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2024年11月21日
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【ハロウィン 犬子のバヤイ】
2011年10月30日
菓子が食いてえ。しかし、金はない。どうしようかと思いながら黒板を見る。その端に、今日の日付が書いてる。10月31日。……そういや、今日はハロウィンだな。……ハロウィン?
「どしたの、符長くん? なんかぐったりしちゃってさ」
「その時、俺様の脳細胞が活性化した。そう、今まさに天啓が俺様に!」
「符長くんが壊れた!?」
失礼なことを言う犬子のほっぺを引っ張る。
「いひゃいいひゃい、いひゃいよ符長くん!」
「しょうがないよ、犬のくせに人間様を馬鹿にしたんだから」
とはいえ、犬に罰を与える趣味はない。とっとと手を離してあげる。
「うぅ~……今日も当然のように犬扱いだよ」
「ちょどいいや、お前もつきあえ」(なでなで)
「付き合うって、何に?」
なんとなく頭をなでながら提案すると、犬子は不思議そうな顔で問いかけてきた。
「今日の日付を考えれば分かるだろう。ハロウィンだ!」
「はろうぃん? え、仮装して色んな人の家に行くの?」
「そのつもりだ。俺は全裸に仮面をつける仮装をするから、犬子もそれに準ずるように」
「痴漢&痴女のコンビの出来上がりだよ、符長くん! とっても嫌だよ!」
「なんだ、贅沢だな。しょうがない、犬子だけがその仮装していいよ。らっきー♪」
「気遣いの方向が明らかに間違ってるよ、符長くん! ちっともらっきーじゃないよ!」
「なんだ。しかし、実際どういう仮装にしようか。コスプレは大好きだが、実際に衣装は持ってないんだよなあ」
「……あの、あのね、符長くん? その、たぶんだけどね、仮装して家々を回っても、お菓子はもらえないと思うよ?」
「俺が行く直前に犬子が先回りして、その家の菓子を根こそぎ奪って行くから? どこまであくどいんだ、お前は」(ぐりぐり)
「勝手に悪人にされたっ!? あうぅーっ!」
悔しさを指先にぶつけ、犬子のおでこをぐりぐりする。
「うぅー……今日も符長くんは酷いよ」
両手でおでこを押さえ、犬子はうるむ瞳で俺を見た。
「ごめんね。我ながら言いがかり以外の何物でもなかったね。近く自殺するので許してね」
「符長くんが切腹する!? そこまで恨んでないよ、ていうか死ぬなんて絶対に許さないよ!」
誰も死ぬ手段が切腹とは言ってないが、犬子は慌てた様子で俺の手を握り、力強い目で俺を睨んだ。
「あー、まあ、半ば冗談だ」
「半ば!?」
「全部だ、全部。ごめんな」(なでなで)
「うぅー……そんな冗談、勘弁して欲しいよ」
空いてる手で犬子をなでる。犬子は悲しそうに俺の手に鼻を寄せた。ふにふにと指で鼻を押してやる。
「……えへへ♪」
なにやら嬉しそうに微笑んでくれたので、悲しみは消えたと考えてよいだろう。やれやれ。
「それより犬子、さっき菓子をもらえないと言っていたが、なんでなのだ?」
「あのね、日本にはそういうイベントは根付いてないから、そんなのやっても不審者扱いされるだけだと思うよ?」
「大丈夫、慣れてる」
「符長くんの日常が思ったより可哀想!?」
なんて台詞だ。後で泣かす。
「しかし、菓子をもらえないのか……うぅむ、どうしたものかな」
「お菓子? ……あの、符長くん。ひょっとして、お菓子が食べたいだけ……とか?」
「おお、よく分かったな。この犬は賢い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないのに……でも、どしてコンビニとか行かないの? 売ってるよ?」
「お金がないんだ」
はぅーって顔をされた。
「あの、それじゃ、よかったらだけどね、私がお菓子作ってこようか?」
「マジか!? 流石は犬子、俺の嫁にしたいランキング一位だな」
「嫁っ!? しっ、しかも一位!? はわっ、はわわわわっ!?」
「いかん、犬子の言語がいい感じに面白くなってきた! はい、深呼吸」
「す、すーはーすーはーすーはー。……ふぅ、ちょっと落ち着いたよ」
「おお、さすが俺の嫁」
「はわわわわっ!?」
「わはははは! 犬子は愉快だなあ」
「こっちは好きで愉快じゃないよっ! もー、どーせいつもの冗談でしょ? 知ってるもん」
「わはははは」
「もー……それじゃ、明日持ってくるからね? あ、でも、もしおいしくなくて許してね? 私、あんまり上手じゃないんだ」
「分かった、表面上は許す」
「怖いよっ! いっそ許してくれない方がありがたいよっ!」
今日も犬子は愉快だった。
「どしたの、符長くん? なんかぐったりしちゃってさ」
「その時、俺様の脳細胞が活性化した。そう、今まさに天啓が俺様に!」
「符長くんが壊れた!?」
失礼なことを言う犬子のほっぺを引っ張る。
「いひゃいいひゃい、いひゃいよ符長くん!」
「しょうがないよ、犬のくせに人間様を馬鹿にしたんだから」
とはいえ、犬に罰を与える趣味はない。とっとと手を離してあげる。
「うぅ~……今日も当然のように犬扱いだよ」
「ちょどいいや、お前もつきあえ」(なでなで)
「付き合うって、何に?」
なんとなく頭をなでながら提案すると、犬子は不思議そうな顔で問いかけてきた。
「今日の日付を考えれば分かるだろう。ハロウィンだ!」
「はろうぃん? え、仮装して色んな人の家に行くの?」
「そのつもりだ。俺は全裸に仮面をつける仮装をするから、犬子もそれに準ずるように」
「痴漢&痴女のコンビの出来上がりだよ、符長くん! とっても嫌だよ!」
「なんだ、贅沢だな。しょうがない、犬子だけがその仮装していいよ。らっきー♪」
「気遣いの方向が明らかに間違ってるよ、符長くん! ちっともらっきーじゃないよ!」
「なんだ。しかし、実際どういう仮装にしようか。コスプレは大好きだが、実際に衣装は持ってないんだよなあ」
「……あの、あのね、符長くん? その、たぶんだけどね、仮装して家々を回っても、お菓子はもらえないと思うよ?」
「俺が行く直前に犬子が先回りして、その家の菓子を根こそぎ奪って行くから? どこまであくどいんだ、お前は」(ぐりぐり)
「勝手に悪人にされたっ!? あうぅーっ!」
悔しさを指先にぶつけ、犬子のおでこをぐりぐりする。
「うぅー……今日も符長くんは酷いよ」
両手でおでこを押さえ、犬子はうるむ瞳で俺を見た。
「ごめんね。我ながら言いがかり以外の何物でもなかったね。近く自殺するので許してね」
「符長くんが切腹する!? そこまで恨んでないよ、ていうか死ぬなんて絶対に許さないよ!」
誰も死ぬ手段が切腹とは言ってないが、犬子は慌てた様子で俺の手を握り、力強い目で俺を睨んだ。
「あー、まあ、半ば冗談だ」
「半ば!?」
「全部だ、全部。ごめんな」(なでなで)
「うぅー……そんな冗談、勘弁して欲しいよ」
空いてる手で犬子をなでる。犬子は悲しそうに俺の手に鼻を寄せた。ふにふにと指で鼻を押してやる。
「……えへへ♪」
なにやら嬉しそうに微笑んでくれたので、悲しみは消えたと考えてよいだろう。やれやれ。
「それより犬子、さっき菓子をもらえないと言っていたが、なんでなのだ?」
「あのね、日本にはそういうイベントは根付いてないから、そんなのやっても不審者扱いされるだけだと思うよ?」
「大丈夫、慣れてる」
「符長くんの日常が思ったより可哀想!?」
なんて台詞だ。後で泣かす。
「しかし、菓子をもらえないのか……うぅむ、どうしたものかな」
「お菓子? ……あの、符長くん。ひょっとして、お菓子が食べたいだけ……とか?」
「おお、よく分かったな。この犬は賢い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないのに……でも、どしてコンビニとか行かないの? 売ってるよ?」
「お金がないんだ」
はぅーって顔をされた。
「あの、それじゃ、よかったらだけどね、私がお菓子作ってこようか?」
「マジか!? 流石は犬子、俺の嫁にしたいランキング一位だな」
「嫁っ!? しっ、しかも一位!? はわっ、はわわわわっ!?」
「いかん、犬子の言語がいい感じに面白くなってきた! はい、深呼吸」
「す、すーはーすーはーすーはー。……ふぅ、ちょっと落ち着いたよ」
「おお、さすが俺の嫁」
「はわわわわっ!?」
「わはははは! 犬子は愉快だなあ」
「こっちは好きで愉快じゃないよっ! もー、どーせいつもの冗談でしょ? 知ってるもん」
「わはははは」
「もー……それじゃ、明日持ってくるからね? あ、でも、もしおいしくなくて許してね? 私、あんまり上手じゃないんだ」
「分かった、表面上は許す」
「怖いよっ! いっそ許してくれない方がありがたいよっ!」
今日も犬子は愉快だった。
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【犬子 電車】
2011年06月02日
「大変羨ましい記述があったので俺もしたい」
「朝から何の話?」
登校するなり先日とある掲示板で見たことを簡潔に述べたら、目の前の人間に擬態した犬は小首を傾げた。
「満員電車でえろいことしたいって話」
「あ、朝から不潔だよ、符長くん!」
「テメェ、俺が昨日風呂に入ってないことをどこで知った!?」
頭がかゆい符長彰人ですこんにちは。……むぅ、何だこの脳内で発生するこんにちはは。
「超勘違いだよ! それはそれで汚いよ! 毎日お風呂には入らないとダメだよ!」
「いや違うんだ、聞いてくれ。シャンプーが切れてたんで買いに行かなくちゃいけなかったんだけど、出かけるのが面倒で、もういっそ風呂に入らなくてもいいか! と思ったんだ」
「思わないの! もー……今日学校終わったら一緒にシャンプー買いに行ってあげるから、今日はお風呂入るんだよ?」
「犬子が一緒に入ってくれるなら入る」
「は、入らないよ! 入るわけないよ! 今日も符長くんはえっちだよ!」
「いや、ついでにお前の身体を洗ってやろうと思って。月に一度くらいは洗った方がいいと思ってな」
「当然のように犬扱いされてるよ! 今日も言うけど、私は犬じゃなくて人間なの! 髪型が犬っぽいだけなの! その結果、符長くんが勝手に犬子犬子言ってるだけ!」
「この人間に擬態した犬は流暢に日本語を使うなあ」
「うう……日常のように聞き流してるよ……」
「で、話は戻るんだが、電車ね」
「嫌だよ!」
「まだ話は終わってない」
「分かるもん! どーせ私に痴漢したいとかって話でしょ! そんなの、絶対嫌だから!」
「いや、俺も犬の尻を触る趣味はない」
「ここでも犬扱い!?」
「でも隠されたしっぽは触りたい。もふもふ感が強いに違いない」
「うう……そんなの存在しないのに、なんだかプレッシャーを感じるよ……」
「ええと。痴漢じゃなくてだな、抱き合いたいのだ」
がっかり感の強かった犬子だったが、その台詞を聞いた瞬間、バネ仕掛けのおもちゃみたいにこっちを勢いよく見たのでびっくりした。
「ど、どした?」
「な、なんでもない、なんでもない! いーから続けて!」
「は、はぁ。ええとだな、満員電車は狭いだろ? だから、抱き合うことにより省スペースで素敵だね効果を得られるので俺もやってみてえと思ったのでお前を誘ったということだ」
「…………」
「どした? 犬子?」
「……あー、あのね、符長くん?」
「は、はぁ」
何やら手を合わせ、身体を斜めにしてこちらに問いかけてきたので、ややひるみながら返答する。
「省スペースってことは、エコだよね?」
「はぁ、まぁそうだな」
「エコはさ、大事だからさ、そのさ、……や、やってあげてもいいかもだよ?」
「エコとか吐き気がするくらい嫌いだからいいよ」
「符長くんのスキル:天邪鬼が発動したよ!」
「普通につっこめ」
「いひゃいいひゃい」
なんとなく犬子のほっぺを引っ張る。柔らかい。
「うー……符長くんのばか。痛いじゃないの」
「許して欲しい気持ちが少しだけある」
「いっぱいあるの! 普通は! そしてもっと普通に謝るの! 普通は!」
「任せろ、普通とか超得意」
「…………」
俺がこういう台詞を言うと、誰が相手でもじろーっとした目で見られます。基本的に信頼されてない様子。
「はぁ……まあいいよ、符長くんだし。それで、あの……?」
「ん、ああ。痴漢な。乳でも尻でも揉んでやろう」
「しないよ! 抱っこだよ! 抱き合うのだよ!」
「痴漢の方が楽しそうだなあ」
「抱っこなの! 今日は抱っこの日!」
ちうわけで、犬子が抱け抱け言うので放課後、電車に乗ってみた。
「……全然人いないね」
ただ一つの誤算は、帰宅ラッシュが過ぎた後だったようで、人影はほぼ皆無で、普通に座れてしまうことだった。
「犬子がシャンプー買うのに手間取るからだ」
「酷い責任転嫁だよ! それを言うなら符長くんの方が悪いよ! 私の持つ買い物カゴに何回も何回も犬用シャンプー入れるんだもん! それで30分は時間使ったよ!」
「犬子が買い物カゴを持つだなんて賢いマネをするから、ご褒美をあげたくなっちゃったんだ」
「テレビとかでたまにやる買い物する利口な犬と思われてる!?」
「それとも、骨とかの方が嬉しいのか?」
「知らないよ! なぜなら私は人間だから!」
「うーむ。仮に人間だとしても、犬寄りの人間だよな?」
「え? う、うん、そう、かなぁ……? 自分じゃよくわかんないけど」
「犬と人間を比率で表すなら、99:1くらいだな」
「ほぼ犬!?」
「保母犬。親を失った可哀想な子供を集めて育てる優しい妖怪犬。しかし、もし俺が同等の行為を行った場合は警察官が大挙してやってくるだろうからこの国はおかしいと思う」
「嘘解説はいいのっ! ……そ、それよりさ、え、えっとね? だ、抱っこはどうなるのカナ?」
「どうも何も、混んでないんだからしても意味ないだろ」
「あ、そ、そっか。そだね。そだよね。……そりゃそうだよね」
途端に犬子のテンションが激下がりした。
「恐らく衆人環視の中で頭がフットーしちゃいそうになりたかったに違いないだろうに、申し訳ないことをした」
「そこまでやるつもりはないよっ!」
しかし、簡単にテンションが上がったのでこの犬は簡単で素敵だと思ったので頭をなでてみる。
「え、え……?」
当の犬子はなでられる理由が分からないのか、困惑した様子で頭をなでられていた。
「……う、うー」
しかし、やがて観念したのか、小さく頬を染めてただなでられていた。
「やはり犬子の名は伊達ではないのか、なで感がハンパではなくよいな」
「……あの、あのさ、符長くん。私以外に誰かの頭をなでたことあるの?」
「ぬいぐるみを含んでいいなら、ある! と力強く答えよう。含んじゃいけないなら黙秘権を活用します」
犬子の顔が憐憫だか安心だか非常に微妙な表情になった。
「ところで犬子さんや」
「ん? なぁに、符長くん?」
「先ほど抱っこは意味がないと言った俺が言うのもなんだが、やっぱ抱っこして省スペース秘技を実践してみたいと思う俺を君はどう思うか」
「よきことだと思うよっ!!!」
「超声がでけえ!」
ものすごく大きな声だったのでとてもびっくりした。幸いにして俺たちが乗ってるのはほぼ人がいないローカル線だったので騒ぎにはならないようだけど。
「あ、ご、ごめんね。ついおっきな声が出ちゃったよ」
「まあいいが……そんなに省スペースを実践したかったのか?」
「え? え、あ、うんっ! そうなの! 省エネ大好き!」
「俺は玉子焼きが好き」
「なんか違うよっ! ……あのさ、今度作ってきてあげよっか?」
「おお、さんきう」
嬉しかったので頭をなでてあげたら、ニコニコされた。パンツの下のしっぽ(予想)も振ってるに違いない。
「えへへー。……あ、そ、それで、だ、抱っこは?」
「ああ、そだな。そのために来たのだし」
というわけで、両手を広げてカムカムするのだが、犬子は一向に俺の檻に入ろうとしない。
「どした?」
「うぅー……そこに飛び込むための理論武装は完璧だけど、それはそれで恥ずかしいんだよ! ドキドキするんだよ! 符長くんがなんでもない顔してるのが憎らしいんだよ!」
「ばか、俺だってあとでガムテープで服を綺麗にしなきゃな、あ、でもガムテープなかったどうしようと内心ドキドキなんだぞ?」
「ここに至って未だ犬扱いとな!?」
なんだその口調。
「……あ、でも、ドキドキが大分薄れたよ。これならいけそうな気がするよ!」
「じゃあ衆人環視の中頭がフットーしそうなくらい抱き合いましょう」
「またしてもドキドキが再発したよ! 絶対わざとだよコンチクショウ! それと、衆人環視じゃないよ! 人っ子ひとりいないよ!」
本当にこの電車は大丈夫かと思うほど人気がない。まあ、今回に限ってはラッキーなのだけれども。
「じゃあいいじゃん。ほれ、おいで」
「うぅー……」
犬子はやたら赤い顔でこちらを見たり目を伏せたりを繰り返すと、やがて意を決したように拳を握り締めて鼻息を漏らした。
「よ……よしっ。やっ、やるよっ、符長くん!」
「任せろ、飛んできたらその勢いを利用してえいやっと網棚に収納してやる」
「そんなのちっとも頼んでないよっ! 収納しないで!」
そりゃそうだ。
「もー……常に変なことばっか言って。いーから普通に抱っこするんだよ? 頭とかもなでるんだよ?」
「なんか追加された」
「い、いーの! ついでなの!」
「まあいいか。じゃあ、そういうことで、おいで」
「う……うんっ!」
両手を広げて再びカムカムしたら、今度こそ犬子は勢いをつけて俺に飛びついた。
「へ、へへー……できた、できたよ♪」
「こいつは偉い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないもん、人だもん♪」
何がそんなに嬉しいんだか知らないが、犬子は笑いながら俺の胸にごりごり顔をこすりつけている。犬というよりむしろ猫のマーキングのよう。
「じゃあ、省スペース術を試しましょうか」
「あ、そだね」
ちうわけで、二人で抱き合って立つが、周囲に人が一切いないため、これが省スペースになるのか分からない。
「……よく分かんないね」
犬子もそう思ったのか、情けない笑顔を見せた。
「うーむ。いや待て、もっと密着すれば分かるかもしれないと下心を満載にしながら言ってみる」
「後半で何もかも台無しだよ、符長くん!」
「でも、犬子には乳力がないから密着してもよく分からないから別にいいか」
「あーっ!? その台詞は女子として許せないよ!」
「でも、俺は胸がない方が好きなんだ」
「……ま、まあ、私は心が広いから許すけども」
「しかし、俺は真性のロリコン野郎なので10歳以下じゃないとダメなんだ」
「符長くんがもうダメだった!?」
「冗談、冗談だ。まだ俺はその域まで達してない」
半泣きになったので、慌てて訂正する。
「うぅー……」
「そう唸るな。皮いい顔が台無しだぞ?」
「折角のモテ台詞が誤変換のために台無しだよ、符長くん!」
「いや、これであってる」
「皮膚を褒められたの!?」
「だって、ニキビひとつない皮いい顔だろ」
犬子のほっぺを両手で包み込んでふにふにしながら言う。実に皮いい顔だ。
「うぅー……素直に喜べないよ」
「じゃあ俺が代わりに素直に喜ぶ。ひゃほー!」
「代わりの意味が全く分からないよ、符長くん!」
「犬子と抱きあえて嬉しいんだ」
「え、あ、あ……」
今更ながら自分の状態を把握したのか、犬子は赤くなってうつむいた。
「そう赤くなるな。ほら、一応検証って体だから大丈夫だ」
「そうやってわざわざ全部言っちゃうから意味ないよ、符長くん!」
「正直者だから仕方ないんだ。将来的に金の斧と銀の斧を手に入れてウハウハの予定なんだ」
「童話を将来設計に組み込んでる!?」
「ただ、鉄の斧を持ってないことだけが不安要素だな。どこに売ってんだろ? 武器屋?」
「現実とフィクションを混同してるよ、符長くん!」
「犬が人語を解する時点で現実も何もないと思うが」
「まだ犬!? もーこーゆー状態なんだからちょっとはらぶらぶな雰囲気になってもおかしくないと思うのに、いつもと変わらないのはどういうことなのだよ!?」
「なんだその口調」
「もー! いーからちょっとはラブ因子が欲しいの!」
「そういうことは恋人に言いなさい。外見は器量良しだし、なおかつ俺みたいな天邪鬼に付き合える優しさを持ってるんだから、すぐにできるはずだ」
「うっ、そ、それはそのー……あの、ね?」
「?」
何やら意味ありげにこちらをチラチラ見てくる。……ああ、そうか。
「よしよし」(なでなで)
「違うよっ! ご褒美が欲しい犬じゃないよっ!」
「なんだ。女心ってのは難しいな」
「犬扱いしてる時点で女心も何もないよ……。と、ところでさ」
「うん?」
「も、もーなでなではしてくんないの?」
「…………」
「べっ、別にしてほしいとかじゃなくてね!? 別にちっとも気持ちよくなんかないし! 心がほわほわーとか何のことって感じだし! ずっとこうしててほしいだなんて考えもしないし!」
「いやはや、犬子の忠犬っぷりにはほとほと脱帽だな」(なでなで)
「違うのっ! 忠犬とか意味分かんないしっ! 嬉しくなんてないしっ!?」
「それはそうと、もうちょっとなでますか?」
「……ま、まあ、もうちょっとなら。あ、あと、もうちょっとぎゅってしてくれてもいいし」
尋常ではないほど顔を赤くしながら、何やら口の中でぶちぶち言ってる犬子だった。
「朝から何の話?」
登校するなり先日とある掲示板で見たことを簡潔に述べたら、目の前の人間に擬態した犬は小首を傾げた。
「満員電車でえろいことしたいって話」
「あ、朝から不潔だよ、符長くん!」
「テメェ、俺が昨日風呂に入ってないことをどこで知った!?」
頭がかゆい符長彰人ですこんにちは。……むぅ、何だこの脳内で発生するこんにちはは。
「超勘違いだよ! それはそれで汚いよ! 毎日お風呂には入らないとダメだよ!」
「いや違うんだ、聞いてくれ。シャンプーが切れてたんで買いに行かなくちゃいけなかったんだけど、出かけるのが面倒で、もういっそ風呂に入らなくてもいいか! と思ったんだ」
「思わないの! もー……今日学校終わったら一緒にシャンプー買いに行ってあげるから、今日はお風呂入るんだよ?」
「犬子が一緒に入ってくれるなら入る」
「は、入らないよ! 入るわけないよ! 今日も符長くんはえっちだよ!」
「いや、ついでにお前の身体を洗ってやろうと思って。月に一度くらいは洗った方がいいと思ってな」
「当然のように犬扱いされてるよ! 今日も言うけど、私は犬じゃなくて人間なの! 髪型が犬っぽいだけなの! その結果、符長くんが勝手に犬子犬子言ってるだけ!」
「この人間に擬態した犬は流暢に日本語を使うなあ」
「うう……日常のように聞き流してるよ……」
「で、話は戻るんだが、電車ね」
「嫌だよ!」
「まだ話は終わってない」
「分かるもん! どーせ私に痴漢したいとかって話でしょ! そんなの、絶対嫌だから!」
「いや、俺も犬の尻を触る趣味はない」
「ここでも犬扱い!?」
「でも隠されたしっぽは触りたい。もふもふ感が強いに違いない」
「うう……そんなの存在しないのに、なんだかプレッシャーを感じるよ……」
「ええと。痴漢じゃなくてだな、抱き合いたいのだ」
がっかり感の強かった犬子だったが、その台詞を聞いた瞬間、バネ仕掛けのおもちゃみたいにこっちを勢いよく見たのでびっくりした。
「ど、どした?」
「な、なんでもない、なんでもない! いーから続けて!」
「は、はぁ。ええとだな、満員電車は狭いだろ? だから、抱き合うことにより省スペースで素敵だね効果を得られるので俺もやってみてえと思ったのでお前を誘ったということだ」
「…………」
「どした? 犬子?」
「……あー、あのね、符長くん?」
「は、はぁ」
何やら手を合わせ、身体を斜めにしてこちらに問いかけてきたので、ややひるみながら返答する。
「省スペースってことは、エコだよね?」
「はぁ、まぁそうだな」
「エコはさ、大事だからさ、そのさ、……や、やってあげてもいいかもだよ?」
「エコとか吐き気がするくらい嫌いだからいいよ」
「符長くんのスキル:天邪鬼が発動したよ!」
「普通につっこめ」
「いひゃいいひゃい」
なんとなく犬子のほっぺを引っ張る。柔らかい。
「うー……符長くんのばか。痛いじゃないの」
「許して欲しい気持ちが少しだけある」
「いっぱいあるの! 普通は! そしてもっと普通に謝るの! 普通は!」
「任せろ、普通とか超得意」
「…………」
俺がこういう台詞を言うと、誰が相手でもじろーっとした目で見られます。基本的に信頼されてない様子。
「はぁ……まあいいよ、符長くんだし。それで、あの……?」
「ん、ああ。痴漢な。乳でも尻でも揉んでやろう」
「しないよ! 抱っこだよ! 抱き合うのだよ!」
「痴漢の方が楽しそうだなあ」
「抱っこなの! 今日は抱っこの日!」
ちうわけで、犬子が抱け抱け言うので放課後、電車に乗ってみた。
「……全然人いないね」
ただ一つの誤算は、帰宅ラッシュが過ぎた後だったようで、人影はほぼ皆無で、普通に座れてしまうことだった。
「犬子がシャンプー買うのに手間取るからだ」
「酷い責任転嫁だよ! それを言うなら符長くんの方が悪いよ! 私の持つ買い物カゴに何回も何回も犬用シャンプー入れるんだもん! それで30分は時間使ったよ!」
「犬子が買い物カゴを持つだなんて賢いマネをするから、ご褒美をあげたくなっちゃったんだ」
「テレビとかでたまにやる買い物する利口な犬と思われてる!?」
「それとも、骨とかの方が嬉しいのか?」
「知らないよ! なぜなら私は人間だから!」
「うーむ。仮に人間だとしても、犬寄りの人間だよな?」
「え? う、うん、そう、かなぁ……? 自分じゃよくわかんないけど」
「犬と人間を比率で表すなら、99:1くらいだな」
「ほぼ犬!?」
「保母犬。親を失った可哀想な子供を集めて育てる優しい妖怪犬。しかし、もし俺が同等の行為を行った場合は警察官が大挙してやってくるだろうからこの国はおかしいと思う」
「嘘解説はいいのっ! ……そ、それよりさ、え、えっとね? だ、抱っこはどうなるのカナ?」
「どうも何も、混んでないんだからしても意味ないだろ」
「あ、そ、そっか。そだね。そだよね。……そりゃそうだよね」
途端に犬子のテンションが激下がりした。
「恐らく衆人環視の中で頭がフットーしちゃいそうになりたかったに違いないだろうに、申し訳ないことをした」
「そこまでやるつもりはないよっ!」
しかし、簡単にテンションが上がったのでこの犬は簡単で素敵だと思ったので頭をなでてみる。
「え、え……?」
当の犬子はなでられる理由が分からないのか、困惑した様子で頭をなでられていた。
「……う、うー」
しかし、やがて観念したのか、小さく頬を染めてただなでられていた。
「やはり犬子の名は伊達ではないのか、なで感がハンパではなくよいな」
「……あの、あのさ、符長くん。私以外に誰かの頭をなでたことあるの?」
「ぬいぐるみを含んでいいなら、ある! と力強く答えよう。含んじゃいけないなら黙秘権を活用します」
犬子の顔が憐憫だか安心だか非常に微妙な表情になった。
「ところで犬子さんや」
「ん? なぁに、符長くん?」
「先ほど抱っこは意味がないと言った俺が言うのもなんだが、やっぱ抱っこして省スペース秘技を実践してみたいと思う俺を君はどう思うか」
「よきことだと思うよっ!!!」
「超声がでけえ!」
ものすごく大きな声だったのでとてもびっくりした。幸いにして俺たちが乗ってるのはほぼ人がいないローカル線だったので騒ぎにはならないようだけど。
「あ、ご、ごめんね。ついおっきな声が出ちゃったよ」
「まあいいが……そんなに省スペースを実践したかったのか?」
「え? え、あ、うんっ! そうなの! 省エネ大好き!」
「俺は玉子焼きが好き」
「なんか違うよっ! ……あのさ、今度作ってきてあげよっか?」
「おお、さんきう」
嬉しかったので頭をなでてあげたら、ニコニコされた。パンツの下のしっぽ(予想)も振ってるに違いない。
「えへへー。……あ、そ、それで、だ、抱っこは?」
「ああ、そだな。そのために来たのだし」
というわけで、両手を広げてカムカムするのだが、犬子は一向に俺の檻に入ろうとしない。
「どした?」
「うぅー……そこに飛び込むための理論武装は完璧だけど、それはそれで恥ずかしいんだよ! ドキドキするんだよ! 符長くんがなんでもない顔してるのが憎らしいんだよ!」
「ばか、俺だってあとでガムテープで服を綺麗にしなきゃな、あ、でもガムテープなかったどうしようと内心ドキドキなんだぞ?」
「ここに至って未だ犬扱いとな!?」
なんだその口調。
「……あ、でも、ドキドキが大分薄れたよ。これならいけそうな気がするよ!」
「じゃあ衆人環視の中頭がフットーしそうなくらい抱き合いましょう」
「またしてもドキドキが再発したよ! 絶対わざとだよコンチクショウ! それと、衆人環視じゃないよ! 人っ子ひとりいないよ!」
本当にこの電車は大丈夫かと思うほど人気がない。まあ、今回に限ってはラッキーなのだけれども。
「じゃあいいじゃん。ほれ、おいで」
「うぅー……」
犬子はやたら赤い顔でこちらを見たり目を伏せたりを繰り返すと、やがて意を決したように拳を握り締めて鼻息を漏らした。
「よ……よしっ。やっ、やるよっ、符長くん!」
「任せろ、飛んできたらその勢いを利用してえいやっと網棚に収納してやる」
「そんなのちっとも頼んでないよっ! 収納しないで!」
そりゃそうだ。
「もー……常に変なことばっか言って。いーから普通に抱っこするんだよ? 頭とかもなでるんだよ?」
「なんか追加された」
「い、いーの! ついでなの!」
「まあいいか。じゃあ、そういうことで、おいで」
「う……うんっ!」
両手を広げて再びカムカムしたら、今度こそ犬子は勢いをつけて俺に飛びついた。
「へ、へへー……できた、できたよ♪」
「こいつは偉い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないもん、人だもん♪」
何がそんなに嬉しいんだか知らないが、犬子は笑いながら俺の胸にごりごり顔をこすりつけている。犬というよりむしろ猫のマーキングのよう。
「じゃあ、省スペース術を試しましょうか」
「あ、そだね」
ちうわけで、二人で抱き合って立つが、周囲に人が一切いないため、これが省スペースになるのか分からない。
「……よく分かんないね」
犬子もそう思ったのか、情けない笑顔を見せた。
「うーむ。いや待て、もっと密着すれば分かるかもしれないと下心を満載にしながら言ってみる」
「後半で何もかも台無しだよ、符長くん!」
「でも、犬子には乳力がないから密着してもよく分からないから別にいいか」
「あーっ!? その台詞は女子として許せないよ!」
「でも、俺は胸がない方が好きなんだ」
「……ま、まあ、私は心が広いから許すけども」
「しかし、俺は真性のロリコン野郎なので10歳以下じゃないとダメなんだ」
「符長くんがもうダメだった!?」
「冗談、冗談だ。まだ俺はその域まで達してない」
半泣きになったので、慌てて訂正する。
「うぅー……」
「そう唸るな。皮いい顔が台無しだぞ?」
「折角のモテ台詞が誤変換のために台無しだよ、符長くん!」
「いや、これであってる」
「皮膚を褒められたの!?」
「だって、ニキビひとつない皮いい顔だろ」
犬子のほっぺを両手で包み込んでふにふにしながら言う。実に皮いい顔だ。
「うぅー……素直に喜べないよ」
「じゃあ俺が代わりに素直に喜ぶ。ひゃほー!」
「代わりの意味が全く分からないよ、符長くん!」
「犬子と抱きあえて嬉しいんだ」
「え、あ、あ……」
今更ながら自分の状態を把握したのか、犬子は赤くなってうつむいた。
「そう赤くなるな。ほら、一応検証って体だから大丈夫だ」
「そうやってわざわざ全部言っちゃうから意味ないよ、符長くん!」
「正直者だから仕方ないんだ。将来的に金の斧と銀の斧を手に入れてウハウハの予定なんだ」
「童話を将来設計に組み込んでる!?」
「ただ、鉄の斧を持ってないことだけが不安要素だな。どこに売ってんだろ? 武器屋?」
「現実とフィクションを混同してるよ、符長くん!」
「犬が人語を解する時点で現実も何もないと思うが」
「まだ犬!? もーこーゆー状態なんだからちょっとはらぶらぶな雰囲気になってもおかしくないと思うのに、いつもと変わらないのはどういうことなのだよ!?」
「なんだその口調」
「もー! いーからちょっとはラブ因子が欲しいの!」
「そういうことは恋人に言いなさい。外見は器量良しだし、なおかつ俺みたいな天邪鬼に付き合える優しさを持ってるんだから、すぐにできるはずだ」
「うっ、そ、それはそのー……あの、ね?」
「?」
何やら意味ありげにこちらをチラチラ見てくる。……ああ、そうか。
「よしよし」(なでなで)
「違うよっ! ご褒美が欲しい犬じゃないよっ!」
「なんだ。女心ってのは難しいな」
「犬扱いしてる時点で女心も何もないよ……。と、ところでさ」
「うん?」
「も、もーなでなではしてくんないの?」
「…………」
「べっ、別にしてほしいとかじゃなくてね!? 別にちっとも気持ちよくなんかないし! 心がほわほわーとか何のことって感じだし! ずっとこうしててほしいだなんて考えもしないし!」
「いやはや、犬子の忠犬っぷりにはほとほと脱帽だな」(なでなで)
「違うのっ! 忠犬とか意味分かんないしっ! 嬉しくなんてないしっ!?」
「それはそうと、もうちょっとなでますか?」
「……ま、まあ、もうちょっとなら。あ、あと、もうちょっとぎゅってしてくれてもいいし」
尋常ではないほど顔を赤くしながら、何やら口の中でぶちぶち言ってる犬子だった。
【犬子 幼なじみ風味】
2010年07月16日
俺には幼なじみがいない。いや、厳密に言うといるのだけど、野郎なので却下。男の娘なら許可。……いや、むしろ!
「あ、あの、符長くん? どしたの、にやにやして」
男の娘幼なじみとの愛ある生活を想像してたら、俺のにやにや顔に興味を引かれたのか、犬子がひょこひょこやって来たのでびっくりした符長彰人ですこんにちは。……む、脳内こんにちはが発生した! でもまあいいや。
「いや、ちょっと未開発の菊を」
「へ?」
いかん。いくら相手が犬子とはいえ、さすがに男の娘はレベルが高すぎるだろう。
「あー、なんでもない。あ、そうだ! 良いことを思いついたのでそれに付き合え」
「唐突ながら、とっても嫌な予感がするよ……」
「大丈夫だ。俺は問題ない」
「私が問題あるの!」
「それで、思いついたことなんだが」
「今日も話を聞いてないよ……」
何やらがっくりした顔が目の前にあるが、そういう類の顔とはよくエンカウントするので気にせず話を進める。
「俺には幼なじみがいないんだ。でも、ギャルゲやエロゲにはほぼ標準でいるだろ? それが羨ましくってしょうがないから、明日だけでいいから、お前は俺の幼なじみだ」
「え?」
「だから、朝起こしに来い。飯も作れ。いつも綺麗でいろ。出来る範囲でいいから」
「途中から関白宣言になってるよ、符長くん!」
「しまった、さだまさしの亡霊が俺に乗り移ったか」
「絶賛存命中だよっ!」
「じゃあ生霊が乗り移ったんだな」
「もうそれでいいよ……」
諦められた。根性ナシめ。
「それで、えっと……朝起こしに行って、ご飯作ってほしいってことなのカナ?」
「簡単に言うと、そうなんだ。でも、よく考えると非常識極まりないことに気づいたのでやっぱいいや」
「ん~……でも、してほしいんだよね?」
「それは、まあ」
幼なじみに起こされる。それは思春期の男子であらば誰しもが憧れる夢であろう。もしくは姉とか妹とかメイドとかネコミミ少女とか魔法少女とかスク水少女とか武家少女とか。
「……いや、朝から刀持った奴に起こされるのはちょっとアレだな。というか後半おかしいな」
「うん?」
「ああ、こっちの話」
「ふぅん? ……あの、あのね。もし符長くんさえよかったら、私、起こしに行ってもいいよ?」
「マジか!? いやさすがは犬子、持つべきものは忠犬だな」
「今日も犬扱いだよ……」
悲しそうだったので頭なでてあげた。
「え、えへへ?」
疑問系扱いながらも嬉しそうになったので、よかったと思った。
そんなわけで、翌日。起こしに来るというので目覚ましをセットせずに寝てたら、何者かが優しく俺を揺り起こしている感覚が。
「お、おはよっ、符長くんっ。あ、朝だよっ?」
緊張しているのか、声が裏返っている。しかし、その程度のおもしろ起こしでは俺は起きない。ていうか本当は起きてて目をつむってるだけなんだけど。
「え、えと、なんて言うのかな……あ、そだ。んと、は、早くしないと学校遅れるよ?」
「zzz」
「うぅ、ダメかぁ……あ、あのね、符長くん。早く起きてくれないと、ご飯が冷めちゃうよ?」
「zzz」
「うー、zしか返ってこないよ……。あ、あのね、あのね。今日の朝ごはんはね、ご飯とー、お味噌汁とー、玉子焼きだよ? だから早く起きてよ。ねー、ねーってば」
「zzz幼なじみは起こしにきたものの、一緒に寝てしまうのが相場だzzz」
「明らかに起きて指示してるよぉ……。で、でも、その、あの、そうやったら符長くん起きる?」
「起きるzzz」
「意思の疎通ができてる状態を寝てるっていうのか疑問だけど……わ、分かった。私、頑張る。頑張って、符長くんと一緒に寝る!」
「ふしだらな犬だなあzzz」
「そういう意味じゃないよ!? い、いっしょにぐーぐー寝るだけで、えっちなことはしないんだよ!?」
「ちっ」
「うう……符長くんのえっち。あと、zzzがついてないよ?」
「めんどくさいんだ。脳内で追加しといてくれ」
「明らかに起きてるよ……。じゃ、そ、その、ね、寝るからちょっとスペース空けて?」
お願いされたので、ベッドをごろごろ転がってスペースを開けたら壁とベッドの隙間に落ちた。
「わっ、符長くんが消えた!? 手品?」
「消えてません。隙間に落ちたのです。助けて」
「わ、分かったよ! ……わっ、わっ! 符長くんが面白いかっこうで挟まってるよ!」
朝から辱めを受けたが、どうにか犬子に救出してもらい、事なきを得る。
「ふぅ……死ぬかと思った」
「どうして起きるだけで死にかけられるの?」
「うるさい。んじゃ、続き。寝るので俺の隣に寝るように」
「もう起きてるよ?」
犬子がにこにこ笑いながら俺の頬を無遠慮にぺちぺち触ってきたので、お返しとばかりに頭をもふもふする。
「えへへっ。おはよう、符長くん?」
「一見起きていますが、実は夢遊病で本当は寝てるんだ。幼なじみが隣で眠り、それに気づかなけれ起きられないんだ」
「今までどうやって起きてたの?」
「今までずっと夢遊病で生活してたんだ」
「そっちの方がすごいよ!」
「そんなわけで、初の起床をしたいのでお願いします」
「明らかに嘘だよ……」
信じられる所が一切ない言い訳を繰り出した後、俺は再びベッドに横になって犬子を待った。
「うー……私が寝たら、本当に起きる?」
「起きること請け合い」
「……じゃ、じゃあ、寝てあげる。でっ、でも、えっちなことはダメだよ!?」
「しないしない、犬子が相手なのにするわけがない」
「それはそれで女心がずたずただよ!」
「じゃあ乳も揉むし、尻も触るし、ちゅーもする」
「極端だよ、符長くん!」
一体どうしろというのだ。
「あ、あのね? 抱っこくらいならいーよ? それでね、それでね? そのあとにね、優しーく頭なでたりとかー、甘ーい言葉とかー、……ね?」
「…………」
薄目を開けて犬子をじーっと見る。
「たっ、例えばだよ、例えば!? 私がそーゆーのしてほしいとかじゃなくって!?」
「……ああ、うん。そだな」
「ううう……優しい声と視線がいっそ辛いよ……」
「とにかく、寝れ。犬子が嫌がるようなことはしないから」
「…………。そだね、そだったね。符長くんは優しいから、私が悲しむようなことはしないもんね?」
「今日も犬子は俺という人間を誤認識しているようだな」
「えへへー。符長くんはいっぱい優しいけど、いっぱい恥ずかしがりやさんだもんね?」
「黙らないと犯す」
「思ったより怖かった!?」
「それが嫌なら一緒に寝ろ。もしくは通報しろ」
「なんで通報を自ら仕向けるのか分かんないけど……寝るのはいいよ?」
「ふしだらな犬だなあ」
「話がループしてるよっ!」
今日も俺は時空の歪みに迷い込みがちです。
「うぅ~……じゃ、じゃあ、寝るから、えっちなことしちゃだめだよ?」
「任せろ、得意だ」
「一切信用できない台詞が飛び出したよぉ……」
ぶちぶち言いながらも、犬子は俺の隣にそっと身体を横たえた。
「お、お邪魔します!」
「そんな緊張して寝る奴がいるか」
「だ、だって、緊張するに決まってるよ! め、目の前に符長くんの顔があるんだもん!」
「ああ、これは失敬。すぐに身体をずらし、犬子の目の前に尻を突き出すからそれまで我慢してくれ」
「どうしてそれで緊張がほぐれるって思うんだろ……?」
不思議そうだったので、尻移動はやめる。
「……あれ? なんか緊張ほぐれちゃった。へへー、やっぱ符長くんはすごいね?」
「犬子と一緒の布団にいるだなんて、まるで新婚初夜のようでドキドキするなあ」
「緊張がぶり返したよ! わざと言ったに違いないよ! は、はうううう!?」
見る間に犬子の顔が赤くなっていったので大変愉快。
「まあそう緊張するな。痛いのは最初だけという話だぞ?」
「明らかに初夜の話だよ、符長くん!」
「じゃあさういうわけで、寝るのでお前も思わず寝るように」
「緊張真っ最中なのに、寝れるわけないよ!」
「むぅ。……ええと、実は緊張が解れるであろう手段を保持しているのですが、少々お前の身体に触れてしまうのだけど、どうだろう?」
「少々って……どのくらい?」
「妊娠する程度」
「超お断りだよ!」
ものすごく手をNOな感じにされた。
「冗談です。ちょっと抱っこする程度です」
「……抱っこ?」
ぴたり、と犬子の動きが止まった。
「……あの、むぎゅーってするやつ?」
「むぎゅーという擬音が似合う技を抱っこ以外保持していないので分からないけど、たぶんそれだと思います」
「……え、えと。あのね、いいよ、抱っこ? ほ、ほら、緊張を解すためだし?」
「なんか既に解れてませんか」
「そっ、そんなことないよ!? ほ、ほら、すっごく緊張してるもん! ほーら、びりびりびり!」
「ひぃ、漏電!」
「緊張でぷるぷる震えてるだけだよ、符長くん!」
「なんだ。まあともかくやるので覚悟はよろしいか?」
「うっ、うん」
なんかカクカクしてる犬子の頭を、むぎゅっと抱きしめる。
「ふわ、ふわわ!?」
そして、その頭を自分の胸に押し付ける。
「……え、えと?」
「こうやって心音を聞かせることにより、落ち着くんじゃないカナ落ち着くんじゃないカナ」
「なんで二回言ったのか分かんないけど……聞こえないよ?」
「じゃあもう俺は死んでるんだよ」
「符長くんが!?」
「あ、しまった。こっちだ、こっち」
犬子の頭を右胸から左胸へ移動させる。
「よ、よかった、とっくんとっくん鳴ってるよ。……もー、びっくりして私の心臓が止まるかと思ったよ」
「大丈夫だ。知り合いに墓石屋がいるから、安く作ってもらえるぞ」
「誰もそんな心配してないのに……」
「わはは。んで、どうだ? ちったあ落ち着いたか?」
「ん、んと……ちょっと待ってね」
犬子は俺の胸に耳を押し付け、目をつむった。そして、深く呼吸しだした。
「……ふぅ。あ、ホントになんか落ち着いちゃった。すごいね、符長くん?」
「カナ坊シナリオで身につけた技だ」
「金棒?」
理解していないようだが、まあいいや。もう大丈夫なようなので、犬子から身体を離す。
「落ち着いたようなので、そろそろ俺を起こし」
「あっ! ま、またドキドキしてきちゃったよ! だ、だから、もーちょっと抱っこしてもらわないとダメ、みたいな……?」
「…………」
「え、えと……ダメかな?」
そんなおあずけを喰らった犬みたいな表情をされて、一体誰が断れようか。
「……5分だけな」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうな犬子を再び抱っこする。
「えへへー♪」
犬子はニコニコ笑いながら俺の顔をぺたぺた触りだした。
「寝るのではないのか」
「そうなんだけど……なんかね、近くが嬉しいの♪」
「…………」
「ふっ、深い意味はないけれどもだよ!?」
「あ、ああ。そうだな」
「う、ううー……」
「そう尻を赤くして威嚇するな」
「顔を赤くしてるんだよ! 照れてるの! 犬どころか猿扱いになっちゃったよ!」
「別に奴らは威嚇のために赤くしているわけではないと思うが」
「なんでもいーの!」
誤魔化すように、犬子はむぎゅっと俺に抱きついた。その背に手を添え、こちらからも抱っこする。
「……ふぅ。……符長くんに抱っこされてると、なんかほんとーに落ち着くなー」
「む、落ち着いたのだな?」
「起こすレベルまではいかないけど! 落ち着くなーっていう話!」
「…………」
「え、えへへ?」
罪悪感があるようなので、まあよしとしよう。犬子の頭をわしわしとなでながらそう思った。
が、それも少しの時間なら、の話。
「なんで本格的に寝ちまうんだ!」
「だ、だって、だって!」
「もう12時だぞ、12時! 昼過ぎてる!」
「う、ううううう~! そ、そんなこと言っても、符長くんも責任はあるよ、責任重大だよ! ずーっと私の頭優しくなでてたもん! そりゃ気持ちよくってぐーぐー寝ちゃうよ!」
「イヌミミ検査をしていただけだ。そして、その最中に誤って二度寝しただけだ」
「髪だもん! イヌミミなんかじゃないもん! 二度寝しちゃった人には私を責める権限ないもん!」
などと言い合いながら、学校までの道のりを走る俺たちだった。
「あ、あの、符長くん? どしたの、にやにやして」
男の娘幼なじみとの愛ある生活を想像してたら、俺のにやにや顔に興味を引かれたのか、犬子がひょこひょこやって来たのでびっくりした符長彰人ですこんにちは。……む、脳内こんにちはが発生した! でもまあいいや。
「いや、ちょっと未開発の菊を」
「へ?」
いかん。いくら相手が犬子とはいえ、さすがに男の娘はレベルが高すぎるだろう。
「あー、なんでもない。あ、そうだ! 良いことを思いついたのでそれに付き合え」
「唐突ながら、とっても嫌な予感がするよ……」
「大丈夫だ。俺は問題ない」
「私が問題あるの!」
「それで、思いついたことなんだが」
「今日も話を聞いてないよ……」
何やらがっくりした顔が目の前にあるが、そういう類の顔とはよくエンカウントするので気にせず話を進める。
「俺には幼なじみがいないんだ。でも、ギャルゲやエロゲにはほぼ標準でいるだろ? それが羨ましくってしょうがないから、明日だけでいいから、お前は俺の幼なじみだ」
「え?」
「だから、朝起こしに来い。飯も作れ。いつも綺麗でいろ。出来る範囲でいいから」
「途中から関白宣言になってるよ、符長くん!」
「しまった、さだまさしの亡霊が俺に乗り移ったか」
「絶賛存命中だよっ!」
「じゃあ生霊が乗り移ったんだな」
「もうそれでいいよ……」
諦められた。根性ナシめ。
「それで、えっと……朝起こしに行って、ご飯作ってほしいってことなのカナ?」
「簡単に言うと、そうなんだ。でも、よく考えると非常識極まりないことに気づいたのでやっぱいいや」
「ん~……でも、してほしいんだよね?」
「それは、まあ」
幼なじみに起こされる。それは思春期の男子であらば誰しもが憧れる夢であろう。もしくは姉とか妹とかメイドとかネコミミ少女とか魔法少女とかスク水少女とか武家少女とか。
「……いや、朝から刀持った奴に起こされるのはちょっとアレだな。というか後半おかしいな」
「うん?」
「ああ、こっちの話」
「ふぅん? ……あの、あのね。もし符長くんさえよかったら、私、起こしに行ってもいいよ?」
「マジか!? いやさすがは犬子、持つべきものは忠犬だな」
「今日も犬扱いだよ……」
悲しそうだったので頭なでてあげた。
「え、えへへ?」
疑問系扱いながらも嬉しそうになったので、よかったと思った。
そんなわけで、翌日。起こしに来るというので目覚ましをセットせずに寝てたら、何者かが優しく俺を揺り起こしている感覚が。
「お、おはよっ、符長くんっ。あ、朝だよっ?」
緊張しているのか、声が裏返っている。しかし、その程度のおもしろ起こしでは俺は起きない。ていうか本当は起きてて目をつむってるだけなんだけど。
「え、えと、なんて言うのかな……あ、そだ。んと、は、早くしないと学校遅れるよ?」
「zzz」
「うぅ、ダメかぁ……あ、あのね、符長くん。早く起きてくれないと、ご飯が冷めちゃうよ?」
「zzz」
「うー、zしか返ってこないよ……。あ、あのね、あのね。今日の朝ごはんはね、ご飯とー、お味噌汁とー、玉子焼きだよ? だから早く起きてよ。ねー、ねーってば」
「zzz幼なじみは起こしにきたものの、一緒に寝てしまうのが相場だzzz」
「明らかに起きて指示してるよぉ……。で、でも、その、あの、そうやったら符長くん起きる?」
「起きるzzz」
「意思の疎通ができてる状態を寝てるっていうのか疑問だけど……わ、分かった。私、頑張る。頑張って、符長くんと一緒に寝る!」
「ふしだらな犬だなあzzz」
「そういう意味じゃないよ!? い、いっしょにぐーぐー寝るだけで、えっちなことはしないんだよ!?」
「ちっ」
「うう……符長くんのえっち。あと、zzzがついてないよ?」
「めんどくさいんだ。脳内で追加しといてくれ」
「明らかに起きてるよ……。じゃ、そ、その、ね、寝るからちょっとスペース空けて?」
お願いされたので、ベッドをごろごろ転がってスペースを開けたら壁とベッドの隙間に落ちた。
「わっ、符長くんが消えた!? 手品?」
「消えてません。隙間に落ちたのです。助けて」
「わ、分かったよ! ……わっ、わっ! 符長くんが面白いかっこうで挟まってるよ!」
朝から辱めを受けたが、どうにか犬子に救出してもらい、事なきを得る。
「ふぅ……死ぬかと思った」
「どうして起きるだけで死にかけられるの?」
「うるさい。んじゃ、続き。寝るので俺の隣に寝るように」
「もう起きてるよ?」
犬子がにこにこ笑いながら俺の頬を無遠慮にぺちぺち触ってきたので、お返しとばかりに頭をもふもふする。
「えへへっ。おはよう、符長くん?」
「一見起きていますが、実は夢遊病で本当は寝てるんだ。幼なじみが隣で眠り、それに気づかなけれ起きられないんだ」
「今までどうやって起きてたの?」
「今までずっと夢遊病で生活してたんだ」
「そっちの方がすごいよ!」
「そんなわけで、初の起床をしたいのでお願いします」
「明らかに嘘だよ……」
信じられる所が一切ない言い訳を繰り出した後、俺は再びベッドに横になって犬子を待った。
「うー……私が寝たら、本当に起きる?」
「起きること請け合い」
「……じゃ、じゃあ、寝てあげる。でっ、でも、えっちなことはダメだよ!?」
「しないしない、犬子が相手なのにするわけがない」
「それはそれで女心がずたずただよ!」
「じゃあ乳も揉むし、尻も触るし、ちゅーもする」
「極端だよ、符長くん!」
一体どうしろというのだ。
「あ、あのね? 抱っこくらいならいーよ? それでね、それでね? そのあとにね、優しーく頭なでたりとかー、甘ーい言葉とかー、……ね?」
「…………」
薄目を開けて犬子をじーっと見る。
「たっ、例えばだよ、例えば!? 私がそーゆーのしてほしいとかじゃなくって!?」
「……ああ、うん。そだな」
「ううう……優しい声と視線がいっそ辛いよ……」
「とにかく、寝れ。犬子が嫌がるようなことはしないから」
「…………。そだね、そだったね。符長くんは優しいから、私が悲しむようなことはしないもんね?」
「今日も犬子は俺という人間を誤認識しているようだな」
「えへへー。符長くんはいっぱい優しいけど、いっぱい恥ずかしがりやさんだもんね?」
「黙らないと犯す」
「思ったより怖かった!?」
「それが嫌なら一緒に寝ろ。もしくは通報しろ」
「なんで通報を自ら仕向けるのか分かんないけど……寝るのはいいよ?」
「ふしだらな犬だなあ」
「話がループしてるよっ!」
今日も俺は時空の歪みに迷い込みがちです。
「うぅ~……じゃ、じゃあ、寝るから、えっちなことしちゃだめだよ?」
「任せろ、得意だ」
「一切信用できない台詞が飛び出したよぉ……」
ぶちぶち言いながらも、犬子は俺の隣にそっと身体を横たえた。
「お、お邪魔します!」
「そんな緊張して寝る奴がいるか」
「だ、だって、緊張するに決まってるよ! め、目の前に符長くんの顔があるんだもん!」
「ああ、これは失敬。すぐに身体をずらし、犬子の目の前に尻を突き出すからそれまで我慢してくれ」
「どうしてそれで緊張がほぐれるって思うんだろ……?」
不思議そうだったので、尻移動はやめる。
「……あれ? なんか緊張ほぐれちゃった。へへー、やっぱ符長くんはすごいね?」
「犬子と一緒の布団にいるだなんて、まるで新婚初夜のようでドキドキするなあ」
「緊張がぶり返したよ! わざと言ったに違いないよ! は、はうううう!?」
見る間に犬子の顔が赤くなっていったので大変愉快。
「まあそう緊張するな。痛いのは最初だけという話だぞ?」
「明らかに初夜の話だよ、符長くん!」
「じゃあさういうわけで、寝るのでお前も思わず寝るように」
「緊張真っ最中なのに、寝れるわけないよ!」
「むぅ。……ええと、実は緊張が解れるであろう手段を保持しているのですが、少々お前の身体に触れてしまうのだけど、どうだろう?」
「少々って……どのくらい?」
「妊娠する程度」
「超お断りだよ!」
ものすごく手をNOな感じにされた。
「冗談です。ちょっと抱っこする程度です」
「……抱っこ?」
ぴたり、と犬子の動きが止まった。
「……あの、むぎゅーってするやつ?」
「むぎゅーという擬音が似合う技を抱っこ以外保持していないので分からないけど、たぶんそれだと思います」
「……え、えと。あのね、いいよ、抱っこ? ほ、ほら、緊張を解すためだし?」
「なんか既に解れてませんか」
「そっ、そんなことないよ!? ほ、ほら、すっごく緊張してるもん! ほーら、びりびりびり!」
「ひぃ、漏電!」
「緊張でぷるぷる震えてるだけだよ、符長くん!」
「なんだ。まあともかくやるので覚悟はよろしいか?」
「うっ、うん」
なんかカクカクしてる犬子の頭を、むぎゅっと抱きしめる。
「ふわ、ふわわ!?」
そして、その頭を自分の胸に押し付ける。
「……え、えと?」
「こうやって心音を聞かせることにより、落ち着くんじゃないカナ落ち着くんじゃないカナ」
「なんで二回言ったのか分かんないけど……聞こえないよ?」
「じゃあもう俺は死んでるんだよ」
「符長くんが!?」
「あ、しまった。こっちだ、こっち」
犬子の頭を右胸から左胸へ移動させる。
「よ、よかった、とっくんとっくん鳴ってるよ。……もー、びっくりして私の心臓が止まるかと思ったよ」
「大丈夫だ。知り合いに墓石屋がいるから、安く作ってもらえるぞ」
「誰もそんな心配してないのに……」
「わはは。んで、どうだ? ちったあ落ち着いたか?」
「ん、んと……ちょっと待ってね」
犬子は俺の胸に耳を押し付け、目をつむった。そして、深く呼吸しだした。
「……ふぅ。あ、ホントになんか落ち着いちゃった。すごいね、符長くん?」
「カナ坊シナリオで身につけた技だ」
「金棒?」
理解していないようだが、まあいいや。もう大丈夫なようなので、犬子から身体を離す。
「落ち着いたようなので、そろそろ俺を起こし」
「あっ! ま、またドキドキしてきちゃったよ! だ、だから、もーちょっと抱っこしてもらわないとダメ、みたいな……?」
「…………」
「え、えと……ダメかな?」
そんなおあずけを喰らった犬みたいな表情をされて、一体誰が断れようか。
「……5分だけな」
「うんっ、うんっ!」
嬉しそうな犬子を再び抱っこする。
「えへへー♪」
犬子はニコニコ笑いながら俺の顔をぺたぺた触りだした。
「寝るのではないのか」
「そうなんだけど……なんかね、近くが嬉しいの♪」
「…………」
「ふっ、深い意味はないけれどもだよ!?」
「あ、ああ。そうだな」
「う、ううー……」
「そう尻を赤くして威嚇するな」
「顔を赤くしてるんだよ! 照れてるの! 犬どころか猿扱いになっちゃったよ!」
「別に奴らは威嚇のために赤くしているわけではないと思うが」
「なんでもいーの!」
誤魔化すように、犬子はむぎゅっと俺に抱きついた。その背に手を添え、こちらからも抱っこする。
「……ふぅ。……符長くんに抱っこされてると、なんかほんとーに落ち着くなー」
「む、落ち着いたのだな?」
「起こすレベルまではいかないけど! 落ち着くなーっていう話!」
「…………」
「え、えへへ?」
罪悪感があるようなので、まあよしとしよう。犬子の頭をわしわしとなでながらそう思った。
が、それも少しの時間なら、の話。
「なんで本格的に寝ちまうんだ!」
「だ、だって、だって!」
「もう12時だぞ、12時! 昼過ぎてる!」
「う、ううううう~! そ、そんなこと言っても、符長くんも責任はあるよ、責任重大だよ! ずーっと私の頭優しくなでてたもん! そりゃ気持ちよくってぐーぐー寝ちゃうよ!」
「イヌミミ検査をしていただけだ。そして、その最中に誤って二度寝しただけだ」
「髪だもん! イヌミミなんかじゃないもん! 二度寝しちゃった人には私を責める権限ないもん!」
などと言い合いながら、学校までの道のりを走る俺たちだった。
【犬子 名前間違い】
2010年07月10日
「符丁くん符丁くん!」
「…………」
「あれ? あの……符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
ぐわしっと犬子の顔を鷲掴みする。
「えええっ!?」
「俺の名は符長彰人だ。分かったら繰り返せ」
「ふ、ふながあきと!」
「貴様、人の名をフルネームで呼ぶとはいい度胸だ!」
「もはや言いがかりだよ、符長くん!」
「ごめんね」
「しかも情緒不安定だよ。脳の病気なの?」
「…………」
無言で指に力を込める。いわゆるアイアンクロー。
「あれっ? 痛いっ、痛い痛い痛い!? 痛いよ符長くん!」
「かわいそうだと思いました」
「明らかに他人事だよ!?」
何やらびっくりしてる犬子だった。ので、解放してあげた。
「うぅ~。ひどいよ符長くん!」
「今の俺は符丁だから仕方ないんだ」
「全くもって意味が分からないよ、符長くん! ……いや、符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
ぐわしゃっと犬子の顔を鷲掴みする。
「うわわっ!? 何やら策にはまった気がするよ!」
策にはめて満足したので解放する。
「ううう……でも痛いは痛いよ。ひどいよ符長くん!」
「ごめんね」(なでなで)
「わふー……」
「この生物は尻をなでるとわふーと鳴きます」
「酷い言いがかりを!? 頭をなでられたんだよ!」
「犬子わふたー。む、どうにも語呂が悪いな」
「今日もちっとも話を聞いてくれないよ……」
がっくり気味の犬子だった。
「…………」
「あれ? あの……符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
ぐわしっと犬子の顔を鷲掴みする。
「えええっ!?」
「俺の名は符長彰人だ。分かったら繰り返せ」
「ふ、ふながあきと!」
「貴様、人の名をフルネームで呼ぶとはいい度胸だ!」
「もはや言いがかりだよ、符長くん!」
「ごめんね」
「しかも情緒不安定だよ。脳の病気なの?」
「…………」
無言で指に力を込める。いわゆるアイアンクロー。
「あれっ? 痛いっ、痛い痛い痛い!? 痛いよ符長くん!」
「かわいそうだと思いました」
「明らかに他人事だよ!?」
何やらびっくりしてる犬子だった。ので、解放してあげた。
「うぅ~。ひどいよ符長くん!」
「今の俺は符丁だから仕方ないんだ」
「全くもって意味が分からないよ、符長くん! ……いや、符丁くん?」
「貴様、俺様の名前を間違えるとはいい度胸だ!」
ぐわしゃっと犬子の顔を鷲掴みする。
「うわわっ!? 何やら策にはまった気がするよ!」
策にはめて満足したので解放する。
「ううう……でも痛いは痛いよ。ひどいよ符長くん!」
「ごめんね」(なでなで)
「わふー……」
「この生物は尻をなでるとわふーと鳴きます」
「酷い言いがかりを!? 頭をなでられたんだよ!」
「犬子わふたー。む、どうにも語呂が悪いな」
「今日もちっとも話を聞いてくれないよ……」
がっくり気味の犬子だった。
【犬子 クリスマス小ネタ】
2010年02月06日
「クリスマスだよ、彰人くん!」
「まだ早いと思うますが。それで犬子、何故にサンタの格好を?」
「えへへ。あのね、ちょっと早いクリスマスプレゼントだよ?」
「ほう、それは楽しみだ。ただ、『私がプレゼントー♪』とかだと殺す」
犬子が震えだした。
「あ、あ、あのね。ちょ、ちょーっとだけ待っててくれる?」
「断る。さあ、早くプレゼントを渡せ」
「え、ええと、ええとね、その、あのね?」
犬子の目がぐるぐるしだした。
「何だろうなあ。きっと犬子のことだ、俺が想像もつかない、かつ、もらって嬉しくて嬉しくて仕方がないものに違いない!」
「……彰人くん、分かってて言ってるでしょ?」
「うん」
「……彰人くんのいぢわる」
「犬子が拗ねた。その名に恥じぬ犬耳もしっぽもやる気なさげだ」
「しっぽも犬耳もないよっ!」
「や、しっぽはないけど、犬耳はあるじゃん」
「こ、これはそーゆー髪型だよう! 本物じゃないの!」
怪しいものだ。
「うー……そーゆーいぢわるなこと言う人には、プレゼントあげないよ?」
「ほう、くれるのか。それは楽しみだ。ただ、『私がプレゼントー♪』とかだと殺す」
「話がぐるぐるしてるよっ!」
「話だけでなく、お腹もぐるぐるしてる。先ほどお前に盛られた毒が効いてきたようだ」
「盛ってないよ、盛ってないよ!? 彰人くんのためにクッキー焼いただけだよ!」
「プレゼントが毒とは……気が、利いて、やがる……」
ばったり地面に倒れてみる。泡も吹いてみよう。
「彰人くん、彰人くん!? さっきの話だとお腹ぐるぐるだから、毒って下剤!? お薬屋さんで何買ってきたらいいの!? 正露丸!?」
「いりません」
人が死んでるのにがくがく揺すってくる犬がいるので、諦めて生き返る。クリスマスプレゼントが正露丸って何の罰ゲームだ。
「だよね。……あのね、改めてクリスマスプレゼント。……受け取ってくれる?」
犬子は自分の髪にリボンを縛り、恥ずかしげにはにかんだ。
「よし分かった、殺す」
「その話はもういいのっ! ……は、恥ずかしいんだから、とっとと受け取ってよ」
とててててーっと俺の元へ駆け寄ると、犬子は自分から俺の胸に抱きついてきた。
「えへへへへっ♪」
「サインは印鑑? 拇印でもいいか?」
「ムードぶち壊しだよっ! 彰人くん、ムードクラッシャーだよ……」
「まあそう悲しむな。その内いいことあるさ」
「ものすっごく適当だよう……」
ちょっぴりしょげてる犬子の頭をなでなでなで。
「……えへ。あのね、早速いいことあったよ。彰人くんになでられちった」
「安い良いことだなあ。一山100円程度のなでなででよければ、いくらでもしてやろう」
1000円ぶんくらいなでなでする。
「わふわふ、きゅーきゅー♪」
すると、犬子が実に犬っぽくなったので犬属性の俺としては大変喜ばしい。
「えへ、あのね、あのね、……私ね、幸せだよう♪」
「俺は腕がだるくなった。もういい?」
「ダメー。ふぁいとだよう♪」
勝手なことを言いながら俺に抱きつき、すりすりしまくる犬子だった。
「まだ早いと思うますが。それで犬子、何故にサンタの格好を?」
「えへへ。あのね、ちょっと早いクリスマスプレゼントだよ?」
「ほう、それは楽しみだ。ただ、『私がプレゼントー♪』とかだと殺す」
犬子が震えだした。
「あ、あ、あのね。ちょ、ちょーっとだけ待っててくれる?」
「断る。さあ、早くプレゼントを渡せ」
「え、ええと、ええとね、その、あのね?」
犬子の目がぐるぐるしだした。
「何だろうなあ。きっと犬子のことだ、俺が想像もつかない、かつ、もらって嬉しくて嬉しくて仕方がないものに違いない!」
「……彰人くん、分かってて言ってるでしょ?」
「うん」
「……彰人くんのいぢわる」
「犬子が拗ねた。その名に恥じぬ犬耳もしっぽもやる気なさげだ」
「しっぽも犬耳もないよっ!」
「や、しっぽはないけど、犬耳はあるじゃん」
「こ、これはそーゆー髪型だよう! 本物じゃないの!」
怪しいものだ。
「うー……そーゆーいぢわるなこと言う人には、プレゼントあげないよ?」
「ほう、くれるのか。それは楽しみだ。ただ、『私がプレゼントー♪』とかだと殺す」
「話がぐるぐるしてるよっ!」
「話だけでなく、お腹もぐるぐるしてる。先ほどお前に盛られた毒が効いてきたようだ」
「盛ってないよ、盛ってないよ!? 彰人くんのためにクッキー焼いただけだよ!」
「プレゼントが毒とは……気が、利いて、やがる……」
ばったり地面に倒れてみる。泡も吹いてみよう。
「彰人くん、彰人くん!? さっきの話だとお腹ぐるぐるだから、毒って下剤!? お薬屋さんで何買ってきたらいいの!? 正露丸!?」
「いりません」
人が死んでるのにがくがく揺すってくる犬がいるので、諦めて生き返る。クリスマスプレゼントが正露丸って何の罰ゲームだ。
「だよね。……あのね、改めてクリスマスプレゼント。……受け取ってくれる?」
犬子は自分の髪にリボンを縛り、恥ずかしげにはにかんだ。
「よし分かった、殺す」
「その話はもういいのっ! ……は、恥ずかしいんだから、とっとと受け取ってよ」
とててててーっと俺の元へ駆け寄ると、犬子は自分から俺の胸に抱きついてきた。
「えへへへへっ♪」
「サインは印鑑? 拇印でもいいか?」
「ムードぶち壊しだよっ! 彰人くん、ムードクラッシャーだよ……」
「まあそう悲しむな。その内いいことあるさ」
「ものすっごく適当だよう……」
ちょっぴりしょげてる犬子の頭をなでなでなで。
「……えへ。あのね、早速いいことあったよ。彰人くんになでられちった」
「安い良いことだなあ。一山100円程度のなでなででよければ、いくらでもしてやろう」
1000円ぶんくらいなでなでする。
「わふわふ、きゅーきゅー♪」
すると、犬子が実に犬っぽくなったので犬属性の俺としては大変喜ばしい。
「えへ、あのね、あのね、……私ね、幸せだよう♪」
「俺は腕がだるくなった。もういい?」
「ダメー。ふぁいとだよう♪」
勝手なことを言いながら俺に抱きつき、すりすりしまくる犬子だった。