これ再放送だし。見たことあるだろ?」
コクコク。
「ならいいじゃん。ビデオ片付けたい」
ぷるぷるぷる。リモコンを制される。ていうか奪われた。
「返して」
ぷるぷるぷる、と首を振りながらも、沙夜はテレビに夢中だ。
「はぁ……このワガママ娘が」
まあ、どうしても見たかったわけではない。沙夜と一緒に俺も見るか。
ぼんにゃりテレビを眺める。芸能人と希少動物とのふれあいがテーマの番組のようだ。沙夜には悪いが、正直あまり興味がないので、ちょい退屈。手慰みに沙夜のほっぺをむにむにする。
「…………」
ちょっと俺を見上げた後、沙夜はむにむにしてる俺の手を自分の手で包んだ。
「沙夜、この番組面白いか?」
コクコク。
「そか。俺は捕食シーンが早く見たい。トドがペンギン喰らうようなやつ」
沙夜は俺の顔をぺちぺち叩いた。
「いやいや、いいじゃん別に。それも自然の一部だし」
ぷるぷるぷる。自然の一部ではないらしい。
「いやいやいや。あるって。何なら今見せてもいいぞ。youtubeとかにあるだろうし」
パソコンを起動するため立ち上がろうとする俺を、必死で押し留める沙夜。
「まあそう遠慮するな」
今までにない激しさで首を横に振る沙夜。何が何でも嫌らしい。
「そんな嫌か?」
コクコクコク!と、ちょっと面白いくらいの速度で首を縦に振りまくる沙夜。首痛めるぞ。
「じゃ、やめる」
安堵したように沙夜は息を吐いた。
「代わりに虫の捕食シーンのアップを撮影したものを」
さっきよりも激しい抵抗にあう。
「嫌か? そんなわけないよな、虫族のヒエラルキーの頂点に立つ沙夜が、常日頃虫を捕食してはニヤリと笑ってる沙夜が嫌がるわけないよな」
そんなのに立った覚えはない、とでも言わんばかりに沙夜は俺をぺしぺし叩いた。
「で、今日は何食べた? バッタ?」
がぶりと俺の肩を噛む沙夜。俺を食うらしい。
「いてててて! 分かった、分かったから噛むな!」
しぶしぶ俺から口を離すと、沙夜は恨めしげに俺を睨んだ。
「んな顔すんな。冗談だよ」
沙夜の頭に手を載せ、なでなでなで。
「…………」
ちょっとだけ不服そうで、ちょっとだけ嬉しそうな沙夜だった。
「それはそうと、テレビ見なくていいのか?」
俺に言われて気づいたのか、沙夜は慌ててテレビの方を向いた。スタッフロール流れてた。
「…………」
じぃぃぃぃっ、と俺を睨む沙夜。
「いや、そんな顔されても。まあ確かにお前で遊んで時間食ったのは確かだけど、もうテレビ点けた時点で半分以上終わってたし、その、ええと、……ごめんなさい」
軽くため息をつき、沙夜は俺の頭をなでなでした。許してくれるらしい。
「正直俺に責任はないと思うが、許してくれるならいいや。じゃ、そろそろビデオを片付けに入りますか」
そう言って沙夜からリモコンを受け取ろうとするも、渡してくれない。
「沙夜?」
沙夜は俺に抱きつくと、胸に顔を押し付けた。
「ええと、ビデオ見たいのだけど」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。
「いや、しかし、休みくらいしかビデオ片付ける暇ないし」
ぷるぷるぷる。やっぱりダメらしい。
「……はぁ。ったく、このワガママ娘め」
「…………♪」
沙夜は俺から顔を離すと、にぃーっと笑った。その顔にチョップを落とす。
「チョップ軍隊だから仕方ないんだ」
落としたチョップを両手で掴み、がぶがぶ噛む沙夜。
「痛え」
しばらく噛んで満足したのか、沙夜は俺の指をちゅぱちゅぱ舐め始めた。
「赤子か。泣き赤子か」
俺の話なんてちっとも聞かず、沙夜は俺の指をちゅーちゅー吸った。そうはさせじと沙夜の舌を掴む。
「秘技、舌掴み。ジョブがエンマ様だとこの後、舌引っこ抜きのコンボが可能だ」
しかし俺のジョブはただの学生なので、せいぜい空いた手で沙夜のほっぺをなでなでするくらいだ。
「…………」
舌を解放すると、沙夜は優しく俺の指をかぷかぷ噛んだ。どこかとろんとした目つきで俺を見てる。
「指マニアめ。将来はヤクザの落とした指を集めるに違いない」
かぷかぷがガリガリに移行したので痛い。
「痛い痛い痛いッ! ええいっ、もう終わり!」
沙夜の口から指を引き抜く。あー痛かった。
「…………」
もっとしたかったのに、と不満いっぱいな様子で俺を見る沙夜。
「また今度だ、今度。これ以上やられると指がふやけて肉が削げて骨が出てくる」
沙夜は俺の顔にチョップした。怖いこと言うの禁止らしい。
「それが嫌なら、今日は抱っこに終始してはいかがかな?」
ちょっと小首を傾げ何事か考えた後、沙夜は俺に抱きついてきた。
「んむ。それがいい」
「…………」
ばれないように、沙夜はそーっと俺の指に手を伸ばした。
「だから、今日は終わりだっての! また後日! ……ったく」
残念そうな沙夜をなでる俺だった。
「……えーと、だいじょぶか?」
涙目でおでこを押さえてる幼馴染の沙夜がドアの影から現れた。悲しそうに俺を見上げながら、廊下に座り込んでる。
「…………」
物言いたげな瞳でじぃぃぃぃっと見られると、なんだか俺が悪いような気がしてくる。
「いや、まさかこんなところにいるとは思わなくて。悪かった。じゃ、そゆことで」
押さえてるおでこをなでなでしてから、沙夜をまたごうと足を上げたら、足首を掴まれた。
「ええと、そこを掴まれると進退窮まるのですが」
「…………」
またしてもじぃぃぃぃっと。
「……えーと。遊びに来たのか?」
こっくり、とうなずく沙夜。
「いや、しかし俺は外出するつもりだったんだけど。そうだ、お前も一緒に来るか?」
ぷるぷるぷる、と首を横に振る。
「そっか。んじゃ、俺一人で行って来るな」
またしてもぷるぷるぷる。
「……はぁ。それじゃ、一緒に部屋でぐだぐだすっか?」
沙夜は嬉しそうにコクコクうなずいた。なんとなく嬉しそうな顔にチョップしてから、部屋に戻る。
「…………(怒)」
チョップされて怒ってるのか、沙夜はちょっとむくれながら部屋に入ってきた。
「そう怒るな。ただの外出を邪魔された腹いせだ」
沙夜は怒ってるぞー、という雰囲気を振りまきながら俺のベッドに座った。
「さて……することないな。することないからどっか行こうとしたわけだし」
何をするかな、と思いながら座布団に座る。その俺に座る沙夜。
「重い」
ぷるぷるぷる。重くないらしい。
「いや、重いっての」
またもぷるぷるぷる。
「ていうか、怒ってたんじゃないのか」
しばしの沈黙(まあ、いつも黙ってるのだけど)の後、沙夜はくるりと体を回転させ俺と相対すると、俺のほっぺをむにーっと引っ張り、にっこり笑った。
「えーと。これで帳消し、ってコトか?」
コクコクうなずく平和そうな顔を鷲づかみする。慌ててる雰囲気が手の奥から伝わってくる。
「帳消しの上書き」
手を離すと、はぅーって顔になってた。やれやれ、困ったちゃんだぜー、とでも言いたげな顔がむかちゅく。
「……まあいいや。そうだ、録り貯めしてたビデオでも見るかな」
沙夜を膝に乗せたまま、リモコンでテレビをつける。そのままビデオを再生しようとリモコンを操作する俺の手を、沙夜が制した。
「ん?」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。テレビを見ると、動物系の番組をやってた。
「いや、これ再放送だし。見たことあるだろ?」
コクコク。
「ならいいじゃん。ビデオ片付けたい」
ぷるぷるぷる。リモコンを制される。ていうか奪われた。
「返して」
ぷるぷるぷる、と首を振りながらも、沙夜はテレビに夢中だ。
「はぁ……このワガママ娘が」
まあ、どうしても見たかったわけではない。沙夜と一緒に俺も見るか。
ぼんにゃりテレビを眺める。芸能人と希少動物とのふれあいがテーマの番組のようだ。沙夜には悪いが、正直あまり興味がないので、ちょい退屈。手慰みに沙夜のほっぺをむにむにする。
「…………」
ちょっと俺を見上げた後、沙夜はむにむにしてる俺の手を自分の手で包んだ。
「沙夜、この番組面白いか?」
コクコク。
「そか。俺は捕食シーンが早く見たい。トドがペンギン喰らうようなやつ」
沙夜は俺の顔をぺちぺち叩いた。
「いやいや、いいじゃん別に。それも自然の一部だし」
ぷるぷるぷる。自然の一部ではないらしい。
「いやいやいや。あるって。何なら今見せてもいいぞ。youtubeとかにあるだろうし」
パソコンを起動するため立ち上がろうとする俺を、必死で押し留める沙夜。
「まあそう遠慮するな」
今までにない激しさで首を横に振る沙夜。何が何でも嫌らしい。
「そんな嫌か?」
コクコクコク!と、ちょっと面白いくらいの速度で首を縦に振りまくる沙夜。首痛めるぞ。
「じゃ、やめる」
安堵したように沙夜は息を吐いた。
「代わりに虫の捕食シーンのアップを撮影したものを」
さっきよりも激しい抵抗にあう。
「嫌か? そんなわけないよな、虫族のヒエラルキーの頂点に立つ沙夜が、常日頃虫を捕食してはニヤリと笑ってる沙夜が嫌がるわけないよな」
そんなのに立った覚えはない、とでも言わんばかりに沙夜は俺をぺしぺし叩いた。
「で、今日は何食べた? バッタ?」
がぶりと俺の肩を噛む沙夜。俺を食うらしい。
「いてててて! 分かった、分かったから噛むな!」
しぶしぶ俺から口を離すと、沙夜は恨めしげに俺を睨んだ。
「んな顔すんな。冗談だよ」
沙夜の頭に手を載せ、なでなでなで。
「…………」
ちょっとだけ不服そうで、ちょっとだけ嬉しそうな沙夜だった。
「それはそうと、テレビ見なくていいのか?」
俺に言われて気づいたのか、沙夜は慌ててテレビの方を向いた。スタッフロール流れてた。
「…………」
じぃぃぃぃっ、と俺を睨む沙夜。
「いや、そんな顔されても。まあ確かにお前で遊んで時間食ったのは確かだけど、もうテレビ点けた時点で半分以上終わってたし、その、ええと、……ごめんなさい」
軽くため息をつき、沙夜は俺の頭をなでなでした。許してくれるらしい。
「正直俺に責任はないと思うが、許してくれるならいいや。じゃ、そろそろビデオを片付けに入りますか」
そう言って沙夜からリモコンを受け取ろうとするも、渡してくれない。
「沙夜?」
沙夜は俺に抱きつくと、胸に顔を押し付けた。
「ええと、ビデオ見たいのだけど」
ぷるぷるぷる。ダメらしい。
「いや、しかし、休みくらいしかビデオ片付ける暇ないし」
ぷるぷるぷる。やっぱりダメらしい。
「……はぁ。ったく、このワガママ娘め」
「…………♪」
沙夜は俺から顔を離すと、にぃーっと笑った。その顔にチョップを落とす。
「チョップ軍隊だから仕方ないんだ」
落としたチョップを両手で掴み、がぶがぶ噛む沙夜。
「痛え」
しばらく噛んで満足したのか、沙夜は俺の指をちゅぱちゅぱ舐め始めた。
「赤子か。泣き赤子か」
俺の話なんてちっとも聞かず、沙夜は俺の指をちゅーちゅー吸った。そうはさせじと沙夜の舌を掴む。
「秘技、舌掴み。ジョブがエンマ様だとこの後、舌引っこ抜きのコンボが可能だ」
しかし俺のジョブはただの学生なので、せいぜい空いた手で沙夜のほっぺをなでなでするくらいだ。
「…………」
舌を解放すると、沙夜は優しく俺の指をかぷかぷ噛んだ。どこかとろんとした目つきで俺を見てる。
「指マニアめ。将来はヤクザの落とした指を集めるに違いない」
かぷかぷがガリガリに移行したので痛い。
「痛い痛い痛いッ! ええいっ、もう終わり!」
沙夜の口から指を引き抜く。あー痛かった。
「…………」
もっとしたかったのに、と不満いっぱいな様子で俺を見る沙夜。
「また今度だ、今度。これ以上やられると指がふやけて肉が削げて骨が出てくる」
沙夜は俺の顔にチョップした。怖いこと言うの禁止らしい。
「それが嫌なら、今日は抱っこに終始してはいかがかな?」
ちょっと小首を傾げ何事か考えた後、沙夜は俺に抱きついてきた。
「んむ。それがいい」
「…………」
ばれないように、沙夜はそーっと俺の指に手を伸ばした。
「だから、今日は終わりだっての! また後日! ……ったく」
残念そうな沙夜をなでる俺だった。
【沙夜 エイプリルフール】
2010年01月29日
今日はエイプリルフールだ。4月1日ったらそうなんだ。
そんなわけで、何か嘘をつきたいらしく、さっきから幼馴染の沙夜が俺の部屋で腕を組んで考えている。
「あのさ、沙夜。別にいいんだが、なんで俺の部屋で考えてるんだ? 自分の部屋の方が落ち着くだろ」
そう言いながら近寄ると、沙夜は怒ったように手を振り回した。邪魔してほしくないらしい。
「分かった、分かったよ。邪魔しねーから存分に考えてくれ」
困ったなぁ、と思いながら漫画でも読んで時間を潰す。
「……ん?」
数冊読み終え、次の漫画を取ろうと腕を伸ばしてたら、沙夜がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「思いついたか。さあ、この嘘王のお眼鏡に適う嘘はつけるかな?」
沙夜は鼻息をばふーと吐くと、意を決したように両手で握りこぶしを作った。やる気充分だな。
しかし、こいつは基本的に喋るのが好きじゃない。いったいどうやって嘘をつくのかと思っていたら、沙夜は顔をぷいっとそむけた。
「……えーと?」
どういう意図なのか分からず困っていると、沙夜も同じように困っていた。そして、もう一度顔をぷいっとそむけた。
「うーん……はっ! まさか、俺に愛想をつかしたってサインか!?」
沙夜は嬉しそうにコクコク頷いた。いや、嬉しそうにするな。一応愛想つかしてるんだろ。
さて、どうしよう。これに乗って俺からも離れるフリをするってのも手だが、頑なに嫌がるのも面白そうだ。
「嫌だ! 俺は沙夜と離れたくない!」
俺内部での協議の結果、後者を採ることに決定。沙夜のちっこい体をぎゅっと抱きしめ、すりすりしてみる。
「っ!? …………」
沙夜は困惑した様子で小さく腕を動かしたが、それ以上強い反抗はしてこなかった。
「……♪」
それどころか、俺の背中に腕を回し、嬉しそうに抱きついてくる始末。
「いや、沙夜さん。なんで普通に抱っこしかえしてんだ」
「?」
「お前は俺に愛想をつかしてるんだろ? じゃあ、嫌がらないと」
沙夜は悲しそうな顔をした。
「そんな顔してもダメだ。お前は俺のことが嫌い、でも俺は沙夜のことが好き、って設定で」
沙夜はほんのり頬を染めた。
「赤くなるな。設定だ、設定。じゃ、開始ー」
沙夜から離れ、ぱんと手を叩く。沙夜はわたわたした後、居住まいを正した。そして、三度顔をぷいっとそらした。
「おまいはそればっかか」
沙夜の眉毛が情けない八の字を描く。
「まあいいや。……こほん。例え愛想をつかされているとしても、俺はお前と一緒にいたいよ」
沙夜は阿呆みたいに口をほけーっと開けたまま俺を見た。ちょっと心が折れそうだけど、頑張る。
「な、沙夜。俺のダメなところ、教えてくれないか? 頑張って直すから、これからも一緒にいさせてくれないか?」
沙夜の手を握り、真摯に訴えかけてみる。冷静になると死にそうなので、全力で自分を騙す。
「……! ……!」
沙夜はあわあわしながら俺の手と顔を交互に見た。
「沙夜……」
なんかもう茹でタコみたいに赤くなってる沙夜に、優しく囁きかける。
「…………」(むちゅー)
「なんでやねん」
そっと目をつむり、唇を突き出す沙夜のでこにチョップ。
「……! ……!」
沙夜はおでこを押さえ、半泣きで怒った。
「怒るな。おまいは俺を嫌ってるって設定だろうが。なんでキス待ち状態になってんだよ」
「…………」
不満げな様子で、沙夜は俺を見た。
「じゃ、も一回な。次はちゃんとしろよ?」
コクコクうなずくのを確認してから、数度咳払い。
「ん、んん……沙夜。どうか俺とずっと一緒にいてくれないか?」
沙夜はニコニコ笑いながら俺に抱きついてきた。ほっぺすりすりのサービスも追加ときたもんだ。
「テメェ、実はもうやる気ねーだろ!」
「♪♪♪」
ひたすら嬉しそうな沙夜だった。
そんなわけで、何か嘘をつきたいらしく、さっきから幼馴染の沙夜が俺の部屋で腕を組んで考えている。
「あのさ、沙夜。別にいいんだが、なんで俺の部屋で考えてるんだ? 自分の部屋の方が落ち着くだろ」
そう言いながら近寄ると、沙夜は怒ったように手を振り回した。邪魔してほしくないらしい。
「分かった、分かったよ。邪魔しねーから存分に考えてくれ」
困ったなぁ、と思いながら漫画でも読んで時間を潰す。
「……ん?」
数冊読み終え、次の漫画を取ろうと腕を伸ばしてたら、沙夜がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「思いついたか。さあ、この嘘王のお眼鏡に適う嘘はつけるかな?」
沙夜は鼻息をばふーと吐くと、意を決したように両手で握りこぶしを作った。やる気充分だな。
しかし、こいつは基本的に喋るのが好きじゃない。いったいどうやって嘘をつくのかと思っていたら、沙夜は顔をぷいっとそむけた。
「……えーと?」
どういう意図なのか分からず困っていると、沙夜も同じように困っていた。そして、もう一度顔をぷいっとそむけた。
「うーん……はっ! まさか、俺に愛想をつかしたってサインか!?」
沙夜は嬉しそうにコクコク頷いた。いや、嬉しそうにするな。一応愛想つかしてるんだろ。
さて、どうしよう。これに乗って俺からも離れるフリをするってのも手だが、頑なに嫌がるのも面白そうだ。
「嫌だ! 俺は沙夜と離れたくない!」
俺内部での協議の結果、後者を採ることに決定。沙夜のちっこい体をぎゅっと抱きしめ、すりすりしてみる。
「っ!? …………」
沙夜は困惑した様子で小さく腕を動かしたが、それ以上強い反抗はしてこなかった。
「……♪」
それどころか、俺の背中に腕を回し、嬉しそうに抱きついてくる始末。
「いや、沙夜さん。なんで普通に抱っこしかえしてんだ」
「?」
「お前は俺に愛想をつかしてるんだろ? じゃあ、嫌がらないと」
沙夜は悲しそうな顔をした。
「そんな顔してもダメだ。お前は俺のことが嫌い、でも俺は沙夜のことが好き、って設定で」
沙夜はほんのり頬を染めた。
「赤くなるな。設定だ、設定。じゃ、開始ー」
沙夜から離れ、ぱんと手を叩く。沙夜はわたわたした後、居住まいを正した。そして、三度顔をぷいっとそらした。
「おまいはそればっかか」
沙夜の眉毛が情けない八の字を描く。
「まあいいや。……こほん。例え愛想をつかされているとしても、俺はお前と一緒にいたいよ」
沙夜は阿呆みたいに口をほけーっと開けたまま俺を見た。ちょっと心が折れそうだけど、頑張る。
「な、沙夜。俺のダメなところ、教えてくれないか? 頑張って直すから、これからも一緒にいさせてくれないか?」
沙夜の手を握り、真摯に訴えかけてみる。冷静になると死にそうなので、全力で自分を騙す。
「……! ……!」
沙夜はあわあわしながら俺の手と顔を交互に見た。
「沙夜……」
なんかもう茹でタコみたいに赤くなってる沙夜に、優しく囁きかける。
「…………」(むちゅー)
「なんでやねん」
そっと目をつむり、唇を突き出す沙夜のでこにチョップ。
「……! ……!」
沙夜はおでこを押さえ、半泣きで怒った。
「怒るな。おまいは俺を嫌ってるって設定だろうが。なんでキス待ち状態になってんだよ」
「…………」
不満げな様子で、沙夜は俺を見た。
「じゃ、も一回な。次はちゃんとしろよ?」
コクコクうなずくのを確認してから、数度咳払い。
「ん、んん……沙夜。どうか俺とずっと一緒にいてくれないか?」
沙夜はニコニコ笑いながら俺に抱きついてきた。ほっぺすりすりのサービスも追加ときたもんだ。
「テメェ、実はもうやる気ねーだろ!」
「♪♪♪」
ひたすら嬉しそうな沙夜だった。
【沙夜 エヴァ風】
2010年01月27日
昨日テレビで映画版のエヴァをしていたので、録画しておいた。そして、それをついさっき幼なじみの沙夜と一緒に鑑賞した。
「はー……や、結構面白かったな」
「…………」(コクコク)
「なので、ごっこ遊びをしましょう」
「……?」
「俺がシンジ君で、沙夜が綾波ぃ」
「……?」
「いや、? じゃなくて。ごっこ遊びだ。レディー?」
「…………」(ぷるぷる)
ぷるぷる首を横に振る沙夜の頭を掴んで無理やりうなずかせ、ごっこ遊び開始。沙夜の目が「やれやれだぜー」と言ってるような気がするが気のせいだ。
「ええと……。自分に、自分には他に何もないって、そんなこと言うなよ。別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ……」
そう言うと、沙夜は困った顔をした。恐らくだが、「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないの」と言いたいに違いない! 既に困った顔をしてるが!
「笑えば、いいと思うよ」
そう言うなり、沙夜はにぱーっと笑って俺にがしっと抱きついて──って、
「違ーうっ!」
沙夜をべりばり引き剥がし、ベッドにぽすんと落とす。沙夜はびっくりした顔で俺を見ていた。
「途中まではとてもいい感じだった。だが、最後の最後で大失敗だ。なんであんなにぱにぱ笑う。そうじゃなくて、微笑む感じでひとつ頼む」
沙夜はぶすーっとした感じでうなずいた。
「あと、抱きつくのもダメ」
激しくショックを受けているようだが、気づかない体で。
「じゃあテイク2。……別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」
沙夜は落ち込んだ様子で鼻を鳴らした。
「沙夜、おまいの番だ。『こういう時どんな顔すればいいのか分からないの』だ」
沙夜は眉を八の字にして、言った感じを出した。
「よし。──笑えば、いいと思うよ」
そう言った瞬間沙夜はにぱーっと笑って俺に抱きついてーって!
「だから違うっての! にぱー笑い禁止! 抱きつきも禁止!」
べりばり剥がして沙夜をベッドに落とす。抗議のつもりか、沙夜はきゅーきゅー鳴いた。
「ふん、そんな声で鳴いても無駄だ。この俺様に媚びへつらいなど──な、何ィ!?」
気がつけば、俺の手は沙夜の頭をしきりになでていた。
「馬鹿な、俺の意思とは無関係に沙夜の頭をなでてしまうだと!? 恐ろしい……なんたる技、なんという甘え上手!」
「♪♪♪」
人が折角格闘漫画っぽい解説をしてるのに、当の沙夜は満足そうに目を細めるばかり。
「あー……まあいいか。どうですか、沙夜様」
「……♪」
ほにゃーっと蕩けそうな顔で俺のなでなでを受ける沙夜。嬉しそうで何よりだ。
「だがしかしこんな程度で終わっては武家の恥!」
ということで、なでていた手を沙夜のほっぺにもっていき、うにーっと引っ張る。あと、よく考えると武家とか関係ない。
「はっはっは。これでどうだ、沙夜!」
しかし、それでも沙夜は嬉しそうだった。自分のほっぺがうにーと伸びていくというのに、沙夜は笑顔を崩さない。
「ぬぐ……く、くそっ! これ以上は俺にはできない! ……お前の勝ちだ、沙夜」
どこから勝負になっていたのか、判定はなんだったかすら分からないまま勝敗が決まった。
がっくりと膝を付く俺の肩に、手が乗せられた。顔を上げると、沙夜の「笑えば、いいと思うよ」な感じの顔。
「…………」
「!!!?」
最大限の笑顔を見せたら、ものすごく怯えられた。
「逃げるな、沙夜」
わたつく沙夜の手を取り、ニヤリと笑う。
「っ! っ!? っ!!」
「ククク……俺様に捕まったが最後、一緒にエヴァの映画を見に行く羽目になるのだ! 諦めろ、沙夜!」
「…………」
「え? えー……あー、まあ、うん。俺のおごりで」
「……♪」
「いやその後色々遊びまわる代金全部俺が出すとか聞いてませんから! ちょっと沙夜、沙夜の人!? 聞いてます!?」
俺の話なんてちっとも聞かずに、嬉しそうに部屋でくるくる回る沙夜だった。
「はー……や、結構面白かったな」
「…………」(コクコク)
「なので、ごっこ遊びをしましょう」
「……?」
「俺がシンジ君で、沙夜が綾波ぃ」
「……?」
「いや、? じゃなくて。ごっこ遊びだ。レディー?」
「…………」(ぷるぷる)
ぷるぷる首を横に振る沙夜の頭を掴んで無理やりうなずかせ、ごっこ遊び開始。沙夜の目が「やれやれだぜー」と言ってるような気がするが気のせいだ。
「ええと……。自分に、自分には他に何もないって、そんなこと言うなよ。別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ……」
そう言うと、沙夜は困った顔をした。恐らくだが、「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないの」と言いたいに違いない! 既に困った顔をしてるが!
「笑えば、いいと思うよ」
そう言うなり、沙夜はにぱーっと笑って俺にがしっと抱きついて──って、
「違ーうっ!」
沙夜をべりばり引き剥がし、ベッドにぽすんと落とす。沙夜はびっくりした顔で俺を見ていた。
「途中まではとてもいい感じだった。だが、最後の最後で大失敗だ。なんであんなにぱにぱ笑う。そうじゃなくて、微笑む感じでひとつ頼む」
沙夜はぶすーっとした感じでうなずいた。
「あと、抱きつくのもダメ」
激しくショックを受けているようだが、気づかない体で。
「じゃあテイク2。……別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」
沙夜は落ち込んだ様子で鼻を鳴らした。
「沙夜、おまいの番だ。『こういう時どんな顔すればいいのか分からないの』だ」
沙夜は眉を八の字にして、言った感じを出した。
「よし。──笑えば、いいと思うよ」
そう言った瞬間沙夜はにぱーっと笑って俺に抱きついてーって!
「だから違うっての! にぱー笑い禁止! 抱きつきも禁止!」
べりばり剥がして沙夜をベッドに落とす。抗議のつもりか、沙夜はきゅーきゅー鳴いた。
「ふん、そんな声で鳴いても無駄だ。この俺様に媚びへつらいなど──な、何ィ!?」
気がつけば、俺の手は沙夜の頭をしきりになでていた。
「馬鹿な、俺の意思とは無関係に沙夜の頭をなでてしまうだと!? 恐ろしい……なんたる技、なんという甘え上手!」
「♪♪♪」
人が折角格闘漫画っぽい解説をしてるのに、当の沙夜は満足そうに目を細めるばかり。
「あー……まあいいか。どうですか、沙夜様」
「……♪」
ほにゃーっと蕩けそうな顔で俺のなでなでを受ける沙夜。嬉しそうで何よりだ。
「だがしかしこんな程度で終わっては武家の恥!」
ということで、なでていた手を沙夜のほっぺにもっていき、うにーっと引っ張る。あと、よく考えると武家とか関係ない。
「はっはっは。これでどうだ、沙夜!」
しかし、それでも沙夜は嬉しそうだった。自分のほっぺがうにーと伸びていくというのに、沙夜は笑顔を崩さない。
「ぬぐ……く、くそっ! これ以上は俺にはできない! ……お前の勝ちだ、沙夜」
どこから勝負になっていたのか、判定はなんだったかすら分からないまま勝敗が決まった。
がっくりと膝を付く俺の肩に、手が乗せられた。顔を上げると、沙夜の「笑えば、いいと思うよ」な感じの顔。
「…………」
「!!!?」
最大限の笑顔を見せたら、ものすごく怯えられた。
「逃げるな、沙夜」
わたつく沙夜の手を取り、ニヤリと笑う。
「っ! っ!? っ!!」
「ククク……俺様に捕まったが最後、一緒にエヴァの映画を見に行く羽目になるのだ! 諦めろ、沙夜!」
「…………」
「え? えー……あー、まあ、うん。俺のおごりで」
「……♪」
「いやその後色々遊びまわる代金全部俺が出すとか聞いてませんから! ちょっと沙夜、沙夜の人!? 聞いてます!?」
俺の話なんてちっとも聞かずに、嬉しそうに部屋でくるくる回る沙夜だった。
【沙夜 料理】
2010年01月25日
今日は親が両方とも用事があるとかで家を留守にする。すわ餓死か、とも思ったが、俺には頼りになる幼なじみがいることを思い出した。
「ということで、沙夜。今日はお前の腕の奮い所だ。がんばって俺に飯を作ってくれ!」
そう言いながら沙夜にエプロンを渡すと、小首を傾げられた。
「いや、傾げるのではなくて。ご飯を作るのです」
しかし、それでもなお沙夜は首を傾げるばかり。あまり曲げると折れるぞと思ったその時、脳裏に嫌な情報がよぎった。
「そういや……お前、全然料理できなかったな」
沙夜は腰に手を当て、えっへんと大いばりした。
「いばるな。恥じろ。……しかし、困ったな。これでは餓死してしまう」
その言葉を聴いた途端、さっきまで得意満面だった沙夜の顔が蒼白になった。
「い、いや、そこまで深刻なことではないから心配するな。別に一日飯を抜いても死にはしない」
しかし、いつも通り俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜は俺にしがみついてきゅーきゅー鳴くばかり。
「あー……うん。じゃあこうしよう、一緒に飯を作ろう」
「……?」
「つまり、俺も料理ができない。お前も料理ができない。そんな二人が飯を作ったら、どんな化学反応が起こるのだろうという、アリケンのパクリのようなものだ」
沙夜は嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶん振った。恐らくだが、内容はともかくとして俺と一緒なのが嬉しいに違いない。
「……自意識過剰王と呼んでくれ」
「?」
「なんでもない。じゃあそういうことで、料理開始!」
もうひとつエプロンあったかな、と思いながら棚の中などを探してると、つんつんと背中をつつかれた。
「うん? どした?」
振り向くと、エプロンを装着した沙夜が、その場でくるりと回転した。そして、「どうだ?」という視線を投げかけている。
「いや、そりゃもう……100点ですよ」
がしがし沙夜の頭をなでると、沙夜は嬉しそうにきゅーきゅー鳴いた。いや、そんなのはいいんです。エプロン探さないと。
沙夜に背中を向けて再び捜索を開始すると、今度は背中に抱きついてきた。
「沙夜。動き難い」
今回も俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜はご機嫌な様子で俺の背中に抱きつくばかり。仕方ないので、沙夜を引きずったままエプロンを探す。
「ないなぁ……」
背後でコクコクうなずく気配がする。
「この家にはエプロンが一個しかないのだろうか。いや、しかしそれでは洗濯した際に代えがないので困る。一つくらいはあるはずだ」
再び背後でコクコク気配を感じさせる妙な生き物をぶらさげたまま探すこと数分、
「ない」
背後から残念そうに首を振る気配がこちらに送られてきた。
「ちうわけで、沙夜。俺が指示するから、お前が作れ」
肩越しに振り向いてそう伝えると、沙夜の眉根がきゅっと寄った。困っているようだ。
「だって、ないし。それに、飯は嫁として必須スキルだぞ」
嫁と聞いて、沙夜の目の色が変わった。沙夜は俺から離れると、全身にやる気をみなぎらせる!
「おお、気合満々だな!」
沙夜はコクコクコクと鼻息荒く何度もうなずいた。
しかし、それ以上何もしようとしない。どうしたのかと思ったら、ちらちらとこちらを見ている。……まさかとは思うが。
「ええと、嫁として合格か判定を求めて……ないよな?」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……はぁ。ええと、とてもやる気に満ち溢れているし、こんな子が嫁なら俺はもう」
なんだかとても嬉しいらしく、沙夜はきゅんきゅん鳴きながら俺に抱きつくと、顔をすりすりこすりつけまくった。
バッチリいい印象を与えたようだ。などとときメモっている場合ではない。
「それより沙夜さん、俺はそろそろ腹が減りました。何か作ってください」
そう言うと、沙夜は口をむちゅーと尖らせて目をつむった。つきだされた口唇を指でがっと掴む。
「飯です。ちゅーしてくれとは言ってません」
沙夜は俺の手を振り解くと、舌をむべーっと出した。反抗期? ……いや、そうじゃなくて、この舌をぺろぺろして腹を膨らませろ、というところか。
「その案も悪くないけど、ご飯で腹を膨らませたいです」
沙夜が落ち込んだ。
「いや、だから……ええと、それはデザートの方向でひとつ」
沙夜が簡単にやる気を取り戻した。ため息ひとつ吐いてから、冷蔵庫を開ける。
「さて、何があるかな……?」
冷蔵庫を覗きこむ俺の脇から沙夜も顔を出し、一緒に考えている。……いや、考えるフリをしてる。
「あ、卵。よし、お互い初心者だし、玉子焼きでいくか!」
沙夜はあからさまに嫌な顔をした。そんな簡単なものでは嫌なようだ。
「そうは言う(?)が、沙夜よ。料理初心者の俺たちには丁度いいレベルだと思うぞ?」
沙夜は眉根をきゅっと寄せしばし何か考えた後、こっくりうなずいた。どうにか納得してくれたようだ。
「じゃあ、料理開始ー!」
俺が大きく手を上げると、沙夜も大きく手を上げた。ついでなので沙夜を抱き上げ、その場でくるくる回る。
「軽いなあ、沙夜! まるで羽みたいだよ!」
「♪♪♪」
「しかし、回る過ぎてうぇぇぇぇぇぇっぷ」
「×××」
沙夜をその場に下ろし、倒れ付す。見れば、沙夜も目を回してた。
「うぅむ……無駄にテンションが上がってしまったがため、起こった事件であろう。あと、羽みたいって言ったのは嘘です。それ相応の重みがありました」
頭をかじられてから、料理再開。
「まず、卵を割ります。違う、壁に投げつけて割るのではなくて!」
卵を持って大きく振りかぶった沙夜を慌てて止める。びっくりした。
「この……ええと、ボールに中身を入れます。だからボールと言っても野球のボールじゃなくて!」
ボールと聞いた途端またしても振りかぶる沙夜を止める。怖いよこの子。
「じゃあ、ボール……調理器具の! ボールの上で卵を割り、中身を入れてくれ」
また振りかぶられては敵わないので、沙夜を後ろから抱っこした状態で指示を出す。この状態が気に入ったのか、沙夜はご機嫌な様子で卵を割った。
「あ」
しかし、やはりそこは料理初心者。上手に卵の殻を割れず、殻の欠片がボールに入ってしまった。
「あーあ。卵の殻入り玉子焼きを食べた俺は、ノドに卵の殻が刺さり、それが原因で死んで嘘です!!!」
半狂乱でボールを投げ捨てようとする沙夜を必死で止める。冗談も言えやしねえ。
「少しくらいなら大丈夫さ。だから、料理を続けましょう」
半泣きでいぶかしむ沙夜の頭をなでてから、料理を続ける。
「ええと、次に卵を混ぜます。まぜまぜ」
箸を沙夜に渡し、混ぜさせる。しばらく混ぜた後、沙夜がこれでいいかと目で合図してきた。
「ん、そんなところだろ。で、味付けして……とりゃーず卵はこれで完成!」
近くにあっためんつゆを適量入れさせ、万歳。遅れて沙夜も万歳。
「次に玉子焼き器の出番です。まず、コンロで暖めます」
言われたとおり玉子焼き器を暖め、沙夜は俺を見た。
「うむ、満点」
沙夜の頭をなでる。沙夜は嬉しそうに目を細めた。
「次。充分に温まったら油を流しいれてなじませ、それから先ほどの卵を半分くらい入れる」
ジュンジュワーな感じで卵を流し入れる沙夜。
「ここからが難しいぞ。少し焼けたら、手前から折りたたむように巻いて」
回転させようとするが、上手にいかず、卵が破れてしまう。沙夜は泣きそうな顔で俺を見た。
「少しくらいなら失敗しても平気さ。負けずに頑張る沙夜は偉いぞ」
ぐしぐし沙夜の頭をなでて慰める。なでなででやる気を取り戻した沙夜は、両手に握りこぶしを作って玉子焼きと相対した。
「じゃあもう一度。手前から折りたたむように……そう!」
今度は上手くいった。多少いびつではあるが、見た目はしっかり玉子焼きに見える。
「じゃ、開いてる箇所に残ってる卵を入れて、さっきの要領で焼く」
さっきのでコツを掴んだのか、沙夜は自信あふれる様子で卵を焼いた。
「おおっ、さっすが沙夜先生。やるねぇ」
「♪」
ご機嫌な様子でくるくる巻いて、完成。皿に移して試食だ。
「じゃ、まずは沙夜。お前から」
しかし、沙夜はぷるぷる首を横に振った。ハテナ、と思ってたらずずいっと俺に皿を向けた。
「あ、俺から試食?」
コクコクされたので、食べてみる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ」
「…………」(どきどきどき)
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごくん」
「…………」(ばっくんばっくんばっくん)
「うん。うまい」
「!!!!!」
「痛いっ!? いきなり抱きつくな、ばか!」
嬉しさのあまりか、沙夜は突然俺に突撃する勢いで抱きついてきた。沙夜の頭が俺の腹にめり込んで結構痛い。
「♪♪♪」
「はいはい。んじゃ、お前も食べてみろ。ほれ、あーん」
あー、と鳥の雛のように口を開ける沙夜の口に玉子焼きを一切れ入れる。もきゅもきゅ咀嚼すると、沙夜の顔がほころんだ。
「な? 美味いだろ?」
沙夜はコクコクうなずいて、もきゅもきゅし続けた。リスみてえ。
「これで餓死は免れた。偉いぞ、沙夜!」
で、夕食の時間。
「…………」
テーブルに広がる、玉子焼き、玉子焼き、玉子焼き。ていうか、玉子焼きしかねえ。黄色が目に痛い。
「あー……」
沙夜をちらりと見る。期待に満ち満ちた目でこちらを見ていた。
「……もー少し、色々教えておいたほうが良かったかにゃー」
俺の声なんて聞いちゃいないのか、沙夜はにこにこしながら椅子を引いてくれた。
「……まぁ、味はいいし、折角作ってくれたのだし、いいか」
覚悟を決めて、この黄色の群れを駆逐しにかかる俺だった。
「ということで、沙夜。今日はお前の腕の奮い所だ。がんばって俺に飯を作ってくれ!」
そう言いながら沙夜にエプロンを渡すと、小首を傾げられた。
「いや、傾げるのではなくて。ご飯を作るのです」
しかし、それでもなお沙夜は首を傾げるばかり。あまり曲げると折れるぞと思ったその時、脳裏に嫌な情報がよぎった。
「そういや……お前、全然料理できなかったな」
沙夜は腰に手を当て、えっへんと大いばりした。
「いばるな。恥じろ。……しかし、困ったな。これでは餓死してしまう」
その言葉を聴いた途端、さっきまで得意満面だった沙夜の顔が蒼白になった。
「い、いや、そこまで深刻なことではないから心配するな。別に一日飯を抜いても死にはしない」
しかし、いつも通り俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜は俺にしがみついてきゅーきゅー鳴くばかり。
「あー……うん。じゃあこうしよう、一緒に飯を作ろう」
「……?」
「つまり、俺も料理ができない。お前も料理ができない。そんな二人が飯を作ったら、どんな化学反応が起こるのだろうという、アリケンのパクリのようなものだ」
沙夜は嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶん振った。恐らくだが、内容はともかくとして俺と一緒なのが嬉しいに違いない。
「……自意識過剰王と呼んでくれ」
「?」
「なんでもない。じゃあそういうことで、料理開始!」
もうひとつエプロンあったかな、と思いながら棚の中などを探してると、つんつんと背中をつつかれた。
「うん? どした?」
振り向くと、エプロンを装着した沙夜が、その場でくるりと回転した。そして、「どうだ?」という視線を投げかけている。
「いや、そりゃもう……100点ですよ」
がしがし沙夜の頭をなでると、沙夜は嬉しそうにきゅーきゅー鳴いた。いや、そんなのはいいんです。エプロン探さないと。
沙夜に背中を向けて再び捜索を開始すると、今度は背中に抱きついてきた。
「沙夜。動き難い」
今回も俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜はご機嫌な様子で俺の背中に抱きつくばかり。仕方ないので、沙夜を引きずったままエプロンを探す。
「ないなぁ……」
背後でコクコクうなずく気配がする。
「この家にはエプロンが一個しかないのだろうか。いや、しかしそれでは洗濯した際に代えがないので困る。一つくらいはあるはずだ」
再び背後でコクコク気配を感じさせる妙な生き物をぶらさげたまま探すこと数分、
「ない」
背後から残念そうに首を振る気配がこちらに送られてきた。
「ちうわけで、沙夜。俺が指示するから、お前が作れ」
肩越しに振り向いてそう伝えると、沙夜の眉根がきゅっと寄った。困っているようだ。
「だって、ないし。それに、飯は嫁として必須スキルだぞ」
嫁と聞いて、沙夜の目の色が変わった。沙夜は俺から離れると、全身にやる気をみなぎらせる!
「おお、気合満々だな!」
沙夜はコクコクコクと鼻息荒く何度もうなずいた。
しかし、それ以上何もしようとしない。どうしたのかと思ったら、ちらちらとこちらを見ている。……まさかとは思うが。
「ええと、嫁として合格か判定を求めて……ないよな?」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……はぁ。ええと、とてもやる気に満ち溢れているし、こんな子が嫁なら俺はもう」
なんだかとても嬉しいらしく、沙夜はきゅんきゅん鳴きながら俺に抱きつくと、顔をすりすりこすりつけまくった。
バッチリいい印象を与えたようだ。などとときメモっている場合ではない。
「それより沙夜さん、俺はそろそろ腹が減りました。何か作ってください」
そう言うと、沙夜は口をむちゅーと尖らせて目をつむった。つきだされた口唇を指でがっと掴む。
「飯です。ちゅーしてくれとは言ってません」
沙夜は俺の手を振り解くと、舌をむべーっと出した。反抗期? ……いや、そうじゃなくて、この舌をぺろぺろして腹を膨らませろ、というところか。
「その案も悪くないけど、ご飯で腹を膨らませたいです」
沙夜が落ち込んだ。
「いや、だから……ええと、それはデザートの方向でひとつ」
沙夜が簡単にやる気を取り戻した。ため息ひとつ吐いてから、冷蔵庫を開ける。
「さて、何があるかな……?」
冷蔵庫を覗きこむ俺の脇から沙夜も顔を出し、一緒に考えている。……いや、考えるフリをしてる。
「あ、卵。よし、お互い初心者だし、玉子焼きでいくか!」
沙夜はあからさまに嫌な顔をした。そんな簡単なものでは嫌なようだ。
「そうは言う(?)が、沙夜よ。料理初心者の俺たちには丁度いいレベルだと思うぞ?」
沙夜は眉根をきゅっと寄せしばし何か考えた後、こっくりうなずいた。どうにか納得してくれたようだ。
「じゃあ、料理開始ー!」
俺が大きく手を上げると、沙夜も大きく手を上げた。ついでなので沙夜を抱き上げ、その場でくるくる回る。
「軽いなあ、沙夜! まるで羽みたいだよ!」
「♪♪♪」
「しかし、回る過ぎてうぇぇぇぇぇぇっぷ」
「×××」
沙夜をその場に下ろし、倒れ付す。見れば、沙夜も目を回してた。
「うぅむ……無駄にテンションが上がってしまったがため、起こった事件であろう。あと、羽みたいって言ったのは嘘です。それ相応の重みがありました」
頭をかじられてから、料理再開。
「まず、卵を割ります。違う、壁に投げつけて割るのではなくて!」
卵を持って大きく振りかぶった沙夜を慌てて止める。びっくりした。
「この……ええと、ボールに中身を入れます。だからボールと言っても野球のボールじゃなくて!」
ボールと聞いた途端またしても振りかぶる沙夜を止める。怖いよこの子。
「じゃあ、ボール……調理器具の! ボールの上で卵を割り、中身を入れてくれ」
また振りかぶられては敵わないので、沙夜を後ろから抱っこした状態で指示を出す。この状態が気に入ったのか、沙夜はご機嫌な様子で卵を割った。
「あ」
しかし、やはりそこは料理初心者。上手に卵の殻を割れず、殻の欠片がボールに入ってしまった。
「あーあ。卵の殻入り玉子焼きを食べた俺は、ノドに卵の殻が刺さり、それが原因で死んで嘘です!!!」
半狂乱でボールを投げ捨てようとする沙夜を必死で止める。冗談も言えやしねえ。
「少しくらいなら大丈夫さ。だから、料理を続けましょう」
半泣きでいぶかしむ沙夜の頭をなでてから、料理を続ける。
「ええと、次に卵を混ぜます。まぜまぜ」
箸を沙夜に渡し、混ぜさせる。しばらく混ぜた後、沙夜がこれでいいかと目で合図してきた。
「ん、そんなところだろ。で、味付けして……とりゃーず卵はこれで完成!」
近くにあっためんつゆを適量入れさせ、万歳。遅れて沙夜も万歳。
「次に玉子焼き器の出番です。まず、コンロで暖めます」
言われたとおり玉子焼き器を暖め、沙夜は俺を見た。
「うむ、満点」
沙夜の頭をなでる。沙夜は嬉しそうに目を細めた。
「次。充分に温まったら油を流しいれてなじませ、それから先ほどの卵を半分くらい入れる」
ジュンジュワーな感じで卵を流し入れる沙夜。
「ここからが難しいぞ。少し焼けたら、手前から折りたたむように巻いて」
回転させようとするが、上手にいかず、卵が破れてしまう。沙夜は泣きそうな顔で俺を見た。
「少しくらいなら失敗しても平気さ。負けずに頑張る沙夜は偉いぞ」
ぐしぐし沙夜の頭をなでて慰める。なでなででやる気を取り戻した沙夜は、両手に握りこぶしを作って玉子焼きと相対した。
「じゃあもう一度。手前から折りたたむように……そう!」
今度は上手くいった。多少いびつではあるが、見た目はしっかり玉子焼きに見える。
「じゃ、開いてる箇所に残ってる卵を入れて、さっきの要領で焼く」
さっきのでコツを掴んだのか、沙夜は自信あふれる様子で卵を焼いた。
「おおっ、さっすが沙夜先生。やるねぇ」
「♪」
ご機嫌な様子でくるくる巻いて、完成。皿に移して試食だ。
「じゃ、まずは沙夜。お前から」
しかし、沙夜はぷるぷる首を横に振った。ハテナ、と思ってたらずずいっと俺に皿を向けた。
「あ、俺から試食?」
コクコクされたので、食べてみる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ」
「…………」(どきどきどき)
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごくん」
「…………」(ばっくんばっくんばっくん)
「うん。うまい」
「!!!!!」
「痛いっ!? いきなり抱きつくな、ばか!」
嬉しさのあまりか、沙夜は突然俺に突撃する勢いで抱きついてきた。沙夜の頭が俺の腹にめり込んで結構痛い。
「♪♪♪」
「はいはい。んじゃ、お前も食べてみろ。ほれ、あーん」
あー、と鳥の雛のように口を開ける沙夜の口に玉子焼きを一切れ入れる。もきゅもきゅ咀嚼すると、沙夜の顔がほころんだ。
「な? 美味いだろ?」
沙夜はコクコクうなずいて、もきゅもきゅし続けた。リスみてえ。
「これで餓死は免れた。偉いぞ、沙夜!」
で、夕食の時間。
「…………」
テーブルに広がる、玉子焼き、玉子焼き、玉子焼き。ていうか、玉子焼きしかねえ。黄色が目に痛い。
「あー……」
沙夜をちらりと見る。期待に満ち満ちた目でこちらを見ていた。
「……もー少し、色々教えておいたほうが良かったかにゃー」
俺の声なんて聞いちゃいないのか、沙夜はにこにこしながら椅子を引いてくれた。
「……まぁ、味はいいし、折角作ってくれたのだし、いいか」
覚悟を決めて、この黄色の群れを駆逐しにかかる俺だった。