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2024年11月21日
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【沙夜 料理】
2010年01月25日
今日は親が両方とも用事があるとかで家を留守にする。すわ餓死か、とも思ったが、俺には頼りになる幼なじみがいることを思い出した。
「ということで、沙夜。今日はお前の腕の奮い所だ。がんばって俺に飯を作ってくれ!」
そう言いながら沙夜にエプロンを渡すと、小首を傾げられた。
「いや、傾げるのではなくて。ご飯を作るのです」
しかし、それでもなお沙夜は首を傾げるばかり。あまり曲げると折れるぞと思ったその時、脳裏に嫌な情報がよぎった。
「そういや……お前、全然料理できなかったな」
沙夜は腰に手を当て、えっへんと大いばりした。
「いばるな。恥じろ。……しかし、困ったな。これでは餓死してしまう」
その言葉を聴いた途端、さっきまで得意満面だった沙夜の顔が蒼白になった。
「い、いや、そこまで深刻なことではないから心配するな。別に一日飯を抜いても死にはしない」
しかし、いつも通り俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜は俺にしがみついてきゅーきゅー鳴くばかり。
「あー……うん。じゃあこうしよう、一緒に飯を作ろう」
「……?」
「つまり、俺も料理ができない。お前も料理ができない。そんな二人が飯を作ったら、どんな化学反応が起こるのだろうという、アリケンのパクリのようなものだ」
沙夜は嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶん振った。恐らくだが、内容はともかくとして俺と一緒なのが嬉しいに違いない。
「……自意識過剰王と呼んでくれ」
「?」
「なんでもない。じゃあそういうことで、料理開始!」
もうひとつエプロンあったかな、と思いながら棚の中などを探してると、つんつんと背中をつつかれた。
「うん? どした?」
振り向くと、エプロンを装着した沙夜が、その場でくるりと回転した。そして、「どうだ?」という視線を投げかけている。
「いや、そりゃもう……100点ですよ」
がしがし沙夜の頭をなでると、沙夜は嬉しそうにきゅーきゅー鳴いた。いや、そんなのはいいんです。エプロン探さないと。
沙夜に背中を向けて再び捜索を開始すると、今度は背中に抱きついてきた。
「沙夜。動き難い」
今回も俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜はご機嫌な様子で俺の背中に抱きつくばかり。仕方ないので、沙夜を引きずったままエプロンを探す。
「ないなぁ……」
背後でコクコクうなずく気配がする。
「この家にはエプロンが一個しかないのだろうか。いや、しかしそれでは洗濯した際に代えがないので困る。一つくらいはあるはずだ」
再び背後でコクコク気配を感じさせる妙な生き物をぶらさげたまま探すこと数分、
「ない」
背後から残念そうに首を振る気配がこちらに送られてきた。
「ちうわけで、沙夜。俺が指示するから、お前が作れ」
肩越しに振り向いてそう伝えると、沙夜の眉根がきゅっと寄った。困っているようだ。
「だって、ないし。それに、飯は嫁として必須スキルだぞ」
嫁と聞いて、沙夜の目の色が変わった。沙夜は俺から離れると、全身にやる気をみなぎらせる!
「おお、気合満々だな!」
沙夜はコクコクコクと鼻息荒く何度もうなずいた。
しかし、それ以上何もしようとしない。どうしたのかと思ったら、ちらちらとこちらを見ている。……まさかとは思うが。
「ええと、嫁として合格か判定を求めて……ないよな?」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……はぁ。ええと、とてもやる気に満ち溢れているし、こんな子が嫁なら俺はもう」
なんだかとても嬉しいらしく、沙夜はきゅんきゅん鳴きながら俺に抱きつくと、顔をすりすりこすりつけまくった。
バッチリいい印象を与えたようだ。などとときメモっている場合ではない。
「それより沙夜さん、俺はそろそろ腹が減りました。何か作ってください」
そう言うと、沙夜は口をむちゅーと尖らせて目をつむった。つきだされた口唇を指でがっと掴む。
「飯です。ちゅーしてくれとは言ってません」
沙夜は俺の手を振り解くと、舌をむべーっと出した。反抗期? ……いや、そうじゃなくて、この舌をぺろぺろして腹を膨らませろ、というところか。
「その案も悪くないけど、ご飯で腹を膨らませたいです」
沙夜が落ち込んだ。
「いや、だから……ええと、それはデザートの方向でひとつ」
沙夜が簡単にやる気を取り戻した。ため息ひとつ吐いてから、冷蔵庫を開ける。
「さて、何があるかな……?」
冷蔵庫を覗きこむ俺の脇から沙夜も顔を出し、一緒に考えている。……いや、考えるフリをしてる。
「あ、卵。よし、お互い初心者だし、玉子焼きでいくか!」
沙夜はあからさまに嫌な顔をした。そんな簡単なものでは嫌なようだ。
「そうは言う(?)が、沙夜よ。料理初心者の俺たちには丁度いいレベルだと思うぞ?」
沙夜は眉根をきゅっと寄せしばし何か考えた後、こっくりうなずいた。どうにか納得してくれたようだ。
「じゃあ、料理開始ー!」
俺が大きく手を上げると、沙夜も大きく手を上げた。ついでなので沙夜を抱き上げ、その場でくるくる回る。
「軽いなあ、沙夜! まるで羽みたいだよ!」
「♪♪♪」
「しかし、回る過ぎてうぇぇぇぇぇぇっぷ」
「×××」
沙夜をその場に下ろし、倒れ付す。見れば、沙夜も目を回してた。
「うぅむ……無駄にテンションが上がってしまったがため、起こった事件であろう。あと、羽みたいって言ったのは嘘です。それ相応の重みがありました」
頭をかじられてから、料理再開。
「まず、卵を割ります。違う、壁に投げつけて割るのではなくて!」
卵を持って大きく振りかぶった沙夜を慌てて止める。びっくりした。
「この……ええと、ボールに中身を入れます。だからボールと言っても野球のボールじゃなくて!」
ボールと聞いた途端またしても振りかぶる沙夜を止める。怖いよこの子。
「じゃあ、ボール……調理器具の! ボールの上で卵を割り、中身を入れてくれ」
また振りかぶられては敵わないので、沙夜を後ろから抱っこした状態で指示を出す。この状態が気に入ったのか、沙夜はご機嫌な様子で卵を割った。
「あ」
しかし、やはりそこは料理初心者。上手に卵の殻を割れず、殻の欠片がボールに入ってしまった。
「あーあ。卵の殻入り玉子焼きを食べた俺は、ノドに卵の殻が刺さり、それが原因で死んで嘘です!!!」
半狂乱でボールを投げ捨てようとする沙夜を必死で止める。冗談も言えやしねえ。
「少しくらいなら大丈夫さ。だから、料理を続けましょう」
半泣きでいぶかしむ沙夜の頭をなでてから、料理を続ける。
「ええと、次に卵を混ぜます。まぜまぜ」
箸を沙夜に渡し、混ぜさせる。しばらく混ぜた後、沙夜がこれでいいかと目で合図してきた。
「ん、そんなところだろ。で、味付けして……とりゃーず卵はこれで完成!」
近くにあっためんつゆを適量入れさせ、万歳。遅れて沙夜も万歳。
「次に玉子焼き器の出番です。まず、コンロで暖めます」
言われたとおり玉子焼き器を暖め、沙夜は俺を見た。
「うむ、満点」
沙夜の頭をなでる。沙夜は嬉しそうに目を細めた。
「次。充分に温まったら油を流しいれてなじませ、それから先ほどの卵を半分くらい入れる」
ジュンジュワーな感じで卵を流し入れる沙夜。
「ここからが難しいぞ。少し焼けたら、手前から折りたたむように巻いて」
回転させようとするが、上手にいかず、卵が破れてしまう。沙夜は泣きそうな顔で俺を見た。
「少しくらいなら失敗しても平気さ。負けずに頑張る沙夜は偉いぞ」
ぐしぐし沙夜の頭をなでて慰める。なでなででやる気を取り戻した沙夜は、両手に握りこぶしを作って玉子焼きと相対した。
「じゃあもう一度。手前から折りたたむように……そう!」
今度は上手くいった。多少いびつではあるが、見た目はしっかり玉子焼きに見える。
「じゃ、開いてる箇所に残ってる卵を入れて、さっきの要領で焼く」
さっきのでコツを掴んだのか、沙夜は自信あふれる様子で卵を焼いた。
「おおっ、さっすが沙夜先生。やるねぇ」
「♪」
ご機嫌な様子でくるくる巻いて、完成。皿に移して試食だ。
「じゃ、まずは沙夜。お前から」
しかし、沙夜はぷるぷる首を横に振った。ハテナ、と思ってたらずずいっと俺に皿を向けた。
「あ、俺から試食?」
コクコクされたので、食べてみる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ」
「…………」(どきどきどき)
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごくん」
「…………」(ばっくんばっくんばっくん)
「うん。うまい」
「!!!!!」
「痛いっ!? いきなり抱きつくな、ばか!」
嬉しさのあまりか、沙夜は突然俺に突撃する勢いで抱きついてきた。沙夜の頭が俺の腹にめり込んで結構痛い。
「♪♪♪」
「はいはい。んじゃ、お前も食べてみろ。ほれ、あーん」
あー、と鳥の雛のように口を開ける沙夜の口に玉子焼きを一切れ入れる。もきゅもきゅ咀嚼すると、沙夜の顔がほころんだ。
「な? 美味いだろ?」
沙夜はコクコクうなずいて、もきゅもきゅし続けた。リスみてえ。
「これで餓死は免れた。偉いぞ、沙夜!」
で、夕食の時間。
「…………」
テーブルに広がる、玉子焼き、玉子焼き、玉子焼き。ていうか、玉子焼きしかねえ。黄色が目に痛い。
「あー……」
沙夜をちらりと見る。期待に満ち満ちた目でこちらを見ていた。
「……もー少し、色々教えておいたほうが良かったかにゃー」
俺の声なんて聞いちゃいないのか、沙夜はにこにこしながら椅子を引いてくれた。
「……まぁ、味はいいし、折角作ってくれたのだし、いいか」
覚悟を決めて、この黄色の群れを駆逐しにかかる俺だった。
「ということで、沙夜。今日はお前の腕の奮い所だ。がんばって俺に飯を作ってくれ!」
そう言いながら沙夜にエプロンを渡すと、小首を傾げられた。
「いや、傾げるのではなくて。ご飯を作るのです」
しかし、それでもなお沙夜は首を傾げるばかり。あまり曲げると折れるぞと思ったその時、脳裏に嫌な情報がよぎった。
「そういや……お前、全然料理できなかったな」
沙夜は腰に手を当て、えっへんと大いばりした。
「いばるな。恥じろ。……しかし、困ったな。これでは餓死してしまう」
その言葉を聴いた途端、さっきまで得意満面だった沙夜の顔が蒼白になった。
「い、いや、そこまで深刻なことではないから心配するな。別に一日飯を抜いても死にはしない」
しかし、いつも通り俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜は俺にしがみついてきゅーきゅー鳴くばかり。
「あー……うん。じゃあこうしよう、一緒に飯を作ろう」
「……?」
「つまり、俺も料理ができない。お前も料理ができない。そんな二人が飯を作ったら、どんな化学反応が起こるのだろうという、アリケンのパクリのようなものだ」
沙夜は嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶん振った。恐らくだが、内容はともかくとして俺と一緒なのが嬉しいに違いない。
「……自意識過剰王と呼んでくれ」
「?」
「なんでもない。じゃあそういうことで、料理開始!」
もうひとつエプロンあったかな、と思いながら棚の中などを探してると、つんつんと背中をつつかれた。
「うん? どした?」
振り向くと、エプロンを装着した沙夜が、その場でくるりと回転した。そして、「どうだ?」という視線を投げかけている。
「いや、そりゃもう……100点ですよ」
がしがし沙夜の頭をなでると、沙夜は嬉しそうにきゅーきゅー鳴いた。いや、そんなのはいいんです。エプロン探さないと。
沙夜に背中を向けて再び捜索を開始すると、今度は背中に抱きついてきた。
「沙夜。動き難い」
今回も俺の話なんて聞いちゃいないのか、沙夜はご機嫌な様子で俺の背中に抱きつくばかり。仕方ないので、沙夜を引きずったままエプロンを探す。
「ないなぁ……」
背後でコクコクうなずく気配がする。
「この家にはエプロンが一個しかないのだろうか。いや、しかしそれでは洗濯した際に代えがないので困る。一つくらいはあるはずだ」
再び背後でコクコク気配を感じさせる妙な生き物をぶらさげたまま探すこと数分、
「ない」
背後から残念そうに首を振る気配がこちらに送られてきた。
「ちうわけで、沙夜。俺が指示するから、お前が作れ」
肩越しに振り向いてそう伝えると、沙夜の眉根がきゅっと寄った。困っているようだ。
「だって、ないし。それに、飯は嫁として必須スキルだぞ」
嫁と聞いて、沙夜の目の色が変わった。沙夜は俺から離れると、全身にやる気をみなぎらせる!
「おお、気合満々だな!」
沙夜はコクコクコクと鼻息荒く何度もうなずいた。
しかし、それ以上何もしようとしない。どうしたのかと思ったら、ちらちらとこちらを見ている。……まさかとは思うが。
「ええと、嫁として合格か判定を求めて……ないよな?」
ぷるぷるぷる。沙夜の首が横に振られる。
「……はぁ。ええと、とてもやる気に満ち溢れているし、こんな子が嫁なら俺はもう」
なんだかとても嬉しいらしく、沙夜はきゅんきゅん鳴きながら俺に抱きつくと、顔をすりすりこすりつけまくった。
バッチリいい印象を与えたようだ。などとときメモっている場合ではない。
「それより沙夜さん、俺はそろそろ腹が減りました。何か作ってください」
そう言うと、沙夜は口をむちゅーと尖らせて目をつむった。つきだされた口唇を指でがっと掴む。
「飯です。ちゅーしてくれとは言ってません」
沙夜は俺の手を振り解くと、舌をむべーっと出した。反抗期? ……いや、そうじゃなくて、この舌をぺろぺろして腹を膨らませろ、というところか。
「その案も悪くないけど、ご飯で腹を膨らませたいです」
沙夜が落ち込んだ。
「いや、だから……ええと、それはデザートの方向でひとつ」
沙夜が簡単にやる気を取り戻した。ため息ひとつ吐いてから、冷蔵庫を開ける。
「さて、何があるかな……?」
冷蔵庫を覗きこむ俺の脇から沙夜も顔を出し、一緒に考えている。……いや、考えるフリをしてる。
「あ、卵。よし、お互い初心者だし、玉子焼きでいくか!」
沙夜はあからさまに嫌な顔をした。そんな簡単なものでは嫌なようだ。
「そうは言う(?)が、沙夜よ。料理初心者の俺たちには丁度いいレベルだと思うぞ?」
沙夜は眉根をきゅっと寄せしばし何か考えた後、こっくりうなずいた。どうにか納得してくれたようだ。
「じゃあ、料理開始ー!」
俺が大きく手を上げると、沙夜も大きく手を上げた。ついでなので沙夜を抱き上げ、その場でくるくる回る。
「軽いなあ、沙夜! まるで羽みたいだよ!」
「♪♪♪」
「しかし、回る過ぎてうぇぇぇぇぇぇっぷ」
「×××」
沙夜をその場に下ろし、倒れ付す。見れば、沙夜も目を回してた。
「うぅむ……無駄にテンションが上がってしまったがため、起こった事件であろう。あと、羽みたいって言ったのは嘘です。それ相応の重みがありました」
頭をかじられてから、料理再開。
「まず、卵を割ります。違う、壁に投げつけて割るのではなくて!」
卵を持って大きく振りかぶった沙夜を慌てて止める。びっくりした。
「この……ええと、ボールに中身を入れます。だからボールと言っても野球のボールじゃなくて!」
ボールと聞いた途端またしても振りかぶる沙夜を止める。怖いよこの子。
「じゃあ、ボール……調理器具の! ボールの上で卵を割り、中身を入れてくれ」
また振りかぶられては敵わないので、沙夜を後ろから抱っこした状態で指示を出す。この状態が気に入ったのか、沙夜はご機嫌な様子で卵を割った。
「あ」
しかし、やはりそこは料理初心者。上手に卵の殻を割れず、殻の欠片がボールに入ってしまった。
「あーあ。卵の殻入り玉子焼きを食べた俺は、ノドに卵の殻が刺さり、それが原因で死んで嘘です!!!」
半狂乱でボールを投げ捨てようとする沙夜を必死で止める。冗談も言えやしねえ。
「少しくらいなら大丈夫さ。だから、料理を続けましょう」
半泣きでいぶかしむ沙夜の頭をなでてから、料理を続ける。
「ええと、次に卵を混ぜます。まぜまぜ」
箸を沙夜に渡し、混ぜさせる。しばらく混ぜた後、沙夜がこれでいいかと目で合図してきた。
「ん、そんなところだろ。で、味付けして……とりゃーず卵はこれで完成!」
近くにあっためんつゆを適量入れさせ、万歳。遅れて沙夜も万歳。
「次に玉子焼き器の出番です。まず、コンロで暖めます」
言われたとおり玉子焼き器を暖め、沙夜は俺を見た。
「うむ、満点」
沙夜の頭をなでる。沙夜は嬉しそうに目を細めた。
「次。充分に温まったら油を流しいれてなじませ、それから先ほどの卵を半分くらい入れる」
ジュンジュワーな感じで卵を流し入れる沙夜。
「ここからが難しいぞ。少し焼けたら、手前から折りたたむように巻いて」
回転させようとするが、上手にいかず、卵が破れてしまう。沙夜は泣きそうな顔で俺を見た。
「少しくらいなら失敗しても平気さ。負けずに頑張る沙夜は偉いぞ」
ぐしぐし沙夜の頭をなでて慰める。なでなででやる気を取り戻した沙夜は、両手に握りこぶしを作って玉子焼きと相対した。
「じゃあもう一度。手前から折りたたむように……そう!」
今度は上手くいった。多少いびつではあるが、見た目はしっかり玉子焼きに見える。
「じゃ、開いてる箇所に残ってる卵を入れて、さっきの要領で焼く」
さっきのでコツを掴んだのか、沙夜は自信あふれる様子で卵を焼いた。
「おおっ、さっすが沙夜先生。やるねぇ」
「♪」
ご機嫌な様子でくるくる巻いて、完成。皿に移して試食だ。
「じゃ、まずは沙夜。お前から」
しかし、沙夜はぷるぷる首を横に振った。ハテナ、と思ってたらずずいっと俺に皿を向けた。
「あ、俺から試食?」
コクコクされたので、食べてみる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ」
「…………」(どきどきどき)
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごくん」
「…………」(ばっくんばっくんばっくん)
「うん。うまい」
「!!!!!」
「痛いっ!? いきなり抱きつくな、ばか!」
嬉しさのあまりか、沙夜は突然俺に突撃する勢いで抱きついてきた。沙夜の頭が俺の腹にめり込んで結構痛い。
「♪♪♪」
「はいはい。んじゃ、お前も食べてみろ。ほれ、あーん」
あー、と鳥の雛のように口を開ける沙夜の口に玉子焼きを一切れ入れる。もきゅもきゅ咀嚼すると、沙夜の顔がほころんだ。
「な? 美味いだろ?」
沙夜はコクコクうなずいて、もきゅもきゅし続けた。リスみてえ。
「これで餓死は免れた。偉いぞ、沙夜!」
で、夕食の時間。
「…………」
テーブルに広がる、玉子焼き、玉子焼き、玉子焼き。ていうか、玉子焼きしかねえ。黄色が目に痛い。
「あー……」
沙夜をちらりと見る。期待に満ち満ちた目でこちらを見ていた。
「……もー少し、色々教えておいたほうが良かったかにゃー」
俺の声なんて聞いちゃいないのか、沙夜はにこにこしながら椅子を引いてくれた。
「……まぁ、味はいいし、折角作ってくれたのだし、いいか」
覚悟を決めて、この黄色の群れを駆逐しにかかる俺だった。
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