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2025年04月07日
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【ツンデレと一緒にプールで泳いだら】
2010年09月10日
欠伸をしつつだらだらと登校してると、俺と同じように暑そうにだらだら歩いてる奴発見。
「おっす、かなみ。暑そうだな」
「暑いわよクソ暑いわよ暦の上では秋だってのにこの暑さは何よどうにかしなさいよ!」
挨拶しただけなのに、ものすごい詰め寄られた。しょうがないのでどうにかする。
「むにゅむにゅむにゅ……どうにか!」
両手をばっとあげ、大きく叫ぶ。
「どうにもなってない! 暑いまんま!」
失敗。俺の術は世界に嫌われているようだ。
「もー! 暑い暑い暑い暑い!」
「うるさいなあ……んじゃ、学校終わったらプールでも行くか?」
プールと聞き、かなみは目を輝かせた。
「あっ……で、でもアンタとなんて行きたくないし。……で、でも、アンタがどーしてもって言うなら、行ってやらなくもないわよ?」
「そこまでして一緒に行きたくありません」
「どーしても一緒に行って欲しいって言え!」
「それもう強制だろ」
「いーから言うの!」
「やれやれ感が非常に強いが……まあいいか。ええと、どうしても一緒に来て欲しい」
「へへー、じゃあしょうがないから行ったげる。感謝するのよ?」
「でもよく考えるとお金がないので行かない」
「行くの! お金ないなら貸したげるから!」
「友人間とはいえ、お金の貸し借りはトラブルの元だからよくないぞ?」
「じゃあもうおごるから一緒に行くの!」
「女性におごられて平気な顔をしていられるほど厚顔無恥でもないからなあ」
「もーっ! どーしろって言うのよ!」
「だから、放課後に学校のプールに忍び込んで勝手に泳ごう」
「水泳部がいるから無理よ、馬鹿」
「そこの部長と部員と顧問の先生の弱み握ってるから大丈夫だ」
「悪魔!?」
そんなわけで、放課後かなみと一緒に学校のプールで泳ぐことになった。今から楽しみだ。
放課後。待ちに待ったふわふわプールタイムだ。だがしかし、ここで俺は驚愕の事実に気づいてしまった。
「水着持ってきてねえ……」
俺一人なら裸の開放感! とか言いながら屋外に飛び出して逮捕されるのも問題ないのだが、かなみも一緒なので色々と問題が山積みだ。あと、よく考えると捕まるので問題ある。
どうしたものかと頭を悩ませながら廊下を歩いてると、見るからに浮かれているかなみがスキップしながらこっちにやってきた。
「あっ……あ、あーあ。とうとう放課後になっちゃったわね。あーあ、やだやだ」
俺を見た途端スキップをやめ、かなみは殊更嫌そうに顔をしかめた。
「もうちょっと前からそういう所作はお願いします」
「う、うっさい、ばか! 暑いからプールが楽しみなだけ! アンタと一緒なのは嫌なんだからね!?」
「それは丁度よかった。実は水着を持ってきてなくて、俺は泳げそうにないんだ。だから、お前だけ泳いでくれ」
「えっ……」
「それでも一応水泳部には話つけておくよ。まあ、俺がいなくても平気だろ?」
「あ、当たり前でしょ。……で、でも、そなんだ。一緒じゃないんだ。……そ、それはラッキーね。……らっきー」
ラッキーならそれらしい顔をして。そんな今にも泣きそうな顔しないで。
「と、とりあえずプール行くか」
「……うん」
ものすごい落ち込んだかなみを連れてプールへ向かう。その途中、購買部の前を通りがかった。
「あ。かなみ、ちょっと待ってて」
「うん? ……うん、待ってる」
かなみをその場に置いて購買部に入り、ちょちょっと買い物する。
「お待たへ。行こ」
「ん」
相変わらずしょげかえってるかなみを連れ、プール前へ到着。
「んじゃちょっと話つけてくるから、その間に着替えてて」
「……ん」
背中からとんでもない悲壮感を噴出してるかなみを見送り、顧問がいる部室棟へ侵入、必殺の弱みを使ってプールの一レーンを借りることに成功。
「ううう……気をつけてたのに、気をつけてたのに……。一体どこで仕入れてくるのよ、そんな写真!」
「コミケ等」
見た目はボーイッシュで普段は男らしい格好を好む先生の、ありえないほどフリフリロリロリした衣装で決めポーズしてる写真を片手に高笑いする。
「ところでこの服何? さくら? CCさくら? 今更感が強いですが、今でも根強い人気が俺内部であるのではにゃーんとか言え」
「はにゃーんッ!」
殴られはしたが、そんな感じでプールを借りられたので、今度は男子更衣室へ向かう。さて、と。
「……あー、涼しいわね。……あー、楽しい。……ふん。ばか」
「独り言とは楽しそうで何よりですね」
「うっさい! ……え、あれ?」
「どした、狐につままれたような顔をして」
実際にかなみのほっぺをふにーっと引っ張る。やーらかくて素敵。
「え、だって、水着ないんじゃ……?」
「購買部で買った」
「……わ、わざわざ?」
「かなみと一緒に泳ぎたかったからな」
やめて。そんな染み渡るような笑顔見せないで。そこまで喜ばれると恥ずかしいです。
「はっ! ……へ、変態。そこまであたしと一緒に泳ぎたかったなんて、泳いでる最中にあたしの身体を触るつもりね!?」
「酷い言われようだ。もう泳ぐのやめようかなあ」
「えっ、嘘! やだ、ダメッ!」
かなみは俺を抱きつくようにして引き止めた。
「……あ、いや、冗談なんだけど」
「うっ! ……う、うぅ~! ず、ずるい!」
冗談と気づき、かなみは俺からぴょいんと離れると顔を真っ赤にして俺を責めた。
「ずるいと言われても」
「わざとそーゆーこと言ってあたしを抱きつくように仕向けた! ずるい!」
「や、そこまで好かれてるとは思ってませんでした」
「だっ、誰がアンタなんかを好きってのよ!? あ、アンタなんてだいっ嫌いなんだからっ!」
「へー」
「う、嘘なんかじゃないわよ! ホントのホントに嫌いなんだからねっ!」
「じゃあ、そんな嫌いで嫌いでしょうがない俺と一緒に泳いだりはしないのだな?」
「……お、泳ぐけど。一緒に泳ぐけど! でも嫌いなの!」
「ほへー」
「超馬鹿にしてえ! 嫌いなの! ホントにホントにホントにホントに!」
「ライオンだー」
「富士サファリパークは関係ないッ!」
「あれ歌ってるの和田アキ男とみせかけ、実は違う人らしいな」
「知んないわよっ! ……て、ていうか、なんかさ。そっちはどうなのよ」
「何が」
「だ、だから、その……あ、あたしのことをさ。その……す、好き? とか、そーゆーの」
「え」
「……や、やっぱなし! 今のうそ! なんもなし!」
かなみは素早く水に潜ると、ぴうーっと潜水したまま泳いでいってしまった。
「ふ……甘いぞ、かなみ! ぼくドザエモンの異名を持つ俺に勝てると思ったか!」
近くの水泳部員が「水死体……?」と怪訝な顔をしているのを尻目に、かなみを追いかける。
「わっ、なんか来た! くっ、来るなっ、ばかっ!」
「ふふん。俺様から逃げられると思ったら大間違いだ!」
かなみの尻目掛けざぶざぶ泳ぐ。目の前の尻がふりふり動くたび、俺の運動能力が+1されるのを確かに感じる。
10mほど泳いだ所でかなみを捕獲成功。後ろからがっしとかなみを掴み、動きを封じる。
「うー! ううー!」
「こら、暴れるな、ばか」
「馬鹿はそっちよ! 馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」
「馬鹿でいいから落ち着け」
「うぅー!」
「まあ、なんだ。答えを言う前に逃げられたので、一応は言っておこうと思いまして」
ぴたり、とかなみの抵抗が止んだ。じぃーっと物言いたげな視線が俺を貫く。その視線の持ち主の耳元に顔を近づける。
「うっ……ばっ、ばかっ!」
口を開く前にかなみは俺を突き飛ばすと、ばしゃばしゃと水をかけた。
「ぷわ。ぷわ。ぷわ」
「ばっ、ばか! ばかばか! ばかばかばか!」
「馬鹿馬鹿言うな。ぷわ。自覚はしてる。ぷわ。ていうか水をかけるのやめろ。ぷわ。まだ言ってないんだから」
「うっ、うるさい、ばか! アンタの気持ちなんてどーでもいいわよ! どっちにしろ、あたしはアンタなんて大嫌いなんだからっ!」
「嫌いであろうとなかろうと、俺の気持ちは別に」
「わ、わーっわーっわーっ! 聞こえない聞こえない聞こえないーっ!」
「ちくわ大明神」
「全く関係ないッ!」
聞こえてるじゃん。
「うう……なによ、この敗北感は!」
「知らん。ていうかなんか疲れた。もう普通に泳ごうぜ……」
「そ、そうね。普通が一番よね」
そんなわけで、かなみと一緒にしばらく泳ぐ。
「あー……涼しくて気持ちいいわねー。プールって大好き!」
「全くだな」
「でしょ? アンタもそう……」
油断してるかなみに背後からすいーっと近づき、耳元でぽしょぽしょ囁く。
「!!!!?」
そしてすぐさますいーっと逃げる。
「こっ、こら、ばか! そ、そういうこと言うだけ言って逃げるとかずるい! ばか、ばかばか!」
「いやははは、これでも人並みに羞恥心がありましてね。ああ、返事はまた後日で結構」
「ばか、ばかばか、ばかばかばか! 今すぐ返事言わせろ、ばかーっ!」
真っ赤な顔で泳いでくるかなみから逃げるぼくドザエモンだった。
「おっす、かなみ。暑そうだな」
「暑いわよクソ暑いわよ暦の上では秋だってのにこの暑さは何よどうにかしなさいよ!」
挨拶しただけなのに、ものすごい詰め寄られた。しょうがないのでどうにかする。
「むにゅむにゅむにゅ……どうにか!」
両手をばっとあげ、大きく叫ぶ。
「どうにもなってない! 暑いまんま!」
失敗。俺の術は世界に嫌われているようだ。
「もー! 暑い暑い暑い暑い!」
「うるさいなあ……んじゃ、学校終わったらプールでも行くか?」
プールと聞き、かなみは目を輝かせた。
「あっ……で、でもアンタとなんて行きたくないし。……で、でも、アンタがどーしてもって言うなら、行ってやらなくもないわよ?」
「そこまでして一緒に行きたくありません」
「どーしても一緒に行って欲しいって言え!」
「それもう強制だろ」
「いーから言うの!」
「やれやれ感が非常に強いが……まあいいか。ええと、どうしても一緒に来て欲しい」
「へへー、じゃあしょうがないから行ったげる。感謝するのよ?」
「でもよく考えるとお金がないので行かない」
「行くの! お金ないなら貸したげるから!」
「友人間とはいえ、お金の貸し借りはトラブルの元だからよくないぞ?」
「じゃあもうおごるから一緒に行くの!」
「女性におごられて平気な顔をしていられるほど厚顔無恥でもないからなあ」
「もーっ! どーしろって言うのよ!」
「だから、放課後に学校のプールに忍び込んで勝手に泳ごう」
「水泳部がいるから無理よ、馬鹿」
「そこの部長と部員と顧問の先生の弱み握ってるから大丈夫だ」
「悪魔!?」
そんなわけで、放課後かなみと一緒に学校のプールで泳ぐことになった。今から楽しみだ。
放課後。待ちに待ったふわふわプールタイムだ。だがしかし、ここで俺は驚愕の事実に気づいてしまった。
「水着持ってきてねえ……」
俺一人なら裸の開放感! とか言いながら屋外に飛び出して逮捕されるのも問題ないのだが、かなみも一緒なので色々と問題が山積みだ。あと、よく考えると捕まるので問題ある。
どうしたものかと頭を悩ませながら廊下を歩いてると、見るからに浮かれているかなみがスキップしながらこっちにやってきた。
「あっ……あ、あーあ。とうとう放課後になっちゃったわね。あーあ、やだやだ」
俺を見た途端スキップをやめ、かなみは殊更嫌そうに顔をしかめた。
「もうちょっと前からそういう所作はお願いします」
「う、うっさい、ばか! 暑いからプールが楽しみなだけ! アンタと一緒なのは嫌なんだからね!?」
「それは丁度よかった。実は水着を持ってきてなくて、俺は泳げそうにないんだ。だから、お前だけ泳いでくれ」
「えっ……」
「それでも一応水泳部には話つけておくよ。まあ、俺がいなくても平気だろ?」
「あ、当たり前でしょ。……で、でも、そなんだ。一緒じゃないんだ。……そ、それはラッキーね。……らっきー」
ラッキーならそれらしい顔をして。そんな今にも泣きそうな顔しないで。
「と、とりあえずプール行くか」
「……うん」
ものすごい落ち込んだかなみを連れてプールへ向かう。その途中、購買部の前を通りがかった。
「あ。かなみ、ちょっと待ってて」
「うん? ……うん、待ってる」
かなみをその場に置いて購買部に入り、ちょちょっと買い物する。
「お待たへ。行こ」
「ん」
相変わらずしょげかえってるかなみを連れ、プール前へ到着。
「んじゃちょっと話つけてくるから、その間に着替えてて」
「……ん」
背中からとんでもない悲壮感を噴出してるかなみを見送り、顧問がいる部室棟へ侵入、必殺の弱みを使ってプールの一レーンを借りることに成功。
「ううう……気をつけてたのに、気をつけてたのに……。一体どこで仕入れてくるのよ、そんな写真!」
「コミケ等」
見た目はボーイッシュで普段は男らしい格好を好む先生の、ありえないほどフリフリロリロリした衣装で決めポーズしてる写真を片手に高笑いする。
「ところでこの服何? さくら? CCさくら? 今更感が強いですが、今でも根強い人気が俺内部であるのではにゃーんとか言え」
「はにゃーんッ!」
殴られはしたが、そんな感じでプールを借りられたので、今度は男子更衣室へ向かう。さて、と。
「……あー、涼しいわね。……あー、楽しい。……ふん。ばか」
「独り言とは楽しそうで何よりですね」
「うっさい! ……え、あれ?」
「どした、狐につままれたような顔をして」
実際にかなみのほっぺをふにーっと引っ張る。やーらかくて素敵。
「え、だって、水着ないんじゃ……?」
「購買部で買った」
「……わ、わざわざ?」
「かなみと一緒に泳ぎたかったからな」
やめて。そんな染み渡るような笑顔見せないで。そこまで喜ばれると恥ずかしいです。
「はっ! ……へ、変態。そこまであたしと一緒に泳ぎたかったなんて、泳いでる最中にあたしの身体を触るつもりね!?」
「酷い言われようだ。もう泳ぐのやめようかなあ」
「えっ、嘘! やだ、ダメッ!」
かなみは俺を抱きつくようにして引き止めた。
「……あ、いや、冗談なんだけど」
「うっ! ……う、うぅ~! ず、ずるい!」
冗談と気づき、かなみは俺からぴょいんと離れると顔を真っ赤にして俺を責めた。
「ずるいと言われても」
「わざとそーゆーこと言ってあたしを抱きつくように仕向けた! ずるい!」
「や、そこまで好かれてるとは思ってませんでした」
「だっ、誰がアンタなんかを好きってのよ!? あ、アンタなんてだいっ嫌いなんだからっ!」
「へー」
「う、嘘なんかじゃないわよ! ホントのホントに嫌いなんだからねっ!」
「じゃあ、そんな嫌いで嫌いでしょうがない俺と一緒に泳いだりはしないのだな?」
「……お、泳ぐけど。一緒に泳ぐけど! でも嫌いなの!」
「ほへー」
「超馬鹿にしてえ! 嫌いなの! ホントにホントにホントにホントに!」
「ライオンだー」
「富士サファリパークは関係ないッ!」
「あれ歌ってるの和田アキ男とみせかけ、実は違う人らしいな」
「知んないわよっ! ……て、ていうか、なんかさ。そっちはどうなのよ」
「何が」
「だ、だから、その……あ、あたしのことをさ。その……す、好き? とか、そーゆーの」
「え」
「……や、やっぱなし! 今のうそ! なんもなし!」
かなみは素早く水に潜ると、ぴうーっと潜水したまま泳いでいってしまった。
「ふ……甘いぞ、かなみ! ぼくドザエモンの異名を持つ俺に勝てると思ったか!」
近くの水泳部員が「水死体……?」と怪訝な顔をしているのを尻目に、かなみを追いかける。
「わっ、なんか来た! くっ、来るなっ、ばかっ!」
「ふふん。俺様から逃げられると思ったら大間違いだ!」
かなみの尻目掛けざぶざぶ泳ぐ。目の前の尻がふりふり動くたび、俺の運動能力が+1されるのを確かに感じる。
10mほど泳いだ所でかなみを捕獲成功。後ろからがっしとかなみを掴み、動きを封じる。
「うー! ううー!」
「こら、暴れるな、ばか」
「馬鹿はそっちよ! 馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」
「馬鹿でいいから落ち着け」
「うぅー!」
「まあ、なんだ。答えを言う前に逃げられたので、一応は言っておこうと思いまして」
ぴたり、とかなみの抵抗が止んだ。じぃーっと物言いたげな視線が俺を貫く。その視線の持ち主の耳元に顔を近づける。
「うっ……ばっ、ばかっ!」
口を開く前にかなみは俺を突き飛ばすと、ばしゃばしゃと水をかけた。
「ぷわ。ぷわ。ぷわ」
「ばっ、ばか! ばかばか! ばかばかばか!」
「馬鹿馬鹿言うな。ぷわ。自覚はしてる。ぷわ。ていうか水をかけるのやめろ。ぷわ。まだ言ってないんだから」
「うっ、うるさい、ばか! アンタの気持ちなんてどーでもいいわよ! どっちにしろ、あたしはアンタなんて大嫌いなんだからっ!」
「嫌いであろうとなかろうと、俺の気持ちは別に」
「わ、わーっわーっわーっ! 聞こえない聞こえない聞こえないーっ!」
「ちくわ大明神」
「全く関係ないッ!」
聞こえてるじゃん。
「うう……なによ、この敗北感は!」
「知らん。ていうかなんか疲れた。もう普通に泳ごうぜ……」
「そ、そうね。普通が一番よね」
そんなわけで、かなみと一緒にしばらく泳ぐ。
「あー……涼しくて気持ちいいわねー。プールって大好き!」
「全くだな」
「でしょ? アンタもそう……」
油断してるかなみに背後からすいーっと近づき、耳元でぽしょぽしょ囁く。
「!!!!?」
そしてすぐさますいーっと逃げる。
「こっ、こら、ばか! そ、そういうこと言うだけ言って逃げるとかずるい! ばか、ばかばか!」
「いやははは、これでも人並みに羞恥心がありましてね。ああ、返事はまた後日で結構」
「ばか、ばかばか、ばかばかばか! 今すぐ返事言わせろ、ばかーっ!」
真っ赤な顔で泳いでくるかなみから逃げるぼくドザエモンだった。
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【ツンデレと運動会の練習】
2010年09月07日
もうすぐ運動会なので、毎日放課後に練習を行っている。だがしかし、俺は運動とか大変苦手な生物なのでサボりがちだ。
「あっ、アンタまた逃げようとしてる! ほら、ちゃんとやりなさいよ!」
そんなわけで今日もこっそり教室から抜け出そうとしたら、かなみに見つかってしまった。
「いや、当日はちゃんと真面目にやりますよ? ただ、それ以外は面倒くさいのでサボりたいんだ」
「ダメに決まってるでしょ! アンタ一応リレー選手でしょ? ちゃんと練習しないと!」
くじ運が激烈に悪いのでそんなのに選ばれた俺なのだった。俺以外全員が陸上部員という地獄に君は耐えられるだろうか。
「うーん。でもなあ。めんどくさいしなあ。ハートはどこにつけよかなあ」
「知らんッ!」
かなみさんはとても怖いです。
「ほら、いいから行くわよ! 先生にも頼まれてるのよ、アンタがサボらないようにちゃんと監視しててくれって」
「どこの囚人だ、俺」
「ほらほら、いーから行く行く」
「うわたた、押すな押すな」
そんなわけで、無理やりに着替えさせられ運動場に連れて来られた。もう既にやる気メーターが0だ。
「あー今日もよく頑張った。さて帰るか」
「まだ着替えただけっ! とっとと練習しろっ!」
「暑くてやる気がしないんだ」
着替えた時点でやる気はないと言うのに、さらにこの暑さが俺のやる気メーターをマイナスへと追いやる。そんなわけで、練習してるクラスメイトを尻目に木陰に退避。
「こらっ、早々とリタイヤするなっ! みんな頑張ってるんだから、アンタも頑張りなさいよ!」
そんな俺を叱りつけるかなみ。腰に両手をあててお姉さん叱りするのは大変に喜ばしいが、その程度では俺のやる気メーターは変動しない。
「気温を10度ほど下げてくれたらやる」
「神様じゃないんだからそんなのできないわよ、馬鹿。ほーら、頑張る」
「うぁー」
両手をぐいーっと引っ張られるが、その程度では俺様を動かすことは出来ない。いや、俺の方が体重が重いので。
「ふぅふぅ……ちょっと! 重いわよ!」
「100kgを超えた身体にこの暑さは辛いデブー」
「そんなにないでしょ! そんな語尾ついてなかったし! いーから練習しなさい!」
「かなみがチアガールの格好で俺を応援してくれたら頑張れる」
「なっ、なんでアンタなんかのためにそんな格好しなきゃいけないのよ、馬鹿!」
「なんで、と言われても、見たいから、としか言いようがない」
「見……だっ、誰がするもんですか、この変態!」
「残念なことこの上ないな。んじゃ俺帰るな」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ! ……ほ、ホントに着たらやるんでしょうね?」
「おおっ!? その台詞はつまり着てくれるのか!?」
「かっ、勘違いしないでよね! 先生にアンタを練習に参加させるよう頼まれたからで、そのために仕方なく着るだけなんだから! 嫌々着るんだからねっ!」
「テンプレをありがとう」
「はあ?」
「ま、ま。とにかく、着て俺を応援してください」
「こっ、こら、押すな!」
ぐいぐいかなみを押して校舎に押しこめ、クラスメイツの待つ場所へ戻る。
「待たせた皆の者! 王の帰還だ!」
全員に無視された。
「サボってすいませんでした。今から頑張るのでどうか参加させてください」
何かの虫みたいにぺこぺこ謝ってご機嫌を伺った結果、許してもらった。
「やれやれ。それで俺は何をしたらいいのかな? 女子のブルマの観察? 任せろ、得意だ」
今の発言で女子全員が俺を敵と認識したようで、とんでもない量の視線が突き刺さってきたが、気づかないフリをする。まともにぶつかると廃人になること請け合い。
視線の恐怖で半泣きになりながらも走ったりバトンの受け取り方の練習をしたり走ったりした結果、超疲れた。
「ああ……ああ、本当に疲れた。もう帰りたい。よし、帰ろう」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ、ばかっ!」
聞きなれた声に慌てて振り向く。そこに、待ち焦がれた姿があった。
「……な、何よ、じろじろ見て」
かなみがいた。チアガール姿のかなみがいた。両手にポンポンを持ち、短いスカートを履き、真っ赤なノースリーブを着たかなみがそこにいた。大きなポンポンで自分の胸元を隠すようにしている。
「大変可愛いですね!」
「うっ……か、可愛いとか言うなっ、ばかっ!」
かなみは真っ赤になりながら俺をげしげし叩いた。しかし、ポンポンは応援には適していても攻撃には向いてないようで、俺のダメージは0だ!
「いやはや。もう既にかなみのチアガール姿で俺のやる気メーターは大分回復したが、これに応援が伴うと俺のやる気メーターは天井知らずになるのでお願いします」
「回復したんでしょ? じゃあやんない」
「衝撃の発言におしっこが漏れそうだ」
「幼児かッ!」
「ていうかお願いします応援してください。土下座? 任せろ、得意だ」
「土下座なんかされても嬉しくないッ!」
一切の躊躇なく土下座したのに、かなみときたら全く応援してくれない。
「ここまでしてもダメとは。これはもういっそおしっこを漏らすべきか……?」
「漏らすなッ! ……そ、そんなにあたしに応援してほしいの?」
「そりゃ勿論。そのためだけに俺は今ここにいるのだから」
「……ふ、ふーん。そなんだ。……あたしのためなんだ」
なぜか知らないが、かなみは頬を染めながらゴニョゴニョ呟いた。そんなにチアガール姿が恥ずかしいのだろうか。
「……わ、分かった。覚悟決める。でっ、でも、応援した姿見て笑ったりしたら殺すわよ!?」
「笑いません」
ガクガク震えながら答える。このチアガール超怖え。
「そ、そう。……じゃ、やるわよ?」
「お、おう」
「……ふ、ふぁいと」
「…………」
俺の前までちょこちょこやって来ると、かなみはポンポンを小さく揺らしながらぽしょぽしょと俺を応援した。
「が、がんばれー。ふぁいとー」
「…………」
「え、えっと。元気、出た?」
ちょこんと小首を傾げつつ、かなみは俺に訊ねた。
「超!」
「ひっ!?」
「超! 元気! が! 出た!」
「そ、そう。それならよかった」
「今なら空だって飛べそうな! ……いや、飛べる! よしかなみ、ちょっと屋上からFly Highってくるので見てて!」
「それただの自殺! 飛べないから行くな、馬鹿!」
「いやまあそれくらい元気が出たってことですよ! 本当にありがとう、かなみ! お前の応援に感謝する!」
「え、あ、そ、そこまで感謝されたらアレなんだけど……そ、そんな嬉しかったの?」
「それはもう! ここ数年来で一番嬉しかった!」
「こんなのが一番って、アンタの人生結構哀れなのね……」
失礼なことを言われている気がする。
「まあとにかくまた練習してくる! ありがとな、かなみ!」
「そ、そう。……んじゃ、まあ、仕方ないから、あたしが引き続き応援してあげ」
「……あ、おにーさん」
すぐ横から聞き覚えのある声がした。学校と外を隔てる金網の向こうに、知り合いの中学生であるふみがいた。慌ててそちらへ駆け寄る。
「よう、ふみ。学校帰りか? それとも探し物か? なかなか見つからないか? それより僕と一緒に踊りませんか?」
「……うふーふーうふーふーうふーふー?」
この娘は俺と似た感性を持っているので、一緒にいて楽しい。時折(でもないが)辛らつな言葉を投げかけられるのを抜きにすると。
「……まあ、おにーさんと一緒に踊るのはともかくとして、おにーさんの背後にいるおもしろ格好をしているおねーさんが鬼もかくやと思えるほどの形相をしているので、私は逃げます」
とてとてとふみはゆっくり逃げていった。なんだかすごく振り向きたくないよバーニィ。
「……え、ええと。それで、何の話だっけ、かなみ?」
「知らないわよっ、馬鹿ッ!」
俺の口の中にポンポンを詰め、かなみは足音も荒く校舎に入って行ってしまった。
「もがもが……もがもがもが」
「ふーんふーん……ひっ、見たら死ぬ系の妖怪!? はわ、はわわわわ!?」
偶然通りがかった大谷先生が悪戦苦闘しながらポンポンを取り出そうとする俺を見て腰を抜かしていた。
「あっ、アンタまた逃げようとしてる! ほら、ちゃんとやりなさいよ!」
そんなわけで今日もこっそり教室から抜け出そうとしたら、かなみに見つかってしまった。
「いや、当日はちゃんと真面目にやりますよ? ただ、それ以外は面倒くさいのでサボりたいんだ」
「ダメに決まってるでしょ! アンタ一応リレー選手でしょ? ちゃんと練習しないと!」
くじ運が激烈に悪いのでそんなのに選ばれた俺なのだった。俺以外全員が陸上部員という地獄に君は耐えられるだろうか。
「うーん。でもなあ。めんどくさいしなあ。ハートはどこにつけよかなあ」
「知らんッ!」
かなみさんはとても怖いです。
「ほら、いいから行くわよ! 先生にも頼まれてるのよ、アンタがサボらないようにちゃんと監視しててくれって」
「どこの囚人だ、俺」
「ほらほら、いーから行く行く」
「うわたた、押すな押すな」
そんなわけで、無理やりに着替えさせられ運動場に連れて来られた。もう既にやる気メーターが0だ。
「あー今日もよく頑張った。さて帰るか」
「まだ着替えただけっ! とっとと練習しろっ!」
「暑くてやる気がしないんだ」
着替えた時点でやる気はないと言うのに、さらにこの暑さが俺のやる気メーターをマイナスへと追いやる。そんなわけで、練習してるクラスメイトを尻目に木陰に退避。
「こらっ、早々とリタイヤするなっ! みんな頑張ってるんだから、アンタも頑張りなさいよ!」
そんな俺を叱りつけるかなみ。腰に両手をあててお姉さん叱りするのは大変に喜ばしいが、その程度では俺のやる気メーターは変動しない。
「気温を10度ほど下げてくれたらやる」
「神様じゃないんだからそんなのできないわよ、馬鹿。ほーら、頑張る」
「うぁー」
両手をぐいーっと引っ張られるが、その程度では俺様を動かすことは出来ない。いや、俺の方が体重が重いので。
「ふぅふぅ……ちょっと! 重いわよ!」
「100kgを超えた身体にこの暑さは辛いデブー」
「そんなにないでしょ! そんな語尾ついてなかったし! いーから練習しなさい!」
「かなみがチアガールの格好で俺を応援してくれたら頑張れる」
「なっ、なんでアンタなんかのためにそんな格好しなきゃいけないのよ、馬鹿!」
「なんで、と言われても、見たいから、としか言いようがない」
「見……だっ、誰がするもんですか、この変態!」
「残念なことこの上ないな。んじゃ俺帰るな」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ! ……ほ、ホントに着たらやるんでしょうね?」
「おおっ!? その台詞はつまり着てくれるのか!?」
「かっ、勘違いしないでよね! 先生にアンタを練習に参加させるよう頼まれたからで、そのために仕方なく着るだけなんだから! 嫌々着るんだからねっ!」
「テンプレをありがとう」
「はあ?」
「ま、ま。とにかく、着て俺を応援してください」
「こっ、こら、押すな!」
ぐいぐいかなみを押して校舎に押しこめ、クラスメイツの待つ場所へ戻る。
「待たせた皆の者! 王の帰還だ!」
全員に無視された。
「サボってすいませんでした。今から頑張るのでどうか参加させてください」
何かの虫みたいにぺこぺこ謝ってご機嫌を伺った結果、許してもらった。
「やれやれ。それで俺は何をしたらいいのかな? 女子のブルマの観察? 任せろ、得意だ」
今の発言で女子全員が俺を敵と認識したようで、とんでもない量の視線が突き刺さってきたが、気づかないフリをする。まともにぶつかると廃人になること請け合い。
視線の恐怖で半泣きになりながらも走ったりバトンの受け取り方の練習をしたり走ったりした結果、超疲れた。
「ああ……ああ、本当に疲れた。もう帰りたい。よし、帰ろう」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ、ばかっ!」
聞きなれた声に慌てて振り向く。そこに、待ち焦がれた姿があった。
「……な、何よ、じろじろ見て」
かなみがいた。チアガール姿のかなみがいた。両手にポンポンを持ち、短いスカートを履き、真っ赤なノースリーブを着たかなみがそこにいた。大きなポンポンで自分の胸元を隠すようにしている。
「大変可愛いですね!」
「うっ……か、可愛いとか言うなっ、ばかっ!」
かなみは真っ赤になりながら俺をげしげし叩いた。しかし、ポンポンは応援には適していても攻撃には向いてないようで、俺のダメージは0だ!
「いやはや。もう既にかなみのチアガール姿で俺のやる気メーターは大分回復したが、これに応援が伴うと俺のやる気メーターは天井知らずになるのでお願いします」
「回復したんでしょ? じゃあやんない」
「衝撃の発言におしっこが漏れそうだ」
「幼児かッ!」
「ていうかお願いします応援してください。土下座? 任せろ、得意だ」
「土下座なんかされても嬉しくないッ!」
一切の躊躇なく土下座したのに、かなみときたら全く応援してくれない。
「ここまでしてもダメとは。これはもういっそおしっこを漏らすべきか……?」
「漏らすなッ! ……そ、そんなにあたしに応援してほしいの?」
「そりゃ勿論。そのためだけに俺は今ここにいるのだから」
「……ふ、ふーん。そなんだ。……あたしのためなんだ」
なぜか知らないが、かなみは頬を染めながらゴニョゴニョ呟いた。そんなにチアガール姿が恥ずかしいのだろうか。
「……わ、分かった。覚悟決める。でっ、でも、応援した姿見て笑ったりしたら殺すわよ!?」
「笑いません」
ガクガク震えながら答える。このチアガール超怖え。
「そ、そう。……じゃ、やるわよ?」
「お、おう」
「……ふ、ふぁいと」
「…………」
俺の前までちょこちょこやって来ると、かなみはポンポンを小さく揺らしながらぽしょぽしょと俺を応援した。
「が、がんばれー。ふぁいとー」
「…………」
「え、えっと。元気、出た?」
ちょこんと小首を傾げつつ、かなみは俺に訊ねた。
「超!」
「ひっ!?」
「超! 元気! が! 出た!」
「そ、そう。それならよかった」
「今なら空だって飛べそうな! ……いや、飛べる! よしかなみ、ちょっと屋上からFly Highってくるので見てて!」
「それただの自殺! 飛べないから行くな、馬鹿!」
「いやまあそれくらい元気が出たってことですよ! 本当にありがとう、かなみ! お前の応援に感謝する!」
「え、あ、そ、そこまで感謝されたらアレなんだけど……そ、そんな嬉しかったの?」
「それはもう! ここ数年来で一番嬉しかった!」
「こんなのが一番って、アンタの人生結構哀れなのね……」
失礼なことを言われている気がする。
「まあとにかくまた練習してくる! ありがとな、かなみ!」
「そ、そう。……んじゃ、まあ、仕方ないから、あたしが引き続き応援してあげ」
「……あ、おにーさん」
すぐ横から聞き覚えのある声がした。学校と外を隔てる金網の向こうに、知り合いの中学生であるふみがいた。慌ててそちらへ駆け寄る。
「よう、ふみ。学校帰りか? それとも探し物か? なかなか見つからないか? それより僕と一緒に踊りませんか?」
「……うふーふーうふーふーうふーふー?」
この娘は俺と似た感性を持っているので、一緒にいて楽しい。時折(でもないが)辛らつな言葉を投げかけられるのを抜きにすると。
「……まあ、おにーさんと一緒に踊るのはともかくとして、おにーさんの背後にいるおもしろ格好をしているおねーさんが鬼もかくやと思えるほどの形相をしているので、私は逃げます」
とてとてとふみはゆっくり逃げていった。なんだかすごく振り向きたくないよバーニィ。
「……え、ええと。それで、何の話だっけ、かなみ?」
「知らないわよっ、馬鹿ッ!」
俺の口の中にポンポンを詰め、かなみは足音も荒く校舎に入って行ってしまった。
「もがもが……もがもがもが」
「ふーんふーん……ひっ、見たら死ぬ系の妖怪!? はわ、はわわわわ!?」
偶然通りがかった大谷先生が悪戦苦闘しながらポンポンを取り出そうとする俺を見て腰を抜かしていた。
【ツンデレと一緒に祭りに行ったら】
2010年09月02日
今日は祭りなので、光に誘われる正の光走性を持つ俺としては行かざるを得ない。でも、一人で行ったら途中で寂しくなって泣きながら帰る可能性があるので、かなみを誘ってみた。ぴぽぱぽ、ぷるるるる。
「今すぐ来い」
『何の話よっ』
怒られたので、簡単に説明してみる。
『なるほどね……で、なんであたしがアンタなんかと一緒にお祭りに行かなくちゃいけないのよ』
「おごってやるから。100円分だけ」
『最近のお祭りじゃ100円じゃ何もできないわよっ!』
「じゃあ200円」
『それでも一緒! 最低400円はいるわよ!』
「しょうがない。それで勘弁してやろう」
『わーい……って、アンタがあたしに頼んでるの!』
「さっきのノリつっこみを友人連中に吹聴されたくなければ、大人しく俺と一緒にお祭りを楽しめ」
『脅迫されて楽しめるわけないでしょ、ばかっ!』
それでも一応やってきたかなみはいい奴だと思う。
「まったくもぉ……なんであたしがアンタなんかと一緒に」
「とか言ってる割に、がっつり浴衣着てますよね」
待ち合わせた場所にいたかなみは、目にも鮮やかな浴衣を身に纏っていた。向日葵の模様がかなみらしい。
「わ、悪い? い、言っとくけどね、アンタに見せるために着たんじゃないからね! 今年一回も着てなかったから、折角だし着ておこうかなーって思っただけなんだから!」
「叫ぶな。耳が痛い」
「誰が叫ばしてんのよっ!」
「んじゃ、早速屋台を冷やかそうではないか」
「あっ、待ちなさいよ馬鹿。こっちはサンダルなんだから」
「そう言いながら、かなみはペンギンみたいにぺったらぺったら寄ってきた。ペンギンそのものなら可愛いのに、実際にはかなみなので残念な感じだ」
「それは悪かったわねッ!」
全力で頬をつねられ痛い痛い。
「アンタみたいに無粋を固めた普段着じゃなくて、こっちは浴衣なの。ちょっとくらいゆっくり歩いてくれても罰は当たらないわよ?」
「でも、かなみと肩を並べてゆっくり歩いたりなんてしたら恋人同士じゃないかと友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「途中からときメモになってる! ていうか、アンタが普段からそーゆーことばっか言うから、あたしまでそーゆーオタクっぽいネタに詳しくなっちゃったじゃない! どーしてくれんのよっ!」
「今後も色々仕入れておきます」
「そういう話じゃないっ!」
「じゃ、そろそろ行こっか」
「だから、ゆっくり歩……いてるわね。わ、分かってるならいいのよ、うん」
かなみと一緒にゆっくり街中を歩く。屋台の明かりがかなみの横顔を照らしていた。
「わー……久しぶりだけど、なんかいるだけで楽しいわね、お祭りって」
「折角だからなんか食うか? わたあめとか」
「んー……まだいい。とりあえず、色々見てまわろ?」
「あ、ああ」
にっこり笑われたりしたら、こっちの調子が崩れます。平常心平常心……よし、大丈夫。
「それにしても、人多いわねー」
「祭りだからなあ。はぐれないように気をつけろよ? はぐれたら放送で呼び出してもらうからな」
「……アンタに呼び出された日には、とんでもないことになりそうね」
かなみはうんざりした顔で俺を見た。期待には応えなければならないだろう。
「お前には分かりやすい記号が沢山あるから期待していいぞ。貧乳八重歯ツインテール、そういったキーワードを盛り込む予定だ」
「ねー、いま死ぬのとあとで死ぬの、どっちがいーい?」
「あとでお願いします」
「ん♪ あとですごく酷い目に遭わせるからね♪」
とんでもないことになってしまった。
「……はぁ。そ、それにしても本当人が多いわね」
「ああ、確かにな」
「は、はぐれたりしちゃったら困るわよね」
「? だから、そうしたら放送してもらって」
「そ、そうならないために、どうにかしたらはぐれないで済むわよね?」
「どうにか……首輪?」
「なんでいの一番にそれが思いつくっ! 普通手を繋ぐでしょ、こーゆー場合!」
「ああ。なるほど」
「なっ、何よそのしたり顔! 誰もアンタなんかと手を繋ぎたいなんて言ってないわよ! ふ、ふざけないでよっ! 誰が繋ぐもんですかっ!」
「でも、はぐれたら困るからな」
わにゃわにゃ言ってたが、こっちの心が折れる前にかなみと手を繋ぐ。
「う……」
「まあ、アレだ。役得だ」
「は、はぁ? なんだってあたしがアンタと手を繋げてラッキーって思わなくちゃいけないのよっ!」
「なんでお前が思うんだ。俺だよ。俺がお前と手を繋げてラッキーに決まってるだろ」
「え、あ、そ、そうよね。あ、あはは……」
何をあせってるのか。よく分からん奴だ。
「……ね、ねぇ。アンタはあたしと手を繋げて嬉しいの?」
「当然だろ」
「と、当然なんだ。……そなんだ。……嬉しいんだ。……へへっ、そっか」
かなみはこっそりニマニマしつつ、俺と繋いだ手を軽く振った。
「ねーねー。あたしと手繋げて嬉しい?」
「だから、嬉しいと言ってるだろ」
「役得?」
「役得だっての」
「……へへー♪」
「ものすげー嬉しそうですね」
「ぜ、ぜーんぜん! アンタなんかと手繋がなきゃいけないなんて、ほんっと最悪! ……ほ、ホントに最悪。……さ、さいあく♪」
ちらちらと繋がれた手を見ては頬を緩めてるくせに、何を言ってるのかね、このお嬢さんは。
「あ、たこ焼き! ねーねー、おごって?」
「んー……まあいいか。おっちゃん、一個おくれ」
「あいよっ。いいねぇ兄ちゃん、可愛い彼女連れて」
調子のよさそうなおっちゃんが俺と手を繋いでるかなみを見て軽口を叩いた。
「だっ、誰が彼女よ、誰がっ!」
「全くだ。こいつは一見可愛い彼女だが、実は男の娘なんだっ!?」
全力で足を踏み抜かれた。地響きで屋台に吊るしてあるランプが揺れた。
「あ、あと、信じられないほど暴力的なんだっ!?」
もう片方の足も被害に遭った。屋台自体が軽く揺れた。
「……は、はい、たこ焼きおまち。御代は……半額でいいや」
俺の隣にいる鬼に過剰に怯えてるおっちゃんに金を払い、物を手に入れる。
「まったく! 何考えてんのよアンタは! あたしのどこが男だってのよ!」
「可愛い彼女連れてとか言われて有頂天になったんだ」
「有頂天になった末の行動じゃないっ! ……まあ、安く買えたからいいけどね。ね、どこで食べよっか?」
「んー……あ、そこの公園で食おう」
通りがかった公園の中に入る。やはり祭りとあってそれなりの人数がいたが、それでも先ほどまでいた通りと比べると多少はマシだ。
「んーと……あ、そこのベンチが空いてる。あっこに座ろ?」
「おーけー」
近くのベンチに二人して腰掛ける。狭いので肩と肩がぶつかる距離だ。
「んー、狭いわね……アンタもっと向こう行きなさいよ」
「もう既に半分尻が浮いてる状態で、さらに向こうへ行けと? 相変わらず無茶を言う。空中浮遊のスキルを手に入れたら向こうに行くから、それまでもう少し待っててくれ」
「一生待っても無理よっ! ていうか、それならもうちょっとこっち来てもいいわよ。あとで文句言われても嫌だし」
そんなわけで、もう少しだけかなみの方へ距離を詰める。肩どころか俺の半身全部がかなみとぶつかっている。あ、髪の香りが……。
「ひ、人の頭嗅ぐな、ばかっ」
俺がくんかくんかしてるのに気づいたのか、かなみは自分のツインテールを両手で持って怒った。
「あ、や、悪い。なんか甘いような、いい匂いがして」
「う……あ、アリガト」
「え、や、まあ」
なんスか、これ。
「……と、とにかくたこ焼き食おう、たこ焼き」
「そ、そうね」
包みを破り、蓋を開ける。まだ湯気が立っており、かつおぶしがうにょろうにょろ踊っていた。
「あ、つまようじが」
「ん? あれ、一本しかないじゃない。あのおじさん、入れ忘れたのね」
これは困った。解決策を一つすぐに思いついたのだが、それは流石に却下。
「……しょ、しょうがないから、共用するしかないわね」
俺の却下した案が知らず可決されていた。
「ん、んじゃ、あたしからね」
かなみはつまようじを持つと、たこ焼きをひとつぷすりと刺し、口の中に入れた。
「ほあっ、あっ、あふっ! ……んぐっ。でも、おいし」
「ほあああふ」
「えい」
「痛いっ!?」
普通につまようじで刺された。この女超怖え。
「人を馬鹿にするからよ。ふん、だ」
「すいません」
「次はアンタがほあああふって言う番よ。はい、あーん」
マジすか。恋人食いするんですか。俺はてっきり交互につまようじを使い合うとばっかり。
「どしたの? はい、あーん」
「あの、かなみ?」
「ほら。早く口開けなさいよ、ばか」
そんな可愛く口を尖らせられては、こちらに抵抗する術はありません。
「……あーん」
「……えへ。そんなにあたしに食べさせてほしいんだ?」
「いや、それほどでも」
「食べさせてほしいって言いなさいよっ!」
「すいません殺さないでください」
「そんな話はしてないっ!」
「あまりの気迫に勘違いしたんだ」
「まったく……アンタっていつだって馬鹿よね。ばか、ばーか」
かなみは楽しそうに俺の頬をつんつんと指で突付いた。
「そんなつもりはないのに」
「えへへー。ほら、食べなさいよ、ばか」
かなみはたこ焼きを俺の前にぷらぷらとさせた。しょうがないので食べようとしたら、ふいっと動かされた。
「残念。ほらほら、こっちよこっち」
右に動かされたので顔を右にするが、今度は左に動かされた。左に動けば右に、右に動けば左に。
「食べられません」
「ほらほら。もっとがんばれ?」
「頑張りたいのは山々なんだが、間違ってかなみの頭から垂れてる昆布を食べちゃいそうで、激しく動けないんだ」
「昆布じゃなくて髪! ツンテールっ! 間違えるの何回目か分かってる!? アンタどれだけ頭悪かったら気が済むのよ!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみだって言ってるでしょうがッ! 次間違ったら絶対殺すッ!」
はるぴーは怖いなあ。
「まったく……ほら、いーから口開けなさい。あーん」
「そんな雑あーんでは俺の心は動かせぬ」
「じゃあ……にゃ、にゃーん?」
ぽっと頬を染めつつ、かなみが猫っぽくなった。
「それは心が動きまくりです。はぐっ……あっ、あふっ!」
「あははっ。熱いでしょ? ざまーみろ」
「はぐはぐ……あふっ、ごくん。いや、熱かったがかなみが猫っぽくなったので全然問題ないので可愛いですね!」(なでなで)
「感想が混乱しすぎ! あ、あと、人の頭勝手になでるな!」
「なでていい?」
「ダメに決まってるでしょっ! ……ち、ちょっとしか」
なんか知らんが許可が出たので、かなみの頭をくりくりなでる。
「……うー」
しかし、なでると唸られるので、なかなかなでりに専念できない。
「ええと。何か気に障ることでも」
「アンタなんかになでられてるってこと自体が気に障るの!」
「む。それならもうやめ」
「でも! それでもなんかちょっと、ほんのちょこっとだけだけど、なんか嬉しいのがそれ以上にムカつくの!」
「それはもう俺にはどうしようもできないよ」
「うー……がおーがおー!」
「いや、意味が分からない」
「いかく!」
「説明されてもやっぱり分からない」
「うるさい! いーからもっとなでなさいよ!」
「おかしなことになったものだ」
「がおーがおー!」
威嚇されたので、くりくりとかなみの頭をなでる。
「んうう……うーみゅ!」
「なんか変な言語を駆使しだしましたね」
「何か言ってないと頭がおかしくなっちゃいそうなの!」
「む。それは大変にいけないのでやっぱなでるのはやめ」
「ない!」
「……はい」
そんなわけで、しばらくかなみの頭をくりくりなでたり変言語を駆使されたりする。それにしても、変言語を駆使するかなみは可愛いと思う。
「……あによ、人の顔をじーっと見て」
「これで口さえ悪くなかったらなあ」
「ぐーぱんち!」
「ぐーぱんちは大変痛いうえ鼻血が出るので、控えていただけると幸いです」
いつものように鼻を拭きながらかなみに伝える。
「うっさい! 口も顔も性格も悪い奴には、人のことをとやかく言う資格なんてないんだから!」
「酷い言い草だ。もう死のうかなあ」
「だ、ダメ! 死ぬのは禁止!」
軽い冗談なのに、かなみは慌てた様子で制止した。
「なんて世知辛い世の中だ。唯一の脱出口を塞がれ、俺はもうどうすれば」
「う、うるさい! アンタなんてあたしに奉仕するしか生きてる意味ないんだから、ずっとあたしにご奉仕してればいいのよ!」
「なんという奴隷制度。でも一生かなみと一緒ならいいかも、なんてちらりと思った俺をどう思うか」
「え、ええっ!? ……き、気持ち悪いこと言うな、ばか!」
「悲しい限りだ。さて、ボチボチ行くか」
かなみをなでつつたこ焼きもつまんでいたので、既にトレイの上には何もない。ゴミ箱にトレイを捨て、戻ってくるとかなみが片手を差し出しつつそっぽを向いていた。
「……ほ、ほら、手。つなぎなさいよ、馬鹿」
「え。えーっと」
「ま、迷子になったら嫌だし! 他意なんかあるはずないし! ……い、いいから早くしろ、ばか!」
「は、はい」
慌てて手を取ると、かなみは立ち上がった。だが、こちらを見ようとしない。
「……い、一生なんてありえないけど、まあ、とりあえず、祭りの間は一緒にいてあげる」
「そ、そか。祭り限定とはいえ、嬉しい限りだ」
「……う、うぅー!」
「なんで俺は頬をつねられてるの?」
「うっさい! ほら、行くわよばか!」
かなみに手を引っ張られ、俺たちは再び祭りの中へ駆けていくのだった。
「今すぐ来い」
『何の話よっ』
怒られたので、簡単に説明してみる。
『なるほどね……で、なんであたしがアンタなんかと一緒にお祭りに行かなくちゃいけないのよ』
「おごってやるから。100円分だけ」
『最近のお祭りじゃ100円じゃ何もできないわよっ!』
「じゃあ200円」
『それでも一緒! 最低400円はいるわよ!』
「しょうがない。それで勘弁してやろう」
『わーい……って、アンタがあたしに頼んでるの!』
「さっきのノリつっこみを友人連中に吹聴されたくなければ、大人しく俺と一緒にお祭りを楽しめ」
『脅迫されて楽しめるわけないでしょ、ばかっ!』
それでも一応やってきたかなみはいい奴だと思う。
「まったくもぉ……なんであたしがアンタなんかと一緒に」
「とか言ってる割に、がっつり浴衣着てますよね」
待ち合わせた場所にいたかなみは、目にも鮮やかな浴衣を身に纏っていた。向日葵の模様がかなみらしい。
「わ、悪い? い、言っとくけどね、アンタに見せるために着たんじゃないからね! 今年一回も着てなかったから、折角だし着ておこうかなーって思っただけなんだから!」
「叫ぶな。耳が痛い」
「誰が叫ばしてんのよっ!」
「んじゃ、早速屋台を冷やかそうではないか」
「あっ、待ちなさいよ馬鹿。こっちはサンダルなんだから」
「そう言いながら、かなみはペンギンみたいにぺったらぺったら寄ってきた。ペンギンそのものなら可愛いのに、実際にはかなみなので残念な感じだ」
「それは悪かったわねッ!」
全力で頬をつねられ痛い痛い。
「アンタみたいに無粋を固めた普段着じゃなくて、こっちは浴衣なの。ちょっとくらいゆっくり歩いてくれても罰は当たらないわよ?」
「でも、かなみと肩を並べてゆっくり歩いたりなんてしたら恋人同士じゃないかと友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「途中からときメモになってる! ていうか、アンタが普段からそーゆーことばっか言うから、あたしまでそーゆーオタクっぽいネタに詳しくなっちゃったじゃない! どーしてくれんのよっ!」
「今後も色々仕入れておきます」
「そういう話じゃないっ!」
「じゃ、そろそろ行こっか」
「だから、ゆっくり歩……いてるわね。わ、分かってるならいいのよ、うん」
かなみと一緒にゆっくり街中を歩く。屋台の明かりがかなみの横顔を照らしていた。
「わー……久しぶりだけど、なんかいるだけで楽しいわね、お祭りって」
「折角だからなんか食うか? わたあめとか」
「んー……まだいい。とりあえず、色々見てまわろ?」
「あ、ああ」
にっこり笑われたりしたら、こっちの調子が崩れます。平常心平常心……よし、大丈夫。
「それにしても、人多いわねー」
「祭りだからなあ。はぐれないように気をつけろよ? はぐれたら放送で呼び出してもらうからな」
「……アンタに呼び出された日には、とんでもないことになりそうね」
かなみはうんざりした顔で俺を見た。期待には応えなければならないだろう。
「お前には分かりやすい記号が沢山あるから期待していいぞ。貧乳八重歯ツインテール、そういったキーワードを盛り込む予定だ」
「ねー、いま死ぬのとあとで死ぬの、どっちがいーい?」
「あとでお願いします」
「ん♪ あとですごく酷い目に遭わせるからね♪」
とんでもないことになってしまった。
「……はぁ。そ、それにしても本当人が多いわね」
「ああ、確かにな」
「は、はぐれたりしちゃったら困るわよね」
「? だから、そうしたら放送してもらって」
「そ、そうならないために、どうにかしたらはぐれないで済むわよね?」
「どうにか……首輪?」
「なんでいの一番にそれが思いつくっ! 普通手を繋ぐでしょ、こーゆー場合!」
「ああ。なるほど」
「なっ、何よそのしたり顔! 誰もアンタなんかと手を繋ぎたいなんて言ってないわよ! ふ、ふざけないでよっ! 誰が繋ぐもんですかっ!」
「でも、はぐれたら困るからな」
わにゃわにゃ言ってたが、こっちの心が折れる前にかなみと手を繋ぐ。
「う……」
「まあ、アレだ。役得だ」
「は、はぁ? なんだってあたしがアンタと手を繋げてラッキーって思わなくちゃいけないのよっ!」
「なんでお前が思うんだ。俺だよ。俺がお前と手を繋げてラッキーに決まってるだろ」
「え、あ、そ、そうよね。あ、あはは……」
何をあせってるのか。よく分からん奴だ。
「……ね、ねぇ。アンタはあたしと手を繋げて嬉しいの?」
「当然だろ」
「と、当然なんだ。……そなんだ。……嬉しいんだ。……へへっ、そっか」
かなみはこっそりニマニマしつつ、俺と繋いだ手を軽く振った。
「ねーねー。あたしと手繋げて嬉しい?」
「だから、嬉しいと言ってるだろ」
「役得?」
「役得だっての」
「……へへー♪」
「ものすげー嬉しそうですね」
「ぜ、ぜーんぜん! アンタなんかと手繋がなきゃいけないなんて、ほんっと最悪! ……ほ、ホントに最悪。……さ、さいあく♪」
ちらちらと繋がれた手を見ては頬を緩めてるくせに、何を言ってるのかね、このお嬢さんは。
「あ、たこ焼き! ねーねー、おごって?」
「んー……まあいいか。おっちゃん、一個おくれ」
「あいよっ。いいねぇ兄ちゃん、可愛い彼女連れて」
調子のよさそうなおっちゃんが俺と手を繋いでるかなみを見て軽口を叩いた。
「だっ、誰が彼女よ、誰がっ!」
「全くだ。こいつは一見可愛い彼女だが、実は男の娘なんだっ!?」
全力で足を踏み抜かれた。地響きで屋台に吊るしてあるランプが揺れた。
「あ、あと、信じられないほど暴力的なんだっ!?」
もう片方の足も被害に遭った。屋台自体が軽く揺れた。
「……は、はい、たこ焼きおまち。御代は……半額でいいや」
俺の隣にいる鬼に過剰に怯えてるおっちゃんに金を払い、物を手に入れる。
「まったく! 何考えてんのよアンタは! あたしのどこが男だってのよ!」
「可愛い彼女連れてとか言われて有頂天になったんだ」
「有頂天になった末の行動じゃないっ! ……まあ、安く買えたからいいけどね。ね、どこで食べよっか?」
「んー……あ、そこの公園で食おう」
通りがかった公園の中に入る。やはり祭りとあってそれなりの人数がいたが、それでも先ほどまでいた通りと比べると多少はマシだ。
「んーと……あ、そこのベンチが空いてる。あっこに座ろ?」
「おーけー」
近くのベンチに二人して腰掛ける。狭いので肩と肩がぶつかる距離だ。
「んー、狭いわね……アンタもっと向こう行きなさいよ」
「もう既に半分尻が浮いてる状態で、さらに向こうへ行けと? 相変わらず無茶を言う。空中浮遊のスキルを手に入れたら向こうに行くから、それまでもう少し待っててくれ」
「一生待っても無理よっ! ていうか、それならもうちょっとこっち来てもいいわよ。あとで文句言われても嫌だし」
そんなわけで、もう少しだけかなみの方へ距離を詰める。肩どころか俺の半身全部がかなみとぶつかっている。あ、髪の香りが……。
「ひ、人の頭嗅ぐな、ばかっ」
俺がくんかくんかしてるのに気づいたのか、かなみは自分のツインテールを両手で持って怒った。
「あ、や、悪い。なんか甘いような、いい匂いがして」
「う……あ、アリガト」
「え、や、まあ」
なんスか、これ。
「……と、とにかくたこ焼き食おう、たこ焼き」
「そ、そうね」
包みを破り、蓋を開ける。まだ湯気が立っており、かつおぶしがうにょろうにょろ踊っていた。
「あ、つまようじが」
「ん? あれ、一本しかないじゃない。あのおじさん、入れ忘れたのね」
これは困った。解決策を一つすぐに思いついたのだが、それは流石に却下。
「……しょ、しょうがないから、共用するしかないわね」
俺の却下した案が知らず可決されていた。
「ん、んじゃ、あたしからね」
かなみはつまようじを持つと、たこ焼きをひとつぷすりと刺し、口の中に入れた。
「ほあっ、あっ、あふっ! ……んぐっ。でも、おいし」
「ほあああふ」
「えい」
「痛いっ!?」
普通につまようじで刺された。この女超怖え。
「人を馬鹿にするからよ。ふん、だ」
「すいません」
「次はアンタがほあああふって言う番よ。はい、あーん」
マジすか。恋人食いするんですか。俺はてっきり交互につまようじを使い合うとばっかり。
「どしたの? はい、あーん」
「あの、かなみ?」
「ほら。早く口開けなさいよ、ばか」
そんな可愛く口を尖らせられては、こちらに抵抗する術はありません。
「……あーん」
「……えへ。そんなにあたしに食べさせてほしいんだ?」
「いや、それほどでも」
「食べさせてほしいって言いなさいよっ!」
「すいません殺さないでください」
「そんな話はしてないっ!」
「あまりの気迫に勘違いしたんだ」
「まったく……アンタっていつだって馬鹿よね。ばか、ばーか」
かなみは楽しそうに俺の頬をつんつんと指で突付いた。
「そんなつもりはないのに」
「えへへー。ほら、食べなさいよ、ばか」
かなみはたこ焼きを俺の前にぷらぷらとさせた。しょうがないので食べようとしたら、ふいっと動かされた。
「残念。ほらほら、こっちよこっち」
右に動かされたので顔を右にするが、今度は左に動かされた。左に動けば右に、右に動けば左に。
「食べられません」
「ほらほら。もっとがんばれ?」
「頑張りたいのは山々なんだが、間違ってかなみの頭から垂れてる昆布を食べちゃいそうで、激しく動けないんだ」
「昆布じゃなくて髪! ツンテールっ! 間違えるの何回目か分かってる!? アンタどれだけ頭悪かったら気が済むのよ!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみだって言ってるでしょうがッ! 次間違ったら絶対殺すッ!」
はるぴーは怖いなあ。
「まったく……ほら、いーから口開けなさい。あーん」
「そんな雑あーんでは俺の心は動かせぬ」
「じゃあ……にゃ、にゃーん?」
ぽっと頬を染めつつ、かなみが猫っぽくなった。
「それは心が動きまくりです。はぐっ……あっ、あふっ!」
「あははっ。熱いでしょ? ざまーみろ」
「はぐはぐ……あふっ、ごくん。いや、熱かったがかなみが猫っぽくなったので全然問題ないので可愛いですね!」(なでなで)
「感想が混乱しすぎ! あ、あと、人の頭勝手になでるな!」
「なでていい?」
「ダメに決まってるでしょっ! ……ち、ちょっとしか」
なんか知らんが許可が出たので、かなみの頭をくりくりなでる。
「……うー」
しかし、なでると唸られるので、なかなかなでりに専念できない。
「ええと。何か気に障ることでも」
「アンタなんかになでられてるってこと自体が気に障るの!」
「む。それならもうやめ」
「でも! それでもなんかちょっと、ほんのちょこっとだけだけど、なんか嬉しいのがそれ以上にムカつくの!」
「それはもう俺にはどうしようもできないよ」
「うー……がおーがおー!」
「いや、意味が分からない」
「いかく!」
「説明されてもやっぱり分からない」
「うるさい! いーからもっとなでなさいよ!」
「おかしなことになったものだ」
「がおーがおー!」
威嚇されたので、くりくりとかなみの頭をなでる。
「んうう……うーみゅ!」
「なんか変な言語を駆使しだしましたね」
「何か言ってないと頭がおかしくなっちゃいそうなの!」
「む。それは大変にいけないのでやっぱなでるのはやめ」
「ない!」
「……はい」
そんなわけで、しばらくかなみの頭をくりくりなでたり変言語を駆使されたりする。それにしても、変言語を駆使するかなみは可愛いと思う。
「……あによ、人の顔をじーっと見て」
「これで口さえ悪くなかったらなあ」
「ぐーぱんち!」
「ぐーぱんちは大変痛いうえ鼻血が出るので、控えていただけると幸いです」
いつものように鼻を拭きながらかなみに伝える。
「うっさい! 口も顔も性格も悪い奴には、人のことをとやかく言う資格なんてないんだから!」
「酷い言い草だ。もう死のうかなあ」
「だ、ダメ! 死ぬのは禁止!」
軽い冗談なのに、かなみは慌てた様子で制止した。
「なんて世知辛い世の中だ。唯一の脱出口を塞がれ、俺はもうどうすれば」
「う、うるさい! アンタなんてあたしに奉仕するしか生きてる意味ないんだから、ずっとあたしにご奉仕してればいいのよ!」
「なんという奴隷制度。でも一生かなみと一緒ならいいかも、なんてちらりと思った俺をどう思うか」
「え、ええっ!? ……き、気持ち悪いこと言うな、ばか!」
「悲しい限りだ。さて、ボチボチ行くか」
かなみをなでつつたこ焼きもつまんでいたので、既にトレイの上には何もない。ゴミ箱にトレイを捨て、戻ってくるとかなみが片手を差し出しつつそっぽを向いていた。
「……ほ、ほら、手。つなぎなさいよ、馬鹿」
「え。えーっと」
「ま、迷子になったら嫌だし! 他意なんかあるはずないし! ……い、いいから早くしろ、ばか!」
「は、はい」
慌てて手を取ると、かなみは立ち上がった。だが、こちらを見ようとしない。
「……い、一生なんてありえないけど、まあ、とりあえず、祭りの間は一緒にいてあげる」
「そ、そか。祭り限定とはいえ、嬉しい限りだ」
「……う、うぅー!」
「なんで俺は頬をつねられてるの?」
「うっさい! ほら、行くわよばか!」
かなみに手を引っ張られ、俺たちは再び祭りの中へ駆けていくのだった。
【寝てる間に『おはようのちゅー』をしようとする新妻ツンデレ】
2010年08月27日
あっちいので目覚ましが鳴るより早く目が覚めた。ここは一つ近所の子供に混じってラジオ体操でもしつつ子供を視姦したいなあうへへへと思いつつ目を開けたら、なんかすぐ目の前にかなみの顔が。
「……お、おはよう」
とりあえず挨拶してみる。
「なっ、なんで起きてるのよ!?」
すると、なんだか狼狽されたので申し訳ないと思った。よし、ここはひとつ適当言って笑わせてみよう!
「いや、これは全て俺の夢の中での出来事なので、寝るも起きるもないんだ。現実では未だ俺とかなみは結婚はおろか、お互いに嫌い合ってるんだ」
「え……うそ、やだ」
笑うどころか、かなみの顔がみるみる真っ青になっていく。これは大変にいけないと思ったので、ここでネタばらし。
「でもそれも嘘で、本当は学生婚をしていてまだ新婚ほやほやなんだ」
「う……へ、変な嘘つくなっ、ばかっ!」
「げはあっ!?」
朝っぱらから腹に突きは死ぬほど辛いです。衝撃がどこにも逃げないので超痛え。
「……いたい?」
「内臓が口から飛び出るんじゃないかと危惧しちゃう程度には!」
「じゃ、これは夢じゃなくて、ちゃんと結婚してるのよね?」
「そうです」
「そ、そっか。……あーあ、夢だったらよかったのになー。なんでアンタなんかと結婚なんてしちゃったんだろ。うりうり」
かなみは楽しそうに俺の鼻をむいむいと引っ張った。
「やめれ」
「へへー、やめなーい♪」
「やめないとちゅーするぞ」
「う……き、昨日あんなにしたのに、朝からするの? ほ、本当アンタってけだものよね」
「ああ、毛だもの」
「なんかあたしが言ってるのと違う!」
何故分かる。
「毛だもの みつを」
「やっぱそっちか! みつを禁止!」
「そんなぁ! もうパーマンを読めないだなんて!」
「みつお違い! そっちのみつおはどーでもいい!」
「朝からなんの話でしょうか」
「わかんないわよ! わかんないけど……うう、やっぱアンタといると楽しい! どーしてくれんのよ!」
「なんで怒られてるの?」
「悔しいの! アンタなんかと一緒で楽しい自分が!」
「難儀な話だな。ふああ……あー、完全に目が覚めた。ご飯食べよっか。何食いたい?」
「高級フレンチ」
「…………」
「半泣きで貯金通帳を探すなッ! 嘘に決まってるでしょ! いーわよ、パンで」
「いつかは高級ふれんちにでも連れて行ってあげたいが、今はこれで精一杯」
「へ?」
かなみのほっぺにちゅっとキスする。
「…………」
「ふああ……さて、飯食うか。そろそろ宿題しなくちゃなあ……ああ、面倒くさい」
「……こっ、こんなの嬉しくともなんともないんだからねっ! ちょっと、聞いてる!?」
「あーはいはい」
「聞いてない! ちっとも聞いてない! いい!? ちっとも嬉しくなんてないんだからねっ!」
「あーほりゃほりゃ」
「ばっかにしてえ! 違うんだからねっ! わ、笑っちゃってるのは別に嬉しいとかじゃないんだから! なんか顔が戻らないだけなんだからねっ!」
後ろからぎゃーぎゃー文句言ってる嫁を引き連れ、俺は食卓に向かうのだった。
「……お、おはよう」
とりあえず挨拶してみる。
「なっ、なんで起きてるのよ!?」
すると、なんだか狼狽されたので申し訳ないと思った。よし、ここはひとつ適当言って笑わせてみよう!
「いや、これは全て俺の夢の中での出来事なので、寝るも起きるもないんだ。現実では未だ俺とかなみは結婚はおろか、お互いに嫌い合ってるんだ」
「え……うそ、やだ」
笑うどころか、かなみの顔がみるみる真っ青になっていく。これは大変にいけないと思ったので、ここでネタばらし。
「でもそれも嘘で、本当は学生婚をしていてまだ新婚ほやほやなんだ」
「う……へ、変な嘘つくなっ、ばかっ!」
「げはあっ!?」
朝っぱらから腹に突きは死ぬほど辛いです。衝撃がどこにも逃げないので超痛え。
「……いたい?」
「内臓が口から飛び出るんじゃないかと危惧しちゃう程度には!」
「じゃ、これは夢じゃなくて、ちゃんと結婚してるのよね?」
「そうです」
「そ、そっか。……あーあ、夢だったらよかったのになー。なんでアンタなんかと結婚なんてしちゃったんだろ。うりうり」
かなみは楽しそうに俺の鼻をむいむいと引っ張った。
「やめれ」
「へへー、やめなーい♪」
「やめないとちゅーするぞ」
「う……き、昨日あんなにしたのに、朝からするの? ほ、本当アンタってけだものよね」
「ああ、毛だもの」
「なんかあたしが言ってるのと違う!」
何故分かる。
「毛だもの みつを」
「やっぱそっちか! みつを禁止!」
「そんなぁ! もうパーマンを読めないだなんて!」
「みつお違い! そっちのみつおはどーでもいい!」
「朝からなんの話でしょうか」
「わかんないわよ! わかんないけど……うう、やっぱアンタといると楽しい! どーしてくれんのよ!」
「なんで怒られてるの?」
「悔しいの! アンタなんかと一緒で楽しい自分が!」
「難儀な話だな。ふああ……あー、完全に目が覚めた。ご飯食べよっか。何食いたい?」
「高級フレンチ」
「…………」
「半泣きで貯金通帳を探すなッ! 嘘に決まってるでしょ! いーわよ、パンで」
「いつかは高級ふれんちにでも連れて行ってあげたいが、今はこれで精一杯」
「へ?」
かなみのほっぺにちゅっとキスする。
「…………」
「ふああ……さて、飯食うか。そろそろ宿題しなくちゃなあ……ああ、面倒くさい」
「……こっ、こんなの嬉しくともなんともないんだからねっ! ちょっと、聞いてる!?」
「あーはいはい」
「聞いてない! ちっとも聞いてない! いい!? ちっとも嬉しくなんてないんだからねっ!」
「あーほりゃほりゃ」
「ばっかにしてえ! 違うんだからねっ! わ、笑っちゃってるのは別に嬉しいとかじゃないんだから! なんか顔が戻らないだけなんだからねっ!」
後ろからぎゃーぎゃー文句言ってる嫁を引き連れ、俺は食卓に向かうのだった。
【ツンデレから夜中に電話が掛かって来て、今何してるって聞かれたら】
2010年08月20日
夜は寝るタイプの人間なのでぐっすりすやすや寝てたら、突然携帯の野郎がぷるるるるって! さしもの俺もこれは許せないと思ったので説教したのだが、携帯は物なので叱られても堪えないと気づいたのは数分後。
「でもまあ寝ぼけてたからしょうがないと思わないか?」
『なんの話よッ!』
とりあえず俺に電話をかけてきた奴に思いの猛りを伝えたら怒られた。
『まあいいわ、アンタが突拍子のない馬鹿ってのはいつものことだし。あのさ、今なにしてるの?』
「寝てた」
『あ、あはは……ま、まあいいわよね? どーせアンタのことだから、昼も寝てるから眠くないだろうし』
「昼は部屋の気温が38度を記録しているので、寝るどころか生命を維持させるだけで精一杯です」
『外より暑いじゃないの! どーいうことよそれ!?』
「俺に怒られても困る。ていうか、どなた?」
電話の向こうで盛大にこける音が響いた。
「分かった、吉本新喜劇の人だ。ポコポコヘッドやって」
『違わいっ! あたしよ、かなみよ! てか、電話受ける前に確認するでしょ! 普通!』
「寝ぼけてたんで何も見ずに受けたんだ」
『今日もミラクルに馬鹿ね』
「奇跡的な馬鹿なのか、俺」
『そうよ。知らなかったの?』
「なんて残酷な真実なんだ。だがよく教えてくれた、ありがとう。じゃ、おやすみ」
『待って待って待って! 切らないで!』
「なんだ。俺は依然眠いので眠りたいのだが」
『え、えっとね? あたしさ、なんか眠くないのよ。だから、なんか話してよ。アンタお得意の全く中身がないけど、面白い話を』
「ひどい言い様だな。まあいいか、じゃあ猿夢でも」
『それ怖い話でしょ! あたし知ってるもん! ていうか思い出した! べ、別に怖くはないけど、寝るのちょっとアレじゃない! どうしてくれるのよ!?』
「とても可哀想にと思いました」
『超他人事!』
「はっはっは」
『笑うなーっ!』
「かなみは愉快だなあ。じゃ、お休み」
『だからっ、切るなっ! 今切られたら怖……じゃない、な、なんか暇だからあたしが困るじゃない!』
「怖いなら仕方ないな」
『こっ、怖くなんてないわよっ! 子供じゃないんだから!』
「…………」
『な、何よ。ホントよ!?』
「…………」
『な、何か喋りなさいよ。ね、ねえ!』
「……ふう。かなみ、さっき悪夢を見る呪いをかけておいたので、安心して眠ってくれ」
『超余計なことすんな、ばかーっ!』
「いや、怖くないと言っていたので、ならばとささやかな老婆心で」
『嘘だろうケド、嘘に決まってるだろうケド! なんか寝るの嫌になっちゃったじゃない! どーしてくれんのよ、ばかーっ!』
「夜も深いのだからあまり叫ぶな」
『うっさい! 誰が叫ばしてんのよ! もーっ! しかもなんかちょっと眠くなってきちゃったし! もーっ!』
「夢の中で君も猿と一緒にミンチ! ヤッタネ♪」
『嫌なこと言うな、ばかあっ! ……うーっ! 決めた! アンタ、今からあたしの家に来なさい!』
「はい?」
『アンタが余計なこと言ったせいで寝らんなくなっちゃったじゃないの! 責任取りなさいよね!』
「いや、責任と言われても。てか、行った所でどう責任を取るというのだ」
『アンタの馬鹿面見てないと落ち着かないって言ってるの!』
「しかし、俺の顔はいつだって美男子だから、行った所で何の役に立てるのか疑問だぞ?」
『いーから早く来いっ! あ、あと電話は切っちゃダメだからね! 切ったら怒るからね!』
「超めんどくさいです」
『……い、いーわよ。一人でがんばるもん』
「……はぁ。分かったよ、着替えるから少し待ってろ」
我ながら人が良すぎる。というか、俺のせいで怖がらせてしまったのだから、行くのが当然か。それでもめんどくさいなあ。
『う、うん。で、でも早く来ないとダメだからね!? 怒るからね!』
「怒られるのは嫌だから行くの躊躇するなあ」
『怒らないから早く来いっ!』
「もう既に怒られている気がする」
文句を言いながらも着替えて家を出る。鼻歌代わりに般若心境を唱えて超怒られてると、かなみの家に着いた。
「着いたぞ。鍵開けて」
『わ、分かった』
家の中からわずかな物音がする。
「これでドア開けたら俺じゃなくて血まみれの包丁持ったサラリーマンがいたら超怖いよな」
『余計なこと言うなっ! あっ……あ、あと、人を叫ばすな、馬鹿。みんな起きちゃうじゃない』
それからほどなく、ドアがゆっくりと開いた。そして、その隙間からかなみが恐る恐る顔を出した。きょろきょろと周辺を見回している。
「おす」
「お、おす。……サラリーマン、いない?」
「いるか、馬鹿」
挨拶代わりにかなみの頭をわしわしなでながら答える。
「馬鹿じゃないわよ。馬鹿じゃないもん。馬鹿はアンタよ」
言葉だけは怒りながらも、かなみは少しだけ嬉しそうに頭をなでられていた。
「んじゃ、とっとと入れて。早くしないとサラリーマンに追いつかれる」
「嫌な嘘つくなっ、ばかっ!」
それでもさっきより入念に周辺をきょろきょろしてから、かなみは俺を家にいれてくれた。暗い廊下を抜け、かなみの部屋に辿り着く。
「ふー……」
落ち着いたように、かなみはベッドに座って深く息を吐いた。
「で、俺は何をしたらいいんでしょうか」
「あたしが寝るまで話し相手してて」
薄い布団を頭まですっぽりかぶり、かなみはぴょこんと顔だけ出した。
「へへー。怖くない♪」
「…………」
「ん? どしたの、鼻つまんで」
「……いや」
これが計算だとしたら将来女優になったらいいし、そうじゃないなら俺は頭がおかしくなります。
「かなみ、顔中べろべろ舐めていい?」
「ド変態ッ!」
ほらみろ、おかしいだろ。
「まったく……変態だし馬鹿だし、アンタ最低よね」
「悲しくなるばかりです」
「あははっ。……あのね、えとね。……あんがとね、わざわざ来てくれて」
……びっくりした。よもや歩く傍若無人のかなみが礼を言うだなんて。
「ほ、ほら! ほとんどアンタのせいとはいえ、こんな夜中に文句も言わずに来てくれたし」
「文句は言った覚えがあるのですが」
「そだっけ? へへっ、覚えてないや♪」
にぱーっと晴れやかな笑顔を見せられては、もう何も言えやしねえ。
「まあ、なんだ。もう夜も遅い、寝ろ」
「……寝てる間にどっか行ったりしない?」
「あー、コンビニくらいは行くかも」
「なんでよ! ずっとあたしのそばにいなさいよ! そうしてくんないと寝ない!」
「お子様か、おまえ」
「う……い、いいじゃない! アンタのせいで寝れなくなったんだから責任取りなさいよね!」
「分かった、結婚しよう」
「そういう責任じゃないっ!」
かなみの手をとってまっすぐに目を見つめたのに頭突きされた。
「もー。……じゃ、寝るからなんか面白いお話して」
「また無茶ブリを。しょうがない、猿夢でも」
「さっきと一緒! ほら、また怖くなった! どーしてくれんのよっ!」
かなみは半泣きでがうがう吠えた。
「怖くないんじゃなかったのか」
「うるさいうるさいうるさいっ! どーにかしなさいよねっ!」
「あーもう、お前が一番うるさい。ほれ、こーやってたらちょっとは怖くねーだろ」
「あ……」
かなみの手を軽く握る。
「嫌かもしれんが、諦めろ。そばに誰かいるって分かってたら、恐怖も薄れるだろ」
「…………」
「かなみ?」
「……え、え!? ち、違うわよ!? こんなの嬉しくともなんともないわよ!?」
「そんなことは聞いてませんが」
「ええっ!? ……ゆ、誘導尋問なんてずるい!」
「そんなこともしてませんが」
「うっ、うるさいっ! と、とにかくアンタはあたしが寝るまで手繋いでないとダメなんだからねっ!」
「途中で尿意を催した場合、想像を絶することになることが容易に想像できるのですが」
「うるさいうるさいうるさいっ! なんでもいーからアンタはずっとあたしと一緒にいないとダメなのっ!」
「一生?」
「一生! ……へ? あ、や、今のは違う、違うのっ!」
真っ赤な顔でぎゃんぎゃんほえてるかなみと一緒に夜を過ごしました。
「……それでも手を出さなかった俺を誰か褒めろ」
安心しきった顔ですぴゃすぴゃ寝てるかなみに手を握られたまま、朝日がこぼれる部屋で一人つぶやく俺だった。
「でもまあ寝ぼけてたからしょうがないと思わないか?」
『なんの話よッ!』
とりあえず俺に電話をかけてきた奴に思いの猛りを伝えたら怒られた。
『まあいいわ、アンタが突拍子のない馬鹿ってのはいつものことだし。あのさ、今なにしてるの?』
「寝てた」
『あ、あはは……ま、まあいいわよね? どーせアンタのことだから、昼も寝てるから眠くないだろうし』
「昼は部屋の気温が38度を記録しているので、寝るどころか生命を維持させるだけで精一杯です」
『外より暑いじゃないの! どーいうことよそれ!?』
「俺に怒られても困る。ていうか、どなた?」
電話の向こうで盛大にこける音が響いた。
「分かった、吉本新喜劇の人だ。ポコポコヘッドやって」
『違わいっ! あたしよ、かなみよ! てか、電話受ける前に確認するでしょ! 普通!』
「寝ぼけてたんで何も見ずに受けたんだ」
『今日もミラクルに馬鹿ね』
「奇跡的な馬鹿なのか、俺」
『そうよ。知らなかったの?』
「なんて残酷な真実なんだ。だがよく教えてくれた、ありがとう。じゃ、おやすみ」
『待って待って待って! 切らないで!』
「なんだ。俺は依然眠いので眠りたいのだが」
『え、えっとね? あたしさ、なんか眠くないのよ。だから、なんか話してよ。アンタお得意の全く中身がないけど、面白い話を』
「ひどい言い様だな。まあいいか、じゃあ猿夢でも」
『それ怖い話でしょ! あたし知ってるもん! ていうか思い出した! べ、別に怖くはないけど、寝るのちょっとアレじゃない! どうしてくれるのよ!?』
「とても可哀想にと思いました」
『超他人事!』
「はっはっは」
『笑うなーっ!』
「かなみは愉快だなあ。じゃ、お休み」
『だからっ、切るなっ! 今切られたら怖……じゃない、な、なんか暇だからあたしが困るじゃない!』
「怖いなら仕方ないな」
『こっ、怖くなんてないわよっ! 子供じゃないんだから!』
「…………」
『な、何よ。ホントよ!?』
「…………」
『な、何か喋りなさいよ。ね、ねえ!』
「……ふう。かなみ、さっき悪夢を見る呪いをかけておいたので、安心して眠ってくれ」
『超余計なことすんな、ばかーっ!』
「いや、怖くないと言っていたので、ならばとささやかな老婆心で」
『嘘だろうケド、嘘に決まってるだろうケド! なんか寝るの嫌になっちゃったじゃない! どーしてくれんのよ、ばかーっ!』
「夜も深いのだからあまり叫ぶな」
『うっさい! 誰が叫ばしてんのよ! もーっ! しかもなんかちょっと眠くなってきちゃったし! もーっ!』
「夢の中で君も猿と一緒にミンチ! ヤッタネ♪」
『嫌なこと言うな、ばかあっ! ……うーっ! 決めた! アンタ、今からあたしの家に来なさい!』
「はい?」
『アンタが余計なこと言ったせいで寝らんなくなっちゃったじゃないの! 責任取りなさいよね!』
「いや、責任と言われても。てか、行った所でどう責任を取るというのだ」
『アンタの馬鹿面見てないと落ち着かないって言ってるの!』
「しかし、俺の顔はいつだって美男子だから、行った所で何の役に立てるのか疑問だぞ?」
『いーから早く来いっ! あ、あと電話は切っちゃダメだからね! 切ったら怒るからね!』
「超めんどくさいです」
『……い、いーわよ。一人でがんばるもん』
「……はぁ。分かったよ、着替えるから少し待ってろ」
我ながら人が良すぎる。というか、俺のせいで怖がらせてしまったのだから、行くのが当然か。それでもめんどくさいなあ。
『う、うん。で、でも早く来ないとダメだからね!? 怒るからね!』
「怒られるのは嫌だから行くの躊躇するなあ」
『怒らないから早く来いっ!』
「もう既に怒られている気がする」
文句を言いながらも着替えて家を出る。鼻歌代わりに般若心境を唱えて超怒られてると、かなみの家に着いた。
「着いたぞ。鍵開けて」
『わ、分かった』
家の中からわずかな物音がする。
「これでドア開けたら俺じゃなくて血まみれの包丁持ったサラリーマンがいたら超怖いよな」
『余計なこと言うなっ! あっ……あ、あと、人を叫ばすな、馬鹿。みんな起きちゃうじゃない』
それからほどなく、ドアがゆっくりと開いた。そして、その隙間からかなみが恐る恐る顔を出した。きょろきょろと周辺を見回している。
「おす」
「お、おす。……サラリーマン、いない?」
「いるか、馬鹿」
挨拶代わりにかなみの頭をわしわしなでながら答える。
「馬鹿じゃないわよ。馬鹿じゃないもん。馬鹿はアンタよ」
言葉だけは怒りながらも、かなみは少しだけ嬉しそうに頭をなでられていた。
「んじゃ、とっとと入れて。早くしないとサラリーマンに追いつかれる」
「嫌な嘘つくなっ、ばかっ!」
それでもさっきより入念に周辺をきょろきょろしてから、かなみは俺を家にいれてくれた。暗い廊下を抜け、かなみの部屋に辿り着く。
「ふー……」
落ち着いたように、かなみはベッドに座って深く息を吐いた。
「で、俺は何をしたらいいんでしょうか」
「あたしが寝るまで話し相手してて」
薄い布団を頭まですっぽりかぶり、かなみはぴょこんと顔だけ出した。
「へへー。怖くない♪」
「…………」
「ん? どしたの、鼻つまんで」
「……いや」
これが計算だとしたら将来女優になったらいいし、そうじゃないなら俺は頭がおかしくなります。
「かなみ、顔中べろべろ舐めていい?」
「ド変態ッ!」
ほらみろ、おかしいだろ。
「まったく……変態だし馬鹿だし、アンタ最低よね」
「悲しくなるばかりです」
「あははっ。……あのね、えとね。……あんがとね、わざわざ来てくれて」
……びっくりした。よもや歩く傍若無人のかなみが礼を言うだなんて。
「ほ、ほら! ほとんどアンタのせいとはいえ、こんな夜中に文句も言わずに来てくれたし」
「文句は言った覚えがあるのですが」
「そだっけ? へへっ、覚えてないや♪」
にぱーっと晴れやかな笑顔を見せられては、もう何も言えやしねえ。
「まあ、なんだ。もう夜も遅い、寝ろ」
「……寝てる間にどっか行ったりしない?」
「あー、コンビニくらいは行くかも」
「なんでよ! ずっとあたしのそばにいなさいよ! そうしてくんないと寝ない!」
「お子様か、おまえ」
「う……い、いいじゃない! アンタのせいで寝れなくなったんだから責任取りなさいよね!」
「分かった、結婚しよう」
「そういう責任じゃないっ!」
かなみの手をとってまっすぐに目を見つめたのに頭突きされた。
「もー。……じゃ、寝るからなんか面白いお話して」
「また無茶ブリを。しょうがない、猿夢でも」
「さっきと一緒! ほら、また怖くなった! どーしてくれんのよっ!」
かなみは半泣きでがうがう吠えた。
「怖くないんじゃなかったのか」
「うるさいうるさいうるさいっ! どーにかしなさいよねっ!」
「あーもう、お前が一番うるさい。ほれ、こーやってたらちょっとは怖くねーだろ」
「あ……」
かなみの手を軽く握る。
「嫌かもしれんが、諦めろ。そばに誰かいるって分かってたら、恐怖も薄れるだろ」
「…………」
「かなみ?」
「……え、え!? ち、違うわよ!? こんなの嬉しくともなんともないわよ!?」
「そんなことは聞いてませんが」
「ええっ!? ……ゆ、誘導尋問なんてずるい!」
「そんなこともしてませんが」
「うっ、うるさいっ! と、とにかくアンタはあたしが寝るまで手繋いでないとダメなんだからねっ!」
「途中で尿意を催した場合、想像を絶することになることが容易に想像できるのですが」
「うるさいうるさいうるさいっ! なんでもいーからアンタはずっとあたしと一緒にいないとダメなのっ!」
「一生?」
「一生! ……へ? あ、や、今のは違う、違うのっ!」
真っ赤な顔でぎゃんぎゃんほえてるかなみと一緒に夜を過ごしました。
「……それでも手を出さなかった俺を誰か褒めろ」
安心しきった顔ですぴゃすぴゃ寝てるかなみに手を握られたまま、朝日がこぼれる部屋で一人つぶやく俺だった。