[PR]
2025年04月20日
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
【メイド+体育+背中】
2010年04月04日
今日はメイドの日だ。
メイドの日とは、うちの学校の全女性がメイド化する素晴らしい日のことだ。こんなめでたい日を作った校長に乾杯。
「うー……なんで体育の時までこんな服着なきゃいけないのよ」
かなみがメイド服をひらひらさせながら俺に愚痴る。
「可愛いよ?」
「え、ええっ!? ……そう?」
「うむ。特にあの巨乳がぶるんぶるん揺れる様が俺の劣情を刺激してたまらない。……巨乳を可愛いと評して怒られないかな?」
「知るかッ! それより誰の胸見て──リナかぁッ!」
少し遠くで柔軟してるリナの揺れ乳を見てたら、目潰しされた。
「ぐぎゃあああ! 目が、目がぁっ!」
「どーせあたしは胸薄いわよ!」
「痛い、目が痛い! なんか目からビーム出そうなくらい痛い!」
「うっさい」
「ぐ」
痛みのあまり地面を転がりまわってると、顔を踏まれた。半泣きになりながら立ち上がる。
「人の目を突き、さらには顔に靴の跡をつけて謝罪の言葉もないのですか」
「地面転がってるからよ、ばーか」
なんと! 誰のせいで転がったと思ってるのだろうこの娘さんは! ええぃ一言申さねば気がすまん!
「かなみ!」
「何よッッッッッ!」
「なんでもないよ?」
ちっちゃい“つ”がいっぱい出てとても怖かったので、誤魔化す。ちょっと涙出た。
「な、何よ、なにも泣かなくても……」
「な、泣いてない、泣いてないよ?」
かっこ悪いので必死で涙を隠してると、先生がやってきた。丁度いいので逃げよう。
「あ、先生来た。さようなら」
「今日は女子の先生休みで、合同よ。……ほ、ほら、行こ」
何だかばつの悪そうなメイドかなみに手を引っ張られ、ふらふら先生の元に行く。
「はーい、みんな揃った? じゃあ授業始め……きゃあああああ! べ、別府くんが泣いてる!?」
黙ってりゃいいのに、生徒より幼く見える体育教師の大谷先生が俺を見て絶叫した。……ああ、もちろん先生もメイドです。
「うわ、マジだマジ! 別府が泣いてる! あはははは!」
「わ、本当だ。……ちょっと母性本能くすぐるかも」
みんなに囲まれ大変居心地が悪いです。でも半分メイドさんなので、少し嬉しい。
「別府くんどうしたの? 悲しいことがあったの? お腹空いたの?」
先生に優しく問われるが、流石に隣の胸が薄いメイドさんが怖かったので泣いたとは言えず、答えに窮する。あと、お腹が空いても泣きません。
「お腹空いたから泣いたって」
そんなこと一言も言ってないのに、かなみが勝手に俺を子ども扱いした。
「そうなの? じゃ、後で先生がおやつ分けてあげるね。それにしても、お腹空いて泣くなんて別府くんてば可愛い♪」
俺より身長が低くて童顔でぺたんこな先生に、頭を撫でられながら可愛いと言われても困る。
「…………」
何より困るのが、隣から殺気をどがどがぶつけてくるメイドさんがいることだ。怖い。
「せ、先生、授業。授業しよう」
「あ、そだね。あははっ、ついなでなでに夢中になっちゃった。……それとも、もっとしてほしい?」
「は……いやいやいや。授業しましょ、授業」
頷きそうになったが、殺気が増したので慌てて否定する。
「ざーんねん。じゃ、はじめるねー」
そう言って、先生は出席を取り始めた。小声で隣のかなみに話しかける。
「あのな、かなみ。誰が腹減って泣いた、だ。これ以上俺の学校での地位を低くしないでくれ」
「なによ、先生に頭なでられてデレデレしてたくせに……」
「……? いや、してたとしても、それがお前に何の関係が?」
「そっ、それはその、ええと!」
なんか急にオロオロしだした。なんだ?
「生理? 生理か? 生理なのか?」
顔に拳が埋まりました。
「別府く……きゃああああ! べ、別府くんが鼻血出してる!?」
またみんなに囲まれた。もう勘弁。
「じゃ、柔軟しますねー。隣の子と二人一組になってー」
どうにかこうにか危機を脱し、先生の号令により隣のかなみとペアになってしまい柔軟を始める。
「本当、アンタって余計なことばっか言うわね……」
地面にぺたりと座ってると、心底疲れたように言うかなみに背中を押された。
「あいたた、あんま押すな」
「うわ、アンタ体硬いわねー。ほとんど曲がってないじゃない」
「お昼のおやつに持ってきたバナナがその分曲がってくれてるから、大丈夫」
「意味分かんないわよっ!」
俺も分からない。なんだ、大丈夫って。
「あいたた、交代だ交代。チェンジお願いします」
ぐいぐい押されて痛いので、するりと抜け出しかなみと交代。今度は押す番だ。
「ふふん、あたしは体柔らかいわよ?」
「タコより?」
「いや、軟体動物に勝つ自信はないけど……」
「やーい、タコ未満」
「あとで殴るね♪」
言うんじゃなかったと心底後悔しながら、かなみの背中を押す。自分で言うだけあって、頭が地面につくほどかなみの体は柔らかかった。
「おおっ、すげぇ」
「ふふん、どう?」
「さすがはメイド服と言っていいだろう。見事なものだ」
「メイド服は関係ないっ! 全部あたしの力!」
「へーほーふー……おおっ、見ろかなみ! リナの奴、体超硬いぞ? しかもふるふる震えて前に倒れようとしてるもんだから、胸もふるふると……ぷるぷると!」
揺れる乳の動画を脳の一番大事な記憶を収める引き出しに入れてると、柔軟してたはずのかなみが俺の隣に立ってて。
「どうしましたか?」
「それが辞世の句?」
おかしなことに、死ぬようだ。
死にはしなかったけど、大変大変痛かったです。保健室で看病受けるくらい。
「痛いよぅ。痛いけど、メイドさんがご飯食べさせてくれるのでちょっと嬉しい自分がいじらしいよぅ」
「いっ、いちいち言うな、ばかっ! ……はい、あーん」
怒りながらも、バナナを俺に向けるかなみでした。
メイドの日とは、うちの学校の全女性がメイド化する素晴らしい日のことだ。こんなめでたい日を作った校長に乾杯。
「うー……なんで体育の時までこんな服着なきゃいけないのよ」
かなみがメイド服をひらひらさせながら俺に愚痴る。
「可愛いよ?」
「え、ええっ!? ……そう?」
「うむ。特にあの巨乳がぶるんぶるん揺れる様が俺の劣情を刺激してたまらない。……巨乳を可愛いと評して怒られないかな?」
「知るかッ! それより誰の胸見て──リナかぁッ!」
少し遠くで柔軟してるリナの揺れ乳を見てたら、目潰しされた。
「ぐぎゃあああ! 目が、目がぁっ!」
「どーせあたしは胸薄いわよ!」
「痛い、目が痛い! なんか目からビーム出そうなくらい痛い!」
「うっさい」
「ぐ」
痛みのあまり地面を転がりまわってると、顔を踏まれた。半泣きになりながら立ち上がる。
「人の目を突き、さらには顔に靴の跡をつけて謝罪の言葉もないのですか」
「地面転がってるからよ、ばーか」
なんと! 誰のせいで転がったと思ってるのだろうこの娘さんは! ええぃ一言申さねば気がすまん!
「かなみ!」
「何よッッッッッ!」
「なんでもないよ?」
ちっちゃい“つ”がいっぱい出てとても怖かったので、誤魔化す。ちょっと涙出た。
「な、何よ、なにも泣かなくても……」
「な、泣いてない、泣いてないよ?」
かっこ悪いので必死で涙を隠してると、先生がやってきた。丁度いいので逃げよう。
「あ、先生来た。さようなら」
「今日は女子の先生休みで、合同よ。……ほ、ほら、行こ」
何だかばつの悪そうなメイドかなみに手を引っ張られ、ふらふら先生の元に行く。
「はーい、みんな揃った? じゃあ授業始め……きゃあああああ! べ、別府くんが泣いてる!?」
黙ってりゃいいのに、生徒より幼く見える体育教師の大谷先生が俺を見て絶叫した。……ああ、もちろん先生もメイドです。
「うわ、マジだマジ! 別府が泣いてる! あはははは!」
「わ、本当だ。……ちょっと母性本能くすぐるかも」
みんなに囲まれ大変居心地が悪いです。でも半分メイドさんなので、少し嬉しい。
「別府くんどうしたの? 悲しいことがあったの? お腹空いたの?」
先生に優しく問われるが、流石に隣の胸が薄いメイドさんが怖かったので泣いたとは言えず、答えに窮する。あと、お腹が空いても泣きません。
「お腹空いたから泣いたって」
そんなこと一言も言ってないのに、かなみが勝手に俺を子ども扱いした。
「そうなの? じゃ、後で先生がおやつ分けてあげるね。それにしても、お腹空いて泣くなんて別府くんてば可愛い♪」
俺より身長が低くて童顔でぺたんこな先生に、頭を撫でられながら可愛いと言われても困る。
「…………」
何より困るのが、隣から殺気をどがどがぶつけてくるメイドさんがいることだ。怖い。
「せ、先生、授業。授業しよう」
「あ、そだね。あははっ、ついなでなでに夢中になっちゃった。……それとも、もっとしてほしい?」
「は……いやいやいや。授業しましょ、授業」
頷きそうになったが、殺気が増したので慌てて否定する。
「ざーんねん。じゃ、はじめるねー」
そう言って、先生は出席を取り始めた。小声で隣のかなみに話しかける。
「あのな、かなみ。誰が腹減って泣いた、だ。これ以上俺の学校での地位を低くしないでくれ」
「なによ、先生に頭なでられてデレデレしてたくせに……」
「……? いや、してたとしても、それがお前に何の関係が?」
「そっ、それはその、ええと!」
なんか急にオロオロしだした。なんだ?
「生理? 生理か? 生理なのか?」
顔に拳が埋まりました。
「別府く……きゃああああ! べ、別府くんが鼻血出してる!?」
またみんなに囲まれた。もう勘弁。
「じゃ、柔軟しますねー。隣の子と二人一組になってー」
どうにかこうにか危機を脱し、先生の号令により隣のかなみとペアになってしまい柔軟を始める。
「本当、アンタって余計なことばっか言うわね……」
地面にぺたりと座ってると、心底疲れたように言うかなみに背中を押された。
「あいたた、あんま押すな」
「うわ、アンタ体硬いわねー。ほとんど曲がってないじゃない」
「お昼のおやつに持ってきたバナナがその分曲がってくれてるから、大丈夫」
「意味分かんないわよっ!」
俺も分からない。なんだ、大丈夫って。
「あいたた、交代だ交代。チェンジお願いします」
ぐいぐい押されて痛いので、するりと抜け出しかなみと交代。今度は押す番だ。
「ふふん、あたしは体柔らかいわよ?」
「タコより?」
「いや、軟体動物に勝つ自信はないけど……」
「やーい、タコ未満」
「あとで殴るね♪」
言うんじゃなかったと心底後悔しながら、かなみの背中を押す。自分で言うだけあって、頭が地面につくほどかなみの体は柔らかかった。
「おおっ、すげぇ」
「ふふん、どう?」
「さすがはメイド服と言っていいだろう。見事なものだ」
「メイド服は関係ないっ! 全部あたしの力!」
「へーほーふー……おおっ、見ろかなみ! リナの奴、体超硬いぞ? しかもふるふる震えて前に倒れようとしてるもんだから、胸もふるふると……ぷるぷると!」
揺れる乳の動画を脳の一番大事な記憶を収める引き出しに入れてると、柔軟してたはずのかなみが俺の隣に立ってて。
「どうしましたか?」
「それが辞世の句?」
おかしなことに、死ぬようだ。
死にはしなかったけど、大変大変痛かったです。保健室で看病受けるくらい。
「痛いよぅ。痛いけど、メイドさんがご飯食べさせてくれるのでちょっと嬉しい自分がいじらしいよぅ」
「いっ、いちいち言うな、ばかっ! ……はい、あーん」
怒りながらも、バナナを俺に向けるかなみでした。
PR
【ツンデレに男が理想の女について語ってみたら】
2010年04月01日
昼休み、友人らが理想の女性像を熱く語り合っている。
「別府、さっきからぼーっとしてるけど、お前もなんか言えよ」
「腹減った」
「いや……なんでも言えばいいってもんじゃなくて、理想の女のこと言えよ。胸がでけーのがいいとか、巨乳がいいとか、あるだろ?」
「俺にご飯くれる人がいい」
「…………」
巨乳フェチの友人はなんだか疲れた顔をして、他の友たちとの会話に入っていった。それにしても腹減った。
弁当でも食おうと思ってたら、幼なじみのかなみがやってきた。なんか怖い雰囲気。
「アンタら、何やってんの?」
「え、俺らは別に……」
ややひるんだ様子で答える友人。
「別に、じゃないわよ。教室中に響く声でやれ『やっぱ巨乳だよな』とか、『前髪ぱっつんが』とか。もうちょっと静かにしなさいよ」
かなみに注意され、友人らはなんだか居心地悪そうに体を小さく揺すった。
「あ、お、俺用事あったんだ」
と誰かが言ったのを皮切りに、友人らは全員教室から出て行った。
「……アンタは行かないの?」
一人残された俺に、かなみが問いかける。
「弁当食う」
「はぁ……そう言えば、アンタは『ご飯くれる人』とかワケ分かんない答え言ってたわね。犬みたい」
「危うい所ですが、人間です」
鞄を漁るが、どうしたことか弁当が見つからない。
「あ、そういや早弁したんだっけ」
学食でも行くかと財布を漁ってると、かなみがためらいがちに声をかけてきた。
「あ、あのさ、よかったらあたしのお弁当食べる?」
「後で倍にして返さないといけない気がするので遠慮する」
「しないわよっ! 失礼ねぇ……」
「そうか? 前になんか倍返ししたような……」
「……あっ、この間のこと? アレはアンタが勝手にあたしのお弁当食べちゃうからでしょ!」
言われて思い出した。先日、腹が減ってかなみの弁当を黙って食い、それがばれて倍返しさせられたのだった。
「だって、お腹が空いたんですもの」
「お腹空いたからって、人の食べたらダメでしょっ! ……なんでこんな子供に言うようなこと、同級生に言わなきゃいけないのよ……」
「玉子焼きが絶品でした」
「……そっ、そう。ありがと」
なんで感謝されたのだろう。
「とっ、とにかく、あたしの食べなさい。いーわね?」
「気持ちは嬉しいが、もう倍返しのお金ないんです」
「だから、勝手に食べなかったらしなくていいのっ! ……もう、馬鹿なんだから」
馬鹿と言われ少し悲しくなったが、食っていいなら頂こう。わさわさと移動し、かなみの席へ。そこにはかなみの友人らしき他の女子たちもいた。
「あっ、別府くんだ。やほー」
「やほー」
ノリのいい女子にやほーを返すと、かなみになんか睨まれた。
「す、すいません」
「あははっ、別府くんってかなみに弱いねー」
「いや、俺は老若男女全てに弱いんだ。歩く欠陥住宅なんだ。攻城兵器に特攻なんだ」
「アンタ、その適当に喋るクセどうにかしなさいよ……」
かなみに呆れられたので、大人しく席に着いてかなみの食べかけ弁当に箸をつける。
「ほら、もっと落ち着いて食べなさいよ。ああもう、ご飯こぼしてる。ほら、野菜もちゃんと食べなさい」
かなみに横から色々注意される。言い返すと三倍くらいになって返って来るので、素直に頷いておく。
「かなみと別府くんってさ、なんかすっごい仲いいよね。本当の姉弟みたい」
「おばさんに世話頼まれてるし、何よりコイツほっといたら野垂れ死にしそうだからね。嫌々よ、イヤイヤ」
失礼な奴だもぐもぐ……うぐぐ、ノドに飯詰まった。死ぬ。
「あっ、またご飯ノドに詰めてる! ほら、お茶!」
かなみが淹れてくれた茶を受け取り、一気に飲み干す。
「ごくごくごく……ぷはーっ。死にかけた」
「落ち着いて食べなさいよ、バカ。ほら、またご飯粒ほっぺにつけて……」
俺の頬についた飯粒を取り、かなみは口に入れた。それを見て、女性陣が声を荒げた。
「どしたんだ?」
「さぁ……」
不審がる俺とかなみをよそに、女性陣はなんだか盛り上がっていた。
「もぐもぐ……ごっそさん。ありがとな、かなみ。うまかった」
「そう。……で、どれが美味しかった?」
「すき焼き」
「誰もアンタの好物なんて聞いてない! お弁当に入ってたので答えなさい!」
「た、玉子焼きです」
「ふぅん……そっか。……ふぅん」
なんだか嬉しそうにニヤニヤ笑ってるかなみ。
「気でも触れたか?」
「触れてないわよっ!」
「いや、やけに嬉しそうだし」
「うっ、嬉しくなんかないわよっ!」
なんで怒られたのか分からないけど、このままここにいたらもっと怒られると俺の経験が告げている。とっとと自分の席に戻ろう。
「んじゃな」
「あ、うん」
ぽてぽて後ろの席に戻り、前方にいるかなみの方をぼんやり見る。友達たちになんか言われて顔真っ赤にしてる。何言われてんだ?
……あ、こっち来た。
「だっ、誰がアンタなんかと! ばーか!」
「……えーと、意味が分からんのだが。説明してくれるとありがたい」
「せっ、説明なんてできるわけないでしょっ! ばか、ばーか!」
顔を真っ赤にしたまま、かなみは俺にバカと言い続けた。それを、かなみの友人たちがにやにやしながら見ていた。
訳の分からない俺は、馬鹿馬鹿言われ泣きそうです。
「別府、さっきからぼーっとしてるけど、お前もなんか言えよ」
「腹減った」
「いや……なんでも言えばいいってもんじゃなくて、理想の女のこと言えよ。胸がでけーのがいいとか、巨乳がいいとか、あるだろ?」
「俺にご飯くれる人がいい」
「…………」
巨乳フェチの友人はなんだか疲れた顔をして、他の友たちとの会話に入っていった。それにしても腹減った。
弁当でも食おうと思ってたら、幼なじみのかなみがやってきた。なんか怖い雰囲気。
「アンタら、何やってんの?」
「え、俺らは別に……」
ややひるんだ様子で答える友人。
「別に、じゃないわよ。教室中に響く声でやれ『やっぱ巨乳だよな』とか、『前髪ぱっつんが』とか。もうちょっと静かにしなさいよ」
かなみに注意され、友人らはなんだか居心地悪そうに体を小さく揺すった。
「あ、お、俺用事あったんだ」
と誰かが言ったのを皮切りに、友人らは全員教室から出て行った。
「……アンタは行かないの?」
一人残された俺に、かなみが問いかける。
「弁当食う」
「はぁ……そう言えば、アンタは『ご飯くれる人』とかワケ分かんない答え言ってたわね。犬みたい」
「危うい所ですが、人間です」
鞄を漁るが、どうしたことか弁当が見つからない。
「あ、そういや早弁したんだっけ」
学食でも行くかと財布を漁ってると、かなみがためらいがちに声をかけてきた。
「あ、あのさ、よかったらあたしのお弁当食べる?」
「後で倍にして返さないといけない気がするので遠慮する」
「しないわよっ! 失礼ねぇ……」
「そうか? 前になんか倍返ししたような……」
「……あっ、この間のこと? アレはアンタが勝手にあたしのお弁当食べちゃうからでしょ!」
言われて思い出した。先日、腹が減ってかなみの弁当を黙って食い、それがばれて倍返しさせられたのだった。
「だって、お腹が空いたんですもの」
「お腹空いたからって、人の食べたらダメでしょっ! ……なんでこんな子供に言うようなこと、同級生に言わなきゃいけないのよ……」
「玉子焼きが絶品でした」
「……そっ、そう。ありがと」
なんで感謝されたのだろう。
「とっ、とにかく、あたしの食べなさい。いーわね?」
「気持ちは嬉しいが、もう倍返しのお金ないんです」
「だから、勝手に食べなかったらしなくていいのっ! ……もう、馬鹿なんだから」
馬鹿と言われ少し悲しくなったが、食っていいなら頂こう。わさわさと移動し、かなみの席へ。そこにはかなみの友人らしき他の女子たちもいた。
「あっ、別府くんだ。やほー」
「やほー」
ノリのいい女子にやほーを返すと、かなみになんか睨まれた。
「す、すいません」
「あははっ、別府くんってかなみに弱いねー」
「いや、俺は老若男女全てに弱いんだ。歩く欠陥住宅なんだ。攻城兵器に特攻なんだ」
「アンタ、その適当に喋るクセどうにかしなさいよ……」
かなみに呆れられたので、大人しく席に着いてかなみの食べかけ弁当に箸をつける。
「ほら、もっと落ち着いて食べなさいよ。ああもう、ご飯こぼしてる。ほら、野菜もちゃんと食べなさい」
かなみに横から色々注意される。言い返すと三倍くらいになって返って来るので、素直に頷いておく。
「かなみと別府くんってさ、なんかすっごい仲いいよね。本当の姉弟みたい」
「おばさんに世話頼まれてるし、何よりコイツほっといたら野垂れ死にしそうだからね。嫌々よ、イヤイヤ」
失礼な奴だもぐもぐ……うぐぐ、ノドに飯詰まった。死ぬ。
「あっ、またご飯ノドに詰めてる! ほら、お茶!」
かなみが淹れてくれた茶を受け取り、一気に飲み干す。
「ごくごくごく……ぷはーっ。死にかけた」
「落ち着いて食べなさいよ、バカ。ほら、またご飯粒ほっぺにつけて……」
俺の頬についた飯粒を取り、かなみは口に入れた。それを見て、女性陣が声を荒げた。
「どしたんだ?」
「さぁ……」
不審がる俺とかなみをよそに、女性陣はなんだか盛り上がっていた。
「もぐもぐ……ごっそさん。ありがとな、かなみ。うまかった」
「そう。……で、どれが美味しかった?」
「すき焼き」
「誰もアンタの好物なんて聞いてない! お弁当に入ってたので答えなさい!」
「た、玉子焼きです」
「ふぅん……そっか。……ふぅん」
なんだか嬉しそうにニヤニヤ笑ってるかなみ。
「気でも触れたか?」
「触れてないわよっ!」
「いや、やけに嬉しそうだし」
「うっ、嬉しくなんかないわよっ!」
なんで怒られたのか分からないけど、このままここにいたらもっと怒られると俺の経験が告げている。とっとと自分の席に戻ろう。
「んじゃな」
「あ、うん」
ぽてぽて後ろの席に戻り、前方にいるかなみの方をぼんやり見る。友達たちになんか言われて顔真っ赤にしてる。何言われてんだ?
……あ、こっち来た。
「だっ、誰がアンタなんかと! ばーか!」
「……えーと、意味が分からんのだが。説明してくれるとありがたい」
「せっ、説明なんてできるわけないでしょっ! ばか、ばーか!」
顔を真っ赤にしたまま、かなみは俺にバカと言い続けた。それを、かなみの友人たちがにやにやしながら見ていた。
訳の分からない俺は、馬鹿馬鹿言われ泣きそうです。
【超モテモテのツンデレと超モテモテの男】
2010年03月30日
モテにモテて困る。
「たっ、タカシ、アンタどうしたの!?」
「猫が……」
「猫が、じゃないわよ! 猫まみれじゃない!」
かなみの言うとおり、全身余すところなく猫がくっついてる猫にモテまくりの俺です。
「そんなに猫つけて、寒いの?」
「暑い。毛が暑くて暑くて困る」
暑いのでくっついてる猫を引っ張ってみると、猫は離れるもんかと爪を立てて抵抗する。
「いていて、爪が食い込む」
「それで、どしたの?」
「自転車で暴走運転してたら、誤って山盛りのまたたびに突っ込んだ」
「…………」
すごい呆れた顔で見られた。
「……なんで暴走してたのとか、なんでまたたびが山盛りであるとか言いたいこと色々あるけど、とりあえず。馬鹿」
「返す言葉も御座いません」
ぺこりと頭を下げると、頭にくっついてた猫がにゃあと鳴いた。
「どうした、猫?」
「にゃあ、にゃあにゃあ」
「ふむふむ、まるで分からん。わはははは!」
「にゃあ~」
「…………」
猫と会話を楽しんでると、かなみが俺の方をじっと見ていることに気づいた。
「どした? 猫欲しい? あげたいけど、取れないんだ」
「いらないわよ、ばーかっ!」
悪態をついて、かなみは席に戻ってしまった。……何を怒ってんだ?
「女心というものはよく分からないものですね、先生」
「席に着け、別府。あと、猫どうにかしろ」
「無理です」
その日はずっと猫まみれでした。にゃーにゃーうるさかった。
翌日。風呂に入ってまたたび臭が消えると猫もどっか行ったので、スッキリして学校へ向かう。
「……おはよ」
やけに元気のない声に振り向くと、そこに猫まみれの何かがいた。
「おはよう、猫まみれな人。だれ?」
「……かなみよ。……そこに、なんか山盛りのまたたびあって、そこで転んじゃって、山に突っ込んじゃって、猫が……」
「ドジ」
「しっ、仕方ないじゃない! あんな沢山のまたたび、見るの初めてだし! しかもなんか道路つるつるしてたしっ! 転びもするわよっ!」
「なんつーか、ご愁傷様だな」
「はぁ……なんでこんなことに……」
「俺が昨日山盛りまたたびに激突したことに憤慨し、夜の内に必死でかなみの通学路に置き直し、さらにそこで転びやすいよう油を撒いたからではないぞ」
「アンタのせいかぁぁぁぁッ!!」
俺のせいじゃないと言ったのに、猫まみれが怒った。殴られるので適当言って回避!
「い、いや、強いて言うなら……運命?」
「はぁ? なに言って……」
「そう、運命! 俺が昨日猫まみれになり、今日かなみが猫まみれになるなんて、運命以外考えられない!」
「……ば、ばっかじゃないの? そんなわけないじゃない、アンタがそうなるように仕組んだんでしょ!」
口では怒っているが、まんざらではない様子。あと一押し!
「それに、ネコ可愛いし、相乗効果でかなみの可愛らしさもさらにさらに!」
「えっ……そ、そうかな?」
嬉しそうにはにかみながら、かなみは照れ臭そうに猫のヒゲを引っ張った。ぎにゃーって聞こえた。
「けど、猫に隠れてかなみの顔がよく見えないから意味ないや。わはははは!」
かなみは怒りながら俺の頬を引っ張った。ぎにゃーって聞こえた。
「まったく……いらんことばっかして。ねー?」
そう言って、かなみは腕に引っ付く猫に笑いかけた。猫はにゃあ、と答えた。
「あははっ、このコもアンタが馬鹿って言ってるわよ?」
「にゃーとしか言ってねーよ」
「違うよね、馬鹿って言ってるもんねー? 『そうにゃー。タカシはバカにゃー』」
「お前が言ってるじゃねえか……」
「あははっ、気にしない気にしない」
そう言って、かなみは楽しそうに笑いながら猫にアフレコするのだった。
「たっ、タカシ、アンタどうしたの!?」
「猫が……」
「猫が、じゃないわよ! 猫まみれじゃない!」
かなみの言うとおり、全身余すところなく猫がくっついてる猫にモテまくりの俺です。
「そんなに猫つけて、寒いの?」
「暑い。毛が暑くて暑くて困る」
暑いのでくっついてる猫を引っ張ってみると、猫は離れるもんかと爪を立てて抵抗する。
「いていて、爪が食い込む」
「それで、どしたの?」
「自転車で暴走運転してたら、誤って山盛りのまたたびに突っ込んだ」
「…………」
すごい呆れた顔で見られた。
「……なんで暴走してたのとか、なんでまたたびが山盛りであるとか言いたいこと色々あるけど、とりあえず。馬鹿」
「返す言葉も御座いません」
ぺこりと頭を下げると、頭にくっついてた猫がにゃあと鳴いた。
「どうした、猫?」
「にゃあ、にゃあにゃあ」
「ふむふむ、まるで分からん。わはははは!」
「にゃあ~」
「…………」
猫と会話を楽しんでると、かなみが俺の方をじっと見ていることに気づいた。
「どした? 猫欲しい? あげたいけど、取れないんだ」
「いらないわよ、ばーかっ!」
悪態をついて、かなみは席に戻ってしまった。……何を怒ってんだ?
「女心というものはよく分からないものですね、先生」
「席に着け、別府。あと、猫どうにかしろ」
「無理です」
その日はずっと猫まみれでした。にゃーにゃーうるさかった。
翌日。風呂に入ってまたたび臭が消えると猫もどっか行ったので、スッキリして学校へ向かう。
「……おはよ」
やけに元気のない声に振り向くと、そこに猫まみれの何かがいた。
「おはよう、猫まみれな人。だれ?」
「……かなみよ。……そこに、なんか山盛りのまたたびあって、そこで転んじゃって、山に突っ込んじゃって、猫が……」
「ドジ」
「しっ、仕方ないじゃない! あんな沢山のまたたび、見るの初めてだし! しかもなんか道路つるつるしてたしっ! 転びもするわよっ!」
「なんつーか、ご愁傷様だな」
「はぁ……なんでこんなことに……」
「俺が昨日山盛りまたたびに激突したことに憤慨し、夜の内に必死でかなみの通学路に置き直し、さらにそこで転びやすいよう油を撒いたからではないぞ」
「アンタのせいかぁぁぁぁッ!!」
俺のせいじゃないと言ったのに、猫まみれが怒った。殴られるので適当言って回避!
「い、いや、強いて言うなら……運命?」
「はぁ? なに言って……」
「そう、運命! 俺が昨日猫まみれになり、今日かなみが猫まみれになるなんて、運命以外考えられない!」
「……ば、ばっかじゃないの? そんなわけないじゃない、アンタがそうなるように仕組んだんでしょ!」
口では怒っているが、まんざらではない様子。あと一押し!
「それに、ネコ可愛いし、相乗効果でかなみの可愛らしさもさらにさらに!」
「えっ……そ、そうかな?」
嬉しそうにはにかみながら、かなみは照れ臭そうに猫のヒゲを引っ張った。ぎにゃーって聞こえた。
「けど、猫に隠れてかなみの顔がよく見えないから意味ないや。わはははは!」
かなみは怒りながら俺の頬を引っ張った。ぎにゃーって聞こえた。
「まったく……いらんことばっかして。ねー?」
そう言って、かなみは腕に引っ付く猫に笑いかけた。猫はにゃあ、と答えた。
「あははっ、このコもアンタが馬鹿って言ってるわよ?」
「にゃーとしか言ってねーよ」
「違うよね、馬鹿って言ってるもんねー? 『そうにゃー。タカシはバカにゃー』」
「お前が言ってるじゃねえか……」
「あははっ、気にしない気にしない」
そう言って、かなみは楽しそうに笑いながら猫にアフレコするのだった。
【ツンデレにレンタルビデオ屋へ付き合わされる男】
2010年03月29日
部屋でマンガ読んでたら、いきなりかなみが部屋に入ってきた。
「いま暇? 暇よね。ちょっと映画でも見たいし、レンタルビデオ屋行かない?」
「行かない」
「……暇? 暇よね。だったら行かない?」
「行かない」
「……行くわよね?」
「行きます」
首にかなみの腕が絡みついたので、震えながら頷いた。
そんなわけで真昼の太陽が照りつくクソ暑い中、かなみと一緒に近所のビデオ屋へ。
「んー、何借りよっかな。タカシ、アンタ何か見たいのある?」
「エロビデオ」
そそくさと奥にある18禁コーナーに行こうとしたら、首根っこを掴まれた。
「女の子と一緒に来てるのに、そういうの借りるな! 第一、そういうのは18歳になってから! アンタまだ学生でしょうが」
「すいません」
謝ってから再び18禁コーナーに向かおうとしてると、今度は手を握られた。
「謝ったら行っていいってことじゃない! いいからあたしと一緒に来なさいっ!」
「あぁん」
そのまま無理矢理手を引かれ、一緒に見て回ることになってしまった。
「ねぇねぇ、これなんてどう?」
「……恋愛モノ? かなみが?」
「な、なによ、あたしだってこういうの見たい時もあるわよ」
かなみは少しだけ恥ずかしそうに頬を染めた。
「や、ちょっと驚いただけ。決してかなみのキャラと合ってないなーとか、かなみが恋愛の機微を理解できる訳がないとか思ってないから安心しろ」
「ありがと♪」
ありがとうと言いながら俺を殴打するのは何故だろう。
「じゃ、これにしよっと。アンタも何か借りる?」
「エロビデオ」
「…………」
「あ、アクションとか、どうだろう?」
殺し屋の目で見られたので、思わずひよる。
「あー、いいわね。血沸き肉踊るようなの探しましょ」
やっぱり、かなみのような武闘派には恋愛なんかよりアクションの方が似合ってる。
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてる」
「嘘でもいいから否定しなさいっ!」
怒られながら適当に選び、失礼なことを考えた罰として俺の財布で会計を済まされ、帰宅。
「さっ、見よ見よ」
かなみはデッキに借りてきたビデオを入れた。四つんばいになりながら入れてるので、後ろから見たらスカートの中丸見え。パンツだ、パンツ!
「ぐぇ」
後ろに回りこんでじーっと眺めてたら、尻が降って来て俺が潰れた。
「ちょ、アンタ何やってんのよ!」
「パンツ見てたら尻に襲われた」
無言でたくさん殴られた。
「ったく、いらんことばっかして……」
「パンツ見えてるのに、見ないのは失礼だろ」
「何も言わないで見てる方が失礼に決まってるでしょ!」
「分かった。次は見ないで触るだけにする」
「アンタさては何も分かってないでしょ!?」
怒られてると、予告が始まった。
「ああもう、説教は後々。見ましょ」
映画鑑賞開始。水泳を通し、コーチと弟子が絆を深め、信頼が愛情に変わる……という話のようだ。
まぁそれはいいのだが、とにかく甘い。甘すぎる。なんだ、このだだ甘展開。
「はふぅ……」
ほれ、かなみも呆れてため息吐いて……ねぇぇぇぇ!? え、え? うっとりしてるの?
「いいなぁ、こういうの……」
いいの!? え、だって別に誰も殴られたり撃たれたりしてないよ? それでいいの暴虐王かなみさん!?
「はぁぁぁぁ……」
……しかし。
「ちょっと、可愛いと思えなくも……」
「えっ!?」
かなみの顔が突然こっちを向いた。なんだ?
「あ、アンタ、いま……」
「ん? どうかしたか?」
「え、ううん、なんでもない」
隣から小さく「聞き間違いよね……」とか聞こえてきた。何のことだろう。
……んーむ。しかし、テレビに映されてるものが甘ったるすぎて、見てたらなんか体が痒くなってきた。
見てるのが辛くなってきたので、かなみの横顔をぼーっと眺める。
「……はふぅぅぅ」
真っ赤になって甘々シーンを食い入るように眺めるその顔は、見慣れているはずなのに、
「……なんか、可愛い、かも」
「え、ええっ!?」
突然かなみの顔がこっちを向いた。さっきから俺の視線はかなみに固定されていたので、自然と目が合う。
「な、な、なんか言った!? ていうか、なんでアンタあたし見てるのよ!」
「え、あ、いや……」
“甘すぎてテレビ見てるのが辛いから隣の緩んだ顔見てた”なんて言い出せず思わず口ごもってると、かなみはまるで犯人を追い詰めた名探偵のように目を細めた。
「……はは~ん。さてはアンタ、あたしとこういうコトしたいんでしょ?」
「は?」
「でもごめんねー、あたしこういうの興味ないんだー」
いやいやいや、ついさっきまで食い入るように見てたの誰ですか。そもそもこのビデオ借りたの誰ですか。
「……で、でもタカシがどうしてもそういうことしたいんなら、我慢してあげなくも……」
「や、別にいい」
「……あ、あっそ! 残念ね、この機会を逃したらタカシなんかにはこういうことしてくれる相手なんていないでしょうに! あーあー可哀想!」
そう言って、かなみは再びテレビの方を向いた。
なんで怒ってるのかよく分からんが、とにかく興味が他所に行ったなら俺に言うことはない。視線をかなみからテレビに移すと、
「ぶっ!」
ラブシーン、いやさエロシーンの真っ最中でした。
「う、うわぁ……」
隣の声にそっと様子を覗き見ると、口元を押さえ、目をこれでもかと見開いてテレビを見つめる少女がいた。ちょっとがっつきすぎです、お嬢さん!
「え、そ、そんなところまで映すの? ……え、ええっ!?」
……うーむ、テレビの様子も気になるが、かなみを見てた方が面白い予感。
「え、ちょっとこれ、ホントに普通のビデオ? タカシがいつも借りてるえっちなビデオじゃないの?」
失礼な、いつもじゃないぞ。たまにだ、たまに。
「ふわ、ふわぁ……」
なんかもう見てて可哀想なくらい真っ赤になりながら意味不明の言葉を呟くかなみ。
テレビを見つめるかなみと、その様子を眺める俺の図式が成立したまま映画は終了。
「は、はぁぁぁぁ~」
まるで魂が抜けるようなため息をつくかなみに、置いてあったジュースを渡す。
「あ、ありがと。……すごかったわね」
「そうなのか?」
「そうなのかって、見てなかったの? ……ひょっとして寝てた?」
「見てなかったが、起きてたぞ」
「……? じゃあ何見てたの?」
「かなみ見てた」
「え……ええーっ!?」
かなみの顔が茹でタコみたいになった。
「な、なんで? ……じゃなくて、折角借りてきた映画見ないであたし見てるなんて、やっぱアンタって馬鹿ねー」
ふふん、なんて偉そうに腕組んでそっぽ向いてるが、その顔が赤いことに気づいているのだろうか。
「や、赤くなったり意味不明の言葉呟いてる生物見てるのがことのほか楽しくてな」
「……そ、そう。そんなにあたしの顔見てるの楽しいんだ。……ふぅん」
怒られるかと思ったが、予想外なことにかなみは少しだけ嬉しそうに頬を緩ましていた。
「……じゃ、じゃあ、次も映画、アンタと一緒に見たげる。特別よ、特別! 感謝しなさいよね!」
“別にいい”と言おうとしたが、凄く嬉しそうなかなみの笑顔を見て、ノドの奥に仕舞い込む。
「……そりゃありがたい話だな」
「ふふん、当然よっ! だからこのビデオ返しに行く時、ちゃんとあたし呼びなさいよね。呼ばなかったら怒るからねっ!」
ちょっとしたデートの約束を取り付けながら、かなみはにっこり笑った。
「いま暇? 暇よね。ちょっと映画でも見たいし、レンタルビデオ屋行かない?」
「行かない」
「……暇? 暇よね。だったら行かない?」
「行かない」
「……行くわよね?」
「行きます」
首にかなみの腕が絡みついたので、震えながら頷いた。
そんなわけで真昼の太陽が照りつくクソ暑い中、かなみと一緒に近所のビデオ屋へ。
「んー、何借りよっかな。タカシ、アンタ何か見たいのある?」
「エロビデオ」
そそくさと奥にある18禁コーナーに行こうとしたら、首根っこを掴まれた。
「女の子と一緒に来てるのに、そういうの借りるな! 第一、そういうのは18歳になってから! アンタまだ学生でしょうが」
「すいません」
謝ってから再び18禁コーナーに向かおうとしてると、今度は手を握られた。
「謝ったら行っていいってことじゃない! いいからあたしと一緒に来なさいっ!」
「あぁん」
そのまま無理矢理手を引かれ、一緒に見て回ることになってしまった。
「ねぇねぇ、これなんてどう?」
「……恋愛モノ? かなみが?」
「な、なによ、あたしだってこういうの見たい時もあるわよ」
かなみは少しだけ恥ずかしそうに頬を染めた。
「や、ちょっと驚いただけ。決してかなみのキャラと合ってないなーとか、かなみが恋愛の機微を理解できる訳がないとか思ってないから安心しろ」
「ありがと♪」
ありがとうと言いながら俺を殴打するのは何故だろう。
「じゃ、これにしよっと。アンタも何か借りる?」
「エロビデオ」
「…………」
「あ、アクションとか、どうだろう?」
殺し屋の目で見られたので、思わずひよる。
「あー、いいわね。血沸き肉踊るようなの探しましょ」
やっぱり、かなみのような武闘派には恋愛なんかよりアクションの方が似合ってる。
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてる」
「嘘でもいいから否定しなさいっ!」
怒られながら適当に選び、失礼なことを考えた罰として俺の財布で会計を済まされ、帰宅。
「さっ、見よ見よ」
かなみはデッキに借りてきたビデオを入れた。四つんばいになりながら入れてるので、後ろから見たらスカートの中丸見え。パンツだ、パンツ!
「ぐぇ」
後ろに回りこんでじーっと眺めてたら、尻が降って来て俺が潰れた。
「ちょ、アンタ何やってんのよ!」
「パンツ見てたら尻に襲われた」
無言でたくさん殴られた。
「ったく、いらんことばっかして……」
「パンツ見えてるのに、見ないのは失礼だろ」
「何も言わないで見てる方が失礼に決まってるでしょ!」
「分かった。次は見ないで触るだけにする」
「アンタさては何も分かってないでしょ!?」
怒られてると、予告が始まった。
「ああもう、説教は後々。見ましょ」
映画鑑賞開始。水泳を通し、コーチと弟子が絆を深め、信頼が愛情に変わる……という話のようだ。
まぁそれはいいのだが、とにかく甘い。甘すぎる。なんだ、このだだ甘展開。
「はふぅ……」
ほれ、かなみも呆れてため息吐いて……ねぇぇぇぇ!? え、え? うっとりしてるの?
「いいなぁ、こういうの……」
いいの!? え、だって別に誰も殴られたり撃たれたりしてないよ? それでいいの暴虐王かなみさん!?
「はぁぁぁぁ……」
……しかし。
「ちょっと、可愛いと思えなくも……」
「えっ!?」
かなみの顔が突然こっちを向いた。なんだ?
「あ、アンタ、いま……」
「ん? どうかしたか?」
「え、ううん、なんでもない」
隣から小さく「聞き間違いよね……」とか聞こえてきた。何のことだろう。
……んーむ。しかし、テレビに映されてるものが甘ったるすぎて、見てたらなんか体が痒くなってきた。
見てるのが辛くなってきたので、かなみの横顔をぼーっと眺める。
「……はふぅぅぅ」
真っ赤になって甘々シーンを食い入るように眺めるその顔は、見慣れているはずなのに、
「……なんか、可愛い、かも」
「え、ええっ!?」
突然かなみの顔がこっちを向いた。さっきから俺の視線はかなみに固定されていたので、自然と目が合う。
「な、な、なんか言った!? ていうか、なんでアンタあたし見てるのよ!」
「え、あ、いや……」
“甘すぎてテレビ見てるのが辛いから隣の緩んだ顔見てた”なんて言い出せず思わず口ごもってると、かなみはまるで犯人を追い詰めた名探偵のように目を細めた。
「……はは~ん。さてはアンタ、あたしとこういうコトしたいんでしょ?」
「は?」
「でもごめんねー、あたしこういうの興味ないんだー」
いやいやいや、ついさっきまで食い入るように見てたの誰ですか。そもそもこのビデオ借りたの誰ですか。
「……で、でもタカシがどうしてもそういうことしたいんなら、我慢してあげなくも……」
「や、別にいい」
「……あ、あっそ! 残念ね、この機会を逃したらタカシなんかにはこういうことしてくれる相手なんていないでしょうに! あーあー可哀想!」
そう言って、かなみは再びテレビの方を向いた。
なんで怒ってるのかよく分からんが、とにかく興味が他所に行ったなら俺に言うことはない。視線をかなみからテレビに移すと、
「ぶっ!」
ラブシーン、いやさエロシーンの真っ最中でした。
「う、うわぁ……」
隣の声にそっと様子を覗き見ると、口元を押さえ、目をこれでもかと見開いてテレビを見つめる少女がいた。ちょっとがっつきすぎです、お嬢さん!
「え、そ、そんなところまで映すの? ……え、ええっ!?」
……うーむ、テレビの様子も気になるが、かなみを見てた方が面白い予感。
「え、ちょっとこれ、ホントに普通のビデオ? タカシがいつも借りてるえっちなビデオじゃないの?」
失礼な、いつもじゃないぞ。たまにだ、たまに。
「ふわ、ふわぁ……」
なんかもう見てて可哀想なくらい真っ赤になりながら意味不明の言葉を呟くかなみ。
テレビを見つめるかなみと、その様子を眺める俺の図式が成立したまま映画は終了。
「は、はぁぁぁぁ~」
まるで魂が抜けるようなため息をつくかなみに、置いてあったジュースを渡す。
「あ、ありがと。……すごかったわね」
「そうなのか?」
「そうなのかって、見てなかったの? ……ひょっとして寝てた?」
「見てなかったが、起きてたぞ」
「……? じゃあ何見てたの?」
「かなみ見てた」
「え……ええーっ!?」
かなみの顔が茹でタコみたいになった。
「な、なんで? ……じゃなくて、折角借りてきた映画見ないであたし見てるなんて、やっぱアンタって馬鹿ねー」
ふふん、なんて偉そうに腕組んでそっぽ向いてるが、その顔が赤いことに気づいているのだろうか。
「や、赤くなったり意味不明の言葉呟いてる生物見てるのがことのほか楽しくてな」
「……そ、そう。そんなにあたしの顔見てるの楽しいんだ。……ふぅん」
怒られるかと思ったが、予想外なことにかなみは少しだけ嬉しそうに頬を緩ましていた。
「……じゃ、じゃあ、次も映画、アンタと一緒に見たげる。特別よ、特別! 感謝しなさいよね!」
“別にいい”と言おうとしたが、凄く嬉しそうなかなみの笑顔を見て、ノドの奥に仕舞い込む。
「……そりゃありがたい話だな」
「ふふん、当然よっ! だからこのビデオ返しに行く時、ちゃんとあたし呼びなさいよね。呼ばなかったら怒るからねっ!」
ちょっとしたデートの約束を取り付けながら、かなみはにっこり笑った。
【納豆嫌いなツンデレ】
2010年03月27日
辛い辛い時間をなんとか乗り越え、やっと昼休みになった。ご飯だご飯、待ちかねた!
「なんで寄って来るのよ」
フラフラかなみの席に近づいたら、露骨に嫌がられた。
「光に吸い寄せられがちなんだ」
「ああ、あたしという光り輝かんばかりに美しい人物に引き寄せられたのね。それなら仕方ないわね」
「そんなことはまったくちっとも思ってないのだけど、機嫌良さげに鼻を膨らませているので黙っておこう。あと鼻毛がちろっと出てることも黙っていよう」
俺を神速で殴り倒してから、かなみは教室の奥に行って何かコソコソした後、恥ずかしそうに戻ってきた。
「あ、鼻毛もう出てない」
「イチイチ言うな、馬鹿ッ!」
どさくさに紛れてかなみの隣の席に座り、弁当のフタを開けていただきます。
「…………」
「ちょっと、誰も一緒に食べていいなんて……アンタ、その弁当、なに?」
「そば」
「違うでしょっ! なんで一面納豆なのよ!」
かなみの言うとおり、俺の弁当箱にはご飯と納豆が敷き詰められていた。
「たぶん、昨夜母さんに『納豆ってマズイよね。食べる奴の気が知れないよ。特に目の前でどんぶりで納豆ご飯食べてる奴の気が知れない。具体的に言うと母さんの気が。馬鹿なの?』って言ったのが原因かと」
「……アンタの家って、愉快ね」
愉快と言いながらも、呆れているように見えるのは気のせいなのだろうか。
「うぅむ、どうしたものか……そうだ、ここはかなみを適当に褒めていい気にさせ、飯を奪おう! えーとえーと、かなみ、今日もカワイイね。飯よこせ」
両手をおわんのようにしておかずを分けてもらおうとしたのに、かなみと来たら全然くれない。
「あげるわけないでしょ! 第一、そういう作戦するなら口にしたら台無しでしょうが!」
「じゃあ、聞かなかったということでここは一つ」
「無理に決まってるでしょ! なんでこの子はこんな馬鹿なのよ……」
「馬鹿じゃないもぐもぐ」
「ああっ、アンタなに勝手に人のハンバーグ食べてんのよ!」
「いただきますもぐもぐ」
「そういうこと言ってるんじゃないっ! あげるなんて言ってないでしょ!」
弁当箱を手で覆い隠し、かなみは噛み付くように俺に言った。
「じゃあトレードしよう。俺の納豆ご飯と、かなみのハンバーグ」
「絶対イヤ!」
「じゃあ、俺のでろでろ納豆ご飯と、かなみのつやつやポテト」
「い・や! 大体、あたし納豆嫌いだもん」
「おおっ、納豆嫌い仲間だ。仲間にどうか飯のおこぼれを」
「アンタと仲間なんて、余計にあげたくなくなる理由が増えたわよ」
もうこれ以上関わりあいたくないのか、かなみはこっちを見ないようにしながら飯を一人で突いていた。
「……はぁ。仕方ない、我慢してこれ食うか……」
納豆をかき混ぜ、ずるずるすする。
「うぐぐ、まずいぃぃ……超吐きそう」
あまりのまずさに、ちょい涙目に。
「……な、泣くほどまずいの?」
「まずい。これ食うくらいなら近所のラーメン屋でラーメン食ったほうがマシだ」
「近所のって……そのラーメン屋って、そんなまずいの?」
「すごくおいしい。休みの日とかよく行く」
「んじゃ対比にならないでしょ! そういう時はまずいの出すでしょ、普通!」
「かなみの作る飯食ったほうがマシぐぁっ」
正しく訂正したのに殴られた。
「言われなくても知ってるわよ! ……なによ、あたしだって美味しいの作りたいわよ」
かなみはいじけたように口を尖らし、俺をじとーっと睨んだ。
「あ、いや、その、本どおりに作れば、それなりに食えるのは作れるだろ、普通?」
「……あたしは普通じゃないもん」
いかん、かなみがいじいじいじけ虫に! 大人しくなって撲殺される可能性が大変下がったが、悲しそうなので慰めるべし!
「大丈夫だって! 練習に練習を重ねれば、うまいの作れるって!」
「……じゃあさ、アンタ、作ったの味見してくれる?」
「や、それはご免被りたい」
「…………」
思わず本音がこぼれたら、かなみさんが無言で俺を責めます。
「じ、冗談です、冗談。そ、その、あれだ、照れ隠しとか、そんな部類に属する感情が、ね? 決して毒殺を怯えているわけでは」
「……もういい」
かなみは悲しそうにそれだけ言って、おいしくなさそうにご飯をもそもそ食べた。
「う、うーあーうー、うー」
「……うるさいわね、ご飯は静かに食べなさいよ」
困った。なんとかいつもの暴虐……いやいや、元気なかなみに戻って欲しいのだが……よし、もう一度飯を作ってくれるよう、頼んでみよう。
「俺のために味噌汁を作ってくれ!」
かなみは勢いよく飯粒を噴き出し、俺の顔に愉快な模様をつけた。
「な、な、なんてこと言ってんのよ、この馬鹿!」
何を慌ててるのか皆目検討がつかないが、かなみは顔を真っ赤にしながら俺を箸でたくさん刺した。
「痛い痛い痛い! 今ここに食事用の木材が殺戮用兵器に!」
「この馬鹿この馬鹿この馬鹿!」
「なんかよく分かんないけどごめんなさい俺が悪かったです! 痛い痛い刺さないで!?」
「はぁはぁ……まったく、バカなんだから」
「ううう……なんで刺されたのでせうか?」
「自分の胸に聞きなさいッ!」
分からないから聞いたのに。
「はぁ……痛いし腹減ったし飯はかき混ぜられて納豆まみれだし、もう最悪だ」
「最後のは自分のせいでしょうが! 全くもう……」
かなみはそっと俺の弁当の上にポテトを置いた。
「えっと、これって……?」
「あ、アンタがあんまりにも哀れだからあげるわよ。……なによ、その顔」
「感激してる顔だと覚えていただけると幸いです」
「ポテトなんかで感激してるんじゃないわよ。……今度、弁当作ってきたとき、感激のあまり卒倒しないでよね」
「あ、ああ、努力する。……ん? それって、作ってくれるって事か?」
「アンタがあんまりにも鬱陶しいから、毒殺することにしたの! それだけ! 他意はないの! だから、それ以上聞かないこと! いいわね!?」
再び食事用木材改め俺専用殺戮兵器を俺に向けたので、俺は壊れたロボットみたいにコクコクうなずくのだった。
「なんで寄って来るのよ」
フラフラかなみの席に近づいたら、露骨に嫌がられた。
「光に吸い寄せられがちなんだ」
「ああ、あたしという光り輝かんばかりに美しい人物に引き寄せられたのね。それなら仕方ないわね」
「そんなことはまったくちっとも思ってないのだけど、機嫌良さげに鼻を膨らませているので黙っておこう。あと鼻毛がちろっと出てることも黙っていよう」
俺を神速で殴り倒してから、かなみは教室の奥に行って何かコソコソした後、恥ずかしそうに戻ってきた。
「あ、鼻毛もう出てない」
「イチイチ言うな、馬鹿ッ!」
どさくさに紛れてかなみの隣の席に座り、弁当のフタを開けていただきます。
「…………」
「ちょっと、誰も一緒に食べていいなんて……アンタ、その弁当、なに?」
「そば」
「違うでしょっ! なんで一面納豆なのよ!」
かなみの言うとおり、俺の弁当箱にはご飯と納豆が敷き詰められていた。
「たぶん、昨夜母さんに『納豆ってマズイよね。食べる奴の気が知れないよ。特に目の前でどんぶりで納豆ご飯食べてる奴の気が知れない。具体的に言うと母さんの気が。馬鹿なの?』って言ったのが原因かと」
「……アンタの家って、愉快ね」
愉快と言いながらも、呆れているように見えるのは気のせいなのだろうか。
「うぅむ、どうしたものか……そうだ、ここはかなみを適当に褒めていい気にさせ、飯を奪おう! えーとえーと、かなみ、今日もカワイイね。飯よこせ」
両手をおわんのようにしておかずを分けてもらおうとしたのに、かなみと来たら全然くれない。
「あげるわけないでしょ! 第一、そういう作戦するなら口にしたら台無しでしょうが!」
「じゃあ、聞かなかったということでここは一つ」
「無理に決まってるでしょ! なんでこの子はこんな馬鹿なのよ……」
「馬鹿じゃないもぐもぐ」
「ああっ、アンタなに勝手に人のハンバーグ食べてんのよ!」
「いただきますもぐもぐ」
「そういうこと言ってるんじゃないっ! あげるなんて言ってないでしょ!」
弁当箱を手で覆い隠し、かなみは噛み付くように俺に言った。
「じゃあトレードしよう。俺の納豆ご飯と、かなみのハンバーグ」
「絶対イヤ!」
「じゃあ、俺のでろでろ納豆ご飯と、かなみのつやつやポテト」
「い・や! 大体、あたし納豆嫌いだもん」
「おおっ、納豆嫌い仲間だ。仲間にどうか飯のおこぼれを」
「アンタと仲間なんて、余計にあげたくなくなる理由が増えたわよ」
もうこれ以上関わりあいたくないのか、かなみはこっちを見ないようにしながら飯を一人で突いていた。
「……はぁ。仕方ない、我慢してこれ食うか……」
納豆をかき混ぜ、ずるずるすする。
「うぐぐ、まずいぃぃ……超吐きそう」
あまりのまずさに、ちょい涙目に。
「……な、泣くほどまずいの?」
「まずい。これ食うくらいなら近所のラーメン屋でラーメン食ったほうがマシだ」
「近所のって……そのラーメン屋って、そんなまずいの?」
「すごくおいしい。休みの日とかよく行く」
「んじゃ対比にならないでしょ! そういう時はまずいの出すでしょ、普通!」
「かなみの作る飯食ったほうがマシぐぁっ」
正しく訂正したのに殴られた。
「言われなくても知ってるわよ! ……なによ、あたしだって美味しいの作りたいわよ」
かなみはいじけたように口を尖らし、俺をじとーっと睨んだ。
「あ、いや、その、本どおりに作れば、それなりに食えるのは作れるだろ、普通?」
「……あたしは普通じゃないもん」
いかん、かなみがいじいじいじけ虫に! 大人しくなって撲殺される可能性が大変下がったが、悲しそうなので慰めるべし!
「大丈夫だって! 練習に練習を重ねれば、うまいの作れるって!」
「……じゃあさ、アンタ、作ったの味見してくれる?」
「や、それはご免被りたい」
「…………」
思わず本音がこぼれたら、かなみさんが無言で俺を責めます。
「じ、冗談です、冗談。そ、その、あれだ、照れ隠しとか、そんな部類に属する感情が、ね? 決して毒殺を怯えているわけでは」
「……もういい」
かなみは悲しそうにそれだけ言って、おいしくなさそうにご飯をもそもそ食べた。
「う、うーあーうー、うー」
「……うるさいわね、ご飯は静かに食べなさいよ」
困った。なんとかいつもの暴虐……いやいや、元気なかなみに戻って欲しいのだが……よし、もう一度飯を作ってくれるよう、頼んでみよう。
「俺のために味噌汁を作ってくれ!」
かなみは勢いよく飯粒を噴き出し、俺の顔に愉快な模様をつけた。
「な、な、なんてこと言ってんのよ、この馬鹿!」
何を慌ててるのか皆目検討がつかないが、かなみは顔を真っ赤にしながら俺を箸でたくさん刺した。
「痛い痛い痛い! 今ここに食事用の木材が殺戮用兵器に!」
「この馬鹿この馬鹿この馬鹿!」
「なんかよく分かんないけどごめんなさい俺が悪かったです! 痛い痛い刺さないで!?」
「はぁはぁ……まったく、バカなんだから」
「ううう……なんで刺されたのでせうか?」
「自分の胸に聞きなさいッ!」
分からないから聞いたのに。
「はぁ……痛いし腹減ったし飯はかき混ぜられて納豆まみれだし、もう最悪だ」
「最後のは自分のせいでしょうが! 全くもう……」
かなみはそっと俺の弁当の上にポテトを置いた。
「えっと、これって……?」
「あ、アンタがあんまりにも哀れだからあげるわよ。……なによ、その顔」
「感激してる顔だと覚えていただけると幸いです」
「ポテトなんかで感激してるんじゃないわよ。……今度、弁当作ってきたとき、感激のあまり卒倒しないでよね」
「あ、ああ、努力する。……ん? それって、作ってくれるって事か?」
「アンタがあんまりにも鬱陶しいから、毒殺することにしたの! それだけ! 他意はないの! だから、それ以上聞かないこと! いいわね!?」
再び食事用木材改め俺専用殺戮兵器を俺に向けたので、俺は壊れたロボットみたいにコクコクうなずくのだった。