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2025年02月06日
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【ツンデレと運動会の練習】

2010年09月07日
 もうすぐ運動会なので、毎日放課後に練習を行っている。だがしかし、俺は運動とか大変苦手な生物なのでサボりがちだ。
「あっ、アンタまた逃げようとしてる! ほら、ちゃんとやりなさいよ!」
 そんなわけで今日もこっそり教室から抜け出そうとしたら、かなみに見つかってしまった。
「いや、当日はちゃんと真面目にやりますよ? ただ、それ以外は面倒くさいのでサボりたいんだ」
「ダメに決まってるでしょ! アンタ一応リレー選手でしょ? ちゃんと練習しないと!」
 くじ運が激烈に悪いのでそんなのに選ばれた俺なのだった。俺以外全員が陸上部員という地獄に君は耐えられるだろうか。
「うーん。でもなあ。めんどくさいしなあ。ハートはどこにつけよかなあ」
「知らんッ!」
 かなみさんはとても怖いです。
「ほら、いいから行くわよ! 先生にも頼まれてるのよ、アンタがサボらないようにちゃんと監視しててくれって」
「どこの囚人だ、俺」
「ほらほら、いーから行く行く」
「うわたた、押すな押すな」
 そんなわけで、無理やりに着替えさせられ運動場に連れて来られた。もう既にやる気メーターが0だ。
「あー今日もよく頑張った。さて帰るか」
「まだ着替えただけっ! とっとと練習しろっ!」
「暑くてやる気がしないんだ」
 着替えた時点でやる気はないと言うのに、さらにこの暑さが俺のやる気メーターをマイナスへと追いやる。そんなわけで、練習してるクラスメイトを尻目に木陰に退避。
「こらっ、早々とリタイヤするなっ! みんな頑張ってるんだから、アンタも頑張りなさいよ!」
 そんな俺を叱りつけるかなみ。腰に両手をあててお姉さん叱りするのは大変に喜ばしいが、その程度では俺のやる気メーターは変動しない。
「気温を10度ほど下げてくれたらやる」
「神様じゃないんだからそんなのできないわよ、馬鹿。ほーら、頑張る」
「うぁー」
 両手をぐいーっと引っ張られるが、その程度では俺様を動かすことは出来ない。いや、俺の方が体重が重いので。
「ふぅふぅ……ちょっと! 重いわよ!」
「100kgを超えた身体にこの暑さは辛いデブー」
「そんなにないでしょ! そんな語尾ついてなかったし! いーから練習しなさい!」
「かなみがチアガールの格好で俺を応援してくれたら頑張れる」
「なっ、なんでアンタなんかのためにそんな格好しなきゃいけないのよ、馬鹿!」
「なんで、と言われても、見たいから、としか言いようがない」
「見……だっ、誰がするもんですか、この変態!」
「残念なことこの上ないな。んじゃ俺帰るな」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ! ……ほ、ホントに着たらやるんでしょうね?」
「おおっ!? その台詞はつまり着てくれるのか!?」
「かっ、勘違いしないでよね! 先生にアンタを練習に参加させるよう頼まれたからで、そのために仕方なく着るだけなんだから! 嫌々着るんだからねっ!」
「テンプレをありがとう」
「はあ?」
「ま、ま。とにかく、着て俺を応援してください」
「こっ、こら、押すな!」
 ぐいぐいかなみを押して校舎に押しこめ、クラスメイツの待つ場所へ戻る。
「待たせた皆の者! 王の帰還だ!」
 全員に無視された。
「サボってすいませんでした。今から頑張るのでどうか参加させてください」
 何かの虫みたいにぺこぺこ謝ってご機嫌を伺った結果、許してもらった。
「やれやれ。それで俺は何をしたらいいのかな? 女子のブルマの観察? 任せろ、得意だ」
 今の発言で女子全員が俺を敵と認識したようで、とんでもない量の視線が突き刺さってきたが、気づかないフリをする。まともにぶつかると廃人になること請け合い。
 視線の恐怖で半泣きになりながらも走ったりバトンの受け取り方の練習をしたり走ったりした結果、超疲れた。
「ああ……ああ、本当に疲れた。もう帰りたい。よし、帰ろう」
「だから、すぐに帰ろうとするなっ、ばかっ!」
 聞きなれた声に慌てて振り向く。そこに、待ち焦がれた姿があった。
「……な、何よ、じろじろ見て」
 かなみがいた。チアガール姿のかなみがいた。両手にポンポンを持ち、短いスカートを履き、真っ赤なノースリーブを着たかなみがそこにいた。大きなポンポンで自分の胸元を隠すようにしている。
「大変可愛いですね!」
「うっ……か、可愛いとか言うなっ、ばかっ!」
 かなみは真っ赤になりながら俺をげしげし叩いた。しかし、ポンポンは応援には適していても攻撃には向いてないようで、俺のダメージは0だ!
「いやはや。もう既にかなみのチアガール姿で俺のやる気メーターは大分回復したが、これに応援が伴うと俺のやる気メーターは天井知らずになるのでお願いします」
「回復したんでしょ? じゃあやんない」
「衝撃の発言におしっこが漏れそうだ」
「幼児かッ!」
「ていうかお願いします応援してください。土下座? 任せろ、得意だ」
「土下座なんかされても嬉しくないッ!」
 一切の躊躇なく土下座したのに、かなみときたら全く応援してくれない。
「ここまでしてもダメとは。これはもういっそおしっこを漏らすべきか……?」
「漏らすなッ! ……そ、そんなにあたしに応援してほしいの?」
「そりゃ勿論。そのためだけに俺は今ここにいるのだから」
「……ふ、ふーん。そなんだ。……あたしのためなんだ」
 なぜか知らないが、かなみは頬を染めながらゴニョゴニョ呟いた。そんなにチアガール姿が恥ずかしいのだろうか。
「……わ、分かった。覚悟決める。でっ、でも、応援した姿見て笑ったりしたら殺すわよ!?」
「笑いません」
 ガクガク震えながら答える。このチアガール超怖え。
「そ、そう。……じゃ、やるわよ?」
「お、おう」
「……ふ、ふぁいと」
「…………」
 俺の前までちょこちょこやって来ると、かなみはポンポンを小さく揺らしながらぽしょぽしょと俺を応援した。
「が、がんばれー。ふぁいとー」
「…………」
「え、えっと。元気、出た?」
 ちょこんと小首を傾げつつ、かなみは俺に訊ねた。
「超!」
「ひっ!?」
「超! 元気! が! 出た!」
「そ、そう。それならよかった」
「今なら空だって飛べそうな! ……いや、飛べる! よしかなみ、ちょっと屋上からFly Highってくるので見てて!」
「それただの自殺! 飛べないから行くな、馬鹿!」
「いやまあそれくらい元気が出たってことですよ! 本当にありがとう、かなみ! お前の応援に感謝する!」
「え、あ、そ、そこまで感謝されたらアレなんだけど……そ、そんな嬉しかったの?」
「それはもう! ここ数年来で一番嬉しかった!」
「こんなのが一番って、アンタの人生結構哀れなのね……」
 失礼なことを言われている気がする。
「まあとにかくまた練習してくる! ありがとな、かなみ!」
「そ、そう。……んじゃ、まあ、仕方ないから、あたしが引き続き応援してあげ」
「……あ、おにーさん」
 すぐ横から聞き覚えのある声がした。学校と外を隔てる金網の向こうに、知り合いの中学生であるふみがいた。慌ててそちらへ駆け寄る。
「よう、ふみ。学校帰りか? それとも探し物か? なかなか見つからないか? それより僕と一緒に踊りませんか?」
「……うふーふーうふーふーうふーふー?」
 この娘は俺と似た感性を持っているので、一緒にいて楽しい。時折(でもないが)辛らつな言葉を投げかけられるのを抜きにすると。
「……まあ、おにーさんと一緒に踊るのはともかくとして、おにーさんの背後にいるおもしろ格好をしているおねーさんが鬼もかくやと思えるほどの形相をしているので、私は逃げます」
 とてとてとふみはゆっくり逃げていった。なんだかすごく振り向きたくないよバーニィ。
「……え、ええと。それで、何の話だっけ、かなみ?」
「知らないわよっ、馬鹿ッ!」
 俺の口の中にポンポンを詰め、かなみは足音も荒く校舎に入って行ってしまった。
「もがもが……もがもがもが」
「ふーんふーん……ひっ、見たら死ぬ系の妖怪!? はわ、はわわわわ!?」
 偶然通りがかった大谷先生が悪戦苦闘しながらポンポンを取り出そうとする俺を見て腰を抜かしていた。

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【憑かれてるツンデレ2】

2010年09月05日
 先日、俺の特殊スキル除霊が発動したため、ボクっ娘に憑り付いていた幽霊が俺に憑り付いた。しかしそれは除霊ではなく依代が変わっただけのような気がするので、俺の特殊スキルは依代変更ということで。
 そんなわけで、俺の部屋には件の幽霊と、あとなぜかボクっ娘もいる。
「で、なんでおまいまでいるんだ」
ぐいいっと梓に指を突きつける。そのままついでにほっぺをぷにぷにする。やーらかい。
「だ、だって、タカシを一人にしたら絶対にこの幽霊にえっちなことするに決まってるもん。そんな悪どいこと、ボクの目が黒いうちはさせらんないよ!」
「つまり、カラコンを買ってこいと言うのだな。何色がいい?」
「買ってこいとなんて言わないのだな!」
「変な返事」
「うがー!」
 梓にがぶがぶ噛まれてると、幽霊がおずおずと俺の服の裾を握ってきた。
「ん? どした?」
「あ、あの……今更ですけど、いいんですか? 私がここにいても」
「人権のないおにゃのこと一つ屋根の下だなんて、考えるだけでニヤけて仕方ないからいいよ」
 幽霊がゆっくりと離れていった。
「うそ、うそです。何もしないっての。だから、気が済むまでここにいなさい」
「…………」
 幽霊はちょっと嬉しそうにこちらに戻ってきた。ので、悪い顔でニヤリと笑う。
「……騙されてますか、私?」
「騙されてるよ! だから、今すぐ成仏すべきだよ!」
 隣から嬉しそうに梓が声をかけた。
「まあ、成仏できるならそうしたほうがいいんだろうけど、自分の部屋に可愛い女の子がいるという現実が崩れるなら成仏しないほうがいいなあ」
「今日も自分勝手だよこの人!」
 幽霊の頭をなでてると、反対側から梓が僕の頬を引っ張ります。
「……ところで、根本的な疑問なんですが、どうして私に触れられるんですか?」
「女体に触りたいという想念が人より優れているから、じゃないかな?」
「「…………」」
 幽霊だけでなく、どうしたことか梓まで引いていた。
「嘘です。いや、そうでもないです。うーん……うん! やっぱりこれは本当です。自分に嘘なんてつけやしねえ!」
「無駄に男らしいよ、ばかっ!」
「……かっこいい、です」
「「ええっ!?」」
 俺と梓が異口同音で驚いた。
「……自分に言い訳しない男性で、かっこいいです」
「自分で言っておいてなんだが、先の発言をかっこいいと感じるのはどうかと思うぞ。よくもまあ今までそこらの悪い狼に食べられなかったものだ」
「……幽霊なので、普通の人は触れないんです」
「なるほどそれもそうか! わはははは!」
「わははじゃないよ! それってタカシだけがこの幽霊さんを襲えるってことじゃんか!」
 梓の言葉に、幽霊はぽっと頬を染めた。
「こら、そこの幽霊! 何を赤くなってんだよ!」
「そう怒るな梓。この幽霊もきっと今まで話し相手もいなくて寂しかったんだ、しばらく話せば成仏するだろう可愛いおにゃのこ幽霊が一緒で嬉しいなあウヒヒヒヒ」
「建前と本音が同居してるよっ、ばかっ!」
 このボクっ娘は人の頭をよく叩くのでひどいと思います。
「うー……しょ、しょがないからボクもここにいる!」
「妙なことを言うのはいつものことだが、今日のボクっ娘は普段よりも妙な発言をするね」
「みょーじゃない! だ、だって、タカシと幽霊さんを二人っきりにしたら、絶対にえっちなことするに決まってるもん! それを監視するため、ボクも今日からここで寝泊りする!」
「そして俺と幽霊が梓の家で寝泊りするのだな?」
「何の意味があって家を交換すんだよ!」
「梓のおじさんとおばさんにばれないように幽霊とえっちをするスリルを味わうため?」
「さいてーやろう撲滅ぱんち!」
 最低野郎撲滅パンチにより、煩悩退散。
「……どきどき、します」
「こらっ、そこっ! ドキドキしない! ボクの目が黒いうちは、えっちなことなんてさせないかんねっ!」
「つまり、カラコンを買って来いと言うのだな。何色がいい?」
「話がループしてるよ、ばかっ!」
 今日も時空のねじれに巻き込まれる俺だった。
「……と、とにかく! 今日からボクもタカシの家に住むからね! これ、めーれーだから!」
「めーざー光線!」
「……ぎゃあー?」
 めーれーとめーざーという響きが似てたので、なんとなくめーざー光線と言いながら手を銃にみたてて幽霊に撃ったら、疑問系ながらも反応してくれたので嬉しい。
「よしよし、偉いぞ」(なでなで)
「……せいかい、でした。ぶい」
「ボクをほっぽって二人で遊ぶなっ!」
 すると、なぜか梓が涙目で抗議してきた。
「じゃあ三人で遊ぼう」
「そ、そゆことじゃなくて、幽霊さんの成仏の方法を探るとか、なんで幽霊になっちゃったか、色々調べることあるじゃんか。そゆのはしないの?」
「梓は遊ばないようなので、幽霊と遊ぼう。何しよっか?」
「……とらんぷ」
「……あー、もうっ! 分かったよ、ボクも遊ぶっ!」
 そんなわけで、三人で徹夜でトランプした。超楽しかった。が。
「うおお……超眠い……」
「徹夜でトランプなんかするからだよ、ばかー……」
「むにゃ……いってらっしゃい……すぴー……」
 半分寝息を立ててる幽霊に見送られ、俺と梓は超あくびを超しながら学校へ向かうのだった超。眠い超。

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【ツンデレと新学期】

2010年09月04日
 今日からまた学校なので大変面倒くさい。
「うやー」
「突然先生の頭をわしわしっと!? これはもう確実に別府くんの仕業に違いないです! ……ほら見たことか!」
 かったるいので登校中に発見した珍獣こと大谷先生の頭を後ろからわしわしこねたら、即座にばれた。
「おはよう、先生」
「おはようではないですっ! 先生にする挨拶ではないです! どうして先生の頭をわしわしーってするですか!?」
「だって、先生の胸をわしわしーってしたら冗談では済まないと思って。……いや、まさか冗談で済むと? 先生、ちょっと前向いて」
「絶対に向きませんッ! まったく、別府くんには困ったものです。いや、というよりも、先生に大人の魅力が溢れすぎているのが困りものなのですかね。おっぱいが大きいのも困りものです」
「先生のおっぱいは着脱可能な製品なの?」
「不可能製品ですっ! おっきかったらなーって仮定のお話ですっ! ええそりゃ夏休み前から今に至るまで全くちっとも全然サイズ変わってませんようえーんっ!」
「ああ先生を泣かしてしまった。泣き叫ぶ幼女は嗜虐心をそそっていいなあ」
「幼女じゃありませんし、ちょっとは泣き止ませる努力を見せてほしいし、何より発言がすっごく怖いですっ!」
「実はS気質なんだ」
「そんなの、普段の別府くんを見てればがっつり分かります! 別府くんのいじわる!」
「はいはい。ごめんな、先生」(なでなで)
「いつでも子ども扱いですよぉ……」
「分かったよ、次からは大人扱いするよ」
「……具体的には?」
「名刺渡す」
「すっごく大人っぽいです! はや、でも先生は名刺持ってないから交換できないです……」
「普段から大人大人と言ってるくせにこの体たらく。先生もこの程度か」
「ぐぅぅぅぅ……だってだって、名刺なんて使う機会ないからしょうがないです! わたくし、こーゆーものですとか言ったことないです!」
「わたくし、こーゆーものです」
「先を越されました!? ……あの、なんで握手してるんですか?」
「名刺なんて持ってないから代わりだ」
「やーい、子供ー♪」
 全力で先生の手を握りつぶす。
「はやややや!? 手が、先生の手がみりみりと!?」
「先生の手は柔らくて気持ちいいね」
「こっちはそれどころではないですよ!? 手が、手がみりゃみりゃ言ってます! そして同時に激しい痛みが先生を襲っていますよ!?」
「なんか余裕あるなこの生物」
「ないです、ちっともないです! 痛くて痛くて死にそうです! ぐげー! あ、今死にました! だから手を、手を離してください!」
「先生って基本的に頭が悪い発言多いよね」
「いいから手を、手をー!?」
 いい加減限界っぽかったので、手を離してあげる。先生はすぐさま手を戻し、ふーふー息を吹きかけた。
「ううううう……とっても痛かったです! 別府くんのばか!」
「ごめんな。ただ、俺は先生をいじめたかっただけなんだ。それだけは、どうか信じて欲しい」
「全然いい話じゃないのに、それっぽい雰囲気で騙そうとしてます!?」
「信じた?」
「信じるも何も、最初っから最後まで全力でいじめられてます!」
「分かってるならいいや。じゃ、そろそろ学校行こうか、先生」
「結局一度も謝られてませんっ! そんな酷い生徒と一緒になんて行きません!」
「それにしても、久しぶりに先生に会えて嬉しいよ」
「……で、でもまあ、先生は大人なので、自分より生徒の都合を優先する度量を見せる必要があります。だ、だから、一緒に行ってあげてもいいです……よ?」
「でも、友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「自分から誘っておいてまさかのときメモ返しっ!? もう何も信じられませんよ、別府くんのばかーっ!」
「ああ待って待って先生。一緒に行こうよ」
「行きませんっ、絶対に行きませんっ!」
 早足でスタスタと行く先生を追いかけながら、学校へ向かうのだった。

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【寝癖が直らない沙夜】

2010年09月04日
 寝てると神が降臨。
「…………」(くいくい、くいくい)
 ではなく、幼なじみの沙夜が降臨。くいくいと布団を引っ張っているところから察するに、起こしにきたらしい。
「……んん、んあ。……ああ、もう朝か。早いなあ。眠いなあ。よし、今日は学校休もう」
 そうと決まればもう一度布団を被りなおし寝なおそうと思ったら、再び布団をくいくい引っ張る感覚。
「…………」(くいくい、くいくい)
 薄く目を開けると、沙夜が少し困った顔をしながら布団をくいくい引っ張っていた。
「うーん。起きなきゃダメか?」
「…………」(こくこく)
「沙夜がちゅーしてくれたら起きる」
 沙夜は少し困った顔をした。
「しないなら寝る」
 そう言って目をつむるが、少し薄目を開けておく。
 沙夜はほんの少し逡巡した後、薄く頬を染め、ゆっくり顔をこちらに近づけた。充分引き付けてから、おでこに頭突きをかます。
「…………」
 沙夜は片手でおでこを押さえ、不満げに俺をにらんだ。
「こんな簡単な罠にはまる己の無能さを恨むがいい。ふわーっはっはっは!」
 朝から大声で笑ったせいで目が覚めてしまった。しょうがない、起きるか。
「…………」(がぶがぶ)
 沙夜に左手を噛まれたまま居間へ。母さんが俺と沙夜を見て呆れたように息を吐いた。
「アンタまた沙夜ちゃん怒らせたの?」
「沙夜が馬鹿だからしょうがないんだ」
「…………」(がぶがぶがぶ)
 俺の手が受ける痛みが増加した。
「沙夜、そろそろ血が出るのでやめてくれると大変嬉しい」
「…………」(じーっ)
 何か言いたげに、沙夜は俺の手を咥えたままこちらをじっと見た。
「……ええと。馬鹿呼ばわりしてごめんなさい」
 一応は謝ったのだが、未だ俺の手は沙夜の歯が食い込んだままだ。はて。
「……ああ! それと、沙夜。毎日起こしてくれてありがとうな。感謝してる」
 これで満足したのか、ようやっと沙夜は俺の手を離してくれた。涎やら歯形やらで大変なことになっているが、とにかく痛みからは解放された。やれやれだ。
 沙夜は俺の手をぺろぺろ舐めて治すと、隣の椅子に座り、食卓に置かれた焼きたてのパンに手を伸ばした。俺もいただく。
「うん。今日もうちのパンはうまい」
「…………」(こくこく)
「特売で買ってきたパンなのに……安上がりな息子と嫁で大助かりよ」
「結婚した覚えはないのですが」
「…………」(こくこく)
 俺と沙夜の抗議を全く気にせず、母さんはテレビを見るばかり。
「まあいいか。しょうがないので結婚しようか、沙夜」
 母さんの間違いを正解にすべく、沙夜の手を取ってプロポーズしてみる。
「…………」(こくこく)
「受け入れるな。冗談だ」
 沙夜の顔が残念そうなものへと変化していった。
 そんなこんなで飯も食い終わり、沙夜と一緒に登校。
「……ん?」
 いつものようにだらだら歩いてると、沙夜の髪がはねてることに気づいた。
「沙夜、頭」
 そう言うと、沙夜は何の躊躇もなく俺に頭突きをしてきた。鎖骨折れるかと思った。
「違う、誰もいきなり頭突きをしろなんて言ってない。髪がはねてるぞ」
 そう言われて初めて沙夜は自分の頭を触った。頭の丁度真ん中、つむじあたりの髪が一本重力に逆らうように天にそびえ立っていた。
「アホ毛みたいで素敵ですね」
 沙夜は不満げに俺を睨んだあと、両手でぎゅーっと髪を押さえつけた。しかし、そんなもので寝癖が直るはずもなく、手を離すとすぐにまたぴょこんと髪が立ち上がった。
「…………」
 直ってないと知り、沙夜は少し悲しそうな顔をした。
「大丈夫だ、沙夜。俺に任せろ」
 沙夜の頭に手を置き、むぎゅーっと押さえる。
「!!?」
 力が強すぎたのか、沙夜がゆっくりと沈んでいった。
「あ、すまん」
「…………」(がぶがぶ)
「不可抗力なので、噛まないでいただけると何かと助かります」
 しかし、沙夜は噛むのをやめない。しょうがないので左手を噛まれたまま、今度はそれなりに力を調整して沙夜の頭をぎゅっと押さえる。
 しばらく押さえた後、そっと手を離す。やはり髪がぴょこんと立ち上がった。
「うーん。一度帰って濡れタオルか何かで直すか? でも今から戻ったら遅刻確定だしなあ……」
「……!」
 何か閃いたのか、沙夜は俺の手を取って自分の頭へ誘った。そして、ぽふりと頭に手を置いた。
「ほう。それで?」
 沙夜は俺の手を左右に動かした。そして、小さくうなずいた。
「ええと、頭をなでる運動により寝癖を粉砕する、ってことか?」
「…………」(こくこく)
「俺の気のせいでなければ、なでられたいだけでは」
「…………」(こくこく)
 肯定されるとは思わなかった。しょうがないので沙夜の頭をなでる。
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
「よしよし」(なでなで)
「…………」(こくこく)
 何そのうなずき。そして何この一連の動作。
「でもまあ楽しいからいいか!」
「…………」(こくこくこく)
 そんな感じで道端で足を止めて沙夜の頭をなで続けてたので、遅刻した。
「…………」(がぶがぶ)
「俺のせいじゃないのに」
 沙夜に手を噛まれながら校門をくぐる俺たちだった。

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【ツンデレと一緒に祭りに行ったら】

2010年09月02日
 今日は祭りなので、光に誘われる正の光走性を持つ俺としては行かざるを得ない。でも、一人で行ったら途中で寂しくなって泣きながら帰る可能性があるので、かなみを誘ってみた。ぴぽぱぽ、ぷるるるる。
「今すぐ来い」
『何の話よっ』
 怒られたので、簡単に説明してみる。
『なるほどね……で、なんであたしがアンタなんかと一緒にお祭りに行かなくちゃいけないのよ』
「おごってやるから。100円分だけ」
『最近のお祭りじゃ100円じゃ何もできないわよっ!』
「じゃあ200円」
『それでも一緒! 最低400円はいるわよ!』
「しょうがない。それで勘弁してやろう」
『わーい……って、アンタがあたしに頼んでるの!』
「さっきのノリつっこみを友人連中に吹聴されたくなければ、大人しく俺と一緒にお祭りを楽しめ」
『脅迫されて楽しめるわけないでしょ、ばかっ!』
 それでも一応やってきたかなみはいい奴だと思う。
「まったくもぉ……なんであたしがアンタなんかと一緒に」
「とか言ってる割に、がっつり浴衣着てますよね」
 待ち合わせた場所にいたかなみは、目にも鮮やかな浴衣を身に纏っていた。向日葵の模様がかなみらしい。
「わ、悪い? い、言っとくけどね、アンタに見せるために着たんじゃないからね! 今年一回も着てなかったから、折角だし着ておこうかなーって思っただけなんだから!」
「叫ぶな。耳が痛い」
「誰が叫ばしてんのよっ!」
「んじゃ、早速屋台を冷やかそうではないか」
「あっ、待ちなさいよ馬鹿。こっちはサンダルなんだから」
「そう言いながら、かなみはペンギンみたいにぺったらぺったら寄ってきた。ペンギンそのものなら可愛いのに、実際にはかなみなので残念な感じだ」
「それは悪かったわねッ!」
 全力で頬をつねられ痛い痛い。
「アンタみたいに無粋を固めた普段着じゃなくて、こっちは浴衣なの。ちょっとくらいゆっくり歩いてくれても罰は当たらないわよ?」
「でも、かなみと肩を並べてゆっくり歩いたりなんてしたら恋人同士じゃないかと友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「途中からときメモになってる! ていうか、アンタが普段からそーゆーことばっか言うから、あたしまでそーゆーオタクっぽいネタに詳しくなっちゃったじゃない! どーしてくれんのよっ!」
「今後も色々仕入れておきます」
「そういう話じゃないっ!」
「じゃ、そろそろ行こっか」
「だから、ゆっくり歩……いてるわね。わ、分かってるならいいのよ、うん」
 かなみと一緒にゆっくり街中を歩く。屋台の明かりがかなみの横顔を照らしていた。
「わー……久しぶりだけど、なんかいるだけで楽しいわね、お祭りって」
「折角だからなんか食うか? わたあめとか」
「んー……まだいい。とりあえず、色々見てまわろ?」
「あ、ああ」
 にっこり笑われたりしたら、こっちの調子が崩れます。平常心平常心……よし、大丈夫。
「それにしても、人多いわねー」
「祭りだからなあ。はぐれないように気をつけろよ? はぐれたら放送で呼び出してもらうからな」
「……アンタに呼び出された日には、とんでもないことになりそうね」
 かなみはうんざりした顔で俺を見た。期待には応えなければならないだろう。
「お前には分かりやすい記号が沢山あるから期待していいぞ。貧乳八重歯ツインテール、そういったキーワードを盛り込む予定だ」
「ねー、いま死ぬのとあとで死ぬの、どっちがいーい?」
「あとでお願いします」
「ん♪ あとですごく酷い目に遭わせるからね♪」
 とんでもないことになってしまった。
「……はぁ。そ、それにしても本当人が多いわね」
「ああ、確かにな」
「は、はぐれたりしちゃったら困るわよね」
「? だから、そうしたら放送してもらって」
「そ、そうならないために、どうにかしたらはぐれないで済むわよね?」
「どうにか……首輪?」
「なんでいの一番にそれが思いつくっ! 普通手を繋ぐでしょ、こーゆー場合!」
「ああ。なるほど」
「なっ、何よそのしたり顔! 誰もアンタなんかと手を繋ぎたいなんて言ってないわよ! ふ、ふざけないでよっ! 誰が繋ぐもんですかっ!」
「でも、はぐれたら困るからな」
 わにゃわにゃ言ってたが、こっちの心が折れる前にかなみと手を繋ぐ。
「う……」
「まあ、アレだ。役得だ」
「は、はぁ? なんだってあたしがアンタと手を繋げてラッキーって思わなくちゃいけないのよっ!」
「なんでお前が思うんだ。俺だよ。俺がお前と手を繋げてラッキーに決まってるだろ」
「え、あ、そ、そうよね。あ、あはは……」
 何をあせってるのか。よく分からん奴だ。
「……ね、ねぇ。アンタはあたしと手を繋げて嬉しいの?」
「当然だろ」
「と、当然なんだ。……そなんだ。……嬉しいんだ。……へへっ、そっか」
 かなみはこっそりニマニマしつつ、俺と繋いだ手を軽く振った。
「ねーねー。あたしと手繋げて嬉しい?」
「だから、嬉しいと言ってるだろ」
「役得?」
「役得だっての」
「……へへー♪」
「ものすげー嬉しそうですね」
「ぜ、ぜーんぜん! アンタなんかと手繋がなきゃいけないなんて、ほんっと最悪! ……ほ、ホントに最悪。……さ、さいあく♪」
 ちらちらと繋がれた手を見ては頬を緩めてるくせに、何を言ってるのかね、このお嬢さんは。
「あ、たこ焼き! ねーねー、おごって?」
「んー……まあいいか。おっちゃん、一個おくれ」
「あいよっ。いいねぇ兄ちゃん、可愛い彼女連れて」
 調子のよさそうなおっちゃんが俺と手を繋いでるかなみを見て軽口を叩いた。
「だっ、誰が彼女よ、誰がっ!」
「全くだ。こいつは一見可愛い彼女だが、実は男の娘なんだっ!?」
 全力で足を踏み抜かれた。地響きで屋台に吊るしてあるランプが揺れた。
「あ、あと、信じられないほど暴力的なんだっ!?」
 もう片方の足も被害に遭った。屋台自体が軽く揺れた。
「……は、はい、たこ焼きおまち。御代は……半額でいいや」
 俺の隣にいる鬼に過剰に怯えてるおっちゃんに金を払い、物を手に入れる。
「まったく! 何考えてんのよアンタは! あたしのどこが男だってのよ!」
「可愛い彼女連れてとか言われて有頂天になったんだ」
「有頂天になった末の行動じゃないっ! ……まあ、安く買えたからいいけどね。ね、どこで食べよっか?」
「んー……あ、そこの公園で食おう」
 通りがかった公園の中に入る。やはり祭りとあってそれなりの人数がいたが、それでも先ほどまでいた通りと比べると多少はマシだ。
「んーと……あ、そこのベンチが空いてる。あっこに座ろ?」
「おーけー」
 近くのベンチに二人して腰掛ける。狭いので肩と肩がぶつかる距離だ。
「んー、狭いわね……アンタもっと向こう行きなさいよ」
「もう既に半分尻が浮いてる状態で、さらに向こうへ行けと? 相変わらず無茶を言う。空中浮遊のスキルを手に入れたら向こうに行くから、それまでもう少し待っててくれ」
「一生待っても無理よっ! ていうか、それならもうちょっとこっち来てもいいわよ。あとで文句言われても嫌だし」
 そんなわけで、もう少しだけかなみの方へ距離を詰める。肩どころか俺の半身全部がかなみとぶつかっている。あ、髪の香りが……。
「ひ、人の頭嗅ぐな、ばかっ」
 俺がくんかくんかしてるのに気づいたのか、かなみは自分のツインテールを両手で持って怒った。
「あ、や、悪い。なんか甘いような、いい匂いがして」
「う……あ、アリガト」
「え、や、まあ」
 なんスか、これ。
「……と、とにかくたこ焼き食おう、たこ焼き」
「そ、そうね」
 包みを破り、蓋を開ける。まだ湯気が立っており、かつおぶしがうにょろうにょろ踊っていた。
「あ、つまようじが」
「ん? あれ、一本しかないじゃない。あのおじさん、入れ忘れたのね」
 これは困った。解決策を一つすぐに思いついたのだが、それは流石に却下。
「……しょ、しょうがないから、共用するしかないわね」
 俺の却下した案が知らず可決されていた。
「ん、んじゃ、あたしからね」
 かなみはつまようじを持つと、たこ焼きをひとつぷすりと刺し、口の中に入れた。
「ほあっ、あっ、あふっ! ……んぐっ。でも、おいし」
「ほあああふ」
「えい」
「痛いっ!?」
 普通につまようじで刺された。この女超怖え。
「人を馬鹿にするからよ。ふん、だ」
「すいません」
「次はアンタがほあああふって言う番よ。はい、あーん」
 マジすか。恋人食いするんですか。俺はてっきり交互につまようじを使い合うとばっかり。
「どしたの? はい、あーん」
「あの、かなみ?」
「ほら。早く口開けなさいよ、ばか」
 そんな可愛く口を尖らせられては、こちらに抵抗する術はありません。
「……あーん」
「……えへ。そんなにあたしに食べさせてほしいんだ?」
「いや、それほどでも」
「食べさせてほしいって言いなさいよっ!」
「すいません殺さないでください」
「そんな話はしてないっ!」
「あまりの気迫に勘違いしたんだ」
「まったく……アンタっていつだって馬鹿よね。ばか、ばーか」
 かなみは楽しそうに俺の頬をつんつんと指で突付いた。
「そんなつもりはないのに」
「えへへー。ほら、食べなさいよ、ばか」
 かなみはたこ焼きを俺の前にぷらぷらとさせた。しょうがないので食べようとしたら、ふいっと動かされた。
「残念。ほらほら、こっちよこっち」
 右に動かされたので顔を右にするが、今度は左に動かされた。左に動けば右に、右に動けば左に。
「食べられません」
「ほらほら。もっとがんばれ?」
「頑張りたいのは山々なんだが、間違ってかなみの頭から垂れてる昆布を食べちゃいそうで、激しく動けないんだ」
「昆布じゃなくて髪! ツンテールっ! 間違えるの何回目か分かってる!? アンタどれだけ頭悪かったら気が済むのよ!」
「そう怒るなよ、はるぴー」
「かなみだって言ってるでしょうがッ! 次間違ったら絶対殺すッ!」
 はるぴーは怖いなあ。
「まったく……ほら、いーから口開けなさい。あーん」
「そんな雑あーんでは俺の心は動かせぬ」
「じゃあ……にゃ、にゃーん?」
 ぽっと頬を染めつつ、かなみが猫っぽくなった。
「それは心が動きまくりです。はぐっ……あっ、あふっ!」
「あははっ。熱いでしょ? ざまーみろ」
「はぐはぐ……あふっ、ごくん。いや、熱かったがかなみが猫っぽくなったので全然問題ないので可愛いですね!」(なでなで)
「感想が混乱しすぎ! あ、あと、人の頭勝手になでるな!」
「なでていい?」
「ダメに決まってるでしょっ! ……ち、ちょっとしか」
 なんか知らんが許可が出たので、かなみの頭をくりくりなでる。
「……うー」
 しかし、なでると唸られるので、なかなかなでりに専念できない。
「ええと。何か気に障ることでも」
「アンタなんかになでられてるってこと自体が気に障るの!」
「む。それならもうやめ」
「でも! それでもなんかちょっと、ほんのちょこっとだけだけど、なんか嬉しいのがそれ以上にムカつくの!」
「それはもう俺にはどうしようもできないよ」
「うー……がおーがおー!」
「いや、意味が分からない」
「いかく!」
「説明されてもやっぱり分からない」
「うるさい! いーからもっとなでなさいよ!」
「おかしなことになったものだ」
「がおーがおー!」
 威嚇されたので、くりくりとかなみの頭をなでる。
「んうう……うーみゅ!」
「なんか変な言語を駆使しだしましたね」
「何か言ってないと頭がおかしくなっちゃいそうなの!」
「む。それは大変にいけないのでやっぱなでるのはやめ」
「ない!」
「……はい」
 そんなわけで、しばらくかなみの頭をくりくりなでたり変言語を駆使されたりする。それにしても、変言語を駆使するかなみは可愛いと思う。
「……あによ、人の顔をじーっと見て」
「これで口さえ悪くなかったらなあ」
「ぐーぱんち!」
「ぐーぱんちは大変痛いうえ鼻血が出るので、控えていただけると幸いです」
 いつものように鼻を拭きながらかなみに伝える。
「うっさい! 口も顔も性格も悪い奴には、人のことをとやかく言う資格なんてないんだから!」
「酷い言い草だ。もう死のうかなあ」
「だ、ダメ! 死ぬのは禁止!」
 軽い冗談なのに、かなみは慌てた様子で制止した。
「なんて世知辛い世の中だ。唯一の脱出口を塞がれ、俺はもうどうすれば」
「う、うるさい! アンタなんてあたしに奉仕するしか生きてる意味ないんだから、ずっとあたしにご奉仕してればいいのよ!」
「なんという奴隷制度。でも一生かなみと一緒ならいいかも、なんてちらりと思った俺をどう思うか」
「え、ええっ!? ……き、気持ち悪いこと言うな、ばか!」
「悲しい限りだ。さて、ボチボチ行くか」
 かなみをなでつつたこ焼きもつまんでいたので、既にトレイの上には何もない。ゴミ箱にトレイを捨て、戻ってくるとかなみが片手を差し出しつつそっぽを向いていた。
「……ほ、ほら、手。つなぎなさいよ、馬鹿」
「え。えーっと」
「ま、迷子になったら嫌だし! 他意なんかあるはずないし! ……い、いいから早くしろ、ばか!」
「は、はい」
 慌てて手を取ると、かなみは立ち上がった。だが、こちらを見ようとしない。
「……い、一生なんてありえないけど、まあ、とりあえず、祭りの間は一緒にいてあげる」
「そ、そか。祭り限定とはいえ、嬉しい限りだ」
「……う、うぅー!」
「なんで俺は頬をつねられてるの?」
「うっさい! ほら、行くわよばか!」
 かなみに手を引っ張られ、俺たちは再び祭りの中へ駆けていくのだった。

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