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2024年11月21日
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【犬子 正月】

2010年02月04日
 お正月なので人間なのか身体がコタツの亀なのか分からない生物になってる符長彰人ですこんにちは。
 暖けえと思ってたら、インターホンが鳴った。しかし、今の俺は亀なので移動に時間がかかるので移動せずにぬくぬくモードを持続する。
 すると、今度は連続してインターホンが鳴った。うるせえ。しかし、今の俺は強情な亀なのでやっぱり移動せずにコタツに篭る。
「符長くん符長くん符長くーん!」
 無視を決め込んでいたら、表から頓狂な叫びが聞こえてきた。正月から俺の名前を見知らぬ人々に知らしめても恥ずかしいだけなので、急いで表へ向かう。
「ミラクルうるせえ!」
「あ、符長くん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくね?」
 表でニコニコしてる友人の犬子の頭をはたく。
「ぶった!? 符長くん、わたし女の子、女の子!」
「俺は男の子だ」
「知ってるよ?」
「じゃあいいや。それじゃまた学校で」
「待って待って閉めないで遊びに来たんだよ!」
 玄関のドアを閉めようとしたら、犬子は慌てて用件を伝えた。
「なんだ。最初からそう言えばいいのに。寒かったろう、早くあがれ」
「言う暇も与えられずドア閉められそうになったのにぃ……」
 ぶちぶち言いながら犬子は家に入った。ドアを閉め、外から鍵を閉める。さらにノブを押さえて開かないようにする。
「えへへ。あのね、符長くん。……符長くん? あれ、いない!? 符長くん外!? ……あっ、開かない! 閉じ込められた!?」
 混乱する様が面白かったので、しばらく様子をみることにする。
「出して符長くん出して! あっ、そだ、中から鍵開けたら……あれ、開けたのにドア開かない!? 符長くんドア押さえてる?」
 黙ったまま事の成り行きを眺める。
「む、無視しないでよ符長くん! そ、それともいないの? ……ふ、符長くん?」
 声が不安そうになってきた。よし、いい感じだ。
「ふ、ふえぇ……」
 あ、いかん。慌ててドアを開けると、涙目の犬子が迷子の子供みたいな表情でそこにいた。
「い、いるなら返事してよぉ! うー……」
 怒ったようなほっとしたような表情で、犬子は俺を見た。
「すまん。一人で混乱するお前が面白くて面白くて」
「符長くん、悪趣味だよぉ……」
「確かにちょっとやりすぎた。ごめん」
 詫びの意味も込めて犬子の頭をなでる。
「わふー……」
 変な声で不満を訴える犬子。鳴き声?
「お詫びと言ってはなんだが、姫初めしよう」
「しっ、しないよっ! 符長くんのえっち!」
「思春期の男子なんてこんなもんだ。さて、どうする? どっか遊び行くか? それとも家で遊ぶか?」
「んー……とね、家で遊ぼ? 外はどこも人多いし。ね?」
「そうすっか」
 犬子と一緒に家に入り、そのまま滑らかにコタツへ侵入。もう動けねえ。
「あ゛ー……寝間着で外にいたから、コタツのありがたみが普段より150%増しだ」
「猫みたいだね、符長くん」
「お前は犬だからコタツ苦手だろ」
「いっ、犬じゃないよ、犬じゃないよ!?」
「犬子という頓狂な名を持つくせに犬じゃないとな。解せぬ」
「犬子って符長くんがつけたあだ名だよ!? 解せぬ、じゃないよ!」
 変なことを言う犬だなあ。
「うー、分かってないフリするしぃ……」
「何のことやら。さて、何する? ゲームでもするか?」
「んー……どしよっかな」
 俺のすぐ隣に座り、犬子は軽く宙を眺めた。何をするか考えを巡らせているようだ。
 なんとなく、無言で犬子の犬耳をいじる。
「ん? なぁに?」
「体温を感じないが、この犬耳は血が通ってないのか?」
「こっ、これは犬耳じゃなくて髪型だよう!? マクロスのランカちゃんの髪型といーっしょ!」
 変な犬耳だなあ。
「うー、ちっとも聞いてないしぃ……」
 変ではあるが、さらさらで気持ちいいなあ。
「……あの、符長くん。なんで私の髪ずーっと触ってるの?」
「あ、すまん」
 慌てて手を離す。いくら親しい仲とはいえ、馴れ馴れしかったか。
「あ、嫌とかじゃなくて! なんでなのかなーって」
「いや、深い理由はない。さらさらして気持ちよかったから触っただけだ」
「え、そう? えへ、ちょーっとだけ自信あるんだ。もっと触りたい?」
「大胆な犬だな。よし、乳をまろびだせ。揉みしだいてやる」
「髪の話だよう!?」
「知ってたけど、話の展開によってはむにむにできるかなーと思ったんだ」
「できないよっ! 符長くんのえっちえっちえっち!」
 犬子はぺけぺけ俺の胸を叩いた。犬子はよわよわなのでちっとも痛くないが、鬱陶しいことこの上ない。
「さてと、何するかな」
「うー、叩いてるのにちっとも堪えてない……」
「……そうだ! 飼い主と犬ごっこをしよう! 説明しよう、飼い主と犬ごっことは」
「全部言ってるよ! どーせ私が犬なんでしょ? わんわん!」
「早速犬になりきっている……なんという犬ぢからか!」
「ばかにされてるよぉ……」
「というわけで、この遊びをしましょう。やったことない上にさっき思いついただけの底の浅い遊びだけど、きっと楽しいよ?」
「楽しそうな要素ぜろだけど、いいよ。することないし、やるよ。でも、あんまり酷いことしたらヤだよ?」
「…………。うん、酷いことしない」
「不安しか感じないよぉ……」
 俺はあまり犬子に信頼されていないようだった。
「じゃ、今から犬子は犬。あまり変化がないな。わはは」
「ありまくりなのに……それで、どんな犬なの? 室内犬?」
「ちっこいの。飼い主が好きだぜ好きだぜ好きすぎて死ぬぜってくらいの犬」
「え……そ、そーゆーのを私がするの?」
「じゃあ、飼い主が嫌いで嫌いで隙あらば喉笛を噛み千切ろうと画策している犬にするか」
「物騒だよ! そ、それなら最初の、……えと、符長くんのことが好きな犬でいいよ」
「よし、それなら開始。可愛いなあ、犬子は可愛いなあ」
 今の俺は飼い主なので、飼い犬の犬子の頭をなでて可愛がる。
「わ、わわ……は、はぅ」
「はぅ、じゃねえ。犬だろう、今は」
「あ、そだった。えと……わ、わんわん♪」
「いやはや、まったく犬子は可愛いなあ。特に小便を所構わず垂れ流すのが頭足りない感じでたまらないな」
「酷い設定だよう!?」
「喋るなっての」
「うー……不満がたっぷりだよ」
 その不満を消すように、犬子の頭をなでる。
「くふ。……わふ?」
 上目遣いで俺を見る犬子の頭を、さらになでなで。
「……わふわふ。わふ♪」
 嫌いではないようだ。さらに犬子の頭をなでる。
「くぅ~ん……ふゅん」
 犬子は自分の鼻を俺の胸に押し付け、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「……きゅー♪」
 よく分からんが、楽しそうで何よりだ。
「わんわん、わんわん♪」
 満面の笑みでわんわん言う犬子を見てると、こう、胸の内側がきゅーっとしてくる。
「むう。心筋梗塞か?」
「符長くんが死にかけてる!?」
「あ、喋った。アウト」
「アウト!? え、そーゆールールなの?」
「そう。なので、罰ゲーム」
「は、はぅぅ……何するの? 痛いのなしだよ?」
「丸刈り」
「女の子に対してあんまりな仕打ちだよう!?」
「それが嫌なら、今年も俺と仲良くすること。それが罰ゲーム」
「? それ、罰ゲームでもなんでもないよ? だって、私と符長くんは仲良しさんだもんね?」
 犬子は俺の手を取り、にっこり笑った。まっすぐな笑顔を向けられると、俺みたいな根性ひん曲がった人間は照れて身動きができなくなる。
「あっ、符長くん顔真っ赤! あは、かわいー♪」
 調子に乗ってる犬子のほっぺをぎうーっと引っ張る。
「ひゃ、ひゃふー……」
 困った顔をする犬子だった。

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【犬子 弁当】

2010年01月28日
「おはよー符長くん! あのねあのね、昨日のテレビふぎゃっ!?」
 教室でぐでーとしてると、朝っぱらからしっぽを振って(幻覚)犬子が寄ってきたので、顔面にチョップを入れて黙らせる。
「ううう……酷いよ符長くん。女の子の顔にチョップするなんて悪人がすることだよ」
「ごめんね」
「うー……まあ、謝られたから許すよ。あっ、それでねそれでね、昨日のテレビふぎゃっ!?」
 再び姦しくなったので、顔面にチョップを入れて黙らせる。
「ううう……二回もチョップしたよ、されたよ! 酷いよ符長くん!」
「ごめんね」
「もう許せないよ! 怒りがふつふつーだよ!」
「言われてみれば確かに、犬子の全てを司る犬耳が逆立っている」
「こっ、これは犬耳じゃなくて、そーゆー髪型だよぅ!? それに、逆立ってないよ! 仮に犬耳だとしても、私の全てを司るってどーゆーこと!?」
 変なことを言う犬だなあ。
「うー、聞いてないフリするしぃ……じゃなかった。今日の私はすっごくすっごく怒ってるんだから、いっぱいいっぱい謝らないと許さないよ!」
「じゃあ、今日の俺はズゴックズゴック怒っている」
「語感が似てるだけで意味不明だよ!?」
「なんだと!? いや、こう、ズゴックが、こう、赤鼻とか……赤い三連星?」
「黒い三連星だよ」
 曖昧なガンダム知識で煙に巻こうとしたが、あまりに曖昧だったので自身が煙に巻かれ、結果犬子に教わる始末。くそう、負けるか!
「知ってる知ってる。オルテガ、マッシュ、ポテトだな」
「最後料理名になってるよ?」
「お腹が空いたから、しょうがないんだ」
「まだ朝なのに……朝ご飯食べなかったの?」
 こっくりうなずくと、犬子は疲れたようにため息を吐いた。
「しょうがないなぁ……じゃじゃじゃじゃーん!」
「なーまーくーびー!」(青いサイバーロボネコ風に)
「違うよっ!? 今日のおやつにって持ってきたホットケーキだよ!?」
「なんだ。紛らわしい」
「生首がタッパーに入ってるってどうして思うのかなあ……?」
 なにやらぶつぶつ言いながら、犬子は鞄から取り出したタッパーを机に置いた。
「よかったら一つあげるよ。感謝して食べてよね?」
「気持ちは嬉しいが、プラスチックは消化できないんだ」
「中身の話だよ!?」
「なんだ。遠まわしに死ねと言ってるのかと思った」
「符長くんって、根性ひねくれまくってるよね♪」
 色々思ったがここで文句を言うと食事が手に入らなくなるので、黙ってタッパーのフタを開ける。
「はい、どーぞ。おいしいよ?」
「…………」
「黙ってフタを閉めようとしてる!? ダメだよ、食べるまで許さないよ!」
「違うんだ。俺が食べようと手を伸ばそうとしたら、ホットケーキが炭に変化してたんだ」
「ちょっと焦げちゃったカナ? あっ、でも女の子の手作り料理を食べないなんて酷いこと、符長くんはしないよね?」
「チョイ悪だからする」
「しないよね……?」(うるうる)
「ホットケーキ超うめぇ!」
 手掴みでホットケーキ(?)を食べまくる。触感が砂抜きしてないアサリの身を抜いた部分みたい。つまり砂。じゃりじゃりじゃり。
「わっ、ホントに食べた!」
 どういうことだテメェ、と言いたいがじゃりじゃりで喋れない。
「……あ、あの、まずいよね? ぺってしたらいいよ? 私、怒らないよ?」
「じゃりじゃりじゃり、ごくん。超まじい」
「だ、だから、ぺってしていいって言ったのに……」
「次はもうちょっとマシなの作れ」
 そう言いながら、タッパーに入った炭、もとい、ホットケーキに手を伸ばす。
「…………」
「じゃりじゃり……ん? そんな見るな。照れるだろうが」
「……えへへへへへっ♪ 優しいね、符長くん♪」
「優しいだろ」
 照れ隠しに片手で犬子のほっぺをふにふにする。
「えへへっ♪ あのね、次はきっとじょーずに作るからさ、また食べてよね?」
「お断りだ」
「絶対嘘だよ。作ってきたら、なんだかんだ言いながら食べてくれるに決まってるもんねー♪」
 わけの分からないことを言いながら、嬉しそうに俺の手を両手で包み込む犬子だった。

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【犬子 寂しい】

2010年01月24日
 冬というのは結構厄介なもので、普段は鳴りを潜めている感情が鎌首をもたげて俺に襲い掛かってくる。いわゆる物悲しいという奴だ。
「具体的に言うと、犬子が最終的にルーベンスの絵の前で全裸の子供たちに連れて行かれるくらい寂しい」
「いきなり電話で家まで呼び出されたと思ったら、人の最後を勝手にパトラッシュと極めて相似にされた!?」
 友人の犬子が部屋に入ってくるなりモノローグの続きを言ったら、大変驚かれた。
「いや、似てるのはネロの最後であり、パトラッシュは犬なので違うと言いたかったが、よく考えるとどっちも犬なのでそうなんだ」
「最終的に犬にされた!? ていうか、いっつも言ってるけど、私は犬じゃないよ! 符長くんが私のこと犬子犬子って言ってるだけなの!」
 犬子犬子言う符長彰人ですこんにちは。……ううむ、心の中で自己紹介するクセどうにかしないとな。それより。
「犬耳があるクセになに言ってんだ」
「こ、これは犬耳じゃなくてそーゆー髪型なの! マクロスのランカちゃんといーっしょ! ほらほら!」
 自身の髪を持って俺に見せ付けるが、何を言っているのか分からないフリをする。
「うー……分からないフリするしぃ」
「俺の特権だ。で、だ、犬子」
「うん? なぁに、符長くん?」
 こいこいと手招きすると、さっきまでの悲しそうな雰囲気を一瞬で粉砕し、犬子はこっちへ寄って来た。
「えへ。なぁに?」
「全く用はないのだが、一人になると寂しさのあまり自害する、もしくは半狂乱になって近くの人物を殺害する可能性が極めて高いので俺を構え」
「うさぎより性質が悪いよこの人!? ……ていうか、寂しいの?」
 こっくりうなずくと、犬子は嬉しそうにほにゃーっと笑った。
「貴様、俺の物悲しさを笑ったなあ!? チクショウ、後でお前の家に火をつけてやる!」
「普通に犯罪だよ! じゃなくて、なくて、そじゃなくてさ。……そーゆー時に私を頼ってくれたのがね、なんかね、……うれしーなあって。えへ♪」
 照れ臭そうに指をからませ、赤い顔ではにかまれたりしたら、俺の頭はおかしくなります(断定)。
「じゃ、寂しい符長くんのため、私が一緒にいたげるね♪」
「よきにはからえ」
「王様だ!」
 違うと思う。
「それで、何しよっか? ゲーム?」
「何でもいい。傍にいてくれたら、それで」
「ふぇ!?」
 突如、犬子の顔が真っ赤になった。ヤクイ病気が突然発症したに違いない。
「帰れ。移る」
「何が!? じゃ、じゃなくて、そ、その……び、びっくりしたの」
「自分の余命に? たぶんそう長くないが、気を落とすな」
「なんで病人扱いされてるの! そーじゃなくて、……そ、そゆこと言われたの、初めてだから」
「俺も遊びに来た友達に余命宣告するの初めてだ」
「そっちじゃなくて! ……そ、傍にいてくれとか言われたの、初めてだったから。……びっくりした」
 む。よく考えたら、まるで恋人同士の台詞ではないか。……いかんな。どうも犬子が相手だと、気安くしすぎてしまう。
「じゃ、じゃあその……いるね、ずっと。そばに」
 言葉を訂正しようとしてたら、犬子は俺の手を包むように両手で握り、赤い顔のままにっこり笑った。出かけた言葉をノドの奥に仕舞い込む。
「いやはや、なんというか、恋人のようで素敵ですね」
「こっ! こっ、こここっ、こ、こー!?」
「コー。フランス、ノルマンディーの一地方。ルーアン、ディエップ、ル・アーブルを結ぶ三角形の範囲を指す」
「知らないよっ! 動揺してるんだよっ!」
 冷静に自分の動揺を説明するな。
「う、うう~……ふ、符長くんはそーゆーこと、するっと言うからずるいよね」
「するっと坊主と呼んでくれ」
「するっと坊主」
 嫌になるくらい嬉しくなかった。
「やめてくれ」
「最初から言わなきゃいいのに……」
「するっと坊主だから仕方ないんだ」
「するっと坊主」
「やめてください!」
「あはは。……ね、まだ悲しい?」
「む? ……おお!」
 言われて気づいたが、犬子が来てから件の感情は消えていた。それどころか、幸せいっぱい夢いっぱい(?)だ。
「えへ。お役に立てたようで嬉しいよ」
「あっぱれ。褒美をとらす」
「王様だ! ……いや、殿様?」
 どっちでもいい。
「じゃ、じゃあね、ご褒美……いい?」
「いいけど、その結果俺の生命反応が停止するような褒美は勘弁してください」
「しないよ! ……えっとねえ?」
 で。
「こんなのが褒美?」
「褒美だよ。すっごいご褒美♪」
 犬子が言うご褒美とは、俺が彼女を後ろから抱っこし、一緒にゲームをするというものだった。
「よいのですか?」
「よいのです。……あっ! もー、ちゃんと手加減してよ!」
 よそ見をしていたのか、犬子操る白い機械人形が爆風に巻き込まれ消えた。
「あと、符長くんばっかアイテム取るの禁止!」
「無茶を言うな」
「無茶を言うの! そんな爆弾ぽこぽこ置かれたら勝てるものも勝てないもん! ……ああっ!」
 犬子は自ら爆弾で入り口を塞ぎ、勝手に自滅した。
「うー……」
「そんな目で見られても、今のはしょうがないだろ。お前の操作ミスだ」
「めーれー。死んで悲しい私を慰めなさい」
「命令ならばしょうがない」
 後ろから犬子のほっぺをゆっくりさする。
「ふゃ……はふー♪ う、ううー♪」
「どういうことだ」
「符長くんの手から発射されてる幸せ光線により、脳がとけました。……学会に発表したいよ。いい?」
「嘲笑の渦に包まれるのでやめて」
「ノーベル平和賞間違いなしなのにぃ……」
 犬子はもうコントローラーから手を離し、身体をこちらに向けていた。抱き合って座っている形だ。人が見たら10人中10人が恋人同士と言うだろうが、誰も見てないので良し。
「符長くん」
「はい?」
「抱っこー」
「してます」
「もっと!」
 もっと、とな。more抱っこ?
「もっと全身全霊で抱っこしなさい。ゲームしながらとかじゃなくて」
「お前が一緒にゲームしようとか言ったと記憶してますが」
「みょみみみみ。記憶操作。したのでゲームとかもういいから、抱っこ」
 脳を操作されては仕方ないので、スーファミの電源を落とし、犬子を抱っこする。
「うー♪」
 俺の肩と頭の間に自分の頭を収め、犬子は幸せそうな声をあげた。
「あぐあぐあぐ♪」
「食うな」
「犬だから仕方ないもん。符長くんが私を犬認定したから仕方ないもん。わんわん!」
「困り犬だな、お前は」
「わんわん♪」
 それから犬子を撫でたりほっぺをすりすりしてたら日が暮れたのでびっくりした。また次の休みに同じことしよう。

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【犬子 クリスマス】

2010年01月20日
 今年もクリスマスがやってきた。別に数日過ぎてなんてないぜ。
「えへへ~、クリスマスだね、符長くん」
「つまり、浮かれポンチな台詞を吐く犬を見守る季節がやってきたということだ」
「浮かれポンチ!?」
「おや、犬子。いたことに全く気づかなかった俺に何か用か? あ、何か妖怪。なんちて。うひゃひゃ」
「うー……絶対気づいてたくせに。あと、何か妖怪がちっとも面白くないのに……」
「それはもう、何か用かと言った時点でセットでついてくるから諦めろ」
「うゅー……」
「うゆ? まあいいや。で、何か用か? あ、何か妖」
「妖怪はもういいのっ! ……あ、あのね、もーすぐクリスマスだよね?」
「俺の周辺で突如時空のねじれが起こり、さらにその現象に巻き込まれないのであれば、そうだな」
「ふつーにそうだねって言えばいいのにぃ……」
「任せろ。普通とか超得意」
「…………」
 俺が普通とか言うと、決まってみんなジト目で見ます。
「……まあいいよ。あのね、そのね、えっとね?」
「何をもじもじしている。……ああ! 尿なら尿置き場へ」
「違うよっ! デリカシーがなさすぎるよっ! ていうか尿置き場って何!?」
「いわゆる便所」
「いわゆる方で言ってよ!」
「すいません。以後いわゆります」
「日本語がおかしいよぉ……じゃなくて! もーすぐ! クリスマスだよ!」
「はぁ」
「ご予定は!」
「皆無」
「やったあ!」
「チクショウ! 犬子が俺のもてなさを全力で喜ぶ! これはもう冬休み全てをかけて呪いの儀式を行い、犬子にしっぽを生やし名実共に犬にするしか!」
「情熱の方向性がとっても駄目な方向だよ!? それに、私は犬じゃないよ!」
「犬子なんて頓狂な名前のくせに何言ってんだ」
「また!? だから、これは符長くんが勝手につけたあだ名なの!」
 変なことを言う犬だなあ。
「うー……また聞いてないフリしてるしぃ……」
「俺の基本スキルだ。とまれ、俺はさる事情により呪術の勉強をしなければならないので、これにて」
「絶対私にしっぽ生やす気だよこの人!? じゃなくて! ……あのね、クリスマス、予定、ないんだよね?」
「チクショウ、繰り返す聞くことにより俺の自尊心をズタズタにする作戦か! シンプルながら確実に俺の心は引き裂かれているぞ!」
「ネガティブすぎるよ! そーじゃなくて、予定ないんだったら私と一緒に過ごさないかって……」
 ぴたり、と犬子の動きが止まった。かと思ったら、ゆっくり犬子の顔が赤くなっていくではないか。
「あ、あ、あぅぅ……」
「何を赤くなっている」
「だ、だってだってだって! ……もー! 符長くんのばか!」
「貴様、俺の秘密どこで知った!?」
「もー! もーもーもー!」
 牛言語を駆使しながら、犬子は俺の胸をぺこぽこ叩いた。
「いたた、いたいた。やめれ犬子」
「符長くんが一緒にクリスマスしてくれるって言うまで叩くのやめないー!」
「クリスマスは動詞じゃないと思う上、ジョジョの台詞をインスパイアしてることに動揺を隠せないが、全然構わないぞ」
「う……?」
「だから、俺は犬子と一緒にクリスマスを祝う。おーけー?」
「お……おーけーおーけー! 超おーけーだよぅ! ……にひゃ~」
 犬子はぺこぽこ暴動をやめると、両手を頬にあててニッコニコに微笑んだ。
「嬉しそうですね!」
「う、嬉しくなんてないもん。演技だもん」
「つ、ツンデレだああああ! 逃げろ!」
「なんで!?」
「……?」
「首を傾げないでよ!」

 なわけ(?)で、クリスマス当日。てっきり色々な箇所を徘徊した挙句お城で様々な運動をするのかと思ったら、犬子の家に集合、らしい。
「こんにちは」
 玄関を潜ったら、破裂音に出迎えられた。
「めりーくりすまー」
「ぐはあっ! チクショウ、血が止まらねえ! ここまでか!」
「勝手に死にかけてる!? 違うよ、銃じゃなくてクラッカーだよ!?」
 サンタ服の犬子がクラッカー片手にあわあわしていた。
「痛みもないしクラッカーが目に留まってたし、おかしいとは思ったんだ」
「はぁ……」
 やりきれない感じのため息を吐かれた。
「まーいーよ。……えへへ、めりーくりすますだよ、符長くん」
「ああ、実にメリーだな」
 不躾に犬子を眺める。赤と白のいわゆるサンタルックに身を包んだ犬子は、俺の高揚も相まって、とても可愛く見えた。
「あと、何気にミニスカなのが高評価に結びついたのではなかろうか」
「えっ! ……う~、符長くんのえっち」
 犬子は恥ずかしそうにスカートの裾を下に引っ張った。
「ごめんなさい。お詫びに目を潰します」
「やりすぎだよっ! なに自分の親指じっと見つめて息を荒げてるのこの人!? やる気充分だよぉ!?」
 必死に止められたので、目潰しはやめる。
「やれやれ、犬子のせいで大変なことになるところだった」
「ありえない責任転嫁だよ!」
「ところで、玄関先で小芝居を繰り広げるのもいいが、そろそろ中に入れてもらえないだろうか。寒くて辛いのです」
「あっ……ご、ごめんね。入っていいよ」
「そうもすんなり通されると、何か罠があるんじゃないかと俺の天邪鬼成分が鎌首をもたげる」
「いーから入るの!」
 犬子に背を押されながらトントントンと階段を上がり、犬子の部屋に入る。
「あの……あんまり見ないでね? 恥ずかしいから」
 そう言われたら仕方ない、じろじろ眺める。やはり名前が示すように犬属性なのだろう、犬のぬいぐるみがベッドに固めて置かれている。あとは普通に本棚に、机に……ん?
「見ないでって言ってるのに……あああああ!」
 普段の犬子らしからぬ超スピードで机の元までやってくると、犬子は写真立てを高速で倒した。
「はーはーはー……みっ、見た!?」
「い、いいや」
「そ、そう……よかったあ」
「…………」
 ごめんなさい嘘です。見ました。なんか俺に超似てる奴が写ってました。……ていうか、俺だな。なんか体育祭の時っぽいが……隠し撮り?
「あ、あのね! これね、ろ、ロックバンドのボーカルの人の写真なの! ミーハーって思われるの嫌だったから!」
「あ、ああそうか」
 そうか、俺は知らない間にロックバンドのボーカルだったのだな。超音痴なのになあ。
「あ、あは、あははははー」
「げぎゃっげぎゃっげぎゃっ」
「符長くんが悪魔系の何かに憑り付かれた!?」
「笑い声です」
「ありえないくらい怖すぎるよ!」
「ごめんね。これあげるから許して」
 そう言って、鞄から小さな包みを取り出し、犬子に渡す。
「あっ……これ、プレゼント?」
「ここに来る最中、髭を生やした全身赤い人物に『どうかこれを……奴らの手の届かない場所へ廃棄してくれ』と託された品だ」
「サンタさんかと思いきや、何やらキナ臭い品だよ!」
「ちなみに、赤は衣装の赤ではなく、人間の身体に流れる赤です」
「どこかの危ない組織に狙われてるよその人!?」
「そんな素敵な品を。何がいいのかまったく分からなかったので、俺流です」
「あ、やっぱり符長くんの買ったプレゼントなんだ。えへ、何かな?」
 包装を破らないよう注意しながら、犬子は丁寧にプレゼントを開けた。
「あっ、耳あて! うわ、すっごくかわいー♪ あっ、それに手袋と……マフラーも!」
「手作りなら言うことないのであろうが、生憎とそんなスキルは持ち合わせてないので、店を練り歩いて集めた練り品です」
「練り品……」
 プレゼントを貰った身でありながら、嫌そうな犬子だった。
「あ、ありがとね、符長くん。私、すっごくすっごく嬉しいよ! ……でも、ちょっと意外だね?」
「む?」
「ほら、符長くんのプレゼントって、何かもっと奇をてらったものっぽいイメージがあるから」
「俺も最初はそう思い、めかぶ等を5kgほど贈ろうかと思ったのだが、面白いばかりで喜ばれないと思ったのでな。それとも今から買ってこようか?」
「超お断るよ!」
 NOな感じの手で断られた。
「健康になるのにか?」
「そんなのより、これの方が嬉しいもん。えへへ、ふわふわー♪」
 耳あてのウサギ毛が気に入ったのか、犬子は毛をほわほわと触ってはにへにへしていた。
「あ、そだ。……あ、あのね、あのね。符長くんが気に入るかどうか分かんないけど……その、私、一生懸命作ったの。よ、よかったら、貰ってくれ……る?」
「そう言いながら犬子が取り出したのは、先ほど俺が渡したプレゼントだった。いらなかったにしても、もう少し処分の方法があるように思える」
「超違うよっ!? すっごくすっごく嬉しかったのに何言ってるのこの人!? 手作りのマフラーだよ!」
「いや、嬉しさのあまり混乱したフリをしたんだ。ごめんね」
「そ、そっかぁ、混乱したフリならしょうが……フリ!?」
「おお、青いまふりゃー。嬉しいぞ、犬子」
「……あ、あのね、ごめんね。私、不器用だから、なんだかぼろぼろだけど……でもね! 一生懸命編んだの」
 改めて受け取ったプレゼントを見る。確かに犬子の言うとおり市販のマフラーと比べ、少々不恰好という印象は否めない。既に所々ほつれてるし。
「まあ、でも、俺は全然気にしないぞ」
 早速マフラーを装備してみる。冷気耐性があがった。これでかがやく息も怖くない。
「……や、やっぱなし! もっと上手になってからあげるから、それ返して! 作り直す!」
「断る。この俺様がどうして犬子ごときの言うことを聞かねばならないのか」
「やー! 返してー!」
 マフラーの奪おうとする不届きな犬子の顔を片手で押さえる。
「うー! うーうー!」
「はっはっは。他愛無い」
「はぁはぁはぁ……うー」
「うーじゃねえ。諦めろ、このマフラーはこの状態で俺様に使われる運命にあるのだ」
「あぅー……」
 ようやっと諦めたのか、犬子は抵抗をやめた。ということなので、犬子の顔から手を離す。
「この冬は、いやこれから冬になれば常にこれを身に着け、犬子の不器用さを世間に知らしめてやる!」
「……遠まわしにずっと使うって言ってるし」
「気のせいさ」
「……符長くんのばか」
 少し拗ねたような目つきをしながら、犬子は俺の手をきゅっと握った。
「……そんなかっこ悪いマフラーしてたら、符長くんが馬鹿にされるのに」
「その度に『ああ本当は犬子が馬鹿にされているのになあ』と思いニンマリするから問題ないさ」
「……意地悪のフリ、だね?」
「根っからの意地悪に何を言ってるのか」
「……えへへ。やっぱり符長くんは優しいね」
「人の話を聞いてるのかね、キミは」
 犬子のほっぺたを軽く引っ張るが、犬子は笑顔を崩さなかった。くそう。
「そ、それよりだな。そろそろぱーてーを開催しないか?」
「あ、うん! ……あ、あのね、私、ケーキも焼いてみたの」
「つまり、今から俺は炭を食うのか。悪いが胃腸薬も一緒に用意してくれると助かる」
「違うよっ! お菓子作りは上手だもん。これは自信を持って出せるもん。ちょっと待っててね、今から取って来るから」
 そう言って、犬子は部屋から出て行った。ほどなくて、大きなホールケーキを持って戻ってきた。
「はい、サンタの手作りケーキだよ。えへ、いっぱい食べてくれると嬉しいな?」
 テーブルにケーキを置き、犬子は俺の前に皿を置いた。そして、俺のすぐ隣に腰を下ろした。
「えへへ……お邪魔します♪」
「断る」
「え……あ、ご、ごめんね。私、調子に乗りすぎちゃったね」
「冗談に決まってるだろうが」
 立ち上がりかけた犬子の手を取って引き止める。びっくりした。
「……いーの?」
「あーんって食べさせてくれるなら」
「えっ……いいの!? や、やたっ」
「え」
 冗談だ、と言う間もなく、犬子はいそいそとケーキを切り分け皿に載せると、その皿を持って俺を見た。
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」
「え、あ、うん」
 犬子は真剣な目でケーキにフォークをぶっ刺し、そして、それを俺に向けた。
「あ、あーん!」
「すいません殺さないでください」
「殺さないよ!? 何言ってるのこの人!?」
「いや、あまりの恐怖に。なんか手が震えてるし、これから人を殺すかのように決意に満ちた顔をしていたので、つい」
「きんちょーしてるんだよ!」
「緊張の夏」
「冬だよ! いーから! あーん!」
「食べてもいいけど、そのままフォークを俺の口内に突き立てたりしない?」
「怖いよ! ……あ、あの、ひょっとして、嫌なのかな?」
「冗談は名前だけにしろ。あー」
「符長くんがつけておいてなんて言い草なの!?」
「いーから早く食わせろ。あー」
「あ、う、うん。はい、どうぞ」
 口の中にケーキが放り込まれる。
「むしゃむしゃむしゃ」
「ど、どうかな? 私的には上出来なんだけど……」
「もぐもぐもぐ」
「……だ、だめかな? おいしくない?」
「もっちゃもっちゃもっちゃ」
「……あ、あの! おいしくなかったら、ぺって吐いちゃっていいよ? 私、へーきだよ?」
「もぐもぐごくん。おかわり」
「…………」
「犬子?」
「も、もー! おいしーならおいしーって早く言ってよ! ……不安だったじゃない」
「おいしい」
「う、あ、あぅ……」
「言ったら言ったで赤くなるとは。困った犬だ」
 湯気が出そうな勢いで赤くなってる犬子の頭を、なんとなくなでる。
「えへへ……あ、あのね。あのねあのね、符長くん。私ね、いま……幸せだよ?」
「犬の本領発揮といったところか。簡単で羨ましい」
「なでられたから幸せだと思われてる!? 違うよ、符長くんと一緒だからだよ!?」
「恥ずかしいことを臆面もなく言われた」
「い……言うよ? だって、今日はクリスマスだもん。そのくらいは神様も多めに見てくれるもん」
 そう言って、犬子は何かを期待した目で俺を見た。
「きゅふー」
 鼻を摘まんで欲しいのだろうと思ったので、実行したら変な声を出された。
「うー、違うのにぃ……」
「わはは、変な声&顔」
「うー……」
「冗談だ。あー……もし違ったら、あとで謝る」
 犬子の鼻から手を離し、今度は犬子をそっと抱きしめる。
「わ、わ!」
「む。違ったか? どうにもこういった機微には疎くて。すまない」
「ち、違ったけど、結果おーらい、かも」
 犬子はうっとりした顔で呟いた。空いてる手で頭もなでる。
「は、はぅ……あ、あのね、符長くん。も、もっといっぱいなでなでしてくれる?」
「乳を?」
「頭だよぅ! なんでおっぱいになるの!?」
「気にするな、ただの欲求だ」
「うー……えっちぃ」
「ふふん」
「誇らしげな意味が分からないよぉ。……お、おっぱいは、そ、その、……そのうち」
「可能性があると!? 諦めずに生きてきてよかった!」
「よ、喜びすぎだよ! ……で、でもね、私、そんなおっきくないよ? それでもいい?」
「むしろ! その方が!」
「変態さんだよ!?」
「そんな変態さんのことを好きなのは誰でしょうね」
「し、知らないもん。私は別に符長くんのこと、好きとかじゃないもん」
「抱っこされてる状態で何を言ってるかね、この娘さんは」(なでなで)
「し……知んないもん。知んないけど、もっとなでなで。あ、あとねあとね、ぎゅーって、して? ……いい?」
「俺としても願ってもない望みだ」
「あ……えへ、えへへへへっ♪ ……符長くん?」
「うん?」
「呼んだだけだよっ♪」
 もう嬉しくて仕方のない様子の犬子と一緒の聖夜でした。

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